【船宿綾藤・新装開店】名残の夏

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:09月03日〜09月08日

リプレイ公開日:2005年09月11日

●オープニング

 その日、船宿・綾藤の女将お藤はギルドにやってきて席を勧められると、腰を下ろしてから、ほう、と物憂い様子で溜息をつきます。
「ど、どうしたんですか? お藤さん」
 そう聞くギルドの受付をしている青年にちらりと目を向けてから、再び深々と溜息をつくお藤。
「あ、あの‥‥」
「夏も、もう終わりねぇ‥‥」
「あ‥‥‥え、えっ?」
「私ね‥‥今年、お祭りに一切参加してなかったの‥‥」
「いや、まだお祭りって完全には終わってない気も‥‥」
 遠い目をして言うお藤に、受付の青年はどこかたじたじです。
「そこでね、私考えたんだけど‥‥」
「ナ、何ヲデスカ?」
「綾藤のお庭を使って、少し、お祭りもどきをしたいなと思ったんですよぅ」
「お祭りもどき?」
 そう言って首を傾げるギルドの青年。
「えーっと、じゃあそのお祭りのお手伝いを?」
「あぁ、いえ、それは別個に頼みますよ。ただ、やっぱり、一緒に楽しんでくれる人がいないと、ねぇ?」
「‥‥‥‥はい?」
 少し考えてから改めて受付の青年を見るお藤は、何やら先程とはうってかわって楽しそうに面白いことを思いついたでしょ? とでも言いたげな様子でいます。
「えーっと‥‥では、こちらのお仕事は‥‥人が来ないと寂しいから、遊びに来ませんかっていう?」
「そう、そう言うことですよ」
 そう言って、お藤は実に楽しみといった様子でギルドの青年を見るのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4112 ファラ・ルシェイメア(23歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6450 東条 希紗良(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

御神楽 紅水(ea0009)/ 天馬 巧哉(eb1821)/ 紅 珊瑚(eb3448

●リプレイ本文

●宣伝!
「今回はいつもより、女の子が少なめですねぇ‥‥ちょっと華やかさに欠けます?」
 そう言って小首を傾げるのは小鳥遊美琴(ea0392)。
 船宿の中で他にも雇われている冒険者達がお祭の準備を終えてお祭が始まると、お手伝いに来た紅珊瑚が出された料理を味わいつつ、1日で帰るのを惜しがっています。
「でも、今度は夏祭りなんて。いつも素敵ですよねぇ‥‥」
 そう言って縁側で神楽聖歌(ea5062)とのんびりと話しつつ満足げにお祭を眺めているお藤へと目を向けた美琴は、のんびりと中庭へと向かう廊下を歩き始めます。
「何か足りないような気がするねえ。花、かね? ‥‥ふむ」
 そう言う呟きが聞こえたかと思うと、ふと声の主である東条希紗良(ea6450)と目があう美琴。
「おや美琴、ちょうどいい所へ。ひとつ頼みがあるんだがね、花を連れてきておくれでないかえ?」
「え、希紗良さん、華って、要するに女の子をもっと連れてきてって事ですよね。そ、そうですよね‥‥女の子がもっと多い方が、華やかで楽しいですよね」
 そう言う東条になんだかしょんぼりとしながら異国の琴を手にする美琴。
「さてと、仲間内だけってのも流石に寂しいしな。女っ気はないわ、むさいわ、同じ面子だわ‥‥」
 ちょうど直ぐ近くにいた御神村茉織(ea4653)が女将達がと言うんじゃなくて名、と笑いながら立ち上がるのを見た東条はひょいと手招き。
「茉織が保護者として同行してくれるそうだから」
 近付く御神村をひょいと捕まえて言う東条に、なんだかしょんぼりとした様子で美琴は御神村と表へと向かいます。
「そうだ女将、あとで酒を飲みたいんだが用意を頼めるかえ。杯は三つ、お茶も一緒にね」
 2人を見送ると、東条はお藤へと声をかけるのでした。
 美琴が綾藤の入口へとやってくると、そこには何やら軽く発声練習をしている女の子が。
 ギルドで依頼を受けたもう一組にいたミリートだと言うことが分かるとにこっと笑い会うミリートと美琴。
「道行く方々、どうか少々お時間を♪ 本日料亭綾藤は〜暑気払いのお祭りにてございます♪ お急ぎでない皆様、どうぞお立ち寄りになってくださいな〜♪ 去り行く夏の一時を、どうぞ一緒に過ごしましょう♪」
 琴を鳴らして歌う美琴に、ジャパンで竪琴という組み合わせに驚いたように見ているミリート。
 やがて彼女も異国の言葉で歌い出し、2人で歌って奏でて、お客さんを呼び込むのでした。
 そんな様子を2人から離れて口コミで広げようとする御神村。
「綾藤って知ってるかい?庭の綺麗な船宿なんだが。何でもちょっとした催しをやってるそうだぜ。料理も割安だって話だ。良かったら覗いてやってくんな」
 子供や老人、勿論通りかかった若い人達に声をかけていく御神村は、手応えを感じつつほどほどで引き上げたとか。
「おや、君は‥‥」
「あぁ、どうも」
 東条が近所の長屋へとたどり着くと、そこには既に先客がいました。宿で既に顔を合わせていた神田がすっかり井戸端会議に参加していた様子。
「子供の小遣いでも遊べるよう気遣いしてあるようだから、よかったら足を運んでみておくれ」
 そう言うと、東条はゆったりとした足取りで綾藤へと戻っていくのでした。

●楽しい祭り
「おう、気を付けて持ちなぁ。むぅ、流石ここの料理は旨ぇな♪ もう一つ‥‥」
 飴細工をしつつ料理へ手を伸ばしてぱくついたりしているのは嵐山虎彦(ea3269)。
 気が付けばお祭参加の面々が、あちこちでお手伝いをしている様子で、綾藤の広い庭は、その広さを感じさせない程の大盛況となっています。
「子供だけだよ‥‥うん、ここに跨って、しっかり掴まって‥‥」
 そう言ってフライングブルームという箒に紐を付け、子供達を乗っけてゆっくりと綾藤のお祭を上から眺めさせてあげているのはファラ・ルシェイメア(ea4112)。
 頭上からはきゃっきゃきゃっきゃとはしゃぐ子供の声がします。
 ぐらぐらと安定しない動きをするのも楽しい物のようで、時間が来て降りるのを残念そうにする子供や、もう一回とせがむ子供達に囲まれてちょっと身動きが取れないファラ。
「あっ、危ないっ!」
 咄嗟に降りてくる箒から滑り落ちた子供を受け止めたファラは、そのまま子供の下敷きに。
「おにいちゃん、だいじょうぶ?」
 ひょこっと顔を除き込む子供達。特に落ちてきた子供は申し訳なさそうに何度も謝るのでした。
 そして、こちらも大盛況なのが沖鷹又三郎(ea5927)の蕎麦。これがまた偉く評判が良くて大人気に。
 料理人と並んで先程から色々と大わらわ。漸く休憩が出来たようでお茶と互いの料理を食べつつ軽く雑談などをしています。
 子供達や娘さん方が賑やかに投扇を縄の輪っかに変えた景品取りに夢中になったり、料理に舌鼓を打って笑い会う奥様方やご老人、旨い酒に目尻を下げる浪人達など、普段とは違った綾藤の様子が見られたようで、料理人はなんだか凄く楽しそう。
「こういったのも良いですね、いろんな方に自分の料理を食べて貰うというのも」
「本当に、嬉しそうに食べて貰えるとなんだかこちらも嬉しくなってくるでござるな」
 そんな風にしばしの休憩を取った2人は、また忙しく料理の屋台へと向き直るのでした。

●気合いを入れろ!
 屋台が盛り上がりを見せる中、ちょっと手伝って貰って土俵を簡易で設置していたのは言わずと知れた名物男・鷲尾天斗(ea2445)。
 江戸の花形、相撲を楽しもうと設置された土俵に、思い思いの物を手に集まってくる人だかりに満足げに頷いた鷲尾は、ふとがやがや集団でやってくる団体の男客をこういう場に集まってくる破落戸と勘違いしたようで、太助君共々捕獲しに出動、と思いきや‥‥。
「あ、あぁ、そちらの人達は違うんです、私のお友達で〜」
 警備に入っていた神田に止められて誤解に気が付く鷲尾。
「危うく地獄の土俵送りにするところだった」
 なにげに物騒で笑えないセリフですが、力士を生業としている嵐山が参加する予定の相撲だけにあながち大げさではない様子。
 そして見知った人間を発見したようで‥‥。
「俺と太助君見て怯えた目をするんじゃねーよ」
「う、うるしゃい! 犬にまで、犬にまで勝負に負けて景品を取られた俺に‥‥」
 えぐえぐと泣くのは鷲尾相手に酷い目にあった様子の元金魚屋の親父。ですが、声をかけられて言われた言葉に目を瞬かせます。
「そりゃ、余った景品もあるし金魚だって直ぐに用意できるが‥‥」
「頼んだぞ、親父、今すぐだ」
 そういって強引に空いていた場所へと金魚や設置を手伝う鷲尾に、面白がって手を貸す嵐山。
「な、何だと、この餓鬼っ!」
 どこからか聞こえる声。少々うわずった声は怒りのためか、警護のミリートに激昂した様子の破落戸達ですが、その後ろでこっそりとハロウが朝顔相手にささやきかけている様子で、ひょいと得物をお預かりした朝顔に目を白黒させる破落戸達。
「本戦前に気合いを入れて貰おうかな」
「おう、それは楽しそうだねぃ」
 にやりと笑う巨大な悪童2人は、その破落戸を強制連行して土俵へと放り込むと、ばっと服を脱いで回し姿になった嵐山がかかってこいとばかりに手招きをすると、泣きながら許しを請う破落戸達。
「なんでぃ、手加減するからよー」
「しっ、死んじまう、勘弁してくれよ〜」
「良いから気合いを入れろ〜」
 彼等も心の底から反省したようでした。
 そして、相撲の一番勝負。
「さぁてと、今日の飛距離はどれぐらいかねぇ?」
「『白く輝く巨人』対『桃色に光るハダカ侍』の決戦だな。‥‥ちょっと待て、明らかに不利だろ、俺がっ」
 そんな声はなかった物音して、問答無用で始まる相撲勝負は、早速張り手一閃、強烈な攻撃にあっさりと回転しつつ吹き飛ぶ鷲尾は結構本気でオーラボディに感謝したとか。
「だっ、だがただでは負けんぞっ!」
 がっしりと回し自体を狙う鷲尾にその意図に気が付いた嵐山が必死で死守‥‥の結果。
 派手な土煙を上げて、バランスを崩した嵐山が、土俵際だった鷲尾と共に転がり落ち、しっかりと下敷きになって目を回す鷲尾。
 ぱたぱたと扇いでやりつつ膝枕で開放のお藤ですが、目を回したままの鷲尾は暫し綾藤看板娘のお燕ちゃんだと思っていたとか。

●そして行く夏
 大騒ぎをして、金魚屋で勝負をしたり子供達が沖鷹相手に相撲を挑んで、勝ったらご褒美としてお蕎麦を貰ったり、なんだかんだと賑やかながらも夏らしい祭りを満喫していた一行。
 ふと、夕暮れから夕闇に移り、部屋の灯りに提灯で夜祭りの様子を呈してきた中庭。
「茉織は酒がいける口だろう。美琴も少し飲むかえ? 無理せずともお茶もあるからね」
 そう言って東条は美琴と御神村を誘い、3人で呑んでいました。
 祭りを振り返り、なんだかちょっぴり感傷的になったり労いの言葉をかけたり‥‥嬉しくなった様子の美琴がお酒をクイと飲み干します。
「‥‥大丈夫かえ?」
「‥‥‥‥」
 ぱたり、と思ったよりも強い酒にあっさり潰れる美琴。
「見事に潰れてるねえ‥‥誘ったのは私だからねえ。ほら、美琴、しっかりおし」
 そう言って抱えて部屋まで運ぶ東条を見送りつつ、笑って杯を傾けている御神村。
 お藤は鷲尾や嵐山・沖鷹、それにのんびりと過ごしていた様子の聖歌を交えてこちらも呑んでいるようで、ファラと何やら悪戯っぽい表情で打ち合わせをしていたお藤はにっこりと頷くと、何かの袋を手に出て行くファラ。
 暫くして、ちらほらとあたりに降りしきる白い物に首を傾げた御神村は、それファラが撒いた花びらであることに気が付いて小さく笑い声を漏らします。
「さてと‥‥もう少し酒を貰ってくるかえ?」
 いつの間にか戻った東条がそう言うと、それに答えるように御神村は軽く杯を掲げるのでした。