滅びの群れ 黄昏の章

■シリーズシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月15日〜11月20日

リプレイ公開日:2009年11月29日

●オープニング

 土浦。
 彼の地を、未曾有の危機が訪れつつあった。
 土浦の北側。雪も降ろうかという寒さが漂う昨今。
 北側から南下してきた旅人たちが、大変なものを見てしまった。

 夕刻。曇天の中を、彼らは進んでいた。真柴良太郎と、彼の率いる商人たちの一団。荷車には、北の地で仕入れた漬物や山の幸などがぎっしりと積載され、力強い牛がそれを引いていく。
 じきに日が暮れる。念のためにと用心棒を多めに雇っていたが、平穏無事な旅が続き、どうやら彼らの出番は無さそうだと真柴は思った。これなら今晩は小漬村で一休みして、明日の暮れには土浦へとたどり着ける事だろう。
 山麓の小漬村には、じきに到着する。そこは、美味な漬物を振舞ってくれることからいつしかそう呼ばれるように。村の小さな旅館は、一晩の宿を取るにはちょうどいいところ。真柴も何度か泊まったが、なかなか快適であった。
 おかみが迎える旅館の料理や漬物、そしてうまい酒。それらを思うと、なおのこと足早になろうというもの。
 さらに、村には知人がいた。元は蘭学者で、今はこの村に隠居している老人・菊水段乃助。高齢だがまだまだ頭脳は衰えず、この村の周辺に広がる自然や農家の観察記録を書き付けて、余生を過ごしているとの事だった。
 彼の書いた日記を読むのが、真柴は好きだった。まるで小説を読んでいるかのように、日常の出来事を書き記しているのだ。いっそのこと土浦か江戸で、作家として活躍すれば‥‥と、真柴はひそかに思っていた。
だが、真柴の期待は裏切られる事となる。彼は予想していなかった。悪夢を見るという自分の運命に。

 小漬村を出入りする大きな道は、東の一方向にしかない。
 残りの三方は山に囲まれ、小さな坂道が通っているのみ。そこは大きな荷車や馬で進むのは困難であるため、ほとんどの旅人が出入りするのは、街道沿いの東側からのみ。
 街道から村に入った真柴は、その人気の無さに奇妙な違和感を覚えた。日が暮れて夜になったというのに、明かりのついた家は見当たらない。夕食の支度どころか、生活の明かりすら見えなかった。
 代わりにあるのは、「悪臭」。何かが腐る時に漂い出る、不快な悪臭が漂っている。肥溜めの臭いかと思ったが、あれよりももっと不愉快で、むしろ命に危険が及ぶような、そんな事を思わせる臭い。
「旦那さんよ。本当にこの村か?」
 浪人の狼次郎が言った。彼は用心棒たちの首領格で、何度も死線をくぐってきた実力者。彼の危険を察知する力には、真柴も何度か救われたものだった。
「ああ、確かにこの村のはずだ。目印の鳥居もあるし、地蔵様もこのとおりここにある。ここで間違いはないはず、なんだが‥‥」
 が、狼次郎の言う事ももっともだと、小柴は思い直した。確かに、村にあるはずの「生気」がなく、人の気配も無さ過ぎる。日が暮れたにしても、眠るのにはまだ早すぎる時間。手持ちの提灯で、村の内部をある程度は見渡す。すると、奇妙な点を発見した。
「おかしいな、大根が踏み荒らされてやがる」
 用心棒の一人が、足元を改めつつ言った。確かにそこには畑があり、収穫前の大根が踏み荒らされて散々な状態になっていた。暗くてよくわからなかったが、わかる範囲では畑全体がそうなっているようだ。
 ふと真柴は、村の奥の闇の中に、何かがうごめいているかのような錯覚を覚えた。
「‥‥ここに泊まるのはやめよう。よくわからないが‥‥どうも、いやな予感がする」
 真柴はそう言い放ち、地蔵に手を付いてその場を離れようとした。
 その時。
 地蔵に触れた手に、何か粘っこいものが付いたのを彼は知った。
「!?」
 それは、血。それも、乾き始めた血だった。
 先刻からの悪臭の正体が判明した。それは、血の臭い。そして、死体が腐る時の死臭だったのだ。それが、村中に充満している。
 それに気づくと同時に、曇り空が徐々に晴れ、月と星のほのかな明かりが天に満ち始めた。それは、地上にも明かりをもたらす。
「あれは? あんなところに、林は無かったはずだが‥‥?」
 真柴は、村の集会所や旅館に続く道へと目を転じた。そこには何かが乱立し、まるで雑木林を思わせる様相に。
 しかし、その正体を知った彼らは、即座にきびすを返し逃げ出した。
 それは、木などではなかった。それは動き、そしてそれは、徐々に近づいていた。
 そこにあったのは、かつて人だった存在。そして、人ではない存在。
 林と見まごうほどの大量の死人憑きが、そこに蠢いていたのだ。

 真柴らは逃げた。荷車の牛も急がせ、なんとか街道に出て先を急がせた。
 が、街道の脇から、またも別の脅威と怪異が出現した。夜の闇に白々と浮き上がる白骨。それが、街道脇の林や藪の中から次々に現れ、用心棒たちや真柴の部下たちへとつかみかかったのだ。
「か、怪骨!」
 真柴の雇った用心棒たちは、さすがに見合うだけの活躍はした。しかし、夜の闇の中、混乱した状況でいきなりの襲撃を受けたのだ。それに対処できた者は、あまり居なかった。
「こ、こっちにも死人憑きが!」
 それは、いきなり暗闇から駆け出すと、俊敏な獣のように飛び掛ってきた。。
 それに続き、のろのろとした緩慢な影もまた現れる。それに捕まり、また何人かが犠牲になった。

「早く逃げろ! 荷物なんか放っておけ!」
 狼次郎の言葉に、真柴は彼とともに駆け出した。背中から、生きながら貪り食われる者たちの苦悶の声、そして生ける屍どもの咀嚼音。
 生き残ったのは、真柴と狼太郎の二人だけ。一旦街道から逃れ、村の中から獣道を通って脱出しようと試みた真柴だが、そこにも死人憑きたちの群れは迫っていた。
「た、助けてくれっ!」
 狼次郎が、木の陰に潜んでいた死人憑きに襲われた。怪物の頭を、持っていた小刀を突き刺し倒したものの、もはや手遅れ。のどを噛みちぎられた狼次郎は、そのまま息絶えた。
 死人憑きどもの足音が迫ってくる。真柴は気力を振り絞り、真夜中の逃避行を続けた。

「そして、この者は隣の小さな町で発見されたとの事だ。町の役人がこの者から事情を聞き、そして事実か否かを確かめに赴いたが、戻ってこない。かくして、土浦にもこの事が知らされたという次第だな」
 土浦の役人、田村拓乃新守が、ギルドにて君たちに依頼内容を伝えていた。
「真柴というかの商人は、町の方で無事に保護されている。こやつの言う事が正しいとしたら、かなりおぞましき事件が起こっている事は間違いなかろう。それを確認してもらいたい。我々が出向くべきだろうが、昨今の不安な状況や情勢を鑑みて、どうしても土浦の守りを裂くわけにはいかないのだ」
「真柴の言う事には、村の老人‥‥段乃助の記した日記に、何か原因が記されてはいないという事だ。かの老人は、村で起きた事は色々と書き記していたとの事だから、おそらくは事件の原因や、何が起こったかという事も書き綴られているかと思う。しかし‥‥」
 今の村には、大量の死人憑き、そして生ける屍の類が歩いている。その中に入り込み、日記を探し出し、戻ってくる。これは容易ならざる仕事だ。
「そして‥‥これが重要だが、もしも生き残りが居たならば、その者たちも救出してもらいたい。おそらくは、ほとんどの村人が殺されたか死人と化しているか、だろうがな」
 そう言って、田村は報酬を出した。
「こちらでも、できるだけの事はする。この仕事をぜひ、受けて欲しい」

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea5934 イレイズ・アーレイノース(70歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

「申し上げます、死人憑きの群れを目撃したとのこと」
「今のところ、小漬村へ続く道はふさいでおりますが‥‥それでも犠牲者が出た様子です」
「先刻、街道で倒れていた旅の親子連れを発見しました、ですが‥‥それらは死人憑きでした」
「怪骨の群れと交戦しました。数が多く、一時撤退しました」
 伝令が、村の寺、ないしはそこに張られた陣へと情報を携えて訪れる。
 ここは、小漬村の隣村にある寺。その名を静安寺。静かな場所で、死者たちを安らかに弔う‥‥という願いから命名された寺院。
 そこに、今回の依頼を受けた冒険者たちも訪れていた。
「おお、来てくれたか。礼を言うぞ」
 土浦の役人、田村が彼らを出迎えた。
「状況は? 今のところ、死人憑きの広がりはどのようになっていますか?」
「切迫しておる。ええと、貴殿は‥‥?」
 田村の問いに、冒険者の一人が名乗り出た。魔力を秘めた外套と衣を身にまとい、純白の弓を携えたナイト。
「ルーラス、ルーラス・エルミナス(ea0282)と申します。お見知りおきを。それで、状況は?」
「率直に申し上げると、事態は‥‥絶望的だ」

 絶望的な事態。
 それは決して、誇張ではなかった。既に小漬村の内部は、歩く死人で溢れかえっていたのだ。
 しかし妙な事に。死人憑きの中に、素早く動き回る怪物を見かけたという。
「偵察に出た兵の数人が、死人憑きの群れから逃れたところで、森の中からいきなり襲われたらしい。死人憑きに似てはいたが、そやつは死人憑きとは違うだろう。でなければ、切りつけたにも関わらず、ああも動けるわけが無い」
 ともかく、死人憑きの数が多いため、一端戻らざるを得ないと結論付けたとのこと。
「例の‥‥段乃助さんですか? 彼の住居はどちらなんですの?」
 銀髪碧眼のエルフの美女が、田村へと問いかけた。ルメリア・アドミナル(ea8594)、麗しき最強のウィザードの質問に、田村は絵図面を取り出して説明した。
「うむ。これが村の大まかな地図だ。で、村への入り口はこことここ。たいていの旅人は、街道に通じるこちらから村へと入る。あとは皆、山道だ。ほとんどが獣道と大差ないが、場合によっては街道よりも隣村よりも近道になるため、利用する者も多いと聞いている。で、本題だが‥‥」
 絵図面の一箇所を、彼は指差した。
「件の老人の家はここ、村の中心部のこの屋敷だそうだ。できるだけ接近して確認したところ、屋敷の周囲には高い塀が立てられ、死人憑きどもが集まっている。おそらくは、まだ内部に生存者がいると見て間違いなかろう。でなければ、死人憑きが集まるわけがないからな。だとしても、急がねばならぬ」
「ほぼ中心の位置にありますね。これは‥‥厄介な事になりそうです」
 イレイズ・アーレイノース(ea5934)のつぶやきが、さらに心を重くした。全ての邪悪を懲らさんと願う神聖騎士は、絵図面を見ると、村の方へと顔を向けた。
 死人憑きの総数は、どのくらいか検討も付かない。それは、村を埋め尽くし、村そのものを蹂躙している。
 そしてその中に、今から彼らは乗り込もうとしているのだ。

 夕方までは、間がある。まだ時間はあるが、決して十分とはいえない。いや、時間はいくらあっても足りるという事は無い。
 それでも、彼ら冒険者たちに残された時間は、夕方まで。夕暮れとともに、村の周囲を囲った兵士たちはいっせいに火矢を放つことになっている。村ごと、死人憑きの群れを焼き払う魂胆だ。
 そうでもしなければ、ここから逃れた死人憑きやその類が、また新たな被害者を出すかもしれない。そうならないためには、殲滅しなければ。
「どうやら、ここから進入するのは正しかったようですね」
 周囲に目をやり、イレイズは言った。彼の言うとおり、この周りは死人憑きの気配は無い。彼の唱えたディテクトアンデッドは功を奏し、彼らは死人憑きの数が少ない場所からの進入に成功しつつあった。
 冒険者たちの、村へ入り込むルート。それは真柴が逃げる時に通った道であった。日が高い現在、周囲の様子が見て取れる。
 そこは、雑木林。枯葉が敷き詰められ、あたかも絨毯のよう。そして昼であっても、そこは薄暗かった。
 その中を、獣道が村へと通っていた。寒々とした空気とともに、何かが潜んでいるかのような得体の知れなさがそこに漂っている。
 だが、彼らは恐れなかった。今まで窮地に陥っても、それらをうまくかわし、時にはねじ伏せてきたのだ。生き残ること、戦うこと、そして勝利すること。今の彼らには、そのための技量と力が備わっている。
「村までは、どのくらいかかるのかしら?」
「ここまでくれば、それほどかからないはず。急ぎましょう」
 冒険者たちが、山道を進んでいった、その後。
 林の奥深くから、不規則な足音が響いてきた。

 小漬村。その内部。
 多くの人間が生活する場には、そこで生活している人々がもたらす「生活臭」というものが必ず出てくる。
 かつては、この村もそうだっただろう。しかしルーラスは、目前のこの場所にそういった「におい」が感じられない事に気づいた。
 事件が起こったのは、つい数日前。なのに今あるのは、「生活」の臭いではなく、墓場に漂うような「死臭」。いや、死者たちが安らかに眠る墓場ならまだしも、これは死そのものを汚し、命そのものを嘲笑うかのような、悪意そのものが詰まった「悪臭」。
 今現在、周囲に漂っている臭いは、まさしくそれだった。
 よたよたした歩調で、近寄ってくる死者の群れ。悪臭はまさしく、そこから漂い出ては、冒険者たちの鼻腔を侵蝕する。あたかも、精神に取り入り正気すらも侵蝕するかのように。
 死人憑きの群れは、冒険者たちへとつかみかかってきた。その死体の様子から、イレイズは訝しく思った。
「‥‥まだ、死んでそれほど経っていない?」
 それほど腐敗が、進行していなかった。いくら冬で寒いとはいえ、自然に死人憑きが発生したのなら、死体はそれなりに腐敗して然るべき。なのにそれらは、まるで昨日今日に死んだ死者が、そのまま起き上がってきたかのような新鮮さを保っていた。顔色が悪いだけで、中にはまだ生者に見える者すらいる。
 デティクトアンデッドや、ブレスセンサーを用いるまでも無い。のどや胸がえぐられ、普通ならば死んでいてもおかしくない怪我を負っておきながら、よろよろと歩いているのだ。
「‥‥ここは、わたくしに任せてください」
 死の悪臭を放ちつつ歩くそれら死の群れに対し、ルメリアが立ちはだかった。
「‥‥風よ、我が名のもとに、我が掌に集え。其が大気の力、嵐となりて我が意とともに解き放たん! 『ストーム』!」
 ルメリアの詠唱が、凄まじき暴風を呼ぶ力と化した。迫り来る全ての死人憑きが、彼女の唱えた呪文の前に吹き飛ばされ、まるで力なき人形のように宙に舞い、地面に転がる。
 頭部を強打し、多くの死人憑きがただの死人へと戻っていった。
 だが、死人憑きの総数がそれで片付いたわけではない。村の別の場所に潜む死人憑きが、「ストーム」の呪文など意に介さず近づいてきているのだ。のろのろと歩くその姿は、さながら悪夢をみているかのよう。
「行きましょう。突破口が開きました」
 ルメリアが促し、後の二人もそれに従った。

 段之助の屋敷までは、まだかなりの距離がある。が、その間には死人憑きがまんべんなく散らばり、歩き回っていた。
「はっ!」
 ルーラスが、矢を弓につがえ打つ。ウルの弓から放たれた矢は、狙い過たずに死人憑き、ないしはその頭部に突き刺さると、眠れぬ死者に眠りを与えていった。
 やがて彼らは、屋敷を目前に臨む場所までたどり着いた。死人憑きから逃れんと、塀が高く作られている。二階ある屋敷の屋根には、村人らしき人間がうずくまり、動かない。
 死人憑きの群れは、その周辺をさして面白くも無いようにうろついていた。かなりの数が、そこをうろついている。
「我に教えよ‥‥息をせざる者、命無き者の存在を‥‥『デティクトアンデッド』」
 イレイズが、死人たちの存在を知ろうと呪文を唱える。神秘の力が、彼に死人たちの位置を、状況を教授した。
 ルーラスが、イレイズに問いかける。
「どうです?」
「ほとんどの死人憑きがあの屋敷に周辺に散らばっています。もしもまだ無事なら‥‥生存者はあの屋敷内にいるものと考えて間違いないでしょう」
 イレイズに続き、ルメリアが言葉を継いだ。
「彼の言うとおりでしょうね。私のブレスセンサーも、感知しました。あの屋敷の内部に、呼吸している人たちの存在を」
 その呼吸も、弱まりつつあるとルメリアは付け加えた。
 ならばもう、躊躇する時間はない。正面突破! 
 それを実行すべく、彼らは立ち上がった。

 のろのろと動く、死人憑きの群れ。そいつらは向きを変えた。
 獲物を発見したのだ。それは美貌のエルフの女性に、活きの良い人間の男たち。
 腐りかけた脳髄が、そいつらを噛みちぎり、えじきにせんと思考する。が、それが実行される事はなかった。
「‥‥風よ、我が名のもとに、我が掌に集え。其が大気の力、竜巻となりて我が意とともに解き放たん! 『トルネード』!」
 一陣の突風がエルフの、ルメリアより放たれた。それは竜巻となりて、襲いかからんとする死人憑きの群れを一掃し、薙ぎ払う!
「いきます!」
 開いた突破口より、イレイズ、そしてルーラスが屋敷へと突進した。そのまま、彼ら二人は塀にとりつく。なんとか登り、内部に入り込む事はできそうだ。
 頑丈な塀を乗り越え、冒険者たちは内部へ、屋敷内へと侵入した。
「生存者は、どこに?」
 ルーラスが、弓を構えつつ周辺に注意を向ける。向けつつ、彼は悪い予感に襲われた。
 なぜか、感じたのだ。おぞましいなにか、恐ろしい秘密が、この内部に待ち受けているのではないかと。

「!」
 内部に入り込んだ彼らだが、そこで動く存在に出くわした。
 それは、明らかに死人憑きではない。そして、人間でもない。
それは、動く白骨。すなわち、怪骨。
まだところどころに、腐肉の切れ端がこびりついている。カタカタと骨を鳴らしつつ、その場にいるそいつらは冒険者たちへと襲い掛かってきた。
「はっ!」
 とっさに反応したのは、ルーラス。
 彼の携える弓からは、魔力を付加された矢が放たれる。それが二体の怪骨の頭部を打ち抜き、骨へと変えた。
「聖なる力よ! 我が手に集い、邪を流しされ!『ホーリー』!」
 それに続き、イレイズの聖なる力、ホーリーの呪文が一体を倒す。
「我が掌に集いし電光よ! 怒れる蛇のごとく、剣となりて敵を撃て! 『ライトニングサンダーボルト』!」
 それに続き、数体の怪骨へと、薙ぎ払うように、巨大な剣を切りつけるかのように、ルメリアは呪文を炸裂させた。強烈にしてすさまじい雷撃が放たれ、暴れまくる蛇のように骨へとたたきつけられたのだ。
 砕かれた骨が、骨粉と化し宙に舞う。ほこりっぽい空気が流れ、冒険者たちは怪骨を、厄介な怪物を倒すことができた。
 しかし、ここからが問題。生存者がいたならば助け、日記を見つけとりもどす。それを実行せねば!

「遅かった、ですか‥‥」
 屋敷の台所、その土間にて。
女中らしき姿の女性が倒れているのを、ルーラスは見た。すぐにイレイズを呼ぶも間に合わず、そのまま彼女は事切れた。
「あちこちに、噛まれたものらしい傷痕がありますね‥‥おそらくは」
「いや‥‥言わなくてもわかります」
 ここに逃げ込むも、入り込んできた死人憑きにあちこち噛まれ、死んだ。イレイズはそう言うつもりだろう。そしておそらく、その推測は正しい。
「こちらも、手遅れでした‥‥」
 茶の間の、押入れの中。そこには助けを求めた子供が隠れていた。それを発見したルメリアであったが、その子供は痙攣し、彼女の前でそのまま死んだ。
「‥‥するべき事を、行いましょう」
 ルーラスが、己に言い聞かせるように言った。ここに来た目的を果たさねば。生存者を助け出すという目的は果たせなかったが、その他‥‥死者たちが何時頃に、この村を襲ったのか。そして段乃助殿の残した日記を探し出し、持ち帰る事。それらだけでもやり遂げなければ。
 今のところ、周辺の死人たちは塀に阻まれ、入り込んではこない。ならば、後は日記を‥‥。
 そう考えた直後、「ガタン」と、音が聞こえてきた。音の源は二階、おそらくは書斎もそこだろう。
 それとともに、何かの足音が響いてきた。それは紛れも無く、死人憑きのようなのろのろしたものではなかった。

 二階に続く階段を発見した
 そこから、足音の主が‥‥腐敗臭と漂わせた、死食鬼が三匹、主人の帰りを待ちわびたかのように、彼らは飛びかかってきた!
 だが、それへの対処はすでに十分済んでいる。ルーラスによる矢が打ち込まれ、一匹目が倒れた。
「我が言葉、枷となりて其を縛れ! 『コアギュレイト』!」
 イレイズによる呪文が、更に後方に控えていた者を縛る。続けざまに、ルーラスがやじりを、魔力のこもった矢を打ち込む。たちまちのうちに矢面に立ったそいつらもまた、矢が打ち込まれる。針刺しのようになり、後方に控えていた二匹目も沈黙し、果てた。
 階段がせまく、一体分の行き来するスペースしかないのが幸いだった。三匹目が飛び掛らんとしていたが、逆に狙い撃ち、すぐにそいつもまたルーラスの矢により死体へと戻っていった。
 書斎は二階。そして、先ず間違いなく、日記はそこにある。そう確信した皆は、階段を上っていった。

 その後。
 彼らの目論見どおり、確かにそこには書斎があり、そして書きかけの日記に、老人の死体がそこにはあった。荒れ果てた室内と広げられた日記帳、内容を確かめつつ、そして周囲を調べつつ、それをひっつかむ。
「間違いない?」
「間違いなく、段乃助老人の日記だ!」
ならば、それを持って早く帰らねば! その事に関しても、彼らはすぐに対応し、そしてそのとおりに動いた。

「ありがとう、皆の者。心より礼を申し上げる」
 死人の群れから逃れ、戻ってきた一行。
 火矢を村に打ち込む様を見つつ、冒険者たちは思った。何が、この村に起こっているのか、何が原因で、このような状況になってしまったのか、を。
「この日記に、その原因が記されているに相違あるまい。その時にはまた仕事を頼む事と思う。それまで、待っていてくれたまえ」
 田村はそう言い残し、段乃助の日記を開いた。