おねがい! 砂霊どん 2

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月11日〜07月17日

リプレイ公開日:2005年07月19日

●オープニング

 ここは江戸から徒歩1日ちょっとくらいの郊外‥‥
「いるわけないだろ、千鶴」
「そうよ。サレイドンなんて聞いたこともない」
 少年と少女が女の子を前に困った表情で眉を顰めている。
「千松にいちゃん、亀ねえちゃん‥‥」
 女の子は必死になって訴えるが、千松と亀はしょうがないと首を振る。
「いるもん‥‥ ほんとにいるもん‥‥」
 ついに立ち竦むように肩を落とす千鶴の頬にはダバッと涙が伝い、鼻水と一緒に顔を濡らしている。
 千松と亀が、あ〜あと溜め息をついていると‥‥
「おいおい、こんな小さな子を泣かせちゃ可哀想だろう? お譲ちゃん、その話、おじさんは信じるよ。詳しく話してごらん」
「ほんとぉ?」
「ホントだとも。おじさん、そういう話好きなんだ」
 えぐっと鼻を啜り、千鶴が切れ切れに話し始めるのを旅姿の男は涙と鼻水を拭いてやりながら辛抱強く聞いている。
「へぇ、サイレドンか‥‥」
 逆光でよく見えなかったが、男が一瞬ニヤッと笑ったように見えた。
「よ、用事があるから俺たち帰るね」
「ちょっと、兄さん!」
 それでも不穏な空気を感じ取った千松が千鶴を抱えるように走り去り、亀が慌てて追いかけていった。
「少し‥‥ 調べてみる価値はありそうだな」
 男はスッと立ち上がるとその場を立ち去った。

 ※  ※  ※

「ふむふむ、今日も綺麗じゃ。満足満足」
 褐色というよりは山吹色に近い肌の色をした小太りの子供のような物体が腰に手を当てて、満足そうな笑みを浮かべながら砂浜を見渡している。
 そう、これが噂の砂霊どん。そのことは一部の冒険者たちの秘密であるが‥‥
 砂浜へ立ち入ろうとしている男の姿を見つけ、いち早く身を潜めると砂霊どんは男を覗き見ている。
「綺麗な砂浜だが‥‥ こんなちっぽけな浜に何でも願いを叶えてくれるサレイドンなんてホントにいるのかね」
 砂を掬って指の合間から零れ落ちるのを見ながら、旅姿の男は独りごちている。
「駄目元で探してみるかぁ」
 男はキョロキョロ見渡しながら辺りを見渡すが、気持ち良いくらいに綺麗な浜以外何もない。
 やがて、男は諦めて帰っていった。

 ※  ※  ※

「おぅ、お前さん、丁度いいとこに。願いを叶えてくれる精霊に新情報だ」
 ギルドの親仁が依頼の書かれた掲示板の前に足を止める冒険者を呼び止めた。
「願いを叶えてくれる精霊の伝承が伝わる村でサレイドンとかいう変な生き物の話を旅の人が聞きつけてきたってな。
 この前の依頼人から調査が不十分だったかもしれないから念のためにもう一度調べてくれないかってな。勿論やるだろ?」
 さて、どうする?

●今回の参加者

 ea6144 田原 右之助(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0139 慧斗 萌(15歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1755 鶴来 五郎太(30歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 eb2654 火狩 吹雪(29歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●一刻を争うか‥‥
 例の依頼人に会って詳細を確認したところ、こういうことらしい。
 田原右之助(ea6144)たち冒険者が噂の願いを叶えてくれる精霊に関して説話的な物語であったと報告をしたのに前後して、その話を知らない旅の男が噂の精霊の伝承が残る村を訪れたところ、幼子からサレイドンなる不思議な友達の話を聞かされた‥‥と。
 そこで事情に詳しい田原たちに声をかけ、再調査を依頼したいのだそうだ。
 その話を好事家の依頼人に売った旅の男は、何処かへと旅立っており行く先は知れないという話であり、田原たちは動揺を隠しつつ依頼の詳細を確認すると、その足で出発したのであった。
「そいつって‥‥ 砂霊どんをどうかしようってんじゃねーだろな? 
 願い事、何でもかんでも叶うなんて、そんな都合のイイもんいるわけねぇだろ」
「う〜んと、そんじゃあさ。萌っち砂霊どんになろうか?
 シフールの悪戯なら皆笑って許してくれると思うんだよね。依頼人やギルドを騙すなんてわくわくだしね〜♪」
 流石『She fool』。
 確かに慧斗萌(eb0139)の悪戯で世間を納得させることができれば、砂霊どんの存在を公にしなくても済むが‥‥
「やっぱ砂霊どんがのんびり過ごせなくなるってんなら、公にする事が正義だとは思わねぇ」
「萌っちも、砂霊どんを秘密にするのは賛成〜。こ〜いう事はね〜、分からない方が面白いんだよ〜」
 彼女の場合、どちらかと言えば秘密がバレないかドキドキする状況が楽しいのだろう。
 ま、優しい気持ちがそうさせているとも考えられるが、生粋のシフールとでもいうような性格である。
 その真偽は彼女にしかわからない。ともあれ‥‥
「虚偽の報告は心苦しいですが、砂霊どんのことを考えると仕方ないですね」
 シャーリー・ザイオン(eb1148)は迷いなく作戦に賛同した。
「吹雪もいいよな?」
「田原様がそれで良いのなら構わないですよ」
 田原とは幼馴染みの火狩吹雪(eb2654)が頷いた。
「それじゃ鶴来、頼んだぜ。砂霊どんを見つける秘策があるって言ってたろ?」
「任せときな。あいつってば丸い物が好きだったからな。こう、三度笠をころころと砂浜で転がすとだな」
 鶴来五郎太(eb1755)が三度笠を外して放り出すと砂浜の傾斜に沿って追い風を受けてコロコロと転がりだす。
「こいつに目がない砂霊どんが現れて‥‥ 笠が倒れた時に一緒になってパタン、と‥‥」
 はたと倒れた三度笠の向こうに何やら茶色い影が‥‥
「とまぁ、こんなもんよ。よ、砂霊どん。久しぶりだな」
 鶴来が手を振るとポテポテと体を揺らしながら、その物体が近づいてきた。
「何じゃお主ら、また来たのか?」
「あぁ、どうやら千鶴からあんたの話が広がり始めてる。それで知らせに来たんだ」
「千鶴が?」
 咥えた小枝をピンとおっ立てて笑う鶴来に、砂霊どんは不思議そうな表情で首を傾げた。
「そうなんです。実は‥‥」
 尾行はされてないはずだが慎重に場所を選んで事の顛末を説明したいとシャーリーたちが話すと、砂霊どんは快く承諾してくれた。
「それでは打ち合わせ通り、私たちは陽動を」
「萌っちに任せとけば大丈夫だからね〜☆」
 早速、火狩と慧斗萌が町の方へと駆けていった。

 それならと砂霊どんに案内されたのは、人里離れた海岸沿いの一角。
「こっちじゃ」
 砂霊どんの体が淡く光り、1mくらいの穴が開く。
「こんなところに住んでるのですね」
 砂霊どんが辛うじて入れるくらいの大きさの入り口しかないために、もし、土地の者が見つけたとしても狸か狐の棲み処くらいにしか思わないだろう。時間が経てば穴は自然に塞がるのだそうだ。
 中は意外に広く、上下に段差があって2階建てのような感じ。何とか全員が座ることができた。
 入ってきた穴とは別に、光と潮風が入り込んでくる小さな穴が外へと繋がっているようである。
「辛いかもしれないが、暫くは人目に付くようなことはしない方がいいな」
「確かに辛いのぅ。浜に出掛けるのは、わしの楽しみじゃからな」
「ここなら気づかれることはないと思いますので、ほとぼりが冷めるまでここに潜んでいた方が安心なのですけど」
 ガッカリする砂霊どんをシャーリーが慰めるように撫でた。
 ふわふわで気持ち良い。思わず、ほわわんと笑顔になってしまう。‥‥と、それは置いといて。
「千鶴嬢ちゃんのことは任せといてくれ。
 このままじゃ砂霊どんと会えなくなるぞって言えば、お前さんのことを口外しない約束を守ってくれるさ」
「わしよりも千鶴の心配をしてくれ。この浜を去るのは寂しいが、友達が悲しむのはもっと寂しいもんじゃ」
 意外な砂霊どんの言葉に一同言葉に詰まる。
「千鶴さんのことは悲しませずに済むよう頑張りますね」
「俺たちが上手くやるさ。それはそうと、砂霊どんは何でも願いを叶えてくれる精霊じゃないんだろ?」
「わしが何でも願いを叶えるじゃと? そりゃまた大きく出たもんだ」
「やっぱりそういうことだったのですね」
 納得するシャーリーや田原を見て砂霊どんが笑う。
「砂霊どん、上手くいくように祈っててくれ」
「上手くいくといいのう」
「大丈夫、俺らが砂霊どんを守るから」
「お主ら、いい奴じゃのう。大人が皆、お主らみたいに優しければ、わしも過ごしやすかろうに」
 鶴来と田原の真摯な瞳に砂霊どんも心打たれたようである。
「大丈夫、任せといて♪」
「うぉ‥‥ 少しは恥じらいというものを感じぬか‥‥」
 シャーリーが抱きついて動揺する砂霊どんに、田原と鶴来は腹を抱えて大笑いした。

●噂には噂で
 聞き込みのふりをしながら漁師から魚を分けてもらった田原は、また浜辺で魚を焼いていた。
 仲間たちは、それぞれに偽装工作に走っている。
 千鶴が出現しそうな場所でさり気なく出会う方が旅姿の男に見つかったときに変な勘繰りを受けなくて済みそうだからだ。
 かといって、いつまでも千鶴に辿り着かないのは、それはそれで勘ぐられるだろう。
 多少の時間を掛けて彼女には行き着くつもりではいたのだが‥‥
「久しぶりだな。千鶴嬢ちゃん」
「また、遊びに来たの?」
「食うか?」
「うん♪」
 田原は塩を振った焼き魚を串ごと千鶴に手渡した。
「悪いおっさんがうろついてるから砂霊どんも目を付けられてるかもしれないんだ。砂霊どんのことは秘密にしとけ」
「ふん」
 小声で話す田原に千鶴は魚を頬張りながら元気良く答えた。
 薪を探すふりをしながら辺りを見渡して旅姿の男がいないことを確認すると、田原は千鶴に現状を伝えるのであった。

 さて、その頃の火狩はというと‥‥
 旅姿の男の前で謡い、舞っていた。
 歌声は中々に美しく、練習中なので聞いてもらえないかという火狩の申し出は意外に簡単に受け入れられていた。
 世間的に娯楽自体そう多くない訳で、上手い歌を聞かせてくれるというのであれば断る者はそういないだろう。
『この世は上手くいかぬ事ばかり、甘い話はありはせぬ♪ 旨い話は嘘ばかり〜♪ 旨い話には裏があり、踊らされれば損をす〜る〜』
「陰気な歌だが、そうなんだよな。世の中、旨い話ばかりじゃねぇ。あんた、よくわかってるよ。
 この調子で頑張れば、きっと良い芸人さんになるって」
 謡い手としての陰陽師というよりは、一風変わった旅芸人といった感じで旅姿の男には認識されているようである。
 多少不本意だが、ここは砂霊どんのためにジッと我慢だ。
『懐かしき里よ、我が家よ〜♪ あの故郷に帰りたい。優しい故郷が待っている♪
 茶屋の団子よ、夜祭よ♪ あぁ、あの故郷(ふるさと)に帰りたい〜♪』
 旅姿の男は目をつぶって黙っている。目には、うっすら涙まで浮かべて‥‥
「『望郷の歌』なのですが、いかがでしょう?」
「あんた良い声してるよ。ジンと胸に響くものがある‥‥ あんた、輝ってるよ」
 メロディーの効果があったようだ。男はグジと鼻を啜り上げた。
 後は仕上げ。
「あ、あれは何でしょう?」
 火狩の指差す先には茶色い物体が空を飛んでいる。
「ちょっと御免よ。ありゃあ噂の‥‥ とっ捕まえて持ってけば、幾ら貰えっかな」
 男は慧斗萌の変装とも知らず、その物体を追いかけていくのであった。

●願いを叶える精霊?
 茶色い謎の物体を見失った旅姿の男は、千鶴が異国の女と話しているのを見かけていた。
 そのまま、身を隠して物陰から聞き耳を立てている。
「お嬢さん、もしかして、あなたが見たって言っていたのは、これ?」
 旅姿の男に2人の表情が見えないように体で隠すように気をつけながら、シャーリーが仕留めた狸を千鶴に見せた。
 お、気づいてる、気づいてる。
 おかしいなという表情をする千鶴に『話を合わせて』とシャーリーが軽くウインクする。
「違うよ〜。こんなんじゃないもん。ぱ〜っと飛んでね。こんななの」
 意を察したのか千鶴が身振りを入れながら楽しそうに話し始めた。
「そうか〜、違うのね。残念」
 旅姿の男に見えないようにシャーリーはニッコリ笑った。
 そして突然のように千鶴は男の後ろを指差した。
「あ、砂霊ど〜ん♪」
「何!? サレイドン?」
 男が振り向くと、ぷはと息を吐きながら茶色の袋を脱ぎ捨てる慧斗萌の姿が‥‥
「か〜、何だよ。願いを叶えてくれる精霊に会えると思ったのにシフールの悪戯かよ」
「ま、依頼はこれで達成ってことだな」
 鶴来が田原の肩を叩く。
 お前のせいで2度手間だと抗議する田原を、鶴来は楽して依頼が片付いたからいいじゃないかと宥めすかしている。
 さて、当の慧斗萌はというと‥‥
「ところで何で萌っちのこと砂霊どんて呼ぶんだよ〜」
「‥‥ 忘れちゃった。いいじゃない。砂霊どんは砂霊どんで」
 子供とは得てしてこんなものである。その場の理由理屈は合っても説明するのが面倒くさかったり他に興味が移ってしまっていれば、まともに取り合ってはもらえない。しかも根気強く聞けば聞いたで機嫌を損ねてしまうかもしれないから厄介だ。
 依頼達成に不可欠な原因は判明したのである。これ以上の詮索は必要ない。
「サレイドン‥‥」
 旅姿の男は怪訝そうな顔で考え込んでいるところへ、いつの間にかシャーリーが詰め寄っている。
「ところであなた、行きすがりじゃなさそうですけど、どなたですか? あ‥‥、もしかして同業者ですか?」
「そ、そんなもんかな」 
「冒険者で私たちの依頼を邪魔するなら容赦しませんよ」
 そういうシャーリーの視線は本気だ。
「いや‥‥ 好事家には、こういう話を集めてる人もいてな。小遣い稼ぎになるのさ。
 詳しい話を持ってけば儲かるかと思って来たんだが、小ネタにもならんみたいだからな。
 このまま旅に出るわ。そうだな‥‥ 久しぶりに国許に帰ってみるか」
 既に旅支度の男は、そのまま本当に旅に出てしまった。
 それを見送った冒険者たち‥‥
「さてと‥‥」
 鶴来は人気がないのを確認して三度笠を転がした。
「暫く人の目に付かないように気をつけろっつったろ?」
 はたと倒れた笠の陰から現れたのは言わずと知れた砂霊どん。田原たちは肩を落として溜め息をつく。
 そのやり取りを見て火狩が、くすっと吹き出す。
「い、いや。気になっての」
「本当に気をつけてくださいね。皆の心遣いが無駄になりませぬように」
 あははと笑う砂霊どんに火狩は優しく微笑みを浮かべるのだった。
「良かったね、砂霊どん」
「ふにふにして気持ちいい〜♪」
「これ、何をする。だから‥‥ お、乙女の恥じらいというものをだな‥‥」
 シャーリーと千鶴に抱きつかれて慌てる砂霊どんに、思わず笑みを漏らす一行であった。

 依頼人には『悪戯シフールの姿を見た子供の目撃談に尾ひれが付いたらしい。新情報は事実無根だった模様』と報告された。