【凶賊盗賊改方・昔の因縁】鼬の孫次
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■シリーズシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 40 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月23日〜10月28日
リプレイ公開日:2005年11月04日
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●オープニング
「‥‥‥えっと、では依頼を持ち帰ろうかと‥‥」
「あぁ、まだある」
そわそわとした様子で船宿・綾藤の一室から退室しようとしていたギルドの受付の青年を引き留めたのは、長谷川平蔵。
凶賊盗賊改方の長官で、津村武兵衛の直属の上司です。
「実はな、津村を役宅に詰めさせているというのは説明したと思うが、平行して、そちらの方の仕事の連絡も、今回はこちら綾藤で行って貰いたいと思っているのだが」
「‥‥‥‥は? そ、そうですか、ではそちらの方の仕事も承ります」
そう言って受付の青年は、平蔵を見ながらどうにも落ち着かない様子で座り直し、平蔵の話を待ちます。
「先達て猿の亥兵衛の件で津村から依頼があったと思うが、調べて貰った時に捕らえた男、丈太と言ったのだが‥‥あれの繋ぎをしていたというのが、鼬の孫次と言ってどうにもせこい破落戸のようなんだが‥‥」
そう言うと苦笑を浮かべる平蔵は、女中のお燕を呼んで茶のお代わりを貰うと下がらせ、口を開きます。
「なんだな、不謹慎な言い方をするならば、名の知れた男等が掴まったり出てきたのならばどこの盗賊が今動いているのかがよぅく分かるのだが‥‥なにぶん悪い仲間の誘いにでも乗って入った新入りのようなものなんだろうなぁ。さっぱりとこの男については分かっておらなんでな」
「‥‥つまり、この男がどこに繋がっているかを探って、どの盗賊が動いているのかを調べる、という‥‥?」
「そう言うこったな。ただまぁ、そんな状態の男だ、怪しまれればそこで糸が切れちまうといけねぇ、迅速に動いて悟られんようにしねぇとなぁ」
そう言って茶を啜る平蔵に、同じくお茶を飲みつつ軽く首を傾げる受付の青年。
「となると、この孫次が次にどこに繋がっていくかさえ見極めれば?」
「まぁ、秘密裏に片付けるにこしたこたぁねえが、まだ孫次がそんなに信用されているって訳でもねえようだし、捕まえて姿を消しても取り繕うこたぁ出来んじゃねえかと思ってな」
そう言う平蔵に頷いてから、湯飲みを置いてごちそうさまでした、と言うと受付の青年は立ち上がります。
「では、何かありましたらこちら伺えば宜しいんですね?」
「ああ、宜しく頼む」
平蔵が頷いて言うのに今度こそ受付の青年は部屋を出て行くのでした。
●リプレイ本文
●月見の酒
「じゃあ、丈太から分かったのは‥‥」
そう時永貴由(ea2702)が言うのに、平蔵は頷きます。
「組織としては末端なのであろうが、感心なことに頭の名は一言も口にしなかったな」
平蔵とそのような遣り取りを思い出しながら、貴由はとある小さな酒場で東条希紗良(ea6450)と酒を飲んでいました。
孫次を付けてやって来たこの酒場ですが、辺りに他に店は見あたらず、直接こちらの酒場へと話を付けて2階を借りることになった為、貴由は白九龍(eb1160)との連絡をここの酒場で取り交わすようにしていました。
「どんな様子だったかね」
そう聞きながら酒を注ぐ東条に、杯を出して受けつつ暫し思案する貴由。
「そうだね‥‥何やら苛立った様子ではあったな、改めて思うと‥‥」
元から血気盛んとはいえどうにもそれにしては様子がおかしいと感じていたようでその旨を告げると、東条も少し考えるようにして頷きます。
「‥‥そうかえ‥‥どういう事なんだろうねぇ?」
そう言いながらお銚子を取り上げた貴由に微笑を浮かべて杯を差し出す東条。
開け放たれた障子の向こう側には月が柔らかな光を放ち、2人を照らしています。
暫しの間の後、東条はもう一度だけ月夜を眺めると、さて、と席を立ってするりと羽織を脱ぐと時永の肩にかけます。
「寒くなるから着ておいで」
そう言って衝立にかけてあった上着を手に取り下へと降りていく東条に、そっとかけられた羽織に指を触れさせ、貴由は微笑を浮かべるのでした。
●杜父魚の稲吉
「親分〜、綺麗な銀煙管持ってるって聞いたんじゃん! 見せて〜」
「あぁ、こいつのことか?」
「わわ、吸い口のところがとっても手が込んでいて良い感じじゃ〜ん♪」
綾藤の一角、レーラ・ガブリエーレ(ea6982)が目をきらきらさせながら平蔵の周りをちょこちょことついて回っていました。
「それで、孫次は?」
「うん、何やら磐山さん曰くくさってるんだって‥‥どういうことだろ?」
「ほうほう‥‥」
綾藤へとみんなの話を聞いて報告に来たレーラは磐山岩乃丈(eb3605)の言葉を平蔵へと告げると、それを聞いてなるほどな、と頷く平蔵。
「どゆこと?」
「孫次の奴、今の頭と旨く行ってねぇのかも知れねぇな」
どうやら言葉の端々から不満である事を感じ取ったらしい磐山の話では、何かに苛立った様子であると報告されていたからです。
「えっとえっと、あと『かくふつのいなきち』とか言う名前が沢山出てきたじゃ〜ん」
その言葉に平蔵の目が鋭く細められます。
杜父魚の稲吉と言えば数年前に大きな盗みを働いたと言う記録の残っている盗賊で、じっくりと事を進めていく用心深いお頭と聞き及んでいるからです。
「それはどこから‥‥?」
「んと、杜父魚とかはなんか酒場とかでひそひそ話していたのでちびちび出てきたみたい‥‥でもって、不満そうなのはおねーさんとかが一杯居るところで、そこのお姉さんに当たり散らしてたんじゃん?」
レーラの言葉に頷くと、それぞれへと探りを入れるための資金を預けて、再びレーラを連絡に出す平蔵は、暫しレーラが出て行った後も1人じっと考え込むようにして煙管を燻らせているのでした。
●繋ぎの男
「文吉さん、元気?」
「はい、お陰様でもうすっかり‥‥あ、お待ち下さいね」
客間へと訪ねてきたゼラ・アンキセス(ea8922)と鷹司龍嗣(eb3582)に、文吉は茶を出していそいそと亥兵衛を呼びに奥へと引っ込みます。
すぐに出てきた亥兵衛は2人の前へと来ると、改めて文吉を助け出してくれたことを礼を述べてから向き直りました。
「ところで、今日は‥‥?」
「うん、あのね、亥兵衛さんに頼っちゃうことになって申し訳ないんだけど‥‥」
「出来ることならなんでもおっしゃってくだせぇよ」
ゼラの言葉に笑ってそう言う亥兵衛は、まず町のおおよその絵図面をすぐに用意し、それまでに孫次に関わってきていた人間の特徴を伺って何度も頷いたり、心当たりがある人間の名を上げたりしています。
「ということは‥‥杜父魚の稲吉の配下にほぼ間違いはないと‥‥」
「そうですね、孫次が直接配下と言うことは考えにくいのですが、関わった人間は大抵が杜父魚のお頭の‥‥」
鷹司の言葉に頷いて言う亥兵衛に、ゼラがどういうこと? と聞くと、恐らく何らかの理由で杜父魚の稲吉の動向が必要となり探りを入れているのではないかという亥兵衛。
「亥兵衛、悪いが直接お前に見て貰った方が良いかも知れぬな」
「よござんす、すぐに出ましょう」
そう言うと、亥兵衛は文吉へ留守を頼み2人と共に店を出るのでした。
亥兵衛が孫次の居るところへと合流すると、つかず離れずたくみに追いかける亥兵衛について付けていくと、偶然をあからさまに装って人へと話しかける孫次に頷く亥兵衛。
「あれも‥‥」
「えぇ、杜父魚のお頭の所の盗人でございますよ」
そんな事を繰り返して居たのですが、とある人間とすれ違った孫次に顔色を変える亥兵衛。
「どうしたんですか?」
「‥‥いますれ違った男、何やら文を受け渡したようだが‥‥あいつぁ確か‥‥」
そう言うと、孫次の行きつけの酒場で合流することを約束して男の後を追う亥兵衛。
同じく、それまで離れたところから孫次を付けていた白も亥兵衛の様子にただならぬものを感じて男を付け始めます。
孫次が酒場へと向かう頃にはとっぷりと日も暮れましたが、亥兵衛と白はまだ戻ってこず、酒場の2階ではゼラや鷹司が、下の階の奥の座敷に衝立で隔てて酒を飲みつつ孫次の様子を窺っているのは東条と貴由。
孫次をそれまで付けていた磐山は、裏から入り腹ごしらえをすると再び外で孫次が出てきた時へと備えます。
と、そこへ目を血走らせた若い男が入ってくると、真っ直ぐに孫次の所へとやって来て、何も言わずに2人顔を合わせて酒をちびちび舐め始めます。
『‥‥俺の方はまだかかりそうだ‥‥いまいましいあの義兄が‥‥』
ぼそぼそと聞き取れる言葉に東条と目を合わせる貴由は、すぐに2人連れの男が入ってくると2人と少し離れたところに付くのを見てそちらへと目を向けます。
「おう、おやじ、酒だ酒」
1人はジャイアント、もう一人は人間でどうやら浪人のよう。
貴由はちらりと東条を見れば、知った顔のようで口元に笑みを浮かべています。
『でだ、‥‥例の杜父魚のお頭の方は‥‥』
『どうやら狙いは同じようだが‥‥もう少しお前の姉夫婦から聞いてみるんだな』
『なんでぇ、やけに気乗りしないようじゃねぇか』
若い男がそう言いながらも連絡を頼むと伝えると頷いて残った酒を飲み干して立ち上がる孫次。
若い男も立ち上がって連れ立って出て行くのに、2人連れの浪人の方もそれを追って外へと出て行き、貴由も東条へと頷くと立ち上がって後を付けます。
「東条じゃねぇか」
「嵐山も仕事かえ?」
そんな言葉を背中に聞きつつ貴由は磐山へ目配せをすると若い男の方へ、磐山はそのまま孫次の後を付けてゆくのでした。
●三倉の勘べぇ
「レーラ、少し役宅へと使いに行ってくれんか?」
そう言って文を出す平蔵に任せるじゃんと受け取って、張り切った様子で愛馬ぽちょむきんに跨りてこてこ役宅へと向かうレーラ。
文を受け取った津村がレーラに菓子と茶を与えながらその間に部下と過去の物をひっくり返して調べると、難しい顔をして返書をしたため戻ってきます。
「レーラ殿、申し訳ないがまた茶を飲んだらこれを長谷川様へ届けてはくれまいか?」
「ん、津村のおっちゃん、まかせるじゃん♪」
にこにことしながらお使いを果たすレーラ。
それを受け取った平蔵は、難しい顔をして黙り込むと、すぐにレーラへと向かって口を開きます。
「あらかた必要なことは集まったと思う。よって、孫次を逃さぬうちに引っ捕らえ、ここへと連れてきて貰いたい。‥‥孫次め、もしやすると‥‥」
「んむ? 孫次がどうしたん?」
「もしやすると江戸を離れるやもしれぬ。その前に捕らえねばと思うてな」
そう言う平蔵に、レーラは再びぽちょむきんに乗って酒場へと向かうと、平蔵の言葉を告げ、その夜に捕縛のための連絡を、白は酒場を出て磐山へと伝えに行くのでした。
孫次の宿は辺りの評判から見ても至極真っ当で堅気な茶屋のようで、こちらには問題はなかったのですが、問題はその若い男の向かった先でした。
その宿は、過去に三倉の勘ベぇという急ぎ働きの凶賊を取り逃がした宿であり、それ以降特に奉行所から監視が続いたという話もなく終わってしまった事のある宿でした。
平蔵からの連絡を受けて、直ちに一同は孫次の泊まる郊外の小さな茶屋へと向かいますが、その途中に旅装束に身を包んだ男に気が付き立ち止まります。
それが孫次であることを確認したゼラは、退路を塞ぐように木立の影から初櫓へと回り込み、亥兵衛の元から持ち出した灰で人形を3体作り出して備えます。
「‥‥鼬の孫次か?」
「‥‥っ!」
磐山が声をかけると懐から匕首を取り出して抜き、問答無用で磐山へと突進する孫次に、間一髪で刀で受け流すと東条が叩き込む仕込み杖での峰打ちにがっくりと膝を突き、何とか退路はないかと素早く辺りを見回す孫次。
と、
「盗賊凶賊改め方である!! 大人しくお縄につけ〜じゃん!」
ん〜、格好良いなどと浸っているレーラを尻目に、その言葉でぽかんと口を開いて一同を見回す孫次。
「‥‥三倉か杜父魚のお頭の差し金じゃねえんで‥‥?」
そう言う孫次を引き立て綾藤へと連行する一同の中で、役人とは関わりたくないと後で結果をと頼んで自身の宿へと戻る白。
「長谷川様、こやつまだ新入りとの事‥‥どうか寛大なご処断を願うでござる」
引き立てて開口一番に言う磐山に、じろりと孫次を見れば既に諦めたかどっしりと腰を下ろして一同に囲まれ落ち着き払った孫次が居ます。
「ふぅむ‥‥」
一つ息を付いてにやりと笑うと磐山へと向き直る平蔵。
「こやつはいったん役宅内の牢へと移す。取り調べをせずばなるまいからのう」
そう言ってから煙管盆へと内容の銀煙管を置くと顔に笑みを浮かべる平蔵。
「聞き取ることを聞き取った後、こやつは役宅内に留め置き、お役目柄の場合においては磐山、そちに身柄を任せよう」
そう言うと、平蔵は女将に酒食を用意させ、一同を労うのでした。