惨殺の魔鬼 前編

■シリーズシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:8 G 3 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月18日〜05月24日

リプレイ公開日:2009年05月25日

●オープニング

 不穏な空気が流れる昨今のジャパン・南常陸。その土浦、清竜寺。
 山を背後に頂くそこは、近隣の住民とともに、それなりに平和な毎日を過ごしていた。
 が、平和は時として、あっけなく破られることも多い。今回の事件もまた、その例にもれないものだった。
 
 きっかけは、村の嫌われ者・太助。彼はこの数日、怪物の扮装をしては旅人や村人に襲い掛かり、金品を奪い取る事を行っていた。
 が、当初はそれが太助だとは分らず、謎の怪物が出ては襲い掛かるという噂のみが先走っていた。
 怪物は、牛の顔をした、山鬼のような大男。それが暗闇からいきなり襲い掛かってくる、といったもの。そいつは脅かし、人間を棒のようなもので叩き、金品を巻き上げて去っていく、という。
 そして土浦の清竜寺近くにも、その「怪物」が出現。今度は、人間が殴り殺され、連れ去られるという事件が起きた。
 清竜寺に泊まった侍は、この事を知り、一宿一飯の礼に退治してやろうと願い出た。
 が、今回の依頼者・小助はそれを止めた。おそらく怪物の正体は太助だろう。人殺しをしたとはいえ、あいつは知り合い。殺すのは忍びない、捕まえて裁きを受けさせたいと。
 かつては太助とともに悪戯をしていた悪餓鬼の小助。彼は、清竜寺に入れられ、いまやすっかり更生した。なんとか太助を悪の道から救いたいと考えて、その侍に懇願した。
 侍は聞きいれ、向っていく。

 次の日の朝。
 山菜取りの老人が、朝早く山道を歩いていた。
 そこに、誰かが倒れているのを見て近づくと‥‥そこにあったのは、何者かの死体。
 驚いた老人だが、彼は腰を抜かしはしなかった。山を歩いていると、こういう野垂れ死にした人間の死体に遭遇するのは良くある事。いったいどこの誰が亡くなったのかと、遺体を調べはじめたが‥‥今度は恐ろしさに、腰を抜かしてしまった。
 その服装と腰の刀の鞘より、それが寺に泊まった侍だと知った。が、腰は上半分が無かった。引きちぎられていたのだ。
 それも、力任せに引きちぎったに違いない。ひょっとしたら、生きたままで。
 上半身だったものが、更に奥まった場所に捨てられていた。折れた剣を握った手首を見つけたら、老人は気絶してしまった。

 そこから、村人たちは総出で探索を。
 いったいどこのどいつが、侍をこんなにしたのか。少なくともその正体を調べない事には、心配で眠れない。
 そして、森の中を探索した結果。首が引きちぎられ、死んでいた何者かの死体を見つけた。
 別の場所では、食い残しのように、腕や足が散らばっていたり、頭がそのあたりを転がっていたりなど、凄惨にして凄絶な光景が繰り広げられていた。
 
 首が無くとも、手足の刺青からそれが何者かわかった。太助とつるんでいた、けちな小悪党や野盗たち。数日前に村や近隣の酒場に姿を見せていたが、それ以来まったく姿が見えず、怪しいと思っていた矢先だった。
「おい、太助は?」
 村の誰かが口走ったが、太助の遺体はまだ見つかっていない。
 いったいこれはどういう事か。太助が何か、ほんとうに物の怪に変化してしまったというのか。それとも何か、別のものの仕業か。

 さらに森の奥へと向うと、そこには洞窟があった。昔は、倉庫として用いられていたものだが、今では地盤がゆるみ、崩れそうな状況に。そのため、村では危険だからと入り込むのを禁じていた。
 中に入り込むと、そこには強い獣臭と、血の臭い。そして、ずたずたになって壁に吊られていた人間の死体らしき肉塊がいくつか。
 その肉塊のひとつには、牛の頭のかぶりもの。
 それは小助も見たことがあった。行商人からかっぱらったと言いつつ、太助が見せてくれたもの。
 だが、肉塊の中には、太助らしき者の姿は無かった。もっとも、引き裂かれた状態なので、判然とはしなかったが。

「俺が調べてほしいのは、太助がどうなったかって事なんです」
 ギルドにて依頼するは、小助の姿。
 村人たちは、太助がこの事件の犯人で、これらもみな太助の仕業だと思い込んでいる。それゆえ、追い立てて殺してやれという声が大きい。寺の、捕まえて裁きを受けさせるべきという意見は聞き入れる余地がない。
「けど俺には、太助がどうしてもそんなになったとは思えなくて」
 確かに太助は悪党で、更生の余地はまったく見せていなかった。が、小さな悪行はするものの、大きな悪行はしなかった。その度胸が無い事もあったが、子供の頃に母親が目の前で山鬼に食い殺されたという体験から、どうしても人殺しは出来ないタチだというのだ。
「俺は、太助からその話を聞いたことがあります。あいつは泥棒ですが、人殺しだけはどうしてもできない奴なんですよ。俺も、あいつと一緒に色々な悪さをした事がありますから、その事はよくわかってます」
 実際、小助は太助とは一番親しく、彼とは兄弟同然だった。
「だからこそあいつを助けたいんです。もしもあいつがこの事件の犯人だったら、裁きを受けさせたいと思ってます。けど、もしも違うのなら‥‥どうか、あいつを探し出し、助けて欲しいです」
「少ないですが、報酬です。そして、お願いですが」と、小助は自分の貯金を差し出した。無くなった実家の母親が貯めていた金らしい。
「皆さんのお力で、この事件の真犯人を探し出し、そいつが怪物だったら、退治して欲しいです。どうか、よろしくお願いします」
 そう言いつつ、彼は深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3054 カイ・ローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 清竜寺周辺。心なしか、小動物の気配があまりしない。
 リスや小鳥のような動物が居ないものかと瀬戸喪(ea0443)は周囲を見回したが、それらも見当たらない。
「デビルの類はいないようですが‥‥はて?」
「石の中の蝶」は、沈黙を守っている。それは、村の周囲や山、森林、そして寺の中でも同様であった。
 魔の類ではない? では、犯人は?疑問と不安とが混ざりつつ、瀬戸は仲間たちとともに門をくぐった。清竜寺の門を。

「被害状況からして、常人が人を引きちぎるなどといった殺害方法はまず無理です」
「ああ。それに太助は、腕力も普通だとも言っていたしな」
 九竜鋼斗(ea2127)が、瀬戸の言葉に相槌を打った。彼らは清竜寺へと赴き、小助や住職に挨拶した後、聞き込みを行っていた。が、それでも判明した事は、何もわからないという事がわかっただけ。
「となると、鬼か、怪物の類によるしわざか‥‥?」
 茶店の一角にて。卓上に村の簡単な地図を広げつつ、鷲尾天斗(ea2445)も考えをめぐらせている。清竜寺にて村と周辺地域のおおまかな地図をもらい、彼はそれを見つつ思案していた。が、解決の糸口はまるっきり見えてこない。
「一人の人間がやったのなら、その行動には一定の法則や限界がある。それを超えるのは怪物の仕業の可能性が高い。だが‥‥うーむ」
「ともかく、俺は洞窟をメイとともに探ってみたいと思う。無目的に村の周辺や森林を探したとしても、目撃された巨漢とやらは見つからないだろうしな」
 カイ・ローン(ea3054)、青き守護者の二つ名を持つ神聖騎士が、鷲尾の言葉に続いて言った。隣に居るユエ、少女の姿をした精霊が、それを聞いて不安そうな顔で見上げる。
 カイは、相棒のメイ‥‥天を駆ける翼ある白馬、ペガサスに騎乗し洞窟内を探るというのだ。
「では、俺はもう少し聞き込みをしてから、カイとともに洞窟を調査するとしよう」と、九竜。
「俺は、この地図と事件の発生場所を照らし合わせ、それぞれに向ってみる」
「なら、僕もそれを。皆それぞれ、すべき事は皆出来たようですね。行動に移るとしましょう」
 鷲尾に続き、瀬戸が言った。やがて団子を茶で喉に流し込み終えると、四人の冒険者たちは立ち上がった。

 洞窟の主道は確かに大きく、天井も高く、広かった。典型的な山鬼の身長より、およそ2倍はあるだろう。ここならば、図体のでかい怪物の類が隠れるのには困らない。荷物を運び込む荷車くらいならば、十分に入り込める程度だった。
 しかし、カイは計算違いをしていた。洞窟にはメイとともに入り込む余地はあったものの、あくまでも主道のみ。それも、空中を進む程度で、ろくに動ける空間は無かった。
 支道は更に狭く、普通の人間が入り込める程度。フライングブルームならば何とか入り込めはするだろうが、ペガサスで飛び回る事はちょっと難しい程度の空間しかない。
 加えて、壁のところどころにヒビが走っている。雨水の浸食だかなんだかで、次第に崩れ始めていた‥‥と、村人からは聞いていたが、予想以上にひどい。
 この中で何か爆発させるなどの手段を講じれば、すぐにでも落盤を起こせるだろう。天井からの砂埃を浴びつつ、カイは思った。
「なあ、このホウキは速度の調節ができないと聞いたんだが‥‥?」
 おっかなびっくりホウキにまたがっている九竜が、松明で周辺を光に照らしつつたずねた。
「その点は大丈夫だ。それより」
「わかっている。とっとと調べようぜ」
 そう、この洞窟の構造と、事件当時の状況。これらを鑑みておかないと。
 今は片付いているが、凄惨な状況はまだ残っている。鮮血がこびりついた跡、腐臭の残り香、それを行っただろう犯人が残した何か。それを探し出さないと。
 ユエは入り口に残している。何かが起これば、知らせるだろう。二人は静かに、周囲の探索を続けた。

「ふむ‥‥」
 快晴の午後、日はまだ高い。強い日差しの下、瀬戸は図面を手にした鷲尾とともに、最後に「怪物」を目撃した場所に立っていた。
 二人は村にて、「怪物」を目撃したと言われる場所を回り、その多くが何かの見間違いである事を看破していた。
 犯人かどうかは別に、太助が関与しているのは間違い無い。問題は、太助自身がどこに潜んでいるか。そして、犯人はなぜこんな事をしたのか。
 デビルの類に憑依されたなら、この指輪も反応するはずだし、こんなまわりくどい事をせずとも、村や寺は一夜で全滅しておかしくはない。となると‥‥。太助とは異なる、別の何かが現れたか?
 では、その「何か」とは何か。もしこの考えが正しければ、おそらくはそれが真犯人。偶然にも、太助はそいつに間違われたのだろう。
「‥‥なあ、瀬戸さんよ。こいつを見てみろよ」
「これは‥‥なるほど。どうやらこれで、目鼻は立ってきましたね」
 鷲尾に言われ、瀬戸はそこに目をやった。最初はそれは、地面に自然に出来た、浅い穴かと思っていた。が、それは良く見たら、何かの形を成していた。
 穴は大きく、大男が履くかんじきよりも大きい。そしてそれは、いくつもあった。
 それが何を意味するのかを気づくのに、そしてそれが、どこへと続いているのかを知るのに、彼はいささかの時間を要した。
 それは、巨大な何かの足跡。
 足跡が向っていくのは、洞窟だった。そこでは今、九竜とカイが調査しているはずだ。

「!」
 獣臭が、洞窟内に漂う。
 松明の光の下。九竜は、支道の地面に乾いた鮮血の跡を発見していた。それをたどり、さらに進む。浮かぶホウキにまたがっているため、足音を立てない事が不幸中の幸い。
 強くなる獣臭と同時に、別の悪臭が混ざるのを九竜は感じざるを得なかった。腐臭を、あるいは‥‥死臭を。
 ゆっくりと、狭い洞窟内を浮かぶホウキにて進む九竜。やがて‥‥前方の、広い空間へとたどり着いた。
 そこには、確かに存在した。獣臭の源、そして死臭の根源が。
 それが九竜の存在に気づいた時、危機という名の恐怖が彼へと襲来した。

「!」
 カイは、三度驚いた。
 一度目は、九竜がホウキとともに全速力で戻ってきた事に。
 二度目は、九竜が叫んだ事に。
 三度目は、九竜が叫んだ内容に。
「逃げろ! 怪物だ!」
 それを聞いたカイは、四度目の驚きを覚えた。
 そのバケモノそのものが、支道の奥から駆けてくるのが感じられたのだ。

「!?」
 洞窟に用心しつつ接近していた鷲尾と瀬戸は、予想外の出来事に目を疑った。
 ペガサスにまたがった神聖騎士と、空飛ぶホウキにまたがった浪人とが、いきなりそこから現れたのだ。
 カイと九竜。二人は空中に飛び出すと、そのまま地面に降り立ち、そして武器を持ち身構えた。
「九竜さん? カイさん? いったいどうしたんで?」
 鷲尾が尋ねるが、二人は答えない。
 その数秒後、二人を外へと追いやった悪夢が、洞窟から現れた。
「「くるぞ!」」九竜とカイは叫び、
「牛!?」鷲尾はその頭部を見てつぶやき、
「いや‥‥これは、牛頭鬼!」瀬戸はそいつの胴体を見て、正体を知った。
 牛の頭を有した巨漢。全身は、まさに筋肉の塊。小山がそのまま動いているかのような姿は、悪夢そのものの醜さ。そいつがかもし出しているのは、獲物をむさぼり食らわんとする貪婪さのみ。
 手に握るは、巨大な斧。そして、もう片手には何かぼろきれみたいなものを握っていた。
 いや、それはまさしく死体。こいつは死体を食いかけて眠りこけ、そのまま目覚めて突進してきたのだろう。
「こいつが‥‥犯人!?」
 瀬戸は思った。いや、四人ともが同じ事を思っていただろう。ならば、倒すのみ!
 四人の冒険者は、武装を握り締め、木を背にしてそれに対応しようとした‥‥。
 が、すぐにその必要もなくなった。
 本日の日差しは強く、暗い洞窟からいきなり飛び出した牛頭鬼は目をくらました。そして、わけのわからない雄たけびを上げつつ、洞窟へと戻っていったのだ。
「!?」
 死体を放り出し、牛頭鬼は洞窟の暗闇へと戻る。が、戻る際に壁へ派手に頭突きを食らわした。それは洞窟の壁全体を、そして洞窟の入口そのものを崩し、巨大な崩落を発生させていた。
「お、おい‥‥一体何がどうなっているんだ……?」
 鷲尾が戸惑いの言葉をつぶやく。彼らの前で崩落は、牛頭鬼が逃げ帰った洞窟、ないしはその入り口を崩していく。
 もうもうとした土ぼこりが立ち込め、それが晴れた後。そこにはすっかりうずまった、かつて洞窟の入り口だった場所があるだけだった。
「‥‥みんな、来てくれ。これは‥‥」
 カイが、先刻に投げ捨てた死体を改める。哀れな犠牲者は、腹の部分を引き裂かれ、内臓を貪られていたのだ。顔も半分がなくなっていた。
 人相は分らないが、それが誰かはわかった。その手の甲には、ひょうたん型のほくろがあった。

 すぐに洞窟のもうひとつの出口へと赴いた四人は、その入り口を崩した。ユエは平然としていたので、こちらからは逃走しては居ないだろう。
 内部に牛頭鬼を閉じ込め、出られないように施した後。四人は清竜寺へと戻った。
「‥‥そうですか、まさかそんな牛頭鬼が潜んでいたとは」
 九竜が入り込んだ洞窟内の部屋。そのたいまつの光で驚き、混乱した牛頭鬼は、彼を追い突進。そのまま外へと出たが、外の日光のまぶしさに当てられ、そのまま戻り‥‥。と、状況から判断し、こういう事らしい。
「ともかく、洞窟の出入口は二つともふさぎました。簡単には出てはこれないと思います」
 小助へと、瀬戸は説明していた。少なくとも、これで時間は稼げた事だろう。
 そして、太助が遺体として戻ってきた事を告げると、彼は悲しそうな顔をした。
「‥‥わかりました。皆様、色々とお骨折りをしていただき、ありがとうございました」
 報酬を得て、江戸への帰路につく四人。しかし、すぐにこの村に舞い戻る事になるだろうと、予感めいたものを感じていた。