【凶賊盗賊改方・昔の因縁】猿の亥兵衛
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■シリーズシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月25日〜09月30日
リプレイ公開日:2005年10月06日
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●オープニング
その日、与力の津村武兵衛に付き添われ真っ青な顔をしてギルドへと訪ねてきた男が居ます。
「あれ? 津村さんに亥兵衛さん、どうしたんですか?」
「うむ、少々手を貸して貰いたいことがあってな。こちらの亥兵衛は既に見知っているようだな」
そう言うと、武兵衛は亥兵衛に促すようにし、亥兵衛も引きつった表情のままに頷きます。
「じ、実は‥‥おいらぁ‥‥いや、あっしは猿の亥兵衛。猿と書いてましらっていって、ちょいと前まではそっちの世界で知られたひとり働きの盗賊で‥‥もちろん、今じゃすっぱり足を洗って今じゃ堅気で煙草何ぞを商ってたんですがねぇ‥‥」
亥兵衛の言葉に大丈夫なのかとばかりに武兵衛へと受付の青年が目を向けると、武兵衛は頷いて今の話を知っているという旨を示します。
「堅気になったあっしですが、まぁ、ひとり働きなあっしら盗賊にも、その付き合いってものがありまして、普段じゃ絶対にてぇかさ無いような仕事をも手伝うって事も‥‥」
そう言い辛そうに言う亥兵衛はちらりと武兵衛へと目を向けると、そこからは武兵衛の説明へと変わります。
「そこで一度だけかかわった男が、現在とある一味の一人として働いているのだが、猿といわれるその身のこなしを覚えていたらしく、な‥‥」
たまたまとある参拝道で出くわしてしまったらしく、あとを付けてこられ、店に勤めてくれていた青年を人質に迫られているらしく、悩んだ末にいつだか耳にした事のある武兵衛の人柄を頼って、亥兵衛は何もかもを打ち明けたそう。
「50も過ぎたこのおっさんが死ぬ分にゃ、今までのこともあって悪いことはできやしねぇとも思いますが、家に働きに来てくれていた文吉はなんも悪いこたぁしてねぇ。だから、何とか無事に助けて貰いてぇと‥‥」
「わしも奉行所にいたのならば亥兵衛を捕らえ、その文吉を探すということになったのであろうが、諸事情により奉行所より出て、新しいお役目につくことになり‥‥」
「あ、あれ? 武兵衛さん奉行所与力じゃなくなったんですか?」
「うむ、つい先日発足した凶賊盗賊改方へと移り、盗賊・凶賊の探索に当たることとなったのだが、どうにも‥‥いかんせんまだ意思の統一が終わっておらず、長官に指示を仰いだところ、冒険者に手を借りたほうがどれほど今、頼りになることかとなってな」
武兵衛はそう言って亥兵衛を見ます。
武兵衛としては、まずその強請を働いている男を捕らえて情報を引き出すこと、そしてその男に捕まっている文吉の救出を第一と見ているよう。
「潜伏中の一味殲滅を最終目的としているが、まずは強請をかけている男の捕縛と文吉の救出を頼みたく」
「お願いします、どうか、文吉を‥‥文吉を助けてやってください!」
武兵衛が言うと、這い蹲るようにして、亥兵衛は何度も何度も頭を下げて頼むのでした。
●リプレイ本文
●足を洗った者達
「昔の付き合いで、ですかい?」
「ああ、口の堅い者で‥‥客商売などを行っているものだと好ましいが」
時永貴由(ea2702)の言葉に亥兵衛は少し悩むように眉を寄せながら煙草の包みを東条希紗良(ea6450)へと渡してからぽんと手を打ちました。
一行は客を装い、ある者はそっと辺りを窺って入り込み、亥兵衛の煙草屋へと集まったのでした。
「そんなら舟越酒場という、船頭相手の居酒屋をやっている喜十とっつぁんが良い」
「その者は大丈夫なのかえ?」
「とっつぁんはずぅっと昔に戦地を駆け回りながらいろんなお勤めしてたって話で、この町ができた頃にはすでに足を洗っていたんだが、とにかくいろんなおつとめの話が集まるっていつだったか話してくれたことがある」
手を打った亥兵衛がそう言うと、紹介状代わりの煙草入れを預かって忍びつつ出かけていく貴由を見送ると、心配そうな表情のレーラ・ガブリエーレ(ea6982)が亥兵衛へと軽く首をかしげながら口を開きます。
「文吉くんはきっと無事に帰って来るよ! 任せるんじゃん!」
レーラの言葉に、亥兵衛は一行に何度も拝むように頭を下げるのでした。
その頃、参拝道ではファニー・ザ・ジェスター(eb2892)が茶屋へと入って、そこのおばさんに文吉の人相書きを見せて聞いているところでした。
「そうそう、この男を知っているでヤンスか?」
「しっかし、最近は異国の人が多くなって、なんだね、見世物の幅も広がったというかねぇ‥‥とと、この人かい? 前に見たこと有るような気がするけど‥‥今どこにいるかはとんと‥‥」
そう言うと、声を潜めて続けるおばさん。
「それになんだかここのとこ変な奴をちらちら見かけるもんでそっちばっかり‥‥いやぁな感じの奴でねぇ‥‥杖突いて、ここいらの店でしょっちゅう流れ者っぽい奴らと面つき合わせて‥‥あぁ、いや、毎回違う相手みたいだけど、あたしもそんなにしっかり見て無くてねぇ」
話し好きの様子のおばさんは特に怪しむでもなくひそひそと言い、ファニーはその間にちらりと辺りに目を配りつつ人相書きを仕舞い込むのでした。
夕刻、舟越酒場には貴由と、それに妹のリズ・アンキセスに手伝って貰いながら文吉の行動範囲を調べていたゼラ・アンキセス(ea8922)の姿があります。
「おれにゃぁ確かなこたぁ言えねぇが、恐らく亥兵衛と同じような、堅気んなった奴の所に転がり込んでるんじゃねえか?」
夜に出す酒の肴の仕込みの間に茶を出して相手しながら言う喜十。
「その、転がり込まれているかも知れない人の心当たりはあるかしら?」
ゼラがそう聞いてみると、喜十は難しい顔をします。
「堅気んなった奴の名を言うのぁ道に外れるこった‥‥しかしなぁ、堅気が巻き込まれてるとなると‥‥」
「頼む、文吉の命がかかって居るんだ」
悩む様子を見せていた喜十ですが、貴由に言われる言葉に暫し悩むと、何も言わずに何やら人の名前を書き付け。
「こいつを持っていきな。‥‥恐らく、この3人の中の誰かんとこじゃねぇかと、おれぁ考えてる」
喜十の言葉に例を言って受け取り出て行く2人を、喜十は背中を向けたまま見送るのでした。
●仕込み杖の男
二日目、一同はそれぞれの場所で聞き込みや待機をしていました。
昼までは貴由と磐山岩乃丈(eb3605)の2人はそれぞれ書き付けの3人を手分けして調べていましたが、如何せん時間が無く、強請男が現れるまでの待機へと戻ることになりました。
夕刻、まだ喧噪の中にある参拝道から男がふらりと歩いてきます。
手には杖を持っていて、それをついているにもかかわらず滑るように歩いていく男に人があまり注目しないのは、少し肩を丸めているからかごく自然にすれ違う人を避けているからか。
「御免くださいよぅ」
そう言って入っていく男を横目で眺めるのは磐山。煙草屋の向かいにある酒屋で酒を口に運びつつ見ていました。
「いい加減にうんと言やぁいいんだよ」
2階にレーラと武兵衛が、店の影に貴由が隠れているのを知る訳も無く、男は店内に客がいないと見ると辺りをうかがうようにとを閉めてからガラッと口調を変えてそう言います。
「ぶ、文吉が無事なのを見るまでぁあっしゃぁぜってえ手は貸さねぇぞ!」
震える声で言う亥兵衛にふんと見下すように鼻を鳴らす男は、ぎろりと睨み付けて口の端を持ち上げます。
「どうやらお前、相変わらず文吉を探し続けているそうじゃねぇか。ちらりと小耳に挟んだんだがよぉ‥‥」
「あ、当たり前だ、いなくなったときにあんだけ捜したんだ、突然やめるほうがおかしいし、お前のところにいないかも知れねぇだろうが!」
「ふん、用心深いこったが、いいか、後一回だけ考える時間をくれてやろう。次に来た時にうんと言わなければ、文吉の命はないと思え」
亥兵衛の声が途切れたことで、頷いて男が出て行くのを見送ったのを確認すると、そっと磐山と貴由は男の後を付け始めるのでした。
参拝道の酒場で、鷹司龍嗣(eb3582)は酒を頼んで『杖をついたこういう男に金を取られた』等と言って親父へと尋ねかけていました。
「災難だったねぇ、あの杖つき、丈太とか言われていて、なんだか風体の良くないのを叱り付けてたからね、関わらないほうが身の為さ」
そう苦笑しながら言う親父。ここ数日酒を飲みに来る上に風体の良くない男に金を払わせている辺り、ろくでもないだろうと親父は言います。
「そうは言われても腹の虫が収まらん」
さも不機嫌とばかりにいう鷹司に仕方が無いとばかりにお笑いつつ肴を出す親父。
ふと鷹司が顔を上げれば表を通った東条がちらりと目を向けて小さく頷くのにぐっと酒を飲み干して通り過ぎるのを見送ります。
直ぐにひょこひょこと杖を突きながらやって来て通り過ぎると、鷹司はちらりと目配せをしてから後を付ける磐山に頷いて見送るのでした。
「‥‥ここ、喜十さんが教えてくれた‥‥」
そう小さく呟いて手前の角から男が入っていった建物を見ると、そこは小さな飯屋で、つい2、3年前に足を洗ったと言う盗賊が商ってました。
「どうやらここのようだな‥‥後は男の居ない間を狙ってまずは文吉の救出だな」
そう言って、貴由は周辺を調べるために一時残り、磐山はギルドと煙草屋に詰めている仲間へと連絡をしに行くのでした。
●文吉救出
次の日、一同は煙草屋の2階に集まって顔を合わせつつ、貴由の調べてきた外側からのおおよその場取り図面を前にして相談をしていました。
「昨日来たと言うことは、次の機会は明日、あの男がこちらに来ている間が勝負か」
ファニーが腕を組んで考えるようにそう言うと、どうも店の作りから奥の部屋に押し込められてはいるものの、地下があるなどといったことがある様子もなく、亥兵衛に聞くと喜んで手を貸すような人が店をやっているわけでもないよう。
「だが、見張りとかは幾らなんでも居るであろう。見たところ、文吉が捕らえられていそうな所は‥‥」
「この辺り、でござろう。我が輩の見立てたところ、店の部分はこの辺りまでの様であったからして、この辺りが住居用の部屋であると‥‥となれば、この二間のうちのどちらかにまず間違いはござらん」
武兵衛がちらりと一同を見渡しながら確認を取るのに、飯を食べに来たのと装って中へと入りざっと中を見てきた磐山はそう力強く断言をするとそれを元に計画を詰めていく一同。
そして、その日遅くまで打ち合わせをし、明け方近くに仮眠を取りその日を迎えるのでした。
次の日、夕刻にもなろうという頃、一同は飯屋の様子が窺える裏口の辺りを陣取っていました。
「向こうの方は、きっと亥兵衛さんが上手くやってくれるじゃん!」
仕込み杖の男が出かけるまでじっと耐えながら隠れていると、やがて夕刻になると杖をついてかつかつと肩を丸めながら出て行く男が。
夕刻まで磐山と貴由が交代で見張っていたため、出入りしていたのは2人の破落戸らしき風体の男ぐらいです。
中へと押し入ると青い顔で出てきた親父が声を上げる前にすと口を塞いで声を出さないようにと十手を見せて指示する武兵衛に、それに頷く親父。
その間に奥の二間の前へと進み、中の様子を窺ってから踏み込む一行。
「なっ、何だてめぇらっ!?」
だらだらと見張りをしていた様子の男が2人、がっと身体を起こしかけるのですが、まず貴由のスタンアタックに崩れ落ち、東条の十手に昏倒します。
「大丈夫か?」
そう言って声をかける鷹司に酷く痩せて青い顔をした若い男は、括り付けられていた柱と漸くにお別れをして、一足先に2人の男を括って引き立てる武兵衛と共に文吉を療養所へと送るために連れ出されていきます。
文吉を助け出すと、一同は飯屋の親父に強力を促して、仕込み杖の男を待ち受けることとしたのでした。
●捕縛
一同が待ち受けつつ男を待つと、暫くして入ってきたのは日も落ちた頃。それまで亥兵衛が時間を稼いでいたのでしょう。
亥兵衛の約束を取り付けたと思っている様子の男は上機嫌で後ろ手に店の戸を閉めると親父に酒をと呼ばわるんですが。
「お江戸の平和を乱す凶賊盗賊め!」
ぬっと入り込んで飯屋の戸を閉じ塞ぐようにして大音声に怒鳴りつけられ、男はざっと立ち上がって杖をぎっと握りしめます。
「お前を逃がすわけにはいかないんでねえ‥‥」
そう言って十手と刀を手に声をかける東条に始めて自身が囲まれたのに気が付き怒りの表情を浮かべた男は突如目の前に現れたゼラにどれに狙いを向ければいいのかの咄嗟の判断が付かない様子。
「おのれっ!」
一閃、目に見えない程のその人達は、ゼラを断ち斬ったかと思うと、それはぱらぱらと灰へと戻り崩れ落ち、目の中に言いしれぬ畏怖を浮かび上がらせます。
そこへ十手で打ち込み丈の短い刀で男に斬りつけ、素早く離れる磐山と、追い打ちをかけるように打ち込む東条。
ゼラのアッシュエージェンシーがどうしてもまとわり付き、東条と磐山に向き合えない男は、2人に僅かに斬りつけて多少の傷を負わせるも、力尽き倒れ込みます。
「話は役宅でたっぷりと聞かせて貰うからね」
東条がそう、男の杖を取り上げながら男へというのでした。
●新たな因縁
捕縛された関係者への取り調べに立ち会うことはありませんでしたが、それは凄惨を極めたと言います。
武兵衛より近々またギルドへと聞き取った話を伝えに行くとのことで、その間に役宅からまだ戻らない亥兵衛の代わりに文吉の様子を見に行けば、文吉は順調に回復していっている様子。
そして、繋ぎなどの存在と、突如居なくなった仕込み杖の男に対して、盗賊の様子を窺っていたのですが、どうやら、喜十のとっつぁんから聞いたところでは『金をだまし取られた男に狙われて消されたようだ。仕方のない奴だ』等と言われているという噂が耳へと入ってきたという話を聞くことが出来るのでした。