【凶賊盗賊改方・昔の因縁】長谷川平蔵
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■シリーズシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月12日〜01月17日
リプレイ公開日:2006年01月20日
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●オープニング
その日、ギルドへと懐に大事そうに手紙を抱えた亥兵衛が現れたのはちょうどお昼時のことでした。
「実は先の捕り物で存分に腕を奮っていただきやした皆さん方に慰安の宴を、新年の祝いの意味も兼ねて行おうとの事で、長谷川様よりお手紙を預かっておりやして」
そう言って頭を下げる亥兵衛に、なるほど、声をかけておきましょう、と言うギルドの受付の青年。
と、そこへひょっこりとお供を連れた人影が近付きます。
「実は今日はお願いが‥‥おや? これは、先日お知らせを持って来てくだすった‥‥」
「これは、比良屋の旦那に荘吉坊‥‥」
「ちょうど良かった、実は私どもお礼も兼ねて、先の件の皆様に綾藤で一席用意しようかと思いまして‥‥」
思わず顔を見合わせる亥兵衛と受付の青年。
「実はあっしもそのことでこちらに伺ってたんですよ」
「そうなんですか?」
暫く受付の青年を交えて談笑する二人に、荘吉は仕方ないとばかりに溜息をつくのでした。
「そう言えば亥兵衛さん」
「へい、なんでしょう?」
比良屋の主が話しかけると、首を傾げる亥兵衛。
「いや、何やらお弓が亥兵衛さんのことを知りたがっていたようなのですがねぇ? この通り、長谷川様のお手伝いをされていることぐらいしか知りませんで‥‥」
「え、いえ、あっしはただの煙草屋の親父でして‥‥」
どこか決まり悪げに鼻の頭を掻く亥兵衛。
「因みに旦那様の煙草は亥兵衛さんのところから、ついでの時に向かいの料理屋のおかみさんに買ってきて貰っているのですが」
「そ、そうなんでしたか?」
「はい、家では煙草はお客様以外、旦那様と番頭さんしか吸いませんから」
きっぱりと荘吉に言われてどこか申し訳なさそうに頭を掻く比良屋主人。
「あー‥‥まぁ、なんですな、これからはうちの店の者に買いに行かせましょう」
「い、いえ、それでしたらうちの文吉か、あっしが届けやしょう」
「そうですか? まぁ、これからも末永く宜しくと言うことで‥‥」
そう言う比良屋主人に、亥兵衛は何とも言えない表情を浮かべるのでした。
●リプレイ本文
●再会
その日、各人が準備を進めて人に仲間に声をかけて、徐々に綾藤へと人が集まる中、ひょっこりと連れだってやって来た文吉と亥兵衛を招き入れたのは、綾藤のお藤を手伝っていた時永貴由(ea2702)でした。
「これはこれは、お疲れ様で‥‥」
「いや、良く来られました、文吉も久方振りだな」
そう迎えられてふと見れば、文吉が抱えている包みに軽く首を傾げる貴由。
「あぁ、これは南天様から頼まれました煙草です」
にこにこと笑顔で言う文吉に微笑を浮かべる貴由は、その後ろから綾藤へと入ってくる4人の男に気が付き目を向ければ、改方の同心が連れ立ってやって来たようです。
「あ、早田の兄ぃ!」
サラ・ヴォルケイトス(eb0993)と話していたレーラ・ガブリエーレ(ea6982)が気が付いてどたばたと入口へと来れば、その中の1人はもう一組のお座敷に知った顔を見つけたようで、人懐っこそうな顔に笑みを浮かべてそちらへと向かい。
「あぁ、レーラ、お前が呼んでくれたんだって?」
既に良く見知った間柄故か気安げに笑って頷く早田と、家族のことが落ち着き穏やかな笑みで会釈をする荻田、そして無言で頷く伊勢が上がると、サラも加わり同心達を部屋へと案内していくのでした。
宴会の部屋は広い部屋を二間、間の襖を開けてそれそれが行き来できるようにされていて、既に冒険者達はもう一組のレヴィンが見あたらない以外は揃ったようです。
「そろそろ揃ったようであるな」
そう言って部屋へと入ってきた武兵衛が平蔵が役目により少々遅れる旨を告げ、宴を始めるように言うと、やがて美琴の三味線が穏やかな音色を奏で始めると共に新年の宴は賑やかに始まるのでした。
●平蔵到着
「おう、遅れて済まなんだ」
それぞれがゆっくりと食事を摘みながらいると、やがて平蔵がレヴィンを伴い部屋へと入ってきました。
「さ、構わん、どんどんやってくれ」
言って笑いながら武兵衛の勧める席へと腰を下ろす平蔵は家紋入りの羽織を纏い、席について早速酌をする貴由とその義姉・榊 戒那の挨拶を受けたり等をしてから宴に参加となります。
「今回は大捕り物お疲れ様でしたー♪ 後半だけのお手伝いになったけど、殆どお役に立ててないようで申し訳なかったです‥‥」
「なに、伊勢と組んでよう遣ってくれたではないか」
苦笑気味にサラは平蔵へと言うと、平蔵は笑って首を振り、それを見てサラもにっこり笑顔に変わるときりりと表情を引き締めてすと礼をします。
「もし、あたしでもお役に立てそうなときにはまた連絡ください! 駆けつけますから!」
「うむ、また何かと力になってもらうやも知れぬ、宜しく頼むぞ」
平蔵の言葉に笑顔で頷いて仲間の所へと戻ると、サラは元気良く声を上げるのでした。
「皆さんお疲れ様でしたぁっ! あまりお手伝いできなかったあたしだけど、足引っ張ることはあまりなかったみたいでよかったです♪ 何かでご一緒したらまたよろしく!」
この言葉に笑ってそれぞれ猪口や杯を掲げて見せると、何やら武兵衛と話している様子の比良屋について、平蔵の側で何やらそわそわと落ち着かない様子のお弓を見かけて近付いていく北天満(eb2004)。
「遊びで今年の運勢でも占ってみますか?」
「それは面白い」
「では‥‥昨年は大変な年でしたが、本年も平蔵様の常に前を見つめて民の為に行動する行為は災いが起こっても最後には福を招くでしょう」
なるほどな、と頷く平蔵に一礼して、お弓へと向き直る満は、吃驚したような表情になるお弓にも恋占いをと言い、お弓へとテレパシーで語りかけます。
『みての通り亥兵衛さんは貴女との関係はきっと明かさないでしょうから、何かとお弓さんから接触してあげてください』
目を瞬かせて見るお弓に続ける満。
『貴女との一時は亥兵衛さんにとってもたいした事でなくても貴重でしょう。何かあれば私も手伝いますよ』
でもどうしたら、そんなふうに思うお弓に、満は文吉さんに常に情報を貰うのも良いかも、と助言するのでした。
酒も入り南天陣(eb2719)が息子が上司の息子を殴り飛ばした話や娘の嫁入りについての話などを話し、満が平蔵に十手を見せて貰っているときのことでした。
お弓が呼ばれて離れているときに、ふと側にいた文吉へと目を向けた陣。
陣はちょうど移動してきて話していた荻田との会話が途切れたところでした。
「今好いた者はいるのか?」
「な、ななな 何ですかいきなり!?」
慌てる文吉に笑いながら好みを聞く陣と、あれこれ聞かれ真っ赤になる文吉。
「どうだ? お弓殿はいい子だと思うんだがね」
そう話を振れば、文吉は思わず釣られるようにお弓へとちらりと目を向け、慌てた様子で真っ赤になりながら目を戻します。
その様子を見て、陣はさも面白げに荻田と顔を見合わせてにと笑うのでした。
●各々の明日
「孫次、本当に世話になったな。礼を言うでござるよ」
「旦那そんなとんでもねぇ‥‥ま、どうぞ‥‥」
言われた言葉に恐縮して頭を掻くと、お銚子を手に磐山岩乃丈(eb3605)へと勧める孫次。
磐山へと身元を任されてからの孫次は、今ではこのお役目でいつ命を落としたって後悔はしない、とまで言うほどになったそう。
「そう言えば、孫次、お主は普段は何をしているのでござるか?」
「へい、時折あちこちの賭場に出入りをして見て回る以外には、こちらの綾藤で、船頭の真似事なんぞを‥‥宿も、舟越酒場の喜十とっつぁんの所の2階を使わせて貰いやして‥‥」
「そうかぁ、そうかぁ 良かったでござるなあ。両親の所にも、戻ってやるがよいでござるよ」
「へぇ、国にもいずれは顔を出して、ばばぁの面ぁ拝んでこようと‥‥まぁ、ずっと先になりそうでやすが」
そう笑いながら言う孫次を酒を酌み交わすと、平蔵がふらりと顔を覗かせます。
どうやらそれぞれと言葉を交わしていたようで、磐山の所へも顔を見に来たよう。
「長谷川様、この度は万事無事に終わり、まずはよかったでござる。とは言え世に悪事悪党の種は尽きぬ物‥‥先だっての大火より、人の暮らしと心は乱れているでござる。ささいな事から、悪しき囁きに負けてしまう者もおるでござろう‥‥悲しき事にござる」
「その苦しみを思えばこそ、そこに堕ちずに苦しみながらもあくせく働いている者達や真っ当に暮らしている者達を、俺等がしっかりと守らねぇとな」
「さすればこそ、お江戸の復興が完了するまで、我が輩できる事をしたいと思っておるでござるよ」
そう言うと平蔵へ決意を込めた眼差しを向ける磐山。
「どうか、これからも、我が輩をお使い下され」
その言葉に平蔵の顔が穏やかな笑みを浮かべ、しっかと頷き。
「おお、そして長谷川様。どうか、孫次の事もねぎらってやって下され! こやつ、我が輩らが捕らまえた時はそれは悪相だったでござるよ! それがどうでござる、立派な漢の面構えになってきたとは、思わぬでござらんか?」
まるでどこか我が事のように言う磐山に、平蔵は磐山、孫次へとしっかりと頷き、笑みを零すのでした。
「お疲れ様。これからは煙草屋の親父さんとして顔を合わせることになるわね。よろしくね」
亥兵衛と近い席に座りそう笑って話しかけるのはゼラ・アンキセス(ea8922)。
ゼラの言葉にははと笑ってこちらこそ、と返す亥兵衛に、ゼラは何故亥兵衛がお弓と親子であると告げないのだろう、と不思議な心持ちで見ていました。
「私事だが‥‥若い頃の話だ。夫のある女性と倫ならぬ恋をして‥‥孕ませてしまってな」
杯を手にしながらそう亥兵衛へと話すのは鷹司龍嗣(eb3582)。
鷹司が父と名乗ることも会うことも適わぬと言うと、亥兵衛はどこか悲しそうに俯きます。
「お互いが親娘とわかったとしても‥‥しかし、せっかく生きて再会できたのだ」
亥兵衛へと言う鷹司に暫く俯いたままの亥兵衛ですが、顔を上げると、弱々しく頷いて猪口を口元へと運びます。
「あの‥‥亥兵衛さんは、お弓さんに自分が父親だと告げる気はないのでしょうか‥‥」
おずおず、と言った様子で亥兵衛へと聞く貴由に、困ったような顔をして鷹司やゼラへと視線を彷徨わせる亥兵衛。
「確かに、引退したとはいえ、盗賊の娘という事は伝えたくはないという想いからでしょうけど、私は‥‥折角の縁だから、親子が揃っているのだから、親子として会ってあげてほしい‥‥」
「‥‥」
俯いてしまい手の中のお猪口を弄りながら座っている亥兵衛を見ていた鷹司ですが、フト顔を上げるとお弓へと口を開きます。
「済まないが、そちらにある酒を貰えんか?」
言われる言葉に少し緊張した面持ちで膳にのったお猪口を手にして歩み寄るお弓。
促されるようにして亥兵衛へと酒を注ぐお弓と、それを受ける亥兵衛は、どこかぎこちない様子ではありますが、微かに笑みを浮かべてお互いを見るのでした。
●寒椿と月に酔い
「伝五郎・勘ベぇの二組の盗賊と違い、稲吉の最後は潔いものであった」
平蔵はそう鷹司へと伝えると、最後に牢へと尋ねてきて話したことについて、稲吉が礼を言っていた、と伝えます。
「亥兵衛とも一度会わせた。妻を殺され娘を奪われたと言う遺恨はそう消えはせぬが、亥兵衛は許したそうだ」
まだ気持ちの整理はついておらんだろうがな、とほろ苦く笑って鷹司の杯に酒を注いでやると、二人は暫く黙って酒を呑むのでした。
「おいしいお酒! おいしいお食事! もう他にはいらないー!」
そう言いながらどんどん杯を煽るのはサラ。
相手をしているのはサラが酒を飲んで酔っぱらったときの状況を良く知らない伊勢で、捕り物での時のことなどを話しながら呑み進めているのですが、これもまたサラは相手が悪かったよう。
「早田、そっちの膳を寄越せ」
「お、おい、お前の速さで呑むといくらなんでも‥‥」
その制止も元から自分の流れで物事を進めるのが好きな伊勢には耳に入らず、サラはサラでお酒をガンガン飲めるというのが嬉しくて仕方がないよう。
「知らないぞ、俺‥‥」
「今度の依頼みたいに緊張したの初めてじゃん! でも悪い奴を退治するのかっこ良かった?」
心配そうに伊勢とサラを見る早田ですが、こちらもなんだか元気いっぱいに盛り上がっているレーラと先程から鍋を相手に格闘中で、すぐに会話へと戻っていってしまいます。
「ジャパンの料理はお正月に派手ですごいー。俺は甘いのが好き♪」
「あぁ、俺はあまり甘いのは一遍にはいらないな‥‥饅頭だったら一度に一つとか、それぐらいの方が‥‥」
「で、あれって何?」
「あぁ、あれは甘酒だ。夏に冷やして飲むのが良いんだが‥‥」
早田の言葉に、汁粉を食べる手を止めて目を輝かせるレーラ。
「早田の兄ぃ、甘酒って甘いの? 飲んでみたいかもー」
「まぁ、これぐらいで酔う奴も居ないだろうな‥‥ちょっと待ってろ」
そんな風に話している横では、既にサラが完全に出来上がってしまっていて、それまで自分と同じ速度で飲ませていた伊勢の手が流石に止まったようです。
「‥‥ぉぃ‥‥?」
非常に控えめに声をかける伊勢ですが、既にサラには聞こえていないよう。
「ん〜っ、急に部屋が暑くなってきたー」
そう言いながらひょいと服に手をかけるサラ。
他の人達はそれぞれが思い思いの時間を過ごしているためすぐに気が付かず、さくさくっと服を脱ぎ捨てていくサラに、何も見なかったことにして遠くを見やって手酌酒の伊勢。
既にシャツまで脱いで、自身の脱いだ服によって辛うじてからだが多少隠れる程度の状態で伊勢からお酒を奪おうとでも言うかのように手を伸ばしたサラですが。
「わー‥‥まわるー♪ こあぎゅれいと〜‥‥」
気が抜けるような声と共に突然ぴったりと固まり倒れると、その声の主もがばったりと倒れ、それに気が付いた貴由が急いで着物をサラへと掛けてやり、手を借りて別室へと運んで休ませ。
サラを固まらせたレーラはレーラで、その場に早田が座布団を枕に寝かせて羽織を掛けて、目が覚めるまで置いておくのでした。
「面倒をかけて済まなんだな」
「いえ、これくらい‥‥」
廊下に出て煙管を燻らせていた平蔵が、貴由が戻るとそう声をかけ。
それに返す貴由はふと自身の簪へと手を触れさせて、微笑を浮かべながら口を開きます。
「この乱れ椿は、長谷川様か津村様からの贈り物なのですか? ずっと、お礼を申したいと思っていたのですが‥‥」
「もう少し物騒でないものを渡したかったのだが、その椿がなんとも、合うんじゃねぇかと思ってな」
にと笑うと、緩やかに煙管を燻らし続ける平蔵に貴由は微笑を浮かべて言うのでした。
「長谷川様。私はあなたの密偵です。また、凶賊が爪を研いでいるのなら、あなたの目と、耳となりて、動きましょう 」
平蔵はそれに答えないものの、しっかりと頷いてみせるのでした。