地獄に続く穴 壱の巻

■シリーズシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月10日〜04月17日

リプレイ公開日:2007年04月18日

●オープニング

 江戸に向かう街道。その道沿いには多くの村があり、一つとして同じものは無い。そのどれもが微妙に異なり、それぞれ特徴をかもし出している。
 そして、街道の一つ。百地蔵村と呼ばれる小さな村があった。

 かつてそこは、石切り場があった。が、次第に良い石が切り出せなくなり、需要も減っていった。
 やがてそこは、石の彫り物を生業とする場所に変貌しつつあった。石仏や石像、彫り物、彫刻、庭石などなど。村長を兼ねた僧侶にして職人、念石は、かつて盗賊であったらしい。若い頃は相当酷いことを行なっていたようだが、現在は改心し、仏像を彫る事で贖罪としているかのようだった。彼は大小の地蔵を掘り続け、その数は村の街道を見守るかのように、多く増えていった。
 村は、石の彫刻を行なう事で再び活気を取り戻しつつあった。普通の装飾品は相応の職人が行なっていたが、石仏を彫るのは、村の中心にある寺、ないしはそこの住職と僧侶、その見習いたち。
 いつしか、街道の脇に多く立つ地蔵から、その村は百地蔵村と名づけられ、この寺も石仏寺と呼ばれるようになった。
毎日の用に岩山から石塊が切り出され、掘り出された石塊は、ノミで削られて新たな形を得ていく。
 やがて今日もまた、一人の職人の前に一つの像が現れ出でた。石仏は無銘とはいえ、装飾品としても、そして仏像としても中々のものになるだろう。
 
 さて、そんなある日。
 石仏寺の見習いが、山に向かって行ったきり戻ってこない事件が起こった。
 村には、猟師もいれば山菜取りもいる。石仏寺の僧侶や僧侶見習いは、彼らを手伝ってはその収穫を分けてもらい、寺の食糧に加えていた。
 今回も同様。仏門にくだり、あと少しで僧侶見習いから僧侶に格上げしそうになった頃。彼、棘丸はもとは山賊育ちのちんぴらだったが、素行を正すためにとこの寺に入れられた。
 最初は反抗していたが、一年もすれば落ち着き、石仏を彫る事に意味と喜びを見出すように。そして、村人たちとも積極的に付き合い、その仕事を手伝うようにまでなった。
 棘丸は山菜取りやキノコ取りなどを率先して行っているため、村でも助かると評判であった。そして、山を行き来するのも慣れたもので、行方不明になった村人を逆に探し、助け出した事も何度かあった。
 一昼夜かけて山を探索したが、それでもどうしても見つからなかった。見つかったのは、「可能性」。
 山の中腹に穿たれている、深い縦穴。そこはまるで、地獄へと続くかのように深く深く、底が見えない。小石を投げ込んでみると、底に届いた音が聞こえなかった。
 穴の大きさは、直径が六尺(約二メートル)程度。この穴に落ち込んだのはまず間違いない。
 が、なぜ? この周辺は危険だから、入り込まないようにと村人たちの間では言い聞かされていた。

 この村には、かつて洞窟があった。巨大な天然の洞窟は山の中を縦横に走っており、更に巨大な鍾乳洞が山腹の地下に存在している。今は、入る術は無い。‥‥知りうる限り、とある理由によって。

 10年ほど前、この村には盗賊団が襲いかかった。しかし、一人が犠牲になって、盗賊団を洞窟内部に全員誘き出し、入り口を崩して塞ぐことで閉じ込め、内部で餓死させた‥‥という過去があった。
 わかっている限りでは、盗賊団を誘き出した入り口以外、洞窟の内部に入り込むことは出来ない。山腹には、時折鍾乳洞に続く縦穴があるが、そこに落ちたら最後、転落死する運命である。仮に洞窟の底に落ちて命を取りとめたとしても、外界への出口は無い。山腹表面の穴から鍾乳洞まで続く穴は、ちょうど徳利、もしくは首が長く伸びた瓶のような構造になっており、鍾乳洞側から見たら「天井に穴がある」といった状態である。
 つまりは、落ちてしまったら「穴の内側にはりついてよじ登る」のも不可能なのである。

 そのような危険な穴であるため、村人たちはなるべく近付かないようにと注意していた。しかし、棘丸はそこに近づき、落ちてしまった。
 結局、棘丸の不注意と言う事で、この事件はすんだ。

「でも、不注意とは思えません」
 棘丸の友人である彼、炭之助はそう請合った。山菜取りである彼は、棘丸とともに山の中に入っては、山菜や野草を取る作業を何度も行なっていた。そして、彼自身もかの穴の場所は知っており、落ちそうになった自分を助けてくれた事すらあったという。
「棘丸は、あいつは僕よりも注意深かったんです。山菜の知識も僕より詳しかったですし、山の中で怪我をしたり何かへまをした、なんてことは絶対にありませんでした。ひょっとしたら、何か裏があるんじゃあないかと思い、みなさんにそれを調べて欲しいんです」
 自らの貯金であるという小銭が詰まったかめを差し出しつつ、炭之助は依頼した。
 
 具体的には、冒険者たちに穴の中を探って欲しい、というのだ。
 底に下りるにしても、長い綱がなければ降りられない。降りたとしても、上る術は無い。
 村では昔の出来事から、穴の底に下りることはなかば禁忌扱いされている。中には閉じ込められて怨霊と化した盗賊団たちがいるだろう、だから中に入るなと。
 しかし、棘丸は本当に落ちたのか、落ちたとしたらその亡骸を引き上げ、ちゃんと供養してもらいたい。
 村長や石仏寺の僧侶たちは、怨霊を怖がり、供養するのも二の足を踏んでいる。それほど内部の怨霊は、恐ろしいものなのか。
 だとしても、炭之助は親友をこのまま放っておきたくはなかった。

 また、もう一つ。
 今は亡き老人が、生前にこう言っていた。
「何か大きな包みを持った二人組みが、あの穴へと何かを運んでいったのを見た事がある」と。
 老人はすぐに、滑って転んだ時に頭を打ち、そのまま亡くなってしまった。が、彼‥‥炭之助の祖父は、正直者であり、嘘や他者を惑わすような事は口にしない男でもあった。
「じいちゃんが言った事も気になります、棘丸のこれと、何か関係あるんじゃないかと‥‥みなさん、みなさんの力で、事実を突き止めてください」

●今回の参加者

 ea9249 マハ・セプト(57歳・♂・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 eb0815 イェール・キャスター(25歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2168 佐伯 七海(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2364 鷹碕 渉(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb5073 シグマリル(31歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb5532 牧杜 理緒(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「旅の方、言っておくが‥‥命が惜しいならばうろちょろせんでもらおう」
「知らん‥‥うるさい、とにかく知らん!」
「あ? すまんのう、急に耳が遠くなった」

「‥‥どういう、事だ?」
 まずは、情報の収集。鷹碕渉(eb2364)は村人たちに、件の縦穴について聞いて回ったが、全ての人々がそれに答えようとしなかった。
 否、鷹碕へ、この件に関して答えることを拒否すらしていたのだ。余所者の「排除」というより、「嫌悪」の拒絶。そんな問題を今になって掘り返すな、蒸し返すな、突き付けるな。そういった感情を隠そうともしない。
 彼らからの情報は‥‥期待以上の不首尾に終わった。
 当初の予定、事細かに情報収集を行う事。それは抜け目ない冒険者には必須であり、取って然るべき行動。が、物事には何事も例外が存在する事もまた事実。どうやら、俺たちが考えていた以上のようだな。あの洞窟が禁忌の存在である事は。
「何も分からなかった‥‥いや、一つだけ分かった事がある」
 あの洞窟には、確実に存在している。触れられたくない何か、探られたくない何かが。

「鷹碕さんも、でしたか」
 シャーリー・ザイオン(eb1148)の困惑した口調は、鷹碕に悟らせた。彼女もまた、自分と同じ反応が帰ってきたのだろうと。
「いくら過去にそういう話があったからといって、そんなに忌み嫌うのは何故なんでしょう? 怨霊が恐ろしいのはわかりますけど、それにしては‥‥」
「それにしては、拒絶感が強すぎる。余所者に知られたくない、何かがある‥‥ってところだろうか?」
 謎を解くための調査が、謎を深めた結果になった。触れられたくない傷痕のごとき、おぞましい何か、恐ろしい何かがあるというのだろうか。
 疑問を抱きつつ、浪人と射手は仲間の下へと足を向けた。

 フェアリー、翼持つ小さき仲間。
 己もまた同様に翼を持つ、シフール族の僧侶、マハ・セプト(ea9249)。そしてエルフの血を半分引いている、フランク王国よりのウィザード、イェール・キャスター(eb0815)。
 二人は、フェアリーをペットとして、そして信頼できる仲間として有していた。
「確かに、深そうな穴じゃのう」
「‥‥堆積物が積もっている‥‥わけでもなさそうね」
 マハはすぐにでも、内部へと入り込みたかった。が、それでも用意が整うまで控えるつもりではある。‥‥実際、マハは少し入り込んでみた。そして、予想以上に深いため、すぐに引き返したのだった。
「かなり深い。だが‥‥」それ以上は、言葉にならなかった。彼は感じ取っていたのだ。強烈な、怨念の残り香を。
 マハのフェアリー、各務。イェールのフェアリー、パルフェ。二体のフェアリーは両方とも、この怨念の香りを嫌ったためか。入ろうとしない。
 フェアリーを連れていた冒険者は、もう一人いた。陰守森写歩朗(eb7208)、フェアリー・リトルを連れた彼の忍者もまた、漂い出るその臭いに辟易していた。実際、内部からは嫌な雰囲気が漂い、不快感を感じずにはいられない。
「音が‥‥聞こえない。綱の長さ、足りればいいんだが」
 鍾乳洞への縦穴は、炭之助によってその場所まで案内された。が、それは近くの潅木に簡単な印が記されてるのみで、周囲を囲うなど行なわれていない。平たく言えば、誰でも簡単にそこに落ちるし、落とせるという状況。
 炭之助は、今は家に戻っている。ここに冒険者たちを案内しただけで村八分なだけでなく、彼も危険視されているという状況。
「シャーリー殿、鷹碕殿‥‥今更ではあるが、村人たちに話を聞きに赴いたのは、まずかったのではなかろうか?」シグマリル(eb5073)、カムイラメトクの勇敢なる弓の使い手が己の考えを述べた。
「もしも洞窟が、村の人々にとって禁忌な秘密が隠されていたとしたら‥‥」
「まず間違いなく、隠すだろうしね」
佐伯七海(eb2168)、牧杜理緒(eb5532)もまた、シグマリルに続き言った。
というか、牧杜は怪しいと思っていたのだ。石仏寺にて棘丸の事を聞いたのに、皆あまり彼の失踪を重視していない。
『遠目からだが、棘丸が落ちたのを見た』棘丸が穴へ転落したのを見たのは、山菜取りのその証言のみ。
「その山菜取りも、言葉を濁していましたね‥‥まるで何かを、隠していたように」炭之助からそれを聞いたシャーリーは、更なる疑いを濃くする。
 棘丸は、何かを知ったのだろう。それを隠すために、何者かが棘丸を殺すか隠すかした。
 いったい、誰が? あるいは、何が?
 その謎を調べるべく、彼らは行動に出た。

 彼らは、穴へと降下しはじめた。
 陰森が最初に用意した縄。丈夫でしなやかなそれは、60本を用意してある。6mあるそれを10本つなげ、まずは穴へと垂らした‥‥当然、地上部分には手近な岩と根を張った潅木に対して結びつけるのを忘れずに。
 陰森はロープがほどけぬよう、そしてゆるまぬよう、念には念を入れていた。おそらく、これで地上部分は大丈夫だろう。
 しかし、地下部分はそうも言えない状況。なぜなら‥‥小さい石をおもりにと結びつけ、それを下ろしたというのに、底までそれが届いた手ごたえも音もなかったからだ。
「‥‥どうやら、かなり深いと見て良さそうね」イェールが、不安をにじませつつつぶやく。
 かくして、冒険者たちは地下へと潜入を開始した。先行はシフールのマハ、次にイェールが「リトルフライ」の呪文で。続けてロープを用い、シグマリルにシャーリー、佐伯、牧杜が。鷹碕は大凧を体にくくりつけ、それで皆に続き降下していった。
 陰森はしんがりを務める。ロープを縛り付けてる地上部分の監視を兼ねての事だった。
 三体のフェアリーは、明かり持ちだ。イェールの狂化は明かりのない暗闇にて発生すると皆は聞いていたが、小さな羽根人が明かりをかざしている限り、その心配は無いだろう。
 こうして、彼らは地獄もかくやの暗闇に踏み込んでいった。

 ホーリーライトの明かりが、安心感を皆に与える。が、それを灯しているマハをはじめ、皆はそれ以上の不安感を有していた。
 まるで、巨大な悪意ある生物に飲み込まれたかのような、そんな不安感が皆を苛んでいたのだ。そして、多くの仲間たちはロープ一本で命を支えている。
 ふと、縦穴の壁が無くなった。いよいよ、鍾乳洞の内部へと入り込んだのだ。
「‥‥こりゃあ、思った以上に広く大きい洞窟ぢゃな」
 マハが、鍾乳洞の底までたどり着いた。が、ロープが垂れている場所は、更なる深遠へと続く崖が広がる場所。落とした小石は、こちらへと落ちていったのだろう。これでは、落ちた音が聞こえなくて当然だ。
 彼に続き、イェールが崖っぷちに降りる。小石の音が聞こえなくて当然だ、底には、更に深みに続く奈落があったのだから。
 フェアリーの掲げる明かりが、彼女を狂化から防いでいた。
 いや、所々にぼうっと光るコケがある。真の暗闇というわけではなさそうだ。

かくして冒険者たちは、湿った岩だらけの洞窟内に立つ事が出来た。
 周辺には、白骨化した遺体がいくつも散乱していた。彼らが今立つ周辺はもちろん、崖下にも骸骨はいくつも転がっている。しかし、新しいものは見当たらず、当然ながら棘丸の遺体も無い。
「あの骸骨‥‥生き埋めにされた、かつての盗賊たちでしょうか?」シャーリーが指摘するが、シグマリルは鼻をひくつかせた。
「‥‥シャーリー殿。この洞窟の中‥‥なにやら嫌なカムイの臭いがする」
 怨念の放つ、嫌なにおい。シグマリルの心の嗅覚には、確実におぞましき悪臭が漂い、不快なる何かを感じ取っていた。
「僕も同感だよ。どうもここは‥‥落ち着かない」
 成仏しきれない何かが、怨念めいた執念‥‥狂おしいまでの無念さが生み出した執念めいた空気が、彼女にも感じられたのだ。
「俺は、この下の方をちょっと探ってみるよ」
 凧に乗ったまま、鷹碕は奈落の底へと漂っていく。明かりは、マハのホーリーライトが受け持ってくれている。
 牧杜とシャーリーは、地上で即席に作った松明に火をつけ、さらなる明かりを確保していた。
洞窟の、今立っている場所。鷹碕が漂っていった方向とは別の、更なる洞窟の奥。果てが見えないくらいに、暗く、何処までも続いているかのよう。滴る雫の音以外、動物が立てるような音は一切が無かった。
「!?」
「‥‥聞こえたか?」
 牧杜が耳を澄まし、佐伯が促す。
「カムイラメトクの名に懸けて‥‥聞こえた!」
「私も、聞こえました!」
 シグマリルが弓を構え、シャーリーが矢をつがえる。
「‥‥あれは‥‥!?」
 イェールと、明かりを手にしたフェアリーたちが、不安そうな表情をうかべた。
 洞窟の奥から、何かが接近してくる。その足音からして、ニ・三体ではすまないだろう。ゆっくりとした、しかししっかりした足取り。
 その集団、先頭に立っているのが何か。松明の明かりが、そいつの姿を照らし出した。
「怨霊!」
 牧杜が、そいつを見てつぶやいた。後ろの方には、そいつの同類が多く控えているのはまず間違いない。松明の光が届く範囲全てに、怨霊の姿があったのだ。おそらく光の届かない場所には、さらに控えているだろう。
そいつらは、ボロボロの服に身を包み、刃の欠けた剣や武器を各々手にしていた。冒険者たちは、戦慄し、歯噛みした。この状況で、あの敵の数。勝てるか?
 その答えは、分かっていた。「無理」だと。
 だがもう一つ、彼らは恐るべき光景を目にしていた。
「あの顔‥‥あれは!」
「‥‥まちがいない、ですね!」
「あの怨霊は‥‥棘丸か!」
「カムイよ‥‥なんたる事だ!」
 牧杜が指摘し、シャーリーが確認し、佐伯がそれを口にする。
 シグマリルの言葉に彩られた、おぞましき不死の化け物。怨霊たちの先頭に立つ者は、炭之助から聞いていた棘丸の面相以外何者でもなかったのだ。

「スケルトンがおるとは‥‥逃げたほうが良いのう」
「同感だ。これじゃあ、調べるどころじゃない」
 大凧に乗った浪人と、宙を漂うシフール。その眼下には、見渡す限り何体もの怪骨が歩み寄り、肉無き骨の手を空中に差し出していた。明らかに、二人の命を奪おうとしている。
 降りるのは愚かだし、戦うのも無理だ。数が多すぎるし、周囲の状況も有利とは言えない。
 否、限りなく不利。この暗闇の中、戦い続ける事など無理だろう。
 かくして、皆の下にたどり着いた二人だが、そこでも似たような状況になっていた事に気づくのに、時間はかからなかった。

 皆はロープにしがみつき、地上へと向かう。大凧の鷹碕が続き、マハが最後にそのまま穴から消えていった。当然、ロープの垂らした先端部を切り落とし、怨霊と怪骨の群れが昇ってこられないようにして。
 怨霊は無念そうなうめきをあげ、怪骨は恨めしそうに歯を鳴らした。この洞窟内は、怨霊と怪骨が埋め尽くす、おそろしき空間だった。
 成る程、だから村の人々は禁忌扱いしていたのか‥‥。
 が、のぼりながら、シャーリーと鷹碕は疑問だった。
 おそらく、あの怨霊と怪骨は生き埋めにされた盗賊団の成れの果てだったのだろう。だが‥‥。
 なぜ、怨霊たちは、僧侶の服を着ていたのか?
 
 そのような事を考えつつ、彼らは地上に出た。が、そこには数名の僧侶たちに囲まれた、陰森の姿があった。
 僧侶たちの中心には、石仏寺の僧侶、念石がいた。

「事情は炭之助から聞きました。見ての通り、この内部にはおぞましいものが巣食っております。ゆえに、手を出さないで頂きたい。以上です」
 有無を言わせぬ口調で、念石は冒険者たちに、脅かすように、口止めをするかのように言い放った。
 質問しようとしたが、
「聞く耳は持ちません! さあ、さっさとお帰り下さい!」
 まるで取り付く島も無い。
 仕方なく、その場は江戸に帰ることに。

「俺も地下に下がろうとしたところ、あの僧侶たちを連れて、念石が来たんだ。そのため、下手に動けなかった」
 僧侶の一人が、陰森が逃げないようにと命綱を切断しようとしてたのだ。そのため、陰森は彼らの言葉に従わざるを得なかった。
「ふむ‥‥だが、内部にはあの怨霊や怪骨たち。そして、それを隠そうとする村。‥‥何か、隠されているものがありそうだな」
「私も、同感です」シグマリルの言葉を、シャーリーが付け加える。
「それに、棘丸さんが怨霊になっていました。何かこのあたり、曰くがあるように思えるんですが‥‥」
「あるわね」シャーリーが、今度は言葉を付け加えられた。イェールが更に言葉をつなぐ。
「棘丸が怨霊になるということは、そこまで怨む『何か』があるはず。おそらく、念石は何かを隠している。いや、村ぐるみで何かを隠しているにまず間違いないわね」
 その、隠している「何か」とは?
 おそらくは、何か邪悪なる意図のものに違いないだろう。それを判明すべく、彼らは帰路についた。
 今日のところは、引き上げよう。が、次にはこの謎は、必ず解いてみせる。思いを新たにする、冒険者たちだった。