●リプレイ本文
●依頼人困る
「社を守る狐の動石像、魔力を以って封をする理由‥‥ 何かが引っ掛る。
稲荷であれば、社の守護を犬ではなく狐がするは別段珍しい話ではないのだが‥‥
岩戸を魔力で封じ、その奥にも守護者がいるやも知れぬでは厳重にも程はあるまいか?」
宮侍である浦部椿(ea2011)は、件の社に対して疑問を払拭しきれずにいた。
「そも、『月の使いを奉る稲荷』を整え詣でたるは領主なのだから、その稲荷に2人の遺体があると言うのもな‥‥
単に見つけられなかっただけかも知れないが‥‥引っ掛る。
伝承の社とこの社は『似て非なるモノ』だとしたら‥‥」
「まぁ、言いたいことはわかりますがね」
依頼人が困った表情を浮かべている。
「狐の資料と言ったら那須支局だ。
何処まで文献が収集整理されたかは分からぬが‥‥行って調べるだけの価値はあろう。
伝承では何処の領主かまでは言及してなかった筈だからな。
古い文献から順繰りに調べて九尾に繋がれば金星だがな。空振りになる可能性も大か‥‥」
「月道を開く術の期日には絶対に間に合わないし、調べる時間は1日。頑張っても2日がいいとこだぞ?」
「依頼人の意向とはかなり隔たる行動になってしまうが‥‥ どうしても気になるのだ。御容赦願いたい。
依頼の不履行と言われても仕方がないだろうからな。報酬は要らぬし違約金を払えと仰せとあらばソレに従おう」
「いいでしょう。1人抜けても問題なく依頼を達成するという自信が他の方にあれば、この場は文句を言いません。
しかし、依頼に失敗したらあなたたちが何故失敗したのかギルドに報告しますよ? それで構いませんね?」
冒険者たちはそれを容認した。
「それよりな。あの遺体、あの物語の元になった人なんやろうか‥‥
なんでかな? しっくりこんのは‥‥
あの物語が予想通りなら月道通ってハッピーエンドの筈やったからかな?
そうや、月道と知って来たのなら何故移動できずに埋まってたんやろうか。
遺骨には何らかの痕跡はなかったんかな? 矢傷や刀傷みたいにな」
「ハッピーエンド?」
「めでたしめでたしってことや」
「成る程‥‥ 傷らしきものはなかったように思うがな。
あの2人は奥まで辿り着けなかった。そう考えなければ私だって依頼なんかしない」
「そうやね」
グラス・ライン(ea2480)は依頼人の意見に頷いた。
「ところで、その2人の遺骨はどうするんだ? 俺としては領主の墓の側にでも葬ってやりたいが‥‥」
「2人の墓を遺跡の近くに作ろうという話になっている。領主に関してはわからないな」
「時間があれば探してみるか‥‥」
久留間兵庫(ea8257)は思案をめぐらせ、仲間たちを見た。
「忘れられた稲荷‥‥ 守護する石像。いやな感じがします‥‥
稲荷の狐とは本来『穀物などを食べる鼠などを襲って食べる狐を崇めたもの』と聞いています。
もし崇めていた狐様が妖怪になったものなどが封じられていたのなら大変です‥‥」
桂春花(ea5944)も浦部と同じく妙な不安を感じていた‥‥
●遺跡・石造りの部屋
「上から除いてみたのじゃが、特徴のあるものはなかったの」
「こちらも駄目だ。外側には封印とか結界とかそんなものを示す痕跡はなかった。中に入らないと始まらないみたいだな」
外部から探索していたレダ・シリウス(ea5930)や久留間が件の部屋の前に帰ってきた。
「まだ人間を長距離飛ばせるという『月道』なるものを見た事がないので、ここが月道だと嬉しいのですが‥‥」
三笠明信(ea1628)は光を放っている穴に向かって目を凝らしている。太陽のような光というのは現在見ることはできない。
時折チカチカと稲妻のような光源が穴の向こうを漂っているようだということがわかるだけである。
物音は時折何かの唸りが聞こえることもあるが、明かりを照らしてみても目の届く範囲では何もわからなかった。
それ以外に何もわからないため、考えうるだけ準備をして入ってみようという方向に意見は纏まっている。
「例えば月の精霊でもおってな、その子の影響で半永久的な月の結界が張られてるとかな。
灯と結界を別物と考えたらこんな感じなんやけどな」
「でもぉ‥‥ 月の精霊ならお天道様のような光というのは‥‥」
グラス・ライン(ea2480)の考えに同行した陰陽師が小声で口を挟んだ。
「風に聞いてみたけど無理やった。遺体のこととかも聞きたかったんやけど散々人が出入りしとったしな‥‥」
あくまで仮定でありグラスは自分の考えを断定できずにいた。
「それにしても、なんともワクワクしますわね。こう新たな一瞬に立ち会えるかもしれないっていうのは‥‥」
ルゥナー・ニエーバ(ea8846)は槌を構えた。いつ守護者に会うかわからない以上、油断は禁物だ。
「部屋には何もないようですね。わたくしたちに何かあったら頼みます」
三笠は身代わり人形を片手にゴクリと唾を飲んだ。
入り口で調査に躓くような事態だけは避けなければ用意をした意味がない。
「月道かも知れないと‥‥夢がありますけれど、さっぱり正体がわからないのは困りものですわね」
シュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)も突入組の1人だ。
現状で危険があるのは痛みを伴った太陽のような光だけ。
精神的な何かであった場合、彼女のようにレジストメンタルを唱えた者が同行することに意味があった。
ただし、精神的な仕掛けでなかった場合、かなりの危険が伴うのだが、ここまできて四の五の言ってられない。
後続の仲間が何とかしてくれると信じて行動を起こすしかないと信じるしかなかった。
「痛たた‥‥ 眩しくてよく確認できませんでしたけど、部屋の中には何もいなかったようですわ。
光が近寄ってきてバチッと痺れるような痛いような痛みがするんですの」
慌てて戻ってきたシュテファーニにルゥナーがリカバーをかけた。
部屋の中では三笠や久留間が刀を振り回している。
「手ごたえあり!」
久留間が叫ぶ。2人にぶつかるように飛んでいた光球の動きが鈍くなった。
「そこか」
それを機に三笠が振るった霞刀も光球を捉えた。
光球はそのまま部屋の奥へと消えていった。
「あの〜、陰陽道の陽の術に天道の如き輝きにて光にて相手を眩ますというものが‥‥あります。
それに‥‥ 天道信仰の中には雷光の如き燐光と呼ばれる陽の精霊を奉るものもあるそうで‥‥」
「それが今の光の球。そういう精霊には陽の魔法を使う者がいるということじゃな?」
ピンと来たレダが溜め息をついた。
「そうなんじゃないかな? とは思っていたのですが、話に入っていけなくて‥‥」
陰陽師はビビリ気味である。まぁ、江戸で1目置かれるような冒険者たちの中に放り込まれたら‥‥
「まぁいい。これからは気づいたことは、ちゃんと教えてくれよ」
久留間は視界の中のぼやけた部分がまだ取れなくて目をパチパチさせている。
「風の流れはないようじゃ。どこかへ繋がっとるということはなさそうじゃ」
レダはペロリと指を舐めると色んな方向に向けてみた。どこかへ向かって空気が流れているということはなさそうだ。
「ここは奥に続くこの入り口のための部屋みたいやね。この奥は、あんなんが沢山おるんやろうか?」
「進んでみるしかありませんね」
恐る恐る奥を覗くグラスの肩を、大きく息を吸い込んで気合を入れた三笠が軽く叩いた。
「そうネ。進むしかないヨ。そして確かめル。
もしかしたら未知の月道かもしれないなんてドキドキするネ。
ここにあるのが月道のようなものなら私なら隠したいと思うネ。自分たちが使えない。それもったいないヨ。
それから、こんな事はないと思うけどネ‥‥
ここのところ物騒な封印や魔物の話も聞くカラにその対処も必要ネ。
そんな相手には大抵魔法の武器しか効かないヨ。そうなると私は無力なのが問題ネ」
羽鈴(ea8531)は苦笑いで肩を落としてみせた。
天井や壁や床、石組みに至るまで慎重に調べたが、特別な物などは一切ない。
とすれば、眼前にある間口から奥へ入るしかない‥‥
「さすがにこれは予想してなかったですね」
何らかの仕掛けがあると予測していた桂春花たちにとって、ちょっと拍子抜けである。
「明かりは必要ないな‥‥」
リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)は見渡して呟いた。
地下空洞は逃げ込んだ光球のせいで明るい。
壁面や床は天然の岩で人工物という気配ではなく、比較的平らになっている空洞最深部まで岩でできている。
「守護者は出てこなかったですね」
「拍子抜けだけど‥‥」
三笠やリーゼが予想していたものとは完全に違っていた。
「油断は禁物ヨ」
羽鈴はあちこち見渡したが、怪しい物は何もない‥‥
「これが結界ならあの岩に紋が刻んであるか呪符でも張ってあるのかも‥‥」
リーゼが最深部の岩の塊に近づいた瞬間、バクッと真っ赤な口が開いた。
心の準備をしていたとはいえ咄嗟のことで反応できずに噛み付かれたリーゼは、壁に叩きつけられた。
●岩の大蛇
岩の塊は鎌首をもたげると冒険者たちにギョロリとした目を向けた。
何が起こったのか寸暇において思考が停止する。
「危ない!」
桂春花が叫ぶより早く岩の塊が光を放ち、冒険者たちの体が宙に浮いた。
一気に天井に叩きつけられ、岩肌に落ちる。
「な、何だ‥‥こいつは‥‥」
三笠が腕をついて体を起こす。
久留間たちも、それぞれに額からは血を流していたり腕を押さえている。
それにしても比較的前衛に近い位置にいたルゥナーが傷を負ったのが痛い。
後衛のグラスたちがくらっていたらただではすまなかっただろう。
リーゼの槌が岩の大蛇の肌を叩くが、構わず大蛇は身をくねらせた。リーゼは危ういところで逃れて下がる。
後方ではグラスがリカバーを唱え始めている。
「私が惹きつけるネ。そのうちに態勢立て直ス」
羽鈴が傷ついた体を鞭打って十二形意拳・龍の構えをとった。
初手で手痛い出血を強いられた冒険者たちも、羽鈴が大蛇を退きつけてくれたお陰で暫時体勢を立て直すことができた。
「奥に何かありますわ」
シュテファーニは天井すれすれに舞い上がった。
岩の大蛇の後ろ、空洞の奥には壁画のようなものと刀と鎧が見えた。
予断は許さない状況だ。岩の大蛇が暴れるたびに地下空洞は崩落している。
落下してくる岩にぶつかりそうになって、シュテファーニは慌てて仲間の側に飛んでいった。
「危ないわ。天井が崩れそう」
「もうだめだってくらいまでは戦うさ。こいつと同じような敵と戦ったことがある。任せろ!」
虎魔慶牙(ea7767)は愛用の斬馬刀で岩の大蛇に斬りかかった。
「いけるじゃねぇか!!」
相手が岩なら出番はないと言われたが、以前戦ったあの岩の大蛇と同じものなら斬馬刀で傷つけることができる。
オーラパワーを付与してもらった斬馬刀は確実に大蛇を切り裂いていた。
着流しの上から羽織った護身羽織が降ってきた小石を弾く。
「わくわくするねぇ! こんな依頼で、こんな大物に出会えるなんてさ!!」
暴れる度に地下空洞が崩落しているのを見てわかるように岩の大蛇が体を動かす空間は殆どない。
「うらぁああ」
虎魔は思い切り振りかぶって斬馬刀を叩き付けた。
岩の大蛇の体がバックリ切り裂かれる。
この1撃でどうやら動きを止めたようである。岩の大蛇は大地に染み入るように消えていった‥‥
「虎魔さん、強くて頼りになる人。弟の雪嶺から聞いてた通りネ」
羽鈴は息を整えながら壁にもたれかかった。膝が笑っている。
「あいつの姉貴かぁ。それだけ傷を負ってて、大蛇の1撃をあれだけ避けられるってのは凄いぜ」
「そうカ? ハンターの依頼は危険ネ。強い人は心強イ。弟をよろしくネ」
虎魔と羽鈴は笑った。
●月道探索
「綺麗に晴れたのじゃ。月も真上くらいに来ておる」
レダはウェザーコントロールをかけると急いで地下空洞に戻った。
月道の魔法などそうそう見られるわけではないからには、見逃すわけにはいかなかった。
パラリと土や砂が降った。
邪魔が入らないように一行は周囲を警戒しながら、壁画の前では陰陽師がムーンロードを詠唱している。
陰陽師の体が銀色の光を放つが、周囲に何も変化はない。
「月道ではないようです」
陰陽師が残念そうに言った。
「なんじゃ‥‥」
レダがガッカリしたように肩を落とした。
数回唱えてみるが結果は同じ。
「ということは‥‥ この遺跡が守っていたのは、あの壁画と太刀と異国風の鎧ですの?」
ルゥナーは壁画を見上げた。
パラパラ‥‥
「崩れますわ! 逃げて!!」
シュテファーニが叫ぶのと同時にバラバラと小石が降ってきた。
一行は慌てて太刀と鎧だけを掴むと、出口を目指して走った。
全員が遺跡の部屋に出たところで背後の壁が崩れ落ちた。
「危なかったのう」
レダは溜め息をついた。
念のために入り口につっかえ棒をしていなかったら、全員脱出はできなかっただろう。
●調査結果
結局のところ、那須支局での調査は失敗に終わった。
勿論、真実に辿り着いたのか辿り着けなかったのかはわからない。
調査期間が短すぎることもあるのだが、少なくとも九尾という括りでは何の情報も得られなかった。
遺跡がある以上は何らかの意図を以って作られたのであろうが、地下空洞に狐に関する痕跡はなかったことは確かである‥‥
ただし、遺跡の調査を行った本隊は結果を持ちかえっていた。
地下空洞で冒険者が薄れた武者の壁画を見たこと‥‥
錆びてボロボロになった太刀と異国の鎧を持ち帰ったこと‥‥
月道ではなかったこと‥‥
壁画に関しては岩の大蛇との戦いによって崩落し、地下空洞のかなりの部分が埋没してしまったために最早確認しようがない。
しかし、太刀と鎧に関しては何とか持ち出すことに成功して、依頼人から追加報酬を得ていた。
依頼人は、いたく気に入ったようで腕のいい職人に頼んで綺麗にしてもらったようだ。
実用には既に耐えないが、造りや発見時の状況からおそらく魔法の品であったのではなかろうかという話だった。
何か由来か銘のようなものが刻まれているようだが、腐食や破損によって特定するには至っていない。
月道でなかったことに関しては依頼人はそんなものだろうとあまり気にはしていない様子だ。
「あれだけの大物が護っていたのだ。きっと曰く付きの物に違いない‥‥」
過去の遺物を手に入れることができたのが何より嬉しいらしく太刀と鎧を繁々と眺め、好事家の仲間と過去の経緯について様々に夢のある話を語り合っているようである‥‥