運命の剣 星と死人の章

■シリーズシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月18日〜10月23日

リプレイ公開日:2005年10月27日

●オープニング

「これ以上は待ちたくはない。話が分かる人間はいないのか!」
 その男は、いかめしい顔をしていた。いらいらした態度を隠そうとせず、無駄に時間を使いたくない様子。
 見たところ、かなりの手練のようだが、剣技を鍛える分、親しみやすさを忘れたような印象の男である。彼はギルドの内装を見回し、焦るように鼻息を荒くし、どっかりと腰掛けていた。
 ギルドの記録係がやってきて、彼はようやくわずかに安心した顔を見せた。
「わしは、飛高熊二郎。江戸から数里離れた領主、隆山耕一朗様に仕える者だ。わしの弟、犬三郎は、領地内の村で行方不明になった。お前らに頼みたいのは、弟の生死を確かめ、やつが持っているはずの刀を持って来て欲しいのだ」

 熊二郎の話では、犬三郎はある大切な刀を、領主の屋敷へと戻っていく最中だった。彼らは帰路を急いでいた。
 ところが、その荷車を小鬼の集団が襲ったのだ。無論、家臣や侍たちは完全武装していたため、けが人を出すことなく小鬼たちを追い払った。
 が、犬三郎のまたがっていた馬が、突如暴れたのだ。追い払われる直前、小鬼の一匹が携帯していた小さな弓。小鬼はそれを用い、矢を放った。
 小さな矢は、犬三郎の馬、ないしはその尻に突き刺さった。馬は犬三郎を乗せたまま、暴走して森の中に消えた。

 家臣たちは、半日かけて犬三郎を探した。犬三郎の姿を求めて、更に森の奥に進んだ彼らだったが、足が止まった。そこから先に広がっている光景に、彼らは気圧されたのだ。
 そこは、廃村だった。住む者がいない、うち棄てられた村。
 しかし、その村には家臣たちも足を踏み入れたくは無かった。そこは、とある山賊の三兄弟が、死んだ今でも棲むという「三怨の村」だったのだ。
 
「犬三郎は、どうやらその村の中に入り込んでしまったらしい。やつの馬の死体が、その村の中で倒れていた。それは首をはねられ、血だまりの中にうずもれていた。
 家臣たちは、死骸を改めようと近付いた。が、やがてその周囲から‥‥現れた。物の怪と化した、三兄弟がな。
 三兄弟の前に、家臣のほとんどが殺された。生き残った一人が、なんとか城に逃げ帰り、わしに報告したというわけだ」
 そして、熊二郎は依頼内容を口にした。
「犬三郎の生死を確かめて、もしも生きていたら助け出して欲しい。が、死んでいたらそのまま放置して構わぬ。しかしどちらの場合も、一つ重要な事を忘れないで欲しい。
 犬三郎は、わしの兄、虎太郎よりわし宛の刀を預かっているはず。その刀をなんとしても持ち帰ってもらいたい。弟の命と天秤にかけることがあるのなら、刀を優先してくれ。
 あの刀には、肉親の情以上に、大切な想いが込められているのだ」

 隆山耕一朗は病にかかり、それが原因で亡くなるのも時間の問題であった。
 が、彼には子供がいなかった。そのため、誰が相続するのかが問題になっていた。
 そして、耕一朗は相続する相手を決めた。
 井上千鶴。かつて、側女との間に出来た娘。
 若き頃の耕一朗は側女を娶るつもりでいたが、周囲の反対に合い、彼女は子供ごと追放された。
 側女は、追放された後、一人の下級武士と結ばれ、娘を、千鶴を育てたが、身体を壊し他界した。
 が、亡くなる直前。彼女は自分の素性を娘に伝え、息を引き取ったのだ。そして父親も、程なくして亡くなった。
 耕一朗もまた、彼女を探していた。出来れば彼女を正式に娘として認め、隆山家の家督を譲ろうと考えての事だった。
「千鶴様は、お優しい方。あの方は親を失った子供達を引き取り、彼らの母親となり姉となりて毎日働いていた。が、近年は孤児院の経営がうまくいかず、とうとう自身の屋敷も借金のかたに取られてしまった」
 そこに、隆山家の相続の話。千鶴は「子供達を隆山家で、責任を持って引き取る」という条件で、その話をのんだ。
 が、相続を狙っていた他の者たちは面白くなかった。昔、側女に生ませた子供が、いきなり家督を横取りする事が気に食わなかったのだ。
 そこで、彼らは一つの条件を出した。
 隆山家に伝わる、隠された秘宝。これを耕一朗が存命中に見つけ出せ。
 
「隆山家には、先祖が密かに隠した宝物の存在が伝えられておる。それは何かはわからぬが、何ものにも代えがたい素晴らしきものとしか聞いていない。
 で、反対派の親族はそれを見つけない限り、千鶴様を後継者として、ひいては耕一朗様の娘として認知しないとの事だ。
 わしら三人は、耕一朗様のために、ひいては千鶴様のためにと、手がかりを探した」

 聞くところによると、先祖は宝の手がかりを、剣‥‥星光丸、月光丸、日光丸の三ふりの剣に託していた。それらが今、どこにあるのか。飛高三兄弟は決死の探索の末、ようやく剣を発見した。
「わしは、耕一朗様の容態が急変したため、一足先に屋敷に戻っておった。その間に虎太郎兄者が、捜索の末に一本目を見つけたのだ。
 そして、兄者は犬三郎にそれを託し、屋敷の耕一朗様とわしの下へと届けさせたわけだ。兄者自身が届けなかったのは、『引き続き、調査する事がある』との事だ。
 その事を、鷹が届けた書付で知ったわしだが、犬三郎は途中で小鬼の襲撃を受け‥‥というわけだ」
 ならば、完全武装した家臣を多く差し向け、三怨の村に向かえばどうか。
 それに対し、彼はかぶりを振った。
「あやつらは、恐るべき怨霊。おそらく、我々の手には負えぬだろう」
 そして、熊二郎は「三怨の村」とそこの怨霊について語り始めた。

 かつて、領内を荒らしまわった山賊がいた。彼らは自分たちの凶悪さを自慢するがごとく、「凶羅三兄弟」と名乗り、悪事の限りを尽くした。
 大刀で人を切り捨てる凶死朗、大斧で女子供の首を撥ねるのが好きな凶苦朗、槌で人間を潰すのを好む凶獣朗。
 奉行所の人間達ですら、返り討ちに遭っていた。彼らはまさに、鬼よりも恐ろしい兄弟であった。
 そんな彼らも、運が尽きる時が来た。隠れ家にて酒盛りをしていた時、不意打ちを食らったのだ。しかしそれでも、彼らはかつての仲間を切り捨てた。
だが、酒が入った状態では無傷ではいられない。致命傷を負わされ、三兄弟は必死になって助けを求めた。
 逃げた先には、村があった。村人に助けを求めたが、そこは以前、彼らが略奪した村だった。その時の生き残りたちは、三兄弟の顔を覚えていた。
 彼らは棍棒や鍬で、三兄弟を滅多打ちにして、柱に手足を縛り、高く立てかけた。
 そしてそのまま三日三晩、放置したのだ。
 が、彼らは苦しんで死んだが、怨念までが滅んだわけではなかった。三兄弟は、怨霊と化していたのだ。
 怨霊は、村を全滅させた。
 それからというもの、怨霊を払おうと何度も試みられたが、うまくいかなかった。仕方なく、苦し紛れの策として、村の周囲を柵で覆い、誰もが入り込めないようにした。
 以後、村は棄てられ、現在に至る。

「犬三郎は、おそらくは剣を、星光丸を携えているはず。もしも奴を哀れに思うのなら、どうかあやつの意思を継いで、剣を耕一朗様のもとに届けて欲しい。家臣を無駄死にさせたくも無い。それに、耕一朗様と千鶴様の幸せを思うと、これ以上ぐずぐずしてはいられないのだ。
 ここに金を用意した。もしも足りぬものがあるのなら、すぐに用意しよう。引き受けて、くれるな?」

 睨み付けるような顔付きだが、そこには傲慢さは無い。あるのは焦りと、主への忠誠心だった。

●今回の参加者

 ea1551 セレネス・アリシア(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0833 黒崎 流(38歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb1568 不破 斬(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3241 火射 半十郎(36歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3273 雷秦公 迦陵(42歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「ええ、そりゃもう恐ろしいところですよ。いつも周囲は霧が立ち込めてて、恐ろしい景色で」
「俺は見たぜ。凶羅三兄弟は、骸骨そっくりな顔をしてた」
「あたいが見たのは、干からびてしわしわの顔だったよ。目玉がぎらぎらしてて、そりゃあもう‥‥」
「乱杭歯をむき出して、三人でわしに迫ってきたんじゃ。手には生前の得物を持ってたぞい。大刀と斧と槌をな」
「いや、おいらが見たのは槍と棒切れと鎌だったぜ。骸骨の面で睨まれました」

 周辺の村々での情報収集は、大体において怨霊三兄弟の目撃談を聞く事に終始していた。
 韋駄天の草履で、近くの村々から情報を聞き回っていた不破斬(eb1568)らは、とある村近くの茶店でひと息ついていた。
「怨霊、もしくはそれらしい存在がいるのは確実らしいが‥‥どうも、腑に落ちないな」
「そうですね。目撃証言の多くに『骸骨みたいな顔』とありますけど、ひょっとしたら、怨霊ではなく、別のアンデッドではないでしょうか?」
 シャーリー・ザイオン(eb1148)が、不破に相槌を打った。
「しかし、持っている武器に関する証言もバラバラな事も気になる。凶羅三兄弟に襲われた者からも話を聞いたが、彼らは確かに、刀・斧・槌を武器にしていた。それらを自分の象徴にして、たいそう大事そうにしていたとも言っていたな」
「怨霊は、人の想いから生まれた存在。生前に武器をそれほど大事にしていたなら、怨霊と化した後でも、用いて当然でしょうけど‥‥」
 そこへ、馬の足音が響いてきた。御雷丸‥‥仲間の愛馬だ。
 御雷丸は、背中に二人を乗せていた。可憐なる剣士、七神斗織(ea3225)。その友人、セレネス・アリシア(ea1551)。
 二人は降り立ち、待つ仲間のもとへとやって来た。
「不破様、シャーリー様、遅くなりました」と、七神。
「いえ、私たちもたった今来たところです。それよりセレネスさん、そちらはどんな塩梅です?」
『斗織さんに通訳して頂いたおかげで、情報を得る事ができました』無愛想にも思える口調で、ビザンチン帝国から来たエルフのクレリックは言った。もっとも、彼女の口から出たのはジャパン語でなく、異国の言葉であったが。
「もともと村は、谷間にあることもあって、関所のような使い方をしていたそうです。ここを通らなければ、領地内に入り込めないので。ですが、凶羅三兄弟の事件があってから封印され、遠回りしなければ領地には入りづらくなってしまったのです」
 セレネスのゲルマン語を、ジャパン語に通訳しつつ、七神は言った。
『退治しようと、何人もの人間が向かった事も確認しました。そしてその全てが、帰らぬ人となった。あの村に怨霊がどうかわかりませんが、何かががいる事は事実でしょう。それから、もう一つ‥‥』
 セレネスが、声を細めた。ゲルマン語を心得た不破はそれを聞きつつ、シャーリーは七神の同時通訳で聞きつつ、耳をそばだてた。
『あそこは、権力争いや謀殺において、邪魔な人間を処理するために使われている‥‥という噂があります。その人間をわざと村に放り込み、怨霊に殺させて消すために使われている、と』
「もしもそれが本当なら」シャーリーが、それに答えた。
「犬三郎さんは、誰かの企みのために、謀殺された可能性もありますね」
「‥‥ま、そいつを確かめるには、現地に行くしかあるまい。団子と茶で腹ごしらえしたら、仕事を始めるとしようぜ」
 店の奥から、店の娘が人数分のお茶と団子を持ってきた。

「三怨の村」の周囲には霧が出ていた。そのため、見通しは非常に悪い。廃屋がそのまま残っているが、その様子は不揃いの虫歯か乱杭歯を思わせた。
 暗灰色の周囲の風景は、かつてここが村であったとは微塵も思わせない。むしろ、廃村というより墓場だ。生きとし生けるものが存在してはならないような、敵意に満ちた死の空気が漂っている。豪胆な者でなければ、その場にいたら怖気づく事だろう。
 既に先行していた三人、黒崎流(eb0833)、火射半十郎(eb3241)、雷秦公迦陵(eb3273)は、そんな怖気を振り払い、村の入り口にて待っていた。
 既に火射と雷奉公は、できる範囲で先行し偵察し終えていた。今のところは怨霊に遭遇しておらず、犬三郎の姿も見当たらない。
 そうこうしているうちに、仲間達が近付く足音を聞き、ほっとした。
「斗織さん、遅いですよ。仕事前に一休みですか?」
「ご、ごめんなさい火射様。ついお団子を食べすぎちゃって‥‥」
「おいおい、観光に来てるんじゃあないんだぜ?」雷奉公が声をかける。
「で、お三方。そちらの情報は?」

「‥‥なるほどな。怨霊の外観は、目撃者によって異なるか」三人の情報を聞き、黒崎はうなずきつつ相槌を打った。
「それに、邪魔者を片付けるために使われているって噂もある‥‥。重要な刀を持った者が、そんなところに迷い込んだ。怪しいですね」と、火射。
「ふむ‥‥熊二郎はともかく、誰かが犬三郎を始末するために、この村にわざと追い込んだ‥‥と言っても、あながち間違いではなさそうだ」
 雷奉公は、出がけに依頼人へかまをかけた時を思い出し、つぶやいた。


『凶羅に飛高に三本の刀‥‥こうも三が揃うと因縁すら思えるねぇ〜ぃ。ねぇ、「飛高の次兄」さん?』
 出発前。雷奉公は、わざと思わせぶりな言葉を、熊二郎にぶつけてみた。この言葉から、何かボロを出すかもしれない。そう思ってのことだ。
 しかし、その期待はあっけなく崩れた。
『? 何が言いたいのだ?』
 きょとんとした表情で、熊二郎は雷奉公を見つめ返したのだ。やがて、それは怒りに変化していった。
『一つ言っておく。わしを疑うのは構わん。だが、もしも耕一朗様や千鶴様がわしに死んでくれと命じたなら、わしはすぐに腹をかっさばこう。信じぬ事は勝手だが、覚えておけ! わしは我が主人のために生き、我が主人のために死する覚悟がある!』


「‥‥見たところ、怪しい様子はなかったけど。でも、口先だけならなんとでも言えるからな。ともかく‥‥」
 雷奉公は、村を見据えた。視覚をさえぎっている様子が不気味だ。
「仕事を始めるとするか」

 怨霊よりも先に、刀の奪還を優先。
 まずシャーリー・不破・火射・雷奉公の四人が深部に。七神・セレネス・黒崎の三人は後方の入り口付近で、退路を確保しつつ、何かあったら駆けつけられるように待機。
そして犬三郎を見つけたら、刀を入手し退却。もしも怨霊と遭遇しても、あくまで刀を持ち、逃走する事を優先。
これが、現在の彼らの立てた計画であった。
 先刻より、犬三郎は生きていないだろうという結論がでた。というのも、セレネスが何度かデティクトライフフォースの呪文を唱えたのだが、全く感知しなかったのだ。
 呪文の範囲外にいるのかもしれない。しかし、だとしても村の深部にいるはず。
 感知できた限りでは、生きている者はいない。すなわち、犬三郎は死んでいる可能性が高い。
 ならば、刀だけでも持ち帰らねば。
 小太刀と桃の木刀を両手に携えた不破は、油断なく視線を周囲に向けていた。彼の後ろには弓を構えたシャーリーが、そしてやはり桃の木刀を構えた火射が続く。しんがりの雷奉公は丸腰だが、彼はそれを補って有り余る術を心得ていた。
 セレネスと、短刀を構えた七神、十手と小太刀を両手に携えた黒崎は、仲間達が村の奥へと進んでいくのを見守っていた。
 少し離れた場所には、骸骨が転がっていた。
 が、霧の中に浮かび上がった冒険者達をみて、その骸骨はかすかに動き始めた。

「忍法‥‥蝙蝠の術!」
 廃屋を背に、火射は忍術を用いて自身の聴覚を鋭敏にした。蝙蝠のごとき地獄耳が、あらゆる音を聞き逃さんと澄まされる。セレネスの呪文が及ばなかった箇所を、彼の忍法で改めて聞き取ろうという魂胆だ。
 その間、シャーリーと不破、雷奉公は、足元を調べていた。
「おかしいな。足元が踏み固められている。それに、この足跡‥‥」
「変ですね。この村には、人の出入りはなかったはず。なのに‥‥どうしてこんなに、多人数で踏み固められているのでしょう?」
「つい最近、数人の人間が入り込んだ‥‥それしか考えられないな」雷奉公が、不破とシャーリーの言葉に答えた。
「‥‥だめです、こちらも何も感知できません」
 火射が術を終えた。
「手がかり、未だ無しか。だが、少なくとも足跡はある。こいつをたどって行こう」
 不破が指摘した足跡をたどり、彼らは更に霧の中を進んでいった。
その後ろから、何者かが落とす影がゆっくりと歩み寄ってくる事に、冒険者達は気づいていなかった。

「では、あなたはジャパンの言葉を喋れないのか。なんとも、残念な事だ」
 待機しつつ、黒崎はセレネスと七神と言葉を交わしていた。
「こんな美しい御仁が、俺の母国語を話せないとはな。ぜひ美しいその声で、ジャパンの言葉を喋るところを聞きたいものだ」
「あ、あの。黒崎様? わたくしたちは今、仕事中ですよ? そのようなお話は、ちょっと不謹慎では‥‥」
七神が穏やかに言ったが、それでも黒崎はお構い無しに言葉を続ける。
「こういう時だから言うんだ。村から漂うこの怖気、正直、ふざけた話でもしない事には‥‥!」
 黒崎の言葉が止まった。七神とセレネスは、彼と同じ方向へと目を向けた。
 そこには、霧の中に怪骨が、ゆらりと立っている姿があった。

「これは‥‥間違いないですね!」シャーリーが、確信めいた言葉を口にした。
 四人の冒険者達は、犬三郎の遺体を見つけたのだ。
 遺体の顔は、熊二郎が見せてくれた似顔絵にそっくりだ。眼帯をした右目、特徴的な顔の傷痕、白髪が混じった髪の毛。
 犬三郎の周囲に倒れているのは、家臣の死体に間違いないだろう。
「‥‥‥」
 その様子を痛ましく思いつつ、火射は犬三郎の遺体へと近付き、握っていた剣を取り上げた。
「これが、星光丸‥‥」
 それは、大陸の幅広な青龍刀に近いつくりのものだった。いや、刀剣というより、鉈に近い。鞘から抜いてみたが、刀身にふんだんに彫刻が施されている以外、何の変哲もない。むしろ大ぶりでバランスも悪く、武器としての出来は決して良いものとは言えない代物だ。
 本当にこんななまくら刀に、命と引き換えにすべき価値があるのか。
「さあ、戻りましょう‥‥」
 シャーリーがそう言いかけた、その時。
「おい、出たぞ! 怨霊だ!」
 不破の言葉通り、三体の影が現われたのだ。が、それは人ではない。おぞましい怨念を秘めた、生ける屍。
 霧のため、その者たちの細かいところまでは見られなかったが、全身から放つ邪気と殺気は、それらがまさしく邪悪なる存在、おぞましき呪われた存在である事を確信させた。
 手にはそれぞれ、剣と斧と、大槌を携えている。
「みんな! 俺がやつらをひきつけるから、みんなは先に逃げてくれ!」
「分かりました! 雷奉公殿も気をつけて!」火射が叫ぶ。
 星光丸を携え、三人は来た道を引き返していった。取り残された雷奉公を、三体の死に損ないが取り囲む。
「剣を手に入れたからには、長居は無用! 『忍法・微塵隠れの術』!」
 三体の怨霊が、振りかぶった得物を振り下ろした瞬間。強烈な爆発が雷奉公の周囲に発生した。爆発は怨霊を薙ぎ払い、爆風が収まった時には、雷奉公の姿は消えていた。

「はっ!」一体目の怪骨に、黒崎が十手を振り下ろす。
 脆くなった頭蓋骨を砕かれ、怪骨は崩れ落ちた。
 不破から借りた道返の石に、黒崎と七神、セレネスは感謝していた。先刻に彼から借りたこの石で、結界を張っておいたのだ。
 不死なる存在は、この結界内では緩慢になる。そのため、黒崎らは不意打ちを食らわずに済んだのだ。
 しかし、怪骨は一体だけではない。二体ほどが、顎をガクガクさせつつ、鎌と棍棒を持って迫る。
 右からの怪骨が、鎌で切りつける。が、その攻撃を短刀で受け流した七神は、刃を鋭く一閃した。
「ブラインドアタック!」
 脆い骨が砕かれ、二体目も沈黙した。
 三体目は、攻撃を仕掛ける前に、セレネスの攻撃を受けていた。彼女の呪文が、怪骨の偽りの生命を消し去ったのだ。
「黒き邪悪なる者よ、白き聖なる光の前に屈服せよ。『ブラックホーリー』!」
 呪文が炸裂し、怪骨は砕け散った。
「‥‥どうやら、終わったようですね」
 霧の中から、不破たちが戻ってくるのを見て、七神はつぶやいた。


「感謝するぞ、冒険者たち。これで、弟も浮かばれよう」
 隆山家の屋敷にて。冒険者達は星光丸を、熊二郎へと手渡していた。
「この剣がなければ、千鶴殿は家督を継げぬ。大義であった」
「それはそうと、熊二郎殿。旅の途中で聞きましたが、『三怨の村』は、邪魔な政敵を始末するために、あえて放置しているという噂ですが‥‥」
 雷奉公の言葉に、熊二郎は怪訝そうな顔をした。
「貴殿は、余程の無礼者と見えるな。わしが弟を亡き者にせんと、村にわざと追い込んだとでも? 馬鹿も休み休み言え!」
 機嫌を損ねた彼は、吐き捨てるかの用に言った。
「報酬はくれてやる。だがこれ以上、貴様らの顔は見たくない。仕事は終わった、即刻消えるがいい!」
「‥‥」
 だが、この件はこれで終わりではあるまい。熊二郎には、否、この事件には何か裏がある。
 冒険者達は、そう思わざるを得なかった。