【那須落王・根断ち】刈草更蒔種

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:9〜15lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 2 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月26日〜05月04日

リプレイ公開日:2006年05月04日

●オープニング

●金断ち
 下野の国守、那須藩主である那須与一公が江戸を離れる少し前‥‥
 与一公は、お忍びで江戸冒険者ギルドを訪れていた。そのことを知る者は少ない。
「昨年来の鬼騒動の折、当座の資金と那須藩士たちに金を渡し、言葉巧みに近付いて与一公の身を藩士たちに幽閉させようとした。
 江戸の大火にあっては乱に乗じて江戸城を襲い、家康公を討とうとし、九尾の狐の恐怖を江戸に植えつけた張本人。
 それが京の商人にして奥州・黒脛巾組の忍、金売吉次‥‥ そういう訳ですね」
 ギルドの親仁は与一公に問い返した。それに頷くように与一公は話し始めた。
「どこまでが真実でどこまでが事実なのかはわかりませぬが、我らにとっては討たねばならぬ仇。
 とはいえ我らが動けば敵も分散しましょう。今仕掛けなければ、次の機会がいつになるのかわかりません」
 この数ヶ月、江戸の那須藩邸を時折抜け出しては、というよりも時折那須藩邸に顔を見せながら、那須与一は江戸中を駆け巡っていた。1つには九尾の狐の手下と目される金売吉次の尻尾を掴むために、そして那須や江戸での騒動の裏に奥州が関与した影を追うためであった‥‥
「狙うは奥州忍軍の1つ、黒脛巾組の頭目に金売吉次。そして、配下の黒脚絆の忍者たち。
 吉次と行動を共にする赤面黒毛四尾の狐シズナ率いる一党は、奉行所が追っていますから。そちらは任せるとして‥‥」
「せめて手足から順に、かつ迅速にバラすとしましょう」
 与一公の側に控える旅装の男は苦笑いを浮かべている。このことは那須与一が動かせる兵力が限られていることを如実に示唆しているのだが、その場にあるものを使うことに慣れてしまった与一公は、これに意を介している様子はない。
「冒険者に助力を求めましょう。賊に江戸の大火に対する責任の一端を贖わせたいと説明すれば必ずや力を貸してくれるでしょう」
「恐らくは」
 与一公の話に軽く頷く旅装の男を見て、親仁が話を続けた。
「ところで吉次の居所は掴めているのでしょうか?」
 無言で与一公に促された旅装の男が説明を始めた。
「吉次は今、江戸の商家焼け跡の地下を拠点に潜んでいます。
 屋敷の主人は凶賊に襲われたときのために隠し部屋を作っていたようで、それを利用しているようですね。
 流石に詳細までは調べ切れませんでしたが、入り口とは別に出口らしき場所を1箇所見つけています。
 今のところ、それくらいでしょうか」
「引き続き詳しい情報をお願いします」
「そのつもりです」
 ギルドを後にした与一公は密偵たちに更なる探索を指示するのだった。

●謀議空転
 神田城の執務室に数人の武士が集まっていた。クーデターを起こしたと目される者たちであろうか‥‥
「小山様、殿が江戸を離れ、那須へ向かうと‥‥ これでは我らの謀(はかりごと)は完全に‥‥」
「殿を幽閉し、代わりの藩主を立てるという計画も初っ端でつまづいておりますしな」
「那須藩内に帰られる隙を突いて初めの謀へと道を戻そうと思うておりましたのに、まさか信康殿が一緒とは‥‥」
 若い藩士たちが苦虫を噛み潰したような顔で、ぼそりぼそりと呟いている。その顔は赤い者もいれば真っ青の者もいる。
 そして、彼らが助けを求めるように1人だけ違ったオーラを発する男へと視線が注がれる。
「下手に動くでないぞ。信康殿に手を出せば、源徳公の兵が那須へなだれ込んでくる」
 那須藩重鎮、そして那須与一公の懐刀でもあった小山朝政殿は周りの者たちを鎮めるように静かに言い放つ。
「確かに‥‥ それでは信康殿がお帰りになるまで我らは姿を隠しておいた方が‥‥」
「改めて殿の御身を御預かりして、表向きどこぞの忍にでも襲われたことにしてしまえば」
「初期の謀の道へと戻すことができる訳ですな」
 顔色を変えていた男たちもようやく落ち着きを取り戻そうとしている。
 小山朝政が口を挟むことなく彼らは自らの不安をぶちまけ合い、都合の良いように展開や策を述べていた。
 切羽詰って、思考が硬直している証拠であった。
(「朝政殿はうまくやっておられるようだな。殿にお知らせせねば」)
 目立たぬ色の旅装に身を包んで陰から聞き耳を立てていた男は、音も立てずにその場を離れた。

●江戸の吉次
 暗き地下の隠し部屋にピチョンと滴の落ちる音が響く。
 どっかと座る浅黒い肌の巨漢の男の前には、黒脚絆の男たちが伏し目がちに薄ら笑いを浮かべている。
「八溝山の那須軍はどうなっている」
「副将の心を乱しておきましたので、いざという時には役に立ちましょう」
「繋ぎはつけておけ。いざというときは背後から神田を襲うくらいさせよ。行けっ」
 書状を渡されると、巨漢の言葉により1人の男が音もなく去っていった。

●江戸の与一
「殿‥‥ 密偵からの繋ぎがありました。那須は小山様が上手く抑えておられるようです。
 ただ、殿の帰還の場を狙っておる者もおりますので十分に気をつけた方がいいですね。
 それと、吉次らに動きが。黒脛巾組の繋ぎの忍を討ったところ、八溝砦の副将・黒羽様を標的にしているようです。
 殿の那須帰還に合わせ、背後から神田を襲わせるつもりのようです。
 八溝の黒脛巾組の拠点は当たりをつけてありますが、相手は下忍中心とはいえ4人。
 押さえるには我ら密偵では人手が足りません」
 旅装の男が開いた紙には八溝砦から半日程度の場所にある廃寺に印がつけてある。
 一方は崖で周囲は墓地になっているようだ。
「わかりました。冒険者ギルドに依頼して人手を集めましょう。八溝の黒脛巾組の拠点は討っておきます。
 そうですね。以前、手を貸してくれた冒険者たちが手伝ってくれるといいのですが‥‥」
 その後、江戸冒険者ギルドに与一公から極秘扱いの依頼が舞い込むのであった。

●今回の参加者

 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea1488 限間 灯一(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2473 刀根 要(43歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2482 甲斐 さくや(30歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea4536 白羽 与一(35歳・♀・侍・パラ・ジャパン)
 ea6195 南天 桃(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8917 火乃瀬 紅葉(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●落王の帰還
 与一軍の先駆けとして那須へ入り、夜討ち朝駆け。
 疲労はあるが、敵の忍に先んじるため多少の無理は仕方ない。
 事前の偵察で、廃寺に4人が滞在していることがわかっている。
「鳴子に気をつけるでござるよ」
 密偵が地面に描く近辺の地形を元に冒険者たちは念入りに作戦を立て、墓石に身を隠しながら、甲斐さくや(ea2482)と密偵の先導で慎重に廃寺に接近していく。
(「与一公は言っておられた。信じよと。小山殿は暴走を押さえ込んでいるだけだと、私は信じる」)
 刀根要(ea2473)は、義妹の南天桃(ea6195)に大丈夫かと声をかけた。
「私は大丈夫ですよ〜。おにい様は大丈夫ですか〜♪」
「あぁ。桃さんも油断しないようにな」
 この明るさに、どれだけ癒されたことだろう。刀根は緊張が解れ、少し肩の力が抜けた気がした。他の仲間の顔にも微笑みが浮かんでいる。
「与一公の那須への帰還。とうとう、ですね‥‥ 思えば長くなります」
「はい、そのためにもしくじりは許されませぬ」
「わかっています。黒羽様を誑かさせぬ為に、忍は討ち漏らさぬようにしなければ」
「気を入れて行きまする」
 限間灯一(ea1488)と白羽与一(ea4536)は互いの決意を確かめ合うように言葉を交わした。
(「数々の所行、けして許してはおけませぬ。この陰謀、なんとしても挫かねばなりませぬ!」)
 白羽、限間らと共に戦えることに喜びを感じながら火乃瀬紅葉(ea8917)は気合を入れた。
 この依頼に参加しているのは、謀反の汚名を負いかけた蒼天十矢隊隊長の白羽、隊士の利根や限間を始めとして多かれ少なかれ那須に柵(しがらみ)のある者ばかり。
「貴殿の密偵としての腕、本当に助かる」
 その1人、陸堂明士郎(eb0712)が那須密偵に礼を言った。
「いや、貴殿らの力あってこそ、俺は地の利が活きるのさ」
「その地の利が大きいのだよ」
「この辺にしておこう。今は勝ってこそだ」
 密偵の言葉に頷くと、手分けして廃寺を襲撃する準備を始めた。
「フィーは元気に、平和に暮らしているだろうか‥‥」
 隠れ里のエルフや一角馬・アリオンが護ってくれると信じつつも、自分に逢えないことを寂しく感じていてほしいと思う自分に、鷹見仁(ea0204)は『我ながら難儀な』と苦笑い。
「那須を少しでも良い国にしようと戦う士郎の為、皆が仲良く暮らせるよう頑張る虎太郎の為、そしてフィーの幸せの為、俺は戦おう」
 口をついて出た鷹見の独白に、その場にいた者、全員が少なからず共感を覚えるのだった。

●突入
 合図すると、甲斐は戸の隙間を目掛けて春花の術を使った。全員がオーラエリベイションかフレイムエリベイションの効果下にあるからこそできる荒業だ。これで中の4人が眠ってくれれば‥‥
「起きろ!」
 中で声がする。甲斐は一気に戸を開け放った。 
「やぁああ!!」
 鷹見と刀根を先頭に、陸堂と南天が後に続く。
 眠った仲間を起こしていた隙を突かれ、また大声に動揺したため、黒脚絆の男たちは即応体勢にない。
 それでも頭分(かしらぶん)らしき男は咄嗟に火の付いた薪を掴んで投げてきた。
 陸堂は無骨な鉄の篭手で弾いたが、南天は避けきれない。
 実際にはレジストファイヤーの効果を得ていたために南天が火傷したりすることはなかったのだが、わかっていても反射的に全員が気を取られないわけにはいかなかった。
 それで五分‥‥ いや、虚を突いている分、忍者たちが些か不利か。
「手を出してはいけない者を狙いましたね」
 刀を抜いて飛び出してきた黒脚絆の忍の一撃を、刀根はオーラシールドで受けた。
 南天と甲斐の投げたアイスチャクラが命中し、忍は刀を落とす。
 宝蔵院の銘を持つ刀根の十字鎌槍が胸を深々とえぐり、さらに追い討ちの鷹見の胴田貫と小太刀の同時斬撃が2人を忍の血で濡らした。
「桃、大丈夫ですか?」
「大丈夫、おにい様」
 氷の戦輪を構える南天がニコッと笑うと同時に、ごっと鈍い音を立てて忍が突っ伏した。見る見る血溜まりが広がる。
「熱いですよ〜。女の子に対して酷いです〜。怒りましたよ」
 南天は、いつでも戦輪を放てるよう身構えた。
「ふん、九尾はいないようだな。変化してもいいんだぞ。八俣遠呂智だろうと金毛白面九尾狐だろうと討ってみせよう」
「妙な術で九尾になるのなら死なないうちにした方が良いですよ」
 諸撃のアドバンテージで1人は討った。できれば3人を分断したい。
 鷹見と限間は、にじり寄りながら僅かに包囲網に隙を作った。その時‥‥
 ジュゥゥゥゥ‥‥ ぶわっ‥‥
 忍の頭分は鍋を蹴倒して、灰を巻き上がらせた。3人は一気に包囲の薄い部分を突破して逃げ出す。
「くそっ、目に灰が‥‥」
 まともに灰を被った鷹見や刀根は、とりあえず背中合わせに互いを護った。
「げほげほっ、酷いです〜。謡い手の喉を狙うなんて〜。げぼ‥‥」
 南天や甲斐も灰を吸い込んだり、視界を遮られていいる。
「俺が追う!」
 皆より一歩後ろにいた陸堂は、忍を追うことを優先させた。

●逃げの一手
「突破するぞ!」
 忍たちは堂から飛び出し、包囲していた冒険者たちへと突っ込む。狙いは接近戦に脆い弓兵。
「与一姉様!」
「与一さん!!」
 その声に火乃瀬の愛犬・与十郎と限間の愛犬・燐太郎は協力して忍たちの行方を遮った。
「那須の天狗は、人知れず那須の地を守るのです」
 天狗の面を着けた白羽の矢が忍者に刺さるが、忍者たちの足は止まらない。
「犬め! 小賢しいわ!!」
 忍者たちは刀を振るうが、犬たちは身を捻り、あるいは体をすくめて、それをかわした。
「何ぃっ」
 犬たちは白羽の前に立ち塞がって一斉に吼え始める。虚を突かれたのは、今度は忍者たちの方だった。
 慌てて退路を変えた彼らは、火乃瀬が仕掛けておいたファイヤートラップの炎の柱に驚き、足を止めた。
「臆するな!」
 そう言って踏み出した忍者の頭分が、素早く唱えた火乃瀬のファイヤートラップにかかり、踏鞴を踏む。
「逃がしませぬ」
「小癪な」
 火乃瀬の言葉に、忍者の頭分が吼えたが、それも一瞬のこと。
「戦いの中で戦いを忘れればこうなる。早々舐めてもらっては困るな」
 追いついてきた陸堂の業物の胴田貫が深々と忍の背を開き、限間が振りぬいた相州正宗の刃が腹を抉った。
 ピューィ!
 そこへ追い討ちとばかりに上空から刀根の鷹・羽生と鷹見の鷹・雪風の一撃離脱の爪が襲う。
「南無八幡‥‥」
「万が一にも逃しはしませぬ」
 ビュン‥‥
 白羽天狗の矢が喉を貫き、火乃瀬のマグナブローに包まれて、忍者の頭分はバサと音を立てて横から倒れた。

 突入組の鷹見、刀根、南天、甲斐も追いついてきた。
「くそっ‥‥ 退けっ、退け!」
 8対2、いや犬や鷹も戦力として数えれば12対2‥‥ 勝てようはずもない。
 残る退路は、川から引いた水を汲み上げるための櫓。
 少しばかり高さはあるが、忍者の身のこなしならば飛び降りても大丈夫だろう。それに水が衝撃を和らげてくれる。
 忍者たちは躊躇なく飛び降りた。
 ゴン‥‥ ゴン‥‥
「かかったですね〜」
 苦悶の声を聞いた南天たちは、討ち入る前にクーリングで凍らせておいた作戦が成功したことを確信した。
「皆は気をつけて降りるでござる」
 壁を蹴るように速度を殺してトトッと甲斐が降りると、そこは氷面。予測していればこそ、手さえ駆使して何とか着氷した。
 逃げ出した忍者2人のうち、1人は顔面を強打したのか前歯が欠けている。鼻血を流しながら立ち上がろうとして脚を滑らせた。
 もう1人は脚をくじいたのか動けないようだ。観念した2人は、すかさす得物を自らに突き立てようとする。
「そうはさせないでござるよ」
 甲斐が当身をくらわせた。
「無‥‥念‥‥」
 自害を阻止された忍者たちは冷たい地面に倒れこんだ。
「流石は冒険者。南天殿のこの術も見事だが、連携には感心するよ」
 密偵は器用に降りてくると甲斐を手伝って忍者たちに猿轡を噛ませはじめた。仲間たちも迂回して降りてくる。
「本当に役に立つとは思わなかったです〜」
 南天と甲斐が忍の懐を探ると書状が出てきた。
 1通は神田城の小山朝政宛。与一公の花押まで記されていた。
「偽の書状か。小山様が惑わされるとは思わぬがな」
 1通は神田城のある藩士、1通は八溝砦の黒羽宛であった。差出人はいずれも『咨士』。
「咨士‥‥ 吉次の字を崩したのでございましょう。それにしても武士に問うとでも言いたいのでござりましょうか」
 火乃瀬は差出人の隠語を読み解き、唇をきゅっと噛んだ。
「いずれ追い詰めなければなりませぬね」
(「あの方は覚えておいででしょうか。我が王を再び那須の陽の下へとお約束致しました。那須の与一が光ならば、白羽の与一は影。白羽は影となり那須をお守り致しましょう」)
 決意も新たに白羽天狗は、ようやく天狗の面を外すのだった。
「草刈りて」
「更に種蒔く」
「そういえば、合言葉は必要なかったな」
「戦いにおいては緻密に策を立て、大胆に実行し、相手を決して見くびらず、しかし不敵に笑う。それが俺の流儀だ」
「使わなければ、それでも構わない‥‥か」
 陸堂と鷹見はニッと笑った。
「種は手に入れたな」
 手に入れた書状を眺めながら刀根は2人を見た。
「草は刈りました。種を蒔いて、与一さんの言うように摘み取らなければ」
「そうでござるな」
 限間はその意図を汲み取り、甲斐と静かに溜め息をついた。
「とりあえず、危機は防いだってことですよね〜」
 南天は微笑んだ。
 なお、八溝の那須兵が砦を離れることはなかった。