四海は七色に輝きて 壱 〜 荒々しき 〜
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:7人
サポート参加人数:4人
冒険期間:06月27日〜07月02日
リプレイ公開日:2007年07月25日
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●オープニング
ここは武蔵の国‥‥
上州と江戸を繋ぐ街道から少しばかり離れたところにある戸塚という村だ。
近頃の事件と言えば、兎角、家康公が敗退したあの上州合戦に目が行ってしまうだろう。
だが、実際の戦は、見た目ほどに収まらないことを、戦を身近で経験したことのある者ならば知っている。
この村にも、家康公の軍を追う武田の兵が押し寄せたりして、冷や冷やしたものだ。
「ほんと、運が良かったよな。ここで戦になってたら、田畑が滅茶苦茶になってたとこだもんな」
小競り合いがあったようが、暫くは村人全員で裏山に隠れ、息を潜めていたために人的被害はゼロ。
田畑や家屋の被害も殆んどなかったというのだから、本当に運が良いといえるだろう。
「そういや、さっき、こんな物、見つけたんだ♪ ほら」
懐の巾着から何かしらベロベロと出してみせる。
「白蛇の抜け殻か。‥‥で、隼人、何か良いことあったか?」
「まだ特にはね。そんな急に良いこと起きたら、逆に怖いじゃんか」
隼人と呼ばれた青年は、蛇皮を折りたたむと大事そうに仕舞いこんだ。
そこへ、ふぅわ、ふぅわと何か揺れを感じる。
「お? 地震か?」
それはすぐに収まったが、隼人たちは一応外に出てみる。
見ると、農夫が驚いたように腰を抜かしていた。
さて‥‥
江戸冒険者ギルドに一件の依頼がもたらされた。
『家の囲炉裏から溶岩が噴き出したり、地震が起きたりして戸塚村の人々が怖い思いをしている。
何とかしてほしい‥‥とのこと。調査を願う』
※ 関連情報 ※
【隼人】
男性。戸塚村の住民。
受付したギルドの親仁曰く、好青年。
村のために御守りを買って帰るんだと言っていたそうな。
【戸塚】
人口30名ほどの小さな山村。
江戸からは徒歩で1日程度。
●リプレイ本文
●囲炉裏
「どうやら地震も溶岩も、この村でしか起きてないみたい。不思議な事もあるんだね」
それが自然現象なのか、精霊力や何かによるものなのかは、見て調べるくらいでは見当もつかないというのが実際。
道すがら同様の事件が起きていないか調べた桐谷恭子(eb3535)らは、不思議そうに囲炉裏を見た。
「本当に‥‥溶岩が?」
確かに溶岩が吹き上がったという囲炉裏には焦げ跡1つない。
「お役に立てないの‥‥ しゅん」
「‥‥」
寂しそうな顔をする火の精霊妖精・刹那の頭を日向陽照(eb3619)は撫でてやる。
「少なくとも本物の溶岩ではないってことやな。本物なら家はなくなってるやろうし」
速水紅燕(eb4629)が囲炉裏を詳しく調べるが、やはり特に異常は見られない。
囲炉裏の火で焼かれ、煙で燻され、人に使い込まれた極々普通の‥‥
「でも実際に何度か起きてるんです。気味悪くて」
「精霊の仕業でしょうか? 夜刀神とかいうものの話を小耳に挟んだことがありますが」
「ぇえ〜〜‥‥」
神‥‥というブロード・イオノ(eb5480)の言葉に敏感に反応した村人たちは神棚に手を合わせて必死に祈る始末。
「‥‥貴方たちだけで乗り越える必要‥‥無いです‥‥ その為に僕たちが着ました‥‥」
苦しみを乗り越えることさえ修行の1つとする<黒>仏教の僧としては甘いのかもしれない。
だが、ここで取り乱されてはと、日向が取り繕う。
「そういえば落武者狩りがあったんやてな。村の皆に被害が少なくてよかったなー、ホンマに」
「そ〜なんですよ。でも、無事に乗り切ったと思ったら、これでしょう? ホント困ってるんです」
「あ、忘れてた。途中で招き猫を買ってきたの。福を招くものだから、御守り代わりだよ」
気を利かせた速水と桐谷が世間話を振りながら、その場を後にした。
●村長宅
「まだ、原因はわかってないけど、一応避難する準備だけはしておいてもらえないかな?」
「わかりました。どうせ戦は起きます。家康様がやられっ放しで引っ込んでいる訳がない。
その時のために裏山の隠れ処は綺麗にしておりますからな。いつでも避難はできますぞ」
村長の言葉に桐谷たちも安心した。
地震は村の中でしか起きていないようだし、とりあえずは大丈夫だろう。
「しかし、陰陽師の方に来ていただけるとは幸運。それで異変について占いでは?」
「様々な事が絡み合っているのか、はっきりと卦が出ないのでござる。解決に向けて導きたいと思うでござるよ」
陰陽師の正装で村人たちの前に座る一条如月(ec1298)は答えた。
今年の実りや近々の天候、そういったものの占いならまだしも、吉凶の卦がはっきり出なかったのは真実。
調査を進めるしか方法はないというところが現実だった。
そのとき‥‥
「遅くなりました。サスケ・ヒノモリ、ウィザードです。宜しく」
何者だ? 箒で空を飛んどったぞ‥‥という声を背中に、サスケ・ヒノモリ(eb8646)が村長宅に入ってきた。
「それで何かわかったのかい?」
「ん、気になることはピックアップしてきた」
この日、何個目かの保存食に手を付ける旋風寺豚足丸(eb2655)に、サスケは笑顔で頷く。
ギルドなどで調べた情報によると、囲炉裏の溶岩はマグナブロー、地震はクエイクの効果に似てるとのこと。
クエィクの探索は未だであるものの、現場の囲炉裏を見てきた火の精霊魔法の使い手である速水もマグナブローには同意見であった。
サスケは更に続ける。
姿を見かけないのであれば、小物なのか、姿を消せるほど大物なのか、判断は付かないが、精霊の可能性が高い。
だが、サスケの知る日向の連れている刹那のようなエレメンタル・フェアリーをジャパンで見かけることは殆んどない。
で、聞いてきたのが夜刀神。落ちぶれた神の成れの果てと言われているらしい。
とはいえ、サスケの見たところ、分別不能な小精霊を夜刀神と言っている節も感じられ、正体は不明。
「って、よくわからんということか」
「まあね。でも、力の発現が精霊魔法なら術者が近くにいるはずだよ」
食べてばかりの旋風寺にサスケは苦笑いする。
「ところで、囲炉裏と地震以外に最近変わった出来事はなかった?」
というと? という村人に桐谷が問うた。
「例えば、お堂や祠が壊れてたり、昔からあった物が無くなってたりしてない? 村を離れてたんでしょ?」
そうは言われても‥‥と村人たちは顔を見合わせている。
無理もあるまい。近隣での戦、そして今回の騒動‥‥ 落ち着いている暇などなかったのだから。
「あ‥‥」
村人の1人が声を出そうとして他の村人に
「何ですか? 気になったことがあるんですよね?」
「気にしないで下さいな。こいつ、珍しい白蛇の抜け殻を見つけたって自慢したいだけなんですから」
「縁起がいいですね。わたくしも見つけられるかしら」
ペラペラめくって見せる隼人にブロードは笑顔で答えた。和やかな空気が流れていたのだが‥‥
「もしかするでござるな」
一条は思案顔。
「夜刀神は蛇の姿をしていると言うでござるしな」
「でも、蛇の形をした精霊って脱皮するの?」
「確かに疑問は残るでござる」
ブロードにしても確信があるわけではないが、それは一条とて同じこと。
「大丈夫。原因も掴めてきたことだし、何とか出来るよ。しっかり調査して、どうやって対処するかを皆で考えよう」
「苦しみも修行のうち‥‥ 皆で対処しなければならないのは御仏の御導きなのでしょう‥‥」
桐谷と日向の言葉に村人たちは頷いた。
●極局地地震
「それで、この家で揺れるのを感じて、外に出た‥‥と」
「そしたら、あいつが畑仕事してて家が揺れてるの見て腰抜かしてたんだ」
桐谷たちの問いに応じて隼人たちが当時さながらに自身の様子を再現してくれている。
揺れ自体は大したことなかったらしい。軽〜く揺れた程度。
被害と言えば、隼人たちが飲んでた湯飲みの白湯がこぼれたくらいらしいし。
地震がクェイクだとすると揺れの規模からして大した魔力は込められていない様子。
「ところで隼人さん、白蛇は数匹か見ましたか?」
「いや、俺、白蛇自体見てないし。あ、抜け殻はあげないよ」
「取り上げたりしません。もしかしたら複数の夜刀神がやったのかと思ったんですけどね」
神様が沢山? という状況に、再び村人たちは動揺。近くの家に飛び込んで、神棚に手を合わせている。
「そう言えば、どの家にも神棚がありますね」
「俺らは先祖代々、信心深いんだ」
珍しいなと速水は首を傾げる。
「ここで占ってみるでござる。この祭壇におわす神が何か知るか、あるいは騒動の中心であれば卦が出るはず」
「危なくないのかい?」
「それを含めての占いでござる。皆、良いでござるな?」
各々に戦闘態勢を整えつつ、一条は占いを始めた。
「なぁ‥‥」
「しっ、静かに‥‥」
神棚に名を記された神に言葉を捧げ、占いを続けていると何か空気が変わったような雰囲気。
精霊力に親しむサスケや速水の他、村人数人がざわめき出す。
「怒り‥‥ 不信‥‥」
現れた卦を読んでいくと、突如、一条の周囲が揺れた。
「近くにいる」
サスケはバイブレーションセンサーのスクロールを広げて念じた!
感覚の中に床の振動や壁の振動が伝わってくる‥‥
一条の周辺を激しい振動が‥‥、といっても体勢を崩した一条が占いの道具が散乱した程度。
村人たちが動揺しているのか動き回っている‥‥
比較的動きが少ないのは‥‥ 仲間か‥‥
感覚が普通に戻ったところで再び念じる。
揺れは治まっており、さっきより振動の伝わりに精神の集中ができた。
梁の上‥‥ 梁の上に何か動いた?
「上です!」
サスケは、自分の叫びに冒険者たちが体勢整え、村人たちの腰が引けるのを振動で感じた。
暗さと梁の黒に紛れているが、瞳を凝らすと何かが動いているのが見える。
茶色の何か。蛇のように細長い何か。首でも巡らせたのか、目が光る。いや、そもそも目なのか‥‥
「これが元凶?」
フレイムエリベイションを唱えた速水は、魔力を帯びた剣を何か向けた。
「神様を粗末にしちゃいけねぇ! こうなったのには何か理由があるはずなんだ!!」
「それじゃ、このまんまにしとくん?」
彼らは依頼人。無下にはできない。
「決めるのは村人でなければなりません。それが修行‥‥」
日向の言うこともわかる。だが‥‥
「仇なす神だとしても!?」
桐谷はオーラパワーを刀に込めたが、それを振るうことができずにいた。
「祠や祭祀を守ることだけが信仰ではないということですわ。
害せば倒す。癒しを施す者を崇める。日本では、そんな単純に割り切れない。わたくしは、それを日本に来て知りました」
ブロードは記憶を手繰って微笑む。
「あの地震は、あなたの怒りなのですか? 不信なのですか?」
問いかけるが答えはない。
「夜刀神とは神の成れの果てと聞くでござる。既に力を失って、答えられないのかも知れぬ」
一条は占いの道具を拾い集めると礼をとった。
「貴方が神であるならば村人を害さぬよう奉る。何に怒り、何に不信を抱くのかはわからぬでござるが、御意志は下ったと存ずる」
一条の言葉に、村人は蛇のような何かに跪き、頭を垂れるのだった。