四海は七色に輝きて 参 〜 森の深さ 〜
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 48 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月18日〜09月24日
リプレイ公開日:2007年10月06日
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●オープニング
ここは武蔵の国‥‥
上州と江戸を繋ぐ街道から少しばかり離れたところにある戸塚という村だ。
空気の色も、匂いも、時折、秋の気配を運んできつつある。
作物は朝夕の温度差に背を伸ばし、蔓を伸ばし、実を太らせている。
しかし、この村は騒動の渦中にある。
それは大事へとなりつつあるのだろうか‥‥
森の危険がなくなるまでは近付かないでほしい。
大鴉の現れた鎮守の森へ調査に入った冒険者たちは、村人にそう告げて村を離れている。
身分の高い女性と剣士、そして身分の高い男と配下たちの姿を、その森で見かけたと冒険者は村長と長老の2人にだけ報告した。
全部合わせて10名以上‥‥ そんな人数が居座っているとしたら‥‥
しかも、神獣とも謳われる八咫烏の姿を見たとあっては‥‥
無用の混乱を避けるための方策であったが、時間稼ぎ以外の何者でもなく、問題を先送りにしているに過ぎなかった。
この村に何か起きているのは間違いがないのだから。
‥‥とはいえ、解決した問題もある。
古い文字が刻まれている釜戸と丘の上の石段を清め、近在の神主を呼んで祝詞を上げたところ、炎の柱と極局地の地震は収まったのだ。
土地の神の不信や怒りを招かぬために‥‥と、必死に祈った結果であり、村人たちの心も少し落ち着いたであろうか。
村はずれの泉‥‥
凄まじい日照りでも渇水したことのないといわれる水神の井戸と呼ばれる泉だ。
この泉があればこそ、こんな辺境に村があるといっても過言ではあるまい。
それは兎も角として、木漏れ日が水面でキラキラと跳ねて目に突き刺さるように飛び込んでくる‥‥
「隼人、神佑地の森へは行けなくなってしまったわね」
「あそこは無闇に近付かないようにと村人全員に言われてるから、都合が良かったのに」
人目を憚るのか、2人は辺りをキョロキョロ見渡しながら溜め息をついた。
隼人は水筒に水を汲むと陽子に差し出す。
陽子は、それを一気に飲み干すと、大きく息を吐いた。
「少しは涼しくなったけど、まだまだ暑いわね」
「でも、畑の作物にはいいことさ。きっと美味しいのが採れるぜ」
2人は顔を見合わせて小さく笑った。
さて‥‥
江戸冒険者ギルドに一件の依頼がもたらされた。
『戸塚村の石碑の調査をお願いしたい。少々厄介な件がありますが、それは村に着いてから追々と』
※ 関連情報 ※
【隼人】
男性。戸塚村の住民。
受付したギルドの親仁曰く、好青年。
【陽子】
女性。戸塚村の村長の娘。
【戸塚】
人口30名ほどの小さな山村。
江戸からは徒歩で1日程度。
【火の石碑】
村の家の釜戸に祀られていた石碑。
現状で解読されている碑文:『勇』『死』『誕』の3箇所
【土の石碑】
村の丘の上に半分埋もれていた石碑。
現状で解読されている碑文:『土地』『姫』『怒』『猛』の4箇所
●リプレイ本文
●暗中模索
荒ぶる神々を静めることは可能ということは、村長にとって大きな安心材料だったようだ。
こうして冒険者たちは再び戸塚村への探索が許されたのだから‥‥
「村長も、ようやく気持ちの整理ができたみたいね。でも‥‥」
シア・ナンシィ(eb3580)は、期待と不安の入り混じった不思議な表情で村の中を歩いている。
そう、何と言っても今回不安なのが戦力。
4人なのはまぁいい、でも前衛0はやはり不安だ。
あの八咫烏の使いが現れたら‥‥ 森の中の集団に襲われたら‥‥ 苦戦は必至‥‥
ともあれ、やるしかない。ふと視線を投げると、
「何かしでかして神々にガミガミ言われているのか‥‥ いや、こんなこと言っている場合では‥‥ 鎮守の森‥‥ 神佑地‥‥ 八咫烏‥‥ 謎の集団‥‥ 祭壇‥‥」
ともすれば路傍の石に躓きそうになりながら、ブツブツ独り言を言いながら日向陽照(eb3619)は一行についてくる。
彼の精霊妖精の刹那も心配そうに顔を覗き込んだりしているが、思考に集中して、殆んどこちらの世界には帰ってこない。
「これも気になるな。恐らく何かの伝説を記したものなのだろうが」
サスケ・ヒノモリ(eb8646)は碑文の写しを取り出して、彼も思案顔。
釜戸の碑文『勇ましく死した剣士に やがて誕生せし二人の子』
小丘の碑文『土地神は姫の悲しみを感じ 天は怒り地は狂う』
これだけでは意味がわからない‥‥
「兎も角も、話に聞いた水神の井戸とやらに入ってみるでござる」
そこにも祭壇があるかも‥‥ 一条如月(ec1298)たちは少し村の奥へ分け入り、その場所を見つけた。
というより、わかったという感じだろうか。
「清々しい場所だな。神々がおわす地であれば挨拶して行くでござる」
澄んだ空気を胸に満たすうちに辿り着いてしまったようだ。
だが、十中八九間違いない。一条は深く礼をし、挨拶代わりに祝詞を唱えると、その場に静かに踏み入った。
「綺麗‥‥」
水面に揺らぐ木漏れ日がなければ、そこにあることがわからないほどに水は澄み切っている。
「祭壇‥‥ ここにも‥‥」
日向は気泡の立つ水底を見つめている。視線の先には何かがある。
「しかし、今までの祭壇とは違うような‥‥」
「調べてみるでござる。少し待つでござるよ」
一条は身を清め、再び祝詞を唱えると、衣が濡れるのも厭わず泉に足を浸した。
豊富に湧出する水が濁りをすぐに清める。
「これは‥‥ 石碑が2つあるでござるな‥‥」
源泉の辺りの泥を丁寧にのけると、祭壇が姿を現す。
「深き恋‥‥ 子らは十の塚を‥‥ ? そして、これは女性の像でござろうな」
「託して‥‥ 姫と剣士‥‥ こっちは男の像です‥‥」
一条の後に続いた日向が、もう1つの碑文を読もうとする。
保存の状態が良いのか、今までの碑文に比べれば読みやすいが、それでも一部は読みにくい。
釜戸や丘の祭壇と違うといえば男女の像があることだろうか。
「この村に伝わる古の伝説の類でしょうか?」
「かもしれんが、そもそも文章の意味がわかりません」
シアやサスケも碑文を眺めるが、碑文に刻まれた文章が前後の文節で意味を成していない。
気になるところだが、いかんせん情報が少なすぎる。
「十の塚‥‥ね」
日向が固まっていると、やばっ! と声が聞えた。
●隼人と陽子
「みっけ♪ みっけ♪」
サスケの連れていた赤髪の少年のような精霊妖精が岩棚の後ろを指差して笑う。
「はぁ‥‥ 見つかっちゃったか」
「隼人さん‥‥ 陽子さん?」
2人はバツが悪そうに姿を現した。
「すまないけど、このことは村の連中には内緒にな?」
「お願いします」
手を合わせる隼人に笑みを向け、陽子も頭を下げる。
「それはいいですけど‥‥ 少し聞いてもいいですか?」
シアは切り出した。
というのも、これまでの出来事が幻であろうはずがないと思うからだ。
確かに森の中で隼人と陽子に見紛う姿を見た。それが幻であっても意味もなく見せられるとも考えたくなかった。
もしかすると、遺跡の配置に何かがあるのだろうか?
いや、あるはず。疑いではなく、その根拠を見つけるのが先決とも考えていた。
しかし、祭壇に何の意味合いがあるのか、それはまだわからない。何しろ情報そのものが少なすぎるのだから。
だとすれば、この2人が何か知っているということは十分にある‥‥ そう考えたのである。
「2人は祭壇のことを、この2つや釜戸や丘の上の祭壇も含めてですが、何か知っていることはないんですか?」
「森の中には3つ並んであるんだよな。みんなは奥には入れないから、知ってるのは俺たちくらいなのかな」
「冒険者の方々は森へ入って祭壇を見たとか‥‥ たぶん、私たちが見たのと同じものだと思いますが‥‥」
あっけらかんと伝える隼人を補足するように陽子が言う。
「どうして今まで、それを教えてくれなかったのですか?」
「だって、俺たちが森へ行ってるってバレるじゃないか」
「村の者たちは、神佑地に人が入り込まないように鎮守の神様が迷わせているのだと言っています」
「でも、俺たち迷ったことあったっけ?」
「そう言えば‥‥ あ、実は‥‥ 私たち‥‥」
最後まで聞かずともシアたちにはわかる。
「皆まで言わなくても結構。ところで、他に古い言い伝えなどは? 何でもいいんですよ。些細なことでも」
サスケが尋ねると、2人は歌い始めた。
「とうのかみさんに、まつるねがい♪ ねがいたくすは、このこのまたそのこのこ♪
めぐりめぐってしかいのはてに♪ むすびむすばれ、とうと、とうとう♪
むすびむすぶは、なないろかみさん♪ めぐりめぐって、てにてをとって♪」
戸塚村でしか歌われていない童歌らしい。
何人もを相手に、たった1人で『ひい』と呼ばれる玉を守るというチャンバラ遊びで歌われるらしいが‥‥
さて‥‥
兎も角も隼人と陽子の2人は冒険者が遭遇したような集団のことは知らないとのこと。
森へ踏み込む前に、集められるならもう少し情報が欲しいと、冒険者たちは村人へ更なる聞き込みを始めた。
「この村はええ。天候は穏やかじゃし、水も風もええ。この前の事件は気になるがな」
この村を離れるなど思いも寄らない。だから、早く事件を解決してほしい。それが村人の統一意見と言えよう。
「石碑というからには、人工物でござろう。人工物であれば、何らかの意図があると考えても不思議ないでござろう」
一条は風水的に祭壇が配置されているのではと考え、あるいはどこかに埋もれている祭壇でもあるのではと推理を巡らせている。
「あの時、同じ場所にいて、人によって同じ出来事が見えなかった‥‥
ということは、あの光景は実体を伴わない‥‥幻ではないかと思います」
大雑把ながら着々と情報が描き込まれてゆく地図を見ながら、シアは呟いた。
「やはり行って確認しなければ始まらないな」
目の前に現れてくれれば、スクロールを使って看破や探知することもできよう。
実際、どの祭壇でも魔法を探知することができた。
詳しい確認が必要だろうが、水神の井戸は水と風の石碑で間違いなかろう。
現状で4つ、森の中に3つ‥‥
いったい、この村にはどれだけの神が祭られているのか‥‥
「消失している石碑がなければよいのですが‥‥」
「心配しても仕方ないでござるが‥‥ 案外、今回の騒動のきっかけとなった原因でもあるかもしれぬでござるな」
「占術に出たのですか? だとすれば怖いな」
「行きますよ‥‥」
4人の冒険者は、鎮守の森へと向かうことにした。
●幻影の者たち
「何者かが魔法などで意図的に送り込んできたのでしょうか‥‥ 攻撃や妨害目的な幻覚‥‥としては手が込んでいましたし」
陽のあるうちに森へ足を運んだシアたち。
大鴉の脅威が取り除かれていない以上、遭遇戦は避けたかったし、何が起こるかわからない森へ夜に赴くのは危険すぎる。
「訳がわからん。どんな意味があるんだ?」
サスケが使ったパッシブセンサーのスクロールで相手の距離や方向は森の中心方向と判明していたものの、なかなか近づけなかった。
また、リヴィールマジックのスクロールで地の魔法が周囲に影響していることが判っていたので、何らかの意図はあるはずなのだが‥‥
「私たちの知らない何かが、偶発的に見えてしまった‥‥可能性もあるかと」
一刻ほど歩いただろうか、シアたちは見覚えのある風景を探して、ようやく祭壇を見つけた。
「考えられるのは‥‥フォレストラビリンスか?」
「出たでござる。あれでござろう?」
深い思案に浸るサスケを、一条が呼び戻す。
「何を見ているんです? ‥‥!」
きょろきょろしていた日向が珍しく驚いている。
彼の目に映ったのは上空から飛来する八咫烏。
そして、嬉しそうに見上げる姫の姿。
やがて剣士の姿に変じた八咫烏は、姫と抱き合う‥‥
そこへ現れる身分のありそうな男。彼の連れる兵たち‥‥
「同じことが、また‥‥」
「待て。ミラーオブトルースを使ってみる」
サスケは思い切って遮るもののない場所まで進み出てスクロールを広げた。
しかし、目の前の彼らはサスケに気付く様子もない。
そして‥‥
「何もない‥‥ 祭壇と‥‥ これは‥‥」
長細い3つの何か‥‥ 金色の‥‥ あるいは銀色の‥‥ そして土色の‥‥
サスケの足元の水鏡には剣士も姫も男たちも映ってはいない。
意を決したサスケは、これまでの経緯を英語で一気に捲くし立て、
「わかったか!!」
最後の部分だけ日本語で言い放った。
「何をしてるのでござる‥‥ 八百万の神々に失礼でござるよ」
「そうです! 冷静に!!」
慌てる一条とシアを日向は静かに見つめている。
そして彼らが見た場面は、彼らを震撼させるに十分なものだった。
「こちらに危害を加える気はなさそうだ‥‥ 危害を加える能力があるかも疑わしいが‥‥」
日向はポツリと呟いた。