【valse de mort】青い炎

■シリーズシナリオ


担当:外村賊

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 25 C

参加人数:7人

サポート参加人数:8人

冒険期間:12月06日〜12月12日

リプレイ公開日:2005年12月18日

●オープニング

 冒険者ギルドに軽やかな足音が響く。はためくドレスと、金の髪。受付に立った人物は、貴族令嬢だった。
 係員は、一瞬唖然として、必要以上に驚いた。
「マっ‥‥マルガレーテ嬢!」
「依頼なの、受けてくれる?」
 快活な笑みを浮かべて金貨入りの袋を軽々しくカウンターに置く。
 
 ドラゴンの飼い主。おめかしやパーティーより、屋敷を抜け出してはギルドに家からの捜索隊からの護衛を依頼するのを好むじゃじゃ馬娘。などの理由でギルドではちょっとした有名人だ。
 しかし係員が驚いたのは、そんな彼女の経歴のせいではない。
 いまやドレスタットを騒がせる最たる人物・ロキの一味にドラゴンを奪われ、自身も一度狙われている。最初はドラゴンを探す為に躍起になっていたが、無茶をして冒険者にたしなめられた事が、彼女自身どうすればいいのかを考える機会となった。
 結局彼女は、外出する事を控えて海戦騎士団の調査の報を待つ事を選んだ。よく冒険者になると言い出さなかったもんだと、その噂を聞いた時、係員も思ったものだった。
 その彼女が、一人でドレスタットのギルドに来たと言う事実だ。

「いつもみたく、執事殿の目を盗んで抜け出してきたんで?」
「えへへぇ。ちょっと大人しくしてたら、ガードも緩むかなって思ってたんだけど。爺やったら調子に乗ってますます護衛を増やしちゃって‥‥大変だったわ!」
 何を追及するでもなく、いつものように係員が問えば、屈託のない笑みで彼女は笑う。
「でも、青い炎に腰抜かしてる隙を見計らって、上手く逃げてきちゃった」
「あ、、青い炎ぉ?」
「最近出るの、アンデット。青い炎が飛んだり、家の中のものが急に動いたりね」
 マルガレーテは事も無げだ。アンデットの話より、その豪胆さに驚く係員である。
「普通はこう、怖がるもんでしょうに」
「ちっとも。だってね、事あるごとに私を助けてくれるのよ。このあいだも、お父様の部屋の前に飾ってある鎧が倒れてきたけど、見えない力で服を引っ張ってくれたお陰で怪我しなかったの。今だって、あの炎が通ってくれなきゃ私、ここまで来られてないわ」
 そんな良いアンデットを怖がったりできて? とマルガレーテ。職業病か、ついメモを取りながら係員は難しい顔で考え込んだ。
「で、ご依頼ってな、このアンデットに関してですかい?」
「ええ!」
 マルガレーテは身を乗り出す。
「不思議なの‥‥そう、物を倒したり、廊下を通ったりするだけなんだけど。いつも何か思わせぶりで‥‥何か、言いたそうな気がするの」
「お嬢様が見た青い炎ってのは多分レイスって低俗な幽霊で、あいつらは大体がその怨念のままに暴れてるだけなんスから‥‥そんな深い考えがあるとは思えませんがね」
「じゃあ、今まであたしに物が当たらなかったのは偶然?」
 不服気に唇を尖らせ、マルガレーテは係員をにらみつけた。一瞬たじろいだ係員だが、彼女の表情がくるりと悲しそうな表情に一変し、なおさら慌てる。
「言いたくないけど‥‥私のドラゴンはもう死んでいて、幽霊になってロキの事を教えに来ているのではない?」
 普通、レイスは人の怨念で出来るものだ。ドラゴンの幽霊など聞いた事はないが――。
「いいです、分かりました! じゃあ、依頼内容はこうしやしょう‥‥いいですかい――」
 今にも泣きそうなマルガレーテに、弱りきって係員は依頼書を作成した。



貴族令嬢マルガレーテ様より 幽霊調査の依頼。

◎内容:マルガレーテ嬢宅の家に出る、アンデッドの行動調査。
 屋内に出現するアンデッドの行動に何かしら理由があるかどうか、調査のこと。判じた場合はマルガレーテ嬢に報告の上判断を仰ぐ。ただの暴走である場合は、討伐する。

◎調査場所
 マルガレーテ嬢宅:片道2日、食費は全て各人負担。

◎詳細:令嬢の証言より、調査の示唆になるものを列挙する。
・青い炎がいつも真夜中の同時刻に玄関から入って来、二階のイレール氏(マルガレーテ嬢の父君)の部屋へ消える。なお、イレール氏は旅行中で不在である。
・それ以降の時刻より夜明けまでのあいだ、屋敷の中でポルターガイスト現象と、レイスらしき青い炎が行き来する姿が確認されている。
・ポルターガイスト現象による主な被害は、衣装箱、戸棚や飾り棚、肖像画などの大型家具、装飾の鎧や武器などの倒壊・落下。他の物はほとんど動かないと言う。
・特に著しいのは、イレール氏の部屋である。趣味の芸術・工芸品をしまった棚が多くあるためだと思われる。
・落下物などの近くに居た者の怪我をする場合もある。しかし令嬢は、自分だけ被害を免れているように感じる。

追記:確認できるアンデットは、レイス一体とポルターガイスト(数不明)である。双方銀の武器か魔法でしか傷つけられない事に注意する事。



 張り紙を見ていたあなたに、係員は言う。
「まあ、やっぱり考えなしに突っ走る面はあるけどもだ。謹慎を破って自らドレスタットに来たのは、お嬢様なりに考える事があっての事だ。頼りがいのある冒険者が、行って安心させてやってくれないか? ‥‥お前みたいなな」

●今回の参加者

 ea5101 ルーナ・フェーレース(31歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 ea7819 チュリック・エアリート(35歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8583 アルフレッド・アルビオン(33歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb2560 アスター・アッカーマン(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)

●サポート参加者

バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857)/ マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)/ リセット・マーベリック(ea7400)/ 操 群雷(ea7553)/ イコン・シュターライゼン(ea7891)/ トゥルム・ラストロース(ea8951)/ タケシ・ダイワ(eb0607)/ ゲオルグ・マジマ(eb2330

●リプレイ本文

 冒険者はまず屋敷に立ち入る上で、マルガレーテと執事に挨拶をしなければならなかった。マルガレーテは満面の笑みで迎えてくれたが、執事は相変わらず嫌悪をまるで隠そうとしない。彼の態度は年齢や今までの事を考えて修正は難しそうであったが、少なくとも余計な邪魔はされたくなかった。
 依頼主が令嬢である事、そしてかつて令嬢誘拐未遂事件の手落ちの謝罪、また未遂に防いだ事をかんがみてほしいと提案する。
「ではいらぬ詮索などせず、アンデッドを浄化して帰る事だ」
 執事はそれだけ言い放つと冒険者に背を向け、令嬢の肩を押した。
「危ない事はこやつ等に任せ、お嬢様はお部屋へ」
「一緒にいたいわ」
「かどわかされでもしたらどうするのです、さあ」
 無理やり押されながら、マルガレーテは振り向いた。表情に謝罪が込められている。レオパルド・ブリツィ(ea7890)は思わず叫んでいた。
「お待ちください! ご令嬢に、ドラゴンについて報告を」
 執事は立ち止まった。レオパルドに向かって顎をしゃくる。騎士らしく礼をし、発言が許可された事に感謝を示す。
「山賊のアジトに令嬢のドラゴンらしきフィールドドラゴンがいるという情報があります。僕の友人が依頼で向かっていますが――居た場合は、石化をさせ、その場に止めるといっていました。成功すれば、じきに貴方の元へ戻ってくるでしょう」
 マルガレーテの表情が、ぱっと輝いた。
「本当!? ‥‥でもじゃあ、屋敷のレイスは‥‥?」
「それは、今から調べます。執事さん、依頼遂行の許可を頂いたのでお願いしますが‥‥レイスについて、あなたから詳しく話をお聞きして宜しいでしょうか?」
「かのドラゴンでないなら、ただの悪霊だろう。何を調べる必要がある? 現われれば消せばいいのだ」
 にべもないとはこの事だ。そのまま振り返りもせず執事は、冒険者を気にするマルガレーテを押しながら令嬢の部屋の方へ歩いていった。
 館に入る自体を断られなかっただけまし。そう思って冒険者は仕事を始める事にした。

 二階へ上がると、鎧が倒れていて、ばらばらと部位が散乱していた。女中が二人がかりで、胴を持ち上げようとしている所だ。アルフレッド・アルビオン(ea8583)は声を掛けた。
「もし、お仕事中にすみません。幽霊の調査を依頼された者です。二、三お聞きしたい事があるのですが宜しいでしょうか?」
 聖職で培った礼儀作法でアルフレッドが伺う。執事の息は掛かってないらしい。すぐに協力的な態度を示す。依頼書に記してあった証言がその通りである事を確認する。
「ご自分がもしレイスなら、この行動で何をしていると思いますか?」
 女中は顔を見合わせる。アルフレッドは顎に軽く手を当てて、
「マルガレーテ様はこの行動に何か意味があるように思われているので、参考までにお聞きしているのです。何か、ありませんか?」
「執事様には、私が言ったと言わないで下さいませね‥‥」
 言われて、女中はおずおずと声を潜め、話を切り出した。
「旦那様は変わった物を集めるのがご趣味なんです。‥‥その中に何か曰くつきの物でもあったんじゃないかしらって、女中の間で話していたんです」
「曰くつきの物をレイスが探していると?」
 確認しつつ、アルフレッドは顎に合った手を少し下ろした。
「旦那様の趣味とは?」
「骨董品や美術品を集められるのです。美しいというより、古めかしい物を‥‥。ご自分のお部屋に置かれておいでで、そこがいつも荒らされますから‥‥」
「これも、その一つですか」
 一緒に居たアスター・アッカーマン(eb2560)が散らかった鎧を指した。一度使われていた物らしく、厚い装甲にはモンスターと思しき物の爪痕が残っている。
「さあ、恐らく‥‥。私がここに来た十年前には、もうここにありましたから‥‥」
「一番長く仕えていらっしゃるのは執事様です。あの方なら良くご存知かもしれません‥‥」

 夕暮れ時。広間に集まった冒険者はそれぞれの情報を出し合って、もう一度整理する事にした。
 チュリック・エアリート(ea7819)は、モンスターに詳しい知り合いに聞いてきた。レイスは確かに青白い炎のような外見をしているという。恨みなどの為に凶暴化している魂であり、嘘をつく――今後のために何かするほどの知能は持ち合わせていない。
「まあ、念の為そういう細かい事も知っておいた方がいいかと思ってな。ただ、ポルターガイストの方は、物にとり憑いて動かす幽霊であるぐらいしか分からなかった」
「それなら、分かります」
 クレリックのアルフレッドが付け足す。
「とり憑いていない時は、白いもやのような外見で現れ、少しばかりなら会話も成り立ちます。しかし集めた情報では、ポルターガイストの姿を誰も見たことがないのです。もしかすると彼らは、ずっとこの屋敷に潜んでいるのかもしれませんね」
 加えてイレールについて情報を集めた者は、酒場では大した情報は得られず、騎士団の詰め所からは、ごく狭い領地を預かっているがほとんど執事に運営を任せていると言った話を得てきた。
「後は、直接聞き出す他にないようだね」
 午前の調査の報告を聞き終わると、さほど進展のない情報にルーナ・フェーレース(ea5101)が肩をすくめる。
 もとより直接会話をする事に重点を置いた作戦であったので、ある程度は予想できたことだ。
「レイスが出てくる時間まで、もう一休みしようかね」

 夜が訪れて久しい。凍えるような風が吹き、ちらほら雪も混じっているようだ。セピア・オーレリィ(eb3797)は窓の戸板を僅かに開け、吹き込む冷気に耐えながら外を眺めていた。
 月明かりはない。部屋の明かりも消してしまった。ただ黒い空間を眺め続ける。
 そのすぐ横を、突然青い光が横切った。
「――!!」
 炎のようにたなびきながら、その青い光は玄関へ向かい、扉をすり抜ける。セピアはじっと息を潜めたが、人がいるような気配は窺えなかった。
「少なくとも、私の感知する範囲の中には、幽霊を操るような人物は現われなかったってことね」
 レイスは右手の方角から現れた。それは屋敷の門の方角ではない。屋敷を半分取り囲むように生えた雑木林に繋がっている。いるとすれば、その中か。
 追う事も出来たセピアだが、単独行動は危険が伴う。ひとまずは部屋より出、レイスが行くであろう先へと向かった。

 冒険者達は広間で待ち構えていた。チュリックは外で待つことを提案したが、レイスを操る者が現われた場合警戒する事を恐れたセピアが反対したため、戦う事になっても十分に広いこの場を選んだ。
 恐ろしいほどの静けさの中、扉をすり抜け、それは現れた。
 人間ほどの大きさはある青白い炎。ルーナとレオパルドはそれぞれに魔法を詠唱し始める。テレパシーとオーラテレパスを発動させ、会話を行うのだ。しかしレイスは攻撃呪文と察したのか、甲高い叫びを上げて、二人めがけて突進してきた。
「二人の詠唱の邪魔をさせるな!」
 チュリックが前へ飛び出す。レイスに余計な警戒されない為にも銀の武器は使わないことになっている。レイスに触れた瞬間、チュリックを激しい痛みが襲った。一度天井近くまで上昇して、再度レイスは上からレオパルドへ急降下して来た。
 防ぐ間もなく、無防備にレオパルドは攻撃を受ける。
「止めとくれ! あんたを消しに来たんじゃない、話を聞きに来たんだよ!」
 成就するなりルーナは叫んだ。三度攻撃しようとしていたレイスは、拳一つ分ほどの距離で、その動きを止めた。
 レイスの心は、悲しみと怒りとがひたすら荒れ狂っていた。ひとまずは停止しているが、いつ暴れられても不思議ではない状態だ。慎重に聞かねばならない‥‥ルーナは言葉を選んだ。
「まず確認だが、あんたはここのお嬢の飼ってたドラゴンかい?」
『チガウ‥‥』
「じゃあ、何の理由があってこの館に来るんだい?」
 炎は揺らいだ。怒りに打ち震えているのだとルーナは察した。
『クヤシイ‥‥』
「ここに、何か恨むものでもあるのですか?」
 気遣う口調で、魔法をかけなおしたレオパルドが問う。
『オオオオオ‥‥ッ! クヤシイ! クヤシイ!』
「あ、待て!」
 レイスは叫んで、空中へと浮き上がり、天井の向こうへと消えていった。
「二階へ行ったのでしょうか‥‥」
 あっけに取られた様子でアスターが、真っ暗な天井を見上げる。その上に埃が舞い降りてきた。地響きのような音が、上から聞こえてくる。
「イレール氏の部屋‥‥!」
「何があっても情には流されないでね‥‥敵が『お嬢様に万一があると困るから』送り込んでいる可能性だってあるわ」
 追いついたセピアが、仲間に釘を刺す。
 冒険者は階段を駆け上がる。取りも直さず部屋へ滑り込むと、所狭しと並んだ棚が倒れ、一つが今まさに取り付かれたらしく激しく揺れている。
「止めなさい! ‥‥うわっ」
 アルフレッドがきつく言うが、頭上に棚のものが落ちてきたので、慌てて飛びのく。ルーナには、そこにレイスの怒りの思念も感じられた。しかし、棚の向こうに隠れたものか、青白い炎はない。
「レイス、出て来ておくれ。ちゃんと話がしたいんだ」
「言い方が悪かったのなら謝ります。ですから‥‥」
 レオパルドは見えぬがここにいるであろう、レイスに近付こうと、一歩踏み出した。その足先に何か固い物が当たって、反射的に足を引っ込める。
 それは石のようだった。持っていたランタンを掲げ、それを取り上げる。レオパルドはその目を疑った。
 それは古びた石版であった。大きく伸びる樹の絵が描かれ、その枝の中に包み込まれるように、円盤状の大地が記されている。何らかの文字が書かれてもいるが、レオパルドには理解できないものだった。
 気になって、崩れ落ちた他の品物を取り上げる。それは文書であったり、画であったりするが、一つの共通した趣旨の下に集められていた。共に拾い読みしていたほかの冒険者も、同じ考えに行き当たったようだ。アスターが口を開いた。
「北の精霊伝説‥‥イグドラシル」
「ああ、そのようだ。ゲルマン語の資料だけでも、随分充実してる」
 ゲルマン語に堪能なチュリックが一枚の紙を眺めて、報告する。セピアには仲間がその伝説に不穏なものを感じている理由が分からない。
「何なの?」
「イギリスからいらっしゃったんでしたね。今ドレスタットでは、この樹のある島の宝を巡って、恐ろしい敵と対峙しているのです」
 レオパルドの視線は、イグドラシルらしき樹の絵に落とされたままだった。
「レイスさん。ポルターガイストが棚や鎧なんかを動かすのは、何かを探しているからなんですか?」
 おおお‥‥嘆くような声がどこからか響いた。レオパルドは聞き取った。
『コノ シ ハ‥‥クヤシイ‥‥』
 壁沿いの、一つの棚がぐらりと揺れる。一番下に並べられた品物が、一つ一つ見えぬ力で、棚から引き摺り下ろされていく。
 全てが引き出された時、レイスの意思を感じたルーナとレオパルドが、空になった棚を覗き込む。
 その時、急ききって執事が飛び込んできた。二人を見るなり、叫ぶ。
「いかん、そこは‥‥!」
「奥に何かある」
 石壁を削って棚の奥に穴が穿たれ、そこに何か収められている。レオパルドが手を伸ばして、それを引き出した。
「しまえ、しまってくれ!」
 さらに行こうとする執事の前に、チュリックとセピアが立ちふさがった。
「あなたは依頼者ではないわ。口出ししないでもらおうかしら?」
『オオ‥‥クヤシイ』
 その物は引っ張るまでもなく、レオパルドの手に収まり、ランタンの光の中に現われた。細長い形状のものが、古びた布に包まれている。中から錆が染み出しており、レオパルドはすぐにそれが何か察した。
「剣ですね‥‥」
 開くと、刀身が錆で真っ赤に染まった、ロングソードであった。なぜか羽のように軽い。そこから、突然に青い炎が噴き出す。
 レイスだ。嘆くような声を上げながら、ふらふらと冒険者の上にとどまる。途端、剣に重さが戻ってきた。その一連を目の当たりにしつつ、アルフレッドは目を疑った。
「まさか、物に憑くレイス‥‥?」
 しかしそれでポルターガイストの姿が全く見られていなかったことも説明がつく。
 ルーナは剣と共に、一枚の紙切れが包まれている事に気付いた。これも随分古びて、ぼろぼろになっている。慎重に開く。
 インクで書かれた文字の羅列。錆や擦り切れの為に所々読みにくい所があるが、ゲルマン語で書かれている。解読できそうな所を、ルーナは読み上げた。
「罪なき不浄の心のもの、赤き円の敷き布を、その身で織る。清らなる少年と無垢なる乙女、その上に座して祈り捧げる。神が慄き悪魔が哂う、甘美なる宴が開かれるだろう‥‥」
『オオオ‥‥アクマ‥‥!!』
 最後のくだりを読み上げると、レイスは今までにない激情をたぎらせ、部屋を飛び回った。
「イレール様‥‥お許しくださいませ」
 執事ががくりと膝をつく。チュリックは半眼で彼を見下ろした。
「あんた、何か知ってるな?」
 その時だ。
 つんざく悲鳴が屋敷に響き渡った。その場の誰もが、その声に覚えがあった。
「マルガレーテ!」
 一斉に部屋から飛び出す。マルガレーテの部屋の方から、黒服の護衛団が血相を変えて駆けてきた。
「マルガレーテ様に何があった!」
「申し訳ございません! 窓から巨大な鳥が‥‥お嬢様を足に掴んで、飛び去りました!」
「何――」
「申し訳ございません!」
 令嬢の部屋はほとんど荒らされずに残っており――ただ、窓が壊され、巨大な鍵爪と思しき痕が、窓枠を握りつぶしていた。