【オモイロンド】6・破滅のロンド
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■シリーズシナリオ
担当:外村賊
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 95 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月06日〜01月13日
リプレイ公開日:2006年01月23日
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●オープニング
悪魔ロギとは、過日冒険者が葬った紫のローブのデビノマニ、ロキ・ウートガルズに組する悪魔である。
それに関する報告書が、二つ、ギルドに届けられた。
一つは、遺跡の島の戦いでロギが一人の冒険者を攫って逃げた事実。
一つは、彼が破滅の魔法陣の発動を計画しているだろう証拠。
遺跡の島にほど近い海上に、魔法陣となりうる場所があるという話であった。
「おいらが、その贄‥‥?」
信じられないと言う風に、ハーラルがシャトンを見る。シャトンは笑いもせずに頷いた。
「遺跡の島へ向かう直前、さる冒険者の僧侶が、私に魔法陣の存在を教えてくれました‥‥そうでなければ私はみすみす貴方を、ロギの手に渡していたかもしれない‥‥」
領主館のほうへは、悪魔の軍勢が再び遺跡の島に出現したと言う連絡が入った。
恐らく、ロギが魔法陣発動を狙っているのだ。
罪なき不浄の心のもの、赤き円の敷き布を、その身で織る。
清らなる少年と無垢なる乙女、その上に座して祈り捧げる。
神が慄き悪魔が哂う、甘美なる宴が開かれるだろう。
この詩は、『無垢なる乙女』であろう少女が攫われた時に入手されたものだ。
一行目は、彼らの血によって魔法陣が描かれる事、
二行目は、二人の生贄の存在、
三行目は、それが邪悪な存在である事を知らせる。
「罪無き不浄の心のもの‥‥悪魔に欺かれた私が導いてきた者達のこと。父の御名により、救わねばなりません‥‥」
シャトンは静かに、決意を述べる。
「でも‥‥おいらがここに残れば、魔法陣は動かないんじゃない?」
「もちろん、貴方がいれば向こうにとって最善でしょうが、不完全な形でも発動するのかもしれません‥‥そうでないなら、今動く理由がありません」
「じゃあ、やっぱおいらは行かない方がいいね‥‥」
ハーラルはぽつりと言った。
「あの悪魔、まだお頭の魂、持ったままなのに‥‥」
操られていた山賊たちは、同じ船でドレスタットに帰って来はしたが、ロキに与した者達であると言う理由から、牢に拘留されている。
それからどうなるかは、考えるだに恐ろしい。しかし今は、頭領の魂を戻したい一心であった。
「皆、信じてる‥‥悪魔を倒して、必ず帰ってきて‥‥」
長らく続いた悪魔との戦い――
これで終止符を打つ。
冒険者は強い思いを胸に、冒険者はこの依頼に名乗りを挙げる。
●リプレイ本文
海戦騎士団が用意した船は、重装備の軍船であった。小回りこそ利かないがしっかりとした造りで、団から予備物資も多く積まれている。遺跡の島近海にあるため、魔法陣が発動すれば再度遺跡の島の弱体化、ひいてはイグドラシルに邪な者を侵入させる結果になりかねない。他の事は気にせず、この戦の為に万全整えろと、エイリークは命じた。
護堂熊夫(eb1964)が祈祷をし、雪が降ることだけは防いだ。強い風を帆に受け、荒れる海を軍船は進んでいく。
「――あれは」
テレスコープで見張っていた熊夫の呟きに、知らず緊迫が孕む。
「彼方に船が見えます。周囲に鳥のような影が群がり、その内二つがひどく大きい‥‥!」
「恐らくアクババでしょう。偽のシャトンさんに化けていたと言う‥‥もう一体はさしずめ、偽ロキでしょう」
言葉にしながら、白銀麗(ea8147)は辿り着いた予測に、眉をひそめた。
「私達は見誤っていたようです。悪魔どもは殉教を装い死を迫るものとばかり思っていましたが‥‥逃げ場のない海上に連れ出せば最後、もう騙し続ける必要は無いのでしょう」
「ああっ‥‥!」
矢も盾もたまらぬと、シャトンが舳先へ駆け寄る。肉眼では、その光景は見えない。銀麗はその手をそっと引いた。
「準備をしましょう。じきにあちらから仕掛けてきます」
しばらく進めば、海は異様な様相を示し始めた。古い油のようにぬめり、赤い液体が生き物のように這って何らかの模様を描き出している。
魔法陣の中に入ったのだ。
不浄の船が目視できるようになってようやく、海につづられる模様が船から流れ出る血であったのだと分かる。
その頃には、誰もがこちらに迫ってくる巨大な禿鷹の姿を目の当りに出来た。周囲に十数のインプを引きつれている。
ハーラルは、帆の真下で立ちすくんでいた。緊張に強張って、迫り来る悪魔を見ていた。
「そろそろ釘の用意しとけよ」
背後からシエロ・エテルノ(ea8221)にぽこっと叩かれ、正気付く。
「お前は俺達が守るよ、何があっても」
「うん」
「ハーラル君、ちゃんと説明した通りにやるんだよ?」
ナラン・チャロ(ea8537)はいつものように元気一杯で、ハーラルに注意を促す。
「言われなくたって、分かってるよっ」
「シエロさんには素直でも、あたしにはつれないって言うか‥‥そこがまた堪らないと言うかー」
「‥‥来ます!」
「船に降りられる前に魔法で数を減らしましょう」
熊夫の声に銀麗が応じ、静かに合掌する。レオン・クライブ(ea9513)が印を組む。シュタール・アイゼナッハ(ea9387)は、ヘキサグラム・タリスマンの為に、祈りを捧げる。
二つの魔法が、迫りくる悪魔どもに放たれる。遠目では、インプは何体か食らったようでふらついたが、アクババに変わった様子はないように見える。
「それなりに魔法に抵抗力があるようだな」
「アクババは、そうですね。インプは体力が高いだけでしょう」
「ふん‥‥どれだけ減らせるか」
シャトンの説明を受け、レオンはローブ越しに悪魔を見据えた。彼の雷は威力は高いが、船を傷つける可能性がある。悪魔が船に辿り着くまでの勝負だ。
ハーラルは軽く息を整える。神になんて、祈りを捧げたことなどない。少し不安だった。
「神様、どうか‥‥!」
声に出し、釘を打ち込む。瞬間、インプがハーラルめがけて飛び掛ってきた。思わず構えて目を塞ぐが、衝撃はなかった。結界が張られて、インプは見えない壁にもどかしそうに爪を立てる。
「よくやったね」
ネフィリム・フィルス(eb3503)は満足げに、ハーラルの頭を乱暴になでた。そして得物であるティールの剣を抜き放つ。
「さ、あたいらの出番だ。行こうかい!」
船上の敵を蹴散らすのは前衛組の役目。ネフィリムの号令に、それぞれの武器を手に、結界の前へと出て行く。
続いてナランが前に出ようとするとき、ぐっと引き止められた。手に、何か固いものが握らされる。
「色々もらったから‥‥おいらのお守りやるよ」
振り返ると、それはハーラルだった。今彼を守っている釘、ロギ対策の火霊の指輪、そして五行星符呪。全てナランが用意したものだ。手を開くと、よくある古びたコインが乗っていた。
「お頭にもらった大事な奴だから。なくしたら承知しないからな」
ぶっきらぼうに言い捨ててそっぽを向く。コイン自体に特別な魔法が掛かっているわけではなさそうだった。ようは気持ちだろう。ナランは笑って頷き、ジャンヌたちの後を追う。
その瞬間、襲ってきたのは、幾つもの羽音と小さな爪。
数体のインプが彼女の周りに群がった。その攻撃の幾つかはレイピアで受けたが、上回る数の攻撃で、かすり傷を負う。ジャイアントの熊夫とネフィリムは、すばしっこく動き回る小悪魔達に受身を取るので手一杯だ。
「イケニエ、イケニエ!」
「チヲ ナガセ!」
インプ達はケタケタと耳障りな声で笑う。
二体のアクババは激しい勢いで、爪を開いて真っ直ぐ急降下してきたが、結界に阻まれて僅か十数メートル上で弾かれる。その余波で船体が揺れる。滑り止めに砂をまいてはいるが、この揺れではいつ足をとられるか分からない。
結界の周囲にはインプ達が集まって、叩いたり牙を立てたりしている。
「やはり、狙ってくるな」
シエロが攻撃の隙を窺って旋回し始めたアクババを見上げて呟く。禿鷹の鋭い目は、明らかにハーラルを見ていた。
「結界が保てる時間もそう長くないのだろう? この先不浄の船に辿り着かねばならぬことも考えれば、雑魚ばかりを相手にしている訳にもいくまい」
レオンが冷静に状況を判断する。シュタールが考え込む風にする。
「あの程度ならレオンさんの風とわしの重力で、一気に吹き飛ばせはしまいか」
「‥‥上手く前衛達が立ち回るなら、それもまたいいだろう」
下手をすれば味方を巻き込む作戦である。しかし、レオンは見越したかのように快諾する。
「結界の外の皆! インプを引き離して、急いで結界より船尾よりに回ってくれ!」
「分かった!」
シュタールに返事を返したのはジャンヌ・バルザック(eb3346)だ。彼女は種族的な素早さでインプ達の攻撃を避け続け、魔法を受けて弱った者から、剣で確実にダメージを与えていた。デビルスレイヤーを冠するアルマスを握りなおし、インプの群がる甲板を走る。
「皆、船尾に! 後ろへ走って!」
「はい!」「あいよっ!」
熊夫とネフィリムに群がるインプを散らし、叫ぶ。ジャンヌには及ばないまでも、ナランは自力でインプを避け、他の三人と共に船尾へと下がる。それでも追いすがってくる悪魔は、惑うような切っ先の動きで翻弄させて引き離した。
「大丈夫だよ!」
迫ってきたインプを斬りつけ、ジャンヌが声を上げる。
受けて、魔法使い二人は印を組んだ。
「飛びたくなければ後ろにいろ」
「やるかのぅ」
二人が何事かを唱えたかと思った瞬間。
結界の中から爆発的な力が飛び出した。
一方は吹き荒れる暴風。薄い翼のインプたちを船の外へと追いやる。
もう一方は狂える重力の空間。突然の重力の変化に、翼を動かすまもなく舞い上がり、叩きつけられる。二つの魔法の前に何とか耐えしのいだのは、アクババと二、三のインプだけだ。
「今だ!」
シエロが弓を放つ。ハーラルも借りたスリングで狙う。矢はアクババの足の付け根を貫き、銀の礫は羽毛のない首元を弾いた。赤黒い血液が飛び散り、空中で霧散する。アクババはしわがれた声で鳴き、一反空へ舞い上がる。
「よし、効いてる」
「体力だけで見れば、インプと同等か、低いのかも知れんのぅ」
「このままアクババに的を絞れば、楽になるでしょう」
銀麗が次に備えて詠唱を準備しようとしたとき、大きく船がぐらついた。
次の礫を拾おうとしていたハーラルが、バランスを崩す。
「皆さん、あれを!」
前衛達は逃れた先で、新たな危険を見つけた。熊夫が指差す先、船尾楼を一体のアクババが執拗に攻撃していた。ダリクが銀の剣を握ってそれを守っている。その隙を狙ってインプが楼の中に入り込もうとしている。ネフィリムが気づいて声を上げた。
「舵を狙ってるんだ!」
劣勢はダリクで、あちこち出血している。ハーラルを守る事ばかり考え、船自体に意識が行っていなかったことに気づいた。
「ダリク!」
ジャンヌが駆け寄ろうとするのを、ネフィリムは手で止めた。
「ここは熊夫とあたしに任せな。あのちび悪魔が多いと戦ってられない」
彼女の意図を理解して、ジャンヌは頷いた。そのまま、ナランを誘って船首のほうへ引き返す。
「デカイのは何とかするから、雑魚を頼むよ」
「分かりました」
ダリクの前に立ちはだかると、ネフィリムは剣を構える。
「このまま見殺しかと思ったぞ」
「縁起でもないね」
新たに増えた敵に、アクババは威嚇の叫びを上げて襲い掛かってくる。ネフィリムは不敵に笑った。
「そうやって一箇所を狙ってくれれば、やりやすいんだ」
血飛沫が舞う。
「うおおおおっ!」
ネフィリムは肩口を鍵爪にえぐられながらも、渾身の力で得物を叩きおろす。それは禿鷹の細い首を斬りつける。ダリクも乗じて、剣を振るう。おぞましい声で鳴き、アクババは再度空へ舞い上がり、また急降下してくる。
「神は正しき者の味方さ。お前は負ける定めなんだよ」
肉を切らせて骨を絶つ。ネフィリムの戦いは数度続く。
ネフィリムがそうする間に、熊夫は楼の中に飛び込んだ。インプは誰も取っていない舵を、好き勝手に押したり退いたりしている。
「悪戯が過ぎたようですね!」
熊夫はトールの十字架を、思い切りインプの頭に叩きおろした。インプはくらりとよろけたがそれだけで、逆に熊夫に牙を突き立ててきた。しかし熊夫の鍛えられた身体は、ちょっとすりむけただけだった。
「舵だけは渡しませんよ」
槌を振るうこと数度。戦いは一方的で、じきにインプは塵となって消えた。残るは熊夫と再び繰る者がなくなった舵だけだ。
「ダリクさんに戻って頂かなくては‥‥」
その時、大きく船が揺れた。船が岩か何かに当たったのだ。
シエロは弓矢をうち捨て、咄嗟にハーラルを抱きすくめた。しかし勢いを殺しきれず、銀の礫に混じって結界から転がり出た。
「ぐっ‥‥!」
インプ達が途端に彼らに群がる。上に覆いかぶさったシエロを引き離し、ハーラルを奪うつもりだ。
「シエロっ」
「動くな」
ハーラルをしかりつけ、シエロは伏せ続けた。一つ一つの威力は小さくとも、じわじわとインプはシエロを傷つける。
「わしらの魔法では巻き込んでしまう‥‥」
「一体ずつ仕留めていくしかありません」
銀麗がブラックホーリーを、シャトンがディストロイをそれぞれ唱える。聖なる攻撃が、一体のインプを塵に帰した。
「シエロさんとハーラル君に何かしたら、承知しないからねっ!」
戻ってきたナランとジャンヌも、集中して攻撃を加える。
しばらく空で旋回していたアクババだが、好機と見て高度を落としてきた。
「こちらならば巻き込まないな」
「うむ」
レオンとシュタールは同時に魔法を放つ。これまで狙いを定めてきたために、アクババはだいぶ弱っていた。ローリンググラビティーに翼をとられ、うねり来る雷に身を焦がす。
責め苦から解放されたとき、アクババはこの世のものではなくなった。
そして。
「これで、終えるっ!」
ジャンヌのアルマスが、深々と胸を貫き、最後のインプが命尽きた。
シエロはようやっと、身を起こす。下にいたハーラルは、無傷であったが、今にも泣きそうになっていた。
「シエロ‥‥ごめんなさい。おいらのせいで‥‥」
「守るって言ったろ」
シエロは笑った。痛みに少し引きつっていたが。
「仲間だからな」
それぞれに騎士団の用意した回復アイテムを流し込み、休む間もなく船は不浄の船に接舷した。
不浄の船にはただインプ達がたかって、信者達を傷つけては海に放り投げている。アクババの姿はない。背後から接舷して乗り込み、それぞれに武器と魔法を振るう。
程なくインプ達を一掃し終わった時には、冒険者を除く生存者は十名に満たなかった。
シャトンは、一人の信者に近づき、抱き起こした。彼は血を流し、深い傷を負っていた。
シャトンの頬に、涙が知らず伝う。
「‥‥貴方がたに‥‥酷い事を」
「シャトン様‥‥私達は、間違っていたのですか‥‥?」
信者に、シャトンは何度も激しく首を振って否定した。
「貴方がたはただ父を信じた、敬虔なる信者‥‥罰せられるは、その思いを無駄に散らせた、私です‥‥」
「かろうじて、陣は完成していないようです‥‥」
テレスコープで全体を眺め、熊夫が報告する。
「しかし、これ以上血が流されれば、どうなるか分かりません‥‥岩の方は、悪魔が群がっていて、どうにも‥‥」
「行こう」
ジャンヌが、熊夫と同じ方向を見据えて、皆を促す。もちろん誰も異存はなかった。
冒険者達は満身創痍で、生贄の岩へと向かっていく。
彼らがドレスタットに帰り着くのは、この更に数日後だ。