【valse de mort】破滅のワルツ

■シリーズシナリオ


担当:外村賊

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月06日〜01月13日

リプレイ公開日:2006年01月24日

●オープニング

 悪魔ロギとは、過日冒険者が葬った紫のローブのデビノマニ、ロキ・ウートガルズに組する悪魔である。
 それに関する報告書が、二つ、ギルドに届けられた。
 一つは、遺跡の島の戦いでロギが一人の冒険者を攫って逃げた事実。
 一つは、彼が破滅の魔法陣の発動を計画しているだろう証拠。
 遺跡の島にほど近い海上に、魔法陣となりうる場所があるという話であった。
 イレールの教えたとおり、彼の家の資料との食い違いはなく、その場所こそが魔法陣であると断定された。

罪なき不浄の心のもの、赤き円の敷き布を、その身で織る。
清らなる少年と無垢なる乙女、その上に座して祈り捧げる。
神が慄き悪魔が哂う、甘美なる宴が開かれるだろう。


 イレールに、手掛かりとして与えられた詩。
 一行目は、彼らの血によって魔法陣が描かれる事、
 二行目は、二人の生贄の存在、
 三行目は、それが邪悪な存在である事を知らせる。
 前回の悪魔の本拠地での調査で、明らかになったことだ。
 二人の生贄のうち、『清らなる少年』は悪魔に捕まるのを未然に阻止され、ドレスタットにいるという。それでも悪魔ロギが動いているのは、不完全ながらも魔法陣を発動させる方法があるからかもしれなかった。

 ロギは空を飛び、炎と悪魔の魔法を駆使して戦うのだという。手ごわい相手ではあるが、これを倒さなければ、マルガレーテは生贄として命を落としてしまう。

 レイスの怒りを晴らすためにも。
 イレールの思いを無駄にしないためにも。
 なにより、マルガレーテを取り戻すために。

 冒険者は強い思いを胸に、冒険者はこの依頼に名乗りを挙げる。

●今回の参加者

 ea0242 クリストファー・テランス(24歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea5101 ルーナ・フェーレース(31歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 ea7819 チュリック・エアリート(35歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7929 ルイーゼ・コゥ(37歳・♀・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 ea8583 アルフレッド・アルビオン(33歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb0607 タケシ・ダイワ(38歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)

●サポート参加者

円 巴(ea3738)/ 円 周(eb0132)/ シルヴィー・エインファリア(eb3845

●リプレイ本文

「全速前進! 皆はん、海の男の魂見せとくれやす!」
 舵でルイーゼ・コゥ(ea7929)が指示を出す。
 海戦騎士団が用意した船は、重装備の軍船であった。小回りこそ利かないがしっかりとした造りで、団から予備物資も多く積まれている。チュリック・エアリート(ea7819)が船の装備強化を提案したが、それにエイリークが快く応じた結果だった。
 冒険者が見据える先、波立つ海の上にあって、魔法陣はすぐにそれと分かる。
 まるでそこだけ切り取られたかのように波が静まり、漆黒に染まっている。そこを鮮やかな赤い線が漂って、ゆっくりと文字とも模様ともつかないものを描く。吹き付ける荒い風の力だけで、船は中央を目指して突き進む。
 目標とする地点は悪魔が群がって黒く染まり、様子は窺い知れない。マルガレーテがそこにいる事に間違いはなかった。
 魔法陣に入ったとたん、インプの群れが船を指して襲いくる。セピア・オーレリィ(eb3797)がホーリーフィールドを展開し船を守り、他の冒険者達が悪魔に反撃する。
 船が着実に生贄の岩へと近づいていくにつれ、冒険者達の警戒心は高まった。
「あれを!」
 クリストファー・テランス(ea0242)が指をさす。船尾楼の上に影があった。
 黒い翼を生やし、炎をまとった、おぞましい悪魔。
「ロギ!」
「ようこそ、冒険者」
 牙の生え揃った口を歪めて笑うと、居心地悪そうに足元を踏みしめた。
「ずいぶん濡れてるね」
 ロギの火の魔法対策に、ありったけ海水を含ませてきたのだ。ロギは浮上し、冒険者に背を向ける。
「関係ないけど」
 赤い光が悪魔を包んだ。
 閃光。耳をつんざく爆音。
 悲鳴。
「舵が!」
 船尾からすすけた煙が立ち昇り、タケシ・ダイワ(eb0607)は慌てて駆け寄ろうとする。
「どうって事あらしまへん! こっちはうちに任せて!」
 ヴェントリラキュイか、船乗りシフールの声はすぐ近くで響いた。
「君達は魔法陣の一部になってもらわなきゃいけないのに、生贄の岩に突撃されでもしたら大変だ」
「寝言は寝て言いな。お嬢は返してもらうよ」
 ルーナ・フェーレース(ea5101)がスリングを引き絞る。
「やってみなよ。出来るものならね」
 身構える冒険者を悠然と見渡し、ロギは再び何かを唱えた。赤い光が彼を包む。悪魔の表情が一段と凶悪さを増したように見えた。
「行け!」
 ロギの号令と共に、インプが再度攻撃を仕掛けてきた。後を追ってロギも楼から降下し、途中でその姿は掻き消えた。
 インプ達は冒険者を翻弄するように、嘲り笑いながら飛び回っては、爪をつきたてる。しかしそれは冒険者達にほとんど傷を与えない。全員にレジストデビルが行き渡っている為に、悪魔の攻撃に対して傷は浅くすんでいるのだ。
 レオパルド・ブリツィ(ea7890)は周囲を見渡す。
「どこへ消えた‥‥」
「ここだよ」
 声はすぐ近く。
「綺麗な目だね。マルガレーテが好きなのかい?」
「何を‥‥!?」
 節くれだった何かが、レオパルドの顎を掴んだ。気づくと、すぐ間近にロギの顔があった。悪魔は呪文を唱え、レオパルドに囁いた。
「――冒険者を殺せ――!」
 それは悪魔の使う、人に行動を強制させる力ある言葉。しかしレオパルドはロギを睨みつけると、懐に隠し持っていた布袋を投げつけた。至近距離で避けられず、ロギは黄色を帯びた粉を浴びる。
 驚いたロギは咽せながら空へと舞い上がり、姿を消した。冒険者はそれぞれに頷き交わす。
 クリストファーはじっと目を凝らし、タケシに耳打ちした。
「マストの所に。様子を窺っています」
 タケシは言われたとおりの方向へ、ホーリーを放った。ぎゃっと声が上がって、ロギが姿を現す。
「何で‥‥!?」
「その粉ですよ」
 クリストファーが警戒して、スリングで狙いながら言う。
「私の視力で、貴方にかけた妖精の粉の動向を観察させて頂きました。‥‥もう透明化はききませんよ」
「洒落た使い方だね!」
 皮肉たっぷりにロギは吐き捨てる。
 作戦は成功したが、発案者のタケシの表情は優れない。
「‥‥戦闘の咄嗟にもう一度祈りを掛ける自信がありません‥‥これで早期決着となればいいのですが」
 突入前、レジストデビルを掛けたのは彼だが、他人に間違いなく成就させるにはまだ修練が足りなかった。
 同じくグッドラックを掛けた、アルフレッド・アルビオン(ea8583)も同意する。
「僕の方は対応できますがねぇ。でも、レジストデビルほど完璧じゃありませんから」
「でもこの混乱では、船は自由には動けない‥‥どうやって岩に近づくの?」
 ロギを警戒しながらセピアが言う。
「‥‥マルガレーテさん‥‥」
 左手に持った聖なる釘を、レオパルドは握り締めた。この場で使用しないのは、彼女を守るために取っておきたいからだ。
「お嬢を助けたいなら、俺にその釘よこしな」
 背後から、密やかな声。チュリックだ。
「俺が行く。奴を船にひきつけといてくれ」
「しかし‥‥」
「決めてきたんだ。命を張って、お嬢を守る‥‥とな」
 その目には決意が宿る。チュリックは不敵に微笑んで見せた。

 ロギはそれでも笑みを崩さなかった。
「なら、こうだ」
 ロギの周囲に黒い靄がたって、そのまま球となって悪魔を包み込んだ。
「結界? なら、大きなダメージを与えれば消えるはず!」
 セピアはレオパルドを促し、一斉に駆け出した。セピアは槍を、レオパルドは鞘にしまっていた錆ついた剣を抜き、左右から攻める。
 群がってくるインプ達は、ルーナとクリストファーが連携して押し止めた。
 ロギは動かない。
「食らいなさい!」
 突きと斬撃が、一斉に黒い球に叩き込まれる。
 しかし武器ははじかれた。剣に至ってはそのまま真っ二つに折れてしまった。
 ロギが哄笑する。今度はタケシのホーリーが飛ぶ。しかしこれもまた打ち消された。
「悪魔は抵抗できないはずなのに‥‥あの結界は無敵なのか‥‥?」
「そうさ。こうやって」
 ロギはセピアに迫った。結界の中にセピアは入り込む。そこには黒い炎が燃えていて、肌を焼く痛みが襲う。次いで、ロギの爪がわき腹をえぐる。
 ロギが再び離れた時、セピアは眉をしかめ、痛みに耐えていた。
「僕の間合いに入ってこない限りはね」
 くすくすと、癇に障る声でロギは笑う。
「レジストデビルが切れたみたい‥‥」
「今、リカバーを‥‥」
 その時、インプがなにやら騒がしくし始めた。揃って、船の向こうへ行こうとしている。レオパルドの攻撃を待たず、ロギは羽ばたき、そちらを見やった。
「待て!」
「――!」
 黒く凪いだ海の上を、泳ぐ影があった。
 チュリックだ。
 重い水は人並みほどにしか泳げないチュリックには酷だった。身を切るような冷たさも、最低限にしたとはいえ衣服を着ているのも辛い。
 お嬢‥‥!
 その思いだけで水をかき続ける。
「あの女‥‥!」
 ロギは一も二もなく方向を返した。ロギに離れられては、結界を破る術が無い。

――オオオオ――

 空気を震わせるような声が、どこからともなく響き渡った。
 それは次第に大きく、怒りをはらんで。

オオオオオオッ!!

「アンナさん!」
 錆びた剣の折れた切っ先から、青白い炎が飛び出した。剣に宿っていた女騎士の魂。それはロギの結界を無視して中へと入り込む。
 ロギの動きが止まった。
 結界の中に、何かが爆ぜる様な轟音が響いた。間をおいて、もう一度。
 そして、黒の球体の中から青い炎は、抜け落ちた。明滅しながら、結界が落とす影でさらに黒くなった海に沈んでいく。
「全く‥‥驚くことばかりしてくれるよ‥‥!」
 発せられたロギの声は、いささか消耗しているように聞こえた。そのせいか否か、チュリックとの距離が開いているにもかかわらず、ロギは止まったままだ。
「身体が‥‥動かない」
「結界は無敵でも、その影までは効果が及ばないみたいだねぇ」
 ルーナが印を組んだままの格好で勝気な笑みを浮かべた。
「シャドウバインディング‥‥!」
 ロギは絶句し、そして喚いた。
「インプ! 海に飛び込め! 僕の影を消すんだ!」
「させません!」
 タケシのホーリーとクリストファーの礫が、近づいてくるインプを邪魔する。
 チュリックはもがきながら、それでも生贄の岩へと辿り着こうとしている。
「‥‥あとは、あそこにいるのが、おびき寄せる為の偽者じゃなければいいんだけど」
「いえ‥‥本物ですよ」
 やけに落ち着いて、アルフレッドは答えた。彼の顔を伺うように見上げたルーナに、アルフレッドは悪戯っぽく微笑んだ。
「だって、偽者ならロギがあんな惨めに、あせる必要はないでしょう?」

 海から何とか這い上がった瞬間、冷えた風がチュリックを襲う。
「おじょ‥‥う!」
 歯の根がかみ合わない。
 マルガレーテは岩の岸で海へと向かって、祈りの姿勢を保ったまま、虚ろな顔で何かを呟いていた。対岸にはイレールが座り、同じように呟く。
 恐らくはイレールも、元から生贄候補であったのだろう。
 チュリックにも気づかない所を見ると、レオパルドに掛けようとした魔法で、操られているようだ。
「待ってろ‥‥悪魔になんか、もう、触れさせやしないから‥‥」
 震える手で釘を取り、岩の中央へ当てる。持っていた銀のナイフの柄の部分で、打ち込む。
 手元が狂う。血がにじむ。それでもチュリックは釘を沈めていく。
 インプの一体が命令をこなし、ロギはついに影の楔を断ち切る。一直線に岩へと向かうが、辿り着く直前、釘は全て大地へと打ち込まれた。衝突し、悪魔は跳ね返される。
 チュリックはそれを確認すると、ゆっくりと腰を浮かせた。寒さで真っ赤に染まった手が、マルガレーテを捜し求める。
「お嬢‥‥」
 しかしそれまで保っていた気力が尽きたか、そのまま前へと倒れこんだ。握っていた銀のナイフが滑って、マルガレーテの足元まで転がる。
「チュリック!」
「ふ‥‥はは、弱い人間! 様ないや! 呪文さえ、妨げられなけりゃ‥‥!」
 ロギは安堵して笑った。
 しかし次の瞬間、その場の誰もが凍りついた。
 マルガレーテが、銀のナイフを拾い上げ、自らの腹に突き刺したのだ。
 ロギは再び、色を失う。
「そんな‥‥僕のフォースコマンドを‥‥」
「ごめん‥‥こうしないと、悪魔の命令は解けないって、お父様が‥‥」
 相当に痛むだろうに、マルガレーテは笑った。
「これで、生贄の呪文、やり直し‥‥時間、稼ぐから」
 それだけ言うと、マルガレーテはまた祈りの姿勢に戻った。傷を負っても、長い間意識を止めていられるわけではないようだった。
 ロギは肩を震わせる。
「お前達全員海に沈める‥‥! あの女が、絶望して二度と逆らえないように‥‥!」
「さて、出来るかな」
 声が空から降り、結界に新しい影が降り立った。フライングブルームを駆る漆黒のローブの魔法使い。僚船の冒険者だ。
 ロギはその時、波を砕く音に気づいた。
「帆をたため! 減速!」
「錨を降ろせ!!」
 僚船に二つの声が木霊する。舵を取る海戦騎士と、ルイーゼの声だ。不浄の船を留めた僚船の冒険者がこちらまで連絡を取りに来、航海術に長けたルイーゼを連れ帰って合流を早めたのだ。
 船は両舷の錨を海底の岩に絡ませ、大きく揺れて停止した。
 生贄の岩とルイーゼの船の間である。機敏な動きで双方の船に渡しが掛けられる。二つの船は広い足場となった。
「頭領の魂、返してもらうぞ!」
 僚船の冒険者達は以前にロギと剣を交えた者も多い。恐れる事なく、黒い結界へと向かっていく。
 ルーナ達もまた、その戦いに身を投じる。
 群がるインプを魔法と飛び道具が抑え、近接の者はロギへと向かう。
 回復の術を持つ者は、仲間が戦う隙を見て、生贄の岩への負傷者の元へと急いだ。
「やあっ!」
 セピアの突き出した槍がロギの脇腹を貫き、悪魔は大きくよろめいた。自らの力が多く残っていないない事を悟り、ロギは悔しさに顔を歪めた。
「ここまでやってきたのに‥‥忌々しい、ヒト共め!」
 身を翻す。それは逃亡を意味していた。
「逃がさない!」
 追いすがろうとした冒険者達だが、何よりも早く飛び出したのは、青い炎であった。
 スピードを殺さぬまま、体当たりを仕掛ける。魂の攻撃を受けた悪魔は、ふらつき、高度を落とした。
 明滅する青い炎が叫ぶ。
――レオ‥‥パルドォォォッ!
 恨みの叫びしか上げなかったレイスからの、呼びかけ。レオパルドは頷く代わりにロギへと走った。レイピアを構え、雄叫び一声、その喉元を、貫いた。

「ヵ、は‥‥ッ!」
 ロギの瞳のないその眼に、レオパルドの顔が映る。
 しかしそれもすぐに、黒くくすぶる細かな塵に、姿を変えた。

 残ったのは丁度掌に収まるぐらいの、白い玉。転がっていくそれを、僚船に乗っていたチェインヘルムの少年が拾い上げる。僚船の仲間の方へ戻った彼は、小突かれ、叩かれ、撫で回されて迎えられた。
「終わった‥‥」
 喜びよりも先に、安堵のため息が口から漏れ出した。


 マルガレーテが目を開けると、そこは船内であった。見覚えのある顔が、心配そうに自分を見下ろしている。彼女の瞳が順繰りに彼らを見ていくと、その顔に歓喜や安堵の色が宿る。
「‥‥夢を見たの‥‥あれは、多分、お母様だわ」
 まだ夢うつつで、幸せな気分であった。
「生きなさい、って‥‥幸せそうに微笑んでいたわ」
「ええ‥‥貴方のお母様は、気高く、立派で、勇敢な方でした‥‥」
 レオパルドが言うと、マルガレーテは可笑しそうに笑う。
「やだ、知らないくせに、まるで友達みたいに!」
「‥‥彼は知ってますよ。アンナとは戦友なのです」
 先に正気づいていたイレールが、いとおしそうに娘の金髪をなぜる。マルガレーテは不思議そうに目を瞬かせた。

 チュリックの掌から、重力の帯が伸びる。グラビティーキャノンは生贄の岩と呼ばれていたそれを、穿ち、砕く。彼女の他にも幾名かの冒険者が、その破壊に携わっていた。二度とそれが使われないように。
「一時はどうなる事かと思ったがね。やれやれ、しばらく戦いはごめんだよ」
「俺はもう、寒中水泳は御免被るね」
 竪琴を奏でて周囲を鼓舞するルーナと、チュリックは笑いあう。陸地に残してきた仕事があるが、今は考えたくなかった。
「マルガレーテさんが目を覚ましましたよ」
 甲板へのハッチを開けて、顔だけ出したクリストファーが呼びかける。
「そうか‥‥」
 身体は疲れ果てていたが、自然と顔が綻んだ。
「どんな様子だい?」
 ハッチに近づきながらルーナが問うと、彼は意味深な笑みを浮かべた。
「石化したドラゴンを山から連れ戻すのに、ぜひ我々に同行して欲しいそうですよ」
 二人は思わず、顔を見合わせた。出てくる言葉は一つ。
「「あのじゃじゃ馬‥‥!」」

 船内へと降りていく彼らの遠く背後、ドレスタットからの迎えの船の白い帆が、荒い波間に見え隠れしていた。