【凶賊盗賊改方・悪意】弧月

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月12日〜03月19日

リプレイ公開日:2006年03月20日

●オープニング

「済まぬが、江戸より二日ほど行ったところにある村の者達を、同心達そしてこの者と共に行って捕縛を頼みたい」
 平蔵が受付の青年を馴染みの船宿・綾藤へと呼び出したのは、風は冷たくもそろそろ昼の日差しは暖かくなってきたとある日のことでした。
「この間の件は?」
「おお、皆に調べて貰い割り出した盗人宿と思しき場所を2カ所、そちらに顔の知られていない者を数名割いて入れ替わりに監視させておる」
「そうですか‥‥で、その村って、もしかして‥‥」
 ちらりと平蔵の隣に腰を下ろす、酷く窶れた男性をちらりと見てから平蔵へと目を向けると、平蔵は渋い顔で重々しく頷きます。
「旅人殺しの村の殲滅が、奉行所の方より回って来てな」
 そう言い煙管盆を引き寄せる平蔵、煙管に火を付けゆっくりと燻らせると、深く溜息をつきます。
「付近の宿場役人達では対処が出来ない、が、奉行所の方でも迂闊に江戸を出てどうこうってなぁ出来ねぇ。当然俺の所にお鉢が回ってくるなぁあたりめぇの話だが、全てが同時に重なって何とも気に食わん」
「作為的、ということですか?」
「さてなぁ、今俺が抱えている仕事があってな、ちょうど盗賊にも、俺と同じ立場の人間にも良い機会と映ったのかも知れねぇなぁ」
 苦笑混じりに言うと、平蔵はちらりと側に座っている男性へと目を向けます。
「さて、少しは落ち着いたか?」
「は、はい‥‥」
「受付殿は既に見知っておろうな、奉行所より身柄を役宅へと移されてきたのだが、どうにもこっちの方が安全だと思って連れてきてな」
「はい、つい先日合った‥‥‥‥冒険者が村ぐるみで殺された、あの事件の‥‥」
「そう、唯一の生存者よ。ほら、お主も顔を伏せるな、生き残ったことを恥じるんじゃねぇよ」
「‥‥はい‥‥」
「殺された仲間達はこの者にとっても掛け替えの無かった者とのこと、だから身体の調子が戻った今、道案内をと買って出たという訳よ」
「足手纏いにはなりません、宜しくお願いします!」
「改方の方としても村単位故、事態を軽く見るわけには行かぬ。腕利きの同心達と共に、その村へ行って貰いたい。俺は‥‥」
 そこまで言って自嘲気味に笑う平蔵。
「俺ぁ役宅ともう一件、大事な仕事を放り出して行く訳にはいかねぇ、悪いが頼まれて遣ってくれねぇか?」
 受付の青年は伝えます、といって依頼書へ筆を走らせてから頷くのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

セシェラム・マーガッヅ(eb2782

●リプレイ本文

●捷速
「さぞや無念だったろうに。仇はきっと討てるから、焦っちゃなんねぇぜ?」
 青い顔でどこか思い詰めたように黙りこくっている陰陽師へと声をかけたのは御神村茉織(ea4653)。
 一行は先行した者を除き、道案内の陰陽師と共に街道を急ぎ足で進み、ようやっと見つけた小さなお堂で休憩を取っている所でした。
「僕のお弁当で良ければ少し食べて良いよ?」
 所所楽石榴(eb1098)も気を遣ってかセシェラム・マーガッヅに持たされた弁当を手に声をかけると、青い顔のまま小さく笑んで頷く陰陽師。
「それで、その‥‥その村ってどれぐらいの規模だったの?」
「‥‥そうですね、村の作り自体は小さいのですが建物の幾つかは大きく、一つの家に一家族ではなく、結構入り交じって共同生活のような暮らしをしていたみたいです」
 村に迎え入れられた時の事を思い出しながら言う陰陽師に首を傾げる石榴。
「村と言うよりはそれって‥‥」
「山賊やらの根城のようですね、それは」
 石榴の言葉を継いで闇目幻十郎(ea0548)が言えば頷く陰陽師。
「不覚でした。仕事が無事に終わって気が緩んでいたのか、何かの隠れ里なのかもぐらいしか考えず、結果あのように‥‥」
「仕方がないことですよ、今まで存在を隠し通してきた者達です。欺くことに長けていたのでしょうから」
 悔しそうに唇を噛む陰陽師ですが、小鳥遊美琴(ea0392)が言う言葉に弱々しく頷きます。
「そろそろ行きましょうか」
 李雷龍(ea2756)が言えば立ち上がる一同、陰陽師が立ち上がるときに僅かによろめいたのを風斬乱(ea7394)は横目で見ているのでした。
 馬などで陰陽師達より早くより立った2人はその日の夜遅くに目的の村手前の宿場まで辿り着いていました。
「申し訳ないが火急の用がある、これは江戸の凶賊盗賊改方長官、長谷川平蔵さんから預かった書状よ」
 宿場の役人詰め所にリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)が姿を現したのは既に日付も変わろうという頃です。
「はい、早馬でお話は承っています。両隣の宿場から旅人を装って数名こちらに集めて置くようにとのことで‥‥」
「話が早くて助かる。宜しくね」
 宿直らしき役人に頷くと数名の宿場の役人と引き合わされるリーゼは幾つか付近の様子の報告を受けてから宿へと戻ります。
「あぁ、親父、すまねぇなぁ」
 宿へと入ったリーゼの目に遅れて宿に着いた嵐山虎彦(ea3269)がなにやら宿の主と話しているのが見え歩み寄れば、この宿の用心棒である浪人者と引き合わせて貰った旨を伝える嵐山。
「ここは俺にとって大切な宿場だ、出来る範囲で手を貸そう」
「有り難てぇ。あと、この辺りに道場があるんだったら、そっちからも手を借りたい、良ければ明日朝一で案内してくれねぇか」
「それぐらいならば簡単なことだ」
「それは頼もしいわ、宜しくね」
 リーゼは用心棒へと声をかけると、宿場の役人達との打ち合わせの内容を相談するため嵐山へと向き直るのでした。
 次の日の夕刻、合流した一同は協力を申し出た付近道場の人間と打ち合わせを済ませた後、偵察を除き早めに休むことにしたのですが‥‥。
「‥‥明日は早い。休まねば足手纏いになるぞ‥‥」
 床に就いたまま目も開けず低く言う風斬に、身体を起こしたままじっと考え込んでいた様子の陰陽師はびくっと小さく身体を震わせます。
「‥‥明日、長い一日でしょうが‥‥決着、つきますよね‥‥」
「その為の俺たちじゃないのか?」
「‥‥‥‥そうでしたね」
 小さく頷くと漸く床へとつく陰陽師に、風斬は緩やかに息を吐くのでした。

●進入
 音もなく崩れ落ちる男を足下に、手で同心達3人へと位置を指示するのは幻十郎。
 音を立てずに向かい側の道へと伏せる幻十郎達がいるのは草で巧妙に隠された細い道で、その道はよく見れば馬一頭ずつならば通れるようになっています。
 身を伏せる同心達は各々十手を握りしめ、幻十郎は進入班へと頷いて見せ。
 もう一方でも頃合いを見計らい細い道の脇にいた見張りを墜とすと、道の両脇に別れて伏せる美琴。
「とても手加減して相手出来るようでは、無いですね」
 言って同心と頷き合うと、美琴はじっと息を潜めて時を待つのでした。
 陰陽師の案内で村への道を行く進入班は、逃げ回ったときに幾つか身を隠し進んだ場所を経由し進みます。
 やがて開ける道、獲物を手に真っ正面から突っ込むのは嵐山・リーゼ・風斬の3人。
「虎、ちょっと頼むね」
 そう言って一歩下がり淡く光り輝く盾を作り出すリーゼに、前に立つ嵐山と風斬。
「虎彦さん、背中は任せた‥‥よ」
「おう、任せな!」
 にやりと笑いつらと刀を抜く風斬に金棒を担ぎ呵々と笑い声を上げると怒声を上げて武器を手に取り襲いかかる村人達へと突っ込んでいくのでした。
「‥‥始まったな」
 静かに厩舎で顔を上げるのは御神村。
 数人の同心達と共に厩舎の馬を連れ出し宿場役人達へと引き渡している最中、始めは逃がすつもりだったのですが、それが暴れ馬になり、捕縛の邪魔になるのを避けるためです。
 厩舎から顔を出して見れば、石榴が見張りを眠らせてしっかりと括り付け、村の動きを逆に監視しているよう。
 村人数人がこちらへと向かって来ているのを身振りで示す石榴に了解した旨を伝え、最後の馬を引いて同心へと渡し急ぎ離れさせると、御神村は手の中にある仕込み杖へと指を這わせるのでした。

●殲滅
「気をつけな!」
「虎彦さんこそ」
 嵐山が撃ち込まれる矢を金棒ではたき落として風斬へと言えば、にやりと笑い虎彦へと駆け寄る男を斬り払い答える風斬。
「奪うことでしか生きていけないような輩なら、今から全てを奪ってあげる‥‥」
 そして得物を手に群がる村人へと目を向け呟くときっと刀を突きつけ睨め付けるリーゼ。
「鬼道衆拾漆席『朧月』推参!」
 声を上げると同時に斬り込むリーゼにやたらめったら攻撃を繰り出す村人は、悉く受け流され斬り伏せられます。
「おりゃあぁっ!」
 怒声と共に木の後ろへと下がった男の目の前でその木を叩き折り金棒を繰り出し吹き飛ばす嵐山。
「悪いが‥‥儚く淡く散って逝け」
 言う言葉と共に血しぶきを上げて崩れ落ちる男へ目を落とすこともなく目の前の男を斬り伏せ、何事もないかのようにずんずん村の中心へと足を進めていく風斬。
「くっ‥‥ろせ‥‥あいつらを早く殺せぇっ!!」
 悲鳴に近い叫びを上げながら厩舎へと向かう男を見送りながら、斧を手に斬りかかってくる少女に目を止め初めて立ち止まる風斬。
「いやあぁっ!!」
 怒声と共に繰り出される斧を軽くかわしてその手を峰で打ち据えると、むしゃぶりついてくる少女を叩き伏せ、痛みに気を失う少女に止めを刺すことはせず、再び群がる村人達へと向き直るのでした。
「戦地で舞うが扇舞の本性っ!」
 厩舎側、わらわらと馬へと向かってやってくる男達の中で、鉄扇でまるで舞台で舞うが如くに彼らを翻弄するのは石榴。
 その傍らで武器を握ったことがあるような男と斬り結んでいた御神村は僅かに息を弾ませながら、渾身の一撃で男を地へと伏せさせると、厳つい男が森へと入っていくのを横目で見送り。
「大丈夫?」
 扇で手近な男の鍬を振り払うと御神村へ声をかければ口元に笑みを浮かべ頷く御神村。
「さて‥‥一指し、舞ってみせようか?」
 まだ終わらない村人達の中で石榴は不敵に笑って鉄扇を構えるのでした。
 息を潜め待つ幻十郎の耳に聞こえてくるのは足音を忍ばせて進む数人の男の足音。
「‥‥奴らは‥‥畜生‥‥やはりあのときに逃がした奴か‥‥」
 微かに聞こえる声、すぐ側へと通りかかるその瞬間。
「くっ、こんな所にまでっ!!」
 声と共に気が付かれた事をいち早く察した同心が十手で殴りかかってくるのを受け止めると、背を向けた厳つい男へと素早く近づき一撃の下にその意識を墜とす幻十郎。
 すぐに共に逃げてきた男達も取り押さえることが出来るのでした。
「‥‥?」
 美琴は微かに聞こえてくる、それこそ注意深き耳を澄ませてやっと聞き取れるぐらいの足音に意識を集中していました。
 微かに聞こえる息づかいとその動きに奇妙な感覚を覚え、咄嗟にその人物が通りすがるのを取り押さえると、それはどうやら細身の人相が悪い男。
「っ!?」
 咄嗟に匕首を抜いて斬りつけようとする男の腕を一緒に伏せていた同心が取り押さえ、よくよく見てみれば、どこかで見た記憶がする男。
「小鳥遊殿‥‥もしやこやつ‥‥」
 同心の一人が言葉を途切れさせるその男、どうやら改方の手配書にある男のようで、なぜここにいるのか、と首を傾げる同心と共に微妙な引っかかりを覚えながら、美琴は男を引き立てるのでした。

●帰還
「無事で良かったです。こちらは上手い具合に逃げてきた様子の者達を取り押さえることが出来ました」
 雷龍が一同を迎えれば、捕方にあまり大きな怪我もなく、負った怪我はすぐに嵐山に癒して貰い、一同は無事に合流することが出来たよう。
「‥‥せめて、供養をしてやりてぇな」
 奪った山賊行為で手に入れた物が納められた家の戸を開け言う嵐山に、中へと入り仲間の者であった様子の幾つかの荷物の前で号泣する陰陽師。
 やがて、簡単な供養を済ませた嵐山と、目元を赤くしながら敵を討てたことを礼を言う陰陽師と共に、一行は村を後にします。
「あとは、村を一時的に離れていた残党狩りなどで暫くは忙しいでしょうが、長谷川様と連絡を取り合ってやっていこうと思っています」
 役人の言葉に小さく笑んで肩を竦める風斬。
「平蔵さんの苦労がまた増えたな」
 苦笑混じりの言葉に違いない、と笑うリーゼと嵐山。
 一同は同心達と共に捕縛することが出来た賊の護送を兼ね、江戸への帰途へ付くのでした。