【那須落王・根断ち】草入亦草捜
 |
■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:7〜11lv
難易度:難しい
成功報酬:6 G 21 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月15日〜09月25日
リプレイ公開日:2005年09月27日
|
●オープニング
●落王
那須与一公が静養中だという‥‥
おまけに那須では謀反が起きたとか九尾の狐が襲ってきたとか、何かにつけて眉を顰めるような話が江戸にまで聞こえてくる。
那須藩に不安の影が落ちれば、下野国が揺れる。
それは困る‥‥ 源徳・親源徳の諸藩は、そう考えるだろう。
源徳の勢力を削ぐ目的を持つ者であれば、揺れているだけでも効果は計り知れない。
果たして白河の関が誰の手にあるのか‥‥ それは関八州の勢力図を大きく塗り替えるだけの影響力を持つのである。
「与一公が御病気だと‥‥」
「冒険者たちが起こしたという蒼天十矢隊の謀反騒ぎの直後だから色々言う者も多いが」
「いや、あれは無実だったと聞いているぞ」
「どちらでも同じことさ。部隊は解散。鬼の国に止めを差した英雄たちは那須から追い出されちまったんだからな」
「言い過ぎじゃねぇのか?」
「言ったろ? 同じことさ。那須藩が易々と冒険者に手を借りることはないだろうよ」
「なぜさ?」
「武士は恥を知るからだ」
「難儀なことだ‥‥」
酒場で語り合う話題ではないとでも思ったのか、男たちは馬鹿話で酒を飲み始めた。
しかし、彼らの知らないところで彼らの話は完全に裏切られることとなるのだった‥‥
「ギルドマスターに御会いしたい」
依頼を探す冒険者たちに声をかけるギルドの親仁は1人の武士に声をかけられた。
その男は袱紗を握らせると、その中身をチラッと親仁に見せた。
「こ‥‥ これは‥‥ いや、あなた様は」
「察してほしい。士郎が来たと御伝え下され」
印籠を確認した親仁の顔を見て、男はニコッと笑顔を浮かべた。
(「一の下に菊‥‥ この家紋は那須の喜連川家の家紋‥‥ 士郎ということは、まさか与一公?」)
「直ちに‥‥」
心臓を鷲掴みにでもされたかのように親仁はドッと汗をかきながら男をとりあえず奥の部屋に通すと、ギルドマスターの元へと走るのだった。
暫時‥‥ 江戸ギルドの廊下を歩く2人の男がいた。
「しかし、驚きました。本当に与一公だとは」
「今、私が江戸にいることは知られてはいけないのです。たとえ那須藩であっても」
ギルドマスターとの会見を終えた男を案内しながら親仁は慌てて汗を拭った。
「そうでした。与次郎殿、これからどうされるので?」
「私は江戸に残って那須入りの好機を待つことになるだろう。小四郎の想いを無駄にはできないしな。
だが、那須を乱した者たちを許してはおけないからな。冒険者を那須に送る。危険だが受けてくれる者はいると信じたい」
「わかりました。金売吉次の商家への探索ですな。心当たりに声をかけておきます」
「そちらの手配はよろしく頼みます。
それはそれとして神剣草薙が江戸にあるという話‥‥ こちらの真偽を確かめる必要もある。本当ならば由々しきことだからね」
与次郎と呼ばれた男の眼光に、親仁は圧倒されるのであった。
●黒影
「吉次様は?」
「金子の調達に行かれた。数日中には戻るだろう」
那須神田の城下町の店先で商人2人が話しこんでいる。
「那須での仕事も一段落。次は江戸での商いとか」
「そのように聞いております。剣を商うとか?」
「左様で。おや、いらっしゃいませ。何にいたしましょうか?」
1人が腰を上げ、客を迎えた。
「それでは、また」
「えぇ、また」
軽く会釈すると黒脚絆の商人は江戸へ向けて歩を進めた。
●リプレイ本文
●落王
内容を聞いて依頼を請け負った冒険者たちにしてみても、下野国で療養中と噂の那須与一が江戸にいるとは信じ難く‥‥
しかも、与次郎と名を伏せて那須藩に探索の冒険者を送るという話になれば一層のこと。
依頼を斡旋したギルドの親仁も冒険者たちの気持ちはわかるらしく、ギルドマスターの了承の下、与次郎との繋ぎをつけてくれた。
「ここって‥‥」
南天桃(ea6195)には見覚えのある場所だった。一度だけ依頼を共にした虎太郎という僧の修行していた寺である。
「おぅ、お待ちしておりましたぞ。入りなされ」
小僧に案内され、冒険者たちが部屋に通されると住職は経巻をしまい、彼らに座るように勧めた。
「与次郎殿、客人が参りましたぞ。ほれ、子供たちも与次郎殿を放して差し上げぬか」
庭には子供たちにもっと遊ぼうとせがまれている男の姿が見える。
名残惜しそうな子供たちが姿を消すと、与次郎と呼ばれた男が部屋に上がってきた。軽く会釈をして住職は部屋を出て行く。
「久しぶりです〜。弓の大会以来ですね〜」
昨年、一度会っただけだが、南天にはそれが与一公だと確信できた。
質素だが清廉な雰囲気の浪人‥‥ そんな印象だ。しかし、見る者が見ればわかる。下野の国守、那須与一、その人である。
「はじめまして、与一公」
「‥‥ はじめまして。どこかで会ったような気もしますが、気のせいだったようですね」
甲斐さくや(ea2482)は、一瞬、ほんの一瞬だが与次郎が笑顔を崩しそうになったのを見極めた。
彼も与一公とは面識があった。しかし、あえてそれを表には出さないでいる。甲斐が与次郎と数日間旅をしたのは忍として秘密にしなければならないことであったし、与次郎の返答を聞けば甲斐には何が言いたいのか理解できた。
「今、国にいなくても大丈夫でござるか? 蒼天もいなくて大将がいないんでは狐が現れた時に対処が遅れると思うでござるが」
「諫言耳が痛いですね。しかし、此度の江戸滞在は考えあってのこと、心配無用です」
踏み入った話まではしてくれない。だが、甲斐としても与次郎がその気であるのなら何の問題もなかった。あとは忍としての仕事をするまで‥‥
「公‥‥ 本当に申し訳ありませぬ」
白羽与一(ea4536)は、白くなるほど唇を噛み締めている。
蒼天十矢隊の隊長として、自分たちのことが謀反騒ぎにまで発展したその責任を痛烈に感じているのである。
「よもや、あなたが来てくれるとは思っていなかった。今の那須へ入れば辛い思いをするが、良いのですか?」
「約束したのです。公をお助けすると。
ですが、自分の立場を弁えず出過ぎた真似をし、その結果お騒がせしてしまったことは事実。
この謝罪の気持ちに嘘偽りはございません。
言うなれば、この気持ちを皆様に伝える事が十矢隊隊長としての最後の責任と勤めにございます」
「最後?」
「公より賜った那須藩士の官と蒼天十矢隊の隊長の職を返上したします」
白羽は作法に則って頭を下げた。
僅かな間だが、長い沈黙が場に流れる‥‥
「武士の引き際としては潔いですが、それは許しません」
「しかし‥‥」
「私を助けるというのなら、那須藩士として十矢隊の隊長でいなさい。
十矢隊の者たちも、あなた以外の隊長など考えてはいないはず。今の私の力になってくれるというのなら、それはあなたにしかできないことなのですから‥‥
それに、この期に及んで藩の枠で動く限り、私は敵の術中に嵌るでしょう。敵の思惑の外をいかなければなりませんし、その時がくれば必ず十矢隊の力も必要になります。私の当てにできる者たちは、多くはないのです」
忠義を捧げる殿にそう言われては、白羽にそれ以上何も言えなかった。
「本物か‥‥ にわかには信じられない話だが‥‥」
与一公療養中という噂の真実の一端を知る数少ない者である岩峰君影(ea7675)としては、今回の依頼をあり得る話として半ば信じ、半ば疑っていたが、どうやら彼が本物の与一公であることは間違いなさそうだと確信を深めていた。となれば‥‥
「で‥‥ 与次郎さん、出かける前にはっきりしておきたい事がいくつかある。いいかい?」
岩峰の言葉に与次郎が返事をして頷く。
「俺たちに盗人の真似事をさせるようなことを依頼したんだ。店名が名指しとなれば、ある程度の確証はあるのだろう? その辺のところも聞かせてもらわんとねぇ」
「わかりました。話しましょう。
私は以前から密偵たちに那須藩で暗躍する者たちの存在を探らせていたのですが、その尻尾を掴むことはできなかったのです。
忍者が潜入していると確信を得たのは十矢隊の馬頭巡察の時。そして、直後の十矢隊の謀反騒動‥‥
それらを調べていくと藩士たちの動きの底に、一部の商人たちによる噂や扇動の跡がみられたのです」
「それが金売吉次の商家‥‥ってわけか」
「尤も確証は得られていません。これまで巧妙に姿を隠していたのですから、当然なのですが‥‥」
他にも闇目幻十郎(ea0548)たちの質問などにも、与次郎は可能な範囲で答えを返してくれた。
金売吉次の店周辺の地理などもかなり細かく教えてもらえたし、那須藩重臣の名前と役職といったような本来おいそれと教えてもらえないような情報もである。
「あまり那須とギルドの仲がよくない以上、下手に派手なことをするのも問題ありそうですしね〜。気をつけていきましょう」
槙原愛(ea6158)たちはそれぞれの思いを胸に那須へと出発することになった。
●志心
那須神田城・堀の内へと続く門では一騒動起きていた。
「そのようにされても殿の下へお連れするわけにはいかん。
お前たちに裏切られた心労で殿が倒れたと聞いておるし、だからこそ尚更だ。帰るがいい」
若い那須藩士は番兵の棒を奪い取ると、棒の先を頭を下げる白羽の肩の下に突っ込んで裏返すように転ばせた。
そこに蒼天十矢隊の隊長として颯爽とあった白羽の姿はない。小太刀1つを携え、愛馬・漣のみを伴っての単独行だった。
「皆様方にも不快な思いを抱かせてしまったこと、本当に申し訳なく思っておりまする」
汚れた服を叩こうともせず、土にまみれた頬を拭おうともせず、乱れた髪を直すこともなく、ただひたすらに頭を下げる彼女の姿がそこにあった。
「口では何とでも言えるわ! 殿をたぶらかして藩を私するつもりがなかったと言い切れるのか?」
髪を引っ張られ、無理矢理顔を上げさせられた白羽は、またも転ばされた。衆人の面前でこの仕打ち、目を背ける民が殆んどだった。
「そのような私心は御座いません。武士として決して」
「ならば、潔く腹を切って見せよ!!」
私心がないのなら武士として腹を切れ、何人かの藩士たちの声に一気にざわめきが起き、民たちの声は罵声に変わった。
「白羽様が何をした! 那須を救ってくれた方じゃぞ!! 何故、腹など切らねばならんのじゃああ!!」
「静まれぃ!!」
民衆の声を吹き飛ばすような重く響く声で、場が制圧された。
白羽のみならず、その場にいた殆んどの者たちにその声は覚えがあった。そう、藩士たちを割って現れたのは小山朝政殿‥‥
「白羽殿、今はお帰り願おう」
小山殿の言葉はそれだけだったが、言葉にこもった力は圧倒的だ。
白羽は小太刀に手を伸ばすと後ろに束ねた髪を掴んで刃を入れた。
「必ずまた那須へ帰ってまいりまする。与一は那須が好きで御座りまする故」
ぶつり‥‥
散切り頭となった白羽は小太刀を鞘に収めて地面に置き、懐紙に髪を包むと立ち上がり一礼して、その場を立ち去った。
「そうか‥‥ 無事に着かれたのだな‥‥」
「何か?」
「いや‥‥ 何でもない。皆の者! 騒ぎが起きれば殿も養生できぬ。気をつけてくれぬか」
藩士の言葉に取り繕った小山殿は、場を鎮めると一度だけ白羽の去って行った方に目をやった。
●金売吉次
岩峰が吉次の店を監視していると身なりの良い男が供の者たちを連れて店に入っていった。
荷車には荷物が積まれており、供の者たちにはどこか付け入る隙が感じられない。
男たちの姿に何か引っかかるものを感じた岩峰であったが、それが何なのか分からずに喉の奥に何か詰まったようである。
「あれが金売吉次でござる。運んでいるのは金子と武具のようでござるな。剣がどうのと話していたで御座るよ」
甲斐が岩峰にそっと声をかけた。
街道沿いの茶屋や酒場で商人を見かけてはこっそり話に聞き耳を立てていた時に、偶然『あの金売吉次の一行が江戸に向かっているのを見た』と聞いて、北上して白河あたりで吉次一行を発見することに成功していたのである。
旅の商人たちの話では、金売吉次とは京から東を中心に商う大商人で、遠く奥州まで荷を運ぶことも多々あるという話だ。
「今、闇目さんが忍び込んでるんだ。何か聞けるといいんだがな」
岩峰は少し心配そうに吉次の店に目をやった。
吉次は蔵に荷物を運び込むように指示すると、店を預けていた手代と共に奥の部屋に入ってきた。
「吉次様、どうで御座いました? 里の様子は‥‥」
「御館様は江戸に向かわれるそうだ。一仕事あるとかで、私にも手伝うようにとな」
(「おっと‥‥ あれが‥‥」)
姿を隠して聞き耳を立てていた闇目は身を硬くした。
「那須での商いも潮時でしょうか?」
「そうだな。全て手を引く訳にもいくまいが、薬草、武器、馬‥‥ 大商いをするには那須藩の体力がな」
「足りませぬか」
手代は少し上目遣いに苦笑いする。
「応。このまま細々と生き延びさせる方が我らの利にもなろう。御方様の了承も得ておることだしな」
「ですが、那須公も行方不明。小山も我らの思っていたほどの動きは見せておりませんし‥‥
那須藩としての動きは封じておりますが、その先へは‥‥」
吉次はニヤッと笑うと手代に煙草を吹きかけて続けた。
「歩けなければそれで構わん。それに自らの足をもつれさせて転ぶ分には構わないさ。そこまで面倒は見なくても構わんよ」
「左様で‥‥」
吉次は机の前に座ると台帳の書き入れを確認しては、時々頷いている。
「おや? 鼠が走らなかったか?」
「さぁ‥‥ 私には聞こえませなんだ」
吉次が天井を見上げ、手代も釣られて首をめぐらした。
(「ここが潮時か‥‥」)
湖心の術で物音は消しているが、その効果はそう長くはない。いつまでもここにいて気づかれては元も子もない。
今、チラリと聞いた内容だけでも吉次は十分に怪しい。しかも、国が背後にあるようなことも言っていた。
物証や確証は得られていないが、少ない戦力でこれ以上深入りするのも難しいように思う‥‥
闇目は、慎重にその場を後にした。
直後に他の手代や供の者が部屋に入ってくる。
「鼠が入り込んでおりましたな」
「尻尾さえつかませなければそれでいい。それよりも今度の仕掛けは大掛かりになるぞ」
「それではいよいよ江戸へ」
「あぁ、平織も藤豊も手をこまねいている訳ではないからな。我らが源徳の御膝元で騒ぎを起こすには打ってつけよ」
吉次は堪え切れないように残酷な笑みを漏らした。
●帰還
「済まぬな‥‥ 白羽‥‥」
「どうか、気になされませぬよう」
与次郎の手には『我が王を再び那須の陽の下へ』、そう書かれた紙帯で結ばれた髪の束‥‥
江戸へ帰還した一行は、報告のために与次郎を訊ねていた。
「商売の話ばかりで役に立つ話はなかったですね‥‥」
数回に渡って忍び込んだ闇目であったが、得られた情報は少なかった。
「謡い手で宴会の座興をして聞いた話でも悪い噂って聞かなかったです。金払いがしっかりしてるんで安心して商売させてもらったとか、むしろ良い噂ばかり聞きますね」
南天も首を振る。
「お店の人の対応も良かったですし、お客さんの評判も良かったです‥‥」
「そうなんですよね〜」
マミ・キスリング(ea7468)も槙原も困り果てたように溜め息をついた。
吉次の息のかかった行商人たちの奥州方面の中継点となっているようだったが、地理的に考えても不思議はない。
「でござるが、若い那須藩士たちを中心に金子の用立てなどしているようでござるな。
藩士たちに近付く機会はいくらでもあったということでござる」
吉次の店の上客の後をつけて情報を集めた甲斐は、その中に那須藩士たちの姿を確認していた。
うち1人は与次郎に聞いていた那須藩重職にある者であったのだ。
「だね。それに地回りたちの受けも悪くなかったよ。吉次くん、結構ばら撒いてるみたいだし」
「ばら撒いてるって?」
「お金」
首を傾げる槙原に外橋恒弥(ea5899)は笑いながらそういった。
「とすると、那須藩士たちにも金子が流れていると考えるのが普通‥‥でござるかな」
甲斐が恐る恐る与次郎の表情を窺う。
「存念を言ってほしい。そのために皆に行ってもらったんだから」
与次郎は少し困ったように笑みを浮かべている。
「ところで商売には詳しくないが、そんなに金回りのいいものなのか? 商人というのは‥‥」
「さあね‥‥ だけど、いくら東国を股にかける大商人だって、そうそう儲かるわけじゃないだろ」
闇目の疑問に岩峰がツッコミを入れるが、場にいる者たち全員商いには詳しくない訳で‥‥
「兎も角、吉次が金子を調達に向かった方角、それに那須が弱体化して一番喜ぶのは誰か‥‥ そう考えるとさ」
外橋が皆を見渡した。
「奥州だろ? やっぱ」
誰もがそう思う。だが、証拠は何1つない‥‥ 与次郎は沈黙をもって答えた。
「それよりも吉次が江戸に入ったことが問題じゃないのか? 甲斐さんが聞いた剣の商い、それが神剣のことを表してるのなら」
岩峰たちが後をつけ、吉次たちが江戸に入ったのは確認されているが‥‥
「関係ない話かもしれないけど黒の編み上げ、脚絆といったでしょうか‥‥ 流行ってるのですか?」
「何の話だい?」
「皆、揃いの黒の脚絆を着けてましたわ」
「そんな流行は聞いたことないけどね」
マミと外橋が首を傾げた。
「ちょっと待て‥‥」
陸奥流を使う岩峰、甲斐、闇目の3人の忍者には心当たりがあった。
妖をも配下に置くと噂される黒脚絆を履いた奥州忍軍‥‥
確か数ある忍の組の1つで黒脛巾組(くろはばきぐみ)と呼ばれていたはずだ。噂でしか聞いたことはないが、果たして真相は‥‥