【凶賊盗賊改方】密告 第六話

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:7人

サポート参加人数:8人

冒険期間:01月12日〜01月17日

リプレイ公開日:2006年01月20日

●オープニング

 その日、ギルドへと懐に大事そうに手紙を抱えた亥兵衛が現れたのはちょうどお昼時のことでした。
「実は先の捕り物で存分に腕を奮っていただきやした皆さん方に慰安の宴を、新年の祝いの意味も兼ねて行おうとの事で、長谷川様よりお手紙を預かっておりやして」
 そう言って頭を下げる亥兵衛に、なるほど、声をかけておきましょう、と言うギルドの受付の青年。
 と、そこへひょっこりとお供を連れた人影が近付きます。
「実は今日はお願いが‥‥おや? これは、先日お知らせを持って来てくだすった‥‥」
「これは、比良屋の旦那に荘吉坊‥‥」
「ちょうど良かった、実は私どもお礼も兼ねて、先の件の皆様に綾藤で一席用意しようかと思いまして‥‥」
 思わず顔を見合わせる亥兵衛と受付の青年。
「実はあっしもそのことでこちらに伺ってたんですよ」
「そうなんですか?」
 暫く受付の青年を交えて談笑する二人に、荘吉は仕方ないとばかりに溜息をつくのでした。

「そう言えば、その、一番始めの投げ文のってどうなったんですか?」
 あの夫婦は? と聞く青年に本来は連座になるかも知れないところですが、平蔵の判断でお構いなしだったそうです。
 ただし、当然弟である伊与太は先の三組の盗賊凶賊の処刑の中にいたそう。
「それでも弟だからと気落ちしているらしい、おかねさんは」
「そうですか‥‥」
「なんで数日後に旦那さんと少し江戸を離れて気持ちの整理をしてくるってぇ話でさ」
 亥兵衛が言うと、頷く受付の青年。
「ですが、必ず戻ってくるそうで、これ以上罪を重ねさせねぇで済んだ、とこう言ってたそうで」
「そうですか‥‥何はともあれ、それぞれがそれぞれの形に落ち着いたんですね」
 そう言って頷きながら、受付の青年は亥兵衛から受け取った手紙を畳むのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

七神 斗織(ea3225)/ 竜 太猛(ea6321)/ 野乃宮 霞月(ea6388)/ ヴァルフェル・カーネリアン(ea7141)/ リノルディア・カインハーツ(eb0862)/ リリン・リラ(eb0964)/ ギーヴ・リュース(eb0985)/ ルピナス・シンラ(eb0996

●リプレイ本文

●再会
「ようこそ皆様、良くいらして下さいました」
 そう言って頭を下げるのは比良屋主人と丁稚の少年、そしてお弓です。
 ここは船宿の綾藤、宴会用に用意された一室では既に座の用意は出来ており、綾藤の女将お藤やお燕と共に手伝いに走り回っている、もう一組の冒険者の1人であり平蔵の密偵でも有る貴由の姿があります。
「よぉ、早いなぁ」
 嵐山虎彦(ea3269)が上がり込むと、既に盗賊達の処断についての話をしている天風誠志郎(ea8191)と九十九嵐童(ea3220)の姿が見受けられ、声をかけそれに加わりどっかりと座り込む嵐山。
「なんでも聞いた話では勘べぇ一味と伝五郎一味は残らず磔、稲吉一味も僅かの者が逃れ、それ以外は残らずらしいな」
 嵐童が言えば、誠志郎も頷き付け足します。
「まぁ、その逃れたと言われている者は牢内に留め置かれているのだがな‥‥長谷川殿の御指図らしい」
「てぇことは、見所があるかも、と思われている奴が居るか‥‥」
「もしくはまだ情報が引き出せるから、ここでさっくりと片しちゃいけねえって事だろうなぁ」
 言いかける嵐山の言葉を継ぐような形で顔を出すのは御神村茉織(ea4653)。
 竜 太猛と共に何やら先程まで台所にいたようで、微かに甘い匂いをさせながら御神村は茶の載った盆を差し出して続けます。
「長谷川の旦那は少し遅れてくるようだからな、その辺はまた来てから聞くのが良いんじゃねぇか?」
 そう言う御神村の言葉に3人が頷いて返すと、そこに急に間の抜けたようなのんびりした声が割って入ります。
「これはこれは‥‥何やら甘い良い匂いがするなぁ」
 ひょっこりと顔を現したのは同心の木下忠次で、見ればもう一組の方の集まる部屋にいる3人の同僚達と共にやって来たようで、忠次は暢気に笑って顔見知りである嵐山や御神村に挨拶をしています。
「あの、御神村さん」
 そこへとかけられる声に振り返ると、お燕が2人の人間を連れて部屋の入口から呼んでいるようで、見ればすっかりと窶れてしまってはいるものの、旅装束できっちり身形を調えたおかねと弥太郎の夫婦が深々と頭を下げていました。
「そんなところにいねぇで、中はいんな」
 そう笑って迎え入れる御神村に頷いて、おかねと弥太郎は部屋へと入ってくるのでした。
 暫くして、三味線を持ち紺瑠璃の地に桜・菊・梅と花の散りばめられた清しい振袖に身を包んだ小鳥遊美琴(ea0392)が入ってくると、続いて津村武兵衛と、その後ろから白井鈴(ea4026)が大小の犬を連れて入ってきて、足をきちんと雑巾を受け取って拭いてから自分の直ぐ側に行儀良く座らせているよう。
「そろそろ揃ったようであるな」
 入ってきて武兵衛が言うと、美琴が三味線でゆったりとした曲を奏で始め、新年の宴は始まるのでした。

●宴会までの一幕
 宴が始まってそう経たない頃、レヴィン・グリーン(eb0939)は綾藤の直ぐ側で平蔵がやってくるのを待っていました。
 何もなければそれで良いのですが、いつまた平蔵が狙われ襲撃を受けるかも分からないからです。
「あ‥‥」
 ゆったりとした足取りで歩いてくる平蔵にほっと息をつくレヴィンですが、敵の息遣いを調べれば、平蔵以外で微かに感じるその息遣いは3つ。
 レヴィンは一つ息をついてからスクロールを持ち、平蔵へとその旨を隠して伝えると、平蔵もほんの一瞬だけ目が合うレヴィンへと分かるかどうかと言うぐらいで頷いて見せ、まるで誘き寄せるかのように駆け出し、角を曲がるとそれを追う男達も慌てて駆け出し‥‥続いて鈍い音が聞こえてきます。
「おぅ、すまねぇが、お藤に言って改方から人を寄越してこいつらを運んでくれるように伝えて貰えねぇか?」
 レヴィンがその壁の向こうを覗き込むと、平蔵はにっこりと笑いながらそう言うのでした。

●和やかな宴席
「おう、遅れて済まなんだ」
 それぞれが食事やら何やら摘んでいると、やがて平蔵がレヴィンを伴い部屋へ入ってきて、何事もなかったかのように武兵衛の勧める席へと足を進めます。
「さ、構わん、どんどんやってくれ」
 早速席に着き貴由に酒を注いで貰いながら言うと、商人がにこにことしながら平蔵の前へと遣っていき、暫く二人で談笑を始めました。
「旦那、御疲れたぁ思いますがまぁ一献。これからも腕ぇ振るわせて下せぇな」
 そう言って平蔵へと酒を注ぎ、言葉を交わしてから忠次の元へ戻り酒に付き合わせる嵐山。
 忠次は甘い甘い饅頭を肴に願ったり叶ったりといった様子でくいくい少し調子に乗って嵐山ととことん呑むつもりのよう。
「これは異国のけーきと言う食べ物の一種なんだが‥‥要は当たり入りの菓子だ」
 御神村がそう言って手作りの菓子を振る舞う相手はおかねと弥太郎夫婦。
 太猛の華国の菓子と合わせて目にも香りも楽しいそれを受け取り、緩やかに寂しげな笑みを浮かべて受け取ると、菓子を一口運び美味しいと礼を言うおかね。
「そう暗い顔しなさんな。旦那が心配するぜ? 偽善だが、おかねさんが達者で幸せに暮らすんが何よりの供養だ」
「‥‥本当に、有難うございます‥‥」
 一筋涙を零したおかねは、御神村の言葉ににこりと微笑を浮かべると、その菓子を食べ進めるのでした。
 ヴァルフェル・カーネリアンの手彫りの杯を受け取り、手に持ってしっくり来ると礼を言う平蔵に、それをヴァルフェルに伝える野乃宮 霞月。
 そこにひょっこり顔を覗かせる鈴は、空いた杯を手にとってむぅ、とばかりに平蔵を見上げます。
「見た目はこんなでも実際の年齢は立派に大人だからお酒飲むもん。いっつも見た目で止められるんだよね」
「おお、これは済まなんだ、まま、一献‥‥」
「うん、貰うね♪」
 注がれた杯を口元へと運びちびりと呑むとにっこりと笑う鈴は、平蔵へと笑顔を向けたまま口を開きます。
「ホント今回の一連の依頼上手くいってよかったよね。僕はそんなに大したコトできなかったけどさ」
「いやいや、白井殿も、そして皆も本当に良くやってくれればこそ、こうして旨い酒が呑めるのよ」
「また何かあったときはできる範囲でいつでも協力するし。うん、お約束ー」
 木彫りの杯を持ったまま低く、それでいて嬉しそうに目を細めて平蔵は鈴に笑いかけ頷くのでした。
「ちょっとした余興でもしましょうか」
 そう言い出したのはレヴィン。
 レヴィンはスクロールを取り出し、部屋から眺められる川へと注意を向けさせると、そこに鮮やかな虹の蜃気楼を作り上げ、宿から酒を飲む者達へと目で楽しませます。
「あ、僕も〜」
 そう言うと、ちょこちょこと部屋の端っこで遊んでいた大小二匹の犬を呼び寄せる鈴。
「虎丸!」
「わうっ!」
 見れば虎丸は鈴が指示すれば、それに合わせて伏せ、膳を避けて飛び、ころんと転がって見せます。
 そして、その後ろを一所懸命よたよたと虎丸の後を追っかけてぽてっと転び、お膳に躓いてころころ転がっていく黒白。
「きゅうぅ‥‥」
 まるで泣き出しそうに見える表情の黒白に、直ぐ側かで転がってきていた黒白を撫でてくすりと笑うお弓。
 ふと見れば、すっかり和やかな雰囲気の中演奏を休み自身も宴会へと加わった美琴が、お藤を見つけて話しかけています。
「以前は何度もお邪魔しまして‥‥その上、この度は、たくさんの冒険者が出入りして大変だったでしょう。私もそのうちの一人ですけど‥‥本当にご迷惑をおかけしました」
「何をおっしゃいます、賑やかなのはとても楽しいじゃありませんか、ねぇ?」
「また、いずれお仕事を離れて、遊びに来させてくださいね」
「勿論、いらっしゃるのを楽しみに待ってますよ」
 嬉しそうににっこりと笑う美琴に、お藤は優しく微笑みながら暫し会話を楽しむのでした。

●酒の肴に盗賊話
 やがて大分席も落ち着き、ゆっくりと酒を呑み、茶を飲み、菓子や料理を摘みながらいる一行ですが、誠志郎が平蔵の側へと将棋盤を持ってやってくると、平蔵も煙管盆を引き寄せて板へ向かって座り直します。
「どうにも解せぬのだが‥‥」
 平蔵と勝負を始め、大胆でいて、それでいて的確に責めてくる平蔵の駒運びに眉を寄せつつ問いかける誠志郎に、平蔵は煙管を燻らせながら眉を上げます。
「最初にあった密告の文は今回関わった人物の誰かだとは思うが‥‥」
「一番最初の文は、それ、あそこの旅装束で、異国の菓子を口にしている夫婦よ。俺が古い馴染み、でなぁ」
 懐かしむように呟く平蔵を見やり、笑みを浮かべた平蔵と目が合い、言って見ろ、と言われた気分で続ける誠志郎。
「何故、三つもの盗賊団が比良屋に狙いを定めたのか、凶賊改の手が入っているにも関わらず手を引かなかったのか‥‥よく分からん事ばかりだ」
「まぁ、それぞれは狙いのでかい比良屋を狙ったのは頷けるが‥‥伝五郎は勘べぇと稲吉を噛ませ合い、その間に稲吉の情報を配下から聞き出して抜け駆けするつもりだったそうだ。‥‥‥‥最初ぁな」
「最初は?」
 駒を持つ手をぴたりと止めて怪訝そうに見る誠志郎にほろ苦く笑う平蔵。
「伝五郎は稲吉の分け前を奪うつもりと共に、人の良い善良な比良屋が『鼻についた』のよ。これは勘べぇも同じようなものだったとぁ思うが、勘べぇはそれと共に俺の暗殺やらなにやら、元手を使いすぎてたから引くに引けなかったのだろうよ」
「では、稲吉は?」
 誠志郎の答えに煙管盆へと煙管を戻し、袖に手を差し入れながら緩やかに息をつく平蔵。
「稲吉は、早く引けたかったのだろうよ、あの家業からな‥‥盗賊の頭ってのは引退するのに部下へも十分金を遣って遣らなきゃならねぇ。それで、血を見ない盗めとなりゃ、自然と元手もかかっていく‥‥」
 ままならねぇもンだな、と笑って言う平蔵に、二人の会話に気が付いた美琴が歩み寄り、お酒を平蔵に勧めつつ微笑を浮かべます。
「まあまあお二人とも、今日ばかりは役目の話は、後回しにしませんか?」
「おお、そうだな」
 笑って酒を飲む平蔵達の姿やもう一組の冒険者達の宴会の様子をちらりと横目で眺めると、先程から一人物思いに耽っていた様子の嵐童は緩やかに息を吐きます。
「‥‥今年は静かに暮らしたいと思っていたが‥‥どうも無理そうかな‥‥」
 呟いて嵐童は再びゆっくりと一人酒を飲み続けるのでした。

●一つの終幕
「荘吉坊よぅ、盗賊に狙われるっちゅうのは災難だったなぁ」
 わしゃわしゃと比良屋の丁稚の少年・荘吉の頭を撫でながら言う嵐山に、旦那様の緊張感が足りないんです、とむっと眉を寄せる荘吉。
「比良屋の旦那、流石に肝が冷えたんじゃねぇか?」
「そうですねぇ‥‥あぁ、でも、無事だった後には良い経験だったなぁって思いません?」
 全く懲りてない様子でのほほんと聞き返す商人に、嵐山も笑って頷き。
「先だっては、突然驚かせてすみませんでした。でも、ご決断いただいて‥‥本当に、ありがとうございました」
 お弓の心中をおもんばかって一瞬言葉を途切れさせ言う美琴に、お弓は微笑みながら首を振ります。
「いいえ、お陰であたしはまた今まで通り比良屋さんで働くことが出来ます。稲吉のことも‥‥亥兵衛さんのことも、ゆっくり気持ちの整理を付けていこうと思っています。有難うございました」
 お弓がそう答えている向こう側では、七神 斗織が医療室の世話になるほど羽目は外さないようにと注意をし、もう一組の冒険者側ででた酔っぱらいの看病をするために席を立っている誠志郎。
「私が申し上げる事では無いと思いますが出来れば事件に加担されたとはいえそれが本意ではなかった方々には寛大な処置をお願い致します。叶えて頂けるなら今後も必要であれば私も改方に協力させて頂くつもりです」
 こちらではレヴィンがそう言って平蔵に礼をし、平蔵も同情の余地のある者、あまりに罪を重ねすぎた者以外は可能性があるならば真っ当に生きられるようにと尽力をする旨を伝えます。
 そして‥‥。
「旦那。又何かありましたら、いつでも呼んで下せえよ? すぐ駆けつけやすんで」
「うむ‥‥これからも真っ当に生きる者達のためにも、宜しく頼む」
 平蔵へと酒を注ぎつつ言う御神村に僅かに目元を赤くしながら力強く言う平蔵、そして冒険者達を、月はいつまでも照らし続けているのでした。