【船宿綾藤・新装開店】秋の夜長

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:10月04日〜10月09日

リプレイ公開日:2005年10月14日

●オープニング

「そろそろ、御店も落ち着いてきた頃、かねぇ‥‥」
 そう感慨深い様子で言うのは、船宿『綾藤』の女将・お藤です。
「はぁ‥‥落ち着いてきた、ですか?」
 こちらはどこかお藤の言葉を微妙に頷きがたく感じている様子のギルドの受付をしている青年です。
「お世話になった皆さんを呼んで、宴会なんかを洒落込みたいんですよねぇ‥‥」
 微妙な様子を込めた受付の青年の言葉をあえて気が付かなかったかのように流すと、受付の青年も何事もなかったかのように手元の依頼票を確認します。
「‥‥と言うことは、やり逃した月見の宴、ですか? 今回は」
「まぁ、月見を逃してしまったのは本当に残念だけど‥‥月見をしても良いし、舟に乗って宴会をしても良い、とにかく今回は今までのことについての私からのお礼と言うことで‥‥あっ‥‥」
「どうしました?」
「そうそう、近頃1人大事なお客様がずっとうちに詰めているのだけれど、もし良かったら、その方も含めて、楽しめるようだったらいいかなと思ったのだけど‥‥」
 そう言って軽く首を傾げるお藤。
「大事なお客様‥‥? って、綾藤と言えば確か今‥‥」
「あら、私は別としても、貴方の場合言っても良いのかしら?」
「え? あ、あははははは‥‥いや、まぁ、あの方もあわせて秋の長い夜を楽しもうという依頼ですね、分かりました」
 お藤がにこりと笑って言う言葉に慌てたように誤魔化すと、受付の青年は依頼を纏めるのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2851 魅繰屋 虹子(39歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6450 東条 希紗良(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

五百蔵 蛍夜(ea3799)/ 山本 建一(ea3891)/ 神哭月 凛(eb1987)/ 柿本 源夜(eb3612

●リプレイ本文

●思い思いの宿
「関西の『いつまでも本日限り』じゃ‥‥」
 そこまで言いかけた鷲尾天斗(ea2445)に、問答無用ではりせん突っ込みを入れるのは魅繰屋虹子(ea2851)。
 船宿に集まった各人、色々な思い入れがあるようで、お藤もなんだか心なしか感傷に浸っていた様子だったので、なおの事激しい突っ込みになったのかも知れません。
「皆さん、最後まで、宜しくお願いいたしますね」
 そう言うと、お藤は一行をそれぞれの部屋へと案内するのでした。
「大団円で大宴会だな。といっても季節柄、風流な宴会にはなるだろうがね」
 虹子がそう言ってお藤と話していると、小鳥遊美琴(ea0392)が歩み寄って、櫛の礼を始めたよう。
「本当に、お礼も言いませんで‥‥」
「あら、気に入ってくれて何よりですよ」
 どうやらお藤は美琴が娘のように感じられて可愛いよう。
「また遊びにいらしてねぇ、虹子さんに美琴ちゃん」
 そう言って嬉しそうに話す3人は暫し歓談に入るのでした。
「綾藤の料理人殿は良い腕でござるよ」
 そう言って月見の宴に誘った五百蔵蛍夜と神哭月凛に話すのは沖鷹又三郎(ea5927)。
 既に日も暮れてきて、微かに白く月が見え始めます。
「神楽殿もそちらの御仁も宜しかったら一緒にいかがでござるか?」
「宜しいのですか? ではお邪魔させて頂きますね」
 神楽聖歌(ea5062)と、聖歌に誘われてやって来た山本建一が通りかかったのを見て、そう言って声をかける沖鷹に、微笑して座敷へと入る2人。
 こちらの宴は凛が手に神楽鈴を持ち装束を身に纏い礼をと京の舞を披露し、沖鷹が料理人の手伝いをして用意した松茸の土瓶蒸し・新鮮な秋刀魚の刺身や柚の香のする焼き茄子、そして茶碗蒸しやお吸い物が並び‥‥。
「おお、美味そうじゃねぇか‥‥ご相伴に預かるぜぃ」
 にっと悪戯っぽく笑った嵐山虎彦(ea3269)も酒を手に座敷へとやって来て、初日の夜は思い思いに更けてゆくのでした。

●長谷川平蔵という人
 その日の昼前、美琴は1人茶を盆に載せてやって来ると、声をかけてすと、その客人・長谷川平蔵の部屋に入り頭を下げます。
「お忙しい所申し訳ありません、長谷川様。お月見のお日取りを決めたいのですが、ご都合をお伺いできませんか?」
「おお、わざわざ済まぬな」
 そう言って文机に向かっていた平蔵は手にした紙の束から顔を上げると笑ってそう言い、部屋に入るのを促します。
「さてなぁ、ここに1人部下を詰めさせればどの日でも予定は空くが‥‥そうさな、強いて言うなら明後日だな」
「分かりました、明後日ですね。‥‥それでは失礼いたします」
 男である事を言及されなかったため少々内心ではがっかりしつつ頭を下げてから背を向けた美琴。
「‥‥お藤が気がつかねぇのも無理はねぇなぁ」
 ふと聞こえた言葉に振り返ると、平蔵は顔に笑みを浮かべたまま美琴の持ってきた茶を一口啜り口を開きます。
「いや、見事なものだと、そう思ったのよ」
 その様子にはどこか面白そうな様子が伺え、始めから見抜かれていたことに気が付いて美琴ははっとしたような表情を浮かべ、次第にその表情は微笑へ。
「‥‥男って分かりますか。流石は長谷川様‥‥俺、出来たら、貴方みたいな人の為に働いてみたいって思ってます」
 そう言うと、美琴はにっこりと笑って部屋を出ます。
「‥‥それでは、お船遊びの日にまた」
 そう言って頭を下げて出て行く美琴を見送り、文机へと向き直った平蔵ですが、直ぐに微かに聞こえてくる足音2つに顔を上げます。
「時間があるなら将棋でも一局いかがかね」
「ふむ、良いな‥‥だが、もう一人客人が来たようだな」
 部屋へとやって来て声をかけた東条希紗良(ea6450)に部屋へと促しつつ言う平蔵。
「長谷川様、遊びに‥‥いや退屈しのぎのお相手でもしようかと」
 直ぐに部屋の障子が開かれたかと思うと、囲碁セットを抱えて顔を出した鷲尾は、先客に目を瞬かせます。
「東条も来てたのか」
「鷲尾も考えることは一緒だったようだねぇ」
 そう言いながらも部屋へと入りさくっと囲碁の準備をする鷲尾に、平蔵も笑いながら紙の束を纏めて文箱へと収めて座り直すのでした。
 まずは鷲尾と平蔵の囲碁ですが、これがまた強い、と言うより、鷲尾との読み合いでは平蔵の方が上手と言ったところでしょうか。
「ふむ‥‥では、こちらを頂いておこう」
「あっ‥‥あああっ!?」
 見落としがあったようでごっそりと取られて慌てて碁盤へと身を乗り出す鷲尾。
「あ、長谷川様。其処ちょっと待ってくれませんか? え、駄目? 其処を何とか」
「碁は待ったが駄目というよりゃぁ待ったが出来ねぇのよ」
「あぁ、こりゃ‥‥終わり、かな」
「終わりだろうなぁ」
 鷲尾が盤上を睨みつつ言うのに、東条から栗饅頭を貰って美味そうに口へと運ぶ平蔵。
「では、次はこちら、かな?」
 そう言って部屋の将棋盤を平蔵の前へと置く東条に、手早く駒を並べるのを手伝う平蔵。
 こちらは一転、白熱したものとなります。
「む‥‥なかなか‥‥」
「‥‥いいのかえ? では飛車取りだ」
「むむ? あぁ、やっちまったなぁ、おい」
「まったはなしだよ」
 笑いながら言って煙管を取り出す東条に、平蔵も愛用の銀煙管を取り出して自身の煙草を勧め、盤面へと目を走らせ駒を進めます。
「ではこちらも‥‥角を頂こうか」
「ふむ、そう来たか‥‥」
 白熱した勝負が終わり、辛うじて平蔵が詰むと、茶を飲みながら暫し3人で休憩となり、鷲尾が平蔵へと改まって向き直りました。
「長谷川様。冒険者にも色々居ます。厳しいかもしれませんがこれからもよろしくお願いいたします」
 そう言う鷲尾に、平蔵は煙管を手ににやりと笑い、
「なぁに、色々居るなぁ役人だって上だって同じ事。俺ぁ嫌いじゃねえぜ? 冒険者ってのはよ」
 そう言って、再び煙管を口元へと運ぶのでした。

●月見の餅つき
「そーさなぁ、月見といえば供えもんか‥‥」
 張り切って月見の支度をしているお藤を見てそう呟くのは御神村茉織(ea4653)。
 既に舟遊びの当日。
 それぞれが餅米を蒸したり舟へ積み込む料理の準備に追われたりと忙しく立ち働いています。
「茄子、甘酒、秋の味覚の果物や野菜やらは女将に任せて良さそうだな」
「ええ、そちらの方は任せてくださいよ、うちの料理人が張り切ってしまって」
 そう笑って言うお藤に少し考える様子の御神村は、口を開きます。
「供えの薄や萩やらの秋の七草を集めようと思うんだが、綾藤の庭に咲いてるのを少し分けて貰ってもいいか?」
「勿論ですよ、宜しくお願いしますねぇ」
 上機嫌で出て行くお藤に庭へと降りる御神村。
 一通り草花を採って行くと、美琴の部屋の窓にてるてる坊主が誇らしげに吊り下げられていて、御神村は思わず小さく笑みを漏らします。
「さて、あとは餅つきの手伝いか‥‥」
 舟に草花を飾り付け、言って中庭へと戻ると既に賑やかに始まった餅つきで、捏ねているのは沖鷹、突いているのは嵐山です。
「おっしゃ、どんどん行くぜ〜」
「て、手を突かないように気を付けるでござるよ〜」
 ちょっと力の有り余っている様子の嵐山とはらはらしつつ遣っている沖鷹の僧兵2人がつき終わったお餅を、直ぐに中庭に面したお座敷に運び込めば、そこで楽しそうに談笑しつつお団子にしている虹子と美琴。
「そういえば、美琴ちゃんはいいひとはいないのか?」
 こういう時の話題は自然とこういうものへとなるわけで、少し顔を赤らめつつも迷った挙げ句にこっそり性別を明かす美琴に、そうなんだ〜と笑ってお団子を丸める虹子。
「ええぇぇぇ!?」
「わ、わわ、虹子さん!」
 聞き流した虹子がはっと気が付いたようで思わず声を上げるのに、慌てて止める美琴。
「き‥‥気付かなかった‥‥今晩は一緒に風呂に行こうと思ってたのに‥‥」
 そう言いつつもやっぱりそれでも可愛いわね〜と盛り上がる辺りは、虹子の気質なのかも知れません。
「突き上がったのはこちらに置いてよいのかえ?」
「あ、希紗良さん、有難うございます」
 突き上がった餅を運んでくる東条に笑いながら受け取る美琴。
「あ、聖歌ちゃんもこっちおいで〜」
 ふと、通りかかった聖歌に声をかけてお団子作りに参加させる虹子は、ふと振り返ると、そこに既に出来上がったお団子を持ったお皿の前にいる人影と犬影に気が付きます。
「お、やっぱ搗きたては美味いな。むぅ、これも中々‥‥あともう一つ‥‥」
「‥‥何をもう一つだって?」
 ぱくりとお団子をつまみ食いして食べる鷲尾に、にっこり笑ってハリセンを握りしめる虹子。
 因みに鷲尾の愛犬太助君は、くぅんと欲しそうな様子を見せつつも我慢しているよう。
「貴様という男は毎回毎回! お星様ならぬお月様になって来ーい!!」
 そろそろ夕暮れ迫る中、うっすらと姿を見せ始めた月の形が、綾藤では一瞬違って見えたとか見えなかったとか。
「‥‥太助君はご主人様と違ってお利口だな‥‥ほれ」
 そう言って少し余ったので丸めた小さなお団子を、虹子は太助にあげるのでした。

●秋の夜長・舟の宴
「お初に御目文字仕ります、魅繰屋と申す絵描きにございます」
「おお、済まぬな‥‥うむ、いい女の酌してくれる酒は、また格別じゃねえか」
 役宅より部下を代わりに詰めさせて舟の宴にお呼ばれされた平蔵は、早速虹子の酌を受けながら、寛いだ様子を見せます。
「お、いたいた‥‥長谷川様、鬼毒酒です。鬼平様に薦めるのはどうかと思いますがオーガではなく善鬼様なら大丈夫でしょう」
「うむ、ほれ、お前も呑め」
 平蔵を見つけて自前の酒を手にひょっこりとやってくるのは鷲尾、そして、それを目ざとく見つける嵐山。
「おぃ、天斗! ちょっとその酒寄越せ〜!!」
「邪魔しますぜ、先日はどうも。仕事で詰めっ放しでは体に良くありゃしません。今日ぐらいは少し羽目を外して、気晴らしに一献どうで?」
「おお、嵐山に御神村殿、先達ては‥‥貴殿もそこへと座られてはいかがか」
 先の事件で顔合わせは済ませている御神村に知己を見つけて笑いながら酒を勧め返す平蔵。
 気が付けば平蔵の周りに集まっての大騒ぎが始まり。
「若い頃放蕩だったって聞きやしたが、そうなんで?」
「はは、よぅ家が取り潰されなんだと周りが気を揉むようなことばっかりでなぁ‥‥ほれ、若い内ぁ、誰だって多かれ少なかれ羽目くれ外すもんよ」
 御神村の酒を受けながら愉快そうに笑って言う様子では、若気の至りというものだけではなく、お家大事な武家の社会と言う価値感から離れた視点で物を見る様が見て取れます。
「それにしても、七郎太殿は流石船宿の料理を任されるだけあるでござるな」
「そんな、沖鷹殿こそ、流石鮮やかな包丁裁き‥‥」
 そして、その場で釣った魚を捌いて料理を増やしている料理人と沖鷹の2人。
 どうやら沖鷹は自分の冒険譚を語って聞かせ、いつのまにやら交友を深めているよう。
 そして、のんびりと賑やかな一同を見て酒を飲む東条に、酌をする美琴。
「あの‥‥希紗良‥‥」
「どうかしたかえ?」
 お銚子を持つ手を止めて言い辛そうに口を開く美琴に、ちらりと目を向けて聞く東条。
「今まで黙っててごめんね。実は俺、男なんだけど‥‥」
「三味線弾きの衣装か、よく女物の着物を着ているね」
「うん、初めて会った時、優しくして貰っちゃって、嬉しくて言いそびれて‥‥ってえええ? 気づいてたの!?」
「何ぞ含むものでもあるのかえ?」
「ちぇえっ、言ったら嫌われちゃうんじゃないかってずっと思ってドキドキしてたのがバカみたいじゃないかあ!」
 そう言ってむくれるも、ふと笑みを浮かべてお銚子を再び持ち上げる美琴。
「じゃあ、改めて‥‥これからも宜しくね 」
 そんな穏やかな時間が流れていたのですが、ふと、そろそろ色々な血が騒ぎ出した様子の名物男の周りで、再び大騒ぎが勃発です。
「さて、いよいよ俺の出番! 月夜に浮れる兎の如く浮れた俺を受け止めて虹子! ‥‥とフェイントをかまして三角飛びの要領で狙うは勿論お燕ちゃん!」
 とうっばかりに勢いよく動こうとした名物男ですが‥‥。
「おう、鷲尾殿、そこには先程寄せた座布団が‥‥」
 平蔵が声をかける間もなく、勢いよく座布団を踏んづけて舟から川へと飛び込む鷲尾。
「‥‥おお、見ろ太助‥‥ご主人様は今日も流れてるなぁ‥‥」
 のほほんとちょこんと座布団にお座りしていた太助に声をかける嵐山に、何事もなかったかのように平蔵へと酒を注ぐ虹子。
「また、この宿に遊びにきたいですね」
 聖歌がしみじみ言うのに、御神村も頷いてお藤へと声をかけます。
「ま、同じ江戸にいるんだ、又会う事もあらぁな。綾藤にゃ、多分仕事で来る事になるだろうから、さよならは言わねぇぜ」
「はい、お待ちしておりますわ」
 そんな会話を聞きつつご主人を救出に飛び込んでいく犬を見送ってから、虹子は平蔵へと笑いかけます。
「お忙しい御様子でありますが‥‥来年は是非またこの綾藤で、お餅つきから御一緒に」
「‥‥‥そうだな、是非、来年もこうして皆で酒の席を囲もう」
 そう言うとお銚子を受け取り、平蔵は虹子の杯へと酒を注ぎ入れるのでした。