【凶賊盗賊改方・悪意】寒月

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月09日〜02月16日

リプレイ公開日:2006年02月19日

●オープニング

 幾つかの凶悪な事件、辻斬りなどが横行する冬の寒い日。
 その日、ギルドに顔を出した火付け盗賊改方長官・長谷川平蔵に、受付の青年は軽く首を傾げました。
「えっと‥‥長谷川様、ですよね?」
 笠を取って顔を見せて尚そう聞くぐらいに、平蔵の隠居然とした渋い色の着物にゆったりな足取りは違和感が無く見えたからです。
「おう、ちぃと手を貸して貰いたいんだが‥‥何分、長くなるやもしれんし、早く片が付くやもしれん‥‥」
 なにやら微妙な顔つきで言う平蔵に詳しく話を聞くことにした青年は、茶を入れ席を勧めました。
 凶賊盗賊改方とは、相次ぐ凶悪な事件への対策として、月替わりで事件を担当する町方と違い、継続して探索を続ける、昨年後期に発足された盗賊追捕を主目的とした組織。
 旗本・長谷川平蔵と配下の御先手組からなる盗賊・凶賊に対する特殊な組織です。
 それでもこのご時勢、改方の長谷川平蔵以下、事務方勘定方も含めても継続して捜査を続けるにはどうしても手が足りず、冒険者の手を借りることが有ります。
 さて、その改方の長官である平蔵が忍ぶようにしてやって来たのには訳がありました。
「尾けられていた?」
「あぁ、なもんでちぃと馴染みの店に入って年寄りじみた物を借りて来たってんだが‥‥逆に尾けてやろうと思うたら、既に居なくなっていてな」
 そこで念のためこの姿のままギルドにやってきたそうです。
「実はな、最近役宅出入りの者や同心、その家族などが同じように後をつけられたりしておるようだ」
 幾つか事件を抱えているため忙しく動いている同心ですら感じる程に常に感じる視線。
「改方の動向を探る盗賊は、それはおるだろうが、ここまで来ると悪意を感じる。害を受ける前に、少し探りを入れたくてな」
 それには手が足りぬ、と苦笑混じりに言う平蔵。
「では、そちらの調査、ですか?」
「あとは、少々役宅や同心達の家族の方を気をつけてみてやって欲しい。念のため、出入りはごく控えるようにと申しつけてあるが、やはり出ねばならぬ用も幾つかはある」
 営巣の言葉に、受付の青年は少し考えるようにしながら、依頼を纏め始めるのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

滋藤 柾鷹(ea0858)/ レヴィン・グリーン(eb0939)/ 空流馬 ひのき(eb0981

●リプレイ本文

●寒い朝
「相手は陰行に長けているのでしょう。いや、単独か複数なのかも不明です」
 闇目幻十郎(ea0548)の言葉に、頷く平蔵。
 寒い朝、場所は船宿の綾藤、その一室で方針について確認しているときのことでした。
 平蔵へと窺うように口を開くのは小鳥遊美琴(ea0392)。
「役宅の方は護衛がついている方以外、外出を控えてもらえないでしょうか?」
「探索に出ているものはそうも行かぬであろうが、腕の立つもので、最低2人で動くよう指示を出しておいた。妻子、下働きの者についてはそのあたり、徹底するよう伝えよう」
「では、後ほど‥‥」
 昼夜通しての探索となる為、夜間を任せる幻十郎へと目配せをして出て行く美琴、それに続くように夜に備える幻十郎を見送り、平蔵へと目を戻して嵐山虎彦(ea3269)は口を開きます。
「ちょいと旦那に頼みが‥‥旦那、密偵たちの安全のためにも、今は静かにするように言ちゃぁくれませんかね?」
「俺もそれは気になっていた、ちょいと後で注意も兼ねて見に行ってこようたぁ思うが‥‥」
 嵐山の言葉に頷いて言いかけ、平蔵へと目を移すのは御神村茉織(ea4653)。
「平蔵さんだってつけられたりしてるわけだし‥‥心配になるんだけどな?」
 所所楽石榴(eb1098)も御神村も同じ心配をしているようで、石榴は言っても聞かない相手であることを理解している為か、どこか困ったように言います。
「出来れば連絡役って事で‥‥役宅か、それか綾藤に詰めていてもらいたいなって思うんだけど‥‥」
「む‥‥そうしてぇのは山々なんだが‥‥暫くは少々上に呼び出されることがあってなぁ‥‥俺が言い出したことゆえ、出頭せぬわけにも行かず、な‥‥」
 石榴の言葉に難しい顔をする平蔵は、なにやら今、改方と兼任で大きな仕事を抱えているらしく、その心配する気持ちも分かってか深く息を吐きます。
「旦那の腕はよく知っちゃいるが、大事をとって、一人歩きは謹んで下せぇよ?」
 微苦笑を浮かべて言う御神村に頷く平蔵は、なにやら気になる様子の御神村に促すと、続ける御神村。
「で、その悪意の視線を感じるようになったんはいつ頃からの話で?」
「御神村は良く知っておろうが、先に仕置きになった彼奴らの時期と、一致する。‥‥が、あらゆる可能性を考えねばな、まだ今は」
 頷くと立ち上がる御神村は、綾藤の女将・お藤がちょうど顔を出すのに、『変な客がいたら、旦那や男衆に言って助けて貰うんだぜ?』と注意を促すのでした。
「さて、では我らも役宅へと移るか」
 風斬乱(ea7394)が嵐山へと言い、嵐山も立ち上がり。
「平蔵さん、あんたも苦労が耐えないな」
 苦笑交じりに振り返りいう風斬に、平蔵はまぁなと笑い。
「こんな俺でよかったらまた力を貸すぞ‥‥何、刀を振るうことしかできぬがな」
「宜しく頼む」
 にやりと笑い刀へと手を添える風斬に、平蔵も口の端を持ち上げ頷くのでした。

●視線
「すぐに解決する‥‥なんて無責任なことはいえないけど。私たちを、信じて」
 長屋の一室、同心たちの妻女が集まる中、凛と響く、それでいて落ち着いた声で頷き言うのはリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)。
 リーゼは直ぐに呼ばれれば顔を出せるようにと長屋の一室を平蔵に言い借受けており、出かける際には必ず声をかけてくれと話しているところでした。
「ずっと出れない状態では精神的に参ってしまうかもしれませんが、僕たちが必ず視線の主を突き止め手見せます。ですから‥‥」
 李雷龍(ea2756)も言い、不安げにしていた同心の妻女達も夫たちの不在を守ってもらえると知り、例え門内へと侵入して襲われるということがまず出来ないと知っていたとしても不安に思っていたところに、心強さを覚えほっとした空気が流れます。
「遅くなって済まねぇな」
 そこへ入ってきたのは嵐山に風斬。
「虎、遅いよ」
 リーゼが声をかけると笑って謝る嵐山。
 嵐山のその巨体と風斬の立ち居振る舞いからさらに心強く思ったか、妻女達の表情に、ようやく笑みが戻るのでした。
 そして、3日、視線は感じれど糸口が中々に掴めなかったその日、とある同心の妻女が、親族が体調を崩し、ということでやむを得ず外出することになりました。
「じゃあ、気候の変化に少し調子を崩しただけで済んでいたんだ」
 和装に仕込み杖で見たところ普通の異国の女性に見えるリーゼが言うのに安堵の表情のその女性が頷くと、辺りを警戒しながら歩く雷龍も僅かに表情を緩めます。
 人混みの多い道を歩きながら行く3人は暫しほっとした時を過ごしていたのですが、突如として感じる鋭い視線にはっと振り返る雷龍は、一瞬感じたそれは、その主が隠そうともせずぶつけてきた殺気であることを感じ取ります。
「っ!」
 その悪意はリーゼも感じたようで、妻女を庇うように立ち雷龍とその人混みを通り過ぎ、急ぎ長屋へと戻る3人。
「‥‥わかったか?」
「いいえ、あの人混みで一瞬でしたから大まかな方向以外は‥‥」
「こうしてじわじわと追いつめていたという訳か」
 長屋の入り口で声を潜め言うリーゼと雷龍。
 ぎっと厳しい表情を浮かべ、リーゼは長屋の外を睨むのでした。
「‥‥っ、見失った‥‥?」
 微かに口の中でそう言葉を漏らすのは美琴。
 外出していた3人の後を尾け、それを尾ける男に気が付きそちらへと切り替えたまでは何も問題など起きず進みました。
 そして、長屋から戻る道筋、同じように長屋を見張る男に後を任せ、別の場所へと移動する方の後をつけ、再びやってきた参拝道で見失い、一瞬焦りを覚える美琴。
「‥‥気付かれたはずはない‥‥とすると‥‥?」
 この付近に少なくとも、見張っていた男達が出入りしている場所があるのでは、そう判断をした美琴は、再び長屋や役宅を張り込む者達の監視へと戻るのでした。

●寒月
「全く、こう寒い日は一杯引っかけないと堪ったものではありませんなぁ、伊勢さん」
「そう言うことばかり言っているからお主は駄目なのだ」
 おっとり言う忠次にかりかりした様子で返す伊勢の同心2人の様子に笑いながら前を行くのは嵐山。
 辺りは既に深い闇の中、空に浮かぶ冷え冷えと輝く月以外、辺りに見えるものはありません。
 3人は別件で探りを入れている盗賊の情報を聞くため連絡先の宿へと向かう途中でした。
 とは言え、先方に預けられている手紙を受け取り戻るだけなのですが、万一に備えて二人、夜間の為に嵐山もとこの人数になりましたが、忠次はのんびり構えているためか感じていませんが、伊勢と嵐山の2人は先程からずっと視線を感じ、伊勢は神経質になっているよう。
「まぁ、何にせよ早く終わらせてぇとこだな、今夜は確かに偉く冷え込んでやがるからなぁ」
 そう笑いながら嵐山が言ったときでした。
 辺りの気配ががらっと変わったかと思うと、ひゅ、と言う小さな風切り音と共に1人の男が木の上から落ち、嵐山の腕に突き刺さります。
 伊勢が飛び退り、忠次はいち早く気配を察した嵐山に突き飛ばされ、恐らくそれがなければその矢は深々と忠次の胸元へと刺さっていたのが容易に窺えます。
「ちぃっ!?」
 藪から飛び出してきた男が3名、追うように迫る男を遮るのは離れぶらりと後を追っていた風斬。
「お前達がなんの理由で行動するかは興味がない‥‥」
 そう言い刀に手をかける風斬にじりっと退がる男。
「この町から退け‥‥退けば命まではとらん」
 その言葉に前方を見る男は、前の落ちてきた男は背を深く刺され弓を握りしめ狂ったような叫びを上げ、斬り込んだ男は嵐山に叩き伏せられ、弓を持つもう一人を木から叩き落とす御神村に一歩、二歩と下がります。
「くっ‥‥」
 駆け去る男を御神村が追い、伊勢が最後の男を叩き伏せ腰を抜かした忠次に縄を打たせている中、1人、離れた藪からふらりと離れる者がいます。
 何やら口の中でもごもご悪態をつくその男は、闇に紛れる自分から目を離すことなく潜み後を追う幻十郎の姿に気が付くことはなく、冷然と見下ろす月以外の誰もが、その姿に気が付くことはないのでした。

●寒い夜に
「ふぅ、凄く冷えるなぁ‥‥」
 人1人歩かない闇の中、改方の羽織を身につけ提灯の明かりのみを頼りに歩くのは石榴。
 急ぎ足で歩むその姿は、既に何度か市中見回りを装い見せていたためか、ずっと後を付ける気配も常について回り、石榴は緩やかに息を吐いて先を急ぎます。
 昼間も何度か囮として外を出てはいたのですが、この日は平蔵の身の回りの世話をし、急な呼び出しで出かけた平蔵がまだ戻らないのの迎えに出たという意味合いもありました。
 と、立ち塞がるように現れる男達に、石榴は足を止めきっと睨み付け。
「‥‥やっぱり出てきたね‥‥でも、僕を倒せるって思わない方が良いよ?」
「ぬかせっ!」
 扇を手に向き直る石榴、つらっと刀を抜き繰り出される初太刀を舞うかのようにかわす石榴は、後から追ってきた仲間が駆けつけるのを何とか持ちこたえています。
「くっ‥‥」
 囲まれる、そう判断して逃げ様小太刀を投げつける1人の男の一撃を、目の前ではたき落とされ息を飲む石榴に、一つ深い息をつき口元を僅かに持ち上げるのは、長谷川平蔵その人。
「遅そうなって済まなんだ‥‥よう頑張ったなぁ」
 その声には、鋭い太刀筋に晒され続けたそのこと、続けて言う何かあれば俺が亭主に合わす顔がないぞ、と笑うその様から労いの意味が込められているのを見て取り笑い返す石榴。
 逃がした男1人と後を付ける美琴が去ると、リーゼと共に役宅へと戻る石榴と、残りを斬り倒し前を行く2人を見送る平蔵への元へゆったりと戻ってくる風斬。
 平蔵へと並ぶと、冷たく光る月を見上げ、風斬は口を開きます。
「−報復では暴力の連鎖は絶えない−‥‥か」
 黙って風斬と並び月を見上げる平蔵。
「朝迄には御神村や闇目殿、そして美琴の報告もあろう」
 やがてそう言うと再び深く息をつく平蔵に、ゆっくりと視線を降ろす風斬。
「平蔵さん、今晩も冷えるな」
「おう、そこいらで一つ、暖まってから帰ろうじゃねぇか」
 苦笑混じりに言う風斬の言葉に、平蔵も頷き歩きだし。
 ゆっくりと、提灯の燃えかすだけをその場に残し、2人も闇の中へと消えていくのでした。