【盗賊の息子】慟哭

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:02月27日〜03月04日

リプレイ公開日:2006年03月10日

●オープニング

「ちぃと、困ったことになってなぁ‥‥」
 憮然とする壮年男性を連れて、凶賊盗賊改方長官・長谷川平蔵が姿を現したのは、徐々に暖まりつつあるとある夕刻のことでした。
「鶴吉君が家を出るといって聞かない? また、どうしてですか?」
「どうもそれを見ていたのが子供たちだけゆえ、少々話が漠然としておるのだが‥‥」
 そう言う平蔵に、怒りに肩を震わせ口を開きかけては深く息をつくを繰り返していた壮年男性が深く息を吐いてから口を開きます。
「何奴かは知らぬが、わしの屋敷に入り込み‥‥正確には屋敷の塀の上から、少しずつ床から離れた鶴吉へ、石を投げ‥‥」
 思い出しても腹立たしいのかぎりっと歯を噛み締める壮年男性に少しびくつきながら平蔵へと目を向ける受付の青年は、それに気が付いた平蔵の続けた言葉に目を丸くします。
「それをな、身体が弱り咄嗟に動けなんだ鶴吉を庇ったお美名に当たってなぁ‥‥」
「美名ちゃんは大丈夫なんですか? ‥‥えっと、もしかしてそれでこちらが‥‥」
「美名は眉の上を少し縫ったが大事無い、直ぐにその傷も見えなくなろう。だが、子供にその石を投げたその者はもちろん許しておけぬが、鶴吉も鶴吉だっ!」
「‥‥へ?」
 怒りの矛先が鶴吉に向くのに、壮年男性を良く知っている青年としては釈然としない様子で平蔵を見ると、平蔵はこれに苦笑します。
「いや、この御仁は男の子がおらなんだゆえ、我が子のお美名と同じぐらいに可愛い鶴吉が、それを気に病んで屋敷にいられぬと言い出したのに、それを言わせた自分が堪らなく腹立たしいのよ」
「ははぁ、なるほど‥‥」
 吃驚したような、らしいような事柄に何とはなしに口元が綻ぶ受付の青年ですが、直ぐに表情を引き締め、依頼書へと筆を走らせます。
「それで、その、石を投げた者というのは‥‥」
「それよ、美名も鶴吉も、どちらもが揃って言い立てるのが、子供のようでいて、子供でない‥‥とな」
 どうやら美名も鶴吉も、見た相手が子供のような小柄な姿であったものの、その声、顔つきが明らかに子供ではないと思ったそう。
 それに狂ったような笑い声は明らかにしわがれた老人のもののようだった、とも。
「例の、直次郎とやらとは?」
「あれは小柄ではあるが、明らかに大人、そんな不自然ななりはしておらなんだと聞いておる」
「美名が言うには、子供の身体に大人の顔が乗っかったような‥‥鬼子かもしくは子供たちを怯えさせるための悪戯か、どちらにせよ鶴吉を追い詰めようとでも言うかのような悪趣味な話でな」
「船虫の直次郎を追うのと平行して、こちらの方もちと調べてもらいたい。‥‥みなには厄介なことを頼むことになるが‥‥」
 そう言うと、平蔵は近頃同心が狙われたり、役宅内の人間を付け回す者もおるようだ、くれぐれも気をつけてくれ、と受付の青年へと伝えるのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2850 イェレミーアス・アーヴァイン(37歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3605 磐山 岩乃丈(41歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

白銀 剣次郎(ea3667)/ 鑪 純直(ea7179)/ リズ・アンキセス(ea8763)/ 柳 花蓮(eb0084)/ 八幡 玖珠華(eb1608)/ ジャンヌ・バルザック(eb3346)/ レオパルド・キャッスル(eb3351

●リプレイ本文

●それぞれの想い
「鶴吉君はいい子だな。そして寂しい子だ‥‥」
 目を伏せて言う時永貴由(ea2702)は、眉を寄せて頷く壮年男性にちらりと目を向けると微笑を浮かべて続けます。
「御仁、あまり自身に憤ってはいけません。今は心穏やかに、心が傷付いた子供は人の心に敏感です。どのような方向でも、すぐに不安を感じます」
「む‥‥そうだな」
 指摘されむむと今度は困ったように眉を寄せる男性。
「御仁達の優しさや心の広さはきっと鶴吉君に届きます」
 奥方にそう微笑みかけて頷く貴由に、年若い奥方の表情も少し和らぎます。
「美名ちゃん、大丈夫だった? ‥‥痛かったでしょ」
「ううん、みな、だいじょうぶ‥‥」
 サラ・ヴォルケイトス(eb0993)が妹のように可愛がっている美名の髪を撫でて言うと、額に包帯を巻いた美名は小さく首を振ってにこっとサラを見上げます。
「絶対に解決させるからね‥‥鶴吉君もだけど、美名ちゃんまで危ない目に合わせたのは許・せ・な・い・からね〜♪」
 と怒りに燃えるサラの耳にゼラ・アンキセス(ea8922)の代わりにお見舞いに来ている妹のリズと逢莉笛舞(ea6780)、それに舞の愛猫、仔猫の琴の泣き声が聞こえます。
「悪いな、入るぞ」
隣の鶴吉の部屋、声をかけて入るイェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)に顔を上げる鶴吉。
 じゃれ付く琴を撫でながらも沈んだ表情の鶴吉を見ると腰を下ろすとイェレミーアスは鶴吉を見て口を開きます。
「気に病むのも分からんではないが、いつまでも思い詰めていては家族の者が心配するばかりだぞ」
「そうだよ、考えてみて? 鶴吉君が居なくなったら、確かに矛先はここの家族には向かないかもしれない。だけど、今度は鶴吉君が美名ちゃんや、美名ちゃんのお父さんお母さんを傷つけるんだよ」
「‥‥ぼくが、きずつける‥‥」
 部屋へと入ってきて言うサラに、イェレミーアスは頷きます。
「これを持っていると良い。何も無いよりはまだ安心できるだろう」
 そう言って薬を鶴吉に持たせるイェレミーアス。
 それまで黙っていた舞が鶴吉に話しかけます。
「‥‥何もやましい所がないなら胸を張ってここに居なさい。子供を守るのは私達大人の務めだ」
 きっぱりと言う舞におずおずと顔を上げて舞を見る鶴吉。
「申し訳ないと思うなら子供を苛めるような間違った大人にならず正しい大人になれ。なって、子供達を守り借りを返せば良い」
「今はどうしようもないかもしれない。けど、ならこれから努力して強くなって美名ちゃん護れるようになればいいじゃない」
 舞が言うと続けるサラ、言われた言葉に見る見る目に涙を溜める鶴吉。
「今は‥‥あたしたちが動くから。おねえちゃんを、信じてもらえる?」
「必ず、俺たちが何とかする、それが俺たちの仕事だ」
 それを聞くとぼろぼろと鶴吉は泣き続けるのでした。

●鶴助
「あとは永見の鶴助についてですな?」
 そう言っていくつもの調書の束を文机へと出してくるのは、改方で勘定や帳簿を主に受け持っている荻田一郎太同心。
「鶴助の取り調べに、ちょうど私が奉行所にいた頃に少し立ち会いまして」
 そう言いながら舞と貴由に幾つか調べ書きを渡すとそれを開く荻田。
「成人男性よりも高い塀の上からの投石との事、パラで熟練した忍びの流れを汲む者と思ったが‥‥」
「今のところパラの盗賊が一味にいたという情報は松太郎一味にはないですな。直次郎一味はそもそも、まともに知られているのは直次郎ぐらいでして‥‥」
 貴由が聞けば丁寧に調書を捲りながら言う荻田。
「どういうことだ?」
「まんま、言葉通りですよ。直次郎の名と様子が割れたのは、鶴助が喋ったからなんですよ」
 舞は柳 花蓮に手を借りながら調べていましたが、その言葉に首を傾げます。
「つまり、それまで直次郎は‥‥」
「必ず、別の者に罪を着せ、また、捕方の目を向けさせて動いていたため本当に謎だったんです」
 目的の項が見つかったのか開けば、そこに書き込まれてある鶴助の取り調べの様子、その内容は自身の犯行は認め、一味の情報は決して話さなかった鶴助が、二件、何があっても認めなかった事件のことが書かれています。
「この二件は船虫の直次郎の犯行だ、と‥‥過去に同じように認められなかった事件など調書を改めて調べれば、同じような件が幾つかありましてね」
 実際に直次郎のことを知っていた者の方が少なく、常に誰かに罪を着せ、そちらへ目を向けさせているうちに罪を重ね、そして他にその罪を着せている間に姿を眩ますというのが手口のよう。
「凶賊達は稼げるだけ稼いで、証拠を残さないために血を見、と言うのが多いのですが‥‥この直次郎とやらは‥‥」
「自分たちと特定できなければ、と言う方向にいったというわけだな」
「現場を押さえない限りは罪にならぬゆえ、探索の矛先もかわせる‥‥」
 頷く荻田。
「もう少し調べてみませんと言い切れませんが‥‥」
 私の方でも他にもないかもう少し調べてみましょう、そう言って荻田は仕事へと戻るのでした。

●見世物小屋の怪童
「亥兵衛のおっちゃん、何か心当たりとかない?」
 レーラ・ガブリエーレ(ea6982)が直次郎の事と投石をした怪しげな人物について聞くと、亥兵衛は首を傾げます。
「んー‥‥見せ物小屋にいる兵太のことは少しなら‥‥でも、それ以外はあまりしらねぇんでさ」
 煙草の包みを丁寧に風呂敷へと包みながら言う亥兵衛にむう、と首を傾げて見るレーラ。
「みせものごやのへーた?」
「あぁ、可愛そうな子でね、女盗だが気立ての優しい女と一緒に、畜生盗きの好きな外道のてて親に捨てられて孤児になってなぁ‥‥親譲りのちいせぇ身体の上に奇形に生まれ、母親ぁぽっくり流行病で逝っちまうしで‥‥」
 見せ物小屋で拾われて頭は弱いが気の良い子だよ、と言う亥兵衛は鶴吉に石を投げるなんて言う真似はするはず無いと言います。
「ん〜そっか、ありがと、おっちゃん」
 言って煙草の包みを受け取るとぽっくぽっくと愛馬ぽちょむきんで綾藤へと向かうレーラ。
「ふむぅ‥‥では、その盗賊は小柄で‥‥」
「んむ、なんでも人に変装するのが得意だとか聞いたじゃん」
 綾藤では、情報の確認をしに顔を出した磐山岩乃丈(eb3605)がいて、レーラは磐山と相談を始めているよう
「見せ物小屋の人、年に2回ぐらい江戸に来て興行して帰ってくらしいけど、その子は17だかで悪い子じゃないって話じゃん?」
 そう言って首を傾げるレーラ、それに唸るように考え込む磐山。
「その子は親のことは知らぬのでござるか?」
「亥兵衛のおっちゃんの話だと、子供が出来たって話になったときにその父親がこっぴどく痛めつけて追い出されちゃったとかで、きっと知らないんじゃん? 酷い男じゃん〜〜!!」
 キーと怒りながら言うレーラに頷き立ち上がる磐山。
「そろそろ鷹司殿との約束の刻限故‥‥それも含めて気を付けるように促すでござる」
 そう言って出て行く磐山と入れ違いに入ってくるのはゼラ。
「あ、お疲れ様じゃーん」
 お茶を出して言うレーラにつかれたように息を付いて部屋へとはいると腰を下ろすゼラ。
「大丈夫?」
「途中でアッシュで巻いてきたんだけど‥‥鶴吉君の住んでいた辺りはうろうろと変な男達がいて‥‥」
 そう言うゼラ、どうやらゼラが鶴吉の住んでいた辺りを聞き込んでいたところ、変な男達が距離を置いてぶらぶらと付けてくるのでアッシュで囮をつくってばらばらの方向へ逃げ、あちこち回って逃げてきたそう。
「どうも、鶴吉君が戻ったかと聞いて回る小柄な男がいるみたいなのよね。直次郎かしらとも思ったのだけど‥‥」
 その男は聞く人によって嗄れた声か妙に高い声かのどちらかだそう。
「時折浪人者の男達と話していたとも言うから‥‥雇った者なのか、一味の者なのか、よからぬ事を考えているのには変わりはないのだろうけど‥‥」
「むぅ、なんだかこんがらかってきたじゃん」
 ゼラとレーラは思わず顔を見合わせるのでした。

●直次郎の因縁
「‥‥船虫の、鶴助‥‥仕置きになった男で聞いたことはあるが‥‥」
 直次郎に酒を奢られ話をしながら鷹司龍嗣(eb3582)は首を傾げます。
「そうさねぇ、あれがいなけりゃあたしは大っぴらに動けるはずだったんだがねぇ」
 鶴助が奉行所で話した直次郎のことの所為でか、他の盗賊達よりもずっと厳しい目で見られるようになったと忌々しげに言う直次郎は、近頃盗賊への対部が厳しいものへとなって部下が何人も姿を消していることを忌々しげに鷹司へと言います。
「これで被る者さえ隠されたんじゃ堪ったもんじゃない」
 低く笑う直次郎はちろりと鷹司を見て笑います。
「で、お前さんは‥‥術を使えるんだったねぇ?」
「ああ、必ず役に立つ」
「そうでなくては金を使う意味がない。次の仕事に是非とも手を貸して貰うよ」
 そう言って薄笑いを浮かべる直次郎が手を叩くと、すと音もなく入ってくるのは直次郎寄りも小柄、子供とも言える身形の初老にかかる男で、薄ら笑いを浮かべて鷹司を見ています。
「これも色々と便利な術を心得ていてな。あたしの身代わりを何度か務めて貰っている。‥‥声も姿も変えられても、背格好はどうにもならんからねぇ」
 他にも押し入る先の家人を眠らせることなども出来ると笑うと次の仕事には一緒にやって貰うつもりだと伝える直次郎。
「音無の兵吾‥‥」
 嗄れた声で名乗るとじろりと睨め付け口の端を醜く歪めます。
「まぁ、お前さん、決行が近くなるまではのんびりしていてくださいな。当座の金はこちらに‥‥」
 そう言って紙に包む金を渡す直次郎。
「あたしのお頭とは決行日に会うことも出来ましょ」
 そう言って別れる一同、鷹司はそれを手に賭場へと足を進めます。
 大きい者から小さい者まで、共通するのはどれも賽子に夢中になっていることぐらい。
 そこに磐山の巨体を見出すと、その隣に座るとき、裾捌きのついでに小さく折りたたんだ文を磐山の足下に滑り込ませると、一つ二つ張る鷹司。
 入れ替わるように立ち上がる磐山に目も上げずに暫くいると、鷹司はゆったりと仮の寝床にしている、平蔵の信用の置ける店へと帰るのでした。

●鶴吉
 まだ悩んでいる様子の鶴吉の元へと貴由が包みを手にやってきたのは、その日の夕暮れのことです。
「鶴吉君、それに美名ちゃん、ちょっと‥‥」
 そう言って微笑を浮かべる貴由は美名に薄紅の可愛らしい着物を、鶴吉には若草色の袷に藍色の袴を取り出します。
「揃いで着物を作ってきたんだが、どうかな?」
 そう言って鶴吉が躊躇っているようすを見ながら微笑みかけていると、屋敷の警護から休憩に入ったイェレミーアスが顔を出し。
「遠慮する事はないだろう、着せてみせるだけでも十分礼になると思うがな」
 言われる言葉におずおずと頷くと、鶴吉はゆったりとしたその袷に袖を通して少し大きなそれに目を瞬かせます。
「育ち盛りだからな、すぐにちょうど良くなる」
 そう笑いながら言う貴由にじわっと潤ませた目元を手で擦ると鶴吉は、美名と揃って仕立てて貰った着物を着て、少し恥ずかしそうに微笑むのでした。