【凶賊盗賊改方】密告 第五話

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月21日〜12月26日

リプレイ公開日:2005年12月28日

●オープニング

 その日、受付の青年は綾藤で、あいも変わらず緊張した面持ちのままに、彼を呼び出した長谷川平蔵を待っていました。
「待たせてすまぬな」
 そういって現れた平蔵に頭を下げ、お藤の入れた茶を受け取りつつ受付の青年が平蔵を見ると、平蔵も茶を啜り、煙管本を引き寄せてから、愛用の銀煙管を取り出して煙草をつめつつ口を開きます。
「三倉の勘べぇ及び燧切の伝五郎の捕縛を完了させ、残るは杜父魚の稲吉のみとなった。そこで、だ‥‥」
 そこで言葉を止めて煙管を口元へと運びゆっくりと煙を吐き出す平蔵。
「二組の冒険者、それぞれで協力をして、稲吉一味を一網打尽にして欲しい」
 その言葉に目を瞬かせる受付の青年。
「二組で、最大16人で大捕り物ですか?」
「まぁ、いろいろとやることはああるだろう。どうやら稲吉の狙う日取りは概ね分かった。そこでいくつか気になることがあって、な‥‥」
 そう言う平蔵に首を傾げる受付の青年。
「気になること、ですか?」
「あぁ、一つは実際の稲吉の押し込みを防ぐことだ。それには正確な討ち入りの日、また、動きの一つをとっても抑えておかねばならぬことだ」
「それは‥‥はい、そうですねぇ」
 考えるようにして頷く受付の青年。
「そしていま一つは稲吉の引き込み、お弓と言う女の処遇。これも大きくなってくるだろう」
「‥‥‥‥えっと、一緒に捕まえちゃわないんですか?」
「それは冒険者次第であろうな。捕らえるとしてもその頃合いを見誤れば、稲吉は直ぐに姿を消してしまうであろう」
「はぁ‥‥」
 混乱してきたのか、あいまいに頷く受付の青年に、ゆったりと煙管を燻らせ理解するまで待つ平蔵。
「そして、いまひとつ‥‥稲吉ほどの者ならば、盗人宿も、また今回のお盗めに使っていない部下もそれなりにいるはず。それが皆が皆、稲吉のお盗めを守る者とも限らん」
「つまり、それが凶賊へと代わらないって言う保障がないってことですね」
「その通りだ」
 頷く平蔵の言葉に、暫く考えるようにして受付の青年は口を開きます。
「えっと、で、では私はどういう風に依頼を出せばいいんでしょ?」
「そうさなぁ‥‥俺が相談の中継に入り、まとめる、ではどうか?」
「‥‥とりあえず、それで出してみましょう」
 受付の青年は、平蔵の言葉を受けて依頼をまとめる為に手元の紙へと筆を走らせるのでした。

「さて、そこで面白いことが起きてなぁ」
 筆を走らせる受付の青年に、平蔵は悪戯っぽい笑みを浮かべると一通の布に認められた手紙を取り出します。
「なんですか? これは‥‥『年を越す前に、懐を暖めようとしている盗賊がおります。何卒、追い払ってくださいまし』‥‥これって‥‥」
「まぁ、密告、だぁなぁ」
「って、誰が‥‥?」
「まぁだ葛藤があるようだな、捕らえてくれとは言わんで、警告だけを出してきていやがる」
「‥‥」
 苦い笑みを浮かべた平蔵を暫く見つめると、受付の青年は再び筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4026 白井 鈴(32歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

●お弓
「あいたたた、じ、持病の癪が‥‥」
「ま、まぁ、大丈夫ですか? さぁさ、とりあえずこちらへ‥‥」
 人の良さそうな下男が比良屋の前でしゃがみ込んでいた旅装束の女性を招きいれたのは、まだ昼のこと。
 女性といっても、それは旅装束に身を包んだ小鳥遊美琴(ea0392)。
「‥‥こちらがお薬問屋とはなんとありがたい、どうか、少々休ませてはいただけませんか?」
「えぇ、旅の途中では心許ないでしょう、休んでいてください、今旦那様に‥‥あぁお弓さん、女性の方だ、あんたの方が何かと都合がいいでしょう」
「あぁ、今荘吉さんから薬湯をって言われて持てきたんだよ、源治さんは旦那様に」
 そう言って布団へと美琴を寝かせた下男が慌しく去るのと入れ替わりに、20そこそこの女性が美琴の枕元へと腰を下ろすと薬湯を飲ませようとしてくれます。
「‥‥お弓さん、ですね」
「え‥‥?」
 美琴が話しかけるのに驚いたように美琴を見るお弓に、美琴は言葉を続けます。
「驚かせてごめんなさい。改方に投げ文をされていたのは、貴女でしょう?」
 いわれる言葉に真っ青になって小さく身体を震わすお弓。
「改方は、貴方の投げ文を元に既に動いています。比良屋を狙う賊は、次々と捕縛されています。ですが‥‥私達は今、貴方の情報を必要としているんです。」
「‥‥おとっつぁんの‥‥いえ、杜父魚の稲吉の‥‥」
 頷く美琴に青ざめたまま俯くお弓。
 そこへ人の良さそうなふっくらとした商人がひょっこり顔を出し、お弓へと世話を言いつけて、ゆっくり休んでいってください、と笑いながら去っていきます。
「貴女は改方への協力者であると同時に、杜父魚の稲吉の引き込みでもある、そうではございませんか?」
「そ、それは‥‥」
「その矛盾した行いは‥‥元々、稲吉の引き込みとしてこちらにご奉公に上がったのが、
すっかりこのお店が気に入ってしまったから‥‥なのではないでしょうか」
 美琴の言葉にわっと泣き伏すお弓に、美琴は微笑を浮かべて続けます。
「貴女は、盗みはいけない事だと、この人達の生活を壊したくないと、思っておいでなのではないですか? もしそうなら、どうか‥‥」
 泣きじゃくりながら頷くお弓を覗き込むと、美琴はゆっくりと言葉を告げます。
「稲吉を捕らえる為に、私達に協力してはいただけませんか?」
 美琴の言葉に、お弓は顔を覆って泣きじゃくっているのでした。

●盗賊宿
「さぁて、知らねぇなぁ」
 役宅の納屋に吊るされながらも、伊与太は改方は奉行所と大差ないと思ってか、舐めてかかっているようでした、その時までは。
「‥‥どうやらこの男、決行日は知らされていないようですね」
「まぁ、こう次から次へと裏切っている男だ、信用されちゃいねえんだろ」
 スクロールを手に言うレヴィン・グリーン(eb0939)にじろりとねめつける様にして言う御神村茉織(ea4653)。
「‥‥ただ、稲吉がその盗みに使わない者達の、いわば溜まり場、ですかね。盗賊宿の一箇所が分かりましたね」
「な、何適当な事言ってやがる‥‥」
「他にも何か知ってるかもしれんな‥‥集まっている情報を一度整理する為にも合流するか、ここは役宅内の者へと任せて」
 それは当然、レヴィンの取った手のように強制的に聞き出せるものの優しい取調べとは無縁のことが待っているわけで。
「そろそろ他の情報も入ってきてるでしょうし、一度合流しましょう」
 頷くレヴィンを嘲笑う伊与太ですが、自身の悪行にしては、たいした度胸も忍耐力も持たず、後直ぐに洗い浚い吐かされる事となるのでした。
「お弓の知っていた宿がこことこちら‥‥そして伊与太と孫次で4箇所‥‥」
 絵図面を前に記していくのは天風誠志郎(ea8191)。
 誠志郎は既に改方が掴んでいた宿を筆で認めると、それを覗き込むのは嵐山虎彦(ea3269)。
「それにしても、もう日がねぇな‥‥」
「あぁ、だから尚の事慎重かつ迅速に動かねばな」
 誠志郎が頷くと、九十九嵐童(ea3220)が平蔵へと目を向けて問いかけます。
「ところで、この引き込みのお弓は捕まったらどうなるんだ? できれば‥‥」
 嵐童の言葉にゆるりと煙管を燻らす平蔵、御神村は嵐童へと口を開きます。
「確かに‥‥美琴の話では捕縛にも協力し、実際に情報の提供もしている。お咎めは無しとは行かないまでも、軽くって事でいいんじゃねぇか?」
「うん‥‥お弓さんの様子、さっきちょっと見てきたけど‥‥出来れば助けてあげたいな」
 白井鈴(ea4026)も言うのに、ちらりと誠志郎へと目を向ける平蔵。
「天風はどう見た」
「は‥‥比良屋に窺ってそれとなく聞いたところ、それはもう陰日なたなく働くそうで、また、ここの所思い悩むさまはあるものの店の者も主も気に入っているようで‥‥本心からの協力と思われますが」
「出来るならばお目こぼしをと俺も思うがなぁ‥‥まぁ、旦那なら良いようにしてくれるたぁ思うがな♪」
 誠志郎、そして嵐山の言葉にのどの奥で低く笑うと、煙管盆を引き寄せて灰を捨て、袂へと煙管をしまいつつ平蔵はにやりと笑います。
「まぁ考えてもみねぇ‥‥お弓はまだなぁんも盗んじゃいねぇ。出来心で捕らえられるんなら、今頃伝馬町の牢も役宅の牢も凄い事にならぁな。なぁ?」
 そういって平蔵が刀の手入れをしている風斬乱(ea7394)へと言うと、風斬はにやりと笑って見せるのでした。

●出動
 夜も更け、人気も無くなった道を密かに進む一団があります。
 街中を音もなく駆け抜け、そして目的の場所、薬種問屋『比良屋』の裏手に差し掛かった一団は、一人の男がその裏とを小さくたたくと、これもまたすと音もなく開かれ、男達を迎え入れます。
「‥‥店の者は」
「皆眠っている‥‥」
 そう男へと囁き、部屋へと戻るように促されて奥へと戻るお弓を見送ると、一団はそれぞれ金倉や薬草を保管する部屋やらへとばらばらと散り、戸がそのとき閉じたことに全くといっていいほど気が付きません。
「灯りをっ!」
 サラが声を上げると共に、一斉に店の外米から『凶盗』と認められた高提灯が掲げられます。
「畜生、お弓のやつ、実の親父を売りやがったなっ!!」
 激昂して吼える稲吉に、びくりと怯えた様に身体を震わせるお弓ですが、入り口で平蔵の背後に控える美琴と誠志郎に守られるような形で目に涙を浮かべて睨みつけるお弓。
「おとっつぁんじゃなかったくせにっ! 全部全部、おっかさんがあたしを捨てて逃げたなんていう嘘を‥‥殺したくせにっ!」
 お弓を同心へと任せて向き直る美琴にじりっと後退ると平蔵たちから逃げるように裏口へと戻る稲吉ですが、そこに待ち構えていたのは嵐山と、倒され裏口を塞いである大八車、そしてそれを倒す手伝いをした忠次の姿です。
「いよいよ年貢の納め時って奴だぜ。‥‥観念しな!」
「何を‥‥お主を斬って通るまでよっ!」
「くっ!?」
 鋭い一撃で斬り込む男に十手で受け流しつつ六角棒を繰り出す嵐山ですが、刀を左肩へと深々と受け、また、男は嵐山の破壊力のある一撃に倒れ伏し刀を手放します。
「お前だけは絶対に逃がすだけにはいかねぇんだよ!」
「くっ! 此方は無理じゃ、別の道を‥‥っ!」
 血を散らし片膝をつきつつも嵐山がにやりと笑うのを見て、戦慄が走ったのか稲吉が叫び、散り散りに逃げ出す稲吉一味。
「逃がさないじゃーんっ!!」
 塀を乗り越えようとする男が顔を外へと出した瞬間、突如身体を強張らせるとぼとりと塀の内側へと落ち、その先には愛馬ぽちょむきんに乗ってむむと眉を寄せながら次に備えているレーラと、乗り越えてきた男を叩き伏せる早田の姿が。
「絶好調じゃんとやらだな、レーラ殿」
 捕物縄で次に来た男が固まって落ちるのを引っ括りながら笑って言う早田。
「む、むむ、ちょっと数が多いじゃ〜ん」
「そこっ!」
 気を取られたレーラと早田に駆け寄る盗賊の足へと絡みつく縄と石で作った即席の捕り物道具で相手を転倒させるサラ。
「次だっ!」
「本っ当、お世話になりますっ!」
 サラを守るように十手を振るう伊勢の声にそう返しながら新たな縄を握りそれを正確に相手の足下へ投げるサラと、此方の方の守りは万全のようです。
「一人も逃がせないの、わっかるかな〜?」
 サラはこんな時ですらにっと、明るく元気の良い笑顔を浮かべて敵へと向かうのでした。
「う、うわぁぁぁっ!? な、何だこれはっ!?」
 一方、反対側の通りへ向かいと逃げ出した男達は、通り抜ける蔵と蔵の間に突如現れた全く同じ顔をした3つの影に恐れおののき逃げまどっています。
「どんな理由を付けようと盗賊は盗賊! 消して逃がさないわ!」
 亥兵衛の家の灰を握りしめながら鋭い眼差しで男達を追い立てるゼラに、裏手に回り逃げ道を探している男に音も無く近付き小柄を振るい、匕首を振りまわしながら絶叫する男からすと素早く飛び退り姿をくらまして攪乱しているのは嵐童。
「そちらへ3名ほど行きましたよ!」
 息遣いを感知し咄嗟に指示を出すレヴィンに、その先へといる男に群がる同心達。
「此処で幕引きだ‥‥ご退場願おう」
 比良屋の中で逃げまどっていた稲吉に金房を向ける誠志郎。
「つ‥‥捕まって堪るかぇ‥‥」
「っ‥‥! ただで逃げられると思うな!」
 必死で身をかわして逃げる稲吉に、追う誠志郎は稲吉が配下の手を借り塀を駆け上がり一目散に逃げ出すのに気が付き愛馬ぽちょむきんを駆り追うレーラに、飛び出して稲吉へと疾走の術で追いすがる美琴。
「っ!?」
 逃げる稲吉の前に突如、ひとりの男の姿が浮かびます。
「‥‥お前さん‥‥そう、だったのかぇ‥‥」
 そこに立つのは稲吉と酒を交わした鷹司。
 鷹司を見て立ち止まると、がっくりと膝をつき項垂れ、匕首を落とすと、その後稲吉は抵抗する様子もなく鷹司に取り押さえられるのでした。

●末期の酒
「いやいや、御店が狙われるなんて言うのは、なんだか冷や冷やするものですねぇ」
「‥‥お気楽に綾藤の女将さん相手にお酒呑んで酔い潰されてあっさり居眠ってたくせに‥‥」
「はっはっは、まぁ、うちの御店の者も誰ひとり怪我もなく、清之輔にお雪も綾藤さんで可愛がって貰いまして、良いお休みが頂けました」
 一同へと上機嫌でそう話すのは比良屋のふくよかな商人。
 この商人はお弓が無事に戻ってきてほっとしたようで、何故お弓が捕物の手助けに頼まれたかも気にする様子はないよう。
「本当に有難うございました、是が非にも何かお礼を‥‥」
 そう言う商人は、また改めて礼をと伝えて、御店の者と共に宛がわれた綾藤の一室で仲良く食事をし、それぞれ休むそうで引き取っていきます。。
「平蔵殿、一杯やらぬか?」
「おぅ、そいつは良いな」
 風斬の言葉に笑って頷き歩み寄って腰を下ろし、杯を受け取ると、平蔵は注がれる酒をゆっくりと飲み干します。
「仲間は上手くやっている、俺たちはただ信じて待てばいい‥‥夜は冷える‥‥一杯やっても罰は当たらぬ」
 そう言って他の者にも酒を勧める風斬に、そうだな、と頷いてそれに加わる嵐山。
「後一カ所‥‥それが押さえ終えれば、後は散っている稲吉一味や関わりのあるで有ろう盗賊達がかかるのを、暫く張っておれば良いのだしな」
「捕縛された稲吉一味にも一杯やったらいい‥‥」
 『末期の酒だからな』とばかりに言う風斬は、最後の酒をじっくりと味わっている稲吉達の姿を思い浮かべてにやりと笑みを浮かべるのでした。