【凶賊盗賊改方】石川島人足寄場・前編

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:6人

冒険期間:03月21日〜03月26日

リプレイ公開日:2006年04月01日

●オープニング

 その日、すでにとっぷり日も暮れそろそろ店じまいと準備を始めたギルドへと尋ねてきた長谷川平蔵を見て、受付の青年はあんぐりと口を開きます。
「‥‥あー‥‥奥で何か着替えを用意させましょうか?」
「おう、すまねぇな、何か頼む」
 受付の青年ににと笑う平蔵は、頭からつま先まで濡れ鼠、ギルドの裏の川から上がってきたようで、道自体はたいした距離を進みはしないものの、ぱっと見濡れ鼠の壮年浪人、さぞかし人目を引いたことでしょう。
「いや、ちぃとここの所忙しくっていけねぇ」
 そう苦笑交じりに言う平蔵、どうやら腕利きの同心たちや信頼置ける冒険者たちが江戸を離れたり、別の件を追い走り回っている間、一番薄くなった平蔵の身辺を狙う者があとを絶たなかったとか。
「まぁ、そいつも同心や冒険者が戻ってきてからはぴたりやんでいるが、こいつとは別に、俺自身へとまぁたちょっかいかけてどうにか失策をと目論んでいる奴もいるようでなぁ‥‥」
 煙草を貰い煙管へと詰めながら言う平蔵は、火をつけ緩やかに煙管を燻らすとゆっくりと息を吐きます。
「下地を作るときは何にもしなかった奴が、上手い汁を吸いたいと思ってくるのだろうが、いやはや‥‥」
 そう苦笑を漏らす平蔵、どうやら乗っていた小舟を沈められたらしく、始めは船頭をしていた元盗賊の鼬の孫次と、盗賊がらみの恨みかとも話したそうですが、どうも命を狙ってきたのとは違うよう。
「孫次の奴は借り物の商売道具をと怒って追いかけたが、大事があってはいかんと返して、俺は直ぐ側にここがあったのを思い出してな、こうして寄ったと言うわけよ」
 平蔵の話では、とある案件を前々から上申していたのですが実装へと話は進まなかったそう。
 ですが、先の大火によりその案件により復興への足がかりの一つになり、永続的に続けられれば無宿者への対策にもなる、と源徳公より許可・任命を受けて『凶賊盗賊改方長官』とは別に、もう一つの加役を受けることとなったそうです。
「その、案件とは‥‥えっと、お聞きしても?」
「うむ、石川島に現在急ぎで作られておる『人足寄場』よ。早ければ今月末には少しずつではあるが人を受け入れ、さらに工事も進むことであろうが‥‥」
「人足寄場‥‥」
「平たく言えば無宿者や更生の見込みのあるもの等に、手に職を付けさせ、寄場にて働かせ、寝食を用意するというものだ。寄場より出て暮らしていけるとなれば働いた分で預かっていた賃金を持たせ、町の仕事を斡旋する」
「‥‥そ、そんなことが‥‥」
 可能なのか、と言いかける受付の青年は、そのある種の理想図が実際にもう少しで形になると言うことを思い出し言葉を途切れさせます。
「食うに困った者が堕ちて盗賊になる‥‥その土壌を変えねぇと、凶事なんざ減らねぇのよ‥‥」
 ほろ苦く笑う平蔵。
「で、でも、それは誰も損をしないじゃないですか、一体誰が妨害を‥‥」
「だから言ったろう、加役ってぇのは旗本が役職を貰い、その分必要な扶持を上乗せされる。また、その案件が成功すれば自身の名声も上がろう。失敗すれば俺が案件と言えば済む、そんな奴らだろうが‥‥」
 そう言うと煙管盆を引き寄せ灰を落とす平蔵。
「代わってもらえるなら代わって貰いてぇとこだが、加役や名声の為では寄場の意味がなくなっちまう。そのためにも、きちんと動き出すまでは、俺が下で最後まで責任を持ちてぇのよ」
 ただの自己満足だと苦笑すると、平蔵は旗本同士の揉め事を表ざたにしたくはない、秘密裏に探ってもらえぬか、と受付の青年へと告げるのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3785 ゴールド・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea3899 馬場 奈津(70歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0370 レンティス・シルハーノ(33歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

オルステッド・ブライオン(ea2449)/ ウォル・レヴィン(ea3827)/ 竜 太猛(ea6321)/ 野乃宮 霞月(ea6388)/ 逢莉笛 舞(ea6780)/ 緋 翼焔(eb4012

●リプレイ本文

●気になる噂
「随分と恨まれたもんだな、旦那」
 そう言う御神村茉織(ea4653)の言葉にはどこか笑いが含まれており、にやっと笑い返す長谷川平蔵。
「恨みが怖くてこんなお役目をやってられるかよ」
 低く笑いながら煙管を口元へと運ぶ平蔵にやれやれとばかりに溜息をつくゴールド・ストーム(ea3785)は肩を竦めます。
 既に1日目の夕刻、それぞれが一通り調査をしてから、役宅の一室にばらばらに辺りを窺って集まっていました。
「秘密裏に証拠を掴めって、難題を押し付けてくれるもんだな。まあ、受けたからにはやれるだけの事はやるさ」
「おう、期待してるぜ」
 ゴールドが言えばにと口の端を上げ言う平蔵に、微笑を浮かべ貴由の代わりに来たと告げる光月羽澄(ea2806)。
「いつも苦労をかけるが済まぬな、皆の手があると、本当に助かる」
 緩やかに紫煙を吐いて煙管盆を引き寄せると言う平蔵にリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)もにっこりと笑って頷きます。
「賊になる根っこからって平蔵さんの考えは大賛成。ただ‥‥いいえ、だからこそ、それを利用しようとしてるような誠実さのかけらもないような輩には手は出させるわけにはいかないね」
 リーゼがそう言うと、そこへ入ってくるのは改方密偵もしている嵐童で、現場の手伝いをしながら聞き込んだ話を伝えに出向いたよう。
「‥‥嵐童、そちらの首尾は?」
 リーゼに聞かれ当人達に心当たりのない妙な喧嘩が多いことや、責任者が変われば、というような噂がちらほらと聞かれると言う話を聞けば、一同も頷きます。
「聞いている限りでは噂と揉め事は大したこと無いような気がするであるが」
 ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)が言うのに首を振る羽澄。
「そこで小火騒ぎが起きたらどうかしら?」
「‥‥それは大惨事なのだ〜」
「実際、火に関してのことは神経質どころの騒ぎじゃねぇ」
 ヤングヴラドが言い、御神村も渋い顔で考え込みます。
「この時期に海上の小島だ、小火で済ませるつもりでも‥‥」
「風に煽られ大惨事よ」
 ゴールドが言うのにゆっくりと煙管を燻らせながら言うと平蔵は煙管盆を引き寄せ灰を落としそれを袂へとしまい、すと頭を下げるのでした。
「面倒かも知れぬが、各冒険者達と上手く連絡を取って遣っていってくれ。済まんが、改めて、皆宜しく頼む」

●噂と実状
「今のところ、出入りで怪しい奴は居ない‥‥と言いたいところなんだが、船は何便も通っているからな」
 レンティス・シルハーノ(eb0370)が夜に警備に来る者達を迎えに舟を出し、島に向かいながら言うと、御神村は頷いて口を開きます。
「入れ替わり立ち替わりで職人達が行ったり来たりしていたからな。それに必ずしも職人や人足達に紛れて入ってくるとはかぎらねぇからな」
 実際建設に関わっている人間全員を一番上が管理することはほぼ不可能に近く、ここの職人が人を雇い、また、優先的に寄場にはいるために参加したりとした者が多いため絞りきれません。
「独自の舟の出入りまで管理できるのはいねぇんじゃって思うんだが、その道の専門でもない限りは、舟を着けて島に入れるのは二カ所だけだからな、今は」
 レンティスが言いながら裏手の船着き場へと舟を着ければ、御神村達は仮設の宿泊施設へと足を進めて、警備の人間と合流するのでした。
「じゃあ、妨害らしき妨害がされているのは島の外って事か?」
「ええ、島内はあくまで今のところ流言止まりですね。あとは内部で揉め事が増えているだけですが、今のところ作業をしている職人達の中で長谷川様を悪く言う人は殆ど居ませんでしたし‥‥」
 見回りの引き継ぎとして御神村の言葉に小鳥遊美琴(ea0392)が一同が役宅で情報を整理している間に確認したことを伝えると、考え込む様子を見せる御神村。
「寄場内で、木材が海に投げ出されたって言う話も聞いたのだけど?」
 羽澄が小首を傾げて言う言葉に、口を開く美琴。
「はい、噂では、そう言う事件があった、と聞いたりするのですけれど‥‥」
「実際にはなかったと?」
「その噂に木材を管理されている方が湯気を出しそうな勢いで怒っていました。木材の保管場所から水辺に出るには、どうしても必ず人目につくようになっていますし、収められた木材の管理も、板一枚欠けないようにしっかりとしていると‥‥」
 美琴が髪結床の手伝いをしながらその噂を何気なく振ったところ、送られる前の木材へは妨害が起きているそうなのですが、寄場に入ってからは怪しげな噂が流されているだけのよう。
「もしかすると、その妨害している人達は寄場には入ってこられない?」
「ヤングヴラドへ連絡が来たものでは、訛りの強い3人組は確かにいたってぇ話だしな‥‥自分たちが入り込めねぇから、食い詰めで人足に紛れ込めそうな奴らに目ぇつけたか‥‥」
 と、悩む様子を見せる御神村ですが、顔を上げると軽く延びをして戸に手をかけます。
「何にせよ、夜に何も無いとも限らねぇ、手分けして調べるぞ」
 御神村の言葉に美琴と羽澄は頷くのでした。
 そして、その頃、馬場奈津(ea3899)は‥‥。
「‥‥‥‥」
 島内をパラのマントで姿を隠しながら調べ回っていた奈津ですが、警備として巡回している役人と依頼を共にしている冒険者ぐらいしか姿を見ることが出来ず、首を傾げます。
「ふむ、まぁ良いのぢゃ、明日も見て回るかのう、ひょひょひょ」
 草木も眠る丑三つ時、奈津の笑い声だけが辺りに響くのでした。

●事件の背景
「こいつは酷ぇな‥‥」
 手酷く折られた木材の積み上げられた物を見て眉を寄せるのはゴールド。
 ゴールドは屈んで折られた様子の木材を見れば、叩き斬られたとも思えるものも幾つか、力任せにと言うよりは切れ味の良い物で斬ったのではないかと思え眉を寄せるゴールド。
「とにかく手がかりも少ない訳だし、実際犯行が行われた時刻のことを聞いてまわらねぇと‥‥」
 そう言って調べ回ると、やがてゴールドの耳に入ってくるのは数名の武家の者達がその辺りをうろうろしていたと言うことだけです。
「職人や人足に混じって武家の人間がいたらわかるからな」
 念のためレンティスに確認してみると、ゴールドにそう返すレンティス。
 一方、夜間の探索成果の掴めなかった御神村と羽澄も島の外の現場を回り始めていました。
「どうやら小火を起こすとか言ってやがった3人組は確保できたようだぜ」
 ヤングヴラドから受け取った連絡の文を羽澄に見せて言う御神村。
 御神村は警備の人間から話を聞いて、寄場に入り込めるように手を貸せと言った男の様子について聞いて、平蔵から心当たりとして挙げられた数件の旗本の家と照らし合わせているところでした。
 なかなかそれらしい者が見つからない中、改方にて3人組から聞き出した小火を起こせといった人間の人相書きが上がってくると、それを手に各家を回り、手分けして調べる御神村と羽澄、それに島内で同じく不審な様子を見せるようになった数名の人足達を相手にする美琴。
「あぁ、あそこのお屋敷の武家さん方が、近頃ご兄弟それぞれが出かけることが多いみたいだけど‥‥その人はそこの一番上のお兄さんの部下だったんじゃないかなぁ」
 羽澄が姿形、背格好を聞いている情報と照らし合わせて確認すれば、屋敷出入りの商人に話を聞くことが出来ます。
「一番上のお兄さん?」
「はい、長男さんと次男さんはあまり仲が宜しくなくて、三男さんは家を飛び出して剣術修行とかされているそうですよ」
 頷く商人。
 その情報を手に美琴と御神村に手分けをして確認して貰えば、小かっむらの忍び込んだ屋敷には、警戒が厳しい中ちらりとその男の姿を確認することが出来、美琴も寄場内の警備の役人に人相書きを見せ聞けば、確かにその男だ、と確認できるのでした。

●これから
 最終日、何とか集めた情報を元に話し合いをしている一行。
「むむ、恐らくこの家の者が裏でいろいろとやっているようなのだ」
 そう言うヤングヴラドに首を傾げる奈津。
「さっぱりちっとも島では夜に問題は起きなかったのぢゃ」
「船は独自に調達していたのか? 夜間に船が無くなったという事件があったらしいが」
 レンティスも聞けば、もう一組の冒険者が調べている最中なのだ、と伝えるヤングヴラド。
「でも、そこの兄弟も兄と弟、どちらなのかはっきりしないし‥‥」
 リーゼは夜に行っている本業の合間に話を聞くと、どうやら兄弟揃ってどちらも何やら色々と動いているらしく。
「仲が悪そうだって言うことに関しては、半端じゃなかったぜ、あそこの兄弟は」
 実際に様子を窺ってきた御神村が協力していると言うことは考えにくいと言えば、面倒そうに頭を掻くゴールド。
「何にせよ、もう一働きする必要ががあるってことか」
 と、そこへ襖を開け入ってくる平蔵が。
 一行は平蔵へと向き直ると、現状を報告するのでした。
『どうも最近の怪談話の裏を、忠次が見つけてきたらしい』
 そう言う連絡と共に平蔵が纏まった情報をヤングヴラドに伝えてきたのは調査が一段落付いた後のこと。
寄場は完成とまでは行きませんが、宿舎二棟を解放し、その役割を徐々に発揮し始めています。
「皆、大変と思うが、もう一働きして貰うことになる、宜しく頼む」
 そう言って平蔵が再び一同を呼び出すのは、これから数日後のこととなるのでした。