惨殺の魔鬼 後編
|
■シリーズシナリオ
担当:塩田多弾砲
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 66 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月06日〜07月13日
リプレイ公開日:2009年07月16日
|
●オープニング
数日前。
ジャパン・南常陸。土浦は清竜寺にて。この周辺では恐ろしい怪物による事件が発生していた。
獣の頭を有した、正体不明の怪物が出現。その犯人は、村のチンピラ・太助に関係していると思われる。それゆえ、解決をお願いしたい‥‥と。
江戸のギルドにてそれを承諾した冒険者たちは、調査。結果、犯人が牛頭鬼である事を突き止めた。崩れ落ちそうな洞窟に潜んでいた牛頭鬼は、光に目がくらみ、再びねぐらへ。その拍子に落盤が起こり、洞窟に生き埋めにされてしまった。
以後、事件は起こらず、現在に至る。
しかし、依頼者の小助は不安だった。
牛頭鬼に、とどめをさしてはいない。生き埋めになり、そのままあの周辺には何かが這い出た様子も無い。が、それでも死んだところを見たわけではない。
その点が気になった彼は、太助の墓に線香をあげつつ、不安に苛まれていた。
ここ最近のジャパンは、あちこちで不穏な動きが見られている。ここ清竜寺にも、それは伝わってきていた。
それが関係しているのか、太助は住職とともにあちこちに法事に出かける事が最近多くなった。死んだ人間を弔ったり、助けを求める寺や村の手助けに赴いたりなど。
そしてある日。小助は住職の清安和尚に連れられ、村から一日離れた場所にある村落へと向っていた。そこの村長の家族が、身体に傷のある山鬼に襲われ亡くなったため、供養をお願いしたい‥‥と頼まれての事だった。
小助は清安とそれを行い、その日は泊まり、次の日の夕方に村に戻った。
が、村には一人を除き、生きている人間がいなくなっていた。村は何かに襲われたかのように、あちこちが壊され、そして人間もたたき殺されていたのだ。
死屍累々の様相の中、小助は清竜寺に急ぐ。そこの門で、同僚の若い僧侶が倒れていた。
「どうした? なにがあった?」
小助がかけつけ、介抱する。が、すでにその僧侶は死掛けていた。
「か、怪物が‥‥山鬼どもが、いきなり‥‥て、寺の中には‥‥」
それだけ言うと、事切れた。
そして、その言葉とともに清竜寺の内部から、音が。
獣臭が漂い、一歩づつ接近してくる。
小助は護身用に、金属製の杖を手にしていた。そして帰りの街道にて、数匹の茶鬼の盗賊を退散させたばかりであった。
が、今彼が相対しているのは、紛れも無き危険。それも、茶鬼以上に恐ろしくおぞましい、巨大な何か。
小助はそれでも、その何物か‥‥おそらくはこの事件の犯人と対決せんとしたが、
「小助、逃げるのじゃ! この怪異を解決するのも、まずは生きて脱出しての事! 改めて体勢を建て直し、出直すのじゃ!」
清安の言葉に従い、小助は踏みとどまった。
「今にして思えば、和尚さまの言葉に従っていなければ、死んでいたと思います。夕暮れの逆行の中、大きな影が伸びるのが見えましたから。おそらく、俺の杖では太刀打ちが出来なかったかと」
その時に見えたのは、おそらく山鬼、もしくはそれ以上の大きさの巨体を有した何物かに違いないと。
「拙僧が思うに、村に山鬼、おそらくは数匹の集団が徒党を組み、襲撃したのではなかろうかと。それを考えると、あの時によくも逃げ出せたものだと思いますじゃ」
清安が、目を閉じつつ静かに言った。ギルドの応接室に、少しの間沈黙が漂う。
目を開いた和尚は、そのまま言葉を続けた。
「じゃが、小助が言うには、少しばかり気になる事があるそうで。それゆえ、皆様方にお仕事をお願いしたく参った次第です」
清安と小助はすぐに馬に飛び乗り、村から逃げた。そして、一番近くの村へと逃れると、事情を話し、しばらくそこに留まる事となった。
が、小助は次の日の朝早くに目覚めると、今度は剣や弓などで完全武装し、村へと引き返したのだ。
もとは盗賊まがいの事をしていた小助。我流ながら剣や弓矢の扱いには長じていた。朝霧の中、馬を近くにつなぎ村へと接近する。それはたまたま、あの洞窟‥‥牛頭鬼を生き埋めにした、あの小さな洞窟を臨む方向だった。ここからならば、村へはすぐにたどり着ける。弓を手に、油断無く小助は村へと接近していった。
すぐに、血の臭いが漂ってくる。新たな犠牲者か、それとも獲物に山鬼が食らい付いている最中か。
が、ふと見ると。
洞窟に、巨大な穴が穿たれているのが見えた。冒険者たちの話によると、牛頭鬼は明るさに目がくらんで暴走し、自滅して生き埋めになった‥‥と聞いていた。
しかし、目前の穴には、まるで何かが「内側から」出てきたかのような状態に。
ここに来る前に、もうひとつの入り口を改めて来た。そこはちゃんと埋まり、何かが這い出てきた様子は見られなかったのだが。
先刻からの血の臭いが、どんどん強くなってくる。
それをたどると、いきなり小助の目前に、山鬼が倒れこんできた!
が、目の前で倒れ、山鬼はそのまま動かない。見ると、そいつは血みどろで、頭をかち割られている。
「これは‥‥一体‥‥?」
戦慄を覚えた小助は、山鬼の身体を改めた。身体の傷痕から、おそらくは先日に赴いた、家族を亡くした家、ないしはその家人に襲いかかった山鬼に相違あるまい。
しかし、その山鬼がこうも簡単に殺されてしまうとは。一体誰が、あるいは何が、こんな事を起こしたのか?
その謎の答えらしき存在を、小助は見た。霧の向こうに、仁王立ちしている何かの姿。それは巨大な人型の影だが、霧に阻まれその正体は確とせず。
小助はそれを見て、戦慄を覚えた。あれが、この山鬼を惨殺したのだ。そしておそらく、いや、まず間違いなく‥‥自分ではかなわないだろう。
影がこちらへと迫り来るのを見て、小助は逃走した。
「逃げる途中、数匹の山鬼にも出くわしました。そいつらは生きていましたが、死体の山鬼と同じような傷痕を体中につけていました。おそらくは仲間でしょう。そいつらは現在、寺から離れた屋敷を根城にしていたようです。そいつらの姿を確認し、俺は逃げ帰ってきました」
少なくとも、山鬼は三〜四匹はいるだろうと、小助は付け加えた。
「皆様方にお願いしたいのは、この山鬼どもと、そして山鬼を一撃で殺すほどの恐ろしい怪物‥‥おそらくは、牛頭鬼。これらを退治し、村を取り戻していただきたいのです。寺には、有事の際に用いる隠し金庫がございます。その中に隠してある小判で、報酬をお支払いできると思いますので‥‥。どうか引き受けてはくれませんでしょうか?」
●リプレイ本文
霧の立ち込める、早朝の村。
再びこの地を訪れた四人と、初めて訪れた二人。
彼らは、ギルドからの使者であり、この仕事を請け負った冒険者たち。
嗜虐なる笑顔・瀬戸喪(ea0443)。
駄洒落を嗜む剣士・九竜鋼斗(ea2127)。
顔に刻む横一文字・鷲尾天斗(ea2445)。
異国から来る正義の聖剣・カイ・ローン(ea3054)。
「またここに来てしまうとは、ね」
絶やさぬ笑顔で、瀬戸がつぶやく。その視線の先にあるのは霧、あるいは村に潜む退治すべき存在か。
「ま、霧が立ち込めているからキリが無い‥‥ってえな事はおいといてだ。あの牛野郎は簡単には死なないだろうとは思っていたがな」
「何にしたって、今度こそ確実に落としてやろうかね。這い上がることの出来ない、冥府へと!」
九竜のつぶやきと、鷲尾の言葉が、朝霧の中に吸い込まれるよう。耳を澄ますと、どこかで大柄な何かが起こしているだろう、足音めいた音が聞こえてくる。
「‥‥臆するな、メイ、ユエ。お前たちは、矢面に立つ事はない。いざと言うときには、しっかり頼むぞ」
翼ある馬と、小さき月人は、主人の、カイ・ローンの言葉に勇気付けられたかのようにうなずく。
「さて、お二人とも。ここが依頼人の村で、ここが‥‥前回に牛頭鬼を生き埋めにした場所ですよ。今回やっつける相手は、ここから這い出てきたモノ‥‥この穴の大きさから、想像していただきたい」
瀬戸の言葉に目を見張るのは、二人の冒険者。
華仙教大国の武道家、楊飛瓏(ea9913)。
美しきジャイアントのレディにして神聖騎士、メグレズ・ファウンテン(eb5451)。
「これは‥‥思ったより大きいな」
楊のもらした言葉には、嘘はない。このサイズの怪物と戦うとなると、苦戦する事は必至だろう。
が、もちろん彼らも、面と向かい突っ込むだけの戦法は取るつもりは無い。
そのための作戦は、十分に立ててある。そして、それを実行するための算段も。
あとは本人たち次第。いかに勝利を奪い取れるかは、冒険者たちの双肩にかかっていた。
冒険者たちが立案した作戦。
それは、山寺にひそむ山鬼を餌で足止めし、牛頭鬼と戦わせる事。
まず、牛頭鬼がどこにいるかを確認しておく。
そして、牛頭鬼‥‥討つべき怪物を発見した後。
次に、山鬼の潜む屋敷に、大量の食料や酒をその前に置いておく。
やがて、酒や食料に夢中になっているところへ、あの牛頭鬼を誘導するのだ。
両者は既に、何度も戦っており敵対しているはず。鉢合わせしたら、戦う事は必至。
そして両者が疲弊したところで、出てきて止めを指す。
これがうまく行くかは、まさに神のみぞ知る。
皆、互いの仕事をまっとうせんと、冒険者たちは準備を怠らず行うのだった。
瀬戸と楊、九竜は、山鬼どもを見張っていた。そいつらが、自分たちの用意した食料と酒に目を輝かせ、手をつけ始めるのを見ていた
山のように盛られた肉や酒樽だ。気にならないほうがどうかしている。
「おやおや、出てきましたね。ま、今日の午後には確実にあの世に行ってますけどね」
そうなるのが楽しみとばかりに、瀬戸は物陰からくっくっくと嗤う。それは、まさに悪意のある嘲笑だった。
楊の表情は、瀬戸のそれとは正反対。冷静冷徹に見える表情に隠しているのは、蛮行に対する義憤。
「まったく‥‥清竜寺の方々や村人たちも難儀な。このような鬼どもに村を襲われ、のっとられるとはな」
幸い、隣村の依頼人の知り合いたちが、酒や食料を提供してくれた。中には腐りかけたもの、傷みかけたものも多く見受けられたが、山鬼どものあの喜びようでは、大した問題ではなさそうだ。
樽の酒も、浴びるようにして飲んでいる。あの様子だと、酔いつぶれるのも時間の問題だろう。それを見つつ、呆れたように九竜もつぶやいた。
「後は、牛頭鬼か。みんなは、うまくやってくれているだろうか?」
楊が杞憂している頃、村の別の場所では。
冒険者のうち三人が、牛頭鬼の姿を求めて東奔西走していた。
「さあどうだ、太助君。牛頭の化物は見つかりそうか?」
洞窟近くで、鷲尾が己が犬に臭いを嗅がせていた。
鷲尾の忠実なる愛犬は、鼻で周囲をかぎまわっている。やがて、足跡らしき地面のくぼみを見つけると、それに残った臭いをたどるかのように、先へと進んでいった。
「どうやら、臭いを発見できたようだが‥‥」
朝霧はだいぶ晴れ、視界も戻りつつある。太助君もまたそれにつれ、徐々に村の中へと歩を進めていく。
「どうだ? 貴殿の犬は倒すべきモンスターを見つけられそうか?」
後ろから聞こえるのは、メグレズの声。彼女はバラキエル‥‥愛馬にまたがり、村中を探索していたのだ。
「ああ、なんとかなりそうだ。誘い出す時には、よろしく頼むぜ」
「承知」
メグレズの勇ましい返答を聞き、鷲尾は空を見上げた。そこには、朝の青空の中を飛ぶ天馬の姿。
それにまたがるのは、カイ・ローン。若き神官戦士の正義漢。高みから見下ろすは、悪を討たんとする天空の神々のごとき視線。
依頼人が、一人だけで牛頭鬼に立ち向かい、逃げ出した時。間違いなく心細く、恐怖に囚われていた事だろう。
だが、少なくとも自分は仲間がいる。信頼にたる仲間、頼りになる仲間が。
それを思うと、あの牛頭鬼に遭遇したときの恐怖が薄れ、力がわくのを実感する。
「‥‥どこで寝ているかは知らんが、年貢の納め時だぜ。覚悟しとくんだな、怪物野郎!」
鷲尾の思考は、そこで途切れた。
太助君が、激しく吼えるのに気づいたのだ。
カイ・ローンは、鷲尾が立ち止まったのを見て、ペガサス・メイを降下させた。
見ると、犬‥‥鷲尾の愛犬、太助君が激しく吼えている。その吼えている先には、これまた大きな屋敷。
村の公民館に用いられているような建物らしい。多数の人間が出入りできるくらい大きい玄関が、三人の目の前にあった。
その奥からは、獣臭が漂ってくる。野生の獣が放つ、糞尿や泥をこびりつかせた末に漂い出る悪臭が。
「しっ、静かに」
カイ・ローンが鷲尾を見ると、彼は太助君を静めていた。それでも、怯えの入ったうなり声がやまない。
メイが怯えたかのように鼻を鳴らし、ユエは明らかに恐怖しつつ、メイの首筋にすがり付いている。
ずしん。大きな音が、大地から伝わってきた。何か巨大な動物が、大地を踏みしめる時の足音にも似た、大きな音が。
ずしん。再び響く。先日の、初めて牛頭鬼と対峙した時の、あの足音、そしてあの時の雰囲気と殺気。
今回はおそらく、日光に目をくらまして、洞窟に戻る‥‥といったオチにはなるまい。
「しっ、どうした? おびえているのか?」
メイが不安げに首を振り、あちこちを不安げに見つめている。が、それを見たメグレズは、メイの隣に馬に乗ったままで並び‥‥カイ・ローンへと告げた。
「カイ・ローン殿。貴殿のペガサスが怯えているようならば、私が代わりに」
「そうか、なら‥‥」
頼む、とまでは言えなかった。
次第に強まった獣臭とともに、悪意が、悪夢が、悪鬼が、出現してきたのだ。
目前のそれは、咆哮とともに突進してきた。
山鬼どもの宴もたけなわと言った、まさにその時。
一匹が、何かしらの異変に気づいた。
酔いつぶれていた一匹と、まだ牛の半身肉にかじりついていた一匹。
それらは、接近してくる何物かに気づくのに、若干の時間を要した。
続き、自身らが根城にしている屋敷前。そこに村の中心部から、何者かが駆けてくる。それは、馬に乗った若干大柄なる者の姿。鎧兜に身を包んだ、神官戦士の女性に他ならなかった。
山鬼の頭は、すぐさまそいつに攻撃をしかけんと、得物の棍棒を握り締める。が、その後ろから、より巨大な何かがいるのに感づいた。
「!?」
その巨大な何かは、牛の頭をしていた。そして、その体躯もまた、山鬼をはるかに越えたものだった。
牛頭鬼がやってくるのを、山鬼、そして見張っていた楊、九竜、瀬戸はしっかりと見つめていた。
勢いあまり、山鬼の一匹は牛頭鬼へとぶつかる。が、いきなり現れたそれは、、そんな攻撃などものともしない。
たちまちのうちに拳でなぎ倒され、地面に叩きつけられた。
酒が回りすぎ、よろよろとしか動けないほかの山鬼二匹も、それに対戦しようとする。が、いきなり現れた牛頭鬼に対しては、「無理」であった。
応戦し対戦するには、遅すぎたのだ。
牛頭鬼が、勝利を確信しつつ、吼えた。
「どうやら、事は思ったとおりに運んでいるようですね」
瀬戸らはその様子を見て、満足そうに微笑んだ。
作戦は成功、メグレズにより誘導された牛頭鬼は、そのまま山鬼の根城としている屋敷へと誘導されたのだ。
そして、そこで怪物は発見した。自分を、夕べにひどいめにあわせた怪物の姿を。
あとは、説明も何も要らなかった。恨みを晴らさんと飛び掛った牛頭鬼は、まずはだらしなく寝そべっている山鬼を叩きのめし、両手の拳で撲殺したわけだ。
が、山鬼たちもまたそのままやられっぱなしではない。大刀が牛頭鬼を切り苛み、槍が突き刺し、棍棒が打ち据える。山鬼どもの攻撃を受け続け、牛頭鬼はズタズタのぼろぼろに変貌していくのが、九竜や楊の目には見て取れた。
「あれで、最後か?」
九竜のつぶやいた言葉どおり、牛頭鬼は数匹の山鬼を叩き潰し、叩きのめし、叩き殺した。
後に残るは、勝者となった牛頭鬼一匹。だが、彼の身体も無傷とは呼べない姿に。
やがて、近くに転がっている肉や魚などの残りを見つけ、手を出そうとした次の瞬間。
牛頭鬼は、ばたりと倒れた。背中には、山鬼が用いていた槍の穂先が、深く深く食い込んでいる。
六人の冒険者たちは、山鬼、そして牛頭鬼の死亡を確認すべく、やがて一箇所に集まってきた。
「やれやれ、まさか自滅してくれるとは。自分たちが手を下さぬとも、互いに殺しあってくれるとはね。いやはや、幸運でした」
瀬戸の言うとおり、自分らは戦わずして勝利を得た。その幸運を呪っているかのように、牛頭鬼の命なき目が六人を見つめていた。
その後。村には再び人が入り始めた。
再建するには時間もかかり、人手も資金もかかることだろう。だが、それを邪魔するものはいまや居ない。
ここしばらくは、この村を脅かす存在は出てこないだろう。
「ほんとうに、ありがとうございました。皆様には感謝します」
依頼人二人、小助と和尚は、静かに感謝の意を伝え、頭を下げるのであった。