滅びの群れ 闇夜の章
 |
■シリーズシナリオ
担当:塩田多弾砲
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 55 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月08日〜12月13日
リプレイ公開日:2009年12月16日
|
●オープニング
土浦、田村拓乃新守の屋敷。
そこに、一人の女性が尋ねていた。
「貴殿が‥‥?」
「はい、坂田刀子と申します。滝ノ沢村を含む一帯の、領主をしております」
まだ領主と言うには若すぎる女性が、田村の前に姿を現していた。
「この事件は、過去に自分の領地で起こった事件に酷似しておりますゆえ、こちらに参上つかまつりました」
「わしの家来にも、貴殿の領地で起こった事件を知る者がいたため、話を聞きたいと思っていたところだ」
「もしも‥‥私の想像通りならば‥‥私にも責任が無いわけではありません」
領主を名乗った女性は、苦々しい表情を浮かべていた。
「‥‥坂田殿、自分を責めなさるな」田村が、声をかける。
「今は責任がどうこうという時ではない。ともかく、貴殿の話を聞きたい。おそらく‥‥貴殿の領地で起きた事件と、今回の事件。つながりがあるかもしれぬ」
そう言いつつ、田村は書付を、村から回収した段乃助の日記を取り出した。
小漬村に発生した死人憑きの群れ、そして怪骨や死食鬼らは、なんとか全てを退治した。村の周辺を囲み、外から大量の火矢を放ち、村ごと燃やし尽くしたのだ。
だがそれも、冒険者たちがいなければ出来なかった事。幸いにも、勇敢な冒険者たちが、村の生存者救出と、村の老人が書き記していた日記回収の依頼を達成してくれた。だが、日記は回収したものの、村には生存者はいなかった。全てが死人憑きに喰われたか、あるいは死人憑きと化していたのだ。
ともかく、田村は回収した日記を開き、中を読んでみた。
某月某日
「‥‥旅人たちから、土浦や江戸で起こったことを聞く。不安なこのご時勢、『大規模の戦が起きなければ良いが』と言うと、旅人の一人が『いくさが起きたら、ひともうけできる商人もいるだろうな』などと言う‥‥」
某月某日
「‥‥旅人をもてなす。なんでも彼は、滝ノ奥村を通ってきたらしい。そこでは、死人憑きが大量に発生し、そしてたくさんの人間が死んだという事件が起きたとか。鎮魂の石碑は、立派なものだという‥‥」
その一日後。
「滝ノ元を通って来た、旅の商人に先日の話をしてみる。彼は、去年あの場所で、悪者が死人憑きを作り出した事件が起こったと言ってきた。今の領主様が解決したそうだが、詳細が気になる」
その一週間後(事件発生の、三日ほど前)。
「‥‥井戸にて、人影を見た。近づくと、旅館に泊まっていた旅の女性。何をしていたのか、気になる‥‥」
「夕刻。井戸の水を飲んだ権助が倒れている。おかしい。どういうことだ‥‥」
「‥‥あの旅人が何か関係しているのか? 今となっては、それを確かめる術はない‥‥死んだ権助が生き返り、生きている人間を食らったそうだ」
「‥‥死んだ者の中には、身体の肉が溶けて骸骨のみになってしまった者もいた。彼らは、そのまま怪骨となって動き出した‥‥」
(最期の記述)
「‥‥これが、最期の記帳になるだろう。死人憑きと化した村人の中には、次第に身体が変化し、素早く動ける者も出てきているようだ。まるで、死食鬼のように。駄目で元々、逃亡を試みる。わしの知る限り、村人全ては死人憑きになってしまったか、死人憑きに食い殺されてしまった。やつらが入り込まないうちに、逃げられればよいのだが」
田村は、そこで日記を閉じた。
「ここで、記帳は途切れている。で、坂田殿。我々が聞きたいのは‥‥」
「‥‥私も、これに関する説明をせねばと考えていたところです」
田村の言葉に、刀子は答えた。
「我が坂田家の汚点、坂田銀次郎の悪影響が、今になって甦ったに相違ないかと思われます」
かつて坂田家は、先代領主・坂田銅次郎により治められていた。が、ある日。領地内の滝ノ沢村にて、人間たちが次々に死に、死人憑きとなって甦る事件が発生したのだ。
犯人は、坂田銅次郎の息子、坂田銀次郎。かつて銅次郎は、過去に知人のウィザードより、禁忌の薬物や魔術の記録、毒の調合法などを託されていた。それらは処分したが、その写しを銀次郎は手にしていた。
銀次郎はそれをもとに、死人憑きを作り出す毒を生成。そして村全部を用い、その効果を実験した。うまくいけば、これは金になる。そういう心積もりで。
盗賊団と協力して、その毒を捌こうとした銀次郎だったが。因果応報、彼らもまた己が作り出した死人憑きに襲われた。
刀子は、冒険者たちとともに銀次郎を追い詰め、相応の罰を与えた。そして、残されていた毒とその調合法の書付もまた、己の手で始末した。全ては終わった、そのはずだった。
「しかし、坂田殿。その薬の残りと、調合法を記した書付は燃やしてしまい、洞窟の奥深くに埋もれてしまったのだろう? 首謀者は死亡し、仲間も全て死亡。ならば、いったいどこから流出したのだ?」
田村が、疑問を口にした。刀子は少し考えて、それに答えた。
「‥‥首謀者の銀次郎が、生前にどこかに一部を残しておいたのでしょう。毒と、おそらくはその書付を。それを誰かが手に入れ、今回の凶行に至った。そうとしか考えられません」
「ならば、それは誰なのか?」
「それは、まだなんとも言えません。しかし、我が部下の御堂三太夫にそれを調べさせています」
そして、会合が終わり、坂田が戻ろうとした時。急ぎの伝令がやってきた。
それは、坂田刀子の有能な部下、御堂三太夫。彼は筑波山の麓にある町、筑紫町にて。小漬村と同じような死人憑きの発生に遭遇したという。
「既に、町は死人憑きにより囲まれています!」
御堂は、刀子の命令で銀次郎が生前に毒を誰かに残さなかったか、銀次郎に知り合いは居なかったか、そういった事を探っていた。そして、前回の事件のわずかな生き残りから、筑波山の麓にある筑紫町に、それらしい人間が居るかもしれないという情報を得ていた。
早速そこに赴いたものの、役に立ちそうな情報は得られぬまま。だが、夕暮れになり、その日の夜。
井戸の水を飲んだ者が、次々に倒れ、死んでいった。そしてそれは、死人憑きとなり甦り‥‥。
「後は、小漬村と同じです。どうやら、今度の事件と同じ犯人が、井戸に毒を入れたのでしょう」
「御堂殿。それで、以前の事件の下手人、銀次郎とやらの知り合いらしき人物とは?」
田村の質問に、御堂は首を振る。
「拙者がつきとめたのは、銀次郎は生前にこの町によく赴いていたという事実のみです。誰かに会っていたのは確かですが、そやつが住んでいたと思われる家屋敷は、既に死人憑きに囲まれてしまっています」
「御堂、町で生き残っている者たちは?」
今度は、刀子が質問した。
「ほとんどの者は、脱出しました。しかし、逃げ遅れた町民たち十数人が閉じ込められています」
町の一角。そこは長屋のある区域で、周囲に塀や材木などで障害物を作り、なんとか死人憑きの群れが入り込めないようにしている。聞くと、銀次郎の知り合いが住んでいたという屋敷もまた、その区域内にあるらしい。
「‥‥早急に、人手が必要だな。死人憑きの群れを潜り抜け、町民たちを助け、なおかつ屋敷を調べて下手人の手がかりを突き止めるための人手が」
田村の言葉に、刀子は御堂に命じた。
「御堂。早急に江戸へ赴き、冒険者ギルドで人材を集え。この事件を解決するには、彼ら冒険者たちのような豪胆な者の助けが必要だ!」
●リプレイ本文
町の図面。冒険者たちの眼が、それに視線を注いでいた。
「町は周囲に塀が建てられている。そのおかげで、内部の死人憑きもまた周囲に出さずにいるわけだが‥‥」
「ですがそれゆえ、町民の皆さんも一緒に閉じ込められてしまいました。なんとかして、助け出さないと!」
一文字の傷痕が顔に刻まれた、二天一流の侍、鷲尾天斗(ea2445)。
そしてその妻、美しき声と容姿の、安息の謡い手たるエルフの吟遊詩人、エレオノール・ブラキリア(ea0221)。
「館は町のど真ん中か。で、図面の朱色で囲まれてるのが、死人憑きに占領された区域だな?」
神楽を舞いし志士、月代憐慈(ea2630)。
「‥‥ほとんど朱色じゃない。でもまあ、だからこそ腕の見せどころがあるってものだわ」
ノルマン王国の美少女ナイト、サラ・ヴォルケイトス(eb0993)。
「‥‥では皆さん、先刻に話し合ったとおりの作戦で。よろしいですね?」
美貌と慈愛を兼ね備えた僧侶、賀茂慈海(ec6567)。
「我々も、貴殿らに従おう。他に、何かできることは無いか?」
田村の問いに、エレオノールと賀茂が答えた。
「町民の皆さんを助けた後に、傷を癒し休めるように取り計らってください」
「それから、簡易でかまわないので、弔いの準備を。不死の者たちが、これ以上化けて出ぬように弔いたいと思います」
「あの‥‥気をつけてくださいね」
「おいおい、何度同じ事言ってるんだ。他に言う事無いのかよ」
エレオノールと鷲尾、夫婦は互いを見つめ、目前の筑紫町へと視線を移した。
「俺を誰だと思ってる。のそのそ歩くしか能のない死に損ないなんかに、この俺が殺されるわけねえだろ?」
「‥‥はい。私も、あなたが戻る事を信じています」
目前には、筑紫町を囲う塀。もとより筑紫町はいくさや盗賊の襲撃から町中を守るべく、周囲を塀で囲っている。そのせいで、今までは様々な怪物や妖怪変化の群れが襲ってきたとしても、持ちこたえる事ができた。
だが、内部から染み出す毒のような状況には対処できなかった。まさに内部からの毒、今回の犯人が行った悪行により、生ける死人が歩き回る死の町と化してしまったのだ。
「それでは、これからの行動を確認を」と、賀茂。彼に続き、サラが言った。
「あたしと鷲尾さんが中に入って、不死の怪物をおびき寄せる。その隙にエレオノールさんたちが、逃げ遅れた人たちを助け、そして手がかりを探す。こんなとこでしょ?」
サラの言葉に相槌を打った月代が、続けて言葉をつむぐ。
「だが、言うほど簡単にはすまないだろう。注意して、事にあたらないとな」
その言葉の重みを、数刻後には必ず噛み締める事だろう。その場に居る全員が、同じ事を考えていた。
町の、目抜き通り。そこは、あの世へと向かう死者の群れがこの世のこの場所にまで続いているかのように、死者がひしめいていた。死にたての死者もいれば、死んでからかなり経つ死者もいた。その全てが、うつろで無表情な顔をしている。それらは、あてども無くうろつき歩いていた。求めるものは唯一つ。生きた人間の肉。
やがて、死人憑きの群れは感じ取った。求めていたものの存在を、生きている人間の匂いを。それはかなりの速度で、こちらに近づいてくる。
そこで、死者たちは見た。逞しい戦馬にまたがった、冒険者の姿を。
旗を携え、戦馬・葉月に乗るのは鷲尾。そのすぐ後ろを、戦馬・クロガネにまたがったサラが続く。彼女の手には、鉄弓が構えられていた。たっぷりの矢が入った矢筒を用意するのも忘れていない。無限とは行かないまでも、かなり多くの怪物をあの世に送り返してやれるだけの矢が。
彼女の懐には、呼子笛が入っていた。エレオノールの手にも、同じものがあるはず。これを用い、陽動や撤退の合図を、音で送る手はずになっていた。
今のところ、作戦通りに事は進んでいる。陽動がほぼ完了したと見たサラは、笛を吹いた。遠くから聞こえる笛の音が、了解したという意思をサラへと届ける。
同じくそれを聞いた鷲尾が、手にした旗‥‥引魂旛を更にひるがえした。それを見た死人憑きは、まるで砂糖を発見した蟻のようにそれへと向っていく。
のろのろとした足取りだが、あまりにも数が多すぎる。囲まれ、そして追い詰められたら‥‥その時には終わりだ。鷲尾の焦燥とともに、死人憑きの群れがわらわらと手を伸ばした。無数の黒い花。薄汚れ腐りかけた死体の手が、冒険者と戦馬の肉を求め、空をかいていた。
だが、その多くが鈍重な歩みのそれ。機動性のある葉月とクロガネに乗った二人ならば、まず捕まる事は無かった。仮に目前に現れたとしても、戦馬の力強い足と蹴り、そして蹄の一撃により、頭を潰されたり跳ね飛ばされたりして、そのまま果てるのみ。
「ははは! 京都で黄泉人を見慣れてるせいか、あんまり怖くねぇなぁ」
十分に陽動できたと判断した鷲尾は、旗をしまい両手に剣を構えた。長曽根虎徹に新藤五国光、日本刀と小太刀の白刃が、生ける屍を眠らせんときらめいた。
死体どもの手が掴みかかる。だが、文字通り鷲尾は、死人憑きどもの群れへと切り込んだ。
オーラパワーとオーラエリベイションにて強化された侍の闘気が、不死の群れを一掃する。死人憑きは二人に掴みかかろうとするも、接近するだけでしとめられ、歩かぬ普通の死体へと戻っていった。
中には脇道から襲い掛かる死者もいたが、それらは例外なくサラの放った矢を額に受けていた。
「陽動は、どうやらうまく行きそうね‥‥ん?」
サラの楽観は、即座に引っ込んだ。かつて商店街だった大通りを走っているその時、見つけたのだ。
「そいつら」の存在を。それらは、やはり旗に引かれたのだろう。鈍重な歩みの死人憑きの群れを掻き分けて、二人と二頭へと向ってきた。
「あれは?」
「なっ!? なんだっ!」
その時。目前に現れたその異形を見て、サラと鷲尾は驚きの声を上げた。
「どうか、ご無事で」
呼子を吹き終わったエレオノールは、鷲尾を、愛する夫を思いつつ、屋敷と、その近くの区域を捜索していた。傍らには、犬の史が控える。
町民たちが立てこもっている区画。その周辺には確かに、死人憑きの姿は無い。
賀茂がディテクトアンデッドを唱え、周囲に不死の怪物が居ないかを確認している。安全を確保したとしても、エレオノールはやはり不安だった。
自分ひとりならば、不安はそれほど感じはしない。それなりに戦う力もあり、なおかつ愛する夫がいる。
しかし、助け出さねばならない人、助けを求めている人の事を考えると、不安を禁じえない。
「誰かいませんか? 助けに来ました!」
その声を聞き、やつれきった何人かが、小屋や長屋、そして大きめの商店などから顔をのぞかせた。皆が皆一様に、怯えきった顔をしている。
親や兄弟、妻や夫、友人や知人を目の前で殺され、食われ、そして歩く死人と化したのを見た彼ら。その目には、様々な感情が浮かんでいる。悲しみ、恐怖、絶望、怒り、諦観‥‥。その全てに共通しているのは「疲労」だった。助けを求めてはいたが、もはや体力的に、そして精神的に疲れきり、限界に近いのが見て取れる。
「大丈夫、私達があなた達を守るから‥‥必ず、死なせはしないわ」
エレオノールが、なんとかして安心させようと声をかける。
「屋敷は、この近くだったな? エレンさん、賀茂さん。俺は手がかりを見つけに行ってくる」
大きめの商店、その店舗の内部へと町民たちを集め、ひと段落が終わった頃。月代が立ち上がった。
「二人は町民を集めて、すぐにでも脱出できるように用意しておいてくれ。もしも戻ってくるのが遅くなったら‥‥」
「いいえ、できるだけ待ちます」月代の言葉をさえぎり、エレオノールはそれに答えた。
「これ以上、この町では誰も死なせませんし、見捨てません」
鷲尾の目前に現れたそれは、見えざる糸を手繰った操り人形を思わせた。不自然なほど急激な動作で、獣のように素早く駆け寄ってくる。死人憑きののろまな歩みとは、対照的だった。
「くそっ、死食鬼か! 死肉なら周りにあるから、そいつを先に食いやがれ!」
毒づいた鷲尾の言葉など、そいつらは聞く耳を持たない。そもそも、聞いて理解する能力はない。そいつらは猿のように、ヒヒのように、驚異的な素早さで駆け寄ってくる。
幸いにも、普通の死人憑きどもは引き離した。距離を稼いだため、二人の下へたどり着くには時間がかかる。その間に、あのくそったれな怪物を倒さなければならない。
通りの向こうには、死人憑きの群れ。死食鬼は、その先達であるかのようだった。
それに追随し、白い無機物が出てくる。数体の怪骨が、棒切れや包丁、その他即席の武器を握って駆け寄ってきたのだ。
六体の死食鬼に、十体以上の怪骨、そして無数の死人憑き。これらに相対し、鷲尾とサラは恐怖を感じた‥‥わずか数秒の間だけは。
もう数秒かけて落ち着きを取り戻し、侍とナイトは突撃した。腐りかけた怪物の群れへと!
屋敷を家捜しする際、月代は願っていた。
「あんまり、広い屋敷じゃないといいんだがなあ」
その願いはかなわなかった。屋敷は結構な広さがあったのだ。内部には家具に混じり、薬や薬草が入れられていただろう、空になった容器が多数転がっている。
書斎や書庫、倉庫、そして薬の調合場所などが分りやすい場所にあったのは不幸中の幸いと言うべきか。残っていた台帳などから、どうやらこの館は、とある女性が切り盛りする薬問屋の持ち家だったらしい。
書物や書簡、書付などを片っ端から目に通すが、今のところ手がかりはなし。
「くそっ、こいつはちょっとばかり骨だな‥‥ん?」
偶然、月代の目が本棚、ないしはそこにあった隠し扉を発見した。だが、そこから漂ってくる腐臭、そしてかすかに聞こえてくるうめき声は、月代に不安と恐怖、好奇心をない交ぜにした感情を抱かせた。
いざとなればライトニングトラップを使えるし、装備したジャスティフォルも使える。この中に、手がかりがあるのだろうか? 時間も押している。細心の注意を払いつつ、彼は隠し部屋へ続く扉を開き、中に入り込んだ。
入ってすぐ、彼は後悔した。
そこは、実験室か研究室として用いられていた部屋らしい。部屋の奥にある書棚に、多くの書付が残されている。
その他にあるのは、死体。それも切り刻まれ、腐敗した人間の死体だった。それがあちこちに散乱していた。
中央の実験台の上には、うめき声の音源があった。切断された、人間の首。それが何かを訴えかけんとして、必死に唇を動かしていた。
「‥‥」
言葉も出ない。息を吸うたびに、凄まじい腐臭が月代の鼻腔を侵食する。なるべく深く息を吸わないようにして、彼は部屋の捜索を始めた。
サラの素早き射撃が、死食鬼へと襲い掛かった。死臭漂う彼らの体は、痛みを感じず、通常の武器で攻撃しても無駄に終わる。
だが、サラの攻撃は無駄ではなかった。彼女の携えたヘビーボウは、魔力を矢に付加して放つ武器。彼女の卓越した射撃技量が、矢を死食鬼の両足、目や顔、額へと命中させていく。
「直撃‥‥させるっ!」
ダブルシューティングで、足へと矢を打ち込み、額へと矢を放つ。死食鬼の一体は動きが鈍り、二体は引導を渡された。
が、残る三体は針刺しのようになっても、まだ動き回っている。そのうち一体が跳躍し、冒険者の肉を食いちぎろうと空中から迫った!
「させるか‥‥よおっ!」
馬上の鷲尾の手にある白刃、長曽根虎徹のきらめく刃が、死食鬼を迎え撃った。すれ違いざまに鋭い刀が、汚らわしい化け物の首を捕らえ、確かな一撃を食らわせたのだ。
首を失った死食鬼は、そのままかりそめの命も失い、地獄へと戻っていった。残る二体もまた、サラの矢と鷲尾の小太刀、新藤五国光によって、引導を渡された。
死食鬼を地獄へと蹴り戻してやったにも関わらず、怪骨が続けて攻撃を仕掛けんと迫ってきた。その動きは死食鬼より鈍いが、のろまな死人憑きのそれに比べれば遥かに早い。
だが、接近した怪骨は、すぐに数体が死食鬼と同じ運命となった。戦馬‥‥葉月とクロガネの硬い蹄を食らい、動く骨はバラバラに砕け散った。
「くそっ、きりがねえ。エレオノール、まだなのか?」
鷲尾が、妻の事を思い出した、その時。
待ちに待った呼子の笛の音が、彼とサラとの耳に飛び込んできた。
エレオノールと賀茂、そして月代。
彼らは、多くは無い生き残りの町人たちを、全員引き連れて脱出しつつあった。その中には、手がかりを発見し、戻ってきた月代の姿もある。
「あと少しで、町から出られます。みなさん、もうちょっとだけがんばって‥‥」
そこへ、いきなり怪骨が現れた。近くの小屋から、数体が這い出てきたのだ。史が声の限りに吼えるが、怪骨はまるでそれを嘲笑うかのように、エレオノールたちへと迫っていた。
「なっ‥‥!」
怪骨は、町民たちと冒険者たちの前に立ちはだかっている。彼らを倒さねば、町の外には出られない。町民たちはおびえ、立ちすくんでいる。
「消えろ! このクソったれ骨が!」
エレオノールに掴みかからんとしていた怪骨は、駆けつけた侍、ないしはその戦馬によって蹴り砕かれた。
「あ、あなた!」
「へっ、女房のためならエンヤコラってな。どうよ、惚れ直したか?」
不適に微笑み、目はじきする鷲尾。葉月は念入りに、怪骨を踏みしだいて骨粉にしていた。夫の言葉に、妻は微笑むことで答えた。
残る骨どもは、サラの放った矢が頭部に射掛けられ砕かれ、やはりただの薄汚れた骨と化す。
「それで、月代さん。手がかりは?」
「ああ、見つけたさ。だが、それは戻ってから、田村さんたちの前で説明するぜ」
サラの言葉に、月代は手にした書付や書簡の束を見せつつ答えた。
かくして、脱出は成功し、待ち合わせていた救助隊によって町民は救われた。土浦では、既に彼らを受け入れるための用意が出来ている。
「で、月代殿。手がかりとは?」
田村、そして坂田刀子に御堂らが、月代が発見した手がかりへと関心を寄せていた。
『死人の群れを作り出す事に成功。この毒をジャパン中に撒く準備は整った。すぐに‥‥(この部分は汚れて判然としなかった)の根城へと物資を運べ』
書名には「鬼百合」と書かれていた。屋敷の女主人の名前らしい。
「あとは、毒の書付らしきものだったな。こいつは全部、刀子さんの目の前で燃やした方がいいと思ってね」
そう言って、月代は書類を刀子へと差し出した。
「ともかく、貴殿らは良くやってくれた。感謝する」と、田村が礼の言葉を述べた。
「すぐに、我々もこの黒幕を調べ、対策を練ろうと思う。その時には、どうかまた力を貸してもらいたい」
再び呼ばれる時、その時こそが、最後の戦いだろう。そう覚悟を決める冒険者たちだった。