闇の光に照らされて 〜 後編 〜

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 40 C

参加人数:12人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月27日〜04月02日

リプレイ公開日:2005年04月05日

●オープニング

「これが月道なら家康公にでも売り込んで大儲けなんだがな」
 整然と片付けられた屋敷の一角の部屋で、男は竹簡を広げていた。
 冒険者たちは意外に役に立ってくれた。あんな得体の知れない情報だけで、それらしい場所を見つけてきてくれたのだ。
 依頼人の男は彼らの報告を自分なりに吟味してみたが、動く石像があったというのには心惹かれるものがあった。
 彼の経験からも同好の士からの伝聞からも、神域や埋蔵品の守護者としてそのような石像が置かれていることが多いからである。
 外れて当然のこの嗜好において、夢見ることは至上の楽しみである。

 果たして‥‥
 古代の金銀財宝が眠るのか‥‥
 封じられた宝具が現れるのか‥‥
 月道のような遺跡が眠るのか‥‥
 はたまた‥‥

 余程がめつくなければ、彼のような嗜好を持つ者たちにとって、これらの探索は所詮は道楽、娯楽でしかない。
 あるとはわからぬものに仲間を出し抜いてまで狂奔するほど何かに切羽詰っているわけではないのだ。
 気のある友人たちとの茶飲み話のネタにでもなればそれで十分なのだから。
 実際に行って体験するなど愚の骨頂。
 探索をした者たちが持ち帰った物をああでもないこうでもないと想像することに意義があると考えている者も少なくない。
 大抵の場合、その過程の大変な部分など彼には必要ないのだ。
 だからこそ、冒険者たちの出番があると言えた。
「仲間たちとも十分に楽しんだしな。そろそろ冒険者たちを調べに行かせるとしよう」
 男が手を叩いて人を呼ぶと、へぃと声が返ってきた。

●今回の参加者

 ea2011 浦部 椿(34歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2480 グラス・ライン(13歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea2605 シュテファーニ・ベルンシュタイン(19歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3546 風御 凪(31歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5930 レダ・シリウス(20歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea5944 桂 春花(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea6601 緋月 柚那(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea8257 久留間 兵庫(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8846 ルゥナー・ニエーバ(26歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

逢莉笛 舞(ea6780)/ レヴィン・グリーン(eb0939

●リプレイ本文

●出発
 依頼人の家に集合した冒険者たちは、それぞれの役割の元に各地へと散っていった。
 ‥‥と、その前に。
「旦那旦那‥‥ ちょっとちょっと‥‥」
「今度は寝ていられないぞ」
 依頼人の嫌味にも秋村朱漸(ea3513)はどこ吹く風。
「あのさ‥‥ マジで月道でも見つかってみろよ? ガッポリ馬鹿みてぇに儲かんのは旦那と源徳のオッサンだけじゃねぇか?
 小間使いの俺らだって一応は命張ってんだぜ? だからよ。そん時ゃ多少は色付けてくれても良いんじゃねぇの?
 な? こっちは生活かかってんだ。頼むよ‥‥」
 手を合わせて懇願する秋村に依頼人は呆れ顔だ。
「月道が見つかれば‥‥な」
 怪訝そうな依頼人から約束を取り付けると、秋村は嬉々として仲間たちの後を追った。
「あの浪人‥‥ どうやって月道を見つけようというのだろう?」
 依頼人は首を振ると、箱の中から古びた木板を取り出して眺め始めた。

●宿
 待ち合わせの印である宿の軒先に吊るした傘を見つけた浦部椿(ea2011)たちは、その宿に入った。
「あ、今着いたん?」
 グラス・ライン(ea2480)らが、浦部たちの後ろから現れた。
「すぐわかりました?」
「おぅ、割と目立つからな」
 桂春花(ea5944)の問いに虎魔慶牙(ea7767)がニカッと笑った。
「場所の当たりはつけといたぜ。まだ、な〜んもしてねぇけどな。
 雨で少し流れたみたいでよ。この前、出会ったっていう2つの動く石像は、お稲荷さんだったってのは見てきたぜ」
「ほぅ‥‥」
 秋村の報告に仲間たちは意外そうな顔をした。
(「今んとこ目ぼしいもんはなかったけどな」)
 秋村は、やるときはやるんだぜ、みたいな顔をしている。
「近寄ったら像が動き出したのじゃ。だから帰ってきたのじゃ。それにしても何を護っておるのじゃろうな。楽しみじゃ♪」
 レダ・シリウス(ea5930)が、リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)の肩越しに飛びながら姿を現す。
「土砂に埋まっていたらしく村の人は何も知らなかったな。
 この地に稲荷を祭った場所があったらしいことくらいは口伝で聞く事ができたが、それ以上は‥‥
 行って詳しく調べるしかないみたいだ」
 リーゼたちが村の長老などから聞き込んできた情報によると、件(くだん)の場所のあたりは経緯こそわからなかったものの、立ち入らぬように口伝の残っていた場所らしい。過去に特に事件らしい事件もなく‥‥
 さて、時間が無駄にならないように先発組と後発組に分かれての江戸と現地で情報確認をしたのだが、思ったよりも情報はない。
 それだけ古いのだろうと浦部が話を聞きに行った宮司は話していた。
 移転や統廃合された稲荷に関しては、纏められた資料がないために詳しくどうなっているのか調べた者はいないとも言っていた。
 狛犬の代わりに動石像の稲荷が神域を護る社‥‥
 特殊な社であり、調べれば成果が得られる可能性は高いとも言っていたが、そこに辿り着くには少々時間が足りないようだった。無論、空振りの可能性もあったが‥‥ 現物らしき場所がある以上、そこを調べてからの方が早いだろうと言われていた。
「稲荷が何かを護っているなら、依頼人が満足するような物が埋まっているといいのだが」
 久留間兵庫(ea8257)は思い浮かべるように宝を想像した。
「そうよね。何かありそうな気はするけど‥‥ 期待しすぎると後でガッカリするわよ」
 空からレダと2人で探索に行ったシュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)は稲荷像以外に怪しい物はなかったと報告した。
「八百万の神々が関わることなら歓迎なのじゃ。是非とも調査したいのじゃ〜‥‥」
 まだ見ぬ遺跡だというのに緋月柚那(ea6601)の心は高鳴って仕方ない。
「江戸の風水とかに関係あるのかと思って調べてみたけど、関係があるかはわからなかったです。
 那須と関係あるかと思ったんですが‥‥
 まぁ、原点に返ることが必要なのでしょうね。何にせよ、頭を冷やして情報を整理しなければ」
 1人で先走りしすぎたかと風御凪(ea3546)は照れ笑いを浮かべて頭を掻いた。
 手伝ってもらった知り合いにも悪かったかなと少し反省しつつ‥‥
 ともあれ、これら様々な調査は無駄にはならないだろう。想定していた20年よりも古すぎて調べようがない部分もあるのだから、必要だと思った情報が集まらなかったのは仕方ないだろう‥‥
「竹簡に書かれてあった場所なら月に関係する神様が祭ってあるかも知れないのじゃ。
 長老様も調べて良いと言っていたし、早く探しに行くのじゃ」
 前回の調査であれだけ読み込んだのである。文句は忘れずに一言一句違わず緋月の頭に入っていた。それが本当にあったことなのか確かめたくてしょうがないのである。
「ようやく昔話の真相に近づけるかもしれないのですから、まずは過程を楽しみましょう。 依頼人様が納得できるだけの成果があがれば、なおいいということで‥‥」
 皆をルゥナー・ニエーバ(ea8846)が諭した。
 早く荷物を解いてこいと興奮する緋月に急かされるように、一行は宿に入っていった。

●発掘
 さてさて、現地を訪れた一行を待ち受けていたのは動石像の熱〜い歓迎。掘り出す予定の階段の辺りへ近づくには、どうしてもこれらを除かなければならなかった。
 ちょこんと座っていた2体と半ば埋まっていたうちの1体が動き始める。
「任せとけ。それは俺の仕事だ」
 以前、埴輪と戦ってどうしようもなかった経験を活かして金槌持参の秋村。柄を肩で担ぐと仲間たちの前に出る。
 ごとり、ごとりと跳ねるような仕草で近づいてくる石像に秋村は容赦なく一撃を加えた。
 がき〜ん!
 火花を散らして動石像の一部が砕ける。
「いけるな」
 手ごたえを感じた秋村は金槌を構えなおす。
 浦部は、鞘ごと構えた日本刀を重さを載せるように振ると、ソードボンバーの衝撃波で叩(はた)いた。
「駄目か‥‥ だが、」
 目くらましにはなると、続けて衝撃波を放つ。
「これで!」
 大きく振りかぶった風御の槌が動石像に亀裂を走らせ、前足が割れ落ちた。
 動石像の動きは、それほど鋭くはない。苦戦するほどではないだろう。
 とはいえ油断は禁物。
「くっそぉ! タメになったぜ。武器がマズいんだな」
 勢い良く振り下ろされた虎魔の斬馬刀が、火花を散らせて稲荷像の表面を滑った。
「さぁ、片付けてしまおう」
 オーラパワーを付与したリーゼの槌が、秋村に手傷を負わせた稲荷像に中り、ビシッと表面が剥離した。

「残せるなら残しておきたかったのだがな‥‥」
「仕方ありませんよ」
 久留間の槌と桂春花のディストロイで更にヒビが入る。
「いい汗かきました」
 激しく振り下ろしたルゥナーの一撃で最後の稲荷像が動きを止めた。
 レダのサンレーザーとシュテファーニのシャドウボムでは傷つけるほどの威力がなかったのは置いといて‥‥
 浦部と虎魔が1体ずつ惹きつけて受けに回ったこともあって比較的楽に稲荷像を倒すことができた。
「槌のお陰で意外に簡単やったね」
 グラスが感心して言った。それよりもリカバー3人体制の方が特殊だと言えるのだが‥‥
「俺の出番がないや」
 とりあえず水筒に入れた水で傷口を洗い、後はグラスと緋月とルゥナーに任せた。
 リカバーで回復したお陰で負傷者はナシ。発掘に支障が出ることはなかった。
「怪しい者は見当たらなかったわ。黒幕みたいなのはいない感じね」
 魔法が効き目がないとわかるや上空へと離脱していたシュテファーニとレダが高度を下げてきた。
「改めて気がついたのだが、こんな感じになっていそうな気がするのじゃ」
 レダは、地面に見取り図を描き始めた。
「埋まっていた土砂が流れて稲荷像とか階段が現れたんですよね‥‥ だとするとこの辺が怪しいってことになるんでしょうか?」
 稲荷像の位置、少しだけ姿を見せている階段、周囲の地形‥‥
 風御は何となく境内のようなものを想像しながら書いた。
「あり得ますね」
 桂春花は頷いた。
「うちならこういう感じじゃ」
 ジャパンの神社仏閣への造詣なら緋月の方が少し上である。だからこそ多少の信憑性があった。
「とりあえず、階段を掘り出して、後はこれを元に掘り出してみよう」
「そうだな。傷つけないように気をつけてな」
 リーゼや久留間たちは、村人たちに借りた農具で下草を刈り込んで、流れた土砂共々取り除きに掛かった。
 ここで役に立たねばと、虎魔は若く逞しい体に汗をかいて岩などを取り除き始めた。
「ふわぁ‥‥ 」
 仲間たちの諦めの視線を物ともせず、秋村は適当に探索している。
 げし‥‥
 小さな稲荷の頭を蹴るとパキリと取れてしまった。
「秋村さんは休んでてください。入用になったら呼びますから‥‥」
 いつ敵が現れてもいいように槌を構えて護衛についていた風御は大きく溜め息をついた。
「じゃ、その時呼んでくれよ」
 秋山は適当な場所を見つけて昼寝の体勢に入ってしまった。
 ルゥナーと桂春花は呆れながらも稼動する稲荷像がないか、周囲に目を光らせ始めた。

●封印
 一行が掘り始めて随分時間が経つ‥‥
 緋月を中心に色々と予想しつつ当たりをつけて掘り始めたのはいいのだが、如何せん時間がない。
 帰還の時間を入れると今日が発掘できる最後の日‥‥ ここに来て、ようやく目ぼしいものに辿り着いた。
「これ、使うだろ? 先頭に立ってやるよ」
 何だろうとワイワイやっていたグラスたちを掻き分けて秋村が扉の前に立った。
「明かりとは用意がいいな」
「へ、抜かりはねぇよ」
 リーゼの苦笑いなど完全無視。しかし、秋村は意外と細かいところに気が回るし、役に立つ男だった。
 根っこにあるのは、儲かって自分が楽しければいいという、ただそれだけだったが‥‥
 兎も角、秋村たちは扉岩のような物を除(の)けることにした。グラスのかけたウォールホールが効果を現さなかったからである。
 事実から推測すると何か魔法的な物であると言え、一行の期待も深まる。
「うちが持てそうなもんがいいな。装飾品とか? 依頼人に見せて、うち貰えへんやろかな?」
 グラスの瞳がキラ〜ンと輝く。
「ちょっと待って‥‥ 月のエレメントの声だって」
 怪しい声を聞いてサウンドワードをかけたシュテファーニが扉のような石の奥に耳を澄ます。
「確かに何か聞こえるのじゃ」
 何と言っているのかまでは聞き取れないが、レダの耳にもしっかりと届いている。
「隠し部屋とかあるのかな?」
 風御はコンコンと壁を叩いて回った。すると、1ヶ所だけ音が違う気がした。
 久留間や虎魔が力を加えると僅かにずれた。
「追われ追われて逃げ込んだものの‥‥」
「出られなくなって、はや幾年‥‥」
 地面近くからかすかに黄色く光る滴のような物がフワリフワリと漂い、声がした。
「添い遂げることはできたけど‥‥」
「待っていたのは悲しき定め‥‥」
 地上へと流れるように飛んで行く2つの物体を一行は追いかけると、暗くなり始めていた空に浮かぶ月に吸い込まれるように消えた。
 扉の奥へ入ると、そこには2体分の骨が寄り添うようにしており、それぞれに死者を悼んだ。
「ここは忘れられた社だと思うから、きちんと手入れをしてやり、再び誰かが訪れるようにしたいね」
 リーゼは亡き2人の骨を見つめると目を閉じた。
「うむ、社がこのように今日まで放置されてきたとは、なんとバチあたりなことを‥‥
 それに2人をこのままにはしておけぬのじゃ‥‥」
 緋月は仲間を集めてある提案をすると、遅い時間になってしまったもののそのまま長老の家に押しかけた。

●帰還
「かしこみ、かしこみ申す〜〜‥‥」
 緋月の祝詞にシュテファーニの演奏にレダの神楽舞、宮侍の浦部や僧のグラスや桂春花たちも形式を手伝って稲荷の遺跡で簡単な神事が行われ、長老など村人はここを整えることを約束してくれた。
 とはいえ、動石像が眠っていたことや魔力を帯びていたことなど普通の遺跡ではないので調査を行った後に委ねられることになっているのだが‥‥

 さて‥‥
 狛犬の破片などを持ち帰り、冒険者たちは何があったのか依頼人に話した。
「何とも興味の尽きぬ話ですな〜‥‥」
 依頼人は欠片を繁々と見つめて、聞かされた話を思い返しているようである。
「おぉ、書き留めておかねば‥‥」
 見つかった遺跡の位置や経緯、そこでの出来事などかなり細かく覚え書に書き加えると新しい箱の中に大切に入れた。