【魔物ハンター2】タフなあいつ

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月20日〜10月25日

リプレイ公開日:2004年10月26日

●オープニング

「ギルドの仕事は物足りない? また、その話か?」
 ギルドの親仁が不満そうな声を上げた。
「魔物ハンター? あぁ、あれね」
 強力な魔物を少ない人数で倒した冒険者たちの噂は‥‥ 今のところ、微妙に噂になっている程度だ。
 まだ、風の噂に聞くと言うほどでもないらしい。
「俺にはあんまりお勧めできんがなぁ‥‥」
 親仁も呆れ顔だ。
「ところで、俺の解毒剤‥‥ どこかに置き忘れたのか何だかわかんないんだが、ないんだよ。あんた見かけなかったか?」
「さぁ‥‥」
「だよな。知るわけないよな。すまん、すまん。でも、見かけたら教えてくれ」
 親仁はギルドの1室を教えると、他のお客の相手を始めた。

 そこはギルドの1室。
 ジャパン風の建物の中で微妙に違和感のある洋風の調度品が整えられている。
「よく来たね」
 鳥人間、いや、嘴(くちばし)の部分が鼻を被い、顔の下半分を隠している仮面の女が机に肘をついて椅子に腰掛けている。
「ここは退治専門の請負人、魔物ハンターの本部だ。早く仕事の話をしろ? そう急(せ)きなさんな」
 早速、仮面の女は木簡を机の上に広げると説明を始めた。
「君たち魔物ハンターの今回のターゲットは、これよ」
 そこには、羆(ひぐま)の絵が描かれていた。
「? 普通の熊の倍くらい大きい? 大木を爪一発でなぎ倒す? そんな訳ないだろう。
 死人憑きのような羆。死羆憑きとでも言ったらいいのかね。やっぱりこの絵じゃ分かりにくいか」
 なるほどとそういうことかと頷く冒険者に仮面の女は話を続けた。
「さて‥‥と。
 1体だけを相手に少ない人数で当たる。魔物ハンターの仕事は、これがモットー。今回は死羆憑きが相手よ。
 熊が出て、人が襲われたから退治してくれって依頼が来たけど、攻撃が通じなかったみたいで失敗してるわ。
 報告を見る限り、ズゥンビ化した羆ね。体格は普通の羆より一回り大きいし、元々タフな動物だからね。生半可な攻撃じゃ通じないわ。
 威力の低い武器を使っているメンバーは、武器を持ち替えるか他のメンバーのサポートに回った方がいいでしょうね。
 ‥‥ サポートがわからない? 助けてあげるってことよ」
 仮面の女が苦笑いを浮かべた。
「仕事の場所は、江戸から2日の村。枯れた貯水池に落ちて出られなくなったターゲットを倒して。
 分かってるでしょうけど、基本報酬が多い分、失敗したときは実入りはないからそのつもりでね」
 仮面の女が頬杖して笑みを投げた。

●今回の参加者

 ea0914 加藤 武政(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1497 佐々木 慶子(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2478 羽 雪嶺(29歳・♂・侍・人間・華仙教大国)
 ea4112 ファラ・ルシェイメア(23歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4762 アルマ・カサンドラ(64歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●その名は‥‥
「ここが、魔物ハンターの集合場所なんだ。気になってたんだよね」
 羽雪嶺(ea2478)がキョロキョロと視線を移す。
「それで‥‥どうだい?」
「強い相手との実戦は得るものが多そうだからさ。来てよかったよ」
「フフ‥‥」
 仮面の女は椅子に腰掛けた。
「少し顔ぶれが変わったけど、いい顔をしている‥‥ 退治は任せたよ」
 仮面の女は指を組んで、その上に顎を乗せ、加藤武政(ea0914)たちを眺める。
「僕たちに任せておけば大丈夫。今度も伸(の)してやるさ」
 加藤の傍らには、前回の戦利品である長さ8尺もの重斧が置かれている。それをポンポンと叩いた。
「それよりさ。そろそろ名前を教えてくれてもいいんじゃないか? 仮面女なんて呼ばれたくないだろう?」
「そうだねぇ。イェブとでも呼んでもらおうか」
「イェブね。わかった」
「じゃあ、イェブ」
 イェブの向かいの椅子にファラ・ルシェイメア(ea4112)が座る。
「何だい?」
「村の地図はないか? 貯水池の位置なんかわかる奴があればほしい」
「そこまで詳しい物は難しいな」
 イェブが、村までの目印が書かれた大まかな地図の書かれた木板と、村の中に貯水池がどの辺りにあるのか記した木板を机の上に広げた。
「うっかり他の貯水池にはまる‥‥なんてことも、ないとは限らないからな。熊がはまったんだ。人間が落ちても不思議はない‥‥ リトルフライ、覚えておけばよかったな‥‥」
「細かい地形までわかるような詳細な地図の入手は難しいもんさ。お上でもなけりゃ必要ないからね。商人だって必要な情報を書き込んだ程度の地図しか持ってないからね。どうしても必要なら現地で確認してくれ」
「了解‥‥」
 一刻を争うような事態になっていないことをファラが祈っていると、仮面の女は立ち上がった。
「魔物ハンター、出動だよ。皆、生きて帰ってくるように」
「愚問だね」
 重斧を担いで加藤がにぃっと笑う。
「嫌な相手だけど、これも依頼だ。気を引き締めてがんばります」
 佐々木慶子(ea1497)も野太刀に手をかけて立ち上がった。
 魔物ハンターたちはイェブの部屋を後にした。

●そうはうまくはいかないが‥‥
 さて、村に着いた魔物ハンターたち‥‥
 彼らは、村人に案内されて貯水池を訪れた。多少の雨が降ったようだが、貯水池を湿らせる程度だったようだ。気になるのは、それほど池に深さがないこと。
「後は任せたよ」
 村人がそそくさとその場を離れるが、魔物ハンターは気にする様子でもない。
「遠距離からの攻撃を重視して倒すなら、あそこが良さそうですね」
 ファラは貯水池の岸の最も高くなっている場所を指差した。
「頭を下げて。見つかったら元も子もないからな」
 加藤たちは射撃するための場所へ移動を開始した。できるだけ近づかずに相手の手が届かないところから倒してしまおうという作戦なのである。
「誘き寄せる必要があるときは、囮は誰か頼んだぞ。ワシではちぃーと不安じゃし」
 白クレリックのアルマ・カサンドラ(ea4762)は自信なさげに加藤について飛んでいる。シフールの耐久力では一撃で戦闘不能になってもおかしくないのである。特に今回のような強そうな奴相手なら尚(なお)のことである。
「いたわ。敵が貯水池に落ちたままなのは助かるわね」
 アイーダ・ノースフィールド(ea6264)も長弓を水平に持ち、姿勢を低くしている。
 幸いなことに村人が貯水池に近づかなかったために死羆憑きは移動していない。アイーダの気にしていた地形的な優位は、まだ冒険者側にあるようだ。
「ないとは思うけど、事件の黒幕が近くに居るかもしれないわ。みんな気をつけてね」
 アイーダは足場を確認すると弓矢の準備を始めた。
「どうしたんですか? ニコニコして」
 羽雪嶺は受け取った矢に1本ずつオーラパワーを付与して、アイーダに返した。
「矢の代金を気にせずに射れるって素晴らしいわね」
 どうやら別の依頼で、また赤字だったようである。赤羽の騎士はつらい‥‥
 それだけに今回は撃つ気満々である。
「気づかれた。やるぞ」
 死羆憑きがこちらに向かって地面を揺さぶりながら走ってくるのを見て、佐々木とファラが術の集中に入った。
「池から上がる前に倒せば大丈夫でしょ」
 アイーダは番(つが)えた矢を解き放った。その矢は微妙にぬかるんだ地面にスッと突き刺さった。
 術によって士気を高めているが、それでも毛皮の薄い部分を狙って射るというのは難しい。
「そこです」
 ファラのライトニングサンダーボルトが死羆憑きの毛皮を焼いたが、期待したほどの効果はなさそうだ。大した傷ではない。
「さすがに頑丈だな‥‥」
 普段はあまり表情を顔に出さないファラが眉を顰(しか)めている。自信を持って繰り出した魔法だっただけに不満げである。
「手数で押すしかないな。動きを止めるまで傷を負わせ続けるしかない」
 佐々木の雷撃も死羆憑きを焼くが、こちらは獣毛がチリチリゆう程度‥‥ 傷を負わせたのか怪しい。
 近づくまでに、まだ数回は攻撃の機会がある。それまでにできるだけ相手の耐久力を削っておかないと‥‥
「やるしかない!」
 佐々木は再び集中に入った。
「今度こそ」
 今度はアイーダの矢が死羆憑きの眉間に当たった。一瞬、動きが緩まったが構わずに突っ込んでくる。
「止まってよ!!」
 次の矢を番えるが、死羆憑きはかなり近づいている。
「後、2度狙えるか?」
 放った矢は死羆憑きに刺さった様に見えたが、急所は外したらしい。どうやら獣毛に絡まったようだ。
「くらえ」
 ファラの雷光が腐肉を焼いた。嫌な臭いが風に乗ってファラの鼻をついた。
 佐々木も死羆憑きに雷光を放つが、やはりこちらは威力が足りないようだ。
 次の矢を番えたアイーダの視界から死羆憑きが消えた。

●泥沼の戦い
「来いよ!」
 闘気を付与した長巻を羽雪嶺は構えた。
 地形はこちらに有利だ。まだ、一方的に攻撃できる。
「我が陸奥流異端派にして最異端と呼ばれたいボクの1本足殺法!! 吹き飛ばしてやる」
 頭を覗かせた死羆憑きへ、片足を上げて踏み込みながら重斧を振り切った。
「冗談だろ!!」
 加藤は重斧の石突をドンと地面に突くと驚愕の声をあげた。死羆憑きは多少の腐肉を散らせた程度。それほどの傷を負わさせた風でもなく、変わりなく加藤たちに迫ってくる。
「いくら頑強でも、これなら効くだろ!」
 羽雪嶺の長巻もそれほどの傷を負わせていない。付与した闘気が、その傷を深くしていることを除けば‥‥
「ちょこまか動くのではないわ。うわっ」
 アルマがコアギュレイトで動きを止めようとするが、近づけば爪で襲ってくるし、離れれば魔法が届かなかった。
「こいつ、化け物か」
 死羆憑きの腕が岸を削って羽雪嶺が湖底に落ちかける。
「だが、これで」
 射線を遮っていた岸がなくなって、ファラの雷撃がその肉を焦がした。
「加勢する!!」
 ライトニングサンダーボルトでの攻撃を諦めた佐々木が飛び出して、背中に担ぐようにして構えた野太刀を死羆憑きに叩きつけた。
 肉片と共に腐汁が飛び散り、その動きが鈍くなる。
「ゴォォ!!」
 振り向き様の太い腕が佐々木の顔に直撃して、吹き飛ばす。
「大丈夫‥‥ ぐわっ!!」
 加藤が、何とか重斧で爪の一撃を堪えた。
 次の猛威を覚悟した瞬間‥‥
 突然、死羆憑きが動きを止めた。
「やっとかかったのじゃ〜」
 アルマが再び集中をはじめ、コアギュレイトをかけるが、外見的な変化は見られない。重ね掛けが効いているのかわからなかった。
 仲間たちはホッと一息ついている。
「しっかりするのじゃ」
 アルマが祈りを捧げると、佐々木の傷が消えていく。
「ありがとう」
「白のクレリックの務めじゃ。礼を言われることではないよ。それよりもあやつに早く止めを」
 アルマは両腕を上げ、立ち上がった死羆憑きを指差した。
 完全に動きを止めたかわからなかったので、魔物ハンターたちは何度も攻撃を加えて念入りに破壊した。
「終わったか‥‥」
 アイーダは使える矢を回収するために枯れた貯水池の底に下りた。少しぬかるんでいたために、外れた矢は全て再利用可能な状態で回収できた。死羆憑きに当たった矢は使い物にならなくなっていたが、イェブが補充してくれると言っていたので多分大丈夫だろう。
「くさ〜」
 羽雪嶺は自分の体に鼻を当て、顔をしかめた。
「イェブの言うとおりだな。臭いを落とさないで帰ったら、大変だ」
 熊の牙を手に入れるために腐肉と格闘したのが良くなかったらしい。加藤はウェッと喉を鳴らした。
「そういえば、温泉に入って帰って来いって言ってたな」
 兎に角、まずは依頼人に報告しなければはじまらない。魔物ハンターたちは村長の家へと向かった。

 村人に死羆憑きを倒したことを報告すると安堵の息を漏れた。
「本当にありがとうございました」
「体を綺麗にしたいのだが」
「おぉ、それでは村の秘湯をお使いください。これ、案内して」
 洗ってくれると言うので、村人に着ていた服や鎧を預けて着替えると、魔物ハンターたちは各々温泉に向かった。

●秋の夜長に
 ピチャ〜ン‥‥
「いい気持ち‥‥」
 アイーダは冷えた体を温めた。
 湯煙の中に人影‥‥ どうやら先客がいるようだ。
「遅かったわね」
 湯船の中には鳥人間‥‥、いやいやイェブである。
「温泉、なかなかいいわね。気に入ったわ」
「湯に入るときくらい仮面を外したらどうです?」
 無駄とは思いつつアイーダは聞いてみた。
「フフ、それより首尾は上々のようね」
「えぇ」
 アイーダはイェブの隣に居住まいを移した。さりげなく話題を無視されてしまったところをみると、仮面を脱ぐつもりはないらしい。
「あら、イェブじゃない」
「どうしたのじゃ?」
 ザーッ‥‥ カポ〜ン。
 湯を流す音がして佐々木とアルマが湯船に浸(つか)かった。
「この村の秘湯を拝借できるっていうのが、この依頼の特典だったのよ‥‥ 本当に気持ちいいな」
「なんで温泉に浸かって来いなんて言ったのか、ようやくわかったわ。イェブが入りたかっただけでしょう?」
「まぁ、そう言うな。魔物ハンターの名を上げて、しかも温泉にも入れる。一石二鳥ではないか」
 イェブの口の端が笑みを浮かべている。
「そうだな。たまにはこうしてのんびりするのもいい」
「面白いの〜」
 首筋に湯をかけて浅く息を吐く佐々木の前をアルマがプカプカ流れていく。
 男が2人湯船に近づいてきた。
「何か話し声がするぞ。先客か? あぁ、みんな来てたんだな」
 加藤が頭から湯をかぶり、手ぬぐいで体を拭った。
「なんだ? イェブがいるのか?」
 ザブンと羽雪嶺が湯に入り、アルマが流れていく。
「もっとゆっくり入らぬか。湯が動くと熱い」
 イェブが不満の声を漏らした。
「すまん」
 そう言いながら、羽雪嶺はザバッと湯に浸かった。
 湯が溢れてアルマと一緒に流れ出ようとしたところをアイーダが掬い上げる。
「気をつけてよね」
「ハハ、すまんな」
 笑いながら、羽雪嶺は丁度良さそうな石を見つけて腰掛けた。
「イェブ、お土産を買って帰ろうと思ったのに」
「気遣い無用。実はこんな物も用意してある」
 ザブザブと湯を掻き分けると、イェブは桶を持ってきた。その中には酒と杯。
「おぉ、よいところに来た。ファラもこっちへ来い」
「地面からお湯が出てる‥‥ 初めて見た。これが温泉か」
 ファラが恐る恐る湯船に浸かる。
「ジャパンには、あちこちにこういうのがあるんだと。それでな‥‥」
 イェブが受け売りを話し始めた。
 野趣溢れる浴場‥‥、ジャパン人の感性の賜物だろう。傷や病気を癒すためにも、温泉は使うらしい。
 体を清潔に保つのは嗜みだが、湯船に浸かるという経験がなかったファラには新鮮な経験だったみたいである。
 勿論、イェブを初めとして他の者たちも似たようなものではあるが‥‥
「たまにはこういうのもいいかな‥‥」
 秋の夜風が火照った体に気持ちよかった。
 魔物ハンターたちは満天の星空のもと、杯を空けた。

 さてさて‥‥
 女性陣が湯衣を着ていたのか、着ていなかったのか‥‥ その辺は想像に任せるとして‥‥ 男性陣は?
 本人たちに聞いてくれ。