【ドラゴン襲来】オモイロンド・いしの力

■シリーズシナリオ


担当:外村賊

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月19日〜12月26日

リプレイ公開日:2005年12月29日

●オープニング

 ラテン語に堪能な冒険者の一人が、ゆっくりと書簡を読み上げる。
 色つきの文字を読み上げると、その色は紙面から浮き上がり、壁画に吸い込まれていく。
 書簡が色を失うほど、壁画は色を取り戻す。
 そして、最後の単語――

 まるで夢でも見ているように。

 壁画の内から、光が溢れた。

 上下を一直線に貫く、太く大きな樹。その根をくるりと取り巻くように細長い竜の体が横たわり、自分の尻尾を咥えている。樹の上から惜しみなく光が降り注ぎ、中央に浮かび上がるように記された、角笛と思しき白い半円型が反射して輝いている。角笛から光は左右に放たれ、右の光り輝く人型の白い影と、左の背の低い黒い影が持つ石に注がれている。その周囲を、唐草模様が絡み合い取り囲んでいた。

――闇小人アルヴィース、神々の至宝を指し示す石作り、奪わんとす。門番ヘイムダル見咎めアルヴィースを屠れリ。ここに眠るはアルヴィースの石。よこしまなる者触れれば、ヘイムダルが光の裁きを下すであろう――

 壁画の下部に記された、古代魔法語はそう記されていた。

「これを手に入れれば、ロキは奪い損ねたもう片方の角笛の位置を掴む事が出来ます。そして冒険者に奪われれば自らの居場所を知らせることになる‥‥。その為、私はこの石の奪取を命ぜられました」
 ロキの配下であったシャトンは、そう告白した。
「ロキは私に、神の世を到来させるべく、角笛の力で世界を壊すと言いました。しかし、真実彼が悪魔の手先であるならば、破壊の先に神の世はないでしょう‥‥」
 今まで信じてきた物に裏切られ、一時は身体が言うことを聞かぬほどに落胆した彼女だったが、今は冷静な表情で冒険者の前に立っていた。
 彼女は壁画の前へ立ち、そっと角笛に手を触れる。不思議な事に壁画は、中央からぱかりと割れる。
 細い、一条の光。
 一本は彼女のすぐ脇を真っ直ぐ伸び、教会の壁に当たって消失する。
 シャトンは横へと退いた。彼女の身体がさえぎっていたもう一本の光が、教会の入り口へと伸びていた。
 壁画の中にあったのは、一抱えほどあるドワーフをかたどったような像だ。指した右手から光が伸びているのだった。
「この光の方向に、角笛があります。一方はロキ、一方は取り損ねた片割れ‥‥。両方、まだ距離が遠いので光も弱いですが、近付けば樹や壁なども突き抜けて反応するはずです」
 その取り損ねた片割れというは、過日冒険者がイグドラシルに返還したものだろう。海戦騎士のダリクが腕を組んで唸った。
「ロキが危機感を抱いてそいつを手放すという事は?」
「恐らくありません。彼にとって、彼自身より安全な場所はありませんから‥‥」
「じゃあ、この石を持って光の指す方へ進めば、確実なんだな!」
 ダリクは一瞬にして表情を明るくし、勢い込んで尋ねる。
「ですが、それはこの石の在り処をロキに知らせる事と同義です。ロキに直接光が届くようになれば、向こうも追っ手をかけてくるでしょう。ともすれば彼自ら来る可能性も。強い、守り手が必要になります」
 シャトンは、冒険者を見やった。書簡に関わってきた冒険者達が、その場に集まっていた。静かなる問いかけ、冒険者はひしひしと感じた。
 ダリクは良しと言い、その静寂を破る。
「エイリークに判断を仰ぐ。その日は、遠くはならないだろう」
「悪魔に魅入られたのは自らの手落ちです。これでロキを探し討つと言うなら――協力させてください」
「おいらも行くよ‥‥お頭、そいつんとこにいるんだろ?」
 決意を込めたシャトンとハーラルの表情に、ダリクは静かに頷く。
 壁画の教会の朽ち落ちた天井に夕日が降り注ぎ、周囲を赤く染めていた。

 暫く後、ロキが変換した半分の宝を狙って、再度イグドラシルに向かっていると言う情報が入った。エイリークは好機と判じ、アルヴィースの石を遺跡の島に持ち込んでロキを探し、討伐する旨を告げた。
 この任務を成し遂げた暁には、希望者を海戦騎士に叙する事も追記され、冒険者ギルドに魔法の石の守護依頼が張り出される。

●今回の参加者

 ea1384 月 紅蘭(20歳・♀・ファイター・エルフ・華仙教大国)
 ea8221 シエロ・エテルノ(33歳・♂・ナイト・人間・イスパニア王国)
 ea8537 ナラン・チャロ(24歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 ea9513 レオン・クライブ(35歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb1964 護堂 熊夫(50歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb3346 ジャンヌ・バルザック(30歳・♀・ナイト・パラ・ノルマン王国)
 eb3503 ネフィリム・フィルス(35歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)

●サポート参加者

タケシ・ダイワ(eb0607)/ ヘクトル・フィルス(eb2259)/ メルキア・デイロ(eb3929

●リプレイ本文

 遺跡の島を取り巻く森を抜けた先の、人気の無い奇妙な街。その中央ほどに位置する、周囲の開けた、広場らしき空間。
 ここが冒険者達が選んだアルヴィースの石の設置場所だった。
 街という事では意見はまとまっていたが、細かい場所については、視界の良い開けた場所か、守りやすい屋内かで出発後まで意見が分かれていた。最終的に前者となったのは、結界を幾重にも掛ける作戦を信頼してと、悪魔ロギの使う炎の精霊魔法に巻かれ難いことが理由となった。
 今やアルヴィースの石はレオン・クライブ(ea9513)とジャンヌ・バルザック(eb3346)の聖遺物箱に上下から包まれていた。それでも石の高さは僅かに補いきれず、余った蓋を側面に押し付け、ロープで縛り付けて固定されていた。この箱の持つ聖なる力に耐え切る事ができなければ、デビルは触れることすら適わないのだ。
 角笛の在り処を示す光は、聖遺物箱の中から一筋のみが強く、イグドラシルの上方を指し示していた。ナラン・チャロ(ea8537)を先頭に、ジャンヌと護堂熊夫(eb1964)が罠を張り、残る者達は早めに休憩をとる。

 光は、その翌日からかすかな線となって漏れ出し、徐々に明るく、太く、鮮明になっていった。
 ――恐るべき悪魔との距離――
 レオンのブレスセンサーは、今の所仲間以外の呼吸を知らせはしなかった。
 日が傾く。
「いよいよ気合を入れないとね」
 ここに来てから軽い仮眠しかとっていないネフィリム・フィルス(eb3503)が、自分の頬を叩いて気合を入れる。光はさらに強く、ほとんどイグドラシルに向かうそれと見分けがつかないぐらいになっている。
 それは恐らくロキが上陸しただろう事実を伝えていた。
 別行動をとっている仲間の冒険者達は、この光を頼ってロキを追い求めているだろう。ただでさえ厄介な相手、この光が途絶えることがあれば、それは彼らにとって極めて不利な状況となる。彼らの責任は重い。誰もが口を閉ざし、緊張を受け入れていた。
 最初にそれを見つけたのは、シエロ・エテルノ(ea8221)だった。上空に重点を置いて警戒していた彼は、星とは違う、赤い瞬きを見つけた。似ているものを挙げるならば、魔法の発動の光。次には、蝙蝠のような羽を持つ影が現われていた。
「来た! 上だ!」
「見つけたよっ、冒険者!」
 甲高い声が上空から響き渡った。それは見る間にガーゴイルに似た悪魔となり、アルヴィースの石めがけて急降下してくる。
 人などの尖兵がまず送り込まれてくるものとばかり考えていた冒険者達は、にわかに浮き足立った。熊夫は弾かれた様に、石のすぐ傍にうずくまった。月紅蘭(ea1384)は驚いたように見上げるのみだ。聖遺物箱には入れられているものの、石自体はがら空きだ。
「あははっ、様ないね!」
 急降下をしながら手を伸ばしたロギだが、じとりと空気が重くなった気がした。そして聖遺物箱に行き着く前に見えない壁にぶち当たって、勢い良く弾き飛ばされた。
「結界‥‥!」
「この石に、悪魔の爪の先も触れさせません!」
「ぎりぎり、祈りも間に合ったわ!」
 石の傍に聖なる釘を打ち付けた熊夫、ヘキサグラム・タリスマンを発動させた紅蘭が叫んだ。他の者も一斉に、空で体勢を整えるロギへと武器を構える。セピア・オーレリィ(eb3797)はさらにその上に、ホーリーフィールドを張り巡らせる。ロギは裂けた口を嫌味に歪めた。
「ふん、その位の事はしてもらわないとね」
「複数の呼吸だ‥‥人の物、獣の物‥‥」
 レオンが静かに接敵を告げる。鳴子が鳴った。引っかかったのではない、紐が切られて落下した音だ。
「後ろ!」
 ジャンヌが気付いた。トッドローリィが二体、一直線に突き込んで来る。彼らの通ってきた道の鳴子が、ばらばらになって転がっていた。
 そしてこちらは静かに、足を潜めて。
「皆!」
 ハーラルは叫んだ。隙をうかがう山賊達は無言である。数は五、ハーラルなどには目もくれず、一点石のみを見つめている。ナランは、かすかに恐怖を感じる。
「何か変だよ、この人達‥‥」
「お頭がいない」
 不安げにハーラルが呟く。
「君のお頭はここさ」
 ロギは楽しげに白い玉を取り出す。
「どうしても僕の言いなりは嫌だって言うんでね。抵抗できないように、ありったけの生命力を抜いてやったのさ。今頃凍え死んでんじゃ――」
 ロギは唐突に言葉を切り、印を組んで呟いた。黒い靄が彼を包んだかと思うと、円形の黒い結界が現われた。重いものが結界に弾かれ、鈍い音を立てる。
「追ってきて攻撃する元気が残ってたんだ」
 ロギは嫌そうに吐き捨てて、空へと舞い上がった。ロギの背後には、一人のドワーフが倒れていた。
 山賊の頭領だ。力を振り絞ってあげた顔には、ほとんど血の気が感じられない。ロギを睨み上げ、搾り出すように言う。
「この悪魔野郎‥‥これ以上こいつらに勝手しやがったら‥‥!」
 ロギはその上にのしかかった。頭領は黒い結界に飲み込まれて、苦悶した。
「僕をどうするの?」
「いけない、悪魔の結界は人の体を蝕む‥‥!」
 シャトンが焦った声を出した。それを最後まで聞くまでに、ネフィリムは飛び出していた。虚ろに佇む山賊たちの合間を抜けて、黒い炎に包まれた結界の中に入り込んだ。入り込む者を蝕まんと牙を剥いた炎を、ネフィリムは全くものともせず、ロギへと突き進む。
「なっ‥‥」
「喰らいなっ!」
 振り下ろした剣は、鋭く尖った爪と交差する。力を緩める事無くネフィリムは剣に体重を預ける。ロギは翼を広げて飛び退った。力をかける対象が去り、ネフィリムはよろめいたが、数歩で踏みとどまる。ネフィリムと頭領は結界から解放された。ジャンヌが駆け寄り、頭領とロキの間に立ち塞がる。
「神の加護? ヤんなっちゃうな」
「弱いものいじめなんかしないで、とっとと掛かってきな」
「そうだね、遊んでる暇はないや」
 ロギはさっと翼を広げ、山賊達に光を放つ石を指し示した。
「あの石を奪え!」
 ロギはさらに上空へと上がる。ドワーフはゆるりと武器を構え、精霊は爪を揺らす。

 シエロはじりじりと近寄る山賊達を、厳しい目で見やった。
 シャトンが厳しい表情で呟いた。
「力ある言葉で人を操る悪魔がいると、聞いた覚えがあります‥‥」
「命を質にされてない、手下の方が説得しやすいと思ったんだが」
 シエロが言って、ハーラルを伺う。彼は不安げにかつての仲間を見るのみだ。ナイフは握っているが、その切っ先に、戦意は全く宿っていない。ナランは傍で、何かを取り出した。
「大丈夫、呼びかければきっとハーラル君に気付いてくれるよ!」
 ナランは笑いかける。その手には、開かれたスクロールが握られていた。
「ハーラル君との思い出、思い出させてあげよ!」
 決意を新たにして、ハーラルはナランに頷きかけた。
 トッドローリィが動いた。その鋭い爪が、ホーリーフィールドに突き当たる。
「‥‥ッ!?」
 セピアは目を見開いた。精霊の初撃は、難なくホーリーフィールドを打ち破ってしまった。
 精霊と山賊がなだれ込んでくる。レオンは印を組んだ。荒れ狂う風が噴き出し、目の前の精霊と山賊を吹き飛ばす。
「説得しようとしている相手を、むざむざ攻撃もできん、か‥‥」
「全くです」
 研ぎ澄まされた短剣が喉元に迫ってくる。アゾットをさし上げて熊夫は受ける。そのまま振り下ろすようにして短剣を払うと、残った左手で山賊の胸倉を掴み上げて投げ飛ばす。
 ひゅん、と夜空を切り裂く音がする。奇妙な武器であったが、ゆえにそれは彼がそこにいると知らしめる。切っ先は彼の手足のように正確に、弧を描いて山賊の足元に回りこみ、続く縄を絡みつかせる。そのまま引っ張れば、抵抗するまもなく山賊は仰向きに倒れた。
「シエロさん!」
 熊夫の叫びでシエロはそれに気づく。側面からトッドローリィが爪をつきたてようとしている。縄ひょうの回収が間に合わない。回避には自信がない。ぐっと身構えたとき、一本の矢が精霊の首筋をかすめ、精霊は横様に倒れた。見れば紅蘭がアルヴィースの石のすぐそばで弓を構えている。
「帰ったらお礼しなきゃな」
「温まるお茶が飲みたいわ」
「それなら任せてくれ」
 縄ひょうを手繰り寄せ、構えたシエロに紅蘭はウインクして次の矢を番える。
 
「頭はじっとしてて。私達があいつを倒して、元に戻してあげるから!」
 ジャンヌが請け負うと、頭領はがくりと頭を地面につける。
「畜生。動こうにも動かねぇや‥‥娑婆の奴に頼るのは、癪だが‥‥」
「無茶は駄目だよ!」
 ジャンヌは剣を構えなおす。悪魔を絶つ聖剣・アルマスである。剣の届かぬ上空で、ロギはくつくつと笑っている。
「そんな所でどうしようってんだい! あたしは魔法なんかじゃ倒れないよ!」
 一向に掛かってこないロギに、魔法と盾で防御を固めたネフィリムが挑発する。
「こうするのさ」
 ロギが動いた。急降下し、ジャンヌとネフィリムを結界の中へ入り込ませる。ネフィリムが身構えた瞬間、その胸元近くにロギの顔があった。
 その手元に、印が組まれている。赤い光。
 盾で受けられる距離が、無い。

 どぉ‥‥ん‥‥
 どこか遠くで、大きな衝撃音が響いた。
 冒険者の攻撃か、それともロキのものか。向こうでも戦いが始まっているようだった。

 結界際の競り合いは暫く続いた。ハーラル達が呼びかけても、山賊達は正気にはならない。
 その時、幽玄なる竪琴の音色が響き渡った。ナランのローレライの竪琴。メロディーが成就したのだ。
 友達のため、友達の大切な人達の為。
 ナランは大きく息を吸い、歌いだす。

さんぞくぞくぞく さんぞくぞくぞく
おれたちゃ〜さんぞく〜

「なっ、なんだその歌詞!」
 思わずハーラルは突っこんだ。この曲はハーラルから山賊たちの事を聞いて、ナランが歌にしたものだった。演奏が専門家並みゆえに、歌詞がそうでないのはひどく目立つ。ナランは気にしてない様子で、演奏を続けながら言った。
「さ、ハーラル君もご一緒に!」
「歌えるかっ」

ちんけな魔法は使わねぇ 俺たちゃ手先で勝負する
仲間思いの〜黄布の山賊〜
その名はー ジョーヌ〜

 再度セピアはホーリーフィールドを展開し、間近に迫っていた敵を押し出す。自分の事ではないのに恥ずかしそうにしているハーラルに、曰くありげな微笑を向けた。
「私は、いい歌だと思うけど?」
「どこがっ」
「そうね」
 セピアはわざとエルフにしては豊満な胸をハーラルの目の前に持ってくるような体勢で、間を置いた。どぎまぎと視線をそらせた先に、セピアの目があった。
「この曲から、誰もが題材の山賊の暖かさを知るわ」
 ツッコミとは裏腹に、ハーラルはドワーフ達との事を思い出していた。ナランの奏でる、明るい曲調に乗せて。
「そうさ。あんた達は山賊でも、誇りある者達の筈だ。心を明るくさせる何かを持っている‥‥」
 山賊たちの表情を探るように、シエロ。彼らは何かに思いをめぐらせるように、緩慢に動きを止めた。
 ハーラルは全霊を込めて叫んだ。
「皆、お頭っ! アジトに帰ろう!」
「‥‥ハーラル?」
 一人がやおら声を上げる。それを皮切りに一人、また一人と意識を取り戻していく。ナランとハーラルはお互いに顔を見合わせ、作戦が上手くいったことを確認しあう。親愛を込め、シエロがハーラルのチェインヘルムをぽこんと叩く。二人は同時に良し、と笑った。

 結界の中で、ファイアーボムが炸裂した。爆発は結界に阻まれ、勢いを逃がしきれずに狭い球体の中で暴れた。それは容赦なく二人を襲う。神の加護でデビルの力は減じられるものの、焼かれる痛みが全身を包む。
「こんなもので‥‥!」
 ジャンヌはオーラを身体にみなぎらせ、それを防いだ。ロギに攻撃できる距離をとろうとするネフィリムに代わり、ジャンヌは聖剣に全ての力をかける。
「うわああっ!」
 全身全霊の一撃。しかし、大振りのそれは悪魔に難なく避けられる。
「そんな剣戟じゃあ、僕は斬れないね」
 ファイヤーボムは狭所で発動させれば術者をも巻き込む。ヘキサグラム・タリスマンの結界の中にあって防ぎきったのであれば、恐ろしい抵抗力であった。それがロキの使った二度目の攻撃を無効化させる技かどうかは分からないが‥‥二人はきっと悪魔を睨み上げる。
「綺麗な目だね」
 余裕なのか、どこか恍惚とした表情でロギは言った。
「君達みたいな子が、敷き布を織ってくれたら、さぞや綺麗になるだろうね」
「何の事‥‥?」
 その表情に空恐ろしいものを感じ、ジャンヌは警戒を強める。
「君達みたいな魂の持ち主に贄を育ててもらえて、嬉しいよ。兄様もきっと――」
 不意にロギが言葉を切ったその時。同じくして冒険者は、明るさを感じた。
 大地、森、家々。
 そこここで小さな灯火が輝いている。
 囁くような声が周囲に満ちる。ロギは慌てて、周囲を見渡した。トッドローリィが、人に出くわした野良猫がするように、さっと姿をくらませた。
「兄様‥‥?」
 声は歓喜に満ちていた。
――モドッタモドッタ、タカラガモドッタ!――
 見やれば、アルヴィースの石は太陽のごとく光り輝いて、一つに重なり合っていた。
「嘘だ‥‥兄様が‥‥」
「ロキを倒したんだ‥‥!」
「そ、そんな‥‥!」
 ロギはたじろいだ。
「僕らの計画が‥‥世界の闇が‥‥!」
「何を考えてたか知らないけど、もう終わりだよ!」
 ジャンヌが剣をロギに向ける。ロギは一人、冒険者に囲まれる形になっていた。冒険者達は誰も、攻撃の瞬間をうかがっていた。
「いやだ‥‥」
 子供のように、首を振る。
「ずっと用意してたのに‥‥こんな事で、終わらせてたまるかっ!!」
 何を思ったか、ロギは冒険者の中へ飛び込んだ。黒い結界がナランの目の前に迫った。炎の熱さが襲う。
「ハーラル君‥‥シャトンさん!」
 熊夫が叫ぶ。見ると、ハーラルがロギに掴まれ、シャトンはその足にすがって悪魔が飛翔するのを防いでいた。
「魔法陣の贄には、させません‥‥!」
「!! 何でそれを!」
「放しなさいっ!」
 シエロと紅蘭は、結界にわざと踏み入り、それぞれの武器でロギを傷つけた。怒りと痛みにまみれた悲鳴を上げる。
「くそ、ヒトどもぉ‥‥!」
 ロギはハーラルを手放した。印を組み、爆発を起こす。冒険者が咄嗟に身をかばった隙に、ロギは飛び上がり、夜の闇に消え入った。
 その途端光があふれ出して冒険者を包み込む。
 その光の一つ一つが、エレメンタラーフェアリーであって、普通では考えられないほど、人を恐れることも無く、ここかしこで踊ったり騒いだりしはじめた。
 歓喜の渦に包まれる中、冒険者達は悪魔の意味深な言葉の端々を思い出し、浮かぬ表情で立ち尽くすのだった。