【凶賊盗賊改方】密告

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月28日〜10月03日

リプレイ公開日:2005年10月07日

●オープニング

「おぅ、人を頼みたいと思ってな」
 とある船宿に呼びつけられたギルドの青年は、かちかちに固まったまま、その人物を前にして湯飲みを持っていました。
「悪いなぁ、ちょいと、この近くに用があって、俺ぁここを離れられなくてなぁ」
 そうちょいと杯を傾けるその人こそ、凶賊盗賊改方長官、長谷川平蔵宣以です。
 平蔵は、酌をする女将に目配せをして人払いをすると、改めて受付の青年へと向き直ります。
「実はな、凶賊盗賊改方は発足したばかりの上に奉行所管轄ではなく、従って引き継ぎや奉行所からの与力・同心など数名の借り入れに手間取っていてな、人手が全く足りぬ」
「は、はぁ、それは大変、ですねぇ‥‥」
 何と言っていいか分からないように、困った表情で平蔵を見る受付の青年に、平蔵は杯を口元へと運んでからちらりと青年を見ます。
「そんなときに、投げ文があったとする‥‥無論、投げ文などこの様なことをしていれば当たり前のものであろうが、ちと、気になってな‥‥しかし、調べるとなればとてもとても手が足りぬ」
「気になった、デスカ?」
 緊張のあまりか困惑のあまりかかくかくしながら聞く受付の青年に微かに口元を歪めて笑う平蔵は、頷くとその投げ文を受付の青年へと差し出します。
『打太刀の惣十郎という男が江戸へと入ったのをご存じか?
 燧切の伝五郎がもっとも信頼を置いている男で、この男が斬り込み、伝五郎がそれを元に火種をつけて、上手い儲けを人様より攫う。
 ご存じの稲荷前、ここ数日見かけるため、捕らえるなら今と思われるが貴殿は如何であろうか?』
 細いまるで女の書いた文であるかのような文字でそう書き連ねられたそれを見て、受付の青年は顔を上げて平蔵へと口を開いて軽く首を傾げます。
「うちだちのそうじゅうろう、ひきりのでんごろう? えっと、盗賊ですか?」
「打太刀とは型で動作を仕掛ける方のことを言うこともある為、こやつがまずあちこちに手を出しきっかけを作ることからそう言われ、燧切は火を熾すことから、それから火種を作り、人の狙う獲物を横取りするからと言われておる」
「‥‥ちょっとだけ、気になるんですけれど‥‥」
「なんだ?」
 そこまで言って平蔵に問い返されると、暫し迷った様子で目をあちこち彷徨わせていた受付の青年は、出来るだけ目を合わせないように口を開きました。
「その‥‥なんだか、手紙の主は長谷川様のことを良く知っているような書き方なんですが‥‥」
「おぉ、それよ。ただ俺の目を欺く為か、それとも、若い頃の放蕩時代を知っているか‥‥おそらくは後者であろうがな」
 そう言うと、驚いたように見る受付の青年に、苦く笑って徳利を手に取る平蔵。
「伝五郎は急ぎ働きこそしないが、他の盗賊の狙いを奪い、しかも全てを持ち去ってしまう。比喩ではない、本当に、全てを、だ‥‥」
 そう言うと、すと鋭い眼差しで窓の外へと目を向ける平蔵。
「貧富も関係ない、金になりそうな物は片っ端から持っていきやがる‥‥それが許せねぇのよ。‥‥それに‥‥」
「それに?」
「‥‥思わぬ魚まで釣れるかも知れん。そうは思わんか?」
 そう言うと、平蔵はすと紙に包んだ費用を受付の青年へと差し出すのでした。 

●今回の参加者

 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3988 木賊 真崎(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

源真 弥澄(ea7905)/ 苗里 功利(eb2460

●リプレイ本文

●心当たり
 凶賊盗賊改方‥‥それは役所と言うよりは幕府の特別捜査部隊のようなもの、なのですが‥‥。
 その長官、長谷川平蔵は船宿綾藤の、川辺の部屋で次々入れ替わり立ち替わりに届く書面や連絡、裏から連絡を取りに来る同心と連絡をつけると、漸く一息ついたところで同室の相手へ止めを向けます。
「しっかしなんだ、偉く忙しそうだな」
 そう言って、窓から釣り糸を垂れてだらだらしているのは秋村朱漸(ea3513)。
「なぁに、ああいう形式張ったもなぁ今だけさ。‥‥さて、待たせたな、では一局相手いたそう」
 そう言って女将から借り受けた将棋盤を前に腰を下ろす平蔵に、釣り糸を垂れるのにも飽きた秋村はとっとと竿を放り出して盤へと着きます。
 綾藤でそんな遣り取りが交わされている中、稲荷前の参拝道ではそれぞれが平蔵より聞いていた惣十郎の判明しているだけの特徴を頭に入れ、探索を続けていました。
 既に探索で3日目。
「めんどくせぇな、似ている奴を片っ端から殴れりゃなぁ‥‥」
「町人を装っていたとしても、立ち居振る舞いに違和感をきっと感じられるはずだ‥‥」
 宿で情報交換をしている間に、どうにも焦れて頭を掻きながら言う嵐山虎彦(ea3269)に、御神村茉織(ea4653)はそう言って僅かに苦笑を浮かべます。
「長谷川殿に手紙の心当たりを訪ねたところ、『字に覚えはないが若い頃のことを知っている者ならば大抵はあの稲荷前の酒場で良く寝泊まりをしていた事を知っているはずだ』とのこと」
「しかし、その酒場は今は既に無く、やっていたのも年老いた老人1人だったと言うしな」
 木賊真崎(ea3988)の言葉に稲荷の店を書き出した絵図面を指し示しながら言う天風誠志郎(ea8191)は、その一点‥‥既に汁粉屋となったその店跡を睨め付け、続けます。
「どちらにしろ、手がかりは稲荷前に惣十郎が居た、その一点しかないならばそこを当たるより他はあるまい」
 そう言って顔を上げると、九十九嵐童(ea3220)は頷き、定時報告の為に綾藤へと向かうのでした。
「‥‥現状は今申し上げたとおり。引き続き稲荷前を重点的に探ることとなった」
「なかなか手がかりが掴めぬと気が急いてしまうやも知れぬが、すまんが宜しく頼む」
 平蔵に勧められ茶を飲むと再び出て行く嵐童を横目で見送った秋村は、やれやれとばかりに肩を竦めます。
「ほんっと、旦那もタイヘンだな‥‥まずはそれなりの手柄を立てなきゃ人も回して‥‥」
「まぁ手柄等はどーでもいいが、他にこんな面倒な事やる者など‥‥ほれ、王手だ」
「ってちょっマテッッ!!」
 しみじみと言いかけた秋村が慌てて膝立ちになって盤を睨み付けるのを、平蔵は面白げに低く笑うのでした。

●昔の馴染み
 江戸の町が開かれて直ぐに出来たその酒場はほんの数年しかなかったそうですが、そこにはいろんな人が良く集まっていたそうです。
 酒場をやっていたのは60絡みの爺様が1人、背中を丸めながらも威勢良く、気持ちが若かったその爺様の所には何人もの若者が集まって、時折騒ぎは起こした者の、いつも賑やかな店だったそうです。
 御目見得を20前半で漸くに済ませた平蔵ですが、父の存命中はまだ若い血が収まりきらなかったか、父について京へと上るまでの約4年、屋敷にいるかこの酒場にいるかどちらが長い時間だったか分からないそうで、道場に通ってはここで夜を過ごすことも少なくなかったのでした。
 平蔵が江戸を離れている間にこの酒場は無くなってしまい、心当たりといっても、この酒場に来ていた者達の誰かではないか、と平蔵は嵐童から一行へと伝えていました。
「何とか、手がかりが見つかると良いんだけど‥‥」
 心配そうに言う白井鈴(ea4026)が茶を頼んで直ぐ隣に腰を下ろして言うと、真崎は頷きます。
「同じ処で幾度も姿を‥‥となると、盗人宿若しくは繋ぎの場、狙いの店等‥‥何らかの目的が其処にある筈だ」
「うん、僕も頑張らないと‥‥」
 そう言うと鈴はお茶を飲んで立ち上がり、ちょこちょこと人の波に紛れて立ち去りました。
 すと、それを見送り場所を移そうとした真崎の視界に、1人の町人の姿が入ります。
 その男の佇まいが、どこか張り詰めた者を感じさせるのに、ごく普通に通り過ぎるのを待って付け始めると、ゆっくりと人混みを抜けて稲荷隅の細い通りを入っていく男。
「‥‥っ」
 そこへと入れば否が応でも怪しまれるのに気が付いて通り過ぎてから足を止める真崎は、ふと御神村がちらりと姿を見せて後を付けているのを伝えてから再び姿を消すのを確認し、後を付けるのを任せると、再びここを通るかも知れないため、付近の茶屋の店先で、縁台に腰を下ろすのでした。
「あぁ、宗七さんに銕さん‥‥あの頃が懐かしいねぇ‥‥といっても、あんたは銕さんのこたぁ、あんまし良くしらねえンだったな、顔を殆ど合わせちゃいねぇから」
 惣十郎を前に、茶の用意をしながら小さく咳き込むのはもう、70を幾つも過ぎて居るであろう、病んだ様子の老爺。
 それを、御神村は家の影で息を潜めながら聞き耳をしていました。
「しかしあんたが町人になったなんて聞いたら驚くだろうねぇ、みんな‥‥銕さんが居なくなって直ぐに、儂の気力も尽きたようでなぁ‥‥」
 その男相手にしみじみという老爺は、首を傾げながら続けます。
「しかし宗七さん‥‥」
「今は惣十郎だよ、爺さん」
 そう言ってにやりと笑う男・惣十郎は、膝を進めてその老爺に近付くと口を開きます。
「ところで、爺さん所に良く来ていたおかねと弥太郎の夫婦、爺さんのお陰で会うことが出来たぜ‥‥」
「おお、そうかえ、あの2人元気でやっていたかい?」
「あぁ、元気でやっていたようだ‥‥盗賊としてな」
「!?」
 息も絶えんばかりに目を剥き声を失う老人ににやにやとした顔で続ける惣十郎。
「爺さんも、盗賊と親しく付き合ってたとなったら、こりゃ役人に突き出されてもおかしかないなぁ‥‥」
「な、何言い出す‥‥」
「だからよ、爺さんの方からあの夫婦に俺の頼みを聞いてくれるように、こう一筆書いてくれりゃあいいのさ」
 そう言って笑う惣十郎を考えさせてくれと言って帰してから、老人はがっくりと膝をつき、御神村はそのまま惣十郎の後を再び付け始めるのでした。
 途中、惣十郎は舟に乗り念入りに後を付けられないようにと帰っていったようで、流石の御神村も、惣十郎がそれと知らないうちに巻いてしまい、一同は宿に再び集まります。
「どうやら、日付の変わる頃、またあの家に惣十郎はやってくるらしい」
「ならば、そこで押さえた方が良くはないか?」
「万が一のこともある‥‥しかし‥‥」
 御神村の報告に暫し顔を見合わせる一同。
「顔形、年の頃の全てが一致しているからにはよもや間違いはないと思うが‥‥」
 そう言って考える様子を見せる誠志郎。
「これは、指示を受けた方が良いかもしれねぇな」
 嵐山の言葉に頷くと、嵐童は立ち上がって急ぎ綾藤へと向かうのでした。

●惣十郎捕縛
 その日の夜、一行は老爺の狭い家や稲荷の道へとはいる入口の茶屋で等、内外で惣十郎を待ち受ける為に入り込んでいました。
 レヴィン・グリーン(eb0939)が魔法を唱え、辺りを潜む息吹がないかを調べ、鈴と御神村、そして嵐童が念入りに調べた結果、老爺の家を監視している様子はないようです。
「本来ならば惣十郎の潜伏先を押さえておきたいところだったのだが‥‥」
 茶屋で、隠密の者達に老爺の屋敷を任せ、詰めていた少し悔しげな誠志郎の言葉に、平蔵は首を振ります。
「仕方有るまい、ああいう家業の者は、常にそう言う気配に過敏になり、そうそう尻尾は掴ませまい。それよりも確実に捕らえられる機会を得る事ができた、それの方がよっぽどたいしたこと、そうではあるまいか?」
 そう言って笑う平蔵は、この捕り物のために部下を一時的に綾藤へと代わりに詰めさせ出動してきました。
「しかし、あの爺がまだ生きてやがるたぁ‥‥」
 そうどうこか楽しげに言う平蔵に、真崎が口を開きます。
「おかねと弥太郎という2人の者に覚えは?」
「あぁ、あの酒場に詰めていた頃、仲睦ましそうにやって来ては、金がねえがとぴーぴーしながら酒を2人で分けて飲んで帰って至った、まだ若ぇ夫婦者だったが‥‥今は俺と同じぐれえにゃなっているだろうな」
 退屈している様子の秋村に酒を注いで遣りつつそう言う平蔵。秋村はすっかり将棋でこてんぱんにされたようで、なんだか神妙に酒を受けています。
「来たようだぁな‥‥」
 嵐山の言葉にさっと覆いを掛けていた行灯を吹き消し、部屋をすっかり暗くすると、果たして、戸の隙間から見える道を、ぶらぶらと刀を手にしながらやってくる惣十郎。
「昼は持っていなかったな、刀など‥‥」
「一筆書かせたら口を封じるつもりだったのだろうな‥‥となると、惣十郎は爺の言う銕と俺が同じ人間と知っているのかも知れねぇな」
 そう言いながら愛刀を手に立ち上がる平蔵に続いて、一同は立ち上がるのでした。
「爺さんよ、俺だ、開けろよ‥‥」
 小さく囁く惣十郎ですが、幾ら経っても起き出す様子のないのに怪訝な表情を浮かべると、そっと戸を引き明け、そのまま開いた戸に訝しげに足を踏み入れます。
「っ!?」
 不意に灯りがつきそこにいるのが見知らぬ者達であるのに気が付いて踵を返そうとして、惣十郎はさっと顔色を変えます。
「‥‥長谷川‥‥平蔵‥‥」
「‥‥俺を知っているか。貴様、打太刀の惣十郎だな、神妙に致せ」
「っ!!」
 ばっと刀を抜き様に狭い家へととって返して血路を開こうとする惣十郎に慌てて避ける鈴ですが、薄く腕を切り裂かれ小さく声を漏らしながら後ろへと下がります。
「貴様は袋の鼠、大人しく縛につけ!」
 庭へと出てきた惣十郎はぴしゃりと決めつける誠志郎に凄まじい形相で斬り付けますと、その激しい剣気に押され浅く胸元を掠められて飛び退る誠志郎。
 入れ替わるように嵐山が十手を構えて一撃を叩き込めば、ギリギリで交わし、入口へと戻りかけ、平蔵に前にだらりと刀を手に薄く笑みを浮かべる秋村に足を止めます。
「‥‥どうするよ? 神妙に行くかァ? それとも賑やかに行くかァ? どっちでぇ‥‥」
 ぎりっと唇を噛んだ惣十郎は、嵐山と誠志郎が立ちはだかる庭よりも確率があると思ってかそのまま秋村へと斬り付けますが、それを受けてにやりとしながら力で押し戻す秋村は、そのまま体勢を崩す惣十郎へと突進します。
「ハッ!! 通す訳ねえだろッ!! ダボがッ!!」
 間一髪で避けた惣十郎は、後ろから迫る嵐山にまで意識を回すことも出来ず、そのまま叩き伏せられ地に這います。
「さて、神妙にしな! これから鬼平の旦那のとこできっちり泥をはいてもらわねぇとな」
 そう言う嵐山の言葉に憎々しげに顔を歪める惣十郎は、誠志郎に引っ括られ、そのまま役宅へと連行されたのでした。

●凶賊盗賊改方
 凶賊盗賊改方役宅にいったん戻った平蔵は、惣十郎の取り調べにレヴィンを立ち会わせます。
 与力が取り調べに立ち会うものの完全に馬鹿に仕切っていた様子の惣十郎でしたが、そこへ平蔵が顔を出すと、睨め付け、やがて平然と見返す併走から怯えたように顔を逸らす口を閉ざします。
「レヴィン殿、頼めるだろうか?」
「はい、では‥‥」
 スクロールを取り出してそれを唱えるレヴィンは、潜伏先である盗賊宿の1つの名をあげると、畏怖を湛えた目でレヴィンを見上げる惣十郎。
「全てを話してしまえ。そうして1つ1つの事柄を、己の意志と裏腹に引きずり出されるよりは良かろう」
 その言葉と執拗な取り調べに惣十郎が全てを話すのに、数日もかからなかったそう。
「‥‥しかし凶賊盗賊改方って言いづらいな‥‥縮めて『凶盗改』って呼びたいが‥‥」 そんな事を話ながら居た一行は、平蔵が出て来ると、一同へと頭を下げます。
「此度は忝なく。またすぐに燧切の伝五郎探索のために力を借りることとなるであろう。また、その時は宜しく頼む」
 そう言うと、凶賊改も良かろう、と笑いながら嵐童へと言うのでした。