【深緑】 おでかけ女神11(2−3)
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■シリーズシナリオ
担当:シーダ
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 88 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月10日〜01月17日
リプレイ公開日:2006年01月31日
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●オープニング
ざわわ、ざわざわ‥‥
冬ともなると豊かな山も多くの木が葉を落とし、生き物たちも冬篭りでその姿を隠している。
ぴしし、さかかか‥‥
風に運ばれる乾いた葉の音は、積もった落ち葉を掠りながら、時にびゅおっと茶色の旋風を伴う。
『フィー?』
「若兄さまがね。温泉祭りに行っていいから、お正月は里に居なさいって」
葉の梳けた木々の合間から覗く姿は、一角の白馬と黄金の髪を持つエルフの少女。
白い鬣は爽やかな雲か、はたまた金の髪は温かな陽射しか‥‥ この場だけは、冬の寒さも江戸の大火も妖たちの跳梁跋扈も関係ないようであった‥‥
『出掛けたかったのかい?』
「うん、ちょっと寂しいなぁ」
フィーの寂しそうな顔も本気ではないように思える。アリオンは馬首を巡らせて、優しくその頬を顔ごと少女の体に預けた。
『少しでもフィーと居られて私は嬉しいが』
「私も♪ 今年はアリオンと初日の出を見に来れたもんね」
彼らが見つめる新年の朝日は例年と変わらず、美しい‥‥
※ ※ ※
さて‥
江戸の冒険者ギルドに1人の男が顔を出した。
「ギルドマスターに会いたいのですが、取り次いでもらえまするか?」
「ちょっと待ってくれないかな。彼との話を先に済ませてしまうから」
あまりに気さくなこの男、気さく過ぎてギルドの親仁も思わず冒険者に接するが如く対応してしまっている。
対応していた冒険者に『あちらを先にした方がいいのでは?』と言われて振り向くと、静かに腰掛けて待っているのは‥‥
「与一公‥‥」
「用は済んだのですか?」
「いや、まだですが‥‥」
「なら、先にそちらを済ませてください。あ、どうも」
ギルド員が出してくれたお茶に礼を言うと、ずずっと一息ついて『さ、さ』と親仁を促した。
他の職員にギルドマスターへの取次ぎを頼んで慌てるように話を済ませた親仁は変な汗をかいている。
「それで、今日はどのような御用で?」
「知り合いのエルフに年賀の挨拶状を出すのですが、それを依頼しに。本来なら月華に頼むところなのですが、配達で忙しそうなのでね」
どこまで本気なのか与一公の笑顔からはわからない。この数ヶ月の江戸暮らしで気が抜けてしまっているのか、それとも神剣騒動などで鍛えられたか‥‥
『エルフの娘・フィーの里に年賀状配達をしてくれる冒険者募集』
「あの娘の里の場所を知っているのは一部の冒険者だけだからな。という訳で、お前さんたちへの御指名依頼だ。
分かっちゃいるだろうが、配達する手紙の中身は見たりしたら駄目だからな。
って言うと見たくなっちまうが、そこは堪えてくれよ」
江戸ギルドの一室に集まった冒険者たちを前にギルドの親仁は笑顔で彼らを迎えた。彼の目の前には上等な包みが置かれている。
「依頼人は与一公だからな。ギルドとしても問題にはしたくないんでな」
ギルドの親仁も最後だけは小声で話している。成る程‥‥と様々な想いを抱きつつ、冒険者たちは那須へ出発するのだった。
●リプレイ本文
●隠れ里
「その先を行きますと‥‥、実は近道になっていたりしますわよ?」
「何なんですか? その同意を求める言い方は‥‥」
潤美夏(ea8214)が小声で『嘘ですけど』と付け足すのは聞き逃したものの、松浦誉(ea5908)は語尾の変化にすかさず突っ込んだ。
「隠れ里なんだから気をつけないといけないのですわ。火中の栗は拾ってでも喰えと言いますわよ」
「そんなこと言いません。迷ったらどうするんです?」
止める松浦の見ていないところで、潤がぺろっと舌を出す。
「心配性だねぇ♪ でも、じんちゃんにフィーちゃん達の里に行くなら充分気を付けろって言われたよ」
ひらっと鈴苺華(ea8896)が現れる。
「そうですよ。下手に目立つのも拙(まず)いんですからね」
「しかし、フィーさんにわざわざ冒険者つけて年賀状を渡す、とは、与一公もなかなかに変‥‥、奇抜なことをしますわね。偉い方の思考はわかりませぬが、まあ、仕事は仕事としてやるだけですわね」
松浦の語気から風向きが悪くなりそうだと肌で感じた潤は、すかざず話を逸らした。
「月華さんもお仕事大変。正月から配達なんですよね。でも、そのお陰でフィーちゃんに会えるのですから感謝しなきゃ♪」
クゥエヘリ・ライ(ea9507)の言葉に松浦も同意を示し、潤も一先ずホッとしたのだが‥‥
「ねぇ‥‥」
鈴がレイナスの髪の毛を引っ張る。上空ではクゥエヘリの鷹・蒼穹が一鳴き。
「余計な仕事が増えなければ、それに越さぬが‥‥ そこの木陰の‥‥出て来い」
レイナス・フォルスティン(ea9885)の言葉に一同は身構えた。
頭からすっぽりと外套を被った背の高い2つの人影が姿を現す。そこから殺気は感じられない。
「松浦殿に潤殿か?」
背が高く、線が細めで耳が長い。この辺りでエルフと言えばフィーの住む隠れ里のエルフに違いないだろう。
「如何にも。お役目御苦労様です」
松浦が礼儀正しく頭を下げるとエルフ2人も頭を下げた。普段は顔を隠しているステラ・シアフィールド(ea9191)も、このときばかりは若草色のローブを捲って礼をする。
エルフたちの気配を確認して、太刀を抜こうとしていたレイナスから殺気が消えた。
●年賀の遣い
「明けましておめでとうございます、長老様」
古木の洞の中にいたエルフの長老とフィーは、若長が招きいれた冒険者たちを快く迎えた。
「わぁ〜い♪ フィーちゃん♪ あけおめしふ〜♪ ことよろしふしふ〜♪」
「あはは、おめでと。えっ? どうしたの?」
嬉しそうに鈴やクゥエヘリと抱き合うフィーは驚いて言葉になってない。
「して、用向きは」
一方、好々爺然とした長老はというと全然動じず。
「与一公から年賀状を預かって参りました」
松浦の言葉に若長が頷く。
「年賀の知らせか。うつけ者が」
目を細め、長老の表情が僅かに緩んだ。
「士郎兄ちゃん、元気でやってるって。良かった」
「えぇ、無茶も色々と。それよりもフィーさん。私の年賀状も受け取ってくれますか? 皆様にもありますよ」
丑の絵が描かれた年賀状をフィーや長老、若長たちに手渡しながら顔の筋肉が緩みっぱなしの松浦。何事かと思えば‥‥
「今年も家族と正月を迎えることが出来ませんでした‥‥ でもっ! 年賀状は届きましたから常に懐に。
ますます子供たちも字や絵が上手になりました。ほら♪」
嬉々として年賀状を取り出しては集まってきたエルフたちを捕まえて見せびらかしている。
「ボクはじんちゃんの年賀状を持ってきたんだ♪ じんちゃんの名に賭けて♪」
よいしょと分厚い包みを松浦の荷物から取り出すとフィーに渡した。
「すごいね、これ」
「うん。分厚い年賀状だよね。いったい何が入っていることやら♪」
中身は書き物の手本だ。若長がそれを覗いて『良い物を貰ったね』と感心している。
「フィーも御世話になった人に年賀状書けば良かったな」
「お礼の手紙に早いも遅いもない。そんなことは気にしないことだ」
レイナスに頭を撫でられたフィーが頷く。
「そうですね。フィーさんが御礼の手紙を出したいと思ったことが大事なのです。少しくらい遅れても喜んでくれると思いますよ」
松浦も嬉しそうにフィーのことを見ている。帰りがけに松浦たちは江戸の冒険者や与一公に年賀状の返事を頼まれることになるのだが、それは後の話‥‥
●隠れ里の御節料理大会
年賀状の話題が一段落したところで潤が手を叩いた。
「御節の用意をしてきたのですわ。エルフの皆様も手伝ってくれませんこと?」
「餅つきの用意もしてきたんですよ」
「そちらは松浦さんに任せますわ。疲れ仕事は殿方がやるものですわよ」
元々乾物を中心に調理される御節であるから、潤たちには都合がいい。以前来たときにヒートハンドで焼き石を使って豪快に料理している姿を見ているから火の方はそれでいいとして、与一公から隠れ里には本格的な餅つきの習慣などないだろうと聞いてきた松浦たちは必要最小限といってもかなりの量になるのだが、現地で調達できそうにないもの以外を持ち込んでの宴会準備だ。
『乙女以外を載せたのは初めてだぞ』
「そこ、邪魔ですわよ。荷物は、そこに」
一角馬アリオンの愚痴をさらっと無視して潤が仲間やエルフたちに指示を出していく。
『おちおち落ち着いてもおれんのか‥‥』
「その駄洒落、面白くないですわ」
アリオンは拗ねて、とぼとぼ歩いていった。
「火をお願いするですわ」
潤の合図でエルフたちがヒートハンドで竈を熱すると料理が始まった。
ぺったん、ぺったん‥‥
暫くして、もち米が蒸しあがると餅つきが始まった。
木を削りだして臼と杵にして‥‥と、ここまでは何でもないが、プラントコントロールで操った枝が杵に巻きついて力強く突いている。まさに隠れ里流の餅つきといったところだ。
「相変わらず豪快ですわ‥‥」
「そうですね‥‥」
「傑作だな。土産話でもしようと思っていたのに、土産を貰って帰れるなんてな」
潤も松浦もレイナスも笑うしかない。
「でも面白いよ。お山がお餅を突いてくれてるみたいで楽しいしね〜♪」
「本当ですね」
枝に乗っかって、ぎったんばっこんしている鈴を見てステラは微笑を浮かべていた。いつもは被ったままのローブのフードは降ろしたままだ。ハーフエルフだと明かしても、里のエルフたちはステラを特別視しなかったからだろうか。胸のつかえが軽い気がする。
思い起こせば頼まないのに仕事を手伝ってくれたり、さり気なく手を差し伸べてくれたり‥‥
それに散歩をしていても咎められることはなかった‥‥
(「どうしたのかしら‥‥ 楽しいはずなのに」)
思わず流れ出す涙を隠すために僅かの間、ステラはフードを降ろすのだった。
●女だけの小旅行
「綺麗ね」
『初日の出も綺麗だったぞ』
「フィーちゃんと見に来たの?」
「うん♪ お姉ちゃんも一緒に見られたら良かったのに」
「うちも初日の出、フィーちゃんと一緒に見たかったわね。勿論、アリオンともね」
クゥエヘリはフィーに笑いかけると優しくアリオンの鬣に触った。
『鈴もそんなところにいないで出てきなさい』
「へへ、バレちゃったか♪ ありおんくん、さっすがぁ〜」
一段高い岩の上にちょこんと座っていた鈴が降りてきてアリオンの頭の上に着地した。
すとっ‥‥ ふふふっ‥‥ びやっ‥‥
日の出と夕日の違いはあるが、際の景色の変化は趣があって美しい。
ふわっふわっと空から明かりが消え、刻一刻と暗さが増していく。気がつけば影も薄くなってきた。
肌に触った風は急激に冷気を含んでいる。
『暗くならぬうちに帰るとしよう。白き乗り手よ』
「やめてくださいません? うち、照れてしまう」
クゥエヘリはフィーや鈴と一角馬アリオンの背に乗って岩場を降りて行く。夜の帳が降り切るまでには里へ戻らなくては‥‥
●食べるべし
「美味し〜」
ある者は枝に刺した焼き餅を食べ、またある者は雑煮を啜っている。
「これ、ウサギさんだったやつかなぁ」
「きっとウサギさんですね♪」
焼き狸に近くなってしまった餅兎を見つめてクゥエヘリがフィーと笑いあう。
さて‥‥
「何も悪さはしてないですわよ?」
と言われても潤の言うことである。釘を刺された松浦もいぶかしみながら何度か躊躇して口に入れた。
「何もないですね。これも?」
他の料理に口をつけてみるが普通である‥‥
「何もない、と見破れなかった時点で負けですわよ?」
松浦の人の良さに負けた‥‥ こっそり心の中で落ち込むのだった。
さてさて‥‥
「明日は正月遊びをしよう。与一公の差し入れてくれた晴れ着もあるからな」
羽子板やら独楽やらと一緒に晴れ着も持ってきた一行が御節会でエルフたちに正月遊び大会を提案すると、思いのほか評判がいい。
おぉ〜とか声が上がって、線の細さと裏腹に結構熱血っぽいのだ。
「あぁ、フィーさんが羽根つきしているところなんて想像しただけで癒されますね」
松浦は既に親馬鹿全開である。
「私は着たことがないのですが、着物といったものはどのような着心地でしょうか?」
「百聞は一見にしかず。ステラさんも是非」
「え? 私は‥‥」
「ちょっと待って! 羽根つきって地面に落ちないようにシフールを板で叩き合うやつでしょ? フィー、やらないよ」
鈴を庇うように抱きしめているフィーを見て、冒険者やエルフたちは苦笑い。
「違いますよ。羽根突きというのはですね‥‥」
必死に説明する松浦に、ふふ〜んと潤は何処吹く風だ。
翌日皆で漢の汗を流して友情を確かめ合うことなど想像にもつかない一同なのだった‥‥