生ける屍の村 黄昏の章

■シリーズシナリオ


担当:塩田多弾砲

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:10 G 51 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月22日〜04月29日

リプレイ公開日:2008年04月30日

●オープニング

 死人。生ける屍。歩く死者、動く死体。
 この世を地獄と化し、生者を死者とするまでは、この世をうろつき、命をすする。
 黄昏時の滝ノ元村。滝ノ沢・滝ノ山の両村を傘下に収める、領主・坂田銅次郎の屋敷がある村。
 そこに住まう、坂田銅次郎の息子、銀次郎。彼の欲望が惨劇を生み、三度目の、そして最後の宴が始まる。死人たちの、おぞましい殺戮の宴が。
 
 ギルドに逃げ込んできたのは、ぼろぼろになった若武者と間者の二人。そして、瀕死の状態の若武者が一人。
 彼らは崩れ落ちるように気絶し、目が覚めたのは三日ほど経ってからのこと。
「これから、皆に依頼したい。以前からの事件に決着をつけるべく、討ってもらいたいのだ。我が兄を、そして、おぞましき死人憑きどもを!」
 坂田刀子、坂田銅次郎の娘が昏睡から目覚め、冒険者たちへと依頼した。

 あれから、刀子は御堂とともに、滝ノ元村へ、すなわち自らの父親が住んでいた‥‥そして現在は、父に入れ替わった兄が住んでいるはずの屋敷へと向かった。
 とかく単純で短気と言われていた刀子だが、それと同時に正義感も人一倍強い。今回のこの事件の黒幕が、己の義兄である事を知った時。彼女はまさに怒り心頭であった。

 刀子の実父は江戸の武士であったが、とある戦いで命を落とした。母と娘とが取り残され、刀子は母を守るべく、江戸の道場にて師範代の職を得て、母とともにつつましく暮らしていた。
 そこで、江戸に所用に来ていた銅次郎の目に止まり、刀子は滝ノ元村へと呼ばれたのだ。
後に刀子の母と銅次郎は恋におち、二人は再婚した。それからというものの、刀子は銅次郎を父親と仰ぎ、彼に報いるべく己に課した。自らを鍛え上げる事を。
 そして、数年前。病気で母を亡くした後、刀子は己を見つめなおし、更に己を鍛えようと武者修行の旅に出たのだった。
 
 しかし戻ってみると、父が治めているはずの平和な村は、死人がうろつく地獄と化していた。
 彼女は、自分の正体を隠し、この事件を調べた。その結果、「黒衣の男たち」が水源に毒をまき、その毒水を飲んだ村人たちが死人憑きとなってうろつくようになった、と。
 そして、「黒衣の男たち」とは、坂田銀次郎、己の義兄が雇い入れたウィザードたちであると。

 かつて銅次郎と知り合いだったウィザードは、死の間際に自分の研究を銅次郎に託した。はからずとも得てしまった悪の知識を、後世においてなんとか良い事に転用するようにと願っての事だった。
 が、それは彼の息子である銀次郎に知られてしまった。
 銀次郎は、若き頃の銅次郎と同じく盗賊まがいの所業を繰り返す乱暴者。銅次郎はかつての己を息子に見て、必要以上に厳しくした。が、それは悪循環を生み出し、彼は父と同じ盗賊に。
 そして、彼は嵐の日に洪水に流され行方不明になったが、数人の悪い仲間に助けられていた。銀次郎はこの事あって逆恨みし、銅次郎を拉致して己と入れ替わり、更に仲間を差し向けて、「死人憑きの毒」を作り出した。
 彼の目的は、「毒」を裏社会の人間たちに高値で売る事。戦があった場合、この毒を相手にばら撒けば、口にした者たちは全員が死に、死人憑きに。敵方にいる人間を死人憑きに変えてしまえば、領主や敵の勢力は皆混乱し、戦力は大いに半減する。そうしてしまえば、あとの始末はたやすいもの。この毒は、楽して勝利を掴める武器となる。
 わずかな量で、ひとつの村、ひとつの領地の人間を全員死人憑きにしてしまえる。「毒」は、高値で取引されるいい商品となろう。
 その予行演習として、彼らは滝ノ沢・滝ノ山村を実験台にしたのだった。が、滝ノ山の件で、冒険者たちのとうとうその所業が白日のもとにさらされ、刀子はそれを指摘し、銀次郎を追い詰めた。
 結果、大立ち回りの末に、銀次郎の協力者は捕まえたが、銀次郎自身は逃げ出してしまった。
 
 逃げた銀次郎を追い、御堂と才助らは滝ノ元村から捜索した。その結果、彼らは滝ノ奥村に潜んでいる事が判明した。
 領地の滝ノ奥山の山中にある、中くらいの広さの村。かつてはちょっとした銅山ではあったが、すぐに鉱脈が枯れ、廃村となった。
 その後釜に、銀次郎らが入り込んだわけだ。
 銅山の内部は、一種迷路のようになっている。大きな主坑道と、そこから枝分かれした通路とで構成されており、内部は盗賊たちが暮らしやすいようにと松明で明かりが確保されている。
 また、坑道は広く大きなもので、縦坑がいくつも彫られている。銅が掘り出されていた頃からあったもので、坑道に外の光と空気とを提供していたものだ。内部からは手の届かない場所にあるため、ロープや道具を用いて上って脱出するのは不可能。空を飛べでもしない限りは、坑道の出入り口からのみしか出入りはできない。
 縦坑は、人や獣が入り込めない山の上に口を開いている。ここにたどり着くには、険しい山を登らねばならず、一苦労だ。
 そして、そこをねぐらとして、多くの盗賊たちが集まっている事がわかった。どうも銀次郎が近隣から集めた者たちらしい。どう少なく見積もっても、100人は居るだろうとの事。
 もっとも、ほとんどが戦う技を持たない烏合の衆。数が多いのを除けば、脅威ではない。

 かくして、銅山の内部の地図とともに、領地からも部下を100名以上を動員。滝ノ奥村へと攻め入った。
 が、そこで彼らは予想外の出迎えを受けた。人の気配、そして生者の気配がまるっきり感じられなかったのだ。
 そして、内部に攻め入ったところ。そこで遭遇したのは、大量の死人憑きだった。

「あっしたちは、なんとか逃げ出しやした。刀子様の部下も何名か犠牲になり、御堂様もこの通り重傷を負ってしまいやした。それでもどうにか、出入り口に障害物を置いて、中の死人憑きどもは出られないようにはしやしたが。
 予想では、おそらく銀次郎の奴が、誤って‥‥あるいは乱心して、盗賊どもの飲み水の中に自分の作り出した『毒』を入れてしまったんだと思いやす。少なくともやつら‥‥ひっとらえた盗賊どもはそれを口にして、皆が死人憑きになってしまったと言っておりやすが」
 間者の才助が、悔しそうに事の次第を説明した。
 彼に続き、刀子が依頼内容を口にする。
「ですが、問題がひとつ。かつて兄と呼んだ卑劣漢‥‥銀次郎がまだ中に居る事、そして捕まえた盗賊たちの言う事から、『毒』の調合法の書付が中に保存されている事は明らかです。銀次郎が食い殺されているならともかく、生きているのなら、連れ出して裁きを受けさせたいのです。
 そしてもうひとつ、これが肝心ですが。かの事件を引き起こした、おぞましき『毒』。中に入り、現物と書付を確実に処分していただきたい。私も同行し、その場で確実に燃やしてこの世から消したところをこの目で確認したいのです。
 部下たちでは、歯が立ちません。それに何より、部下をこれ以上無駄死にさせたくないのです。どうか、皆さんのお力をお貸し下さい」

 これが、最後の依頼となろう。おそらくは、坑道内で壮絶な戦いが行われる事だろう。
 だが、これがすめば、もう二度と生ける屍を、死人憑きを作り出す悪行もなくなることだろう。

●今回の参加者

 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2832 マクファーソン・パトリシア(24歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 歩く死者たち、生きる屍ども。
 そいつらの歩く夜が訪れ更けていき、訪れた夜明け。そしてその夜明けも終わりを告げ、新たなる一日が始まった。
 滝ノ奥村。そこに存在する巨大な岩山。かつては銅山だったそこは、地獄に続く穴と化していた。
 いや、地獄そのものだと、見張りに立っている武士の一人は実感していた。金属製の格子で閉ざされた、大きな坑道への入り口。さらに外側から、集められるだけの材木や岩や石、その他数多くのガラクタを積み上げて、外へと出られなくしている状態。まさしく、地獄の門を無理やり閉じて封じているのに他ならない。
 が、冒険者たちはこれから、この内部に入り込むのだ。おぞましき地獄の中に。

 冒険者たちは、都合により全ての人数は揃わなかった。が、それでも人数としては十分。
 御堂より、彼らが凄腕であるとは聞いていた。が、それでも不安は消しきれない。信頼していないわけではないが、100人近くの死人憑きが詰め込まれた坑道の中へと、これから入っていくのだ。不安を感じないわけがない。
「刀子さん、気持ちは判りますが、あまり気負い過ぎない事です」
 シャーリー・ザイオン(eb1148)、美しい銀髪のレンジャーから声をかけられ、刀子は我に返った。
「そ、そうだな。すまない。一応、見張りの部下から聞いた話しだが‥‥」
「‥‥なるほど、正面の入り口には、かなりの数の死人憑きが集まっているようだな」
 刀子からの話を聞き、超美人(ea2831)は相槌を打った。
「正面入り口には、死人憑きが集まってきているとの事ね。おそらくあそこを開いたら、再び閉じるのはかなり難しいでしょうね」
 超に続き、マクファーソン・パトリシア(ea2832)は、地図を見て、視線を坑道正面へと向けた。
「シャーリー殿と刀子殿が、別の場所にある空気抜きの縦坑から入り込む。我々は、死人憑きを正面入り口から掃討し、隙をついて内部に‥‥。そして坑道の地盤がゆるいところに細工をして、死人憑きどもを生き埋めにする‥‥。簡単にはいかないだろうな」
 山下剣清(ea6764)が、己が携える刀の柄に手を伸ばす。不死なる怪物を切り捨てる刃、姫切。それ自身が使い手とともに、死人憑きを切り捨てたいと願っているようだと、刀子は思った。
「ああ。だが、簡単にいくような依頼でない事も最初からわかっている。我が霊剣・ミタマの名において、死人どもを切り伏せてみせよう!」
 西中島導仁(ea2741)の勇ましい言葉をうけ、トマス・ウェスト(ea8714)はにやりとした。
「さて‥‥それじゃあ、いつ始めるかね〜」

 障害物を除去し、入り口を開ける。するとそこから死臭が漂い出て、空気が澱んでいくのが感覚で分かった。
 続き、狂乱した魔物の悪夢のようなうめき声が聞こえてきた。それが徐々に大きく、はっきりとしてくる。その声とともに、西中島と山下、超は携えた剣を構え、闇へと相対した。後方に、マクファーソンとウエストとが控える。
 開けたのは、人一人がようやく通れるくらいの隙間。うめき声が大きくなり、声の主たちが暗闇からよろめき出てくるのを冒険者たちは見た。腐敗し、朽ち、膿みつつも、かりそめの命とともに動き、歩き続ける死体。悪夢の群れが這い出てくる様子は、まさに地獄の様相。
 恐怖と嫌悪の化身たるそいつらを切り捨てんと、雄たけびとともに冒険者たちは切りかかった。
「己が欲望のためだけに人々を傷つけ、悲劇という暗闇をもたらす悪魔ども! いつか必ず、心ある者が正義の松明をかざし、悪行を正義という光のもとに晒し断罪せん! 人、それを天誅という!」
 死人憑きに対して、死人憑きを作り出した者たちへ向けた口上を言い放ち、西中島は切りかかった。ミタマの鋭き刃が一閃し、数体の死人憑きがたちまちのうちに斬首される。
 西中島に続けとばかりに、超と山下も刃を振るう。腐臭とともに腐肉が切り裂かれ、十数体の死人憑きが死体へと戻っていった。
「いいぞ、突入だ!」
 死人の群れが途切れたのを見計らい、冒険者たちは地獄へ、生ける屍の群れの中へと突入していった。
「御武運を‥‥!」死人憑きの流出を防ぐために、再び出入り口を塞いだ武士は、そう祈らずにはいられなかった。

「才助さん、あなたに私と刀子さんの命を預けます。ここを死守してくださいね?」
「合点承知の介だ、シャーリー様。刀子様、どうかお気をつけて」
「頼むぞ、才助」
 縦坑より、ロープが垂らされ、シャーリーと刀子はそれを伝い下へと降りていった。幸い、内部の松明はまだ半分以上が明かりを周囲に投げかけていたため、大体の視界は確保できている。それでも用心のためと、刀子は壁の松明をひとつ手に取った。
 坑道内の床と壁はなめらかで、ところどころ表面にはコケが生えていた。場所によっては雫が滴り落ち、あちこちに水溜りを作っている。そのせいか、内部はひんやりとして肌寒い。遠くから聞こえてくるうめき声を耳にしたためか、シャーリーは怖気を覚えた。その声と引きずるような足音を耳にすると、更に気温が下がっていくかのようだ。
 声と足音の主とは、出来るだけ近づきたくはない。ロープの番を才助に任せ、シャーリーと刀子は生ける屍が詰め込まれた坑道内を、地獄の穴の中を進んでいった。
 
 坑道内の地図の写しを片手に、五人は奥へと進軍していく。坑道は、主坑道が三叉のように伸び、それを中心に周辺へと広がっていく構造になっていた。盗賊団は内部を改造し、横穴を倉庫に、中心部に広間を作っているようだ。見ると、所々に酒を入れていたであろう徳利や、食い散らかした食べ物の成れの果てなどが散乱しているのに気づいた。少なくともここは、かつて生者が生活をしていた場所。それが盗賊であり、悪人であっても、生きている者には違いない。
 盗賊の成れの果てが散乱しているのを、マクファーソンは見た。それはかつて人体だったのだろうが、それを認識する気も、直視する気もない。それが何かを知ったところで、気分が悪くなるだけ。暗闇に強いのも、こんな時には考えものだ。
 マクファーソンが皆にかけたフレイムエリベイションの呪文は、皆の士気を高め、マクファーソン自身の精神をも鋭敏かつ豪胆にしている。が、それでも相対する状況の異常さ、おぞましさを払拭できるほどではない。
 つとめてそれらを無視し、彼女は口を開いた。
「周りの監視は任せて!  私の指示は参考程度にして自分の感覚で動くのよ」
 仲間たちは彼女の言葉に従い、自分たちの感覚で坑道内を歩いていく。床の水溜りからは腐臭のいやなにおいが漂い、それだけで吐き気をもよおす。刀子の地図のを頼りに、彼らは先へと進み続けていった。
 やがて、再び何度目かの分かれ道に。しかしそこには明り取りの縦坑はなく、松明もついていない。更には、何かが大挙して潜む息遣いらしきものすらある。
 それは暗闇の中で息づき、やがては明確な悪意を持って冒険者たちの下へと近づきつつあった。死者どもの群れ、死人たちが徐々に接近してくるのが、感覚で分かった。
 そいつらは、まるで刀の事など恐れる様子を見せていない。そんな奴らに鋭い刃の怖さを教えんと、皆は武器を取り上げた。
「はっ!」ときの声とともに、西中島の剣が死人憑きを、腐った手足や腐敗した悪臭を持つ死人の群れを、何度も切り裂く。
「清浄なる蒼き水よ、穢れを清め流せ!‥‥ウォーターボム!」
 それに加え、マクファーソンの呪文が牽制し、死人憑きは掃討されつつある。
 超と山下の剣もまた、腐りかけた不死のものどもに引導を渡していく。二人の刃も西中島のそれに劣る事無く、動く死体を切り裂いていった。
 が、その数は捌ききれるものではない。結果的には、死人憑きを減らし、その隙を皆が通り抜けてその場を逃げ出す‥‥という方法しか取れなかった。
 坑道内が広く、場所があるものだからとれる方法。しかし、それもいつまでもつか分からない。下手をしたら、行き止まりに追い詰められ、そのまま生きて食われかねない。
「‥‥まずいな」
 そのことに気づいたウエストが、小さくつぶやいた。

 刀子とシャーリーとは、別ルートから入り込むことに成功、迫り来る死人憑きどもに対して対処している真っ最中。
 足を引きずりつつ、よろめき歩く死人憑きどもの姿は、下手であるが下手な分おぞましい絵画のよう。気負った刀子が、何度も切りかかりそうになり、それを止めて弓で撃ち‥‥を、何度行ったことか。
「ここも、ちがいますか!?」
「どうやら‥‥違うようだ!」
 横穴のひとつ、書物を置いている洞窟を発見したが、そこもどうやら違う。お宝を詰め込んだ商人やその隊商の予定を書いた書付が、洞窟には積まれていた。
 そこから離れようとした矢先、今度は岩陰から新たな生きる屍に襲い掛かられた。
「!」刀子が思わず、刀を取り落とす。が、
「狙い‥‥撃ちます!」シャーリーの矢が死人憑きの額を貫き、そいつを二度と立たないようにしてやった。
「気をつけて、刀子さん。奴らはまだまだ‥‥」
 やってきそうです、と口にしかけて、やめた。
 既に暗闇の中、二人を捕まえるにしては多すぎるだけの人数が、人肉を食らう期待とともに迫ってきたのだ。それが、シャーリーの射手としての鋭い視力に捕らえられた。
「数が多すぎる、このままでは‥‥ッ!」
 絶望的な状況を眼にしつつ、それでも現状を口にする刀子。確かにそうだ、このままでは矢筒の矢が空になるのも時間の問題。
 それでも、前面の死人憑きを掃射した彼女は、更なる奥へ、本陣が置かれているだろう奥へと突き進んだ。

「?」
 大広間風に改築された、坑道の中心部分。天井は高く、しかし周囲の岩は今にも崩れそうな様相。中心部分には、巨大な木の柱が天井を支えている。
 そこに入り込んだシャーリーと刀子は、おぞましい状況を見た。
 周囲にはまだ、数多くの松明が火をともし、縦坑がいくつも穴を開けている。当然、ここからでは上ることなど無理な場所。
 しかし、上ろうとむなしい努力をしている者がそこにはいた。
「た、助けてくれ!」
 そいつは、まだ死人憑きと化していない盗賊の一人。だが、三死人憑きにつかみかかられ、喉笛に噛みつかれていた。
「はっ!」
 シャーリーが矢を掃射して、その盗賊を助けた。
 見ると、周りには盗賊の死体がいくつも転がっている。そして、骨肉相食む死人憑きどもがそれに群がり、まさに食事の真っ最中。薄暗い状況でも、内蔵を引きずってそれにかぶりつき、血をすすり、血みどろになった骨をしゃぶり、骨から肉をこそげ落とし口に運ぶ。
 まるでもう一度「生きる事」を堪能すべく、死者どもが命を奪い取ろうとしているかのようだ。生命の取り合いに夢中になり、彼らは新たな命二人‥‥刀子とシャーリーとが入り込んだ事に気づくのに時間がかかっていた。
 幸い、死人憑きは五体のみ。シャーリーと刀子の前では敵ではなかった。
 新たな死人憑きが来ることを十分注意しつつ、今助けた盗賊へと二人は近づいた。
「‥‥刀子、か?」
「兄上‥‥いや、銀次郎!」
 シャーリーは、矢を回収しつつ悟った。依頼人が殺すために、この坑道内へと入った目的の人物。図らずとも彼女は、それを助けてしまったわけだ。
 だが、この様子では助かりそうにはない。体中には深い傷を負い、既に片腕は半ばもぎ取られ、出血もひどい。ウエストがこの場にいれば何とかなったかもしれないが、もはや手遅れだ。
「言え! 毒の書付は! こんなおぞましい事件を起こした元凶はどこだ!」
「あ、あそこだ‥‥あの、千両箱の中‥‥」
 刀子に問われ、銀次郎が指差した先には、数個の千両箱が積まれていた。
「なぜ? なぜ外に逃げず、こんな中に?」
 疑問を覚えたシャーリーが、銀次郎に問うた。
「あ、あの柱だ。あれをぶっ壊せば、連鎖反応で主坑道のほとんどは崩れる。逃げる前に、仲間と後始末をしようとしたら、逃げ遅れてこのざまってわけさ」
 ここの洞窟を支えている柱に、シャーリーと刀子は眼を向けた。数人がかりでなくては壊せないような、大きく太い柱だ。
 だが、銀次郎が苦しそうに咳き込んだ事で、二人は引き戻された。
「は、ははは。傑作だな‥‥死人憑きにする薬で儲けようとしたら、死人憑きに襲われて死ぬとはな‥‥」
「‥‥因果応報です。ジャパンでは、そう言うのでしょう?」
 シャーリーがもらした言葉に、嘲るようなゆがんだ笑みを、銀次郎は浮かべた。刀子とシャーリーに対してではなく、自分に対し嘲るような笑みだった。
「そうだな、銀髪のべっぴんさんよ。ま、俺にふさわしい最後だろう。こんな薄汚い場所で‥‥死人に、食い殺されるのは‥‥」
 彼の言葉が途切れるとともに、刀子は懐の小刀を取り出し、かつて兄と呼んだ男の心臓に突き刺した。
「違うぞ、兄上。貴様を殺すのは私だ」

「シャーリー! 刀子さん!」
 別の入り口から、五人の姿が現われた。そして彼らは、何が起こったのかを理解した。
「‥‥間違いはなさそうだね〜。しかし‥‥あ、ああ〜、も、もうちょっと読ませてもらえないかね〜?!」
 二人から事情を聞き、ウエストが千両箱を開けて中身を確認する。確かに間違いはなさそうだ。
「いいから、早くしなさいって。すぐにまた、死人憑きの群れがやってくるわよ!」
 焦る超に構わず、ウエストはまだ名残が惜しいといった態度を崩さない。
「でも〜、もしかしたら、我が輩が求める知識があったかもしれないのに〜‥‥」
「早く! 奴らだ!」
 奥のほうから、新たな死人憑きの群れがのろのろした歩調でやってくるのが見えた。暗闇でよくは見えないが、かなりの数が見て取れる。
さすがにそれを見たウエストは、しぶしぶと戻した。
「油をまいて、柱に火を放とう。そうすれば‥‥この坑道も崩れ、こいつらも土に返る事だろう!」
 西中島は油を取り出し、柱と、柱のそばに置いた毒と書付とに対してたっぷりと撒いた。すぐそばに、銀次郎の遺体もたてかける。
「皆様‥‥かたじけない!」
 刀子の言葉とともに、松明で火が放たれた。

 その後。
 才助が死守していたロープを垂らした縦坑から脱出した直後、柱が燃え尽きて落盤が発生した。銀次郎はこの坑道に攻め込まれた時、証拠隠滅のためにとこの仕掛けを作っておいた事が、後になってわかった。
 そして、かの書付と残された毒も、ともに燃やされ消滅した。
「私は、御堂とともに、滝ノ元を改めて治めたいと思います」
刀子は、銅次郎の後を正式に告ぎ、新たな領主となった。そして、今回の犠牲者たちの村に、鎮魂の石碑を建てる予定だと言う。
「もう二度と、こんな事件が起きることはないように勤めることを、ここに約束します。皆様、ありがとうございました」
 才助、そして回復した御堂とともに、刀子は冒険者たちに礼を述べるのだった。