【盗賊の息子】幸せの門出

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月15日〜10月20日

リプレイ公開日:2006年10月24日

●オープニング

 その日、受付の青年が綾藤へと呼ばれてやっていくと、既にそこには上座に長谷川平蔵、その脇に彦坂昭衛と津村武兵衛が控えていました。
「おう、来たな」
 そう言って笑う平蔵に何か懐かしさを覚え笑みを浮かべて座る受付。
「はい、ええと、何だかこうしてお会いするのはとても久し振りな気がしますね」
 笑みを浮かべて依頼書を取り出す受付の青年に笑って煙管を袂から取り出す平蔵、煙管盆を引き寄せ火を入れればゆっくりと紫煙を燻らして笑みを浮かべ。
「漸く、鬼形の方の後始末が具体的に形になってな、改方も普段の見回りやら何やらは在るものの、ようやっと余裕が出来てな」
「愚弟がもう少し手際よくやればと思えば、申し訳もなく」
「いやいや、善意で兄を助けるとは、良い弟君をお持ちと思われますぞ」
 あちこちに手紙を出し場合によっては昭衛の弟・兵庫に直接話をしに行かせてと暫く慌ただしかったそうですが、数日中に兵庫も戻るとのことで、漸くと宴を催す機会を、となったそうで、遅くなって済まねぇなと伝えてくれ、と平蔵は笑みを浮かべて続けます。
「場所はどちらで行われるのですか?」
「おお、それが女将の好意もあってな、綾藤にも十分場所も料理も用意して貰えるとのこと。また、役宅も、昭衛の家人達や兵庫殿の剣の師なども手を貸してくれるそうでな」
「‥‥では、もしかして同心達も?」
「密偵達にも都合が付けばと思って声はかけている。ただ、まぁ、皆が一堂に会してと言うよりは、幾つかの部屋を襖を開け繋げて行う形となるであろうが‥‥人の出入りなども、こちらの方で何とか手配しようと思う」
 受付の青年の言葉に頷いて口を開く昭衛。
「では、こちらの方、二組合同での宴が開かれるとの連絡を入れるで宜しいですね?」
「うむ、宜しく頼む」
 受付の青年が確認すると、平蔵は笑みを浮かべて言うのでした。

「おお、そうだ、1つまずは報告しておかねばな」
 笑いながら言う平蔵に、きょとんとした顔をしてみる受付の青年。
「報告、ですか?」
「おお、そうよ。鶴吉のことだが、この度、養子縁組の手続きを取るそうでな、色々と良い方へ進んでいることを伝えておこうと思うてな」
「そうですか‥‥本当に良かった‥‥」
 平蔵の言葉にぱっと表情を明るくしてしみじみという受付の青年。
「そのことも含めて、鶴吉もあの一家も、皆に会いたがっているようでな」
「なんだかこちらまでその宴会が楽しみになってきました」
 依頼書に書き付けながら、受付の青年はとても嬉しそうにそう笑って言うのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2850 イェレミーアス・アーヴァイン(37歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea8922 ゼラ・アンキセス(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3582 鷹司 龍嗣(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3605 磐山 岩乃丈(41歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●それぞれの想い
「まぁ、わざわざ‥‥此度は本当に大変でしたでしょうに‥‥」
 尋ねてきた時永貴由(ea2702)をお茶を用意して笑顔で出迎えるのは、長谷川平蔵の妻、久栄。
「以前、長谷川様が負傷されていた時、項垂れるしかなかった私に久栄様は温かいお言葉をかけて下さった。本当にありがとうございます」
「いいえ、貴女方が悪いのではないのに心無いことを言われ、さぞ辛かったでしょうに‥‥本当に良く、殿様を助けてくださいました」
「私も‥‥私も、久栄様の様な心の強い女になりとうございます」
 にこりと微笑む久栄に貴由も微笑を浮かべそう告げ、久栄は笑んだまま小さく首を振り、貴女は心の強い方ですよと言い。
「良ければ、これからも殿様のこと、宜しく頼みますね」
「‥‥はい、必ず‥‥」
 くすりと笑い合う2人、そこに顔を出したのは調べ書きの束を抱えた誠志郎と言葉を交わすリーゼ。
「我々もそろそろ仕事を終わらせ向かう。‥‥や、奥方様に時永殿、これは失礼を。先程からお頭を捜していたのですが‥‥」
「長谷川様でしたら、先程昭衛様と牢の前でなにやら話されていたが」
「そっか、じゃあ私が2人とも呼んでくるよ」
 誠志郎に貴由が答えれば、リーゼが牢の方へと足を進め。
「では‥‥」
「はい、今宵はどうか楽しまれて下さいましね」
 久栄へと挨拶をして、貴由は途中羽澄と合流しながら綾藤へと向かうのでした。
「さて、まずはこれを鶴吉君が来るまでに仕上げないと」
 そう言って布を広げるのはゼラ・アンキセス(ea8922)。
「これは?」
「鶴吉君へ寄せ書きをしたらどうかしらと思って。お藤さんに相談したら色紙よりもこちらの布の方が良いのではって」
 イェレミーアス・アーヴァイン(ea2850)が聞けばそう答えながら布の皺をぴんと伸ばしいくつかの文鎮で布を押さえていくゼラ。
「なるほど、では‥‥」
 頷いて伸ばされた布に筆を執り『長い間良く耐えたな。これからは、家族の者と思う存分生きる事を楽しむと良い』と書き記すイェレミーアス。
「あ、あたしもあたしもっ! でも、ジャパン語は書くの苦手なんだよね」
「言ってくれれば代筆するわよ?」
「うん、じゃあ‥‥皆を守れる強い大人にまっすぐ育ちなさい! かな」
 サラ・ヴォルケイトス(eb0993)の言葉をさらりと書き込むゼラに、布を覗き込みながらぶんぶん手を振るのはレーラ・ガブリエーレ(ea6982)です。
「あ、俺様似顔絵書くじゃん♪」
 筆を受け取り鼻歌交じりに書き込むレーラ。
「全員の似顔絵〜。鬼平のおっちゃんはかっこよくー、鶴吉君の似顔絵もかわいくー俺様もかっこよくー」
「‥‥お前の未来に幸あらんことを‥‥」
 楽しげに絵を描いているレーラの隣にすと歩み寄り一筆入れる鷹司龍嗣(eb3582)、そして筆を手にどこか嬉しげな笑みを口元へと浮かべている逢莉笛舞(ea6780)。
「長谷川さんが元気になって何よりね。それに、鶴吉君に養子縁組なんて、本当に良かったわね‥‥」
 相好を崩すゼラに舞も頷いて。
「それにしても鶴吉くんが養子に‥‥。色々あったが幸せになって本当に良かった。今宵は美味い酒が飲めそうだ」
「漸く‥‥皆の望みが形になったな。これで鶴吉達も安心して暮らす事が出来るだろう」
 舞とイェレミーアスがしみじみと言えば、磐山岩乃丈(eb3605)は少し心配そうに眉を寄せ。
「鶴吉はまだ大人は苦手なのでござろうか‥‥」
「大丈夫だよ、鶴吉君も初めてあった頃と違うもん」
 サラが言えばなるほど、と頷く磐山。
 『立派な大人になれ』そう書き込んだ舞は、『鶴吉ならなれる』と書き添え磐山に筆を差し出せば、『真っ直ぐに育って欲しい。冬の寒空を切り裂いて、真っ直ぐに、高く、気高く飛ぶ、鶴のような漢に』と書き込んで。
「あ、貴由さん」
 そこへ羽澄とやって来た貴由にサラが声を上げて手を振れば、寄せ書きと聞いて筆を執り幸せになって欲しい旨を書き込めば、ゼラが感慨深げに寄せ書きを見下ろして筆を走らせ。
「『辛い思いをしてきた鶴吉君なら、きっと他人の痛みを分かる大人になれると思うわ。新しい家族の元で愛情をめいっぱい受け取って、優しい大人になってね』‥‥これで良いわね」
 微笑を浮かべてゼラが呟けば、レーラが『また会おう!』と書き込むのでした。

●宴の席
「長々と待たせちゃったね。もうこれで安心! 鶴吉くんを無実の罪で狙うような奴らはもう居ないよ!」
 鶴吉が壮年男性の一家‥‥新しい家族と共に現れたのを迎え入れたのはサラとレーラ。
「あ、サラお姉ちゃんだ!」
「サラお姉さんにレーラお兄ちゃん」
 ぺこりと頭を下げる鶴吉に、嬉しそうにぎゅっと掴まる美名。
「美名ちゃんもごめんね? 本当はもっと早くこの件片付けられれば良かったんだけど。もう終わったから、鶴吉くんや、お友達と仲良く遊びに出ても大丈夫だよ!」
「うん、お姉ちゃんありがとう!」
 ぎゅーっとしながら言う美名に嬉しそうに笑うサラ。
「おじさんも奥さんも入るじゃん♪ そろそろ始まるみたいじゃーん」
「おお、では早く行かねばな」
 笑いながら言う壮年男性に履物を脱ぎあがる奥方、そこへ戻ってきたのはゼラで、ゼラの後ろには小柄な人影。
「へーた!」
「鶴吉、会いたかった、鶴吉、元気か?」
 たどたどしく言う見世物小屋の軽業を生業としている兵太に嬉しそうに笑って頷く鶴吉。
「間に合ったみたいね」
 ゼラが微笑を浮かべて言えば、嬉しそうにパタパタと奥の間へ走っていく子供たち。
 そんな様子を、大人たちは微笑ましく見つめるのでした。
「では、皆、今宵は存分に楽しんでくれ」
 平蔵が言えば杯を掲げて始まる宴。
「おお、これは‥‥」
「お招き頂きありがとうございます。ささ、一献」
 そう言って鷹司にお銚子を手にとり笑うのは穏やかな風貌の呉服屋・三澤屋主人です。
「良く来てくれた。近頃は占いの方は‥‥」
「は、何分、未熟なくせに好きで好きで、こればかりは辞められませんで」
「では、鶴吉の事を占ってやるのはどうだな?」
「それはもう、是非に」
 にっこり笑って鶴吉を呼べば、顔に手にとじっと目を凝らし。
「そうですねぇ‥‥思いもかけない大きなものが‥‥これは何でしょう、災いでもないし驚くこと?」
 鶴吉の顔のいくつかを指差し首を傾げる三澤屋に、顔を同じく覗き込むと鷹司は首を振ります。
「富だろうな。ただ、それを掴まずにも先にきっと良いことがあるだろう」
 良い顔になった、そう笑って頷くと、ぽんと鶴吉の肩を叩く鷹司にはにかむように笑みを浮かべる鶴吉。
「あれ? おじちゃん何してるのかな‥‥?」
 その声に3人が顔を上げれば、隅っこに卓を移動させてちびりちびり酒を飲む磐山と風斬、そして追加のお酒を手に顔を出していた御神村の姿。
「‥‥あ、あの、磐山のおじさん?」
 おずおずという様子でかけられる声にくと首を傾げ振り返れば、鶴吉が恐る恐るという様子で見上げています。
「あぁ、苦手ならば無理せぬで良いでござるよ」
「ううん、だいじょうぶ‥‥」
 怖い人ばかりじゃないって分かったから、とはにかんで言う鶴吉に目を細め頭を撫でてやる磐山。
「少し庭を見るでござるか?」
「うん!」
 こっくり頷く鶴吉に先に庭へと降りて屈む磐山。
「?」
「少し高いところから辺りを見るのも一興でござるよ」
 笑って言う言葉、ひょいと肩に座らせて立ち上がる磐山に、鶴吉は目をきらきらさせて庭を見渡すと、嬉しそうにぎゅうっと磐山の頭に掴まります。
「曲がらず、素直にまっすぐに育つでござるよ」
 そんな鶴吉の様子に、磐山は目を細めて呟くのでした。
「鶴吉君、ちょっと寒くなっちゃったけど、明日にでも一緒にお出かけしない?」
 磐山にしてもらった肩車を嬉しそうに母へと語れば、舞の愛猫・琴がにゃうんとすり寄るのに嬉しそうにだっこして撫でる鶴吉、そんな鶴吉にゼラが声をかけます。
「あ‥‥もしかして‥‥」
「お姉さんと一緒に、海に行きましょう? リバーと一緒に」
 その言葉に嬉しそうに微笑めば、その頬を琴がざらりと舐め。
「鶴吉君、以前に私が贈った着物、まだ着れるか?」
 貴由が声をかければこっくり頷いて。
「今、ちょうどよくなったの」
「着れなくなったらいつでも言ってくれ。また仕立ててあげるよ‥‥とはいえ、それは君の母上の役目だな‥‥」
 お菓子を渡してやりながらどこか寂しげに貴由が言うと心配そうに見上げて。
「そんな顔しなくても大丈夫よ、鶴吉君。そして、これ、みんなから」
 心配そうな鶴吉にゼラが言うと、丁寧に包まれた包みを鶴吉へと差し出し、開けて良いと言われると開いて、中に入っている寄せ書きを見て驚いたように見ます。
「‥‥ありがとう、おねえさん達も、おにいさん達も、ぼく、ぜったいわすれない‥‥」
 一つ一つせがまれるままに皆が読んで聞かせれば、目に涙を浮かべて言う鶴吉は、また会いに来てねと何度も繰り返し。
 辺りがすっかりと暗くなる頃、固まってうとうと眠り始める子供達、鶴吉は大切そうに寄せ書きを抱きしめたまま、琴と寄り添うようにして夢の中に落ち込んで行くのでした。

●慰安の宴
「武兵衛のおっちゃん! これからも俺様の手伝いが必要だったら呼んで欲しいじゃん♪」
 同心や密偵達があちこちで酒や料理で盛り上がる中、武兵衛に元気な声を上げるのはレーラ。
 レーラはだぼだぼの着物を着ていてなにやら準備をしていた所のようで、準備が出きたのか衝立の前にてけてけと出て行けば『ちゅーもーく』と声を上げ、先程までゆったりとした曲を奏でていた美琴が気がつきてけてけてと軽快な音楽を奏で始めます。
「どんどんでてくるじゃ〜ん」
 ひょいひょい番傘がてーらの身体の影から出てきては並べて行かれるのですが、途中でどちゃっと大小様々な番傘をだぼだぼの着物の中から落とせばどっと笑いが起こり、あわあわ右往左往するレーラ。
「え、えとえとー‥‥次いくじゃん!」
 泡喰って居たレーラが気を取り直すと次へ行くも、その後も袖口から扇子を取り落としたり袖口からわらわらと袖から零れる布の切れ端。
「て、ていっ!」
 何とか最後まで漕ぎ着けた、と思われる背中からにょっきりと出てきた扇子にずでんと降ってくるとその下でじたじた藻掻くレーラ。
「さて、子供達も眠ったし、夜はこれからだな」
 口元に微笑を浮かべ言う舞に目を瞬かせる同心達、舞の手にはワインとベルモット。
「い、異国の酒、か?」
「俺もノルマンの酒を提供しよう」
 イェレミーアスが出すロイヤルヌーボーと異国の酒が並ぶのに興味津々の様子、気がつけばそこに追加で運ばれてきた祝い酒やらなにやら、気がつけばどんちゃん騒ぎ。
「日々のお勤めご苦労様。これまでハッキリと言わなかったけれど、本当に、ありがとう」
「いやいや、我々もいろいろと考えさせられたし、それにどれだけ助けられたか‥‥此方こそありがとう」
 微笑を浮かべお酌を受ける密偵や美人お酌は堪らないとにと笑う同心たち。
 そして、その前に並ぶ秋の恵みをふんだんに使った料理の数々‥‥。
「‥‥改め方の方々のパワーの源が分かった気がする」
「む?」
「事件解決の暁にこんな美味い料理と酒が待ってると思えば励みになるだろう」
 笑う舞に違いないとどっと話題声を上げる同心たち。
「ゼラさん、いつもありがとう。毎回的確な纏めで助かった」
「あら、ありがとう。私のほうこそ、舞さんが的確な情報を手に入れてきてくれたり、本当に感謝しているわ」
 あらかた回った後で戻ってくるゼラ、気がつけば長い間共に依頼に臨んでいた者たちの元へ、自然と足が向き。
「レーラさん、サラさんの明るさと細かい心配りにはいつも助けられたな。ありがとう」
「えへへ、ありがと♪ んーお仕事後のお酒は格別だね♪」
「お世話になった人へはお酌するって聞いたじゃん。みんなも飲んで飲んでー舞さんもー」
 嬉しそうにお酒を呑むとほわっと目が怪しくなるサラやおかえしーと日本酒を注いで返すレーラ。
「時永さん同じ忍びとして色々助けて頂き感謝している」
「私もだ。舞さんにも、皆にもたくさん助けられた」
 微笑を浮かべて貴由が微笑みます。
「鷹司殿の密偵ぶりお見事だった。殊勲だと思う」
「この依頼を共に受けた面子とは、一旦ここでお別れか。世話になったな‥‥」
 感慨深げに呟く鷹司、口元に笑みを浮かべて続けます。
「とても頼れる仲間だった。だからこそ、安心して自分の仕事ができた」
 思いは同じようで、笑って頷く舞。
「イェレミー殿、磐山殿の冷静な行動と戦闘ぶりのおかげで敵の数が多くても何も不安を抱かず敵に対する事が出来た。感謝」
「感謝には及ばない。俺も同じだからな」
 イェレミーアスが頷いてみせると、磐山がにと笑い月を見上げ。
「隠密も同心も、また、皆も鶴吉も、家族のようなもの‥‥」
 緩く息を吐けば手の中の杯をゆっくりと傾けて。
「この平和が、ずっと続いて。隠密、同心がみな職を失うような世が、来ると良いのでござるが」
 磐山の言葉を噛締めるように月を見上げる面々。
 まだまだ賑やかに続く宴の様子を、月は静かに照らし続けているのでした。