【深緑】《下野温泉祭》 おでかけ女神1
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:4〜8lv
難易度:易しい
成功報酬:2 G 30 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月13日〜01月20日
リプレイ公開日:2005年01月23日
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●オープニング
那須藩を中心として下野国全域で『下野温泉祭』が催されることとなり、各地の温泉好きがこれを楽しみに広く集まってくる。『バカ騒ぎしてパッと新年を祝いましょう』という趣向のこの祭りは、各地の秘湯などが客に開かれるとあって楽しみにしているものも多い。
江戸での百鬼夜行に始まり、八溝山での鬼たちとの決戦。‥‥と、動乱の時期にあるとして今年の開催は危ぶまれていたが、八溝山に決着が付いたとして開催が決定し、温泉好きたちは胸を撫で下ろした。今回は時期も時期ということもあって、福原八幡宮や湯本温泉神社などで那須藩主である喜連川那須守与一宗高(きつれがわ・なすのかみ・よいち・むねたか)公が戦勝報告を済ませることも祭祀の中に組み込まれているが、それは温泉好きたちには概ね関係のないことだ。
「今年もバカ騒ぎしてパッと新年を祝いましょうよ」
「おぅ、悲しいことは去年に捨ててぇ、新年はパッといこうぜ」
那須藩は温泉祭りの準備でてんやわんや。でも、みんな楽しそうである。
※ ※ ※
「フィーもお出かけする〜 兄さま、姉さまだってお出かけしてるもん」
「我が儘を言うものじゃないよ。皆、戦いに行ってるんだから」
エルフの隠れ里を任されている若長がエルフの少女の頭を撫でた。
「でもでも、鬼はやっつけたって若兄さまは言ってたでしょ? それに、温泉のお祭りがあるって言ってたもん。フィーだって行きたいよぉ」
「そうだけど、まだ鬼が出るかもしれないし危ないよ」
「じゃあ、冒険者のお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に行くから‥‥ね?」
う‥‥ 優しく諭していたエルフの若長が息を飲む。
魅了か何かの能力でもあるんじゃないかと見まごうばかりのフィーの視線。そんな純真な瞳で見つめられたら‥‥
「はぁ‥‥ それじゃあ、付き添ってくれる人がいたら行ってもいいよ」
若長は溜め息と共にガックリ肩を落とした。
「やったぁ♪」
フィーの笑顔がやけに眩しかった。
「これに耐えられたら本当の意味で長老の代わりが務まるよ。若長もまだまだ修行が足らんな」
仲間のエルフが若長の肩をポムポムと叩きながら笑って頷いた。
ある夜、1人のエルフが江戸冒険者ギルド那須支局を訪れた。
「すまないが依頼を頼めるだろうか‥‥」
「はぁ‥‥」
寒さを凌ぐために半纏に丸まって茶を飲んでいた番台が寒そうに白い息を吐きながら火鉢から未練がましく離れた。
「それで、どんな依頼ですか?」
斯く斯く然々‥‥
「親バカ‥‥」
「何か?」
寒さで悴(かじか)んででもいたのかエルフは聞き漏らしたようである。
「ハハ、何でもありません。冷えるなぁって」
苦笑いを浮かべながら番台は依頼の受付を終えた。あとは江戸のギルドに送るだけ。
コン、コン‥‥
エルフが暖簾を割って外を覗く。そこにはシンシンと積もる雪の音だけが響いていた‥‥
●リプレイ本文
●雪行軍
「はぁ‥‥ やっぱり若いやねぇ‥‥」
防寒服の前を合わせて肩をすくめるコユキ・クロサワ(ea0196)が、フィーに羨望の眼差しを向けた。
さすがに体力的に付き合いきれない。まぁ、実際にはコユキがフィーより大人だという証明に過ぎないのだが‥‥
さて、隠れ里のエルフたちが持たせてくれた毛皮の手袋と靴と上着を着たフィーはというと、新しい雪の上を元気に走り回っている。
こけっ。
「ほら、気をつけなさい」
フィーの顔や着物に被った雪を松浦誉(ea5908)が払っている。
「大丈夫だよ」
フィーは鼻の頭を赤くしながら笑った。
「こんなに冷えるとはな」
コユキが余分に持ってきていた防寒服を借りた鷹見仁(ea0204)が苦笑いした。
「大丈夫じゃ。歩いていれば温まる」
エルフの隠れ里でフィーと同じ防寒服を借りることができた緋月柚那(ea6601)も、何とか寒さを凌ぐ事ができている。
また帰りに鷹見が寒い思いをしなければならないだろうが、それはそれで仕方ないだろう。
「それでは出発しましょう」
子を持つ松浦にはわかっていた。余裕を持って旅をしなければフィーの体力が保たないであろうことを‥‥
子供というのは得てして全力で限界まではしゃいでしまう。その先に待っているのは、言わずもがな。
休憩を取りながら進まなければ旅は覚束ないが、フィーや緋月のことを考えれば大人と子供の体力を鑑みて大人が少し無理をしなければならないといったところか。体力のないコユキを含めて、所々を馬や驢馬に頼るとしても、この寒波は少し厄介だった。
「フィーちゃん、小姫ちゃん、一緒に行こうなぁ」
コユキが2人の手を引く。こういうところは、さり気なく抜かりないな〜。
「湯本まではもう少しですね。一気にいければいいんですが‥‥」
目印が書かれた地図の木板を片手に、まるで父親の気配りで頭の痛い松浦だった。
さて、温泉神社まであと少し。
●初詣
温泉神社まで辿り着いた一行。予想外の人の多さに驚くばかり。
それもそのはず。温泉祭りでの温泉神社の分け湯は温泉好きにとって堪えられないものであったし、祭りというだけで人が集まってくるからである。藩をあげての催しとなれば尚更だろう。
「江戸も良いが、那須もなかなか綺麗なところじゃ。気に入ったぞ」
「ねぇ、あれ。何だろう」
「出店のようじゃが、何であろう」
緋月とフィーが出店に駆け寄る。
「こりゃ、飴菓子だな。食うか? そういや小遣いを持ってたんだったな。どうする嬢ちゃん?」
平島仁風(ea0984)は買ってあげようかと思ったが、自分たちの役目を思い出してやめた。
「よく考えて使いなさい」
松浦が優しく諭す。
「うん、お小遣いの中で買い物をするんだよね」
「けひゃひゃ、その通り。小遣いは持っているだけしかないから気をつけるのだよ〜」
トマス・ウェスト(ea8714)が高笑いでふんぞり返る。
「おじさん、いくらですか?」
フィーが買い物をする姿を一行は固唾を呑んで見守っている。
値段を聞いて、お金を渡して、品物と交換する。ただそれだけのことだが、隠れ里で育ったフィーにとっては未経験なことだった。
先に江戸で迷子になっていたときも、全く所持金を持っていなかったのである。世間知らずもいいとこな訳である。
「初めてのお買い物って訳ですわね。箱入り娘ってやつとは少し違うけれども、面白いものを見させていただきましたわ」
潤美夏(ea8214)が饅頭片手に串焼きを頬張りながら笑う。
ドクターことトマスが散々旅の趣旨を言い聞かせて(されて?)いたので、フィーも好奇心にうずうずしながらも一行と行動しなければならないという一線は越えずにいるようだ。
「温泉祭‥‥ まぁ祭りっていうのはイイやな。何てったって活気があるから、こっちまで元気になってくる。
おぉ。フィー、的当てがあるぞ。一緒にやってみようか?」
「うん」
飴菓子を頬張りながら、フィーは鷹見から球を受け取った。
「ほら、あれに中(あて)てるんだ」
鷹見が投げるのを見てフィーも投げるが、外れてしまった。惜しいだ残念だと騒ぎながら、最後の1球で見事に的に当たった。
景品は今年の干支の鼠を模(かたど)った小さな根付だったが、抱き合って喜んでいる。
「あれ? 他の皆は?」
「皆で迷子になんてならないよ。慌てないで待っていよう」
フィーが鷹見の袖を引っ張る。
「大丈夫。すぐに戻ってくるから」
「どくたーが勝手にどこかに行っちゃいけませんって言ってたのに。仕方ないんだから」
腕組みして眉を必死に顰めようとしているフィーを見て、コユキと鷹見は思わず吹き出した。
「いよぅ、与作じゃねぇか、久し振りだなぁ。まぁ、立ち話も何だからコッチ来いや、な? な?」
平島が後ろから男の肩を組み、グイグイ物陰へ引っ張っていく。
「さっきからずっと‥‥つけてましたよね」
うちの娘に何すんだという松浦の視線に怪しい男は引いた。
どん‥‥
後ろは壁で逃げられない。
「珍しいエルフが2人もいたんで、かどわかすつもりだった‥‥とか?」
雪切刀也(ea6228)が襟を掴んで壁に押し付ける。
「そんなんじゃないです」
「じゃ、何の用だ?」
真鉄の煙管がペチペチと男の頬に当たり、平島の言わんとするところは十分伝わったはずだ。
「別に‥‥」
「別に‥‥何ですの?」
キンッ。潤美夏が愛刀の鍔を切ってみせた。
「そうなのじゃ。はっきり言うのじゃ」
すぱ〜ん。緋月がハリセンで叩(はた)く。
「もう、つきまとわない」
男は怯えた表情でキョロキョロと緋月たちを見渡した。
「もう、つきまといません。ごめんなさい。先生格好良い‥‥ だろ?」
最後のは余分だと思うが‥‥
平島に凄まれて、男は瞳の焦点が合っていない。
「もう‥‥つきまとい‥‥ませ‥‥ん。ごめんなさい‥‥ 先生‥‥格好良い‥‥」
「すまんね〜。あの子は大事なお姫様なのだよ〜。けひゃひゃひゃ」
トマスの高笑いから逃れるように怪しい男は涙を浮かべながら走っていった。
「皆、どこ行っとったん?」
コユキがフィーの手を引いて心配そうに聞いた。
「ちょっとね」
「ちょっと‥‥か。追っ払ったみたいだな」
「あぁ、もう大丈夫だろう」
鷹見の問いに小声で答えると雪切はコユキに目配せした。
「どくたーが勝手にどこかに行ってどうするの」
「けひゃひゃひゃひゃ、1本取られたのである〜」
腕組みをして頬を膨らませてトマスを見上げるフィーに、一同は爆笑した。
●祭祀
「御神籤、引いてみん? 正月には初詣のお参りをして、御神籤で今年の運勢を占うんよ」
「フィーたちもお正月はお祝いするけど、御神籤って知らな〜い」
賽銭を払って、フィーは瞳を輝かせながら御神籤を引いた。
「なんて読むの?」
「超吉? そんなんあるんや」
見せられた札に愕然とするコユキを見て、フィーが首を傾げた。
「すごくいいことがありますって意味やよ」
「良かったな」
鷹見が頭を撫で、負けじとコユキも頭を撫でた。‥‥
「えっと、うちは‥‥ 中吉やて。意中の人に会えますって」
「良かったね、コユキお姉ちゃん」
他の者は悲喜こもごも。大吉よっしゃ〜の者もあれば、護摩壇にくべて慌てて引き直す者もいる。
「そろそろ始まるみたいだぞ」
周りの人たちの動きが慌しくなってきた。ついに温泉神社の祭祀が始まる。
「さて、祭祀の様子が見られるかな〜。けひゃひゃひゃ」
周囲の視線を感じて、トマスが身を縮めて苦笑いを浮かべる。
静かなざわめきの中に祝詞の声が僅かに響く。
「見えますか?」
「よく見えるよ。須藤さんが弓を置いてる」
松浦が肩車したフィーを見上げた。周囲より頭1つ抜け出した松浦の肩車である。見晴らしは良かった。
フィーも身を乗り出して祭祀の様子を窺っている。
「願いが叶ったことを神に感謝して、弓を奉納しているのじゃ」
平島の肩車で緋月が横から解説する。巫女であるだけに、こういう儀式には詳しい。とは言っても、京を抜け出して江戸に滞在している身で修行中ではあるのだが。
「あれが那須与一なのじゃな‥‥」
那須藩主だけど茄子顔じゃないんじゃな‥‥と失礼なことを思い、思い出し笑いした。
「あ、大じいじもいた」
祭祀に参加している隠れ里のエルフたちを見て、フィーが嬉しそうに笑う。
「騒ぐと周りに迷惑やからね」
鷹見に肩車されたコユキがあたふたしている。
祝詞や奉納などもそうだが、巫女舞なども初めてで、何かにつけてフィーははしゃいでいる。
周囲の観衆たちも緋月の解説を聞いて頷いており、フィーのことは差し引きチャラという感じで大目に見てくれているようだ。
「あの殿さんが気張ったお陰で戦も一段落したんだが‥‥ 何も殿さんだけが偉ぇ訳じゃ無ぇ。
鬼と戦った奴も偉けりゃ、里の仲間が居なくて寂しいのを我慢したフィー嬢ちゃんも偉い。
偉ぇ大人ってのは、家来が大勢いたり金持ちだったりする奴のことじゃなくて、自分の仕事に気張れる奴のこった‥‥
嬢ちゃんも偉ぇ大人にならねぇといけねぇぜ?」
「うん」
どこまで平島の言っていることをフィーが理解しているかはわからないが、折りに触れてこういう話をすることは大事である。
「固ぇ話の後は甘味が一番。そこらで団子と茶でもして、その後に温泉でもどうだぃ?」
「ちょうどお茶が飲みたかったのじゃ。話しすぎて喉がカラカラじゃ」
丁度、巫女舞も終わったようである。緋月たちは茶店を探して出店の方へと消えていった。
●分け湯
食べ物の匂いにつられたのか、温泉の湯気につられたのか、湯船から流れ出す湯を目当てに猿が集まっていた。
さすがに人間たちでごった返しているために、湯船まで近づいては来ないが、物欲しげに指をくわえている。
緋月が湯桶にお湯を張って置いてやると、猿は気持ち良さそうに湯桶に体を沈めた。
「可愛いのじゃ」
猿たちは仲睦まじく交代で湯桶に浸かっている。
「いや〜、これで我が輩のイカレ具合もましになるかね〜」
そんな効能はありません。(キッパリ)
旅の計画を徹夜で立て、雪中の強行軍にぐったりしたトマスは、ようやく開放された感じで力いっぱい手足を伸ばした。
ジャパンに来て良かったと思うこと。その1つにこの温泉がある。体の芯まで温まると疲れが溶け出していくようである。
「どうして潤お姉ちゃんは眉毛が4つもあるの?」
「これは眉毛じゃないですわ。髭ですわよ。あ、こら。引っ張らないの」
「こんなところから髪の毛が生えてる」
「こらぁ、それも髭。引っ張るんじゃないですわ」
フィーにとって初めて接するドワーフである。無論、立派な髭に出会うのも初めて。こうなると完全に玩具である。
潤美夏が湯船に逃げ込むと、フィーもそれを追って湯船に飛び込んできた。
ざっぱーん。
他の客のちょっぴり冷たい視線に松浦が無言で平謝り。子供のすることと何も言わないが‥‥
「一番・平島仁風、踊ります! そこぉ、湯船に手拭いつけるなオラー!!」
一杯引っ掛けてほろ酔い気分なのはいいとして、ポロリどころじゃない、全裸で踊りだした平島は筋肉ムッキムキの漢たちに連行されて強制退場。
「誉おじちゃん、どうしたの?」
「フィーさんは見なくてもいいですからね」
しっかり目隠しをして平島の痴態からフィーを守った松浦はホッと一息。仲間たちは、無論他人のふりである。何事もなかったように体を流している。
さて‥‥
フィーの髪の毛を洗ってやったコユキは、雪切の背中を流していた。普段色々と気にかけてくれて感謝の気持ちがあったのは確かだが、フィーたちと一緒に旅をしたり、お泊りしたり、お風呂に入ったりとコユキにとって天国のような時間が過ぎており、そのぶん素直になれていた。
「男の人の背中って、結構大きいんやね‥‥」
いや‥‥ 雪切も上背はあるほうだが、コユキが小さいだけという話もある。にしても、相変わらずの赤面エルフである。
あ‥‥ こっちも赤面か‥‥
「フィーたちの世話、お疲れ様‥‥って、まだ少し早いか」
色事が苦手というわけではないが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
男は神社が用意してくれていた真新しい褌一丁、女もこれまた用意されていた湯衣という姿である。
互いに裸に近い格好ということで、意識しないわけがない。2人の肌が火照っているのは何も温泉のせいだけではないだろう。
体を流して湯船に浸かると、コユキと雪切は2人並んでのんびり湯を楽しんだ。
「いい湯やね〜」「やね〜」「ね〜」
「ほんと」
かぽ〜ん。
日頃、酒場でも棲家でも騒がしい連中に囲まれているのである。せめて、今だけ‥‥
「ちゃんと百数えて上がるんですよ?」
「は〜い。い〜ち、に〜〜、さ〜〜〜ん」
「そんな数え方だと、のぼせてしまいますよ」
笑って振り向くフィーの姿を見て、松浦は優しい笑みを浮かべた。
『付け入る隙がない‥‥ やるな』
鷹見は、フィーを取られてしまったようで少し寂しかった。
「へへ、お兄ちゃん、一緒に数えよう。じゅういち、じゅうに‥‥」
「十三、十四‥‥」
膝の上に座ってきたフィーの頭を鷹見は撫でた。
●またね
楽しい刻は、あっという間に過ぎるもの。とうとうお別れの時が来てしまった。
きっと、エルフの里では学べなかったこととを、沢山学んだに違いない。それはフィーの成長の糧となるだろう。
「さぁ、フィー君。これでお別れだよ〜。元気でなな〜。けひゃひゃひゃ」
「どくたーもね」
フィーが小さく手を振る。
「いつか海を見てみたいな」
「機会があれば案内しますよ」
「約束」
「えぇ、約束です」
松浦たちはそれぞれに別れを告げて指切りをした。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ‥‥」
エルフと松浦の遣り取りは完全に保護者の遣り取りに見える。それは、まさに父の鑑‥‥と言ったところか。