【盗賊の息子】濡れ衣

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月03日〜02月08日

リプレイ公開日:2006年02月14日

●オープニング

 その日、ギルドへと長谷川平蔵が1人の男と連れだってやって来たのは日の暖かい冬の日のことでした。
「あ、これは‥‥」
 受付の青年が腰を上げて平蔵と壮年男性を見比べていると、それに低く笑う平蔵。
「これは俺の古い友人でな。剣術仲間とでも言うのか‥‥何度かこちらで世話になっているようだな」
「えっと、奥様やお嬢様に贔屓にしていただきまして」
 頭を下げる青年に笑って首を振る壮年男性は進められて席に着くと、どう切り出すかという様子で平蔵を見ます。
「実はな‥‥ちぃと子供を1人、保護してなぁ」
 そう口を開く平蔵は、どこか微苦笑とも取れる表情で説明を始めます。
 どうやらその保護した少年は江戸の郊外の小さな村で生まれたそうで、父親は既にお仕置きになった盗賊で、母とその祖父母も父親が盗賊だと知って少年を追い出してしまったそう。
 少年はそのまま江戸へと流れ込み、何とか大人でも嫌がるような仕事の手伝いで僅かな駄賃を貰って命を繋いできたそうです。
 しかし先の大火以降、めげずに暮らしていく庶民達がいる一方で、農村部から流れてきた貧しい者達はここぞとばかりに盗みを働いたり、盗賊へと堕ちていく者も後を絶たなくなっているよう。
 そんな中で貧しい暮らしの捌け口、とでも言うのでしょうか、少年の素性を知る若い男が言い出した、『こいつの父親は盗賊だ』と言う言葉が引き金となり、生活は一変したそうです。
 働いても駄賃を貰えなくなり、僅かに手に入れた金や食料は取り上げられ、挙げ句、心ない者達の悪事を一身に背負わされ、平蔵が通りかかり保護したときには酷い衰弱具合だったそうです。
「大の大人が寄って集り、腹の虫が治まらないと申しては殴る蹴るの、全く持ってけしからぬっ」
 近い年頃の娘がいるためか、憤りを込めて言う壮年男性。
「俺の信用置ける医者に頼んで任せているのだが‥‥」
 そう言って袂に手を入れ深く息を吐く平蔵。
「だが、危害を加えていた者達はその子供に罪を被せて素知らぬふりをするつもりらしい」
 どうやら盗賊の手引きをしていただの盗みを働く子供だのと申し立てが奉行所と改方に投げ込まれていたらしいのですが、奉行所は信憑性のない垂れ込みよりも、他の事件で手一杯のようです。
 凶賊盗賊改方は、どんな内容であれ手がかりとならないとも限らないとの見解と、実際どんな理由を付けようと盗みは盗み、それを行っていた者達を見過ごすわけにはいかないとの結論が出たよう。
「なので、盗賊の引き込みをしていた、と言われるその経緯を理由に改方でこの事件は暫く預かることと相成った‥‥訳なんだがなぁ‥‥」
「わしは決してあの幼子がそのような悪事を働いていたとは思えぬが‥‥他にそれを行った者達が分からねば、口裏を合わせて追い落としておる者達がいる以上、奉行所の方に身柄を移され、そのままお仕置きとなる可能性もある」
「ちょ‥‥だって、それって可笑しいじゃないですか!? その子、やってないんでしょう?」
 吃驚したように言う受付の青年に頷く平蔵。
「少ししてこちらで何も出せなんだ場合は‥‥そう言うことになるだろうな」
 あまりのことに言葉もない受付の青年に、平蔵は言葉を続けます。
「傷が癒え、そろそろ先生の手を煩わせないように場所を移さねばならん、そこでこやつに預かって貰えぬかとなったわけだ」
「妻も娘も承諾しておる。元は素直であったろう様が何とも、痛々しく憐れ故、何とかしてやれぬかと、この、平蔵さんと相談してこちらへと伺わせていただいた」
「‥‥では?」
「うむ、その少年の濡れ衣、晴らしては貰えねぇか? まずはそれからだ」

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2850 イェレミーアス・アーヴァイン(37歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3605 磐山 岩乃丈(41歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

沖鷹 又三郎(ea5927)/ システィーナ・ヴィント(ea7435)/ 香椎 梓(eb3243)/ フォルナリーナ・シャナイア(eb4462

●リプレイ本文

●父の足跡
「無理を言って申し訳なく‥‥」
「何、儂に出来る事ぐらいさせて貰わぬとな」
 改方の役宅、高く積み上がった長所の数々からその一束を取り出す津村武兵衛与力と言葉を交わすのは時永貴由(ea2702)。
「鶴吉が父親は永見の鶴助‥‥腕っ節が強く目が良く見張りから押し込み先の殺傷まで、何かと重宝されていたようだ。先年お仕置きになっておるな」
「奉行所の管轄と言うことでしょうか」
「その時の探索は奉行所管轄であった、改方自体がまだ発足しておらなんだ」
 そう言うと顔を知られていない盗賊とのことで特徴の書かれた所を開いて貴由へと見せる武兵衛。
「『鬼形の松太郎』という賊の右腕で、一味は未だ捕らえられてはおらず、江戸を落ちておるようじゃ」
 少し考える様子を見せる貴由は、津村へと鶴吉の生まれた村の位置を確認するのでした。
「では、その日主人夫婦について人があらかた出払っていた為に被害は少なかったと‥‥」
「とはいえ、下男と飯炊き女が殺され、金蔵一つ破られてたからかなりきつくてな‥‥まぁ、手引きした者がいなきゃ‥‥あの餓鬼が‥‥」
 忌々しげに舌打ちをする男に、一瞬目を伏せるのは逢莉笛舞(ea6780)。
 舞は鶴吉の働いていた辺りの屑紙拾いや使いっ走りでやっと蕎麦一杯かそこいらの金を稼ぎ、そのうちのほとんどを辺りの乞食達に奪われていることなどを聞きながら、ちょうど鶴吉の出入りした御店で話を聞くことが出来たよう。
「殺された飯盛り女がよく同情して握り飯などをくれてやっていたようだが、まさしく恩を仇で返されたようだな」
 男は得々と鶴吉について言いますが、それはほぼでっち上げにも近い内容で、小ずるそうににやり、と男は笑うのでした。
「ハーフエルフと言い、何故世間は生まれのみで人を判断しようとするのか‥‥」
 そうイェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)は呟くように言います。
 イェレミーアスは平蔵から受け取った紙の束を手に既にいくつもの場所を聞き込みに回っては、それを逐一記録していたのですが、その偏見に満ちた根拠のない理由から鶴吉の罪状を作り上げた者達へ、やるせない思いを抱いているようでした。
 小さな盗みや掏摸などは、面白半分に話す者達から大人がやっていたということを聞き出していたイェレミーアスですが、2件程の引き込みといわれる方についてはどちらも証拠は見つからないものの、言い立てた者自体がそもそも見つからないのです。
 イェレミーアスは小さく息を吐くと、再び歩き出すのでした。

●怯える子供
「鶴吉君を虐めた奴らが目の前にいなくて良かったわ‥‥」
 ゼラ・アンキセス(ea8922)は、帽子で顔を隠す様にしてそう呟くと、高ぶりそうな感情を必死で押さえ込んでいました。
 そこは武家の家、サラ・ヴォルケイトス(eb0993)と共にやって来たゼラは、その家の娘・美名と話すサラへと視線を戻して鶴吉の様子を確認しています。
「ごめんなさい、だいぶおちついたんですけど‥‥」
 そう言って目を伏せる美名に、サラは笑って首を振りました。
「大丈夫、ゆっくりと根気よく話していかないとね!」
 サラの言葉に美名はほっと息をついて微笑します。
 先程顔を出したばかりのゼラとサラは、そこで怯えて泣きじゃくる鶴吉を目の当たりにし、暫し言葉を失い、システィーナ・ヴィントが舞から預かった仔猫などで宥め、今はちょうどその仔猫と一緒に鶴吉が眠っている状況です。
「でも、よっぽど酷い思いをしたんだね‥‥」
「あんな幼い子に惨いことを‥‥」
 サラの呟きに頷くゼラは、始め半狂乱に部屋の隅で踞って『ぼくじゃない‥‥』と繰り返す鶴吉の痛々しい様を思い出して小さく呟きました。
「こんかいはおちつくのもはやかったから、たぶん明日になれば、少しは話せるようになるとおもうの」
 鶴吉と変わらぬ年の美名がそういうと、ゼラもサラも頷いて、鶴吉が目が覚めるまでお茶をいただき、その屋敷の年若い奥方と共に、鶴吉への対応を相談するのでした。

●凶賊の影
「何とかまとまった金が必要なんだがなぁ」
 そう鷹司龍嗣(eb3582)の様子は、いつもとだいぶ違い、髪は乱し、粗末な着物にぼろを羽織り、鶴吉の痛めつけられていた辺りの者と幾つか言葉を交わしていました。
 この辺りに少しいかがわしい連中がいたと聞けたのは、探し始めて3日目、磐山岩乃丈(eb3605)やレーラ・ガブリエーレ(ea6982)が辺りの者に盗賊の情報や鶴吉の行動の裏付けを取っている間、鷹司は補助の香椎 梓が調べてきた事件の内容とフォルナリーナ・シャナイアがなんとか鶴吉から読み取った痩せた顔色の悪い小男と接触を試みていました。
「鶴吉が働いていた界隈で、出入りしていた5件のうち、2件がやられていた‥‥」
「鶴吉はご飯はたまに飯炊きの女の人からおにぎりをこっそり貰うとか以外はほとんど食わずで、二日とか三日にいっぺん、お蕎麦とかそう言うのを少しだけ、お金を貯めて何とか食べていたらしいじゃん」
 聞き込んだ話を磐山へと伝えるレーラ。
 寝泊まりは神社の軒下に潜り込んで雨露を凌ぎながらの生活だったそうで、この生活が後もう少し続けば、確実に鶴吉は生きていなかったのは容易に想像できます。
「んで鶴吉が疑われたらしいけど、その時間は鶴吉、戻ってやっぱり辺りの家がない人たちに囲まれてお金取り上げられてたらしいんじゃん? でも、鶴吉を見てないってその辺の人たちは言うし、見かけたって言う茶屋のおばーちゃんは怖いからお役人には言えないって言うじゃん」
 むぅとむくれるレーラは、鶴吉を鴨にしていた人たちに本気で頭に来ているようで握りしめた手をぶんぶん振って磐山へといいます。
「鶴吉の引き込みという話は、紙屑を集めに入ったまま中に留まってと言われていたでござるな」
「うん、だから御店で紙屑を集めてお手伝いした後、鶴吉はお外で見られてるじゃん?」
「問題はそれを証言して貰えぬと言うことでござるが‥‥」
「改方だったら、探索中ってことで少なくとも鶴吉をそのまま有罪ってしないでなんとかなるんじゃないかなぁ‥‥」
 伺うように磐山を上目遣いで見上げる様は、楽天的な部分のあるレーラですらもそう簡単ではないと肌で感じているからに他ならないよう。
「‥‥もう少し強い証があれば良いのでござるが‥‥」
 言いかけた磐山は、ふと鷹が夕闇の中を2人の情報を交換している綾藤の一室、その窓枠へと向かって近づいてくるのに目を向けます。
「鷹司殿の‥‥」
 見れば舞い降りた鷹司の鷹・颯羽の足には布きれが結ばれており、それを取って開けば、そこには小柄で顔色の悪い男、直次郎と接触をすることが出来た、と書き付けられたもの。
「遅くなった」
 そう言ってそこへと入ってきたのは舞と貴由、そこにイェレミーアス。
「鶴吉の母親は己が腹を痛めた子の現状を迷惑と取ったようだ」
「どうやら鶴吉のことを言い出したのは村から出てきた若者の一人もそうだが、顔色の悪い小柄な男が鶴吉のねぐらにしていた辺りでよく見られていたらしく、時永の話では鶴吉の村でも何度かみかけられたそうだな」
 眉を寄せ言う貴由に、イェレミーアスも座ると腕を組み僅かに口の端を持ち上げます。
「だが、鶴吉がやったという悪事の数々、鶴吉の名は伏せて聞いたのだが、全て実際に改方役宅まで来て証言するかというと、雲行きが怪しくなったと見た者達は途端に口を閉ざした」
「問題は、引き込みを実際に行ったと思い込みで言っている者なのだが‥‥」
 舞が言うも、顔を見合わせる面々。
「それなれば‥‥実際にそうとは言い切れぬやしれぬでござるが‥‥他の小悪事は証人はいなくなり、引き込みの疑いについては探索中の件と関連があると言い、改方管轄に移してもらえば良いでござろう」
 後から来た3人へと、鷹司の送ってきた布を開いて見せつつ、磐山は言うのでした。

●繋がった命
 早田同心と平蔵を交え、現在の根拠から鶴吉の身柄を預かることとし、それを認められたのは探索を始め5日目の事でした。
 盗みや掏摸などを鶴吉におっかぶせていた者達や偽証をしていたという者達はそれぞれきつく灸を据えられたようで、引き込みの件以外は早田達と協力して手早く処理を済ませています。
「直次郎と接触が出来たってぇのが大きいだろうがな」
 そこは壮年男性の屋敷の一室、煙管を燻らせ言う紋付き姿の平蔵は、直接奉行所と掛け合い、半ば強引に話を進めてきたようです。
「その直次郎という男、何者ですか?」
 貴由が聞けば平蔵は一冊の調べ書きを懐から出して一行へと見せます。
「『船虫の直次郎』‥‥用心深くて陰湿な男だという話だ。直次郎は永見の鶴助とも鬼形の松太郎とも接点があるといわれる凶賊一味の者で、誰の下かもどのような形で接点があるかはわかっておらぬ」
 平蔵の話では、奉行所の探索もむなしくどのような盗賊かはわかっておらず、直次郎の上にいる頭の名も知られていないという、徹底した一味だと言うこと、そして狙った場所にいた者は残らず殴り殺されるという非道な手口から、名を出したところ奉行所の方でも鶴吉のことを認めざるをえなかったとのことです。
『大丈夫だよ、お姉ちゃんに任せて♪』
 隣の部屋からサラが鶴吉に話しかけているのが聞こえてきます。
 相変わらず布団に伏せって、何とか起こした身体の下に座布団を折り入れた鶴吉に、サラが笑いながら話をしています。
 ちょうど、その隣のゼラがお手玉を手に話すのを大きな目を一杯に開いて聞いているところらしく、異国の話など、鶴吉は狭い界隈以外の世界を考えたこともなく、想像が付かないかのように一生懸命聞いているよう。
「私はビザンチン帝国っていう、海を渡って草原を越えた遠い西の国で生まれたの」
「う、み‥‥?」
「そう、元気になったら、見に行ってみましょうね」
 外への恐怖感と、海というものへの興味に逡巡するも、こっくりと頷く鶴吉。
「それでね、兄妹で住みやすい所を探してジャパンに来たのはちょっと前で、今は通訳をして生活しているわ」
 ゼラの話を熱心に聞く鶴吉の姿に、ずっとその様子を見ていた美名は嬉しそうにサラを見上げて笑いかけ、起きあがれるようになったら見せてあげる、とゼラが約束する若い驢馬のリバーに興味を持ったりと、世話をしていたときの張りつめたものが和らいでいるようです。
「鶴吉君の身体の傷は今に癒えるだろうが、心の傷はこれから‥‥」
 隣の様子を窺って、貴由が言うと頷く平蔵。
「鷹司殿にはくれぐれも慎重に‥‥危険だと思えば引き上げ次の手を打てるようにせねばならぬ」
 そう言うと、改めて一同に向き直る平蔵。
「みな、大変とは思うが宜しく頼む」
 その言葉を隣の部屋で聞きながら、ゼラとサラは初めて、鶴吉の表情がほんの少し和らいだのを見るのでした。