運命の剣 日輪と未来の章

■シリーズシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月20日〜12月27日

リプレイ公開日:2005年12月28日

●オープニング

 星光丸の傍らには、虎太郎の亡骸があった。
「兄上‥‥。一体、どういう事なのだ‥‥」
 熊二郎は、兄の亡骸を見つめていた。
 ここは、飛高家の屋敷。弟の犬三郎に続き、長兄の虎太郎を失った飛高家。肉親を失った熊二郎は、悲しみと絶望に囚われていた。
「熊二郎様‥‥」
 その隣には、千鶴がいる。彼女もまた、悲しみに囚われていた。自分のせいで、熊二郎は兄と弟を失ったのだ。
「千鶴殿、悲しまれるな。わしらは武士。いつでも戦い、そして死ぬ覚悟が出来ております。それより、わしは悔しい。兄上が乱心したのか、あるいは何かを企んでいたのか‥‥、わが主人を裏切るような事をしておきながら、弟であるわしが気づかなかった事が悔やまれる。気づいていれば、止めてみせたものを‥‥」
 しかし、その言葉の節々に、千鶴は別のものを感じていた。
 彼もまた、心に弱さを持つ者だと。熊をも屠る豪傑は、孤独に弱い者であるという事を。

「そうか、虎太郎が‥‥」
 床につきつつ、耕一朗は熊二郎とともに報告を聞いていた。隆山の屋敷の中心、耕一朗の部屋にて、熊二郎と千鶴、耕一朗は、三人だけで話し合っていた。
「耕一朗様‥‥父上と呼ばず、あえてそう呼ばせてもらいます」
 同席した千鶴が言った。
「わたくしが刀を探したため、何人もの人の命が奪われました。‥‥孤児院の経営資金が欲しいのは正直な気持ちですが、人の命を犠牲にしてまで、家督を継ぎたくはありません!」
「千鶴殿! それは違います!」熊二郎が言った。
「‥大きな声では言えませんが、もし千鶴殿が家督を継がねば、隆山家は終わりです。第二候補の雄之助様は、人格的に少々問題がありまして‥‥」
「ああ。叔父上は人の命を軽んじるところがある。それに、おそらく虎太郎や犬三郎を謀殺したのも、叔父上に相違あるまい‥‥ごほっ」
 せきこみ、話は中断された。
「‥‥誰だ!」
 熊二郎が気配に気づくと、そこには少年の姿があった。
「案ずるな、わが密偵の楓丸だ。何か、分かったのか?」
「はい、ご主人様」
 鋭い顔の、華麗な少年。耕一朗に助けられた時から、彼は熊二郎同様に主人に忠誠を誓っている。現在彼は耕一朗の目や耳となって情報を集め、報告する任を担っていた。
「申し上げます。虎太郎様は、雄之助様に弱みを握られていました。なんでも、ある下級武士の奥方と恋仲になり、逢引を繰り返していたところを雄之助様に知られたそうで。この事実を皆に知られたくなくば、協力しろと脅されたのでしょう」
「誠か!? しかし、兄上がそのような理由で、弟であるわしを謀るとは‥‥!?」
「いえ、熊二郎様。私も最初は耳を疑いました。ですが、おそらくは虎太郎様は本気でその女性を愛していらしたのでしょう。奥方に迷惑をかけたくないという一心で、雄之助様の脅しに屈してしまわれたのではないでしょうか」
「それで、楓丸さん。その奥方様は?」
 千鶴の質問に、彼はかぶりを振った。
「二日ほど前に、自害しているところを発見されました。虎太郎様が亡くなられたとお聞きになり、たいそうお悲しみになられたとのことで」
「‥‥たとえ許される愛とはいえ、そのような人の気持ちを利用するとは‥‥許せぬ!」
 楓丸も、熊二郎の言葉に賛同するかのように目を閉じた。
「熊二郎様、それともう一つ。殺された犬三郎様ですが‥‥ひょっとしたら生きているかもしれません」
「何?」「なんだと?」「何ですって?」
 三者三様に驚く三人が落ち着くのを待ち、楓丸は続けた。
「犬三郎様の部下で唯一、狼助様が助かりましたが、今、行方不明になっている事はご存知ですね?」
 楓丸の言うとおり。三怨の村からは唯一、狼助が怨霊の手から逃れ、助かり、治療を受けていた。
 が、彼は顔をめちゃめちゃに傷つけられ、見る影もなかった。自分から「狼助だ」と名乗らなければ、誰かはわからなかった事だろう。
 そして、医院に担ぎ込まれ、一命を取り留めた。が、彼はいつの間にかいなくなっていたのだ。
「狼助様も、犬三郎様と同様に眼帯をしていました。そして、以前に雄之助様と犬三郎様は、いつも会っては何かを話し合っていたとのこと。つながりがあることは、間違いないでしょう」
「すると‥‥」千鶴が、静かにつぶやいた。
「冒険者の皆さんが発見した犬三郎様こそが狼助様で、助かり行方不明になった狼助様は、犬三郎様。二人はすり替わっている、という事でしょうか?」
「はい。その可能性は高いと思われます」
「‥‥わしは、兄だけでなく、弟も疑わねばならぬのか‥‥!」

「‥‥と、熊二郎様は悲しまれていました」
 楓丸を引き連れた千鶴が、ギルドの応接室にて依頼内容を口にしていた。
「その夜です。私と子供達は、熊二郎様に呼ばれ、夕食をとろうとした時の事。夕食が始まるや否や、熊二郎様は一口食べて『食べるな!』と、私の茶碗を叩き落しました。‥‥毒が、盛られていたのです。
 そして、その直後。賊が侵入しました。熊二郎様や屋敷の皆様が倒しましたが、毒のせいで身体がよく動かない熊二郎様は、重傷を負われてしまいました‥‥わたくしと、子供たちを守るために。
 もし、あの時に熊二郎様が尽力されなかったら、わたくしたちも毒を盛られ、子供達とともに殺されていた事でしょう。熊二郎様は命を取り留めましたが、もはや刀を探すどころではなくなってしまわれました」
「そして、月光丸とともにあった石版ですが。それに刻まれた文字を解読したところ、最後の剣のありかが分かりました。三怨の村の、どこかです」楓丸が、千鶴の後を引き継いで言った。
「三怨の村には、四つの大きな蔵が据え付けられています。鋼鉄の頑丈な扉で閉ざされ、今まで何とかして開けようとしたのですが、開きませんでした。そこに何が入っているかはともかく、怨霊が危険なために、近付くことすら出来なかったので。ですが、石版に記載されていた内容から、それを開く鍵は星光丸に隠されているのを知りました。それは今、私が肌身離さず持っております」
 楓丸は、懐からそれを取り出した。星光丸の柄の部分に、それは隠されていたらしい。
「そして石版には、四つある蔵の一つに日光丸が隠されていると記されていました。その蔵がどれかは、謎かけを答えればわかる‥‥との事です。こちらに、地図を用意しました。ともかく、四つの蔵のどれかひとつに、最後の剣・日光丸と、宝があるはずです。その剣を手に入れれば、約束どおり、千鶴様が家督を継ぐ事になり、全てが丸く収まります」
「‥‥家督など、わたくしは欲しくはありません。ですが、誰かが傷ついたり死んだりするのも嫌です! 雄之助様と犬三郎様が家督を継げば、今以上の血が流れる事でしょう。約束します、わたくしが家督を継いだら、二度と誰の血も流させないと」
 千鶴の言葉に、楓丸も微笑みながらうなずいた。
「皆様には、もう一度三怨の村に赴き、怨霊と、おそらく月光丸を携えた雄之助様と犬三郎様から、千鶴様を守っていただきたいのです。四つある蔵のうち一つ、その扉を開くのは星光丸の鍵ですが、蔵の中にある日光丸を取り出すには、月光丸が必要なのです。おそらく、月光丸にも鍵が隠されているのでしょう」
「皆様、どうかお願いします。わたくしにお力をお貸し下さい」
 千鶴は楓丸とともに、深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 ea1551 セレネス・アリシア(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea5641 鎌刈 惨殺(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8750 アル・アジット(23歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb3241 火射 半十郎(36歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb3273 雷秦公 迦陵(42歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「三怨の村」
 三体の怨霊が潜むその村は、年の瀬が迫った今でも、変わらず不気味な佇まいを見せていた。
「また、この村に来てしまいましたか‥‥」
 霧に包まれた村を臨み、セレネス・アリシア(ea1551)はつぶやいた。
 ディテクトライフフォースの呪文は、歩き回る者の存在は感知できなかった。本当にいないのか、あるいは感知できる範囲外にいるのか。どちらにしても、いまだ敵の姿は見えないということだ。
 仲間のほとんどは、引き続き継続してこの仕事を受けている。あいにくと二人は参加できなかったが、彼らに勝るとも劣らぬ強者が参加している。
 浪人・鎌刈惨殺(ea5641)に、インドゥーラ国のハーフエルフ・アル・アジット(ea8750)。
 二人は旅に出る前に、千鶴と言葉を交わしていた。

「事情はわかった! 怨霊の事はこの俺に万事任されよ、はっはっは!」
 豪快に笑う鎌刈に対し、千鶴はおっかなびっくりそれに答えた。
「え、ええ。どうかよろしくお願いします」
「私も、事情はおおまかに理解しました。孤児院経営という貴方の行為には、剣を振るう意義があるというものです」
 アルもまた、千鶴に対し自らの考えを口にした。淡々とした口調ではあるが、その言葉には熱き想いが込められているのが感じ取れた。
「それで、千鶴さん。鍵の件ですが‥‥」
 雷秦公迦陵(eb3273)が提案した。
「ニセの鍵をこしらえて、俺がそれを持っておこうと思う。奴らは月光丸を持ってはいるが、星光丸の鍵と石版の謎を解かぬ事には、奴らもまた日光丸を手に入れる事は不可能。そのため、千鶴さんを狙う事は十分考えられると思う」
「わかりました、お任せします。楓丸さん、鍵を」
「はい」
 楓丸が差し出した鍵を受け取り、雷奉公はニセの鍵を手渡した。
「この策略に、敵が引っかかってくれたらいいのだけど」
 七神斗織(ea3225)は、友人とその小さな従者とを見ながら祈った。

「千鶴さん、私からはこれらをお貸しします」
 三怨の村を望む場所で、七神は木刀とポーションの入ったビンとを千鶴に手渡した。
「いいですか、くれぐれも前に出て戦おうなどと考えないように。私たちがあなたたちを守ります。これは護身用の最後の武器として持っていてください。いいですね?」
「楓丸殿も、千鶴殿と御自分の身を守る事を優先するように願います。戦いは我らが行うので、後方から出てこないように」
 火射半十郎(eb3241)は、楓丸にバックパックを手渡した。
「中のポーションは、緊急時には使用してかまわない。よろしいな?」
「心得ました、火射様」
「わかりましたわ。皆様、よろしくお願いします」
 七神と火射半十郎(eb3241)の言葉に、楓丸と千鶴はうなずいた。
「霧が濃くなってきてます。そろそろ行きましょう」
 皆を促すかのように、シャーリー・ザイオン(eb1148)が言った。

 雷奉公以外の冒険者達は、千鶴と楓丸を囲みつつ、村に侵入した。内部に進むにつれ、白い霧が悪意のように絡みつく。
 視界はなんとか保たれてはいるが、油断をしたら容易にはぐれてしまいそうだ。皆は寄り添い、さらなる注意の視線を周囲に向けつつ先を急いだ。
 離れた場所で、雷奉公は仲間と依頼人の様子を見守りつつ、影のように付き従っていた。
 時折薄くなったり、濃くなったりする霧。その狭間から、仲間たちの無事な様子、敵対者が潜んでいないかを確認し、忍者は村の中を進んでいく。
 千鶴が携えた地図により、彼らは悪鬼の蔵に次第に近付きつつあった。
 
冒険者たちから、そう離れていない場所。そこにいる彼らは暖かな血肉の存在を感知し、邪な笑みを浮かべて歩を進めた。

「あったぞ、ここだ!」
 廃墟と化した村の中。その片隅に、確かにその蔵はあった。
 村そのものにうずもれたかのような、巨大な蔵。窓も空気抜きの穴も開いていないそれには、唯一扉のみがついていた。
 扉には「悪鬼」と大きく刻印がなされている。そして、扉と一体化した錠が、侵入者を阻んでいた。
「謎かけの答え、どうやら私は解けたと見てよろしいようですね。けど‥‥」
「ああ、奴らはどうやら、そろそろ出て来るつもりのようだな」
 セレネスと鎌刈が、油断なく霧へと視線を向けた。
 冒険者たちは、蔵を背にして武器を構える。先刻から、何者かの気配を感じていたのだ。
 それは、後方から迫っていた。足音を忍ばせてはいたが、彼らは完全には気配を消せていなかった。
「みなさん、用心してください!」
 シャーリーが、弓を構える。彼女の言葉が終わらぬうちに、霧の狭間から人影が現われた。
「‥‥どうやら、そこに財宝があるらしいな。ご苦労だった」
 雑兵を引き連れた、二人の男の姿がそこにはあった。彼らは全員、弓を手にしている。下手に動けば、矢を射掛けられることだろう。
「下衆な冒険者どもでも、役には立ったようだな。礼を言うぞ」
 一人は、傲慢そのものといった顔付きの男。世の全てを見下すため、自ら望んで歪んだ顔になったかのような、傲岸不遜な男だった。
 言うまでも無く、彼が雄之助に違いないだろう。
「ふむ、熊二郎兄者の言っていた冒険者どもか。まあ、退屈はせずにすみそうだ」
 もう一人は、眼帯をつけた逞しい男。その姿は、かつて一度この村に、星光丸を取りに来た時に目にした男と同じ姿格好の武士だった。
「犬三郎‥‥様!?」
「そうだ、千鶴殿。虎太郎を切り捨て、熊二郎に毒を盛った、犬三郎だ」
 にやにやしながら、雄之助は刀の柄を弄り回した。
「貴様っ!」
 火射が手裏剣を構えたが、彼はその動きを止めざるを得なかった。
「やめた方がいい。この子供の身体が切り刻まれたくないのならな。月光丸は星光丸と異なり、刀としてはそれなりに切れ味良いぞ」
 雄之助の部下が、縛られた子供を抱えていたのだ。それを受け取った犬三郎は、子供の喉元に刀を突きつけた。見るとその刀は、月光丸だ。
 火射とシャーリー、セレネスと鎌刈、アルと七神、そして千鶴と楓丸は、驚きの声とともにそれを見つめた。子供は、千鶴が引き取っている孤児の一人だったのだ。
「ま、お前らが星光丸の鍵で蔵の扉を開け、月光丸を使って日光丸と財宝を手に入れたら、この子供は助けてやっても構わんぞ。選ぶのはお前達だ。好きにするがいい」
 猿轡をかまされた子供を、犬三郎は刃先で突き、軽い切り傷を負わせていた。刃が切り傷を作るたびに、子供が声無き悲鳴を上げる。
「や、やめて! 子供は関係ないわ!」
「ならば、早くしろ! たかだかガキ一匹の命、こちらとしてはどうなっても構わんのだからな」
 雄之助が、残酷に促す。が、今千鶴が持っている鍵はニセモノ。本物は、近くで控えている雷奉公が持っている。そのため、蔵を開けたくても開けることは叶わない。
 なんとか、時間を稼がないと。
「なぜです! どうしてこんな事を!」
 千鶴と楓丸は、木刀と短刀を手にしつつ、犬三郎に問うた。
「愚問だな。俺はいつも、二人の兄者の日陰者だったんだ! どんな手柄を立てたところで、兄者たちは認めなかった! この俺が、兄弟の中で一番の切れ者だと言ってもな! だから俺は、兄者たちを出し抜こうとしたのさ」
「なるほど、影武者を使って自分を死んだと見せかけ、最後に宝をかっさらおうとしたわけか」火射が、犬三郎の言葉をさえぎって言った。
「でも、どうしてそんな事を! 耕一朗さんは、あなたの主人じゃないですか!」
 義憤にかられたシャーリーの言葉を、犬三郎は鼻先で嘲笑った。
「だからどうした。どんなに忠誠をつくしたところで、兄者二人が名誉も褒美も横取りしちまうんだ。虎太郎兄者は、とくに俺を見下していやがった。だから俺は、裏切ってやったのさ。雄之助様は、俺を認めてくれた。ならば、鞍替えしたところで何もおかしくはあるまい?」
「そういう事だよ、諸君。私は、虎太郎が人妻と許されざる関係である事を知ってねえ。それを犬三郎に教えてやったのさ。おかげで、虎太郎は弟にこき使われたよ」
 二人は、下卑た声で笑った。彼らにあわせ、部下達もまた毒虫が合掌するかのように笑った。
 囚われた子供は、ぐったりしている。見ると、あざや傷の痕が痛々しい。相当殴られ、苛められたのだろう。
 が、下卑た笑いは唐突に終わった。
「忍法、春花の術!」
 霧に紛れ、もう一人の忍者が現われたのだ。彼は手をかざし、術をかけた。
「むうっ!?」
 犬三郎に術が効き、彼は子供とともに眠りに落ちた。すかさず、子供と月光丸を手にする。
「この通り、返してもらったぜ。刀と子供をな!」
 獲物を抱え、来奉公は千鶴へと刀と子供を運ぶ。楓丸は剣を、千鶴は子供を、宝物のように抱えた。
「おのれ、味な真似を! お前ら、矢を放て! ‥‥ええい、犬三郎! 起きぬか馬鹿者!」
 雄之助が、大慌てで指示をとばす。が、部下達はその指示を聞かなかった。
 かわりに、悲鳴をあげていたのだ。槌で潰され、大斧で首をはねられ、刀で切り捨てられて。
「なっ‥‥そ、そんな!」
 持ち直す暇も与えず、襲撃者は武器の残酷な一撃を、二人にも与えた。首をはねられ、または頭を潰されて、二人は沈黙した。
 それは、凶羅三兄弟。怨霊の三兄弟が、後ろから迫っていたのだ。瞬く間に、三体の怨霊によって部下たちは始末された。
「皆、ゆくぞ!」火射が号令をかける。
 大刀を持つ怨霊、凶死朗。
 大斧の凶苦朗に、槌の凶獣朗。
 尻尾を巻いて逃げ出す雄之助と犬三郎をよそに、冒険者達は怨霊へと戦いを挑んだ。
「おお、出た出た!聞いたとおり、頭の悪い、すかすかの身体だなあ!はっはっは!」
 鎌刈が、凶死朗に切りかかる。が、呪われた死者の身体は、鎌刈の長巻の一閃をものともしなかった。胴体をまともに切り裂くも、なんら痛手にはなっていない。
 逆に、錆びた大刀の切っ先が、鎌刈に強かな一撃を食らわせた。
「ぐっ!‥‥はっはっは! やるじゃあないか!」
「鎌刈さん!‥‥きゃあっ!」
 それに気を取られ、七神もまた痛手を負う。凶苦朗の斧の刃が、彼女を切り裂いたのだ。
「くっ‥‥強い! 流石は、噂に名高い怨霊!」
 アジットの流派を持つアルは、両手の仕込み杖で何度も切りかかっていた。が、魔力を有していない彼の武器は、怨霊にはまったくダメージを与えていなかった。逆に、凶獣朗の槌が叩き潰さんと迫ってくる。
 シャーリーもまた、なんとかして援護しようとしていた。が、うまくいきそうにない。
 三体の怨霊はすばやく、しかも混戦状態にある。味方に当たる可能性があるため、下手に射掛けるわけには行かない。ましてや彼女の矢は普通のもので、魔力が込められてはいないのだ。命中しても、何の意味もない。
 そのような中、セレネスは呪文を唱え続けていた。
「はっ!」
 鎌刈の危機を助けたのは、火射だった。彼は所有しているアンデッドスレイヤー「八握剣」。ないしはその一つを、凶死朗の目に投げつけたのだ。投擲された手裏剣は、始めて怨霊にダメージを食らわせた。
「この刃を、食らうがいい!」
 両手に持った八握剣で、更に切りつける。視覚を半分失った怨霊は、喉と手首を切り裂かれ、苦悶のうめきを上げた。
「七神さん、これを!」
 千鶴が、借りた木刀を持ち主に投げ返す。七神はそれを手にして、凶苦朗の腕を打ち据えた。
 魔力を秘めた桃の木が、怨霊にダメージを与える。大斧を取り落とした凶苦朗は更なる一撃を食らわさんとつかみかかるが、その一撃は空振りに終わった。
 そして、セレネスが呪文を唱え終わっていた。
「我が呪文よ、眠れぬ者に大いなる痛手を!『ビカムワース』!」
 槌を持った凶獣朗に、呪文によるダメージが与えられる。怨霊は、始めて苦痛の悲鳴を上げていた。
「どうした、死に損ないども。この程度で終わりか?」
 挑発するような口調で、雷奉公が怨霊に言葉を投げかける。それに怒ったかのように、怨霊たちは忍者へと攻撃目標を変えた。
「かかったな! 忍法『微塵隠れ』!」
 三体の怨霊が、雷奉公につかみかかる瞬間。強烈な爆裂が起こり、怨霊を薙いだ。そしてそれが、呪われた死者の最後となった。
 蔵の影から出てきた雷奉公は、自分の闘気魔法が引導を渡した事を知り、ようやく胸をなでおろした。

 七海と鎌刈の怪我をポーションで治した後、一行は最後の刀を取りにかかった。
 火射が預かっていた鍵で最初の扉を開き、月光丸の刀身そのものを巨大な鍵として、内部の二番目の扉を開いたのだ。
 その中には、僅かな小判。巻物、そして見事な刀が一振り納められていた。
 刀は、正に名品だった。その美しさは、まさに芸術品と言っても良いだろう。
 巻物には、以下の様に書かれていた。

「日光丸を手にした、わが子孫よ。
 この刀を得るには、様々な人々の協力が必要だったことだろう。
 人と人が互いに協力し、大きな事を成し遂げる。この力こそが、本当の宝物。
 我が形見、日光丸を得た者よ。協力した人々との絆を大事にしなさい。それこそが、何物にも変えがたい宝物なのだよ。
 
 隆山家初代当主 隆山賢一郎」

 その後。
 千鶴は晴れて家督を継いだ。そして、彼女は孤児院を経営し続け、身寄りの無い子供達を引き取り、母となり姉となって面倒を見続けた。
 彼女の隣には、回復した熊二郎の姿があった。
「ただ主君だから千鶴さんを護ってきたんじゃないんだろ?時には素直になる‥‥あんたみたいな馬鹿正直にゃ理解できない言葉かな?」
 犬三郎の事情を聞き、落ち込んでいた彼だったが、雷奉公の言葉に発奮した後は、千鶴に自分の気持ちを打ち明けた。
「自分は、不器用で粗野な男。しかし、わしは決してそなたを裏切らない。どうか、わしの気持ちを、受け取っていただきたく‥‥」
 その言葉を聞き、照れつつも受諾した千鶴の顔を、楓丸は祝福の気持ちとともに見守っていた。
 そして、冒険者達との別れの際。千鶴は皆に小判を一枚づつ手渡した。蔵の中に収められていた、数枚の小判だ。
「これは、皆さんに差し上げます。皆様には、大変お世話になりました。どうか、お体にはお気をつけて。それと‥‥七神さん」
 別れを目の前にして、千鶴は友人として渡したいものがあるという。
「あなたは、私の運命を切り開いてくれました。運命の剣を取るために戦ってくれた、運命の剣士という称号を贈りたいと思います。受け取って、もらえますか?」
「もちろんです! 千鶴さん、今度はお友達として、孤児院に遊びに来ますね?」
「はい! ぜひいらしてください!」
 七神の言葉に、千鶴は微笑んだ。彼女のこれからの運命に幸あれと、冒険者達はその微笑を見て思うのだった。