闇の光に照らされて 〜 前編 〜
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 88 C
参加人数:12人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月26日〜03月05日
リプレイ公開日:2005年03月10日
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●オープニング
整然と片付けられた屋敷の一角の部屋で、男は竹簡を広げていた。
様々な過去の物品や資料を集めては思いを馳せる。この男はそんな贅沢を許された世間一般で言う裕福な者たちの1人だ。
そこに記されていたのは、想像力豊かな者、あるいは極々庶民的な者であれば聞いたことのあるような昔話である。
『昔々、お姫様がおりました。
御簾越しの姿でも黒髪は艶やかで仕種(しぐさ)はそよ風の如く、近隣はおろか遠方からも一目見ようと男たちが集まるほど。
あまりの騒動に領主は警護の者を付け、姫を人目に触れないようにしました。
しかし、それでも来訪者はなくなりません。果ては、降って湧いたように輿入れの話までいくつも持ち上がる始末。
このままでは輿入れさせないと収まりそうにないと領主は思い悩みましたが、どこかに輿入れさせれば他から恨まれるのは必定。
姫はそんな父親を見て、ひどく心配するのでした。
神様、どうか父をお助けくださいと、ほんの少し外に出ることを許される夜に月に向かって祈るばかり。
そんな姫に静かに付き従う者がおりました。その者は、ずっと以前から警護の任についていた侍の1人。
その侍、姫に対して思慕の念を持っていましたが、分をわきまえて気持ちを抑えておりました。
互いに想いあっているとは気づきながらも気づかぬ振りをして‥‥
さて、暫くはかわし続けて来た求婚も、戦の火種となりそうになっては捨て置けず‥‥
姫が求婚者たちの中で最も勢力の強い男のもとへ輿入れすることが決まりそうになったときのことです。
姫と侍は手に手を取り合って何処かへと逃げたのです。
領主は2人を探しましたが、輿入れ先の男の配下の者まで領内を探し回る始末。
逃げ切ることはできないと誰もが思いました。
しかし、2人が見つかることはありませんでした。
月の神様が2人を逃がしてくださったのだとも、輿入れ先の男たちの配下が殺してしまったのだとも噂されました。
姫を失って領主は落胆に暮れましたが、どこかで幸せに暮らしているのだろうと切に信じました。
月からの使いとしても信じられている稲荷を奉じている神社があることを知った領主は、綺麗に整えて熱心に詣でたのでした』
内容はこんな感じ。
この男にとってもありふれた話と普通なら蔵の一画に放置される類(たぐい)の物であるが、そうはならなかった。
「これは‥‥」
どこかの地図のようである。地名も書いていないし、大雑把で特定は難しそうである。
だが、なぜこのような地図が付いていたのかには、興味をそそられた。
(「ギルドに依頼を出して調べさせよう」)
調べ様はある。調査は、戦闘と同じく冒険者の得意分野だからだ。人それぞれという話もあるが、それは置いといて‥‥
こういう雑多なことは彼らに任せるに限る。
男が手を叩いて人を呼ぶと、へぃと声が返ってきた。
●リプレイ本文
●秋村の場合
「へぇ‥‥ おとぎ話で一山当てようってか? たまにゃあ、そういうのも悪かねぇなぁ‥‥」
お宝なら上前をちょろまかすか‥‥と、秋村朱漸(ea3513)は心の中でほくそ笑んだ。
「何々‥‥ 行き場に困ったお姫さんとお侍さんは、月道を使ってどっか遠くへ逃げました‥‥ってか?
オイ? 分かり易過ぎんぞ‥‥ 舐めてんのかコラ」
突然きれた秋村に依頼人と仲間が驚くなか、更に皆を震撼させた。
「幾ら何でもこれだけじゃあなァ‥‥ 炙ったりしたら何かあったりしてな」
行灯の火で竹簡を炙り始めたのである。
仲間たちが慌ててに止めに入った。
「しゃあねぇな。まずはその月道か、そいつを奉ってるってぇ神社のどっちかを見つけねぇ事にゃあ‥‥ 話になんめぇ」
「どうするんだ?」
「月道っていや江戸城だろ。あそこに行って番人に直接聞いてみるわ。月道か『月』に縁のある神社が江戸にないかをな」
そう言って秋村は1人で江戸城へと発った。
さて‥‥
「源徳のおっちゃんがよ、月道が江戸のどこかにあるからって探してんだと」
ギルドでは話題になっているから誰でも知っているような情報なのだが‥‥
江戸城から何も言ってこないということは、どうやら問題は起こさなかったらしい‥‥
「これから宝探しだってのに泥棒に入られちゃあマズイだろ?
だからよ‥‥ こうして俺が番してやってんじゃねぇか‥‥ 感謝しろや」
そう言うなり秋村は依頼主の家で三食昼寝つきの居候生活に突入した。
依頼人としても適当にあしらっておいた方がいいと、それを黙認している。まぁ、依頼人がいい顔をしないのは当然だが‥‥
●浦部とルゥナーの場合
「精一杯がんばってやれるだけの事はやらせて頂きますわ。
情報を得るのに何から手をつけたほうがよいやら考えてしまいます‥‥
無駄に終ってしまうかもしれませんが、わたくしは昔話の中にもあった『月からの使いと信じられる稲荷がある』と記されている一文に注目して、そういう稲荷が実際に今でもあるかどうか調べることにします」
「それならば私も同道しよう。宮侍で江戸近郊の神社の宮司殿達とは多少の繋がりがあるからな。ルゥナー殿、宜しいか?」
「はい」
ルゥナー・ニエーバ(ea8846)と浦部椿(ea2011)は宮司への聞き込みに入った。
さて‥‥
宮司は神域に使える身。簡単に目通りが叶う相手ではないが、今回は宮侍の浦部が一緒である。
書状を認(したた)め、宮司から宮司へと紹介状を頼りに神社を渡り歩いて神社の縁起に詳しい者を捜し歩いた。
尤も、2人には馬があったために移動に関してそれ程に苦があったわけではない。
収穫はそう多くはなかったが、そのなかで気になったのが、ある宮司の話‥‥
「稲荷について聞きたいそうだが? 何を聞きたいのですかな」
「わたくしこういう昔話をお聞きし興味を持ちまして、実際にこのお話にある地方に行ってみたく、調べているのです」
ルゥナーは竹簡を宮司に渡した。宮司は、それを興味深げに読み始めた。
「それならば稲荷にも詳しいであろう宮司に聞くのが一番だろうと聞きまわっているのだ」
頷きながら、宮司はそれを読み進めていく。
「そうですか。稲荷や月の使いといったモノに関する言い伝えは、この江戸には沢山あるのです。
作り話なのか真実なのか、実際のところわかりませんが‥‥」
読み終えたところで顔を上げ、宮司は語った。
「江戸の稲荷に関しては統廃合されたり、移されたり、様々なのです。
元々、江戸は風水に基づいて作られたと言いますから、この町の下に神社址や遺跡なり眠っていてもおかしくはないのですが‥‥」
「この足元に‥‥か?」
浦部が自分の座っている下に視線を送った。
「えぇ‥‥ それこそ、江戸城の下にあってもおかしくはないでしょうね。掘り返すわけにはいかないでしょうが」
「はは、確かに」
ルゥナーたちは笑った。
「ただ、この地図に関しては私の知る限り、この辺りの物ではなさそうですね。
たしか、北の方‥‥ この辺りに土地神として稲荷を信奉している村があったとか」
宮司は、武蔵国の略図の上に指を滑らせた。
「助かりました」
ルゥナーと浦部は、丁寧に礼をすると宮司の許を発った。
●グラスとレダ、そしてリーゼの場合
「この竹簡は、どこで手に入れたのですか?」
「あ、それはうちも聞きたかったんや」
リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)の言葉にグラス・ライン(ea2480)は身を乗り出した。
「一山いくらで手に入れたものだからな‥‥」
「そうか」
依頼人の言葉にリーゼたちは肩を落とした。
「だが、持ち込んだ男を紹介することはできる。それで構わないか?」
「助かる」
リーゼたちは依頼人の好意に感謝した。
竹簡を売った男はあちこち行商しているため、所在は定かではなく、2手にわかれて探した方が効率がいいだろうとリーゼとは別に出発した。
グラスとレダ・シリウス(ea5930)はというと‥‥
「地図は未知なる月道を示すのじゃろうか?」
「そうならすごい発見やね」
驢馬でポックポックと街道を進んでいた。
「見つけれれば私達は金持ちじゃな‥‥ ン? 儲かるのは依頼主か? 惜しいのう」
「あのな、あの物語、似た話もあるやろ? やっぱりそういう話なんやろうか?」
「月から姫さんが来る話かや?
さしあたり未知の月道から現れてこちらで過ごした者が、あまりの騒ぎでこの地を離れるのに月道で旅立ったのが記録に残り物語になったんじゃろ。私の推測じゃがな」
竹簡を売った男を捜す道すがら、書き写した地図を見せて土地の者たちに聞き込みもしてみるが、土地から離れたことのない者が殆どで収穫はなかった。
「それにしても見つからないやね」
「そうじゃな」
驢馬はポックポック歩く。
「‥‥」
「もしかして‥‥ また迷ったのかの?」
「うん‥‥」
「少し休むとしよう」
2人は驢馬を繋ぐと手頃な石段に腰を下ろした。
ガサッ‥‥
振り向くと何かが動いた。
「逃げるのじゃ」
土塊(つちくれ)がバラバラと落ちて、その姿が露になった。何かの像か?
レダがサンレーザーを放ったが、表面を焦がしただけ。
「何じゃと!!」
何の像だろうか‥‥ 動物?
「早く逃げよ」
グラスはレダを掴むと驢馬を走らせた。
さて‥‥
リーゼは馬を使って竹簡を売った男の行方を追い、何とか会う事ができた。
「どこぞの庄屋が金に困ってましてな。目星をつけて蔵1つ、中身を幾らでなら売りますかって買うたもんですわ。
多少は値切ってやりましたが、結構掘り出しもんがありましたんや。
あの旦那さんに売ったのは、その中の一部ですわ。あんなガラクタ買うてくれるなんて神様みたいな人やわ」
まくし立てるように話す男にリーゼは苦笑いするしかなかった。
ただ、役に立ちそうな話もあったわけで‥‥
「それでどこの蔵ですか?」
「あ〜、行っても遅いで。洗いざらい儲けさせてもらいましたからな。何にも残ってませんがな」
「構いません。依頼で稲荷を探しているだけですから」
「そうか? ま、あの旦那さんは、えぇお客さんやしなぁ‥‥ 教えてあげましょ」
教えてもらった地名を書き留め、どの辺りなのか聞くとリーゼは仲間たちの許へ帰還した。
●鷹見とシュテファーニと桂春花の場合
「生まれは江戸なのかしら?」
「西国だが?」
「ということは、蔵の中身も西国から‥‥という訳ではないわよね?」
「あぁ。江戸は10年位前からに整ってきた町だ。親父が家財を纏めてそのころに移り住んで商売を始めたのさ。
先年死んでしまったが、親父の残してくれた店と財のお陰で、私はこうして贅沢を楽しませてもらっている。それが何か?」
「ありがとう。他の調べ方を考えないといけないわね」
どうやら蔵の中身は依頼人の家に代々伝わっている物ではないらしいとシュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)は首をすくめた。
細部は全然違うが、話の内容はジャパン各地にありふれた月道物語。やたらと地味に細かいので本当の話であった可能性は高い‥‥が。
伝承を集めるのが好きなシュテファーニだが、難しい書物を読むことができないために有名な話しか知らないというのが現状だ。
「神社同士ってのは別に商売敵ってワケじゃないから、同じく稲荷を奉じる神社であれば教えてくれるかもしれないな。
シュテファーニも一緒に行くか?」
桂春花(ea5944)と一緒に図書館や書庫を探す算段をつけていた鷹見仁(ea0204)が、シュテファーニを誘った。
「そうね。ジャパンの言葉に詳しい春花様が一緒なら調べ物もはかどるわ」
そうして3人は調査に出発した。
さて‥‥
ギルドで紹介を得た3人は『月の使い』や『稲荷』などの言葉を手掛かりに毎日のように情報を手繰っていたが、竹簡の写し1つではいかにも情報が少ない。図書館や書庫で出会った専門家たちにも意見を求めたが、その元となる情報の曖昧さが彼らに判断をつけるだけの材料を与えなかった。浦部の手筈で訪れた稲荷神社でも同様だった。
ただ日にちだけが過ぎてゆくなか、3人は夜になると気分転換と情報収集を兼ねて酒場を訪れていた。
「故郷にこういった話がある方はいませんか? 宜しければその故郷の話を聞かせてください」
シュテファーニの伴奏に合わせて、桂春花が竹簡の物語を歌った。
色々と情報は集まってくるが、それは3人がどこかで聞いたことあるような話ばかりだった。
「何をしているのです?」
桂春花に声をかけられて鷹見は筆を止めた。
「2人の絵を描いていたんだ。人絵師として美しい女性がいるのに書かない手はないだろう?
この依頼もね、昔話だから本人に会えるって事はないだろうが、ひょっとしたら子孫かもと思えるような人には会えるかもしれん。
そう考えると楽しくなってくるだろう?」
「そうね」
鷹見は微笑むと再び筆を走らせ始めた。
●虎魔の場合
「こりゃあ、また外れか?」
『月の使い』に関する昔話に類似する文献や書物がないか聞いて回った虎魔慶牙(ea7767)は、関わりがあるかもしれない怪しいと思った場所を片っ端から当たっていた。途中で仲間に出会ったりしつつ、これだというような情報には行き当たっていない。
まず、稲荷神社の数が多かったというのもある。それと同じくらい狐の伝説や伝承もあるわけで‥‥
仲間の代わりにあちこちに足を延ばした甲斐もなく、虎魔の苦労は報われなかった。
「ふぅむ‥‥ 難しいねぇ」
あちこち赴いた割りに何も手に入らないというのは精神的に結構辛い。
ましてや戦いの中に身を置き、体を動かすことを常としてきた虎魔にとっては‥‥
あまつさえ‥‥
「今回はついてねぇや」
寂れた古い村に向かっていた虎魔は、グラスとレダに出会い、行く先が外れだと知った。
そこへ行って憂さ晴らしに変な像をぶち壊しても良かったが、時間がかかれば依頼の期間内に依頼人に報告できなくなる。
仲間たちと合流するしかなかった。
●緋月の場合
「わかったのは古いということだけじゃ」
1人で力いっぱい頷くが、緋月柚那(ea6601)にわかったのは何もわからなかったということだけ。
‥‥と、本人は役に立ってないと思っているが実はそうでもない。
良く見なければ汚れか地図の一部にしか見えないが、消えかかっている文字に見えないことはなかった‥‥
竹簡に拘(こだわ)って穴が開くほど調査を続けた成果は着実にあったのである。
●発見!?
「この辺りを調べてみたらどうだろう?」
依頼の期日ギリギリで帰還したリーゼは、篭って調べ物をしていた仲間たちに調査結果を知らせた。
「竹簡に書かれていた消えかけている文字が、そう読めなくはないのじゃ」
緋月が竹簡の一部を指差した。
「浦部とルゥナーも北を調べてほしいって言ってたな」
鷹見は係員に頼んで武蔵国の北部の地図を出してもらった。
「街道とか目印の山とか川とかしか書いてないけど‥‥」
地名を探しながら地図を目で追う鷹見が1点を指差した。
さすがにこの何日か調べ物をして地図や地名に接する事が多かっただけあって鋭い。
「これなんか、それっぽくないか?」
「間違いないと思う」
リーゼは頷いた。竹簡の向きを少し変えて見比べてみると山の配置がよく似ている。
「どんなん? 見つかった?」
「疲れたのじゃ〜」
グッタリ半泣きのグラスとレダが帰ってきた。虎魔も一緒だ。
「リーゼが竹簡を売った男を見つけた。お陰で竹簡を入手した場所もわかったし、地図の場所も何とか目処がついたってところかな」
鷹見がグラスとレダに湯のみを渡した。
「どこ?」
「この辺りさ」
鷹見が指差した場所を見てグラスとレダが吹き出した。
「ここって‥‥」
「変な像に襲われた場所じゃな‥‥」
「でも、土地の人も持って行った地図の場所を知らなかったみたいやったよ」
「地図が古かったのじゃろう。それに人の踏み入らないような場所だったからのう」
「何の話?」
グラスとレダが2人で納得しているところへシュテファーニが割り込む。
「あ、ここに行ったんよ」
胸を張るグラスに鷹見は疑いの目を向けた。
「迷子になったんだろ?」
「あはは」
グラスは笑ってごまかした。
「そこへ行けば戦いになるのかぁ。クク」
虎魔が嬉しそうに笑った。上半身に力を入れながら歯をギュッと噛み締めて、フゥーと息を吐く。
頭と足を使った分、俺に暴れさせろとでも言いたそうに‥‥
「創り話なのか、はたまた実話なのか‥‥ 気になるのじゃ。そこ以外に当てがないのなら、行って調べるのが一番じゃ」
緋月の言うことも尤もであったが、依頼の期間から考えると行く時間もないだろう。
一行は、依頼人への調査の報告を済ませることにした。