【深緑】 おでかけ女神10(2−2)

■シリーズシナリオ


担当:シーダ

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 7 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月26日〜12月06日

リプレイ公開日:2005年12月08日

●オープニング

 わっわく、うっきうき‥‥
『どうしたのだ? フィー』
「そろそろ温泉が気持ちいい季節だからって、連れて行ってもらえる約束なの。アリオンも行けるといいのに」
 話しかける一角の白馬をアリオンと呼び、その裸背に跨っているのは下野国那須藩内・エルフの隠れ里のフィーというエルフの少女。
『誰も来ないような山奥の秘湯で良ければ私が連れて行ってやるが、いくかね?』
「皆も誘っていいかな?」
『皆?』
 瞳を輝かせて首筋に手を回してアリオンの顔を覗き込むフィーに気づいて一角馬は歩みを緩め、首を僅かに巡らせた。
 どうやらアリオン、話の筋をすっ飛ばしてしまった模様‥‥
「うん♪ いっつも連れて行ってもらうばっかりだもん。前に里に皆を招待した時も喜んでくれたし、たまにはいいと思わない?」
『フィーと2人の方が‥‥』
「ん?」
『いや、何でもない。案内は任せよ。といっても山の精が護る場所だからな。くれぐれも失礼のないようにせねば』
 少し寂しそうな顔をしながらアリオンは苦笑いを浮かべるのだった。

 ※  ※  ※

 所変わってエルフの隠れ里の長老のおわす古木の洞の中‥‥
「長老‥‥ フィーがお出掛けを楽しみにしてますが、どうします?」
「大丈夫じゃろうて。我らに九尾の狐と対抗できるような猛者はおらぬし、わしらがこの隠れ里を出ぬと踏んでおろうよ。
 騒乱の種を撒いて高みから見下ろして楽しむのが、あ奴の楽しみなのじゃから邪魔立てする動きさえしなければな」
 エルフの隠れ里にも江戸の与一公から様々な情報が届いているらしく里の長老と若長は真面目な顔で話をしている。
「一度も妖狐の襲撃を受けていないのは、先の鬼騒ぎで神弓を使わなかったのが無用の警戒を与えなかったということでしょうか?」
「その通りじゃな。神弓がどのような状態にあるのか把握したと思い込ませられたからこそ狙われずに済んだということじゃな」
「わかりました。警戒だけはしておきますが、それで宜しいのですね?」
 暫し語り合った長老と若長は静かに頷いた。

 ※  ※  ※

 江戸冒険者ギルド那須支局を経由で江戸冒険者ギルドにもたらされた1つの依頼。

『人分け入らぬ山奥の秘湯にエルフの娘・フィーと一緒に同行してくれる冒険者を募集』

「そう言えば、もうすぐ下野国の温泉祭りだな。今年は俺も休みをもらって行ってみるかな〜。
 去年も今年も那須へ冒険者を送り出す斡旋を沢山したからな。どんな風になってるか自分でも見てみたいし‥‥
 おっと、そうだ。今度はエルフのお嬢ちゃん、フィーの護衛依頼という名目の温泉訪問だぞ。
 温泉の湧くところって危険だから気をつけてな」
 笑うギルドの親仁に肩を揉まれた冒険者は、仲間に声をかけると那須へ出発した。

●今回の参加者

 ea5908 松浦 誉(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea8535 ハロウ・ウィン(14歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea8896 鈴 苺華(24歳・♀・志士・シフール・華仙教大国)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9507 クゥエヘリ・ライ(35歳・♀・レンジャー・エルフ・インドゥーラ国)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb0406 瓜生 勇(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

セレン・ウィン(ea9476)/ 所所楽 柳(eb2918

●リプレイ本文

●一角馬現る
 山伏や穏やかな山鬼たち、烏天狗までが現れ、しかもフィーが角を持った白馬を伴っていたことが釈迦ヶ岳にフィーを迎えに行った松浦誉(ea5908)たちを驚かせていた。
「一角馬ですわ‥‥ 綺麗」
 以前一角馬に出会ったことのある瓜生勇(eb0406)はポツンと呟いた。
『道案内をするアリオンという。宜しくな』
「松浦と言います。こちらこそ宜しくお願い致します」
 動転しているのか馬と会話して挨拶していることに違和感を感じていないようである。
「仕方ない方ですわね‥‥」
 潤美夏(ea8214)は苦笑いするのだった。
「道案内宜しくね♪」
『男に触れられるのは好かぬ』
「あ‥‥ ご免なさい」
 その体に触れようとしたハロウ・ウィン(ea8535)は、困惑を感じさせる拒否の意思を感じて手を引っ込めた。
「フィーさんね。聞いていたより可愛いんですね」
 皆に大切にされる存在が放つ暖かな空気に心を温められた瓜生はアリオンの姿を一通り眺めた後、フィーを愛おしく見つめた。
「故郷の島から1人で外に出たのは今年からなんですよ。あたしと同じね」
 初めて里を出た時のドキドキ感を話し始めた瓜生はフィーに周囲には自然と笑みが生まれた。そんな中‥‥
「ふぅ〜ん。アリオン君って言うんだ? 僕は鈴苺華(りん・めいふぁ)だよ♪ よろしくね♪」
『よ、宜しくな。そなた妖怪ではないのか?』
「やだなぁ、シフールって言うんだよ。ふぃーちゃん♪ お久しぶり〜♪ 元気だった? また一緒に遊ぼうね♪」
 フワリと飛んでくる鈴苺華(ea8896)に戸惑いながらもフィーの頭に楽しそうにとまっているのを見て、アリオンも安心したようだ。
「寒くなってきたよね」
 襟に撒かれている毛皮に潜り込んで頬寄せて微笑む鈴に、クゥエヘリ・ライ(ea9507)がクスクスと笑う。
「アリオンさん。これから行くところは馬でいける場所なのですか? 見れば分かりますが体力のない人もいるんです。まあ、遠くてもアリオンさんがフィーちゃんを乗せてくれるなら少しは安心なんですが。どうなんですか?」
『行けぬこともないが、馬なしでも休み休み行けば大丈夫‥‥ だが、そうしたら男を背に乗せなければ‥‥ しかし‥‥』
 アリオンは宙を見たり、地を見つめたり‥‥
『結構人数も多いのだな‥‥』
 ステラ・シアフィールド(ea9191)に馬首を巡らすと、背丈とローブの膨らみから予想できる体格に溜め息をつくように『連れて行くがいい。ただし、多くは必要ない』そう言った。
(「からかい甲斐がありそうですわね」)
「良かった。温泉を楽しみにしてくれて」
 ふと笑みを浮かべているのに気がついて真顔に戻した潤は、フィーに髭を引っ張られているのに気が付いた。まぁ、フィーが勘違いしているのは、この際髭の痛みに比べれば些細なことなのであった。

●山の心
「この国の山河も土地土地によって姿を変えるが、俺の故郷エジプト王国も良いものだ。広大な地平、悠久なる大河、豊かな緑、返して過酷な砂漠、灼熱の太陽。フィーにも見せてやりたいが、あまりにも遠いか‥‥」
 夢見るようなレイナス・フォルスティン(ea9885)の話し様は魅力的だ。幾人の女性が口説かれてきたことか‥‥
「行ってみたいなぁ」
 美しい金の髪に薔薇色に染まった肌。女神‥‥ 闇をも照らす光‥‥ ありがちな形容だが、そういう言葉がよく似合う少女だ。『この笑顔を独占したりしたら恨まれそうだ』、心の中でそう独りごちてレイナスは苦笑いするのだった。
 さて、共にアリオンの背にあって故郷フランク王国の話やエルフに伝わる歌などを聞かせてくれたステラの配慮もあって旅路は楽しいものとなっている。
「この先なんだよね、アリオン? 草木が少なくなってきたし、向こうの谷に煙が見えるよ」
 プラントコントロールで枝を払うことなく道を拓くハロウ。体力のない自らが山を進むために使った魔法であったが、何も自分のためだけに使うことはないと気づくまで多くの時間はかからなかった。また、野生の動物たちにはテレパシーのスクロールを用い、ハロウは無用な衝突を避けている。
『優しき森の語り部よ。お前に会えたことを嬉しく思うよ』
 ハロウや瓜生のグリーンワードで周辺の様子や危地の情報の断片を得たこともあり、アリオンの道案内もより確かなものになっているようだ。そして修験者たちが踏み入る場所を抜けようというとき、眼前に祠が現れた。『山を敬うべし』、そう刻まれただけの石碑であったが、山伏たちが手入れしているのか綺麗に整えられていた。
「あ、山神様の祠だよ」
『気をつけた方が良いぞ。山の精が、この辺りを守っておられるからな』
 草を摘んで祠に供えて手を合わせるフィーの隣でアリオンが膝を折って目蓋を閉じた。
 山の入り口の祠には何でも良いから草花を供えて祈って山に入るのが礼儀らしい。他にも色々と習わしみたいなものがあるらしいが、畏敬の念だけ忘れなければ山でも海でも通用するものだとはアリオンの言。

 さて‥‥
 道中に危険な獣は現れず、各人の持ち寄った知識と能力による工夫で危機からは縁遠い行程となった。
 温泉に着いて松浦らが雨風避けの天幕を設置する間、フィーやハロウ、クゥエヘリやステラたちはお手伝いすることもあまりなく、軽い物を運んだり、縄を支えたり。そんな風なので御喋りに花が咲いていた。
「知り合いのお土産に茸を探そうと思ってるんだ。フィー君、この辺に変わった茸ってある?」
「う〜んとね。食べたら笑い出す茸なら行きに見たよ」
「‥‥ ドクターなら喜ぶかな」
 多少疑問に思いながらもハロウは帰りがけにその茸を採って帰ることにした。
「変わったお土産ね」
 遣り取りを聞いていたクゥエヘリがクスッと笑う。
 そんな3人を見て鼻をスンと鳴らす松浦。寒風が身に染み、若者の話に入っていけない自分にめっきり歳を感じていた。

●秘湯
「アリオン君は後で入りなさい。キミも男の子なんだからこっちは駄目だよ♪」
『男どもと入らなければならんのか? 傷ついてしまいそうだ』
 シュンと踵を返すアリオンに勝利した鈴が温泉へ帰還するころ‥‥
「そういえば、最初のお出かけも温泉でしたわね‥‥」
 潤は湯の中で手を組むと絞り込むようにしてフィーに湯を飛ばしていた。髭に触ろうとしていたフィーがきゃあと声を上げながら2人で笑いあう。
「まったく、もぅ」
 フィーの髪を洗っていて巻き込まれたクゥエヘリも笑いながら湯を梳くった。自分の歳ならフィーくらいの娘がいてもおかしくないと感慨に浸っていただけに照れ隠しである。
 まぁ、楽しい時間であることに違いはなかった。

 冷たく澄んだ空気は星を一層輝かせ、天に近く手を伸ばせば掴めそうであった。
「わ〜広々‥‥」
「何か言ったか?」
「いや、何も‥‥」
 湯に浸かりながらしみじみ語る松浦にレイナスが聞くが、答えはこうだ。
「寒いですねぇ」
「はい‥‥」
 静かに空を見上げる松浦にハロウも答えるが、答えは極々平凡なものであった。
「ゆっくり温まって体と心を癒しなさい。山は激しくもあり、優しくもあるのだから」
「そうですね‥‥って、え?」
 湯気を纏った子供は歩き出し、ふいに消えた。
「あれは?」
「山の精‥‥なのかな?」
「不思議なところだ。ジャパンというのは‥‥」
 松浦とハロウ、そしてレイナスは軽く溜め息をつく。
 ちゃぷ‥‥
 水の音さえ染み渡り、響き渡るような穏やかな山であった‥‥

 皆が入り終えた後、ステラは1人で湯に浸かった。その身に刻まれた過去を他人に見られたくない。その心の傷がそうさせていた。
『心まで癒してくれる者が現れねばお主の闇は祓われないのか‥‥』
 ザブと白馬がその身を湯に沈めるのが見えた。
「お察しくださいますよう」
『口が過ぎたようだ‥‥ 向こうを向いていよう』
 アリオンの言葉を最後に無言で静かな時間だけが過ぎていった‥‥

●鍋
 さてさて‥‥
 今回の見せ場〜♪ ではないが、毎回皆で楽しみにしている潤の料理の仕込みが始まった。
 山奥の温泉ということで現地での食材の入手が困難だろうと予測して皆で材料を持ち寄っている。
「松浦さん、しっかり下ろすのですわよ」
「わかりました、潤さん。フィーさんもやってみますか? 鍛えられますよ。色んな意味で」
 松浦は大根を下ろしながら心の声が思わず口をついたことを心中の苦笑いした。
「ボクにはちょっと無理だね♪」
 隣にちょこんと座ったフィーは下ろしかけの大根を持って必死に頑張っている。その頭の上にうつ伏せになった鈴が足をパタパタさせている。
「お鍋、沸いたよ」
「出汁の方は良いみたいですわね」
 ハロウがクリエイトウォーターのスクロールを使って水を張った鍋に潤が出汁を取り、肉や茸などをぶっこみ、煮えたら水気を軽く切った大根おろしを投入する。
「そろそろ良いようね」
 瓜生が濛々と湯気を上げる湯から竹籠を上げて笑みを浮かべた。

 そんなこんなで出来上がった料理はフィーたちは腹を満たしつつある。
「みぞれ鍋も美味しいけど焼き魚も美味しいね」
「フィーさん、好き嫌いがないのは良いことです」
(「しかし、今日は一体どうしたのでしょうか?」)
 椀に息を吹きかけ地道に冷ましていた松浦は心の中で首を捻った。
 悪戯でいつも自分の1枚上を行く潤に対して勝てないと悟った故に無駄な足掻きを止めたのだが、はて‥‥ 漬物に箸を伸ばして口に入れ、松浦は生暖かさに眉を顰めた。
「近頃寒くなりましたわ。特別に温泉で漬け込んで温めておきましたわよ」
 やはり潤である‥‥ そのうち潤と言えば悪戯の形容として使われるようになるのではないか‥‥ 本気でそう松浦は考えた。
「口直しにこれをどうぞ」
 温泉卵の肌触りと色を確かめつつ、潤は出汁を入れた椀の中に卵を割って浮かべた。
「あ、美味しいですね」
 とろりと溶けるように口の中に広がる卵の味に松浦は思わず顔が緩む。
「良かったですわ」
 見てわかる通り、潤の一時の仕打ちが悪戯だとわかるだけに松浦も笑うしかなかった。
 鈴やレイナスが楽しそうに踊り、フィーがそれに加わったのを見てクゥエヘリらも楽しそうに笑っている。今は皆が楽しければそれで良い。いや、そんなことを考えなければ楽しめなくなったのか? そう思うにあたり松浦は失笑気味に笑いの輪に加わるのであった。