《那須動乱》【深緑】シフール特急便 急使

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月30日〜12月10日

リプレイ公開日:2004年12月06日

●オープニング

「え〜!! そんな大役、務まりませんって」
「反抗作戦が始まろうとしている今、手に空いている那須藩士なんていないんだよ。那須支局にも顔出したことあるんだから、わかってるだろう? 特急便と名高い月華殿にしか頼めぬなんて那須藩士の人に言われたら、ヤですなんて言えないだろうが」
 配達の依頼を終えてシフール飛脚便・江戸局へ帰ってきた配達人の月華は、上司の業務命令を聞いてブーたれていた。
「鬼が一杯出てるんですよね? 那須仮局まで行くのも怖いのに〜」
「カワイ子ぶるのはそれくらいにして、諦めたらどうだ?」
「う〜ん、しょうがないなぁ」
「過去に討たれたはずの八溝山の悪鬼・岩嶽丸が復活するってことなら、エルフの弓ってやつが必要かもしれないってな。
 フィーって迷子のエルフの集落が探してるエルフたちとは限らないけど、もしそうなら儲けもんだろ?
 その里を探し出して、真偽を確かめてほしいってのが依頼の内容だ。ギルドには話を通してあるらしい。
 お前が募集をかけると言えば、掲示板に載るらしいぞ。買いかぶられたもんだな」
「ひっど〜い。絶対探し出すもん」
 売り言葉に買い言葉。完全に上司が1枚も2枚も上である。上司は部屋を後にする月華を見送った。
(「気をつけるんだぞ」)
 なんて‥‥ 絶対思ってないわね。あれは。

 さて‥‥
 コユキ・クロサワの助言を蒼天十矢隊の橘雪菜が那須藩主である与一公に伝えたところから、この依頼が発生したらしい。
 可能性はあり、手掛かりが他にない以上、試してみて損はない。しかし、那須藩は八溝山近辺の鬼たちへの反抗作戦に入ろうという重要な時期であり、加えて噂のエルフたちが伝説にあるエルフたちとは限らないというのが状況を微妙にしていた。
 今は反抗作戦に大事をとる。それが那須藩の判断だった。そこで回ってきたのが今回の依頼。

 掲示板に依頼が張り出されて、程なく冒険者たちが月華の許に集まってきた。
「みんな集まってもらって何だけど、ごめん」
 いつも明るい月華が難しい顔をしているので、みんな心配そうである。
「どうしたんですか? また、厄介な配達先ですか?」
 冗談めいて冒険者が笑う。
「配達先は大体の見当しかついてないの。届け先も目的の届け先かどうかわからないんだって‥‥
 そういった意味で厄介だし、依頼人は那須藩だし、場合によっては責任重大よ。
 あ〜、もう。なんて言ったらいいのかな‥‥
 那須藩の鬼騒動は、みんな知ってるよね? その那須藩へ配達に行かないといけないの。
 配達先は、喜連川家と古くに交わりのあったエルフたちの隠れ里‥‥かもしれないところ。
 那須藩からの正式な使者として赴くことになるわ。だけど‥‥ さっきも言ったけど、正しい届け先じゃないのかもしれない」
「はぁ? 那須藩の使者ぁ? 場合によっては責任重大ぃ?」
 よく見れば月華が持っている細長い文箱には、『一の下に菊』の家紋‥‥ 『一の下に菊』は、那須藩主である喜連川那須守与一宗高(きつれがわ・なすのかみ・よいち・むねたか)公の家紋である。
「先日、この江戸ギルドに迷いこんできたエルフのフィーの里を探し出して、彼らにこの書状を渡し、使者の任を全うすること。
 それが依頼の内容よ。
 彼らが探していたエルフたちでなかった場合、書状を回収して那須城へ届けること‥‥ですって」
 冒険者たちは笑う。月華がややこしい配達を請け負うことなど百も承知。
「心配ないよ」
 彼らは言った。

●今回の参加者

 ea0196 コユキ・クロサワ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea0957 リュカ・リィズ(27歳・♀・レンジャー・シフール・イギリス王国)
 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2331 ウェス・コラド(39歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea2989 天乃 雷慎(27歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5930 レダ・シリウス(20歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)

●リプレイ本文

●旅は道連れ〜
「心配ないよ、何とかなるって♪ 依頼の張本人も来てるしね。ボクもついてるから」
 天乃雷慎(ea2989)が、根拠のない自信とにこやかな笑顔で月華を励ます。
「けど、今度の配達先はエルフ族なんだ‥‥ しかも、人との交流を拒絶してるなんて一体どんな過去があったのかな〜」
「そうね」
 もともと楽天家の月華である。明るい材料さえ見つかれば、それでいい方に向かうのが常である。
「月華さん、ごめんな‥‥ 厄介事にかり出させてしまって‥‥ うちと鷹見さんが知っとるから、道案内は任せてな」
 少し憂鬱な表情のエルフ娘、コユキ・クロサワ(ea0196)。元はと言えば彼女がこの依頼の言い出しっぺである。多少は責任を感じているのだろう‥‥
「もしかしたら、この『動乱』にフィーちゃん達を巻き込みに行くだけかも‥‥」
「そっかぁ‥‥ いい子だったんだね」
「うん‥‥ せやから、このまま那須の動乱に巻き込んでしもたら‥‥申し訳あれへん」
「フィーちゃんたちがこの動乱に巻き込まれてしまったとしたら、それは運命。
 そうしたくないのなら、そうならないようにするのが私たちの努力。
 そうするのはフィーちゃんたちの決断。
 コユキさんが気に病むことはないんじゃないかな」
 月華が笑う。そこへ優男が包みを抱えて現れた。
「武神の称号‥‥ 少々惜しかったが、フィーに会いに行くなら俺が行かない訳にはいかないからな。コユキ、持ってきたぞ」
 風呂敷から何枚かの絵を取り出したのは、鷹見仁(ea0204)。
「フィーちゃんの絵やね。新しく描いたのもあるんや」
 絵を見て、コユキが懐かしそうに微笑む。
「世の中は相身互い‥‥か。月華の言うことも尤もだが‥‥」
 鷹見は持って来た絵を眺めて苦笑いを浮かべた。
「月華、久しぶりじゃ〜♪ 湊で日向ぼっこして以来じゃな。手伝いに来たのじゃ」
 レダ・シリウス(ea5930)は、今回もシフールの誼で手伝ってくれるようである。
「ありがとう〜」
「いつもの仲間はまだまだいますよ」
 他にもシフールが‥‥
「今回は那須藩の使者ですって? 少しでも情報を集めた方がいいでしょうね」
 リュカ・リィズ(ea0957)が月華の側に舞い降りた。
 与一公の書状の内容を確認できないのは仕方ない。しかし、那須藩の正式な使者であるということなら、那須藩や八溝山のこと、さらに過去に遡(さかのぼ)って鬼の国のことや喜連川家のことやエルフの弓の伝承‥‥ そいういった情報は必要である。山に篭っていたエルフたちに情勢を聞かれ、わからないでは使者の任は務まらない。
 とはいえ、かなり古い記録である。纏まった情報になっていたために収集にそれほど時間がかからなかったのが幸いか。

 下野国府の要請により朝廷から藤原権守貞信(ふじわらの・ごんのかみ・さだのぶ)が派遣され、過去に八溝山を根城にした鬼の集団を討伐したと記録に残されていた。この時に戦勝祈願に参った社を後に氏神として奉ったのが福原八幡宮であり、藤原権守貞信が恩賞として那須地方の支配権を得た後に、この八幡宮の東に神田城を築造し、参道を整備して福原の基礎を作ったとも記されている。
 那須領主となった藤原権守貞信は、那須藤権守貞信(なすの・とうの・ごんのかみ・さだのぶ)を名乗って須藤権守貞信(すどう・ごんのかみ・さだのぶ)と名を改めた。土地の豪族の姫を妻に迎えて領民を纏めた須藤権守貞信は領国経営に成功し、那須守の官位を得て那須に封じられることになった。その時に喜連川那須守貞信(きつれがわ・なすのかみ・さだのぶ)を名乗り、現在も一族はその氏名(うじな)で通っており、現在の那須藩主である喜連川那須守与一宗高公がそれに連なる。ちなみに、朝廷での与一公は藤原那須守宗高と呼ばれるのが正しいそうだ。
 悪鬼・岩嶽丸の記述は、現状でその存在は確認するだけの情報はない。エルフの弓の伝承も同じく国造を記した記録に登場するだけで存在は確認できなかった。

 と‥‥ まぁ、こんな感じである。

 シタッ‥‥
 頭上から小さな影が着地した。
「那須藩との繋ぎはついたでござる」
「ごくろうさま♪」
 月華のためだけの忍、甲斐さくや(ea2482)である。
 エルフの隠れ里の場所を知られないようにしたいという意図もあり、早馬の使用を断ってきたのである。勿論、本当の理由は告げていない。那須藩と無関係だった場合のことまで考えての措置であり、その辺は甲斐に抜かりはない。
「みんな、出発よ」
 兎も角、出発である。行かないことには始まらない。
「那須の動乱も気にはなっていたが‥‥
 フフフ、まさかこの国でエルフの里が見れるとはな‥‥ 私にとってはその方が興味深い」
 学者のウェス・コラド(ea2331)。劇的に稀なジャパンでのエルフの里は、彼の知識欲を満たす格好の材料になるだろう。
「エルフたちは強い魔力を持ち外見も神秘的だ。しかしそれだけで神として崇められるだろうか?
 村人たちは自分たちを苦しめていた鬼を封じてくれたエルフたちに感謝し、その心を忘れないために彼らを神として伝えたのではないか?」
 鷹見たち道案内がいるし、レダのサンワードもある。麓の森までは迷うことはないだろう。
「せやけど外界と接触を断っとるんやろ?
 下界の人たちを嫌うのか理由も知りたいし、余計なお世話だろうけど、同族が仲良くしてる人たちと険悪なら、何とかしたいなぁ‥‥と思うんよ」
 パラの甲斐より背が低いことに衝撃を受けるもシフールたちに囲まれて幸せ一杯のコユキ。謎多きエルフの隠れ里にも思いを寄せているようだ。

 月華とその影、月華が心配で付き添ってる管弦師、めざせ言語学者と昼寝友達なシフールたち、赤面エルフと自称ジャパン一の絵描き、エルフの里に興味のある侍とウィザード‥‥ 使者らしくない雰囲気が迸っているのは気のせいか‥‥

●遭遇
 やがて、鷹見たちがフィーと別れた場所まで辿り着いた。
「帰れ。ここはお前たちの来るべき場所ではない」
 森の中に人影が見える。おそらく探しているエルフたちだろう。ギリッと何かが鳴った。
「敵ではない。安心するのじゃ」
 フワリと飛び立ったレダが落ち着いた声音で話す。
「その通り。話がしたいんだ。エルフとしか話をしないというなら仲間のエルフが話をする。あんたらがどうするか決めてくれ」
 鷹見たちは得物を地面に置きながら数歩下がった。
「鷹見と言ったかな。何の用だ」
 名は聞かなかったが、近寄ってくるエルフに見覚えがある。鷹見はゆっくりと近寄った。
「フィーは‥‥元気か?」
「うちも気になる」
「あぁ、我らもあの元気振りには手を焼いている」
 今にも詰め寄りそうなコユキに、見張りのエルフに柔らかい笑みが浮かんだ。
「それよりも。フィーに会いに来ただけなのか? 場合によっては、このまま帰ってもらうことになるが」
「書状の配達に来たのです」
 月華の言葉に甲斐が文箱を見せる。
「那須藩主・喜連川那須守与一宗高公からの書状です」
 リュカの名乗りにエルフは全く動じない。
「この森は、鬼の本拠たる八溝山からは遠い‥‥ とはいえ、このまま鬼が増え続ければ安全とは言えなくなるやもしれません。
 そういった事態を防ぐ為にも‥‥ あなた方の長に目通りしたく思います。
 里へ入るのに条件がある場合は従いましょう。
 ですから何卒、里まで案内しては頂けないでしょうか‥‥?」
 限間灯一(ea1488)は武士の作法に則り、礼をした。
「武器の類は見張りに預けてもらうが良いか」
「無論です。私たちは使者として来たのですから」
「よろしい」
 冒険者たちは全ての武具を預けるとエルフに誘われるように森に入った。
 紅葉する木々が美しいが、何より違うのは香りである。
「ええ森やねぇ」
 コユキとウェスはフォレストラビリンスの詠唱に入った。
「何をしている?」
「魔物に知られるのもマズいが、人にだって里の場所を知られるのはマズいだろ? 念のためさ」
 鷹見とコユキの笑みに、ヤレヤレといった風にエルフが溜め息をついた。
「余計なことやったかなぁ?」
「見張りが立っている。心配は無用だ。しかし、心遣いには感謝する」
 そんなに拒絶されてるわけではないんや。コユキはそう思った。

 暫く行くと‥‥
「私はここまでだ」
 案内してきたエルフは来た道を引き返していく。
 そして、木々の合間から姿を見せる老若男女50名ほどのエルフたち‥‥
 その中の1人が枝に足を掛け、手も使わずにクルリと反転させるとフワリと宙返りして着地した。
「こちらへ。長老の下へ案内致そう」
「里はこの先ですか?」
「この森が我らの里。森と共に生き、森と共に死ぬ。それが我らの生きる道だ。我らが里へようこそ」
 そこは立派な大木を中心とする森でしかなかった。

●謁見
 エルフたちの間を歩きながら冒険者たちは必死になって1人のエルフを探していた。勿論、フィーである。
「元気だったか?」
「うん」
「ずるい〜」
 鷹見が目ざとくフィーを見つけて頭を撫でているところへ飴を片手にコユキが割り込んでくる。
「フィーちゃん、久しぶり〜♪」
 あの日に買ったコユキとお揃いの着物である。ムギュ〜と抱きしめると太陽の匂いがした。
「お話したいけど‥‥ まずは用事を済ませないと‥‥ね」
 月華がフルフルと首を振っている。不思議そうに首を傾けるフィーを見て、頭を撫でたい衝動に負けた冒険者も多い。

 月華の後ろには文箱を携えた甲斐が控え、仲間たちがその後ろに控えていた。
「さくや、お願い」
「これが書状でござる」
 側にいたエルフが書状を開いて長老に渡す。長老は書状に一通り目を通すと、側の者に手紙を渡した。
「して‥‥ 人間たちは‥‥
 我らが過去に力を貸したエルフであるなら、再び手助けを願いたいという訳‥‥か」
「はい」
 やはり‥‥ リュカは内容があまりに単刀直入なことに拍子抜けしていた。
 だが、長く交わりのない部族への手紙である。それを考えると‥‥
「八溝山に岩嶽丸が復活したかもしれぬと」
「はい」
「ふむ‥‥」
 長い沈黙‥‥
 長老の首がコックリと舟を漕ぐ。
 寝るな〜!! と危うく突っ込みそうになりながら、月華たちは必死に堪えた。側近に慌てる様子はない。
 舟を漕いで目が覚めたのか、長老は杖の上に顎を乗せてフゥと静かに深呼吸した。
「この地に魔物たちが跋扈するのは我らとて好むところではない。しかし、戦になれば我らもジッとしてはおれぬ。
 流れ流れて数は少ないとはいえ、誇りあるエルフの王国の末裔であるからな。加勢するならば参戦致そう‥‥
 しかし、里の存亡に関わる。即答はできぬよ」
「大じいじ、助けてあげようよ。」
「これ!」
 側近に制止されたフィーが口をつぐんだ。

 それから暫く那須の現状を聞かれ、わかる範囲でリュカたちは答えていった。
 長老がトントンと杖で床を叩くと、側近は長老の背後にある洞(うろ)の中から神々しい雰囲気を漂わせた何かを取り出した。
 少し目を見開いたように長老が月華たちを見据える。
「これが我らの里の宝、魔物を封じてきた神弓だ」
 伝説の弓を目の当たりにして月華たちは息を吐いた。
「この里のエルフが探していたエルフなのですね」
「何の話じゃ?」
 長老は身じろぎもしない。
「エルフの神弓で八溝山の悪鬼を封じたと」
「‥‥ おぅ‥‥ そんなこともあったかも知れぬのぅ」
 ボケボケだぁ‥‥
「神弓があれば、那須の動乱を鎮める助けにもなるでしょう。御助力願いたい」
「しかしのぅ、万全ではないとはいえ八溝山の結界は健在じゃ。小物の鬼しか出て来れぬのが、その証拠」
「ですが、今こうしている間も鬼は増し、誰かが襲われる‥‥ それを放っておくことはできません」
「すぐには決められんよ。暫し、待つがよかろう」
 長老が一息つくと、側近がひとまず退出することを勧めた。

 それから何度もエルフたちは集まり、話し合いをしているようだった。何度も呼ばれては質問され、その度に帰された。
 彼らは食事に誘ってくれ、共に夜になると自家製の酒などで持て成してくれた。客人など来ないのだから彼らにとっても興味深いのだろうか。
「エルフは長命だから気長なんですか?」
 切迫した状況だと説明したにもかかわらず、のんびり話し合っているエルフに限間の興味は尽きない。
「ハハ‥‥ 我らが特殊なのは認めましょう。
 木々と共に生き、人との交わりを断って久しいですから、のんびりしているのが板についているのかもしれません」
 隣で杯を交わしている中年エルフが笑う。
「木々と共に生きる?」
「えぇ、大陸から政争に破れ、流れ流れて那須の地へ落ち着いた先祖は集落を作って住んでいたのだと聞き及びます」
「興味深い話だな」
 ウェスが腰をずらした。記録を残していないこの里のエルフの情報には興味があった。
 長い長い刻を経て大陸を流れてきたのだというが、今となっては確かめる術もないのだそうだ。
「それを魔物に討ち払われて多くの仲間を失い、山に篭って人との交わりも絶ったのだと聞いています‥‥
 結果として多くの技術を失いましたが、森の恵みは我々が平和に暮らすことを許してくれています」
「成る程な」
 ウェスは頷いた。
 確かに社会から見れば豊かな暮らしではないかもしれない。
 しかし、誇り高く、気高く生きているこの里のエルフたちを見ていると豊かな生き方をしているようには思えた。

「俺は‥‥ 自分が情けねぇ」
 エルフたちの歓待に思うところがあって鷹見は宴の輪を抜け出した。
「困ったときは助けてやるなんて言って現実はどうだ? 助けを求めてるのはこっちじゃねぇか‥‥」
 酒を呷ると木々の隙間から星が瞬いていた。
「どうしたの?」
 天乃は腰掛けると差し出された杯を空けた。
「フィーは?」
「寝てる。コユキさんの膝の上で」
「また真っ赤になってるのか?」
 天乃が吹き出して頷いた。
「それより、しみじみしちゃってどうしたの?」
「鬼たちの脅威に曝されている領民を放っておけなかった‥‥
 フィーに逢いたかった‥‥
 何よりフィーとその里のエルフたちを護りたいと思った‥‥」
 鷹見の独白に付き合って天乃が相槌を入れる。
「だから俺は此処へ来た」
 湿気を含んだ夜風は、冷たく2人を撫でた。
 天乃の笛の音にどこからともなく音色が重なり、森中を包み‥‥ 優しい音色でいっぱいになっていった‥‥

●さて‥‥
「お疲れさま☆」
 月華たちは那須城へ寄り、エルフからの返書を届けると江戸へ帰還した。
 問題はエルフたちとの連絡に月華たちが再び赴かなければならない点だが‥‥ これがどんな影響を及ぼすのか‥‥