【凶賊盗賊改方】石川島人足寄場・後編

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:7〜13lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 55 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:04月20日〜04月25日

リプレイ公開日:2006年04月29日

●オープニング

 その日、高級船宿、綾藤へと呼ばれた受付の青年は、そこで寛いだ様子で煙管をくゆらせる平蔵と、細面で正確のきつそうな、少々目付きに険のある青年が待っていました。
「‥‥その、そちらは‥‥?」
「お初に。彦坂昭衛と申す」
「ひこさか、しょうえ、様ですか」
 すと目を落とし目礼をするその青年は、膝立ち脇へ避け廊下側へ座り直すと平蔵へと目を向けます。
「ええっと、今日は‥‥」
「こないだの、人足寄場のことよ」
「あぁ、確か例の旗本の方が妨害しているらしいとか、そう言う‥‥」
「それですが、某、少なくとも船の方に関してはお恥ずかしながら‥‥、しかし長谷川殿の船を沈めたなどとは‥‥」
「ってぇ訳だ。こちら、兄上である彦坂家現当主殿の配下には、そのような器用なことができる者はおらぬと」
「じゃあ、一体誰が?」
「そこのところが得心いかぬのですが、兄が別に雇った者の仕業だったのやも」
「回りくどくていけねぇな。有体に言えば、こちらの昭衛殿は現当主の行いが上の耳に入り、御取り潰しになることになれば事だ、と先日の件の謝罪と共に現れてな」
 平蔵が言えば忌々しげに眉を寄せる昭衛。
「愚鈍な兄の行いで家が潰されるなど不名誉の極み。兄はまだ愚かな妨害を続けると思われる。それこそ、寄場が出来上がり、起動に乗ってしまうまで」
「それで、その‥‥」
 受付の青年が伺うように平蔵を見れば、煙管を燻らせのんびりと窓の外を桜を見る平蔵。
 おそるおそるというように受付の青年が昭衛へと詳しい説明を求めれば、長兄の悪事の証拠を掴む、もしくは長兄自身をぐうの音も出ない程に叩いて貰えれば、病気と称し、当主を帰るように伺い出ることが出来る、と言いたいよう。
「愚弟は市井の道場に住み込みで弟子入りし、当家とも関わりのない。愚兄は自信の名声や目先の利益に釣られるのは良くとも、それが及ぼす影響を考えられぬような単細胞だ」
 つまり当主は自分が相応しい、そう言いたい様子を読み取って困ったように平蔵へと目を向ければ、苦笑混じりに煙管盆を引き寄せる平蔵。
「それで、その、やはり昭衛様も人足寄場の業績は‥‥?」
「富や名声が手に入るのならばそれは欲しいが、家を潰すような愚かなまねをしてまで取りには行かぬ」
「その、長谷川様‥‥?」
 どうしましょうとばかりに受付の青年は平蔵を見ると、平蔵は新たな煙草を煙管に詰めながら口を開きます。
「まぁ、彦坂家への出入りなど、それなりに融通が付くと言うことと考えればいいだろう」
 行って火を点けゆったりと息を吐く平蔵。
「俺からの仕事は前にも行ったよう、表沙汰にならぬよう人足寄場への妨害を辞めさせること。今回は多少荒っぽいことをしても良いが、そこの所は留意して欲しい」
「当家のことについては、殺しさえしなければ、当家内においてはなんとかしよう。どうか、愚兄を何とかして欲しい」
 言われる言葉を書き付けながら、受付の青年は深く溜息をつくのでした。

●今回の参加者

 ea0392 小鳥遊 美琴(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3785 ゴールド・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0370 レンティス・シルハーノ(33歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

御神楽 紅水(ea0009)/ マリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)/ 逢莉笛 舞(ea6780)/ 紅谷 浅葱(eb3878)/ 御陰 桜(eb4757

●リプレイ本文

●彦坂屋敷
「‥‥彼奴等か‥‥」
 その荒れ果て煤けた廃屋へと入っていく男達を見て呟くのはリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)。
 依頼開始から既に3日目、リーゼは天風誠志郎(ea8191)と、光月羽澄(ea2806)・ゴールド・ストーム(ea3785)両名からの報告を受けて浪人達の根城を窺っていました。
 数人の男達が入れ替わり立ち替わり出入りしているようで、顔を覚えながら様子を窺う2人。
 男達の根城を割り出したのは二日目の夕刻のことでした。
「何度も忍び込めば怪しまれるだろうからな‥‥すいやせんが、兄上とその用人の部屋ってのを一つ‥‥」
 御神村茉織(ea4653)が訪ねるのに絵図面を開き扇子で指し示す彦坂昭衛。
「この奥まった一角に、愚兄と用人・早出高久の部屋がある。倉の鍵などは私が管理している、そちらへと納めたりはせぬだろうし、何かあるなら恐らく早出の部屋かと思うが‥‥」
「その用人、屋敷に住んでいるので?」
「あぁ、嫁の来手もない、小ずるい男だ、何処まで行っても小悪党故、用人としての働くなど全く出来ぬ愚か者なのだが、あれが兄の養育係であった為、な‥‥」
 苦々しく言う昭衛、どうやら昭衛と弟の養育係は違う家臣がしていたらしいのですが、有能らしいその家臣は兄の代になって急に遠ざけられ、昭衛はそれを苦々しく思っているよう。
「愚兄はこれと思いついても、安直にこうすればいい、以上は思いつかぬであろうが、早出は兄がこうしろといったことは金に糸目を付けずに実行する。証拠が挙がれば、きっと頭の痛い内容なのだろうな」
 今から思いやられる、とぼやくと、昭衛は何かあったらこの自分の部屋に逃げ込めば、抜け密が幾つかあるので安全だと言うのでした。
「いかに兄上様が暗愚‥‥げほげほ‥‥そんな方でも、屋敷にまで素性の知れないごろつきを上げたりはしてないだろう」
 黒い装束に黒の覆面、彦坂家当主の部屋の天井裏で、そう言いながら小鳥遊美琴(ea0392)は嘆息しました。
「‥‥もっとも、この様子では考えなしにやりかねないな‥‥」
 既に一刻、当主の様子を窺っていると、考えるより先に動くと言うよりは、考えるより先に癇癪を起こす、と言った様子の男で、昭衛と並べると、勝るのは威風堂々とした立派な体躯のみです。
「高久っ! まだ石川島は手に入らんのか!?」
 その日、何度目かの癇癪によって呼び出された用人は、目と身体自体が妙に細く、怒鳴り声によって直ぐに転がるように部屋へとやってくると、額を畳にこすりつけるようにして平伏する早出用人。
「はっ、小火を起こすのが思いの外手間が掛かっており‥‥」
「ええい、完成まで間に合わぬではないか!」
 当主はかりかりと怒鳴りつけるのにへこへこ頭を下げながら、直ぐにでもと立ち上がる早出用人に鼻を鳴らすと、いそいそと戻っていくのを見送ります。
「ええい、飲みに行ってくる!」
 どたどたと荒々しい足音を立てて出かけていく当主を見送る美琴、そこへ御神村が顔を出し。
「あっちの方も出かけていった、手分けして探すぜ」
 美琴は頷くと、念のため、と当主の下手と早出用人の部屋を探すためにそっと屋根の板を外すのでした。

●浪人達
「お主らがぐずぐずするから‥‥」
 火付けをしかけた若者達3人から聞いた周囲の店で羽澄が店の者達の会話に耳を傾けていると、早出用人が現れ、やがてやって来た浪人へと叱りつけます。
「変な邪魔が入ったのはこっちのせいじゃねぇ、それに、小火を起こし損なったやつらのほうはどうなったんで?」
「寄場に入ってしまえばもうわからん。寄場の管理に携わっておれば別だが‥‥」
「では、どうする?」
「‥‥彦衛門様は管理している人間の排除を希望されている」
「なら話は簡単だ、そいつは高く付くぜ?」
 むっとしたように包みを出して立ち上がる早出用人をゴールドに任せると、羽澄は浪人達の後をそっと尾け、ついに隠れ家を確認すると、綾藤に詰めているリーゼと誠志郎に報告するのでした。
「やつら、寄場自体への妨害は諦めたようだが、その標的を変えたようだな」
 酒場で中にいる一人と言葉を交わし、今のところ船頭はいらないが、腕が立つなら旗本一人斬るから手を貸せ、と言われたとレンティス・シルハーノ(eb0370)は告げると、リーゼと誠志郎は目を見合わせます。
「あの様子で本気で‥‥?」
「らしい‥‥いや、中の全員を確認した訳じゃないから分からないが‥‥手を貸すつもりならば同じ酒場で明日落ち合うことになっていたが‥‥」
 苦笑混じりに言うリーゼに頷いて小さく息を漏らすレンティス。
「腕が立ちそうなのはせいぜい2人だね‥‥」
「見たところ、言う程他の者達は力もないだろうな」
 リーゼが言えば、誠志郎も頷き。
 どごん、派手な音を立てて吹き飛ぶ戸に、酒を飲んで盛り上がっていた男達は何事かと慌ててみますが、そこに立つリーゼが女性であることに下卑た笑いを浮かべ、下っ端が立ち上がり歩み寄ろうとします。
 そこへ、ぴしゃりと裏の戸を閉め棒でつっかえ棒を指している誠志郎に気が付いて色めき立つ男達。
「なんだてめぇらは!!」
「本来なら名乗りを上げるところだけど‥‥お前達のような奴らに名乗る名前はないね」
 見れば手に持つ木刀に逆上する数名の男と、後ろからずんずんとやってくる誠志郎に庭への戸を開け放すと、そこに待っているのはレンティスです。
「あっ、お前!!」
「悪いが、流石に雇い主を斬るから手を貸してくれって言うのは手を貸せないな」
 レンティスの言葉にぎっと忌々しげ睨め付ける男は、刀を抜き放ち、対峙するのですが‥‥。
「もうちょっと骨があっても良かったんじゃないかな」
 木刀でぼこぼこに叩き伏せておきながら言うリーゼ、誠志郎は浪人が苦し紛れに投げてきた小太刀がかすった傷を、レンティスに癒して貰いつつ肩を竦めます。
「一応、そこの男は腕が立った方だぞ」
 見れば既にがっちりと縛り付けられた男達が6人程、リーゼがぽこぽこと叩いている浪人の他にしっかりと柱に数珠繋ぎにされて並んでいます。
「さて、いろいろと話して貰おうか?」
 誠志郎が浪人達へと向かい言うのに、男達は気不味げに目を逸らすのでした。

●彦坂家当主と平蔵
 その日、裏から一足先に昭衛の手引きもあり入り込んだ羽澄は、兄につい動く家人達の様子を窺っていました。
 どうも家人にも当主派と昭衛派がいるようで、確かに怪しい動きをしない限りは、互いに監視し合っているような状態らしいのですが、露骨にも今日長谷川平蔵の来訪があるという連絡を受けて辺りから、にわかに殺気立っているそうで、昭衛の方も少々ぴりぴりしています。
「貴方の兄上様は家人へと長谷川様を斬ることを伝えているようね。‥‥揃っても多少傷を負わせるのが精一杯な方達のようだけど‥‥」
「兄の下は力だけでなんとでもなると思っている者が多いからな。‥‥しかし屋敷内で旗本、それも加役を2つも賜っているものを斬ろうなどとは‥‥お取り潰し処か、親類縁者まで連座‥‥」
 どこか計算高く飄々とした様子だった昭衛ですら、あまりのことに沈痛な面持ちで胃の辺りを押さえ。
「思い通りにならなくて、何かが振り切れてしまったようね」
「まぁ、こいつが無くなっちまったっていうのも大きいんだろうがな」
 そう言って部屋へと現れる御神村とそれについて入ってくる美琴。
「こっちは早出用人の覚え書きだな、浪人達やいろいろなものにかけた金を細かく記してある帳簿だな」
「こちら‥‥加役を賜れぬ苛立ちや、長谷川様を斬れと命じた事などを記した、当主の覚え書きのよう‥‥」
 差し出される冊子にぱらぱらと目を通し眉を寄せる昭衛は頷くとそれを返し。
「では、くれぐれも長谷川殿へ、宜しく」
 受け取った御神村登美子とは、平蔵が待つ綾藤へと急ぎ向かうのでした。
「人足寄場内は大分落ち着いてきたようであるな」
 平蔵の護衛と称し寄場の藍の視察などに付いていったヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)は満足げにうむうむと頷きます。
 日も落ち、内分の用と伝えて訪問の連絡をして綾藤で待ち受ける平蔵の元へ、浪人の主格を役宅からこっそりと連れ込み、誠志郎、リーゼ、レンティスの3人が姿を現します。
「長谷川殿、お久しぶりで」
「おお、天風、よう来てくれたな。ヴォルケイトス殿も、シルハーノ殿も、よう首尾良く捕らえてくれたな」
 忙しさからか少々疲れた様子ながらも、正装に身を包みゆったりと座る平蔵はにと笑って頷きます。
「寄場の方はまあ作業場など色々と増えるであろうし、発展していく様子であるが、仮設の住居などの一部には既に人も入り、追加された宿舎も整ってきているである」
「‥‥良かった、軌道に乗っているんだね」
 どこかほっとしたように微笑むリーゼに頷くと、お藤が御神村、美琴の両名を案内してやって来、渡された冊子を捲ると、緩やかに息を付いて平蔵は立ち上がるのでした。

●落ち着く先は‥‥
「流石に、弓でいきなり狙われるのには胆が冷えたな」
 最終日、彦坂家訪問から一人もかけず、怪我もなく綾藤に戻って来てから、誠志郎は一つ息を付きました。
「前もって潜入してくれていたお陰だな」
 言われて羽澄は大事が無くて良かったわ、と微笑みます。
 屋敷内にいた家人は昭衛派の家人が押さえたのですが、どうにも一人足りないとのことで羽澄が捜したところ、平蔵が邸内へと入った時、暗闇に光る鏃に気が付き取り押さえに行ったところ、それは弓で平蔵を狙っていた家人の一人だったことが分かりました。
「昭衛殿は『救いのない莫迦を侮っていた』とな‥‥数日中には彦坂家当主は病のために昭衛殿に代われるよう申し出るそうだ。まぁ、滞りなく受理されるであろうよ」
 浪人達の始末は一部の悪質極まりない者は処されましたが、うちの見込みがある者は、人足寄場において様子を見るとか。
「‥‥寄場の名声に惹かれ、這い寄る者が減るといいのだけど‥‥」
「なぁに、厄介な仕事だと、そろそろ他の者も気が付いた頃だろうよ」
 小さく羽澄が呟く言葉に、平蔵は小さく笑んで、ゆっくりと煙管を燻らせているのでした。