【凶賊盗賊改方】密告 第二話
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■シリーズシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:10月23日〜10月28日
リプレイ公開日:2005年11月02日
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●オープニング
「たびたびすまねぇな‥‥どうにも今、冒険者が動いていると悟られるのは色々と厄介なもんでなぁ‥‥」
そう言って苦笑しつつ紙の束を手にしているのは長谷川平蔵。
ここは船宿・綾藤の一室で、ギルドの青年は前に来たことがあるとは言え、相変わらず畏まったまま所在なさげに湯飲みを弄ったりしています。
「あちこちでごたごたあるが、冒険者に頼むのが、とか言うんじゃねえぜ。俺がギルドに出入りし冒険者が動いているのが自分たちを捜しているから、と言う風に先の投げ文の主に受け取られると遣りにくくなる、と言う意味でだ」
そう言って『冒険者への不満を持つ役人もいるが、小せぇ問題だよ』と笑って傍らに置いてある煙管箱から銀煙管を取り上げる平蔵。
「‥‥そうですね、確かにギルドに長谷川様がいらして疑われては‥‥とと、でも、前まで良く津村様がいらしてたから、津村様ならば怪しまれないんじゃ‥‥」
「おお、そのことなんだが、まぁ、色々あってな、津村には暫く役宅に詰めて色々と対処をして貰うことになったのでな」
「そうですか‥‥では、今回は投げ文の線から色々と洗うことに?」
受付の青年がそう訪ねると、平蔵はゆっくりと煙を吐き出し暫しじっとその煙が消えゆくのを眺めてから苦笑します。
「まぁ、そうなるな」
「‥‥何か気がかりでも?」
「俺ぁな、どうにも、惣十郎が強請っていたらしいおかねと弥太郎の夫婦が今現在も盗賊を遣っているたぁ、あんまり思えねえ。‥‥投げ文の件といい‥‥どうにもしっくりこねぇんだよなぁ」
「‥‥わざわざ自分たちの身を危険に晒す事になるからですか?」
「そう言うこった。、ただ伝五郎に強請られてるだけならおめぇ、別にも手だてはあったはずだ、それこそ、投げ文から足がついてそのまま自分たちの方が危なくなる可能性が高ぇ、それこそ俺に名指しで寄越したあたりがな」
言いながら煙管の灰を捨て置くと、平蔵は受付の青年へと目を向けて口を開きます。
「燧切の伝五郎が江戸入りするのも、何があっても今度のおつとめを取りやめる気もないのは、惣十郎からどれだけ今回に元手を使っているかでよく分かる」
黙って話を聞く青年。
「問題は、伝五郎を確実にお縄にするには、狙いが分からなければ後手に回ることになる。今回は投げ文の方から狙われた盗賊達と、そして標的となっている商家を何としてでも割り出して欲しい」
「分かりました、では、今後連絡はこちらに?」
「ああ、宜しく頼む」
ギルドの青年が聞くのに、平蔵は頷くのでした。
●リプレイ本文
●近頃の夫婦
「なぁ、爺さん、おかねと弥太郎についてなんだが‥‥」
「あぁ、あの二人は貧しいは貧しいが、至極全うに暮らしていたはずなんだがなぁ‥‥弥太郎は腕が良い髪結い師だったんだが、何でかいっつも金が無くてねぇ」
九十九嵐童(ea3220)の言葉にそう首を傾げて言う茂介爺さん。
平蔵に引き取られて綾藤の離れで世話を受けて薬を貰っているうちにすっかりと顔色も良く、布団からも起きあがれるようになった茂介は盗人ならあんな貧乏暮らしはしてねぇだろうに、と不思議そうに首を傾げます。
「で、どーだい、鬼平の旦那に茂介爺さん、おかねと弥太郎はこんな感じかねぃ?」
先程から真面目な顔をして絵筆を握っていた嵐山虎彦(ea3269)の言葉にどれと覗き込む平蔵に、出された絵をまじまじと見て頷く茂介。
「そうだな、それに弥太郎は確かここら辺にうっすらと傷があったなぁ‥‥なぁ? 爺さんよ」
「そうだなぁ、銕つぁん、よく覚えてるじゃねぇか」
そう言って頷く茂介を見てから嵐山はうっすらと小さな傷を描き入れ、それを見て頷く平蔵。
「悪いがそれを大至急、何組か書いてそれぞれへ渡して遣ってくれ」
「おぅ、任せろ」
「2人の顔絵が出来たのか?」
それぞれに渡すための絵を描きに戻る嵐山に、近付いた天風誠志郎(ea8191)がそれを手に取り首を傾げます。
「ところで、おかねの弟とやらはどうなっているのだ?」
「茂介爺さんもしっかりと顔は見てねぇらしいが、賭賭場で結構暴れ回っているらしいからな。おかねたちを探れば自ずと弟の顔も分かるだろうよ」
名は知れ渡っていても顔が知れ渡っているわけではないため、どうしても知っている人間の口述や人相書き、そして絵師の姿絵でしか知らない人間の姿を知る機会も少ないため、探るより他にないのに苦笑しながら、平蔵はそう言うのでした。
人相書きを懐に、白井鈴(ea4026)と御神村茉織(ea4653)は、茂介爺さんに聞いたおかねたちの住んでいると言われる辺りへと出向いて2人の住まいを調べていました。
「果たして白か黒か‥‥」
来る前に幾つか情報を読ませて貰ってきたは良いものの、入り組んでいる町にひっそりと住んでいるおかねたちはなかなか見つかりにくく、思い切ってその辺りの者へと髪結いを頼みたく探していると伝えると、漸くに裏長屋の一角へと辿り着くことが出来るのでした。
●髪結い亭主
「なんだか奥さんが具合が悪いとか言って休んでるって言ってたけど‥‥」
幾つか出入りしているらしい御店やお屋敷で鈴が聞いた話を思い出してそう呟くのも無理はないこと。
こっそりと天井裏で様子を窺っている鈴ですが、長屋の部屋では青い顔をしておかねと弥太郎が顔を合わせて黙りこくっています。
「ねぇ、あんた‥‥比良屋さんは、まだ大丈夫なんだよねぇ?」
「‥‥あたりめぇだろ、俺ぁお前の弟だからって金はやったって恩有る比良屋を売るようなまねぁ出来ねぇ」
「‥‥どうするんだよぅ、あんた‥‥伊与太がとんでもないことを‥‥ここ数日は現れてないけど、宗七のあのやろうまでもが‥‥あぁ、もうあたしゃ耐えられないよぅ」
そう言ってわっと泣き伏すおかねを弥太郎が必死で宥めているその様を見ながら、鈴は首を傾げます。
比良屋といえば薬種問屋でなかなかに名の知れた店で、高価な薬だけでなく、薬効のあると言われる食品なども手広く扱っており、またそののんびりした主としっかり者の御店の者が、良心的な商売を行っていると評判のお店です。
「でも‥‥でもあんた、あの手紙に書いた、打太刀の惣十郎って‥‥」
「伊与太が宗七を見てそう言ってたんだ。そんななめぇ名乗って喜んでいるなんざ、ろくなもんじゃねぇだろうし、おめえの弟の様子から、結構名前の知れた悪い奴だと思ってなぁ‥‥」
「銕つぁんの所だと、やっぱりお門違いだったんじゃないかねぇ? 盗賊とかじゃなくて無頼者だったとか‥‥」
「似たようなもんじゃねぇか」
そこまで言って黙りこくる2人を確認していると、御神村が戻ってきて軽く首を振り、この家を見張っている者はいないという事を確認してきたようでした。
暫くして、2人の長屋に嵐童が現れました。
「髪結いを頼む。急ぎだから報酬ははずむよ」
2人はびくついた様子で戸を開けますが、そこにいた嵐童が髪結いの仕事を持ってきたことにほっとすると、弥太郎は伺うようにおかねを見ます。
「今日は伊与太は戻ってくるのは遅いだろうから、大丈夫だ、行っておいであんた」
そう言うおかねに頷いて、髪結い道具を手に嵐童について家を出ると、弥太郎は落ちつかな気に辺りを窺いながら歩き、嵐童は平井屋という小さな宿へと弥太郎を連れて行くと、上の部屋へと促しました。
「良かった、ここのところお休みが多いって聞いてたから来てもらえなかったらどうしようって思ってたんだ」
そう言ってにこりと笑うと、所所楽石榴(eb1098)は弥太郎を迎え入れます。
尾行などが無かったことからこの夫婦が今のところ見張られたりということが無いのを確認した上、平井屋は綾藤と長い付き合いのある信頼置ける宿とのこと。
婚約者で後援者なのだとレヴィン・グリーン(eb0939)を紹介してから、髪型をもっと華やかになびく、踊りにあったものにしたいと伝えると、弥太郎は頷いて道具を取り出します。
「そうだねぇ‥‥なびかせるなら今のが一番でしょうが‥‥まぁ、やってみましょうさねぇ‥‥」
そう言いながら石榴の長い髪を梳くと器用に髪結い道具を使って上部をまず一房に束ねてから、二つ輪に少したらすようにして結い分け結ったところに、紫苑のちり緬で花を模りとめて軽く額をぬぐう弥太郎。
「見事なものですが、良いのですか? その、そんなに立派な‥‥」
「そりゃ、こういう仕事ぁ良いもん作りたかったら今自分が持っているものでいかに最上の仕事が出来るかなんでさぁ」
程よい薄く軽い反物からさっと適度の長さに切り、たらしたままの髪と、先ほど結った先の髪を先ほど結った場所の直ぐ下まで結い上げて、その布で包むようにまとめると弥太郎はそう胸を張って言うと、最後にそれまで石榴が髪を結い上げていたもので髪をずべてまとめたところをしっかりと結わえて手をとめます。
「こんなんはいかがですかねぇ?」
そう言う弥太郎に頷くレヴィン。
「ところで、実は貴方にお伺いしたいことが‥‥」
そう切り出したレヴィンに目を瞬かせると、今回平蔵の依頼で二人のところへと行き着いたこと、打太刀の宗十郎をすでに捕らえたことを伝えると、弥太郎はへなへなとその場に座り込みます。
「銕つあんは‥‥その、俺ら夫婦のことは‥‥」
「安心してください、お二人を捕らえようという気持ちはありませんよ」
そう微笑を浮かべて言う石榴の言葉に、弥太郎の顔には安堵が浮かぶのでした。
●杜父魚の稲吉
「さてと‥‥もう一つ張ってみるかねぇ‥‥」
貰ったお駄賃の残りを見ながらむむと小さく唸るのは嵐山。
「虎彦、解ってはいると思うが‥‥」
そう他に聞こえないほどの小さなささやきで注意する誠志郎の視線の先にはおかねの弟・伊与太が苛ついたように張ってはスルを繰り返しています。
あの後、弥太郎とおかねは一時他の仲間がかげながら護衛を勤め、手続きが済み次第同心の警護に移ることが決まり、二人は知っていることは洗いざらい話したのですが、やはり弟が言っていたことぐらいしか知らないのもあり、伊与太を引っ括って話を聞いたほうが良いということになったようです。
「しっかしなんだな、あいつ‥‥」
いったん場を離れ酒を口にしながら伊与太をよくよく見ればその目元、口元は確かにおかねとよく似通っているのですが、なんともその目付きが嫌に血走り、じろじろと人を見ては、口の中でもごもごと悪態を付いています。
「あの姉とは似ても似つかん男だな‥‥」
嵐山の言葉に頷いて続ける誠志郎。
「ところで、例の比良屋‥‥どんな店なんだ?」
「何で俺に聞くよ」
「何でって、虎彦は‥‥」
良く出入りしているだろうという言葉を飲み込んで、誠志郎は苛立たしげに場を立ち戸口へと向かう伊与太にちらりと目を向け。
先に誠志郎が立ち上がり伊与太の後をつけます。
様子を見て嵐山も立ち上がりあとを追うのに加われば、肩を怒らせよろめきながらたどり着いたのは小さな一軒の酒場。
中にはいかにも血気盛んな30程の男が伊与太と共に酒を舐め、座敷にはなにやら女と男が酒を飲んでいるようです。
「おう、おやじ、酒だ酒」
嵐山の言葉に頷いて酒と付け合せに熱い揚げ出しが出されると、直ぐに引っ込む店の亭主。
伊与太と男はちらりと目を向けるも直ぐにひそひそと話を続け、座敷へと目を向ければ、なにやら嵐山には見覚えのある男が。
どうやら目的は同じ男のようで、伊与太と男は暫く言葉を交わした後、二人で連れ立って感情をおくと店の外へと歩き出します。
嵐山は誠志郎と密かに後をつけてきている御神村に任せ、同じく席を立った女性を見送ってその男性へと歩み寄って声をかけました。
「東条じゃねぇか」
「嵐山も仕事かえ?」
酒場で二人が情報を交換している間に、誠志郎は伊与太がとある旅籠へと入るのを確認し。
後をつけて男の本拠地を確認してから、御神村も戻ります。
次の日の綾藤の一室、それまで平蔵のところに賑やかな客人が来て戻っていったのを見送ってから、夫婦の護衛を除いて報告をする一同。
「どうやらこいつぁ‥‥その伊与太の繋ぎを行っていた男は鼬の孫次といってな、別件で調べさせていた奴らでなぁ」
そう言ってしきりに手元の煙管を撫でる平蔵。
「ちょうどあちらから、伊与太がもともといた頭の名が『杜父魚の稲吉』‥‥かくふつのいなきちという、5〜6年かけて仕事をするような盗賊を調べていることがわかったんだが‥‥」
あちらでは孫次の繋ぎの相手が分からなかったらしい、と苦笑気味に言う平蔵。
「だがな、伊予太の入っていった宿、あれを役宅で少々調べさせたところ、手の者の一人がその宿を知っていてな」
そういって低く笑うと、煙管に煙草の葉をつめる平蔵に、誠志郎が膝を進めて口を開きます。
「では、その宿は誰の盗賊宿で‥‥?」
火をつけた煙管を手に持ったまま、平蔵は口元に笑みを浮かべつつ、どこかを睨みつけるようにその名を口にするのでした。
「『三倉の勘べぇ』‥‥急ぎ働きの凶賊よ」