【船宿綾藤・新装開店】紫陽花の庭でサクラ

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月01日〜07月06日

リプレイ公開日:2005年07月12日

●オープニング

「紫陽花の庭でサクラ!?」
「あんまり大きな声で言わないで頂けません?」
 にっこり笑顔とデコピンが飛び交うギルドの受付。
 依頼人はぱっと見30代半ばの婀娜っぽい女性で船宿『綾藤』の女将をしています。
 名をお藤と言い、実年齢は不明らしい彼女、その名の通り淡藤に銀の月の帯で、小雨降る中で涼やかな印象を与えます。
「実は色々事情がありましてねぇ‥‥暫くお休みをしていましたうちのお店、新装開店と言うことになりまして」
 どうやらこの船宿、元々の名は『藤槻』と、女将が店を継いだときにきた料理人と女将の名から取って付けていたのだそうですが、いろいろあって料理人がよりによって料理の道に挫折していなくなってしまったとか。
 なので御店の名を改め、腕のいい見習いをあちこちで顔を売り、ほかの御店でさらに修行を付けさせてもらって新装開店に踏み切ったのだそうです。
「でも、うちも休業中にいらしたお客様をそのまま追い返したりするわけにも行かないでしょう? ですので、付き合いのある他のお店をご紹介しました手前、戻っていらしてくださいともいえませんし‥‥」
「そりゃまあ、お客にも相手側のお店にも客を戻せなんていえませんからねぇ」
 女将の言葉に頷きながら頭を掻く受付の青年。
「うちが再び店を開けたのだとお客様に知っていただければ、うちを愛用してくださった方は戻られると思いますし、同業者にはもちろんきちんと挨拶をしたのですが‥‥」
 頬に手を当て溜息混じりに女将がいうと、受付も店をまた開けたというのことを隠して客の確保に走るお店があると暗に言っているのが分かり苦笑します。
「ツケで今まで遊ばれていたお客様方が来て下されば良いんですが、一部の御浪人様方は『潰れた店に払う必要などあるまい』などと‥‥ええ、新装開店前に作ったツケぐらいならこの際なかったことにしても宜しいからといって呼ぼうかとも考えたのですが、ならばとこれからすべて踏み倒されても商売あがったりですし」
「‥‥は、はぁ、それで、サクラ、と‥‥」
「ええ、お店が再び軌道に乗るまで暫くの間、お世話になるとは思うのですが、まずは開店直後にご招待という形で‥‥うちの宿の庭は四季折々の趣が楽しめ、船遊びにでるのにも最適‥‥」
 そういうと、女将は小さく首を傾げて微笑むのでした。
「どうでしょう、うちでご招待するという形で、ちょいとサクラを請け負っては貰えないでしょうかねぇ?」

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2851 魅繰屋 虹子(39歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4112 ファラ・ルシェイメア(23歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6450 東条 希紗良(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

御神楽 紅水(ea0009)/ 天馬 巧哉(eb1821

●リプレイ本文

●紫陽花で風雅に
 しとしとと雨の降る中、庭の紫陽花が一番よく見える部屋にそれぞれ案内された一行。
 その中で、気心知れた友人である鷲尾天斗(ea2445)の部屋へと訪れた魅繰屋虹子(ea2851)はちびちびと酒の杯を傾けていました。
「では、どうぞごゆっくり‥‥」
 茶菓子一揃いとおつまみを持ってきたお藤ににこりと笑いかける虹子。
「女将、新装開店おめでとう。紫陽花なんだか桜なんだか‥‥む、これは禁句か」
「有難う存じます。自慢の草花、どうぞ楽しんでくださいましねぇ」
「ここのところ籠もりきりでもう肩が凝って肩が凝ってなー。せっかくのサク‥‥御宿遊びだ、のんびりさせて貰おう」
 虹子の言葉ににっこりと笑って出て行く女将。
「しかし何だな、たまには良いもんだな、こういうのも」
 そう言いながらちびちびと酒を飲む鷲尾。
「そうだな、たまには‥‥と、ふむ、良い紫陽花だ‥‥」
 お藤に骨休めに来たと言ったはずの虹子、すと商売道具に手を伸ばして絵筆を取り出すと、紙を出して紫陽花をじっと見ては筆を滑らすと言うことを始めます。
「息抜きじゃなかったのか?」
「んー‥‥」
 笑いながら聞く鷲尾に生返事の虹子。
「ふむ‥‥騒動も何もなければ、四日間で仕上がりそうだ」
 構図も決まったのかそう満足げに口にする虹子。
 いつものことなのか、当たり前の光景のように時は流れていくのでした。

●宴会
「おや、あの部屋は賑やかだねぇ」
 夕刻、中庭に面した一番広いお座敷で、障子を開け放ち御神楽紅水の神楽舞に小鳥遊美琴(ea0392)が三味線に小唄・天馬巧哉が吉凶を占いを行っており、新装開店と聞いてひょっこりと遊びにやって来たお客が断りを入れて遊びに入ってきたり、ちょっとお安く楽しめるというのと料理の評判も相まって立ち寄る人達も。
 御神村茉織(ea4653)は浴衣にのんびり窓に肘をつき煙管を吹かせてその風情を楽しんでいるよう。
「謡と三味線の音も風情があらぁ」
 しみじみ言う御神村に酒とお膳を運んで来るのは宿の看板娘で座敷女中のお燕。
「お注ぎしましょう」
 にこりと微笑んでお銚子を手にお酒を勧めるお燕に酌をして貰い、離れるお燕を見送ると、手近を通る武家に声をかけます。
「どうだい、楽しんでるか? 良い店だよな、料理も上手ぇし」
「ほんと、良い店だねぇ。しかも良いときに来たようだな、お大尽の遊びに加われたようで‥‥さっき占いで大成すると太鼓判を押されたよ」
 上機嫌でほろ酔い気味に自身の部屋へと戻っていく武家を見送りつつ煙管を燻らす御神村は口元へと微笑を浮かべるのでした。
「うん、そうだな、魔物ハンターと‥‥イギリスケンブリッジでの学生生活ぐらいかな‥‥」
 愛猫を撫でながら言う言葉に、若い女性と連れだってやって来ていた薬師や隠居した様子の商人がファラ・ルシェイメア(ea4112)の話す異国の話に夢中になって聞いています。
「特にあの学校は変な先生が目白押しで‥‥いや、一芸に秀でていると言うか、個性と実力こそが第一と言うか‥‥」
「大きな学問所なのですかな? 何やら興味深い‥‥どのような方々が学ばれておるので?」
「うん、学問所‥‥そんな感じだ。とりあえず、変わり者が多いと思うよ。先生も生徒もね」
「へぇ、面白そうだねぇ、学園生活って言うのも」
 そう言って話に混じるのは虹子。暫くああだこうだと学園生活の話題で盛り上がります。やがて、先程ファラの言った魔物ハンターについて興味を持った様子のご隠居。
「その、魔物はんたぁというのは?」
「魔物ハンターの方は、読んで字のごとく。強敵と出会えるのは嬉しいね‥‥なんて呑気なこと言ってたら、いつか死ぬかも」
「冒険者の方々は大変なんですなぁ‥‥」
 ファラの言葉にしみじみ頷くご隠居さんなのでした。
 東条希紗良(ea6450)はそんな様子を宛がわれた部屋の障子を開け放してのんびりとお茶を頂きつつ眺めています。
「若い者は元気でいいねえ‥‥」
「俺より若いだろうが、あんた」
「おや‥‥」
 呟きにかけられた声に顔を向けると、御神村と目があって笑いながら軽く首を傾げる東条。
 御神村はちょうどぶらぶらと他の客と言葉を交わしつつ歩いていたようで、見かけた東条に近付いてきて呟きを耳にしたよう。
「ぶらっと一緒に回ってみないか?」
「そうだな‥‥」
 そう言って立ち上がる東条。御神村と見て回ると中庭の渡り廊下で足を止めて賑やかなお座敷の様子を眺める東条。
「雨濡れて静と佇む紫陽花の頬つたう雫流す君かな‥‥」
 一句捻りつつ暫くここで見ていると言われてまた1人で宿内散策を再開する御神村を見送ってのんびり雨に打たれる紫陽花を見ていると、演奏を終えて一休みと思って座敷を出てきた美琴が歩み寄ります。
「ご一緒に、どうですか?」
「ん、そうだな‥‥」
 そう言って頷く東条ですが、互いにそのまま会話もなく、話題を捜して黙り込んでしまった美琴はふと東条が差している真珠の簪を目に留めてつい真珠のかんざしを羨ましそうに見つめます。
「なにか私の顔にでも付いてるかな?」
「素敵ですねぇ.限定だったのでしょう? わたし、買えなかったんですよ」
「あぁ、これかい? 福袋で当ったんだが、最近は少々暑いからに髪を留めて置くのにちょうどよかったのでね」
 そう言ってすっと抜くと美琴の髪へと挿してやる東条。
「あっ、そ、そんなつもりじゃあ‥‥ありがとう.嬉しい‥‥お、じゃない、わたし‥‥」
「似合うよ」
 真っ赤になって言う美琴に微笑みつつ言う東条。
 そんな2人の様子を見かけた御神村はついついにやりと笑みを浮かべて見守るのでした。

●名物男と船宿
「綾藤の看板娘、俺の太陽の小町お燕ちゃん! 俺と朝から晩までしっぽりとぉ〜」
 その叫びと共に、とうとう風流に暮らすのに限界が来たらしい鷲尾が看板娘のお燕へと飛びかかろうとしるのですが。
 ふと気が付けば虹子とお藤の過激な突っ込みを受けて手早く簀巻きにされてしまいます。
「女将、今夜辺り気を付け‥‥と、何だその男は?」
「あら、こちらは気になさらずに良いんですよぅ、おほほ‥‥」
 取り繕うように笑いながら、用心棒に雇ったらしき冒険者の男へと言うお藤と共に、虹子はずりずりと鷲尾を引きずると、ぽいっと舟着き場から鷲尾を川へ。
「頃合いを見て適当に引き上げてやってくださいな」
 そう言うお藤は、どうやら鷲尾が不死身とでも思っている節がありそうです。
「‥‥大変な目にあった」
 そう言いつつ引き上げられた舟の上で、毛布を被って暖を取り、愛犬太助と舟に揺られて釣り糸を垂らす鷲尾に、釣り目当てで舟へと乗った沖鷹又三郎(ea5927)も並んで釣り糸をたれます。
「川沿いの紫陽花も見事な物でござるな」
 そう言いながら釣り上げる魚は鮎と鯉、それに鰻です。
「これはこの場で捌いて食べたい物でござるが‥‥」
 そう言って少し葛藤する沖鷹ですが、今回の目当ては船宿料理人の料理を客として楽しむこと。
 少し考えて戻ったら捌いて貰うことにしたようです。
「お、天斗が居るー」
「石ぶつけてやれ〜」
「太助君こんにちわー」
 船を宿近くへと戻すと川沿いを子供達が走りながらついてきます。
「天斗なんか面白い話してよ〜」
「そうそう、どうせボウズなんだから釣りなんか止めてさぁ〜そっちのにーちゃんが釣ったんだろ?」
「だぁぁぁ! 五月蝿せぇぞ、ガキ共!」
「‥‥大人気でござるな」
 船宿前で降ろして貰った鷲尾が子供達に引っ張られるのを、船の上から見つつのんびりと帰っていく沖鷹。
「ったく、しゃぁねぇな。んじゃお前等そこに座れ。今回は那須の熊鬼の話をしてやるから」
 そう言って子供達相手に冒険譚を聞かせる鷲尾。夕刻、子供達が帰ってくるまで楽しげな時間を過ごしたようです。
「良いお湯ですねぇ」
 虹子に誘われて共に広い露天風呂で湯に浸かってしみじみ言うのは神楽聖歌(ea5062)。
 桶を浮かせてその中にお銚子を置いて酒を呑みつつ虹子も同意の意を込めて頷きます。
「いい景色に、おいしい料理、このお店は楽しいですね」
「ほんと、日々の疲れがすっかり取れるって感じだな」
 昼間も紫陽花を見ながらのんびりと、絵の勝負をしてみたり、俳句を捻ったりと楽しい時間を過ごせたようで、風情ある露天風呂の周りの植物を眺めていたようです。
 夕食時、一同で屋形船へと女将のお藤に勧められて乗り込むことに。
「へぇ、面白い眺めだな」
 ファラはフライングブルームで船の上についてその景色を眺めていると、徐々に夕暮れに染まる川と船の様子が何とも言えない感情を呼び起こします。
 料理が並ぶ頃には戻ってきたファラ。ファラが戻ると早速食事が始まります。
 見た目も鮮やかで野菜の煮付けや魚などで見た目も美しく、品良く盛りつけられた膳がそれぞれの前に並べられ、料理人を生業としている沖鷹は感心したように頷きます。
 中でも嬉しいのは、自身が釣り上げた鯉と鮎の料理です。鯉の洗いと鯉コク、鮎飯は何とも言えない味わいがあります。
 色合い豊かな煮付けの材料などを隣に座る聖歌に解説をしたりしつつ、お藤の手が空いたときに料理人と後で話してみたいというと快く了承してくれ、その日は夜遅くまで料理人同士語り合ったようでした。

●それぞれの宿
 宿の食事が終わった後、散歩に出ていた美琴ですが、ふと曲がる道を間違えたのか、少しくらい通りに出てしまいきょろきょろとしていた時のことです。
 酔い覚ましにのんびりと散歩をしていた東条が美琴を見つけて首を傾げて暫く煙管で自身の肩を叩いて考えると、ゆっくりと歩み寄ります。
「ちょっと火を分けて貰えないか?」
 そう声をかけて火を煙管へと貰うと、先へと立って歩き出してから振り返ります。
 そんな東条の後についてほっとしたような面持ちで歩き出す美琴。
 言葉はなくとも自然と宿へと足を進める2人なのでした。
 最後の夜、真夜中にお燕の部屋へとそっと向かう鷲尾ですが、ふと何かを踏んづけた気がして止まったその瞬間、かーんと言う鋭い音共に頭に何やら木製の物が激突。
「〜〜っ」
 頭を押さえている鷲尾の前にぬっと現れたのは、先程絵を仕上げてのんびり酒を飲んでいた虹子です。
 次の瞬間天井にめり込む鷲尾。
「逆さに振っても何もでないから許してぇ〜」
 ぶらんぶらんと簀巻きで逆さ刷りにされたまま、鷲尾はそう許しを請いますが、暫くはsの姿で反省を促されたよう。
 朝になって漸く解放された鷲尾は、皆と共に報酬を受け取って帰ろうとするのですが‥‥。
「これで依頼料もらっ‥‥あれ?」
 にこにこと笑いながら鷲尾への謝礼の包みをさっと取り上げるお藤。
「おい! 今度は何だよ! ツケか!?」
「それもあるけど‥‥」
 そう良いながら天井を指さすお藤。新装開店早々天井に穴が開いたのでその修理費のよう。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 鷲尾が頭を抱える横で、それぞれが帰りを船で送って貰う為に乗り込んでいます。
「いい宿だ」
「良い宿じゃないか。サクラなんて要らなかったかもな?」
「今度は、依頼じゃなくて、お客さんとして来るよ」
 東条の言葉に虹子とファラもお藤へとそう告げると、お藤は嬉しそうに笑って頭を下げます。
「どうぞまたお越しを、お待ちしております」
 お藤に見送られつつ、それぞれの舟は帰途へと着くのでした。