●リプレイ本文
●新しい旅の仲間
「フィーさん、少し久しぶりでしたね。変わったことはなかったですか?」
「大じいじが里の外に出ちゃ駄目だって言うからお出掛けできなかったの。でね‥‥」
友人からのお土産である天使の羽飾りを着けてあげた松浦誉(ea5908)は、思ったとおりにフィーに似合っているのを見て満足そうだ。
「そうだったんですか。お元気そうで嬉しいです」
「嬉しいのでしょうけれど、そんなにポンポン話しかけたら答えられるものも答えられませんわよ。
まあ、フィーさんは変わらず、松浦さんも進歩な‥‥変わらずのようで良かったですわ」
落ち着きなく話す松浦に潤美夏(ea8214)は一瞬思案顔。
おそらく今回の悪戯は何にしようかと企んでいるに違いないのだが、そんなことに気づかないほどに松浦は満面の笑みを浮かべている。
「それよりも出掛けてはいけないなんて何かあったのですか?」
「士郎お兄ちゃんが来てたけど、暫くしてお出掛けしたくらいかなぁ」
「士郎?」
「須藤士郎っていうお兄ちゃん」
「ふ〜ん‥‥ 知らない人のことはどうでもいいですわ。それにしても山もすっかり紅葉して秋深し、と言ったところですわね」
事の重要さに気づいていない潤とフィー‥‥ まぁ、どうでもいいちゃあ、どうでもいいんだが‥‥
「まあ綺麗ですから何でも良いですか。では、負けずに綺麗なお山へ参るとしましょう」
松浦父は父でフィーに見とれて2人の話すら聞いてないし。
とまぁ、フィーと何度もお出掛けしている2人が盛り上がっていると‥‥
「ボクの名前は鈴苺華(りん・めいふぁ)♪ 歌って踊れる戦闘妖精だよ♪」
「私は冬狐と言います」
シフールの鈴苺華(ea8896)が紅葉が散るようにヒラヒラと舞いながら、字冬狐(eb2127)が風を表現して手を振り、体を入れ替える。
「「フィーちゃんとは初めましてだね? これからよろしくね♪」」
「よろしく♪」
わぁと瞳をキラキラさせながらフィーは2人を見つめている。
「紅葉狩りだったらボクに任せて♪ 紅葉を狩るなんて赤子の手をひねるようなモンだからね♪」
「うん♪」
うん♪じゃないって、フィー‥‥ 突っ込むべきか悩む松浦に潤はクスリと吹き出した。
そこへ線の細い3人が近寄ってくる。
「僕はハロウ・ウィン。フランクって所から来たウィザードだよ」
年の頃はフィーと同じくらいだろうか、どこか可愛らしい仕草で笑いながら帽子を取ってハロウ・ウィン(ea8535)が長い耳を見せる。
「ジャパンにもエルフがいたんだね。同族に会うのは久し振りなんだ。フィー君、僕と友達になってくれないかな?」
「友達ってなろうとしてなるものじゃないって、若兄さまがいってたよ。
だからハロウがフィーのことお友達だって思ってくれるだけで友達だよ」
フィーはハロウに抱きついた。
「ぼ、僕、男だよ。もしかして間違ってない?」
ハロウが赤面してフィーを引き離した。
ボーイッシュな感じがするが可憐な雰囲気も持っている‥‥、違う違う、可愛らしい男の子というのが正解なのか。
「ふ〜ん、男の子なんだ。よろしくね♪」
そう言いながらも握手した手は放さないところを見ると、どうやらフィーにはあまり関係ないらしい。
「はじめまして、うちはライ。クゥエヘリ・ライよ。ホンマ、グラスに聞いてた通り可愛いね」
クゥエヘリ・ライ(ea9507)は、フィーを抱き寄せながら背中を優しく叩いた。
秘かに保護者の座に危機を感じた松浦のことはとりあえず置いといて‥‥
「ステラ・シアフィールドです。フィー様、よろしく‥‥」
目深に被ったフードから僅かに顔を覗かせたステラ・シアフィールド(ea9191)は静かに笑った。
「良く考えると異国の方が多くて、すごい旅の仲間ですよね」
松浦が遠い目をしている。
フィーを入れてエルフ3人、ハーフエルフ、ドワーフ、シフール、‥‥で人間が2人と日本では確かに目立つ。
「関係ありません。こうしていられれば、私には至福‥‥」
冬狐はフィーとハロウを抱きしめながら、はにゃ〜んと幸せそうだ。
「どうして必ず抱きつき魔いるのか、本当に不思議ですわ」
失笑する潤の表情もどこかほんわかしているのだった。
●到着♪
さて、フィーから那須の山々の秋の彩を聞きつつ目的地へ向かった一行。
到着した山は、松浦の知り合いの占いが当たったのか紅葉が見ごろになっていた。
里の木々とは雰囲気が違うと嬉しそうにするフィーを見て、一行も自然と笑顔になっていた。
「ありがとう」
クゥエヘリ、ハロウと3人乗りしていたフィーは馬の首筋を撫でると背から降りた。
「少し遊んでらっしゃい」
クゥエヘリが鷹の蒼穹を放すと、一直線に舞い上がっていく。
「さて、途中で少しは紅葉を堪能したことですし、まずは落ち着く準備をしましょう」
松浦などはテントを張り、早速お泊りの準備を始めている。
「さぁ、働かざる者、食うべからずですわよ」
潤はというと竈を組み始めていた。
「流石、お出掛けの達人ですわ。これが家事なのですね」
料理人・潤の弟子となった冬狐は感心しきり。習うより盗めという教育方針のもと、冬狐は石を運ぶ。
これは使えませんわ、とか折角持ってきた石を放り投げられたりしながらも、冬狐は熱心に家事の極意を盗もうとしている。
尤も簡単に盗ませるなんて潤がする訳もないのだが‥‥
「寝床を確保したら秋の幸を採りに行きましょう。フィーさんが詳しいですから先生をしてもらいましょうよ」
「ボクもお手伝いするよ♪」
躍ってテント張りの応援をしていた鈴が元気良く答える。
お〜♪とか声を上げる一行の中でハロウがこっそり潤の側に寄ってきた。
「えっと‥‥ 僕、肉や魚が苦手なんだ」
「わかりましたわ」
にこ〜っと笑う潤に安心したのかハロウはフィーの元へと駆けて行った。
さてさて、この時期の秋の幸といえば、やはり茸だろう。テントと竈の用意ができた一行は散策に出掛けることにした。
「じゃあ、またね♪」
フィーが去っていく鹿に手を振る。
「元気な子。皆に好かれるのがわかるわね」
小動物たちと遊んだりしながらクゥエヘリたちと森の中を進む。
探すところを間違えなければ意外なほど茸は生えていた。
「これとこれは似てるでしょ?
でもねほら、こうして割くとね。根元が黒いのがあるでしょ? これは毒があるから食べちゃ駄目なんだよ」
毒茸の見分け方を教えるフィー先生にクゥエヘリやステラなども感心しながら聞き入っている。
「これは食べられるの?」
ハロウがさり気なく毒茸を選んで皆に見えるように別の茸を見せた。
「これは毒があるんだよ」
「そっか、危なく集めちゃうところだったね」
どうやら植物や毒草に詳しいハロウなりのフォローの仕方のようだ。
こうしてフィーを中心にワイワイ騒ぎながら茸採集が始まった。
●熊った熊った
立派な木をプラントコントロールで操ってフィーを木の頂上の特等席に案内してあげたハロウ。
近くの栗の木の下では仲間たちが栗を拾っている。
「フィー君、これあげる。仲良しになった記念だよ」
「うわぁ、良い匂いがする♪ ありがと」
香り袋を渡すハロウの顔は赤い。紅葉の色が陽の光に反射したわけではあるまいが‥‥
次の瞬間、ほっぺに柔らかいものを感じて余計に真っ赤になってしまった。
‥‥‥‥ 暫し時が止まったか?
さて、栗拾いをしているところへ『お手伝いしますわ。とぅ!』と栗の幹に蹴りをかまし、自分は三度笠と外套で毬(いが)を避けようという予定だった潤だったが、ハロウがプラントコントロールで幹ごと枝を地面近くまで下ろしてユサユサ揺すったので、悪戯は不発に終わっていた。
「何かいます。結構大型の生き物みたいです」
栗拾いに夢中になっていた一行はブレスセンサーで警戒していたステラの言葉で緊張に包まれた。
がさがさ‥‥
「食べられちゃっても知りませんよ」
ステラにポンポンと叩かれて、ガバッと松浦は起き上がった。
「死んだふりって駄目なのですか?」
「さぁ? しかし、逃げるか倒す方が確実じゃないですか?」
松浦を放って牽制のためにグラビティーキャノンの詠唱に入ったステラ。
「狩りでもないのに殺すなんていうことをフィーさんの前でしたくはないです」
「そうですね。無駄な殺生は避けましょう」
ステラを止める松浦の言葉に冬狐が頷いた。そこへ茂みの奥から熊が現れる。
「でもどうやって‥‥」
ステラは身構えた。雰囲気だけで熊の気が立っているのがわかる。
「今の時期は、あの子たちも冬篭りに備えて食べ物を探してるから気が立ってたりするんよ。親しい子でも危険な時があるからね」
クゥエヘリもできれば熊を傷つけたくなかった。しかし、普通の方法でどうにかなるほど容易くはない。
こればかりは動物と仲良しになることに長けたフィーでも、どうにかできるかあやしい‥‥
「ここで『くまったなあ』とか馬鹿なこと言いだしたりしないですわよね?」
潤のせいで一足早く木枯らしが‥‥ 熊もくしゃみをしている。
「皆が逃げてる間、ボクが注意を引いてもいいよ。かわすのは得意だからね」
鈴が熊の眼前に飛び出そうと一行の前にフワと舞った。
「大丈夫。魅了と以心伝心の経巻があるのです。敵意さえ削げば、お帰り願うことができるでしょう」
「残念‥‥ 僕もテレパシーのスクロールを持ってるけどバックパックの中だよ」
紅葉の木を操って降りてきたハロウは苦笑い。いざとなれば木を操って妨害くらいはできるだろう。
ともあれ冬狐はチャームの経巻を取り出して集中した。
途端に熊は唸り声を止めた。続けてテレパシーの経巻を取り出す。
「大丈夫。私たちは敵じゃないわ。熊さんの食べ物を盗ったりしないから森へお帰り」
籠の中身に興味を示す熊の方へ木通(あけび)を投げると冬狐は優しく微笑みかけた。
熊は美味しそうに木通をガブッと食べると満足げな声を上げて茂みの中に消えていった。
「ところで潤様は、なぜ剣を抜かなかったのです? この中では一番腕が立つというのに」
「簡単ですわ。疲れますし、何より、あんなでかい物を捌きたくないので」
ふふ〜んと笑う潤に溜め息をつきながら、彼女の性格が理解できてきたステラたちなのであった。
●食、それは戦い
栗は半ば灰になった竈の炭の中に毬ごと放り込む。途中で松浦が焼け栗で額に火傷するハプニングがあったが、美味しそうに焼けている。
続いて茸づくしの味噌汁。ちょっぴり苦いが濃厚な味と香り、キシュキシュした食感はたまらなさそうである。
他にも串に刺してホクホクに焼き上げた長芋に塩のピリッと利いた蒸しムカゴ。こちらは酒が進むこと請け合いだが、今回は生憎と酒飲みはいない。それでも美味そうなのは間違いない。
「え〜〜‥‥ 魚が入ってる」
「好き嫌いは良くないですわよ。そんなだからエルフは線が細いのですわ」
椀を見つめて固まるハロウに勝ち誇るような潤。それを見て冬狐が一言‥‥
「これが家事の極意‥‥」
違〜〜う! まぁ、潤流家事32段の極意に違いないのだが‥‥
「でも、ドワーフは慈悲深い種族。ちゃんと用意してあるのですわ」
ホッとした様子でハロウは魚の入っていない別の椀を受け取った。
「潤様のお手を煩わせずとも自分でよそえば良いんですよね‥‥ ふふふ」
自前のお玉まで用意して慎重に潤の罠を避けようとする松浦。もはやトラウマと言ってもいいだろう。
「あら、師匠が松浦様のためにと特別に冷ましたものを用意してくださっているのですが」
冬狐がやんわりと湯気を立てている別の鍋を指した。
「ようやくわかりあえたのですね‥‥」
心の中で涙しながら、松浦は自分の椀にそれを装った。
「それでは山の幸に感謝して」
「「「「「「「「いただきま〜す」」」」」」」」
クゥエヘリの音頭で声を揃えた。
「‥‥」
しかし、このときになって松浦は汁物の具が微塵切りにしてあって箸でつかめないことにようやく気がつくのであった‥‥
「松浦さんには特別として、出汁が山菜の中によく染み込むようにしておいたですわよ」
どうやら今回も潤の勝ちのようである‥‥
一通りお腹一杯になったところで郁子(むべ)や木通を食べることにした。独特の甘みが口の中に広がる。
そうそう、熟すと割れる木通と違い、郁子は割れないのだという。郁子が葉を1年中つけているのに対して木通は枯れたりとか、フィーとハロウの講釈で結構勉強になったことも多い。
「ねぇねぇ」
フィーに肩を叩かれてステラが振り向くと指がホッペに当たった。
クスクス笑う皆とは裏腹に、ステラは頬に木通のほくろができたことに気づいていない。
そしてニコッと笑ったフィーを見て、皆が一斉に吹き出す。フィーの歯が真っ黒だ。
種の混じった果肉を葉の外側にくっつけているのである。
さらに皆が笑い転げている隙に果肉を食べてしまうと、種を器用に吹き出してハロウに中てた。
「わわ‥‥ くすぐったいよ」
ハロウも負けじと種を飛ばす。
「あはは‥‥ 私も子供の頃によくやりましたね」
松浦はしみじみと故郷を思い出しているようだ。手作りの団栗の駒を手の平の上で回しながら遠く家族に想いを馳せた。
●お休み‥‥
数日の旅の間に一行はフィーとすっかり仲良しになっていた。
「えへへ♪ あったかい‥‥」
鈴はフィーに抱っこされるように眠りに落ちてゆく。
「疲れたんですね。可愛い寝顔」
「楽しんでくれたみたいで良かった」
フィーを挟むように添い寝する冬狐とクゥエヘリ。
おっと忘れてはいけない。フィーと冬狐の間には、もう1人。
冬狐に捕まってテントに引きずり込まれ、寝るに寝られないハロウの姿があるのだった‥‥