【魔物ハンター】実力を見せてもらおうかな
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 44 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月06日〜10月13日
リプレイ公開日:2004年10月15日
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●オープニング
「ギルドの仕事は物足りない?」
ギルドの親仁が不満そうな声を上げた。
「お前たち冒険者と依頼人ができるだけ満足できるように折衝して依頼内容を決めてるってのに、何が不満なんだ?」
その親仁の質問に冒険者は、しれっと緊迫感がないと答えた。
「もっと緊迫感がほしい? それならここしかない。俺はあんまりお勧めできんが」
親仁も呆れ顔だ。
そこはギルドの1室。
ただ、どこか雰囲気が違うような気がした。
「よく来たね」
鳥人間? それが冒険者たちの第1印象だった。
「うちは退治専門の請負人。退治屋とかいって言って通じればいいんだけどね。
それくらい、冒険者やってればわかる? ‥‥そりゃ良かった」
どうやら人間のようだ。
嘴(くちばし)の部分が鼻を被い、顔の下半分を隠しているのがチラリと見える。
「なんで顔を隠してるのかって? 趣味だよ、趣味」
仮面の女は木簡を机の上に広げると説明を始めた。
机? そういえば調度品が、どことなく洋風である。
とりあえずは、どうでもいいことだが‥‥
「君たちには魔物ハンターとして働いてもらう。これが今回のターゲット」
そこには、猪の頭に熊の体を持ち、武具を整えた魔物が描かれている。
「はんたあ? たあげっと?」
「そうか。ジャパンでは通用せんのか‥‥ ハンターは狩人、ターゲットは倒す目標、そういえばわかるかな?」
頷く冒険者に仮面の女は話を続けた。
「1体だけを相手に少ない人数で当たる。私の取ってくる依頼では、これをモットーにしている。
魔物たちの動きが活発になっているからね。結構、探せばあるんだよ。こういう退治依頼。
他のギルドメンバーに任せとくと、それなりに人数が多くなって依頼人も支払う報酬が多くなるだろう?
そんなに出せるかっていう依頼人を探しては、少人数での依頼を受け付けるのが私の仕事」
あっそ、みたいな感じで聞いてない冒険者もいる。
「いいね。戦闘にしか興味がないって感じが」
仮面の女が笑う。
「今回は熊鬼が相手よ。それなりの相手だけど、状況はちょっと厄介ね。
どこで手に入れたのか巨大な斧を振るい、皮鎧を着けていて装備が充実しているの。
おまけに体も一回り大きくて、巨大な斧を易々と扱っているわ。
この前も、それなりに名の通ったどこぞの冒険者が返り討ちにあっているわ」
ふ〜ん、と冒険者たちは多少気になった程度らしい。
「今回はあなたたちに当たってもらうわ。あなたたちの実力は? って、聞かれるだけ心外らしいわね。
仕事がうまくいったら、次回もあなたたちにやってほしいから、そのつもりでね」
仮面の女がまた笑う。
「仕事の場所は、江戸から3日の山村。村の近くの洞窟に棲みついているターゲットを倒して。
基本報酬が多い分、失敗したときは実入りはないからそのつもりでね」
仮面の女が頬杖して笑みを投げた。
●リプレイ本文
●魔物ハンター出動!!
「名の通った冒険者も結構いるみたいだし、とりあえずは満足よ。後は結果で見せて頂戴」
仮面の女の口の端がクッと上がったのが見える。
「わかっている。しかし‥‥
敵を倒す‥‥ それのみが目的。しかも強敵のみを相手に‥‥
嫌いじゃない、そういうのは。
いや‥‥、持ってまわったような言い方は止めよう。
正直、好きだ。否定しない。私は太刀を振るい戦う事が好きなのだ」
右目が特徴的な赤髪男装の侍‥‥ 彼女が江戸で抜群の知名度を誇る天螺月律吏(ea0085)。
「まったくだ。腕試しには丁度いい。強くなるためには、やはり強い奴と戦うのが一番だな」
愛刀を大事そうに机に立て掛けて椅子に腰掛けたのが加藤武政(ea0914)。強敵との戦いに思いを馳せているのか、自然と笑みがこぼれている。
「私は、敵は1匹で報酬も多いというのが気に入ったわ。赤字解消には最適だもの。いずれ、赤羽の騎士の称号を返上したいわね」
見てる方が気の毒になる赤貧の騎士様、彼女がアイーダ・ノースフィールド(ea6264)。
「気に入ってくれて嬉しいよ」
仮面の女は、メンバーの士気の高さにご満悦だ。
「本当に、ただの熊鬼なのかな? 熊鬼戦士とか、そういうのが居そうな気がしてならないんだけど」
机の上の熊鬼の木板を眺める銀髪のエルフ、ファラ・ルシェイメア(ea4112)。
「しかし、同じ生物でも、中には優秀なものが現れることがあるからな。今回の熊鬼は、そういう相手かもしれない。
どちらにしろ早めに駆除するに越したことはない」
旅装束を身に纏い、自分の身の丈と同じ程の野太刀を肩に担ぐように座っているのが佐々木慶子(ea1497)。
「俺は戦より女の乳揉む方が好きだが‥‥ まぁいいか。ふむ‥‥ なかなかいい乳‥‥」
「何か?」
「いや、何でもない」
仮面の女の胸元から視線を外した夜神十夜(ea2160)の目線の先には佐々木の影。
「着痩せする方だと見た」
「は?」
「いや、何でも」
これで乳でも揉めれば戦いの前に気合でも入ろうものだが‥‥ 天螺月が呆れた表情でこちらを見ている。
(「こちらもなかなか‥‥ うぉ、今すぐ手を出して叩(はた)かれるより、マシだな」)
そんなことを考えていると仮面の女からコップを握らされた。
「何だ? これ」
仮面の女が何かの壺を取り出した。
「前祝のワインだ。遠慮せずにやってくれ」
7つのコップに赤い液体が注がれていく。
「帰ってきた時に残り半分を飲もう。残るようなことになったら許さんよ」
仮面の女がコップを掲げ、全員それに倣うと皆でワインを飲み干した。
●策は弄した
「困っているだけあって協力的だったな」
件の熊鬼が潜んでいるという洞窟近辺の地理を把握しようとして、土地の猟師が案内してくれたのは嬉しい誤算だった。
地理に疎いものが周囲の地形を把握しながら罠を張り、目的の洞窟に他の出口がないか調べて埋める‥‥などという芸当は、獲物に気付かれずに初心者が行うには難しい。
結局、土地の猟師から熊鬼が出入りできるほどの他の穴はないと聞き、あちこち連れ回してもらって地形の説明を受けた。
森に対する造詣が深いファラなどは周囲の地形を把握できたようだが、他の者たちがどこまで理解できているのかその辺は怪しいが‥‥
「足跡では洞窟にいるのかいないのかわからないわね」
「俺にもちょっとわからないな」
アイーダと夜神が洞窟の入り口付近を調べている。
踏み荒らされていくつも足跡が付いているため、それがどういう状態を表しているのか判別するのは初心者には難しい。
熊鬼が出てこないか、そちらに気をとられている状況では尚更だった。
「最後に付いたような足跡からすると中にいそうですね。断定はできませんが」
猟師で食っている者とは経験の差があるようだ。
「あなたならどこから狙う?」
アイーダが弓を手に取った。
「あそこでしょうか」
猟師が指差した洞窟の上はちょっとした崖のようになっている。その場所からなら仲間たちに襲い掛かる熊鬼の背後をつけるだろう。熊鬼も簡単には登ってこれないはず。
「ありがとう」
アイーダは崖を回り込んで登り、射撃位置を確保すると荷物の中から小さな壺を取り出した。
毒草の知識を活かして見つけた草を磨り潰した毒汁が入っている。毒の扱いに長けているわけではないので、この方法で鏃(やじり)に付けて、撃っても即効性があるのかはわからない。
「獲ってきたぞ」
加藤のような猟の初心者でも豊かな自然に恵まれた場所なら、狩猟罠を使えば比較的簡単に獲物は手に入る。
鳴かないように口をしっかりと縛られた狐をぶら下げていた。
「そろそろいくか。準備はいいな?」
「それじゃ、後は頼むぜ」
夜神が小声で皆に声をかけると、猟師は木々の中に消えていった。
「行くぞ」
口を縛っていた縄を切って、加藤が狐を洞窟の前に放り投げる。
冒険者たちが配置につくと、少しして大きな影が洞窟から這い出してきた。
「ゴァァァァ‥‥」
激しく鳴いて暴れる狐を一瞥すると、重斧の石突で潰した。
「引け!!」
夜神と加藤が縄を引くが、熊鬼はビクともしない。
「ピィ?」
熊鬼と夜神の視線が合った。
度台、縄1本でこの巨体を転倒させようということに無理がある。引きずられないように縄を放すと小太刀を構えた。
「止まれ!!」
加藤の投げた網が熊鬼を覆うが、あまりの巨体に絡めとることはできていない。
網を振り払った熊鬼に矢が突き刺さり、木の上から雷光が撃ち下ろされて空気を切り裂く爆音が響いた。
(「1回失敗した‥‥」)
ファラは深呼吸して気を落ち着けた。
「ギィヤァァ」
熊鬼の剛毛の一部が逆立って煙を上げていた。
ファラには熊鬼に見えた。だが、体格のいい熊鬼は熊鬼戦士に思えないこともない。そも熊鬼闘士だったか?
不確定な情報で仲間を混乱させるのを避けるために、その場は何も伝えないことにした。
「鬼道の名において滅してやるよ‥‥ 鬼道衆が頭目、夜神十夜。参る」
夜神が繰り出す小太刀が皮の薄そうな膝の裏に吸い込まれるが血が滲む程度。確かに傷は負わせているが、こんな威力では腕や首や足はおろか腱すら切断できるか怪しい。
ゴウと風を巻き起こしながら斧が夜神の腕を割く。
力が入らない‥‥ バックリ裂けて血が流れていた。幸い繋がってはいる。
「うわっ! 何だよ、この斧は!!」
小太刀が悲鳴を上げながら2撃目を防いだ。
切り込んできた加藤と天螺月に任せて、裾を破ると自由な右腕と口を使って傷口を縛った。
奇襲できる機会をみすみす失ったのが痛かった。
それでも戦いなれた冒険者たちに動揺はない。
「流れ矢に当たらないでよ」
2本纏めて番えた矢を熊鬼の鎧の隙間目掛けて放った。
片方は外れて地面に刺さったが、もう片方が剛毛の中に突き立つ。
短い悲鳴をあげたところを見ると掠り傷ではないらしい。
生憎熊鬼が毒に犯されたような風には見えない。量が少ないのか、遅効性なのか‥‥
「でも、これで傷を負わせることはできる‥‥」
さらに狙い済ました場所に打ち込めば、かなりの傷を負わせる事ができるだろう。
アイーダは次の矢を矢筒に求めた。
「雷撃、行くよ!!」
一応声をかけるが、木の上から狙っているために加藤たちは射線に入っていない。
敵は1体。巻き込む必要も無いために熊鬼への射線だけ確保すれば良いのである。佐々木とファラの位置取りは効果的である。
集中の終わった術が佐々木とファラの作り出した電荷を運ぶ。休む間もなくファラの追撃が放たれる。3条の雷が確実に熊鬼に焼け跡を作った。
「まともに相手できるか!!」
加藤が日本刀で重斧を受ける度に火花が散る。
手数が多い冒険者たちに有利ではあるが、一撃逆転もありえる。重斧の一撃は脅威そのものだ。
「研ぎ代は高いぞぉ!!」
刃毀(はこぼ)れで軌道の変わった重斧が加藤の頭を掠める。
ブバッ!
血を吹いて加藤が後退する。
「加藤!!」
夜神は小太刀を構えなおすと熊鬼と加藤の間に入った。
「大丈夫!」
加藤は取り出した薬を飲み干した。
●終に地に臥す
激戦の末に、頑強、そういう形容がピッタリだった熊鬼も、毛は赤く染まり、重斧を構える肩が下がっていた。
「逃がすと思ったか!!」
踵を返して逃走を始めた熊鬼に天螺月が立ちふさがる。
「ピギィィ!!」
闘気の剣を構えた時点で受けを捨てていた天螺月が熊鬼の1撃目をかわす。
血まみれの熊鬼が息を切らしながら振るった重斧に繰り出される鋭さは失われている。しかし、当たればタダで済まないのは変わらない。
「がはっ‥‥」
続けて繰り出された重斧に体をくの字にされ、ゴホッと血を吐きながら闘気の剣で斬りつける。
「甘い」
熊鬼はファラのすぐ近くにいた。見下ろした真下といってもいい。
逃げるならここを通るだろう。その予測が当たっていたのである。
足元に向けて続け様に雷光を放つ!
「助かった!」
「気にするな」
天螺月が頭上を見上げながら懐の薬を取り出して一気に飲み干した。
アイーダと佐々木の位置からでは仲間が邪魔になって攻撃できない。2人は陣取った場所を捨て、仲間を追うことにした。
「ピギャアァ!!」
天螺月とファラの足止めの間に追いついた加藤と夜神が熊鬼の行く手を遮っている。熊鬼は逃げることを、まだ諦めていない。
「逃がさないって言っただろう!!」
天螺月は動きの鈍った熊鬼の重斧を潜り抜けると連撃を見舞う。
ズズンッッ‥‥
歩を進めようとして熊鬼が終に地に臥した。
「つえぇ‥‥」
加藤が溜め息をついて座り込む。
隣では夜神が改めて佐々木の手当てを受けていた。
「何とか勝ったな」
「洒落になってない。気をつけろとあれほど言ったのに」
「いてっ、もっと優しくやってくれよ」
「これだけ元気があれば大丈夫」
佐々木の胸元に伸びてきた夜神の手がピシャリと叩(はた)かれた。
「証拠は持って帰らないとな」
加藤は刀を熊鬼の首に押し当てると、それを落としにかかった。
時間をかけて何とか切り落とし、重斧と皮鎧も回収した。
そのとき‥‥
撃った矢を回収していたアイーダが、フラッとよろめいたかと思うとその場に倒れこんだ。
「アイーダ?」
佐々木が助け起こそうとして体が熱いのに気付く。顔色や唇も変色していた。
「毒?」
確信はない。直感である。持っていた解毒剤を躊躇なくアイーダに飲ませ、背負った。
「急ごう。村に寺があったはずよ。とりあえずそこへ」
冒険者たちは駆け出した。
傷ついていた者たちは、佐々木の手当てが良かったことと住職の回復の術でなんとか回復していた。
「また魔物ハンターすることがあったら、薬くらいは用意しとかないとまずいな」
夜神の腕も少し痛むようだが、普通に生活する分には問題ない。何日かすれば無茶もできるようになるだろう。
気分の優れなかったアイーダも佐々木の献身的な介護によって短期間に調子を取り戻していた。
解毒剤を咄嗟に使ったのが良かったようだと住職は話していた。毒によって失った体力を住職が術で癒してくれたことも忘れてはならない。病気や毒は術や薬で癒すのと同時に、病気や毒で失った体力も回復しなければ意味はないと話してくれた。同時に、手当てがなければ効果的な回復はないとも。
「自分の使った毒にやられたみたいだな。解毒剤も持たずに毒矢を使うなんて無茶するよ」
「そうね‥‥」
猟師の一言が床(とこ)に伏せるアイーダの身に沁みた。
仲間が解毒剤を持っていたから良かったものの、そうでなければ命を落としていたかもしれない‥‥
矢を放ったときに散った飛沫が体内に入ったのかもしれない。矢を番(つが)えるときに細かい傷から入ったのかもしれない。手などに付いていた毒が吸収されたのかもしれない。矢を回収しようとして毒が残っていた鏃で指先を切ったのかもしれない‥‥
何故毒を受けたのかわからなかったが、兎も角、おいそれと簡単に扱えないものだということだけは実感できた。
さて、アイーダが回復したこともあって、一行は帰還することにした。
「住職には世話になった。休む場所を貸していただいて本当にありがとう」
「御役にたてての幸いです」
佐々木たちは住職に挨拶すると見送りに来た小坊主に手を振った。
●勝利の宴
「御疲れ様。無事最初の仕事はやり遂げたって訳だ」
ギルドの1室には塩詰めの熊鬼の首級(しるし)と戦利品の重斧と皮鎧が置かれている。
仮面の女が満足げにそれを眺めている。
「ああ、それにしても良いねー。
死骸の道だ、強さの音色だだ。唯ひたすらに戦おう、一心不乱最強のために♪
あー、ハルバード貰えないかな〜? 日本刀だと大物とか死人憑きに弱いし」
重斧を眺めて加藤が羨ましそうに歌う。
「あら、その重斧だったら持ってっていいわよ。ついでに皮鎧も」
「いいのか?」
加藤の目の色が変わった。加藤には重すぎて片手では扱えないが、威力は折り紙付きだ。
「ちょっと待って‥‥ 全部売ったら‥‥7人割で1Gね。皮鎧だけ売ったら1人25C。どうする?」
仮面の女がちょっと考え込むようにして、みんなに聞いた。特にこだわる様子はないらしい。
「何か悪いな」
結局、重斧を加藤に渡して、各人(仲介人にもしっかり取り分があるところがミソ)に25Cが渡された。
さらに、佐々木が使った解毒剤は、仮面の女が補填してくれた。ついでに使い物にならなくなった矢も‥‥
「危うく『赤羽の騎士』が『火の車の騎士』になるところだったわね」
仮面の女が笑う。
「いいの? 本当に」
解毒剤と言えば高級品である。現在、越後屋が特定の毒にしか効かない安価な物を用意中だと言うが‥‥
「えぇ、初っ端(しょっぱな)だからサービスよ。って、通じないんだっけ? 挨拶代わり」
「ありがとう。借りができてしまったわね」
ばつが悪そうにアイーダが下を向いてしまった。
「ちょうどそこにあったからいいのよ。でも、毎回あるとは限らないから、そこはわきまえるように」
釘を刺す仮面の女をよそに、仲間たちがアイーダの肩を叩いて励ましている。
「さぁ、顔を上げて! 杯を掲げよう。無事の帰還と依頼の成功を祝って!!」
「「「「「「「乾杯」」」」」」」
めでたく残り半分のワインは空になった。
『魔物ハンター』‥‥
まだ、この名は江戸に知れ渡っていない。しかし、その一歩は確実に踏み出された。