●リプレイ本文
●相変わらず
那須支局内シフール便仮局で月華と甲斐さくや(ea2482)と天乃雷慎(ea2989)は報告書作成中。2人は、そのお手伝いである。
「月華〜、実はフィーさんへのお土産を買ってきたでござるよ。着物はコユキさんと同じの持ってるし、櫛などと思ったのでござるが」
「あ、かわいい。でも、こっちのは小さすぎない?」
「これは月華への贈り物でござるよ」
甲斐は月華に小さい方の櫛を渡した。
「ありがと」
「那須藩直々の配達か‥‥ しかも、月華ちゃん指定って大出世だよね〜」
「いやぁ、それほどでも」
「末は局長でござるな」
そうこうしているうちに仲間たちの声が玄関から聞こえ始めた。
「月華ちゃん、リュカちゃん、レダちゃん♪
フィーちゃんにも会えるし‥‥ あと、グラスちゃんもいれば言うことなしやったんやけどなぁ‥‥」
シフールたちを抱きしめて幸せそうな赤面エルフほややん娘がコユキ・クロサワ(ea0196)。
「ほんと好きだな、コユキ」
鷹見仁(ea0204)が呆れ気味に笑う。
「この前は多少慌ただしい感じだったからな。少しはゆっくりできると良いのだが‥‥」
「いっそのこと、あの里に居つくのも良いなぁ‥‥」
「寂しくなるじゃないか」
「じゃあ‥‥ やめる」
雪切刀也(ea6228)がコユキの頭に優しく手を置いた。
「須藤さん‥‥ どんな人なんやろ? 怖い人じゃなかったらええなぁ‥‥」
「そのことですが、須藤士郎さんのことを調べてみたのです」
リュカ・リィズ(ea0957)が仲間たちの中心へフワリと降りる。
「使者には家格がある須藤の家名を継いでいる方が行くのだと喜連川家の御家人が教えてくれたました。それが‥‥」
「須藤士郎か。なんか回りくどい話だな」
不満げにウェス・コラド(ea2331)が間を繋ぐ。
「須藤を名乗っていますから与一公の縁者だとは思いますが‥‥」
「本人に会って判断するしかないな」
どこか納得いかないのは皆同じだ。
そのとき、旅姿の武者が那須支局の暖簾を割った。
「須藤士郎です。此度はよろしくお願い致します」
笑顔の印象的な青年である。妙な視線を感じて首を傾げている。
「あれ‥‥ 遅かったですか? それとも顔に何か付いてるとか?」
「いえ」
須藤はホッと息を吐いた。むしろホッとしたのは天乃をはじめとして月華たちのほうである。
少なくとも第一印象は悪くない。彼がエルフたちに会わせるに足る人物なのか、あとはそれだけだ。
「じゃあ、みんな揃ったことだし、どうせまた気長に待たないといけないだろうから急いで出発しましょ」
月華の声でみんな立ち上がった。
「気長に?」
「外界との接触を断っていた里ですし、普通の交渉と同じようにはいかないのですよ」
「のんびりしているらしいですからね。いらいらせずに付き合ってあげないと」
リュカと夜枝月奏(ea4319)の言葉に頷いて須藤は暖簾をくぐった。
●エルフの隠れ里へ
か弱くかわいいシフールたちと綺麗なエルフを護ることに須藤が萌えを感じていたかは甚だ疑問だが、特急便の面々が使者に見えないのと同じくらい須藤も大任を任される大人物には見えない。だからこそ、いろいろ考えさせられることもある訳で‥‥
「す〜さん、護ってくれてありがとうなのじゃ」
レダ・シリウス(ea5930)は須藤の首にしがみついている。後方で小鬼を討ち払う天乃や限間灯一(ea1488)の姿が見える。
さて、つけられている気配はないようだ。胸を撫で下ろしながら月華たちは先を急いだ。
ここまで来たら那須藩に場所を知られてしまうのは仕方ない。そもそも使者を送れと言ってきたのはエルフたちなのだから。しかし、鬼族がエルフの隠れ里の位置を知ってしまうのは避けなければならない。
「慎重なのですね」
須藤がしきりに感心している。
「あぁ‥‥ 那須藩の都合で巻き込むのだから、我ら人間の都合で話をしてもエルフの理解は得られないと考えている」
「那須藩の私が目隠しをされないということは、私はあなたたちに信用されたと思っていいのですか?」
「エルフたちに害を為す様な輩には見えない。今のところはそれで十分だ」
鷹見は笑みが少し揺らぐ。白々しいが一応聞いておかなくてはならないこともある。
「須藤ということは与一公の縁者なのか?」
「まぁ、これも須藤の名を継ぐ者の義務ってことです」
須藤がハハッと笑う。
「もしかして、よ‥‥」
「皆まで言わない方がいいでござるよ」
甲斐がリュカの言葉を遮るのを見て月華が首を傾げる。
「‥‥」
「まっさかぁ。さくやの考えすぎだって」
甲斐の耳打ちに笑い、月華がさくやの頬っぺを引っ張る。
「あの大将、気さくでござるからなぁ」
「そっかなぁ」
「何の話ですか?」
3人の間に須藤が顔を突っ込む。
「あなたとエルフたちが仲良く話し合ってくれれば、私たちにはそれが一番って話」
怪訝な須藤に月華が言い切った。
「八溝山はかなりの難所で、一筋縄ではいかないと聞きます。エルフの方々の助力を得られる事で少しでも助けになれば良いのですけれど‥‥」
「この期に及んでエルフの加勢を得なければ勝てないようなら、勝てますまい」
義を見てせざるは勇なきなり‥‥ そう思っていた限間は、須藤の言葉で全てを打ち砕かれた気がした。
「自分は甘いですね。人や物を当てにして‥‥ 那須藩がエルフの助勢を願うのは何故なのです?」
「過去の符牒をなぞることで那須の民に力を与えるためです。勝てると思わせる。それが大事なのです。いや、偉そうなことを言ってしまいました」
「彼らには彼らの暮らしがあり、こういった非常時以外は彼らが望まない限り今後も無闇に干渉するべきではない、と‥‥ きっと判っていらっしゃるでしょうけれど‥‥念の為、那須藩に伝えていただきたいのです」
「わかりました」
このことを須藤に伝えておきたいと‥‥ なぜか限間は思った。
●会見
今回は見張りのエルフの方から姿を現し、早速長老への面会が許された。
見る限り、須藤は限間が懸念した間者ではないようだ。
須藤を最前列に月華と甲斐がすぐ後ろに控え、他の仲間たちもその後ろに座った。
「長老様、ご依頼の使者、確かに配達いたしました」
「月華殿、ご苦労じゃったな。さて‥‥」
エルフの長老が月華から須藤士郎へと視線を移した。
「那須藩からエルフ族の参戦の要請に参りました。須藤士郎と申します」
そう一礼すると須藤は顔を上げて長老を見つめた。
「よう来たの」
「はい」
「ホホ‥‥ それでは、本題に入るとするかな。この森のエルフ族は、古の盟約に従い喜連川家に加勢する」
「ありがとうございます。我らも古の盟約に基づき神弓の貸借を申し入れます。と言っても、書状にて知らされるまで忘れ去られていた盟約で申し訳ないですが」
須藤と長老が歓談している。あたかも旧知の友のように‥‥
「ちょっと待ってくれ。状況がさっぱり見えん。どういうことなんだ?」
ウェスが2人の会話を遮った。
「なんじゃ‥‥ お主らまだわからぬのか?」
長老がカカと笑う。
「須藤と言えば喜連川家のことじゃろう?」
「それくらいはわかるでござるよ。もしかすると与一公かとは思ってござるが‥‥」
甲斐が須藤の顔を覗き込む。
「もしかしてではなく、名乗っておるではないか。与一と‥‥ 十一郎とな」
「あ! だから士郎なんだ」
長老の言葉に月華がポムと手を叩く。
「喜連川那須守与一宗高の名を出さず、月華殿たちの意思で里まで案内してもらうようにと返書に書かれていたのです。騙す形になったのは本当に申し訳ない」
与一公が深々と頭を下げた。
「礼を言わねばなりません。人間が忘れ去ってしまっていた盟約を断たずおこうとエルフ族に思わせたのは、あなたたちのエルフ族への心添えだったのですから」
「しかし、それは依頼だったから‥‥」
天乃は口ごもった。
「では、慇懃無礼で尊大な人物であったら、どうしておった?」
「目隠しでもして使者の任だけを全うさせたと思う。里の場所は教えなかっただろうな」
長老の問いに鷹見が即答した。
「そんなそなたたちであるからこそ橋渡しをさせたのじゃよ」
長老の瞳には優しい光が覗いていた。
与一公とエルフたち、そして特急便の面々が会合に参加って‥‥ おいおい‥‥
「盟約は昔のものらしいですね。エルフの里一帯を安堵すると約定し、改めて盟約を結んではどうでしょう?」
リュカが与一公に提案する。
「危機にあたり古の盟約に従い、宝弓を借り、同盟軍の出撃を請う。エルフの里は彼らに一任し、那須の民は彼らの生き方に干渉しない。そういうことで良いですね?」
与一公の言葉に長老が頷く。
「私たちは伝達や護衛に就くでござる。それはエルフが表に出ざる得ないことを持ち込んだ責任でござる」
「そういう機会があれば、お主らに頼もう」
甲斐の言葉は長老にサラリとかわされた感があるが、拒絶の意思など毛頭ないことは語気でわかる。
「月華、すまないでござる。これが元で月華を危険な場所に連れて行くかもしれない」
「いいって。上司には、また怒られそうだけど、浮世の情けを知らん振りなんてできません♪」
戦の評定と言ってもいい会合なのだが、どうも場の雰囲気が明るい。まぁ、この顔ぶれじゃ仕方ないか。
「那須藩は随分苦戦しているようだ‥‥ 仮にも一国が攻めよせて山一つ落とせない状況。破れかけの結界をアテにして楽観視してるのなら、改めろ。この里の平和は既に崩れかけてると自覚すべきだな」
「忠告耳が痛い」
「まったくじゃな」
エルフも興味深いが、中々に与一公も面白い研究対象になりそうだ。ウェスは、そんなことを考えている。
「出陣するなら、これまでのように閉じた里というわけにはいかないだろうな」
「盟友の危機を放っておくほど、この里のエルフは不義理ではないぞ」
長老の反応を見つつ、ウェスは満足げだ。いや‥‥ 研究対象としてだが。
「この里はできるだけこのままにしておきたい。心を砕いてくれよ」
後半部分は胸の中で『私のために』と思いながらウェスは与一公と長老に念をおした。
「そういえば、ここのみんな魔法は使えんるんやろか? もし長けている人が居たら、結構重宝されるんとちゃうん?」
コユキの言うことは尤も。ジャパンでは魔法使いは珍重される存在である。
「弓の腕や魔法、そして聡明さでは1目も2目も置かなければなりません。話をしていて実感しました」
「皆、やる気満々じゃ」
夜枝月の周りには数人のエルフ。そして、レダの声の方に視線を向けると、会見の席の端にフィーの姿が。そのフィーに抱かれるようにしてレダが座っている。いつの間に‥‥
「エルフたちの力を借りられれば心強い。が、彼らが戦争の道具ではないということは忘れずにいたいですね」
「それに、じゃ。鬼との戦いに力を貸してくれるのはいいが、里の護衛ができるだけは残してほしいの。フィーたちが闘いに巻き込まれるのは御免じゃ」
「フィーも頑張ってお手伝いする」
両手を握り締めて力説するフィーと、その真似をするレダに場の雰囲気が和む。
「里の半数近くは出せよう。守りは年寄りでも大丈夫じゃよ。このような時にこそ頑張らねばな」
長老の側にいた老エルフが首を向けた。
「八溝山や結界のことに詳しい方も招聘できれば戦いが有利に進むと思うが、どうだろうか?」
雪切が別の話題を振り、本題へ話を戻した。
「八溝山の結界は、この地に古くからあった結界を利用したに過ぎぬと聞いておる。実際のところ、わしもそう詳しいわけではないからのぅ」
「しかし、現地での戦況は苦戦を強いられ、また、貴重な時間は刻々と過ぎています。
そしてさらに悪いことに、結界の状態がどのようになっているのか不明であり、最悪、八溝山の悪鬼の復活の可能性もありえます。そうなれば、この里にも影響が起こるでしょう。ところで、この里で最も知恵者と言えば‥‥」
「わしじゃな。当然同行いたすぞ」
(「やっぱり‥‥」)
ボケボケぶりを聞かされているだけにかなり不安‥‥ ちょっとだけ後悔する雪切であった。
しかし、神弓を管理する者としての責務もあるということで仕方ないといえば仕方ないらしい。
●古の盟約、現世の友
「もっとゆっくりしていけばいいのに」
「そういうとこが可愛いのよね」
コユキがプゥと頬を膨らませるフィーを抱きしめる。
「残りのお茶は皆で楽しんで」
「次までには新作を描いておくから」
「お姉ちゃんもお兄ちゃんも絶対だよ」
「約束だ」
「そうやね。約束や」
3人は指切りをした。
「むむ、仲間外れにするでな〜い」
指きりに飛びつくレダにフィーの笑顔がまぶしい。
「若長よ。里のことは頼んだぞ」
「お任せを」
「ホホ、乙女に跨り、戦場へ勇躍する。そんな日が来るとは思わなんだ」
長老を乗せた野生馬がブラゥと鼻を鳴らす。
「善きかな、善きかな」
長老は嬉しそうに笑う。いまいち不安‥‥ ともあれ、得難い援軍を伴って与一公は那須城への帰途についた。
那須城へ入城したエルフの隠れ里の軍勢は20騎。弓を携えた勇壮な姿の中にエルフ独特の優雅さが漂っている。
少数ながら、その力は計り知れない。約半数は様々な精霊魔法を操る魔法兵団でもあるからだ。
「俺も一緒に戦うよ」
「あなた方は私が守ります‥‥ 驕りではなく覚悟として」
戦支度を整えた鷹見と夜枝月がエルフたちの下へ訪れた。
「変事あれば我らの代わりにフィーたちを護ってやってくれ。我らは盟約のために命をかけねばならんのだ」
2人はエルフ兵の威風に呑まれ、諾と返すしかなかった。
「山神様がお助けになってくれると聞いたぞ」
「おぉ、ありがたや」
那須の領民たちは勘違いしているようだ。
「あんなこと言われてるぞ。ちゃんと説明してやろうか」
ウェスが横目でエルフ兵に視線を投げた。
「良い。あれであの者たちが安心できるのであれば、肯定はせぬが無理に否定することもあるまいて」
「俺たちの出る幕じゃなさそうだ」
肩をすくめるウェスに月華たちは笑った。
「そうだ。月華‥‥ 那須でのお仕事は都合で行けなくなっちゃった‥‥」
「しんみりしな〜い♪ 雷慎らしく元気にいこうよ」
「そうだね。これでお別れじゃないんだもんね」
月華が天乃の肩に飛び乗って涙を拭った。
那須城を後にする与一公の主力部隊とエルフの同盟軍。その威容に領民たちの期待は高まる。
八溝山決戦の日は近い。