●リプレイ本文
●気のいい仲間
「あいあい、白馬の皇子様ならぬオヤヂ様のお迎えだぜー。良い子にしてたかぃ、フィー嬢ちゃん?」
突っ込みズビシッって感じだが、嘶(いなな)きと共に前足を上げた真白き駿馬に平島仁風(ea0984)が跨っている。
「オトコマエだね〜」
「そうだろ、そうだろ」
フィーに褒められて、どこか有頂天の平島。
駿馬の鼻面を撫でているところを見るとオトコマエの指し示す物は、どうやら違うようだが‥‥
平島が気づいていないようなので、それはそれで良しとしておこう。
「お久しぶりですわね。また旅行ができて、とても楽しみですわ」
「うん、フィーも楽しみ。あれ? お髭が曲がってる」
「本当ですわね」
いや、それは那須に不穏な空気が流れていて、あなたを護るように言われてるからなのよ。だからちょっと顔が引きつってたのですわ‥‥とは言えず、すまし顔で髭の位置を直すフィーに付き合う潤美夏(ea8214)。
「けひゃひゃひゃ」
それを見て、トマス・ウェスト(ea8714)が大笑いしている。
「表向きはのんびりと‥‥か‥‥ 兎に角、出来る限り護ってやらないと」
「フィーを危険から護り、かつ楽しませること。この二つは決して忘れてはならない」
静かに雰囲気を醸し出している雪切刀也(ea6228)に、鷹見仁(ea0204)は自分の気持ちを確かめるように念を押した。
「里の方も心配していましたね‥‥ それにしても、すっかり引率役が板に」
遊ぶようにフィーと接する仲間たちを見て、松浦誉(ea5908)は微笑ましく思い、また、郷里の我が子のことを想った。
「誉おじちゃん、お池に行くんでしょ?」
「そうですよ。お久しぶりですね。風邪など召さずお元気でしたか? 未だ寒さは厳しいですし、暖かくして参りましょうね」
腰をかがめて相手の目線で話をするあたり流石は父の鑑。フィーの興味がすぐ別の物に移ってしまっても全く動じない。
「ほら、俺の新作だ。フィーにあげるよ」
「お兄ちゃん、ありがとう」
貰った絵を嬉しそうに見るフィーを、鷹見は苦笑いで見つめた。
「フィーがいやでなかったら、お兄ちゃんじゃなくて仁と呼んでくれないか?」
「ジン?」
「俺の名前だ」
「うん、わかったよ。ジン」
「あ〜、ならなら、うちのこともコユキって呼んで♪ 小姫ちゃんもよかったらコユキって呼んでね」
「わかったのじゃ、コユキ。フィーもよろしくなのじゃ」
巫女姿のコユキ・クロサワ(ea0196)と緋月柚那(ea6601)が鷹見の後ろから顔を出す。
「コユキお姉ちゃん、小姫ちゃん、池に着いたら氷滑りをしようよ。大きいとこでやったら、きっと楽しいよ」
コユキを呼び捨てにするのには、ちょっと抵抗があるみたい。
「‥‥ 氷滑りとはなんじゃ?」
「うちは知ってはいるけど、殆どやった事ないね‥‥ どちらかと言うと体を動かす方は苦手な方だし‥‥」
「そりに乗ったり、煮詰めた皮を靴の裏に張ったりしてね、氷の上をスーって滑るの」
フィーのワクワク顔を見ても、いまいち想像できなかったが、緋月にも楽しそうだということだけは理解できた。
「何だか面白そうじゃ。さぁ、鏡ヶ池へおでかけじゃ★」
楽しい旅の始まりである。
●鏡ヶ池
「嬢ちゃん、勝手に一人であちこち行かねぇ様にな? 下手すっと足元がビシッと割れてバシャーンなんて事になるからな」
テント張りの目処が立ったところで、平島と鷹見と雪切は氷の上に繰り出していく。
「ちょっと無理みたいやわぁ」
コユキは、いざとなったらプラントコントロールで木の枝や根を使って池に落ちた仲間を助けようと考えていたが、さすがに長さが足りない‥‥
「何だね。プラントコントロールとは痒いところに手が届かないのかね〜」
「どんな魔法だって万能ではないんよ。仕方ないやん」
「ふむ、魔法の長短を知っていれば、コユキのようにパッと判断できるのだよ」
フィーと緋月がウンウンと頷いている。
「フィーちゃんは魔法使えるん?」
「大じいじや若兄さまが少しずつ教えてくれるの。
森や水、風や火‥‥ そういうものをキチンと体に感じて精霊の力を引き出しなさいって。
だから今は使えないの」
「そうなんや。隠れ里のエルフたちは、そうやって魔法を覚えていくんやね」
でも、里にもしもの時があったら‥‥ 本当は考えちゃいけないことと思いながら、コユキの気持ちは少し暗くなってしまう。
少しずつでも、私の知っている限りの事を教えてあげるのも良いかも知れへんなぁ‥‥
コユキは、そう思った。
「池で遊ぶ許可はとってきました。あ、手伝いますよ」
松浦たちが帰ってきた。
神事の行われる場所だと聞いて話を通しに行ったのだが、穢さなければ特に何も言うことはないらしい。
手際よくテントが張られていく。
さて、テントの傍らではたっぷりの鍋が、なかなかに美味しそうな匂いを漂わせて湯気をあげ始めていた。
「おいしい?」
「当然ですわ。ほら、つまみ食いは駄目ですわよ。そこも」
優しく諭そうとしているフィーとは対照的に、潤美夏のドクターへの対応は容赦ない。ザックリと箸が刺さっている。
潤美夏は、すかさず箸を取り替えて料理の続きを始めた。
「ほれ、フィー君、これがリカバーの魔法なのだよ〜」
魔法で傷が消えていく。
「それよりもフィーさん、見てごらんなさい」
ライトニングトラップを踏んで確かめるが如く氷の状態を確かめる人影が見える。
あ、平島と鷹見と雪切が落ちた‥‥
「とまあ、氷が薄い所に近づくとあのように悲惨な目にあうのですわ。フィーさんは、ああならないように気をつけるのですわよ」
「は〜い」
潤美夏はフィーの頭を撫でた。
「あの3人を呼んできてもらえますかしら。もうすぐ鍋ができますわ」
「うん」
フィーは駆け出した。
「ほれ、風邪をひかぬようにするのだぞ〜」
「どくたぁ、優しいね」
「けひゃひゃ、それ程でもないがね〜」
濡れた服を脱いで着替えたものの、震えの止まらない平島と鷹見と雪切が毛布に包まれて焚き火の前に現れた。
「この冷たさは洒落になってません‥‥」
平島と雪切は濡れた着物を脱いで絞ると焚き火の近くに枝を立てて、火にかざした。
「頭はちゃんと拭くのだぞぉ〜。風邪を引いてしまうからな〜。けひゃひゃ」
3人はドクターの言葉に従った。
さて、雪切はフレイムエリベイションをかけてみたが、努力と根性で冷え切った体が温まる訳もなく‥‥
「‥‥何やってるんだ、俺は‥‥」
雪切が溜め息をついていると、耳がポッと熱くなった。
ビックリして振り向いた先には、雪切の耳を押さえるフィーが‥‥
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ありがとう。少し温まったよ」
今度の溜め息は、優しく温かい‥‥気がする。
「ぶべしっ」
「汚いなぁ」
「あはは、すまねぇ」
鼻水を垂らした平島に、松浦がさりげなく手ぬぐいを渡した。
「あのオヤヂさんみたいな大人にだけはなっちゃいけませんよ」
「は〜い」
「そりゃねぇや」
平島が大笑いした。
「さぁ、できあがりましたわよ」
椀にできあがった鍋が潤美夏の手ずからよそわれていく。
「それでは」
『いただきます』
松浦の音戸で全員が声を合わせた。
「人は数えきれない程の命に支えられ生かされています。
ですから、他の命を取り込む食事は『貴方の命を頂きます』という意味で感謝して食べましょう」
「は〜い」
だが、皆がズズッと椀をすすり始めたのに、松浦はまだ口をつけていない。
「食べないの? もしかして嫌いな物が入ってたの?」
「違いますよ」
思い切って口に運ぶが、椀を置いて立ち上がるとハフハフ言いながら松浦は悶えた。
「あっつ‥‥ いくらなんでも熱いですよ」
「鍋は熱い物ですわ」
潤美夏は、しれっと言ってのけた。松浦の椀を最後によそっていたのは、誰も気が付いていないので潤美夏だけの秘密。
テントも張って、氷の状態も確かめて、腹ごしらえも済んだとなると、当然氷滑りを始めるに決まっている。
「どくたあもお姉ちゃんも一緒にやろうよ」
乗り気でないドクターと潤美夏もフィーに手を引かれて氷の上に連れて行かれてしまう。
「我が輩はこうゆうのは苦手だね〜」
へっぴり腰のドクターは、すぐに尻餅をついてしまった。
「あわわ‥‥」
顔から滑り込んだ潤美夏だが、髭が滑り止めになって止まるわけもなく‥‥ かなり滑り込んで、顔を真っ赤にしていた。
「下手だなぁ。2人とも」
フィーがふらつきながらもスイ〜っと氷を滑っていく。どうやら2人は遊び相手としては不足だったようである。
「元気ですわね」
潤美夏が滑りながら手を振るフィーに手を振り返している。
「そんなことより、きちんと拭いて温めないと霜焼けになるのだよ〜」
濡れたお尻を拭きながら、ドクターは焚き火の方へと歩いて行った。
「ありがとう‥‥」
ふと見ると、蓆(むしろ)を重ねて縄をつけただけの簡単なソリにフィーと緋月を乗せて平島が引っ張っている。
「元気ですわ。さて、夕飯の仕込みだけでもしておきましょうかしら」
潤美夏は乱れた髭を扱(しご)いて直すとドクターの後を追った。
薄氷を踏み分け(たのは一部の心配性たち‥‥)、辿り着いた社の島。一番喜んでいるのは緋月であった。
「かわいいのじゃ」
小さな社が、ちょこんと立っている。
「ここに神様がいるの?」
「そうじゃ。ここの神様は‥‥」
祭神がどうのこうのとフィーに説明しているが‥‥ フィーの頭上には『?』マークがいっぱい浮かんでいる。
「まずは、ちゃんとお参りしましょう」
松浦たちは作法に則って拍手を打った。
氷の張った湖面を見つめるフィーを見て、緋月は何かに気が付いた。
緋月がフィーの手を取る。
「氷滑り、教えてほしいのじゃ」
「いいよ。行こ」
「気をつけるんですよ」
「は〜い♪」
「わかったのじゃ」
フィーは緋月と一緒に湖面へと駆け出した。
「フフッ‥‥」
「どうしたんだ?」
思わず吹き出したコユキに鷹見が声をかける。
「成長するっていいもんやね」
「あぁ」
コユキが思い出し笑いした。
「それでは私たちも行きますか」
松浦の後を追って、鷹見たちは社を後にした。
コユキも一通り滑れるようになって、疲れ果てた平島がようやく開放されてからは、遊びは別の方向へと向かっていた。
氷の上で独楽(こま)。投げるのに失敗したら取りに行くのが大変だが、回り始めるとこれが結構楽しいらしい。
微妙な表面の凹凸(おうとつ)で独楽が跳ねるし、シャリシャリと地面で回すときとは音が違うのもまた楽しいみたいだ。
緋月とフィーは、大人がウンザリするくらい‥‥、かれこれ1刻近くも独楽を回し続けている。
「子供ってのは大変だ‥‥」
「そうですよ」
松浦は平島の肩を叩いた。
●曲者?
「誉おじちゃん、釣れた?」
「主などいるのかの?」
フィーと緋月は仲良く氷滑りをしているようである。
今にも転びそうになりながらコユキが後からついてきているが、若さゆえの順応性はフィーと緋月の方が上だったらしい。
お尻を擦りながら泣きそうな顔で追いかけてくる。
「釣れませんね」
松浦は笑顔で答えた。
さすがにこれだけ寒いと難しいようである。氷の割れたところへ釣り糸を垂れてみるが、中りはない。
「お兄ちゃんは?」
「俺もまだだね」
「釣れたら教えてね」
滑る方が楽しいらしく、フィーたちはツィ〜っと滑って行った。
「あ〜ん、待って〜」
半泣きのコユキが2人を追って行った。
「まあ、釣りの楽しさをわかれというのは、子供にはチョット難しいかな?
俺なんかは、針を下ろして待っている時間も好きなんだが‥‥」
「そうですね」
弱冠17歳なのにどことなく雰囲気のある雪切‥‥ 松浦は思わず笑みを浮かべていた。
「誉さん、あれ‥‥何でしょう」
雪切の指差す先には人影が‥‥
「行ってみましょう」
2人は立ち上がると湖岸へ向けて急いだ。
「えー、あれにおわすは、然(さ)るやんごとなき家柄の御令嬢。下手な奴にゃ近付けらんねぇんだ。
悪ぃけど今日のトコは引き取ってくれや、ホレホレ」
平島の声に男が振り向いた。
テントから大分離れたところへ人影が見えて来てみたのだが‥‥
「いけないな。物を捨てたりしちゃ‥‥」
鷹見の視線が今まさに続けて投げ込まれようとしていた物に釘付けになった。
動物の死体‥‥
「何をやってるんだ?」
「事と次第によらなくても容赦しないがな」
鷹見と平島は迷わず得物を抜いた。
「物騒だな。しまってくれよ」
男は少し後ずさりする。
「どうした!」
得物を抜いている2人を見て雪切も迷わずに日本刀を抜いた。滑って転ぶかもしれないが、仲間たちに合流するのが先決。
雪切と松浦は氷の上を滑るように走った。
「狐?」
松浦には氷に一瞬だけ男の姿が狐に映った気がした。
「なぜ、わかった‥‥」
男は更に後ずさって跳躍すると狐に変じてクルリと回って着地。一声鳴くと2頭の狐が現れた。
狐が逃げ出そうとして痛みに足を止めた。その太腿には風車が突き刺さっている。
追い討ちをかけるように別の狐は毛皮が赤く染まり、足を引き摺っている。
「逃がすわけにはいきませんわ」
潤美夏の日本刀からは血を滴っている。
「けひゃひゃひゃひゃ」
トマスの高笑いが響く。どうやらコアギュレイトが決まったようだ。
6対3‥‥ しかも狐たちは手負いのうえに1頭は動くこともままならない。しかも、3方から囲まれては勝機はなく、狐たちは必死に抵抗しようとしたが抵抗も空しく討たれた。
「フィーを狙ったわけではなさそうだが‥‥」
鷹見は呟いた‥‥
●温泉
寒〜い氷遊びの後は、温泉地の多い那須である。ということで‥‥
「平島さんはお酒禁止!」
「そんな殺生な〜」
鷹見に両手で無理やり顔を向けられて釘を刺された平島は、口を尖らせて不満一杯の顔をした。
が‥‥ その顔をクルンと回されて見えたものは‥‥
松浦たちの鋭い視線‥‥
「わかったよぅ」
平島は肩を落とすのだった。
さてさて‥‥
「星が綺麗だな」
雪切は1人で湯煙の中にいた。星空を見上げて溜め息‥‥ 雰囲気ありすぎである。
だが、そんなことを許してくれるフィーたちでもなく‥‥
「いた〜♪」
雪切は苦笑いを浮かべて諦めた。こうなることは予想できていたから‥‥