【那須落王・根断ち】臥草亦草起

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 17 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月25日〜11月04日

リプレイ公開日:2005年11月02日

●オープニング

●落王
 江戸の神剣争奪の騒動に那須与一公が一介の侍として参加したのは冒険者たちの既に知るところ‥‥
 それが本人であることは与一公を見知る冒険者たちの証言により明らかであったし、何よりもそのことを知った家康公ら諸侯たちが過敏に反応したことからも確かな情報であるといえた。
 那須にいるはずの与一公が供も伴わず江戸に現れたことに首を傾げる者もいたが、元気そうな姿を見て那須での不穏な噂が多少は払拭されたのも確かである。勿論、良い悪いを含めて江戸に聞こえてくる噂ではあるのだが‥‥
 さて、気になる神剣争奪の趨勢はというと‥‥
 神皇に属する冒険者でもなく、諸侯に属する冒険者でもなく、後ろ盾を持たない冒険者たちが神剣を手にしたことで諸侯たちの大激突は回避された。
 それが一部の識者たちの意見である。違う意見もあるが、冒険者たちにもこの意見を支持する者は少なくない。
 一見、静まったかに見える神剣騒動であったのだが、果たしてその通りなのか‥‥
 それは後の歴史研究家によって判断されることである‥‥

 さて、少し前に時間は遡る。那須神田城でのこと‥‥
 神田城の執務室に数人の武士が集まっていた。
「小山様、殿の姿が江戸で確認されたと‥‥ これでは我らの謀(はかりごと)は完全に‥‥」
「その通り‥‥ 殿を幽閉し、代わりの藩主を立てるという計画も初っ端でつまづいておりますし」
「那須藩内におられると思うて手を伸ばしておりましたのに、まさか江戸とは‥‥」
 若い藩士たちが苦虫を噛み潰したような顔で、ぼそりぼそりと呟いている。その顔は赤い者もいれば真っ青の者もいる。
 そして、彼らが助けを求めるように1人だけ違ったオーラを発する男へと視線が注がれる。
「仕方あるまい。それに殿とて、いつまでも那須藩を空けたままにはできまいて。近からず那須藩へお戻りになる。下手に動くでないぞ」
 那須藩重鎮、そして那須与一公の懐刀でもあった小山朝政殿は周りの者たちを鎮めるように静かに言い放つ。
「そうか、そうであるな。その時に御身を御預かりして、表向きどこぞの忍にでも襲われたことにしてしまえば」
「初期の謀の道へと戻すことができる訳ですな」
 顔色を変えていた男たちもようやく落ち着きを取り戻そうとしている。
(「朝政殿はうまくやっておられるようだな。殿にお知らせせねば」)
 目立たぬ色の旅装に身を包んで陰から聞き耳を立てていた男は、音も立てずにその場を離れた。

 場所は移って江戸‥‥
 紆余曲折の末に神剣草薙は江戸城に運び込まれた。
 京への帰還までの保管場所としては、これ以上のところはないだろうが、諸侯はここでも喧々囂々(けんけんごうごう)だとか‥‥
 どこから漏れ伝えられた話なのかは置いておくとして‥‥
 ともあれ、『神剣を政争に用いるべからず』、そういう冒険者たちの想いが既に届かない場所に神剣はある。
 そういうこともあってか、江戸の那須藩邸に入った喜連川那須守宗高(きつれがわ・なすのかみ・むねたか)公、つまり那須与一公は、数名の部下を伴って精力的にあちらこちらへと出掛けているようである。
 江戸城へ赴き、料亭で人と会い、商家を訪れ、あちこちの神社仏閣でも祈願奉納を行っている様子‥‥
 とある商家でのこと、供の者が静かに近付くと与一公に耳打ちした。
「殿‥‥ 密偵からの繋ぎがありました。那須は小山様が上手く抑えておられるようです。
 ただ、殿の帰還の場を狙っておる者もおりますので十分に気をつけなさいますようと」
「密偵には手はず通りにギルドへ行くように伝えなさい。那須への繋ぎを取ります」
 そこへ商人が現れて、与一公は破顔して近付いていった。
「先の騒動の際には世話になりました。本当に有難かったですよ」
「いやぁ、礼には及びませぬ。蔵にあって動かない品をお渡ししただけですからな。あれで蔵の掃除ができたと思えば安いもので‥‥」
 与一に勧められて、商人は手を揉みながら下座に座った。
「しかし、江戸で戦火が起きなくて本当にようございました。
 例年通り冬場の火事に備えて家内や子供、蔵の物の一部などは別宅に移しておりますが、失わないに越しませぬからな。
 ましてや諸侯の都合でなど‥‥ おっと、これは失言でしたな」
「東に西に妖が暴れているというのに、耳が痛い」
「いやいや、責めるつもりなどないのです。これは言葉が過ぎたようです。本当に申し訳ありません」
 バツが悪そうにする与一公に商人は平謝り。
「良いのです。私もどれだけのことができているのか‥‥」
「与一公が民のことを考えているのは私がよく知っております。
 私で力になれることならば何なりと力になりますゆえに、そのようになされませんよう御願い致します」
「それならば頼みたいことが‥‥」
 ホッとしたように商人は溜め息をついた。
 さて果て‥‥

●江戸ギルド
 1人の男がギルドマスターへの面会を求めて書状を携えている。
「それではこちらへ」
 人知れず現れた旅装の男に驚きながらも、男の持つ書状に与一公の署名があることを確認したギルドの親仁はギルドマスターへ取次ぎ、面会の手はずを整えた。
 暫時、ギルドマスターの部屋から出てきた旅装の男は、書状の代わりに依頼書を持っていた。
「親仁殿、頼みます」
「成る程‥‥ そういうことですか。こういう事情ならば、まずは前に那須に潜入を依頼した者たちに声をかけてみましょう」
 依頼書の内容を確認したギルドの親仁は、深く頷いた。
「那須の天狗たちは俗世との関わりを絶った者たちばかり。しかし、一部には義心で動く者たちもいるのですよ。
 殿の脱出を手助けしてくれた者たちですから、この呼びかけにもきっと呼応してくれると我が主は信じております」
「まずは取っ掛かりが必要という訳ですか」
「はい。重要な任務ゆえ、しくじりのないよう」
「そんなに心配なら、あなたが指揮を執れば良いのでは?」
 ギルドの親仁は意地悪く旅装の男に軽口をたたいた。
「我が身が2つ、3つとあれば、このようなこと頼まんよ」
「詮無いことを聞きました。容赦してください」
 真面目に返す旅装の男に、ギルドの親仁はバツが悪そうに笑った。
(「与一公も那須への帰還の準備を始めたということか。
  それよりも、あの虎太郎が那須で与一公を助けているなんてな‥‥ 世の中、広いようで狭い‥‥って、俺も同じだな。
  にしても、おかしな人だ。何で諸侯なんてやってるんだか‥‥
  まぁいい。少なくとも俺にとっちゃお気に入りの侍、最高のうつけ者だ」)
 ギルドの親仁はフッと吹き出す。
「どうされた?」
「いえ、お互いあの方には振り回されますね」
「はは‥‥ 確かに。しかし、それが良いのですよ。きっと‥‥」
 ギルドの親仁と旅装の男は軽口の中に共感を覚えるのであった。

●今回の参加者

 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea4536 白羽 与一(35歳・♀・侍・パラ・ジャパン)
 ea5899 外橋 恒弥(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6158 槙原 愛(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6195 南天 桃(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

アゲハ・キサラギ(ea1011

●リプレイ本文

●虎僧
「いまだ修行してるんでしょうね〜。虎太郎様、きっとかなり経験を積んだんだと思うですよ〜。会うのが楽しみです〜♪」
 虎太郎を知っていたことを互いに驚く与一公と南天桃(ea6195)。
 彼が修行中の僧であり義心から脱出に手を貸してくれたことを与一は一行に説明した。
「与一公、神剣騒動の折にはお世話をお掛けしました。此度の役目、陸堂明士郎、命に代えましても果たさせて頂きます」
 陸堂明士郎(eb0712)や甲斐さくや(ea2482)たちも那須藩内に公の味方が残っていることに対して士気は高い。
「ところで修験者の助力は釈迦ヶ岳会談で天狗たちと交わした約束なので御座いますか?
 それとも、それとは関係なく一部の者達の義心なので御座いますか?」
「一部の者たちの独断と言った方が良いでしょう。那須の天狗たちは修験者を庇護しているだけですから」
「そうなのでございますか‥‥」
 白羽与一(ea4536)は思案を巡らせるように押し黙ってしまった。
「それならば‥‥」
 万が一見られたとしても困らないように和尚の名で書いた与一公の書状を持って、冒険者たちは数組で那須へと旅立つことにした。
「さて〜、明士郎さん恋人同士みたいに行きますか〜。とりあえずこれなら怪しまれませんよね〜、きっと〜」
「それならば自分が2人をそれとなく護りましょう。」
 陸堂の腕を取る槙原愛(ea6158)を闇目幻十郎(ea0548)は冷静に見守るのであった。

●甲斐と南天
 明るい色の衣装を着て陽気に歩く男女2人連れ。
 姉と弟の旅芸人という風体の南天と甲斐は芸人として那須へ入っていた。
 馬を引く甲斐が歌うのを指導しながら南天の歌も街道沿いに響く。
 喜連川まで来た2人は、ここで宿を回ったり喜連川家を尋ねたりして芸を売り込んだ。
(「つけている者がいるようでござるが、はっきりと姿までは見せないようでござるな‥‥」)
 その後、黒脚絆の行商人とすれ違って以降、何か見られているような気がして烏山へ進むのかを決めかねていた。
 そんな中、南天の声を買われて村の庄屋に呼ばれることになった。
「楽しんでもらえて嬉しいでござるよ」
 甲斐も軽業で場を盛り上げている。
「もう1回! もう1回っ!!」
 庄屋で村人たちに歌を披露した南天は、彼らが喜んでいるのを見て、もう1曲歌うことにした。
 金は庄屋から貰っており、好きに客が入れるようになっていたために通りがかりの旅人なども2人を見ていた。
 その中に黒脚絆の僧が雑じっている。
 断定はできないが、おそらくは警戒している奥州の忍だろう。
「いや〜、旅の謡い手など久しぶりですからな。本当に楽しかったのう」
「拙い歌で」
 南天は頭を下げた。
「ハハハ、謙遜せんで下され。今日は、わしの屋敷でゆるりと足を伸ばされるといい」
 その夜、庄屋と近頃の村の様子などを語り、2人は代わりに江戸の話をしてやった。
 ことに与一公が神剣を探す件(くだり)などは好まれて4回も5回も話をさせられたくらいであった。
 その後、庄屋の紹介で喜連川家周辺に駐留する那須兵の前でも歌を披露することができた。
 足軽たちならず那須藩士たちからも江戸での与一公の活躍の話は聞いているだけで誇らしげだ。
 彼らは与一公の帰還の妨げになたないと思えたが、部隊を率いる侍に会うことができなかったこともあり、また目立つ行動を避けたために忍者である甲斐と言えどもはっきりさせることはできなかった。
「今は目立つべきではないと思うですよ。どこに目が光っているかを調べて帰りましょう」
「そうでござるな‥‥」
 結局、あちらこちらで歌って回った南天と甲斐は、烏山行きを断念して江戸へ帰還することにした。

●白羽と紅葉
 道中の宿で髪を梳かれてもらっている小柄な女性。ちょこんと、しかしキチッと正座する姿は、どこか雰囲気がある。
「与一姉様、この髪が元の長さに戻る頃には、きっと姉様たちの汚名も返上出来ていると紅葉は信じておりまする‥‥
 その為にはこの紅葉、持てる全ての力を姉様にお貸し致します」
「今回は弓も持たず漣も伴っていない無力に等しい状態です。紅葉、頼りにしていますよ」
「陰謀によって国が乱れれば泣きを見るのは民たち。それを放っておくことは出来ませぬ‥‥ 
 いつか与一姉様のお役に立ちたく思い修行を重ねてきましたゆえ、不謹慎かもしれませぬが此度のことは嬉しく思っておりまする」
 微笑む白羽に火乃瀬紅葉(ea8917)は何処か照れくさそうに笑顔を返した。

 そして、2人が足を踏み入れた那須藩内は平穏であった。
 与一公が江戸で神剣探索に功があったと噂を耳にして、病から快癒したのだと喜ぶ声が多かった。
 藩政も滞りなく行われているとの民の声も聞こえ、暫くは事もなく隠密行が進んだのだが‥‥
「見かけぬ顔だな。どこへ行く」
 武士に呼び止められた白羽と火乃瀬は、ドキッとしながらも道の脇へ寄せて頭を下げた。
「温泉を貰いに参ったのでございます」
「姉と弟、2人旅か?」
「姉妹に御座います、お侍様」
「姉は色気がないし、妹は男みたいではないか。温泉で肌でも磨いて女を磨くと良い。そしてさっさと帰ることだ」
 よくも姉様を‥‥と一瞬表情を強張らせた火乃瀬の前に白羽が割り込む。
「そのように。何しろ女2人連れの旅では物騒ですので、妹には男の格好をしてもらっていたので御座います」
「姉様‥‥」
 火乃瀬は白羽の背に隠された剣から手を離した。
「そのような仕儀であったか。知らぬこととはいえ、許せ」
 武士は馬上の人となった。
「一目でそうとはわからなかったが、言葉遣いにも気をつけられよ。私のような者ばかりではないのだからな。
 それと‥‥ 本心で御帰りを待っている者たちも多くいると、江戸の御仁に伝えてくれぬか? 白羽殿‥‥」
 チラッと振り返ると、武士は手綱を操って馬を進める。
 顔色を失う白羽と火乃瀬であったが、那須藩士の中にも与一公の味方が残っていることにホッと安堵するのであった。
「やはり目立ち過ぎるので御座いますね。姉様は良くも悪くも‥‥」
「虎太郎さまに殿への御助力の御礼が言いたかったので御座いまするが、遠慮した方が良いのかもしれませぬ」
「私たちが気づいていないだけで見張られているかもしれまぬし。その方が良いかと思いまする」
 2人は目的地を変えて温泉につかると、そのまま江戸へ帰還する道を選んだ。

●神田
 外橋恒弥(ea5899)は今回も仲間たちとは完全別行動を取っていた。
 彼が訪れたのは、またしても那須藩の主要都市であり、主城のある神田。
「お控えなすって」
「おう、お控えなすって」
「お久しぶりじゃん。通ったんで寄らせてもらったよ」
「うおぅ、お前さんかい。よく来たな」
 余裕の笑みで手を挙げる外橋を見て、数人の筋者が駆け寄ってくる。
「親分さんはいるかい? 酒でも飲みながら四方山話と思ったんだけどね」
 酒と金子を渡すと筋者たちに笑みが浮かぶ。
「まぁまぁ、足でも洗って落ち着きな。親分を呼んで来るからよ。待っててくんな」
 ドタドタと奥へ消えていく。
 すぐに親分が現れ、座敷に通された。
「また、旅の話でも聞かせてくれるのかい?」
「いきなりじゃん。酒が来てからでもいいだろ? 俺、疲れちゃった〜」
 へらへら笑う外橋に親分も破顔する。
「おい! 客を待たせるんじゃねぇ!! 酒と女をよこせ」
「へぃ! 只今ぁ!!」
 外橋の周りに筋者と酒と肴と女が並ぶのに大した時間はかからなかった‥‥

●虎太郎
「ふぅ‥‥ 皆さん無事に着いてますかね〜‥‥」
 丸に矢の字の三度笠。そんな目印を吊るした烏山近くの茶屋に集結した冒険者たち。
 結局現れたのは陸堂と槙原と闇目の3人。彼らは未到着者を待たずに虎太郎に接触することにした。
「そうなんだ。与一公が那須へ‥‥」
 虎太郎が頷く。
 数人の修験者と浪人、それに少数だが山鬼も雑じって闇目と一緒に周辺を警戒している。
 彼らの顔はどこか優しげだ。互いに気遣う様子も見え、槙原には彼らを纏める虎太郎の人柄が窺えた。
「白狼神君に会えるだろうか?」
「神君はここにはいないよ。今は釈迦ヶ岳にいるかだって怪しいなぁ。よくわかんない」
 虎太郎が首を振った。
「虎太郎くんは白狼神君が与一公の力になってくれると思う?」
「修験者を庇護するのが那須天狗の役目なんだって仰ってた。だから多分無理だと思う」
 ふ〜んと頷きながら槙原は首を傾げた。
「与一公も同じようなことを言ってたな。虎太郎との繋がりで那須の天狗が与一公に加勢してくれたら百人力なのに‥‥」
「そうは言ってもさ。お兄ちゃんたち、もしかして那須の天狗様と修験者を同じに思ってない?」
 違うのかという陸堂に虎太郎は首を振る。
「俗世との関わりを断って荒行をするのが修験者。それを見守るのが那須の天狗様だよ。
 確かに天狗様が助けてくれることもあるけどね。
 修験者も天狗様も世の中の移ろい事には関心ないからね〜。オイラたちみたいな修験者って変わりもんなんだ」
「俗世と関わらぬと言う考えは重々‥‥ しかし、那須のために、与一公のために、御力を貸りられないだろうか‥‥」
「方法があればいいんだけどね〜」
 苦笑いする3人。
「ところで変わりもんの虎太郎は、どうするんだい?」
「オイラたちは与一公のために頑張るさ。争いを好まない妖怪のことを理由もなく、どうのこうの言わないからね」
 虎太郎が手を振ると、恐ろしげな顔貌の中に柔和な表情を浮かべて1頭の山鬼が手を振り返した。
「駄目で元々、神君に会って話をしてみるよ。それでいい?」
「頼む。やはり与一公あっての那須藩だからな」
 胸を叩く虎太郎に陸堂たちは大きく頷いた。

●江戸の隠れ家
 さて‥‥
 与一公が与次郎として身を隠していた寺で冒険者たちは依頼の報告をした。
 甲斐や南天を含めて多くが喜連川の近辺で様々な格好の黒脚絆の者たちを見かけた。外橋によって神田でも見かけられている。
 烏山近辺で確認することはできなかったが、いなかったかというと定かではない‥‥
 また‥‥
 外橋が得た情報によると八溝山の警戒はそれほど強くないらしい。
 那須兵の主な集結地は神田、喜連川、白河、馬頭の4箇所‥‥
「神剣争奪の件といい、命を危険に晒すようなご行動は肝の冷える思いではございますが‥‥ 
 きっとお考えあっての事、白羽は公を信じております。
 ただ、那須には公のお帰りを心待ちにする方が居る事だけは心に留めて頂きたく。ご自愛下さいませ」
「わかりました」
 白羽の言葉を肝に銘じるように与一公はゆっくりと頷いた。
「領民や那須兵、那須藩士の多くが与一公のことを好いているのを見てきたでござる。
 それに与一公の力になりたいと思っている冒険者も沢山いるのでござるよ」
 甲斐は、すっと戸を開くと外の様子を確認している。
「ヤクザの話だけどさ、金に困って吉次くんを頼った藩士って結構いたみたいだね〜。
 何人か名前を忘れちゃったけど、これがその藩士くんたちの名前だよ」
 外橋の渡した書き付けをじっくりと確認すると、与一公はそれを懐にしまった。
「虎太郎さんたちは烏山を離れて動き出しました〜。街道を使わないで凄い道を通ってましたよ〜」
「凄い道というか道がなかったですがね」
 槙原の言葉を闇目が補足する。
「山の中の道なき道を行ってたからな。確かにあれなら那須兵に気づかれることはないだろうがな‥‥」
 陸堂は苦笑いを浮かべている。
「兎に角、与一公が那須に入る安全な道を探すって言ってましたし〜。白狼神君を探して話もしておいてくれるって言ってましたよ〜」
 のんびりした槙原の声に一同脱力するのであった‥‥