悪が棲む屋敷 後編
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■シリーズシナリオ
担当:塩田多弾砲
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 71 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月26日〜07月31日
リプレイ公開日:2006年08月03日
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●オープニング
かの事件から、数日過ぎた。
「若菜屋」は、次第に収益が上がり、経営も以前の状態に持ち直した。
また、友人や知人の力添えもあって、お里は徐々に持ち直していた。「戦う」という言葉に励まされたかのように。
しかしそれでも、お里の心の中には、不安が二つ根を下ろしていた。
一つは当然、遠見についてだ。今回の事で、彼の面目を潰してしまった。まだ遠見がインチキで悪意のある詐欺師だとは、分かってはいても、どうしても受け入れるのに抵抗があった。
だが、もう一つの不安。それは、自分の生きがい。
愛する家族を失った今、自分は何のために生きるべきか。商店に嫁いだため、使いきれない金は我が物となった。今まで屋敷の拡張に使ってきたが、それが無くなった今、何のために使えば良いのかわからない。
贅沢には、お里は興味が無かった。どんなご馳走や宝物も、血のつながった家族が、ましてや子供が居ないのならば意味が無い。
どうすれば良いか。自分に出来る事は。
考えあぐねている時、彼女は一人の老婆と出会った。
商店同士の寄り合いの帰り、彼女は気分を悪そうにしている老婆を助けた。
彼女はお鶴、郊外のぼろ屋敷に、身寄りの無い子供達を集めて世話している老婆だった。
しかし、彼女は経営していた商店が倒産、さらに、多くの借金をこしらえてしまっていた。
なんとか借金は返した物の、彼女は全ての財産を失い、毎日の生活も出来ない有様に。なんとか働き口を見つけたものの、十人以上も養っている子供達を飢えさせないために、無理をしていた。
その無理が祟り、彼女は身体を壊してしまった。数日何も口にしておらず、ろくに眠ってもいない。それでもお鶴は、起き上がって子供達のためにと戻ろうとした。
「あの子たちは、わしを必要としております。親に捨てられたり、親に死なれたりした子供達。親が必要な時にいないのはあまりに不憫じゃ。だからわしが、あの子達の親がわりになって、いろいろと教えたいと思ったんですじゃ」
お鶴は、ある意味もう一人のお里であった。彼女もまた、幼い頃に自分の家族と死に別れ、苦難の末に家庭を持ったものの、夫と子供達を失うという人生を送った女性だったのだ。
だが、だからといって彼女はくじけなかった。
自分の子供は亡くなった。だが、親を必要とする子供は数多くいる。今日もどこかで、そんな子供が必ず泣いている。
自分の残る人生は、その子供達のために捧げよう。そう決意した彼女は、自分の住居を孤児院に改造、そこで恵まれない子供達を引き取り、育てる事を始めた。
が、次第に財産も底をつき、彼女自身も老齢で無理の効かない身体になってしまった。そして先日、たちの悪い詐欺師によって、多くの金を取られてしまった(後でわかったが、そいつは遠見だった)。
自分の屋敷もぼろになり、改装が必要に。しかし、高くて手が出ない。
が、安値で請け負う大工をみつけ、早速依頼したところ、粗雑な修理をしただけで、法外な利子と実費を要求されるはめに。
なんとか借金をして払ったものの、もはや蓄えは無くなってしまった。
屋敷の子供達の中で、年長組の子供達は働きに出ている。そして、成長し独立した子供達も、仕事をして寄付をしてくれている。その稼いだ金で少しづつ借金を返してくれているが、それでもまだ足りない。
「あの子達から払ってくれた分も返さないと、わしはあの子達の親とは言えませんですじゃ」
「でも! どうしてそんな無理を‥‥」
「わしは、もう長くない。もうすぐ死ぬじゃろう。じゃが、死ぬまでに、親のいない子供達の親になれるか‥‥何人の子供達の親となり、その子たちを立派な大人に育てる事が出来るか。それを、わしが今まで生きてきた証にしたいんじゃ。あの世で待っている、わしの本当の子供達と、旦那に会うまでにな」
お里は、この時ほど自らのふがいなさを呪った事は無かった。
そうだ、子供を失い悲しんでいるのは自分だけではない。自分と同じく、子供を失い悲しんでいる親、そして‥‥親を失い悲しんでいる子供は、大勢いるのだ。
ならば、自分は親を失った子供達の母親となろう。今までの自分は、ただ悲しみ嘆くだけ。そして無意味な事をして、悲しみを誤魔化していただけだった。
その自戒の意味も込め、今までの情けない自分は捨て、新たな自分は子供達を育てるために、この身を捧げよう。
幸いにも、若菜屋の経営は持ち直し、最近大口の客が入ったもので、多大な収益を得たばかりだった。
お里の心は決まった。お鶴の、彼女の意思を継ごう。そのための資金は、彼女にはある。
買取り、もてあましていたあの屋敷。すでに屋鳴りは退治された。お鶴から聞いた子供達全員を養うのに、十分の広さだ。
「戦うとは、この事なのでしょうね‥‥?」
お里は、自らを叱咤してくれた占い師を思い、つぶやいた。
「‥‥奥様からこのような話を聞いて、私は賛成しました。今まで思いもつかない、すばらしい考えですと。それに、店の丁稚や、鍛冶屋の弟子も足りなかった頃です。番頭は学問を修めており、読み書きを教えてもいいとのことでした。お鶴さんと子供達を屋敷へと引越しさせ、全ては、順調に進んでいたのですが‥‥」
遠見らが、お里に襲い掛かったのだ。ギルドに再び赴いていた綾先は、事の次第を伝えていた。
お鶴の屋敷を修理したのは、遠見の腹心、大城だった。占いでお鶴をだまそうとした遠見だが、どうしてもだませなかった。故に、彼女の弱みをついて、借金をこしらえさせて大金をせしめたわけだ。
が、その邪魔をしたのが、いままでの金づるだったお里。冒険者たちを呼び邪魔してくれた腹いせにと、お里と、お鶴の子供達幼年組を誘拐したのだった。
「子供達とお鶴さんのもとに、大城と遠見の使いの者がやってきました。『子供達を返して欲しくば、若菜屋に伝えろ。屋敷の増改築を今までどおりに続ける約束をしろ、と』。そのような言伝を残して。
それで、子供達の中で年長組の、猿助というすばしこい小僧が、その使いをつけたところ‥‥山奥の、とある廃村へ続く道で見失ったそうです」
若菜屋でも密偵を雇い、調べた結果。どうもその周辺に何者かが住み着いたらしい。酒や食糧を仕入れては、廃村へと向かう者の姿を見たという証言もあった。まず間違いなく、遠見一味に違いなかろう。
「このままにしては、遠見は子供達をどうするかわかりません。最悪、腹いせにと子供達を皆殺しにしてしまうかも‥‥! そのような事になったら、奥様はおそらく、再び深く傷つくでしょう。『また、自分は子供を失ってしまった』と。そうする前に、助け出したいのです!」
しかし、それは容易ではあるまい。
「あれから調べましたが、遠見は脱走した悪党、『子殺し鬼』の通り名を持つ、権太夫という悪党を味方につけたそうです。いままで山奥に隠れ住んでいたのが、此度に呼び寄せたとか。なんでも、元はさる大名に仕えていた仕官でしたが、騒ぐのがうるさいという理由で10歳の若殿をうっかり撲殺してしまい、投獄。以後脱走し、現在に至るとのとのことで。金に目が無いと聞いてますから、おそらくは遠見に雇われたのでしょう」
そう言った綾先も、金を差し出した。
「どうかお願いします。子供達を助けて、遠見一味がこれ以上奥様と関わらぬよう、あなた方にお願いしたいのです。なにとぞ、よろしくお願いします」
●リプレイ本文
以前、遠見と大城の野望を打ち砕いた者たち‥‥楊苺花(ea7447)、佐伯七海(eb2168)、音無鬼灯(eb3757)、藺崔那(eb5183)らは、実に不愉快であった。
自らの欲望のため。ただそのためだけに、弱者を踏みつけ、利用する。これは絶対なる悪そのもの。
そして、悪たる権化が、罪無き子供たちと未亡人を強引に連れ去り、再び自らの欲望を満たすだけの行為を行なおうとしている。
その純然たる事実に憤り、話を聞いた楊飛瓏(ea9913)、雷秦公迦陵(eb3273)らもまた、参加を希望したのだった。
「私利に惑いて弱きを挫くその所業、決して許せぬ。この拳に誓いて、その憂きを晴らそう」
「同じく。人の心、人の想いを穢す者には、目にもの見せてくれよう。この俺の怒りと共にな」
武道家と忍者の言葉が、宣戦布告の言葉のように、倒すべき悪へと吐き出された。
「‥‥というわけ。状況はこれで理解できたと思うけど、その遠見と大城ってサイテーな奴らをこの手でぶん殴ってやる理由、わかったでしょ?」
興奮気味の苺花の言葉で、飛瓏と雷奉公は十分すぎるほどだとばかりにうなずいた。
「で、作戦だけど‥‥猿助さんから、やつらの隠れ家の廃村。この場所がどこかは聞いてる。で、調査・救出班と捕縛班に分かれて行動しようって事になってる。僕と雷奉公さん、それに飛瓏さんとでまずは偵察し、位置や状況を把握する予定だよ」
同じ忍びである音無から、作戦内容が伝えられる。
「んで、みんなが救出した後で、僕と苺花さん、蘭さんは捕縛班として突入し、手下全員を締め上げるって寸法です。もちろん、救出したあとで、皆さんも手が開いたら手伝ってもらうかもしれませんけどね」と、佐伯。
「ただ、問題が。権太夫って奴の存在ね。そいつ、中々の使い手らしいから、なんとか出来ないものかと思うんだけど‥‥」
「‥‥心配するな、蘭殿。そいつは、俺が懐柔してみよう。金に目が無い浅ましい者だと聞くから、場合によってはこちらに味方させる事ができるやもしれぬ。もっとも‥‥決して、罪から逃しはしないがな」
雷奉公の言葉には、成功を保証するようなものは何も無い。が、彼は言葉を付け加えた。
「奴にも、必ず受けさせる。然るべき報いを」
村は、なかば捨てられた場所にあった。実際、住民から捨てられたのだが。
が、そこにたまっているのは、ごろつきども。社会からつまはじきにされた連中ばかり。中心部には大きな屋敷があり、そこを主な居住区に。
村の奥の方は、切り立った崖がそびえ立ち、行き止まりになっている。ちょうどその場所には神社があり、戦利品、並びに人質はそこに仕舞いこまれていた。
奴らが、杜撰でよかった‥‥と、音無は内心思った。
遠見と大城、それにごろつきどもは、ろくに見張りを立てていなかった。誰にも見つからないと思い込み、なおかつ地の利があるだろうと思い込んでいる。
愚かなものどもの集まりである事が、冒険者たちにとって幸いした。
が、それでも一つ、厄介ごとが。神社の社の見張りとして、権太夫の姿があったのだ。
「‥‥どうやら、俺の出番のようだ。二人は、裏口から人質を救出してくれ。俺は‥‥懐柔してみる」
金子の入った袋を持ち出し、雷奉公は懐柔に乗り出した。
「ほほう、それほどの金を、この俺に払うと?」
「そうだ。一つ取引しないか?前金50、雑魚どもを始末すれば更に50。不満ならまだ出そう。お前にとって、悪くない話だと思うが?」
金の入った袋を見せ付けつつ、雷奉公は慎重に、そして下手に出すぎる事無く、話を進めていく。
権太夫は、巨体の侍であった。聞くところによると、かなり優秀な剣士であった。
が、その優秀さをいつからか鼻にかけるようになり、次第に我侭になり、現在のようになった‥‥という。金に汚いのも、家が貧乏してるからとかそういう事とは無関係で、単に金があったほうが我侭できるからという、実に単純明快な理屈かららしい。
「まだ出そう? ふむ、興味あるな‥‥それだけの大金をいきなり俺に提示してくれるとは、すげえ興味があるぜっ!」
言うが早いが、権太夫は得物である野太刀を構える。
「前金50。そんな大金を惜しげ無く出すってンなら、もっと持っているはずだ。お前と取引するよりも、お前の頭をカチ割ったほうが儲かりそうだ!」
言うが早いが、得物を振り回しつつ、権太夫は襲い掛かってきた。
「しっ‥‥大丈夫、静かに」
音無は、縛り上げられてぐったりしている子供たちを、戦利品の千両箱が仕舞いこまれている部屋で発見した。
幼年組の子供たちは、全部で六人。上は六才から、下は二才くらい。不幸中の幸いで、赤ん坊は年長組が世話していたため、さらわれずにすんだのであった。雷奉公が権太夫をひきつけている間に、飛瓏と音無がこっそり忍び込み、そして発見した。
なんでも、連中は食事も水も与えなかったのだ。あとでわかったが、食糧が無駄だからという理由と、餓死ギリギリの状態にしておけば、逃げ出す気力も奪えるだろうという理由から、このような卑劣なおこないをした、との事だった。
「あ、あなたは‥‥音無さん?」
同じく、縛り上げられぐったりとしていた女性が一人。音無はその女性を知っていた。
「助けに来ましたよ、お里さん」
その時、表の様子がざわつき出した。爆発音が聞こえたのだ。
「!?」
「‥‥おとなしくしていれば良い物を‥‥ま、これも忍びの本性なんでな? 悪く思うな」
爆発音は、雷奉公が用いた、忍術。
「微塵の術」で、切りかかったところをいきなり爆発で迎え撃たれた権太夫は、傷つき、仰天しつつも恐れる様子を見せず、雷奉公を見据えた。
「悪く思うな、だと? 思わんさ。お前は俺が叩き潰して、そっくり金を戴くんだからな!」
再び切りかかろうとするも、今度は慎重な姿勢を見せている。どうやら二度めの「微塵の術」を食らわせるのは容易ならざることだろう。
雷奉公が、そう考えていた矢先。
「はーっ!」
権太夫の後方から、強烈な拳の一撃が権太夫の身体にめり込んだのだ。ヌァザの銀の腕による一撃は、権太夫の不意を完全につき、彼を驚愕させた。
それに続き、音無の手による桃の木刀と軍配による更なる一撃が、浪人を襲う。
「忍法『春花の術』‥‥!」
眠りを誘う雷奉公の忍法が、最後に権太夫に襲い掛かった。彼はそのまま、眠りへと落ちていった。
「?」
先刻から、どうも気になる。
遠見は、手下たちと酒をやりながらも気になっていた。爆発音がして、騒がしい様子があったような‥‥。
この周辺には、ろくに見張りを立てていない。それも当然で、この村まで入ってくるような者はいなかったからだ。
ま、俺たちの居場所は誰にも気づかれちゃいない。ゆっくりと、金をせびる作戦でも立てるか‥‥。
「おい、大変だ! 殴り込みだぞ!」
遠見の耳に、相方の、大城の声が響いてきた。
「何? おい、権太夫は? 先生はどうしたんだ!」
「そいつは今、寝ぼけているわ。ついでに言うと、あなた達の酒盛りもこれで終わりよ」
苺花が、ふすまを蹴りでふっ飛ばしながら現われた。
「今まで、罪の無い人々を散々食い物にしてきたんだろう? 次は、お前たちが食われる番よ」
蘭が、苺花とともに現われる。
「大城、とか言ったね? 僕は、貴方に言う事がある。聞いてもらうよ」
佐伯の声が、凄みを帯びて口からほとばしる。
「お前たちに聞いておく。すぐに降参し奉行所に引き渡されるか、俺たちに叩きのめされるか。好きな方を選べ」
雷奉公の言葉とともに、緊張と戦慄が走る。
「断っておくが、お前たちにそれ以外の選択肢は無い。わかっているな?」
飛瓏が、拳を握りつつ睨み付ける。
「さあ、選ぶんだね。ついでに言うと、人質は助け出した。お前らを叩き潰すのに、なんの邪魔も入らない」
音無の言葉が終わらないうちに、チンピラどもは立ち上がった。その意図は言わずもがな。
「ふうん、叩きのめされる方を選ぶのね。いいわ、相手してあげる!」
苺花が言い放った。それとともに多数のちんぴらが襲い掛かり、冒険者たちの武器と拳が、それを迎え撃った。
両脇から、短刀を手に襲い掛かるチンピラ二人。苺花は気合一閃、脚と腕の強烈な一撃で、転ばし、突きを入れた。
「ハイッヤーッ!」
岩をも砕く拳と蹴りが、チンピラたちを沈黙させる。
同じく気合一閃、龍叱爪をはめた蘭の両腕が、チンピラたちの剣を弾いて、確実に打撃を与えていく。
音無の木刀が、チンピラを打ち据え、飛瓏と雷奉公がチンピラを叩きのめす。
そんな中、逃げ出そうとする大城と遠見に、佐伯が立ちはだかった。
「‥‥大城、僕は大工の仕事も中途半端な君だけは許さない!」
「はっ! 中途半端? がたがた抜かすな、貧乏人に屋根がある家なんざ、贅沢なんだよ!」
匕首を手に、大城はその言葉を打ち消さんと切りかかる。
だが、剣士としての修練を積んだ佐伯の前には、粗雑な動きでしかない。足元を何度もすくわれ、転倒する。
「どうした、大工の腕も知れてれば僕に腕力でも勝てないのか。よく棟梁なんて呼ばれてるもんだ。悔しかったら僕を投げてみな」
「ほざけ! こわっぱ!‥‥がっ!」
大城は腕に直撃を受け、骨が折れる音が響いた。
「降参しろ。そして、罪の裁きを受けるんだ!」
佐伯の言葉に、大城は何も言えなかった。
別の方向へと逃げた遠見だが、苺花と蘭が立ちはだかる。
「どこまで卑怯なのかしらね、逃げようだなんて」
「今度は絶対に逃がさないよ! 自分たちがやってきた事の報いを受けるんだね!」
「やかましい! 報いだと? だまされた方がマヌケなんだよ!」
遠見は、眼をぎらつかせながら刀を振り回す。が、酒が入っていたせいか、あまりに粗雑で隙が大きいその動きを、二人の女傑は軽々と見切った。
蘭の武器が、刀を弾く。そして、胸倉をつかんだ苺花が、怒りとともに拳をぶつけた。
「今度こそ許さないわ!! 仏の顔も三度までって言うけど、あたしの顔は一度だけよ! 泣いて謝るまで徹底的にボコボコにしてやるんだから!!」
仲間に止められても、二人の殴打はとまる事がなかった。
遠見の顔はすっかり変形してしまい、歯は全て折れていた。遠見は最後には惨めに這いずり回り、泣いて許しを請っていた。
「助けてくれ! あいつらに殺されるくらいなら、死ぬまで奉行所にいた方がましだ!」
「本当に、なんとお礼を言ったらいいか」
お里は、頭を下げた。
お鶴の孤児院を、お里は正式に引き継いだ。お鶴の借金は全て肩代わりし、彼女もまた、ゆっくりと休める状態になった。
子供たちのにぎやかな声を聞くことが、こんなに良いものとは思わなかった‥‥。若菜屋の人々は、口をそろえてそう言った。
「これから私は、この子供たちの母親に、そして親のいない子供たちの母親として、生きて行きたいと思います。皆さんは私に、そのための勇気を授けてくださいました。心から、感謝します」
お里の顔には、微笑が浮かんでいた。子供に向ける、母の笑み。
その笑みとともに、幸せになってほしいと、祝福を送る冒険者たちだった。