【虎僧行脚8】一角馬の行方

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月16日〜05月25日

リプレイ公開日:2005年05月25日

●オープニング

 ここは江戸の冒険者ギルド‥‥
 虎太郎はギルドの親仁と話し込んでいる。しかも、奥の部屋に通されて‥‥
「あの話‥‥ 馬頭鬼じゃなかったのか‥‥」
「うん。皆、意気込んで出かけていったんだけどね」
「まぁ、馬頭鬼じゃなくて良かったって部分もあるけど‥‥ これまた、厄介な話になってるな」
「そうなの?」
 小声で話す親父に合わせて、虎太郎も小声になっている。しかも、何気に額を付き合わせるほどに顔を寄せて話している。
「一角馬が珍しい動物だっていうだけなら、それほど問題は難しくないんだ。
 里の者たちを言いくるめて刺激しないようにしてもらったり、一角馬に人気のないどこか別の場所に移ってもらえば済む。
 だがな‥‥」
 何だろうと虎太郎が目を丸くして身を乗り出すと思わず額と額がぶつかった。
「いてて‥‥ だが?」
 額を押さえながら苦笑いで親仁が話を続ける。
「だがな、その角は万病を癒す特効薬になると言われているんだ。
 実際に何万両という値で取引されたって噂も聞いたことあるしな‥‥」
「それって‥‥」
「そう、殺すんだ」
 虎太郎の心の中に浮かんだ不吉な予想を親仁が言葉にする。
「何とかできないの?」
「難しいな‥‥
 まずは受け入れ先。
 一角馬に山奥に移ってもらうのがいいだろうが、今回の真相が噂になるのは時間の問題。
 すでに村人の目撃情報がどこかへ正確に伝わっている可能性は捨てきれない。
 そうなると人里離れた山奥に移っても追っ手が来るだろう。
 それに、武者に追われていたという話だったよな? そいつらが迫る可能性も捨てきれない。
 どこかの権力者、藩にでも匿ってもらうのが一番かもしれないが、それをしてくれる者がいるのかというのも問題だ。
 そして、一角馬がそれに応じるかということが最大の難題だろうな。
 俺の頭じゃそれくらいしか思いつかないからな。あんまり力にはなれそうにない。
 それに‥‥だ」
「まだあるの?」
「依頼の本当の目的を秘密にすることは、ギルドマスターに話せば何とかなるとして‥‥
 報酬をどこから出すか‥‥だ。
 冒険者ギルドで俺が力になれるのは依頼として冒険者を斡旋することだからな。
 そうなると必然的に報酬の問題が出てくる」
「オイラ、あんまり持ってないよ」
「俺個人としては出してやりたいが、ギルドの一員としてはな‥‥ 他に示しがつかない」
「うん、気持ちだけで十分だよ。それに、こんな相談に乗ってくれる知り合いって親仁さんだけだもん」
「そう言ってもらえると有難い」
 すまなさそうに親仁は頭を下げた。
「駄目元であいつらに声かけてみるか。何か良い知恵が浮かぶかもしれない」
「あ、3人寄れば文殊の知恵って言うんだよ。この前、和尚様に教えてもらったんだ」
「そうか」
 得意げな虎太郎に親仁は優しい笑顔を向けた。

 それから暫くして‥‥
 物陰に大小2つの影が、江戸冒険者ギルドの入り口近くを覗いていた。
「来た来た」
「おぉ、丁度良かったぜ。話があるんだけど、ちょっとこっちいいか?」
 虎太郎と親仁は冒険者に声をかけた。
「報酬なしの依頼だけど手伝ってくれないかな?」
「そういうことなんだ。すまないが‥‥」
 虎太郎のためだし、その後のことは気になっていたんだと冒険者たちは口々に話す。
「わかった。本当にありがとな。それじゃ、依頼として成立させるぞ。
 目的は『一角馬の安住先を探すこと』。表向きの目的は『馬頭鬼を倒すこと』にしてあるから、そのつもりでな」
「よろしくね」
 虎太郎は冒険者たちに頭を下げた。

●今回の参加者

 ea1289 緋室 叡璽(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3874 三菱 扶桑(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea4530 朱鷺宮 朱緋(36歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea8257 久留間 兵庫(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

カイ・ローン(ea3054

●リプレイ本文

●噂の武士
 江戸の酒場で噂になっている話を知っているだろうか?
 某藩が一角馬という珍しい馬を手に入れたらしいとか保護したとかいう話だ。
 その名には小田原藩などが上がっているが、真偽の程は定かではない‥‥
 また、とある村の近くでは、こんな噂も‥‥
 白毛一角の馬頭鬼は討たれた‥‥と。

 さて‥‥
 ここは江戸近郊の村近く‥‥
 緋室叡璽(ea1289)、三菱扶桑(ea3874)、クリス・ウェルロッド(ea5708)は、旅装束の武士と配下4人と話をしていた。 
「これがその角。そして証拠として持ち帰ったのが、この鬣(たてがみ)です」
 緋室は得意気に角と白毛の束を見せた。
 包んでいた布には固まりきっていない血が付いている。
「左様か‥‥」
 旅装束の武士は肩を落としているが、それは冒険者たちの知ったことではない‥‥のだが‥‥
 この角にしても本当は冒険者時代の戦利品としてギルドの親仁が取っておいた鬼の角に血糊を付けただけの物であり、1束の白毛は馬から切り取った物で、証拠と言っていたのは偽物なのだ。親仁の助言で血糊を手に入れて角の根元に塗りつけていたのである。
 鬼の角をマジマジと見たことのある者などそうそういない。この武者と配下たちもその類であり、彼らの嘘は見破られることはなかった。
「これからいかが致しますか?」
「国許へ帰ろう。手がかりが途絶えてしまった‥‥ 最後の望みと勇んできたが、一角馬ではなかったのだ。責めは私1人負えばよい」
「我ら郎党は殿の家来でございます。我らのことなど気にせずに‥‥ どうか‥‥」
「そなたらは心配せずともよいのじゃ。一角馬を追って旅に出て、もう1年。家族にも会いたかろう?」
「しかし‥‥」
「仮に一角馬が小田原藩に匿われたのだとしたら手の出しようがないではないか」
「それはそうですが‥‥」
 緋室、三菱、クリスの3人は何となく罪悪感を感じていた。
 本当は三菱が化けた馬頭鬼が退治されたところを武者たちに見せようとか、駿馬を一角馬に化けさせて引き回して時間を稼ごうとか考えていたのである。
 クリスと緋室が声をかけて人と形(なり)を探ってみたのだが、どう見てもこの武者、忠義に篤く、情に深く、なかなかの人物だった。
 だからこそ3人は、どうも後味が悪くて仕方なかったのだ。
「これより江戸のギルドに報告に帰らねばならないのだが、もう宜しいか?」
 三菱が武士に声をかけた。
「おぉ、引き止めて申し訳なかった。誠に忝(かたじけな)い」
 武士が深々と礼をすると配下たちもそれに倣った。
「それでは失礼します」
 クリスはそう言うと馬に跨り、緋室と三菱も騎乗してクリスの後を追った。
「何だか‥‥」
 最後まで言わないが、緋室の言いたいことはクリスと三菱にも理解できた。
 武士たちの姿が小さくなっていく。
「戦わなければ解決しないと思っていたのに戦わなくて済んだのです。
 戦いは、如何に美しく表現しようとも結局は殺し合い。良かったんですよ。これでね」
「それに‥‥ 目的のために他人を傷つけるのでは、虎太郎さんが悲しみますからね」
「あの武士には辛い定めが待っているかもしれないが、郎党たちが必ず支えてくれるさ」
「そうですね‥‥ それではギルドで虎太郎さんたちの首尾を待ちましょう」
 3人は江戸へと向かった。

●一角馬
 虎太郎と朱鷺宮朱緋(ea4530)、久留間兵庫(ea8257)の3人は、一角馬と共に道なき道を進んでいた。
 日中を避け、人混みを避け、彼らはある場所へと歩を進めていた。
 向かう先は下野国、那須藩のとある山中‥‥ エルフの隠れ里のある場所であった。
「鷹見様の助言に助けられましたね」
 朱鷺宮は一角馬に座るように促した。
「あぁ、那須藩士である十矢隊の口添えもあるし、うまくいくだろう」
「そだね。オイラたちだけじゃ、どうしたらいいのか途方にくれるところだったもんね」
 虎太郎に笑顔を向けると、久留間は荷物の書簡に手を当てた。
『それで、その里というのは遠いのか?』
 一角馬は膝を折り、地に伏せると首だけを巡らせて鼻を鳴らした。
「ここからならそう遠くはないはずで御座います。ここで待ち合わせですから、待ちましょう」
『そうか』
 一角馬が穏やかに鼻を鳴らすのを見て虎太郎が笑った。
「これで安心して暮らせるね」
『虎太郎、お前のことが心配だ。お前の選んだ道は大変だぞ』
「いいの。自分で選んだんだから。でも、大変だったよね。お互い」
『お前にあんな過去があったとはな』
 ぶふっと息を漏らしながら一角馬は瞳に優しさを湛えている。
「虎太郎様、何の話で御座いますか?」
「2人だけの秘密」
「そうなので御座いますか? 残念ですわ」
 見当はついたが、朱鷺宮はそれ以上、何も言わなかった。
 次の瞬間‥‥
『何者だ! 姿を現さぬか!!』
 一角馬は、すっくと立ち上がると角を水平に身構えた。
「手紙をいただいたエルフの里の者です」
 3人のエルフが茂みから抜け出すように姿を現した。
「おおよその事情は聞きましたが、まずはカイ殿の書簡を確認させてください」
 耳が長く、どこか神秘的な雰囲気の者たち‥‥ エルフに間違いなかった。
 彼らは受け取ったシフール便を久留間に見せている。確かに江戸で虎太郎たちが出した物だった。
 それから手続きを踏むように互いの情報や書簡を確認していった。
「長老は所用でお会いできません。代わりに里を預かっている若長に会っていただきます」
「その方で判断ができるのであれば、問題ない」
 久留間は即答した。こちらの手の内を全て見せているからには、エルフたちを信じるしかないのである。
「オイラたち、この一角馬を助けたいんだ」
 虎太郎の真摯な瞳を見つめてエルフたちは優しく笑った。
「わかっています。それにしても美しい一角馬ですね」
『触れるでない!』
 ピシャリと言われてエルフたちは苦笑いを浮かべた。
「それでは参りましょう」
 一行は簡単に自己紹介をすませると腰を上げた。

●運命の出会い
 一角馬の角に布をかけ、目立たぬ場所を選びながら、なおも慎重に虎太郎たちは進んだ。
「ここがそうです」
 先導しているエルフたちの前に木の上から2人のエルフたちが現れた。
 色々と話をして一行は山の奥へと案内された。
「あ、兄さまたちだ。お帰りなさ〜い♪」
 木々の天蓋の奥から1人の少女が駆けてくる。
「フィー、ただいま」
 エルフたちはフィーと呼ばれた少女の頭を撫でている。
『お、おい‥‥ あの娘は誰なのだ?』
 一角馬はエルフの着物を引っ張った。男に触れるのは‥‥とか言ってたわりに自分から接触してくるとは‥‥
「あぁ、この里の娘でフィーという。さてはお前さん、惚れたな?」
『な、何を言う』
「お馬さんが喋ってる。すご〜い♪」
 フィーが手を伸ばして鼻面に触れてもされるがままだ。
「何だかねぇ。この待遇の差は」
 久留間は呆れ顔で溜め息をついた。
「到着なさったのですね」
 若いが貫禄を見せるエルフの登場で場の空気が変わった。
「私が、この里の若長です。よろしくお願いします」
 エルフは頭を下げた。
「事情は聞いています。私たちに異存はありません。一角馬の気持ち次第ですが、いかがですか?」
『いい‥‥』
 気がつくとフィーに鼻面を撫でてもらって気持ち良さそうに目を閉じている。
「名前は何て言うの?」
『名前はないが‥‥』
「じゃあ〜ね‥‥ アリオン」
『ありおん? 不思議な響きだな』
「いいよね?」
『構わない』
 フィーの体を鼻先で引っ掛けると、アリオンは彼女をその背に座らせた。
「それではアリオン。今後ともよろしく」
『あぁ、よろしくな』
 若長が伸ばした手をかわすあたり首尾一徹というか、天晴れである。
「それにしても、万病を癒すという角‥‥ 其れを手に入れんが為などと、人の業の何と深いことでしょう。
 皆、生きる為に必死。けれど其れはありおん様とて同じ。良き結果に落ち着いて安心いたしました」
『お前たちには世話をかけたな』
「いいって。オイラも嬉しいよ」
 どうやら虎太郎とアリオンの間には友情が生まれているようである。
「良かったな。名前がついて」
『ありおん、ありおんか‥‥ 私はありおん‥‥』
 嬉しそうな一角馬を久留間も嬉しそうに笑って見ている。

 その日は隠れ里に泊まった虎太郎たち。
 アリオンや隠れ里のエルフたちと別れて、虎太郎たちは江戸へ向かった。
「あ、あれ! 天狗じゃないの?」
 虎太郎の指差す先には、法衣に身を包み、剣を携えた狼の頭の影‥‥
 側に鳥面の半人が黒い翼を羽ばたかせて従って飛んでいる。
「そうで御座いましょう。那須の釈迦ヶ岳は天狗たちの住まう修験の地。厳しい荒行で修行する方々でいっぱいで御座います」
 朱鷺宮は手を合わせると念仏を唱えた。
「荒行かぁ。オイラにもできるかな」
「できるさ。あんたならな」
「その通りで御座いますよ」
 虎太郎は2人を見渡した。
 そこにあるのは、いつもの優しい朱鷺宮の微笑と久留間のはにかんだような笑顔。
「オイラ、那須の天狗様に会って修行させてもらえるように頼んでみる!」
 虎太郎の決意表明に朱鷺宮と久留間は、ただ黙って頷いた。

●別れ
 江戸に帰還した虎太郎たちは、三菱らと合流して事の次第をギルドの親仁に報告した。
 ‥‥と、緋室と三菱の剣が唸り、クリスの矢が唸る大活躍活劇の馬頭鬼退治で報告書ではなく、この報告書を見てしまった君。
 くれぐれも一角馬のことは他言無用に頼むよ。

 虎太郎は、皆の前で那須の天狗を訪ねて修行させてもらえるように頼むのだと言った。
「そうですか。那須へ行くのですね。頑張るんですよ」
「虎太郎君ならできるさ」
 クリスと久留間は虎太郎の頭を優しく、グリグリと撫でている。
「また、会えるさ。一回り大きくなって来い」
 三菱が荒々しく肩を叩いた。
「俺は京都に行ってきます‥‥ あそこには大事な人が待っているのに俺はどうしても向かえなかった‥‥」
「そうなんだ‥‥ オイラ、色々助けてもらって嬉しかったよ」
 虎太郎の目には、いつの間にか涙が滲んでいた。
「やっと踏ん切りが付いたんです。あなたの必死に誰かを救おうとする態度を見てね‥‥
 こちらこそ本当に色々と有難う御座いました‥‥」
 緋室が差し伸べる手を虎太郎はしっかりと握った。
「どうか皆様に御仏の加護が御座いますよう」
 朱鷺宮の念仏が皆の心に染みた‥‥