【凶賊盗賊改方・昔の因縁】杜父魚の稲吉

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月21日〜12月26日

リプレイ公開日:2005年12月28日

●オープニング

 その日、受付の青年は綾藤で、あいも変わらず緊張した面持ちのままに、彼を呼び出した長谷川平蔵を待っていました。
「待たせてすまぬな」
 そういって現れた平蔵に頭を下げ、お藤の入れた茶を受け取りつつ受付の青年が平蔵を見ると、平蔵も茶を啜り、煙管本を引き寄せてから、愛用の銀煙管を取り出して煙草をつめつつ口を開きます。
「三倉の勘べぇ及び燧切の伝五郎の捕縛を完了させ、残るは杜父魚の稲吉のみとなった。そこで、だ‥‥」
 そこで言葉を止めて煙管を口元へと運びゆっくりと煙を吐き出す平蔵。
「二組の冒険者、それぞれで協力をして、稲吉一味を一網打尽にして欲しい」
 その言葉に目を瞬かせる受付の青年。
「二組で、最大16人で大捕り物ですか?」
「まぁ、いろいろとやることはああるだろう。どうやら稲吉の狙う日取りは概ね分かった。そこでいくつか気になることがあって、な‥‥」
 そう言う平蔵に首を傾げる受付の青年。
「気になること、ですか?」
「あぁ、一つは実際の稲吉の押し込みを防ぐことだ。それには正確な討ち入りの日、また、動きの一つをとっても抑えておかねばならぬことだ」
「それは‥‥はい、そうですねぇ」
 考えるようにして頷く受付の青年。
「そしていま一つは稲吉の引き込み、お弓と言う女の処遇。これも大きくなってくるだろう」
「‥‥‥‥えっと、一緒に捕まえちゃわないんですか?」
「それは冒険者次第であろうな。捕らえるとしてもその頃合いを見誤れば、稲吉は直ぐに姿を消してしまうであろう」
「はぁ‥‥」
 混乱してきたのか、あいまいに頷く受付の青年に、ゆったりと煙管を燻らせ理解するまで待つ平蔵。
「そして、いまひとつ‥‥稲吉ほどの者ならば、盗人宿も、また今回のお盗めに使っていない部下もそれなりにいるはず。それが皆が皆、稲吉のお盗めを守る者とも限らん」
「つまり、それが凶賊へと代わらないって言う保障がないってことですね」
「その通りだ」
 頷く平蔵の言葉に、暫く考えるようにして受付の青年は口を開きます。
「えっと、で、では私はどういう風に依頼を出せばいいんでしょ?」
「そうさなぁ‥‥俺が相談の中継に入り、まとめる、ではどうか?」
「‥‥とりあえず、それで出してみましょう」
 受付の青年は、平蔵の言葉を受けて依頼をまとめる為に手元の紙へと筆を走らせるのでした。

「おう、そうだそうだ、忘れておった」
「どうしたんですか?」
「いや、確実じゃぁねぇんだが‥‥稲吉の引き込み女、普通は女賊は頭の女の事が多いようだが、こいつ、触れ込みでは稲吉の娘、とか‥‥」
「触れ込みでは?」
「ただなぁ、亥兵衛の話では、稲吉には娘はいねぇんだと。今でこそ正統派の盗人だそうだが、元はどうしようもねぇ乱暴者だったそうで、亥兵衛にとっちゃ女房と幼い娘のかたき、だそうだ」
 亥兵衛が足を洗ったのは、それでこの世界に嫌気がさしたからだそう。
「因縁ってなぁ、どう繋がってやがるか‥‥なぁ?」
「‥‥本当にそうですね」
 受付の青年はそう言うと、書き上がった依頼書をじっと見ているのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb2004 北天 満(35歳・♀・陰陽師・パラ・ジャパン)
 eb2719 南天 陣(63歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3605 磐山 岩乃丈(41歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●孫次と磐山
「孫次よ、先日はあいすまなんだ。お主、見かけ程の悪党では無かったのだなぁ」
「だ、旦那、そんな滅相も‥‥」
 綾藤の一室、鼬の孫次は磐山岩乃丈(eb3605)の言葉に照れたように頭を掻くと腕を組み孫次へと微動だにしない視線を投げかけている磐山を窺うように見ます。
「で、一体あっしに何を聞きたいんで?」
「ふむ‥‥実はそんなお主に、たっての願いなのだ。どうか聞いてはくれぬか」
「あっしは旦那のお預かりになっておりやす。あっしに聞きたいことがあるのならば何でも言って下さいやし」
「長谷川平蔵様は、今、三倉の勘べぇ、燧切の伝五郎、この二凶賊を捕らえ‥‥いよいよ、杜父魚の稲吉を捕らえようとしておられる」
 磐山の言葉にごくりと唾を飲み込む孫次は、薄々と言われる言葉に気がついているようで、手で膝頭を強く握り締めつつ目を落とします。
「そう、お主がかつてお頭と仰ぎ、今でもその教えを守っている、本格の盗人でござるよ。されど‥‥改方には情報が足りぬ‥‥」
 そこまで言ってちらりと孫次の顔を覗くように目を向けると口を開く磐山。
「お主‥‥長谷川様の力にはなってくれぬか? かつてのお頭を売る事に、心苦しい物があるのは、我が輩も十分、分かるつもりでござる。されど、考えてくれ、孫次。本格の盗みが誰も傷つけぬと言えども‥‥」
「もう‥‥もう言わないでおくんなせい。あっしは‥‥あっしは既に改方の、狗でございやす‥‥」
 そう言って項垂れる孫次に、磐山は肩に手を置いて、ただ頷くのでした。

●昔の因縁
「‥‥稲吉が亥兵衛さんの仇‥‥」
 そう呟いて言葉を途切れさせるのはゼラ・アンキセス(ea8922)。
 場所は亥兵衛の店の奥、店番を表でしつつ心配そうに文吉が聞き耳を立てているのが分かります。
「亥兵衛さん、因縁の事は聞いた。実を言うと、私の故郷はもうない」
 気遣うようなゼラの隣でそう口を開いたのは時永貴由(ea2702)。
「同じ流派の別の里に焼き払われ、幼馴染と命からがら逃げ、私は義姉の下で大切にされた。幼馴染は英吉利でいい人に出会ったが‥‥彼は里を焼き払った者」
 顔を上げる亥兵衛へとゆっくりと言葉を続ける貴由は微笑を浮かべ亥兵衛へと向けます。
「‥‥彼女は彼を許し、過去の縁を断ち切った。貴方にもその強さを持って、悪しき縁を断ち切ってほしい。そして、目の前の凶行を止め、新たな因縁が出来ぬよう手伝ってくれ‥‥」
「‥‥」
 項垂れる亥兵衛を南天陣(eb2719)とレーラ・ガブリエーレ(ea6982)・ゼラに任せて情報収集へと戻っていく貴由。
「今の亥兵衛さんは、『猿の亥兵衛』じゃなくて、文吉さんって従業員もいる煙草屋の亥兵衛さんなんだから。だから、裁きを受けさせる為に、敵討ちは我慢して」
「むぅ‥‥」
 俯いたままどこか苦しげに唸る亥兵衛に口を開く陣。
「済まない自分は娘がいるんだ。だからもしもを考えると自分の怒りは正直抑える自信が無い」
 陣の言葉にちらりと目を向ける亥兵衛に、陣は頷いて見せてから続けます。
「亥兵衛殿? 思い出したくないだろうが聞かせてもらいたい。娘と奥方は稲吉の手にかかったのだな」
「‥‥あっしの留守中のことでした‥‥あっしも女房子供に楽をさせたいとまとまった金を女房に預けて出かけたのを聞きつけて、懐の苦しかったらしい稲吉が、あっしと落ち合う約束があると入り込み‥‥」
 どうやらそのときに金のありかを調べだし、口封じに合いそうになった亥兵衛の妻は娘を抱いて逃げ、逃げ切れずに後ろから刺され、崖から落ちたそうです。
「女房は下の岩場に‥‥娘はそのまま川に落ちたようで‥‥ついぞ見つからず‥‥」
「稲吉を見た際はどの様に行動する気だ? 個人的には敵をとも思うがこれは捕り物だ。あなたが捕まるのは見たくはない」
 涙を流して顔を覆う亥兵衛に言う陣。
「いっそ殺してやりてぇ‥‥女房は背を刺されてあんな高いところから突き落とされたっ」
 苦しげにそう吐き出す亥兵衛に、それまで心配そうに見ていたレーラは、亥兵衛へ首をかしげながら声をかけます。
「亥兵衛のおっちゃん、おっちゃんの子どものこと教えてくれないかな?」
「‥‥そうだな、その事件は誰から聞いたんだ? 現場は見ていないのであろう」
「しかし、娘は‥‥」
「時期から考えて、亥兵衛のおっちゃんと稲吉との因縁がありそうなんだけどなぁ‥‥俺様が思うに‥‥」
「もしかしたら娘さんは生きてて、稲吉の元にいるんじゃ、とか?」
 先ほどから縁側でロープを切っては石をきつく縛っていたサラ・ヴォルケイトス(eb0993)がレーラの言葉に口を挟むと、そーそーとレーラは頷きます。
「ふむ‥‥娘に特徴はあったのか教えて貰おうか。自分が時を見ては探してみよう」
「ほ‥‥本当ですかい?」
 縋る様に聞く亥兵衛に、陣は力強く頷いて見せるのでした。
「ほんに、あの乱暴者が捕まったとは嬉しい知らせよの‥‥しかし、何故お前様はそれを知りなすった?」
「なぁに、改方の動向が知れた方がいろいろとやりやすくてな‥‥中に人を送り込んである。当然、改方は思ってもいないだろうが」
「なぁる‥‥それは疑って悪かったねぇ」
 杜父魚の稲吉ととある酒場で酒と言葉を交わしているのは鷹司龍嗣(eb3582)。
 勘べぇ捕縛の知らせにいい気味とばかりにくっくっと喉奥で笑った稲吉は、鷹司と先ほどより良い調子で酒をあけています。
「それにしても‥‥私も勘べぇは嫌いだが、よっぽど勘べぇに対して思うところがあるようだな」
「まぁ、昔のあたしを見ているようで嫌なもんさねぇ‥‥」
「昔の‥‥?」
「あんたぁまだ若くって知らないだろうが、あたしも昔は勘べぇみたいだったのよ‥‥まぁ、違うところは、その時のあたしは一人働きでねぇ‥‥」
 本当に何でもやったという稲吉は、時折きっちりと時間をかけるお盗めが窮屈にもなることもあるそうですが、娘が出来てからはどうにも娘に見透かされているような気がして出来なくなったそう。
「いわば、今のあたしは娘が作ったようなもんでねぇ‥‥ただ、盗人の娘は盗人にしかなりようがねぇ。あたしも畳の上で死にたいからねぇ、今回が引きのお盗め、うまくいけば娘もこの道でやっていけようて」
「女房が良く許したな」
 鷹司の言葉に稲吉はぞっとするような目で低く笑うと、一言『娘は授かりものさね』と言って杯を干すのでした。

●出撃
「陣様‥‥南天家の頭首である貴方まで冒険者になっていたのですね」
 呆れたと言うより最早仕方がないと言った様子で陣に前に見かけた男について教わるのは北天満(eb2004)。
 満は貰った人相描きを手に比良屋の付近を孫次とともに張っていると、一人の男がふらりと通りかかったのに、孫次が気がついて満へと目配せをします。
 孫次では顔が割れているとのことでその男の後を付ける満を見送ると、すとその孫次に近付く男に慌てて振り返る孫次。
「お‥‥御神村さん‥‥ちょ、ちょうど良かった‥‥」
「安心しろ、比良屋内は此方でさりげなく内外共に監視している」
 その言葉にほっとした孫次は、見知った者以外にも、同じ盗賊としての目と挙動で3人ほどの男達を見破り伝えるのでした。
 綾藤の一室、武兵衛が盗賊宿を印を付けている絵図面を覗き込み、距離と規模を孫次に確認させるのは磐山。
「4人は役宅で長谷川様と無事に?」
「ああ、我々と入れ違いになって裏から入り合流していた」
 風斬が頷いて答えると、武装の確認をしている御神村も顔を上げて頷きます。
 見れば思い思い捕り物の支度をしているのは貴由に満、陣・磐山ともう一組から合流した御神村に風斬。
 そして、武兵衛と合流した改方の同心達と、15人強の面々が捕り物支度を終えて待機しています。
「ここの規模からして、この地点とこの地点は人数を少し減らし、此方の、稲吉の本拠地と推定される場所に少し多く配置した方が良さそうだな」
 貴由の言葉に頷く武兵衛。
「では、特にこの本拠と今回の盗みに参加していない武兵衛の手の者のいる此方の宿を儂と磐山殿で別れて制圧、他3カ所には与力をそれぞれ分け、同心2名付けて当たらせよう」
「では、我が輩、此方の盗賊宿を御神村殿に風斬殿と‥‥」
「同心の友麻、あとは宮間を連れて行かれると良い。二人とも腕は確かな者達だ。本庄と蓑井は儂と時永殿、南天殿・北天殿と共に本拠地の押さえに‥‥お三方、宜しいですかな?」
「問題ない」
 陣が頷くと、磐山が頷いて顔を上げます。
「御一同! 今夜中に全ての宿の全ての盗人を捕らえましょうぞ!」
「おおっ!」
 声が上がる中、磐山は同道する4人を見れば、風斬はにやりと笑って言うのでした。
「任せておけ、鼠一匹逃さぬよ」

●盗賊宿
 深夜、手筈通りならば比良屋の戸をすとお弓が開き招き入れる、その刻限、稲吉の盗賊宿には4人の人間が詰めていました。
「‥‥今何か聞こえたか‥‥?」
「馬鹿も休み休み言え、お頭達が幾ら早かろうとまだ‥‥」
 そう言いかけ田尾とこの耳に聞ける、か細い戸を叩く音に立ち上がり裏口の戸を開けた男は、そこに立つ青藤色に藍色の襟の羽織を纏った武兵衛がにと笑うのにざっと身を引く男。
「あっ、改か‥‥ぐっ」
 柄の一撃でその男を沈めた武兵衛が随と足を踏み入れると、慌てて裏口へと回る男達ですが‥‥。
「おとなしく縛に付きなさい、逃亡の先に待つものは惨めですよ」
 そこに同心二人を引き連れて立ちはだかる満の姿が。
「ちっ‥‥畜生ぉっ!!」
 匕首を抜いて身体ごと武兵衛へと突きかかる男を横から突き倒し、起き上がり様に刀の峰を叩き込むのは陣。
「貴由殿、表は‥‥」
「誰もおらぬ、辺りも調べた」
「では、すぐに中へ‥‥万が一に逃れてきた者があらばここで押さえる」
 陣の言葉に頷いて中へ入り、2階から辺りを窺う貴由。
 そして、此方は今回のお盗めには加わっていない稲吉の手下が集まる盗賊宿では、今夜の仕事を思って酒盛りをしていた屈強の男達、その人数6名。
「お、おい‥‥何だ、あいつは‥‥」
 ふと、戸口に現れた影に目を瞬かせる男達に、その影風斬がずいと中へと入っていきつつ刀へと手をかけます。
「俺の刀は守らぬ」
「な‥‥」
「この先を進むのならば、待つのは地獄だ‥‥その覚悟があるのならば俺を倒して進んで行け」
 にやりと笑う風斬に刀を手にする者、そして裏口へと足へ向ける者‥‥。
「主らに天罰を加えるはこの鬼ぞっ!」
「くっ、こ、こいつらみんな生かして返すなっ!」
 裏口に立ちはだかる磐山に一斉に得物を握る男達ですが、如何せん、相手が悪かったようです。
 障子を破って表へと飛び出した男の目の前に、つと突きつけられる、男にとってはなじみのない丈の短い刀に恐る恐る目を上げれば、そこで笑みを浮かべている御神村の姿が。
「ぎゃあぁっ!!」
 屋内から短い蛙を踏み潰しでもしたかのような声が上がると、中では無残に叩き込まれた風斬と磐山の一撃に悶絶している男達の姿、そして、その向こう側で器用に彼らを数珠繋ぎに縛り上げている同心2名の姿があるのでした。

●縁
「お前さん、役人の差し金だったのかぇ‥‥」
 そう薄く笑う稲吉に、鷹司は微笑とも苦笑ともつかない表情を浮かべます。
「‥‥おまえを変えたという娘さん、あの娘は‥‥」
「もうお前さんならお察しでしょうのぅ‥‥あれはね、昔の知り合いのねぇ、娘でね‥‥もう本当に文無しで、なんでもやってやろうって時に、亥兵衛どんっていうあたしより年若の盗賊の所に、纏まった金があるって聞いて、あたしゃ亥兵衛どんの女房を刺して、金を奪ったんですよ」
「‥‥」
「そんときにねぇ、崖から落ちた女房が、がけの上に残したのが、お弓だったんですよぅ‥‥あたしゃお弓の目ぇ見て、途端に血を見るのが恐ろしくなった‥‥」
「お弓が、亥兵衛の娘と分かる、証しは?」
 鷹司が聞く言葉にほろ苦く笑った稲吉は、生きてるかも知れない父親なら、お弓の身に付けているお守り袋に見覚えがあるはず、と告げるのでした。
「‥‥その、私へのお咎めは‥‥?」
 恐る恐るお弓が聞く相手は亥兵衛。
 ここは比良屋の一室、長谷川平蔵のたっての頼みと、亥兵衛が比良屋主人へ杜父魚の稲吉一味の一部及び三倉の勘べぇ・燧切の伝五郎両一味が品川の刑場に引き出されたことを伝えに来ていました。
 そこで、お弓に呼び止められた亥兵衛、お弓に聞かれて知らないと答えると、小さく笑います。
「さぁて、あっしは手紙と伝言を長谷川様に頼まれた、ただの煙草屋の親爺でやすよ」
「あ、あの、でも貴方は‥‥」
 どことなく優しい目で見る亥兵衛に、なにやら言いたい様子で口篭るお弓は、一行から稲吉が実の親でないことや、亥兵衛についての話を聞いているのですが、なにやら踏ん切りがつかないよう。
「さぁて、あっしはこれからもうひとっ走りして、慰安の宴を兼ねた新年会の事を冒険者の皆さんに伝えろとお手紙を預かっていましてねぇ‥‥こいつで失礼しやすよ」
「あの‥‥っ」
 立ち上がる亥兵衛に声をかけるお弓ですが、目があって小さく笑みつつ頭を振る亥兵衛に口を噤むと小さく頷きます。
「‥‥おとっつぁん‥‥」
 歩き去って行く亥兵衛の背を丸めた小さな姿を見送ると、お弓は目に涙を浮かべて深く頭を下げるのでした。

●ピンナップ

レーラ・ガブリエーレ(ea6982


クリスマス・恋人達のピンナップ2005
Illusted by 紫苑西都